「・・・・え、ええ?何を言ってるのお兄ちゃん?」
おねぇの振りをしていた私に彼ははっきりと私の名前を呼んだ。
それを聞いて顔を引きつるのをなんとか抑えながら魅音の振りを続ける。
バレた?なんで?
一瞬で私が詩音だと看破されたことで頭の中が真っ白になる。
私とおねぇの見分けなんて、両親すら出来ないのに。
真っ白になった頭の中で昔の記憶が蘇っていく。
まだ幼かった頃、私とおねぇが灯火と初めて会い、次の日に家に招待した時の記憶。
灯火は私とおねぇの見分けをできるかと母に問いかけ、押し黙る母を横目に彼は一瞬で私達の見分けをしてみせた。
あの時はてっきり偶然だと思ってたのに、もしかして灯火は本当に私たちの判別ができるっていうの?
「やだなぁ、私は詩音じゃないよお兄ちゃん。私と詩音を間違えるなんて、もう!私たちのお兄ちゃん失格だよ!!」
冷や汗を流しながら魅音の演技を続ける。
内容が内容だ。
彼が私が詩音なのか確かめるためにわざと言ったブラフである可能性だってある。
そうだとしたら、ここで不自然な行動を見せるわけにはいかない。
「・・・・詩音、魅音の振りはやめろ」
「いや、だから私は詩音じゃ」
「お前が詩音だってことはわかってんだよ!!」
「っ!!?」
突然の灯火の叫びに思わず硬直する。
あくまで魅音の振りを続ける私に彼は睨めつけながら口を開く。
「何年お前の兄貴をしてると思ってんだ。お前らの見分けくらい完璧にできるようになってるに決まってるだろうが!」
「・・・・っ」
「ずっとお前らのことを見てきた。最初は雰囲気みたいな漠然としたものだったけど、今じゃお前らそれぞれの仕草や声、そして癖を全部完璧に覚えてる。今更お前らを見間違うなんてことはないんだよ」
「・・・・」
灯火の言葉に無言のまま俯く。
彼は私が詩音だと確信してしまっている。
本当におねぇと私の区別ができるのだ。
そしてそれはつまり、それだけ私達のことを見ていてくれたということ。
両親でもわからない私達を見分けることのために、彼は何年も私達のことを見て、それぞれの声や仕草、そして癖を覚えてくれたのだろう。
本来であれば涙が出るほど嬉しいことのはずなのに、今はとてもそんな気持ちになれない。
今の私の中にあるのは歓喜ではなく、強い後悔だけだ。
私は選択を間違えた。
魅音の振りをして彼に嘘をついたらダメだったんだ。
昔のことをただの偶然だと気にも留めずに魅音の振りし、彼にバレた。
そしてその結果、私は彼を怒らせてしまった。
「詩音。さっき言ったのは魅音が言ってくれと頼まれたのか?嘘はつくなよ、魅音にもちゃんと確認するからな」
「・・・・」
彼の言葉に私は何も言えないまま俯き続ける。
「黙ってるのは詩音が勝手に言ったと判断するぞ・・・・あんまり言いたくはないが、自分が最低なことをしたって自覚してるか?」
「・・・・うん」
灯火の言葉に真っ白になった頭でゆっくりと頷く。
灯火の顔を見れば、悲しそうな表情をしていた。
それが私の中でさらなる後悔を募らせる。
「俺は魅音の気持ちはわからない。詩音が言ったことが真実かもしれない。でも、それは魅音が言うべきことであって詩音が言うべきことじゃない」
ましてや自分のために悪意を持って言うなんて最悪だ。
灯火は怒りと悲しみの両方を含ませながらそう私に告げる。
私が自分に嘘の魅音の気持ちを伝え、魅音を蹴落とそうとしたことに気付いているのだ。
そしてそれを行った私に悲しみと怒りを覚えている。
きっと灯火は私に失望をしているだろう。
もう恋人にどころじゃない、私のことを妹とすら思ってくれてないかもしれない。
出会ってから初めて目にする灯火の表情に心臓が凍り付く。
やめて、そんな目で見ないで。
そんな悲しそうな目で私を見ないで!!
「詩音」
「っ!!」
彼が私の名を呼ぶが、それに答えずに来た道を走って戻る。
これ以上彼から何か言われるのが怖い。
後ろから私の名前を叫ぶ彼の声が聞こえるが、私は耳を塞ぎながら来ないでと叫ぶ。
これ以上彼に嫌われたくない!嫌われたくない!!
目から大粒の涙を流しながら走り続ける。
そのまま全力で走り続けるうちに人通りが多い道が視界に入る。
彼の視界から消えるために人通りの中へと飛び込む。
そして隙間を縫うようにしてがむしゃらに走る。
人とぶつかった衝撃で魅音の振りをするために結んでいた髪が解ける。
しかしそれを気にすることなく体力が続く限り走り続けた。
やがて息が切れて足を止める頃には、彼の姿は見えなくなっていた。
「・・・・どうしてこんなことに」
荒い息を吐きだしながらそう呟く。
私の目からこぼれた涙が落ちて地面を濡らす。
人ごみを避け、建物の端に移動してその場に座り込む。
座り込む私を周りの人が時折ちらりと見てくるが、そんなことなど気にする余裕はない。
頭にあるには彼の悲しそうな表情だけ。
私の頭が現実逃避をしようと今日のデートの出来事を思い出そうとするが、すぐに彼の悲しげな表情が蘇り、その他を塗りつぶす。
「・・・・お兄ちゃん」
座り込んだまま自身の膝に顔を埋めて小さく呟く。
そんな私の声に誰の声が応える。
「あれ?詩音?」
「・・・・え?」
お兄ちゃん!?
私の名前を呼ぶ声に膝に埋めていた顔を慌てて上げる。
しかし、そこにいたのはお兄ちゃんではなかった。
「・・・・悟史君?」
「ああ、やっぱり詩音だよね。魅音みたいな服を着てるから混乱しちゃったよ。こんなところに座ってどうしたの?それに泣いてるみたいだし、何があったの?」
道の端で座り込んでいた私を悟史君が心配そうな表情で話しかけてくる。
私は彼の視線から目を逸らしながらなんとか口を開く。
「・・・・なんでもないよ。ちょっと歩き疲れて休んでただけなの」
今は誰とも話したくない。
憂鬱な気持ちでいっぱいの私は悟史君の言葉をそう言って誤魔化す。
しかし、悟史君はそんな私の言葉に反応して私に質問する。
「・・・・詩音は今日、灯火とのデートだったよね。なのに灯火はいないし詩音は泣きながらこんなところに座り込んでる。友達として心配するにきまってるよ」
「・・・・っ」
悟史君の言葉に黙り込む。
そうだった、学校で自慢するようにみんなに言ったんだった。
「・・・・何でもない、お兄ちゃんとのデートは終わったの。もう私も帰るから気にしないで」
立ち上がって早足でこの場を去ろうと動き出す。
しかしその前に悟史君が私の手を掴んで止める。
「待って、まだ話は終わってないよ」
「っ!離して!あんたには関係ないでしょ!!」
悟史君に掴まれた腕を振って強引に振り払う。
そんな私に悟史君は気を悪くして様子もなく、先ほどの心配そうな表情とは打って変わって人のよさそうな笑みを浮かべながら口を開く。
「うん、僕も詩音と灯火のデートの話を聞くつもりはないよ、僕には言いたくないこともあるだろうし。話っていうのはそれとは別」
「・・・・別の話?」
悟史君からの予想外の返答に眉を顰める。
そんな私の反応に彼は笑みを受けべたまま口を開く。
「灯火とのデートがもう終わったんだよね?だったら次は僕と付き合ってよ」
「・・・・は?」
「くそ!詩音のやつ、どこまで走っていったんだよ」
荒い息を吐きだしながら周囲を見渡すが、詩音の姿は見当たらない。
走り去った詩音を慌てて追いかけたが、詩音は人ごみに紛れてしまい完全に見失ってしまった。
魅音の振りをして偽りの言葉を俺に伝えようとした彼女を俺は叱った。
しかし、それが予想以上に詩音に効いてしまった。
「・・・・はぁ、どうすればよかったんだよ」
詩音を探しながらため息を吐く。
俺は彼女を傷つけてしまったのだろう、もしかしたら俺は嫌われてしまったのかもしれない。
しかしそれでも、彼女のやったことを褒めるなんてしたらいけない。
「・・・・今頃泣いてんのかなぁ」
泣いてる詩音を想像して再びため息を吐く。
しかし、彼女が泣いてるのなら、なおさらすぐに彼女を見つけなければいけない。
「あれ?お兄ちゃん?」
「っ!?」
背後からの聞きなれた声に慌てて振り返る。
そこには驚いた表情の魅音と礼奈、梨花ちゃんの姿があった。
「もうデートは終わったのかな?かな?だったら次は私たちとデートしようよ!!」
こちらを見つけた礼奈が嬉しそう抱き着いてくる。
俺は礼奈を受け止めながら詩音の行方をみんなに尋ねる。
「え?見てないよ。公園からはお兄ちゃん達の監視をやめちゃったから、もう家に帰ったんじゃないの?」
俺の質問に魅音は不思議そうに答える。
魅音の様子を見るに、先ほどの魅音の振りに関してはやはり詩音の独断のようだ。
「いや、まだ用事があるんだ。でも少し前にはぐれちまった、みんなも詩音がいたら教えてくれ!」
先ほどの出来事をみんなに説明するわけにはいかない。
だからこの場は濁して詩音の捜索だけを依頼する。
「じゃあ頼んだぞ!」
「待ってください灯火」
三人に頭を下げてこの場を去ろうとした時、梨花ちゃんが俺を呼び止める。
そして俺のほうを見ずに俺たちがいる道とは反対の道にある店を指さしていた。
「・・・・んん?」
梨花ちゃんの指さす店へ目を向ける。
そこには俺が探していた詩音の姿があった。
それはいい、気になるのはもう一人だ。
なぜ悟史がいるんだ?
「ごめんね詩音。いきなり付き合ってもらっちゃって」
「・・・・ううん、気にしなくていいよ」
申し訳なさそうな表情を受けべる悟史君に苦笑いを受けべる。
灯火の件で現実逃避がしたかった私的には今の状況はありがたいくらいだ。
悟史君から呼び止められた時は灯火とのことを詳しく聞かれるのかと警戒したけど、蓋を開けてみれば本当に買い物に付き合わされてただけだった。
私に落ち込んでいる私に気を使って、今日の出来事についてはこれ以上聞かず、こうしてただ気分転換のために買い物に誘ってくれたのだろうか。
「・・・・悟史君のお母さんってかなり長い間入院してたよね」
「そうだね、ほとんど一年近くになるかな。三か月以上前からほとんど治ってたみたいだけど、精密検査が必要とかでずっと入院してたんだ」
私の質問に悟史君は少し目を伏せながら答える。
悟史君が私に付き合ってほしいといった理由。
それはもうすぐ退院する母へのプレゼントを買うためだった。
「やっぱりこういうのは女の子に選んでもらうのが一番だね。特に詩音はセンスがいいからありがたいや、僕一人じゃいつまで経っても決まらなかったと思うし。」
悟史君は手に持った花束と香水を掲げながら嬉しそうにそう口を開く。
確かに最初に悟史君が選ぼうとしていたものを考えれば、私が付き合う必要があったと思える。
全く、なんで躊躇うことなくマフラーを買おうとするのよ!
季節外れにも程があるでしょう!
彼の行動を見てしまい、思わず口出しをしてしまった自分の負けだ。
「女の子に選んでもらったほうがいいってわかってるなら、最初から誰か誘ってればよかったじゃない」
ため息を吐きながら悟史君にそう告げる。
それに対して彼は困ったように頬をかきながら答えた。
「いやぁ、最初は礼奈を誘おうとしたんだけど、今日は魅音や梨花ちゃんと用事があるみたいだから誘うのは遠慮したんだ」
「じゃあ沙都子と一緒に選べばよかったじゃない」
「沙都子は沙都子で別のプレゼントを用意するみたい。僕は一緒に選びたかったんだけど、沙都子は全員を驚かすたために1人で選びたいんだってさ」
「・・・・ふーん」
悟史君の言葉に短くそう返答する。
私としては奥手な彼に対して思うところがあった。
「私なら絶対強引にでも誘うけどね。せっかく一緒に買い物ができる大義名分があるんだからさ」
「・・・・えっと、誘うって誰の事を言ってるの?」
「礼奈のことに決まってるじゃない。あの子のことが好きならもっとアピールしないと伝わらないよ?」
「なっ!!?」
私の言葉に悟史君は一気に顔を真っ赤にさせる。
そして信じらないような目でこちらを見つめてくる。
「え!?もしかしてバレてるの!?」
「悟史君が礼奈のことを好きってこと?うん、そんなこととっくの昔に全員気付いてるわよ」
「うわぁ・・・・」
私の言葉に悟史君は本当にショックを受けたのか頭を抱えて動かなくなる。
あんな露骨なほど礼奈に視線を向けていれば、察しの良いみんなは気づくに決まってるじゃない。
「礼奈は気づいてないみたいだから安心して。あの子そういうことに関しては極端に鈍いから」
落ち込む悟史君に呆れながらもフォローを入れる。
逆に今までバレないと思っていたことのほうが驚きだ。
「そっかぁ、みんなには僕の気持ちがバレてたんだね。あはは、なんかすごく恥ずかしいや」
私の話を聞いた悟史君は赤く染めった頬を指でかきながら笑う。
しかしそれで吹っ切れたのか笑顔を浮かべながら口を開いた。
「うん、だったらもう隠すことなく積極的に行こうかな。みんなにはバレてるのに礼奈自身には気づかれていないっていうのもショックと言えばショックだし」
「・・・・悟史君って本当に変わったよね」
彼の言葉を聞いて本心から言葉が漏れる。
私の中での昔の彼の印象はドジで引っ込み思案だった。
それが今では引っ込み思案どころかすごく明るくて気遣いもできる青少年になっている。
前に灯火が彼のことを女子から見て理想の彼氏だと言っていたのを思い出した。
イケメンで優しくて気遣いもできる、確かにと内心で納得した。
まぁ今でもドジっていうか天然なところは変わらないけど。
私がそういうと、彼は照れながらも自分が変わったことの理由を教えてくれた。
「確かに昔の僕はすごく臆病だったね。今でもそれは治りきっていないと思う。でも、少しだけでもその臆病をなくすことが出来たのは、やっぱり灯火がいてくれたからなんだ」
そう言って悟史君は灯火との今までの出来事を私に教えてくれる。
再婚による沙都子と両親の不仲。
ダム戦争中の村中からの迫害。
ダム戦争後の私達の家と両親の関係。
これらは全て灯火が自分に立ち向かう勇気を教えてくれたから乗り越えることが出来たんだと。
彼に勇気をもらい、自分の意志を持って立ち向かうことを覚えたからこそ、今の自分がある。
彼は嬉しそうにそういった。
「今日詩音が灯火と何があったのかは聞かないよ。でも、灯火と詩音の間に何かがあったんじゃないかと想像してる」
「・・・・」
悟史君は自分の過去の出来事を話し終えた後に私と灯火のことについて話し始める。
私は彼の言葉に無言のまま耳を傾けた。
「これは想像なんだけど、きっと今の詩音は灯火に嫌われたって思って不安になってるんじゃないかな?あくまでさっきの詩音の泣きそうな表情を見て思ったことだけどね」
「・・・・」
正解っと心の中で彼の質問を肯定する。
私はそんなにわかりやすい表情をしていただろうか。
これじゃあ悟史君のことを笑えないじゃないか。
「それで、さっきの想像が正しいとして、勝手に意見を言わしてもらうよ。灯火が詩音を嫌いになることは絶対にない。命を賭けてもいい」
「っ!?どうして断言なんてできるのよ!!」
彼の言葉にたまらずそう言い返す。
悟史君が彼の話をするだけで心がつ潰れてしまいそうなほど不安になるというのに、どうしてそんなことが簡単に言えるんだ!!
「自慢じゃないけど灯火と一番仲がいいのは僕だ。こればっかりは詩音、そして礼奈達にだって譲らない」
「・・・・そうね」
少しの沈黙の後に彼の話を肯定する。
私は女、灯火と悟史君は男。こればかりはどうしようもない。
それに以前に彼が悟史君が一番初めにできた友達だって嬉しそうに話してるのを聞いたことがある。
灯火と悟史君の関係は私達とは違う。
2人の間に入ることは私達ではできない。
「まぁ、親友と同時に超えないといけないライバルでもあるんだけどね。あの妹脳は筋金入りだから、絶対に僕と礼奈が付き合うのなんて認めないだろうね」
「あはは!それは言えてる」
悟史君のなんとも言えない表情につい笑ってしまう。
確かに灯火は悟史君と礼奈が付き合うとなれば、必ず最後まで抵抗をするだろう。
「さて、そんな妹大好きな灯火が本当に詩音を嫌いになると思う?親友として断言するよ、それはない」
「っ!!」
悟史君の言葉に目を見開いて驚く。
そんな私を見て小さく笑みを作りながら悟史君は口を開く。
「まぁ全部僕の想像だけどさ、一度失敗したからって絶望するのは早すぎるよ。まぁこれで詩音が諦めてるのなら、僕としては沙都子のこともあるから、それでもいいけど」
「灯火は譲らないよ。でも、ありがと。おかげで少し落ち着けたと思う。もう一度ゆっくり考えてみる」
「ならよかった。じゃあ僕は行くね。今日はありがとう、おかげで助かったよ」
「私のほうこそありがと。礼奈のことで助けがいるなら言って、喜んで協力するから」
「あはは。じゃあ、その時は頼もうかな」
笑顔で私の言葉に応える悟史君を私も笑顔で見送る。
先ほどのまでの不安がなくなったわけではないが、彼のおかげで少し和らいだ。
一度家に帰って明日、落ち着いてからきちんと謝ろう。
あとおねぇにもお詫びに何か買って帰らないと。
焦らずもっと慎重に動くべきだったんだ。
灯火が私たちのことを判別できることをちゃんと考えておくべきだった。
次こそは失敗しない。
今度こそ彼の心を手に入れてみせる。
「悟史君行っちゃったね」
「・・・・そうだな」
礼奈の言葉に短くそう答える。
梨花ちゃんが二人を見つけてから俺たちはずっと彼女達の様子を観察していた。
離れているから会話の内容はわからないが、詩音の表情は落ち着いていることに安心する。
「はうはうはう!これってやっぱりあれなのかな!?悟史君はしぃちゃんのことが好きで、今一生懸命アピールをしてるってことなのかな!?かな!?」
一緒に眺めている礼奈が興奮したように目を輝かせながらそう告げる。
それを聞いた梨花ちゃんと魅音が苦笑いを浮かべる。
いや、悟史君が惚れてるのはお前だぞ礼奈。
わざわざ奴のために訂正してやる義理はないから言わないがな。
このまま勘違いされて苦労するがいいわ!!
そう簡単にうちの礼奈と付き合えると思うなよ!!
「で、どうするのお兄ちゃん?詩音を探してたんじゃないの?ていうか詩音のやつ!なんで私の服を着てるのさ!さっきまで自分の服を着てたよね!」
「・・・・いや、もう必要ない。魅音、家に帰ったら詩音に伝言を頼む。落ち着いたら連絡をしてくれって。あと服の件は詩音が悪ふざけでしただけだ」
「え、そうだったの!?詩音め!あとでとっちめてやる!あとお兄ちゃんのことも詩音にちゃんと伝えとくね!」
俺の願いに魅音は頷く。
すぐに会ってもいいが、詩音にも落ち着いて考える時間がいるだろう。
今の詩音の表情を見る限り、焦って何かトラブルを起こすなんてことにはならないだろうし。
「じゃあ俺も帰る。お前らも遅くならないうちに帰れよ」
三人に手を振りながら帰路につく。
今日は疲れた、さっさと家に帰ったら落ち着きたい。
横目で遠くの詩音を見るが、彼女も帰路についている最中だ。
それを確認して彼女から視線を逸らす。
そしてそのまま彼女に目を向けることなくゆっくりと家への帰路についた。
俺はこの時の選択を後悔することになる。
もう少し注意深く見て入れば、詩音のほうへとやってくる彼女を止めることが出来たはずなのに。
「あら、こんなところで奇遇ね。詩音ちゃん」
「・・・・鷹野さん?」
偶然か必然か。
詩音の前に鷹野さんが現れる。
ここで俺がそれに気付いていれば、あんなことにならずに済んだはずなのに。
感想にも書いてくださってましたが、
姉妹の判別法等については『五等分の花嫁』を参考にさせていただいております。
ちなみに彼女達の判別ができるのは灯火だけです。
両親、そして観察眼の鋭い礼奈ですら判別できません。
兄として絶対に彼女達の判別ができるようになるという執念によって灯火は彼女達の細かな違いを理解してました。
そして詩音ですが
彼女は灯火に使った魅音の振りをするという手段に対して後悔と反省はしていますが、振りをした魅音に対して後悔や反省はしていません。
あくまで詩音のスタンスはやられるほうが悪いです。