いつも励みにさせていただおります。
今回はデート回。
「ふふ、今日は良い天気ね」
雲一つない晴天の空を見上げてそう呟く。
今の私の心はこの空のように晴れやかだ。
なにせ今日は待ちに待ったお兄ちゃんとのデート日なんだから!!
今日のために服も新調した。
それにただ楽しむだけじゃダメ。
今回でお兄ちゃんを落とすくらいの気持ちでいかないと今日のデートの成功とはいえない。
そのために色々計画は練ってきた。
今日でお兄ちゃんの中で私を妹ではなく、一人の女として意識させてみせる。
気合を入れて集合場所の興宮駅と向かう。
そして駅が見えてきた時、すでにお兄ちゃんがやってきていることに気が付いた。
「あ、お兄ちゃんおはよう!ごめんね、待った?」
まさかもうお兄ちゃんが集合場所に来ているとは思わず、慌てて駆け寄る。
近寄ってきた私にお兄ちゃんは笑いながら気にしてないと言ってくれた。
「まだ30分前だから全然気にすることないだろ。雛見沢から興宮まで距離があるから念のため早く来てたんだ」
「そうだったんだ!私も早く来たつもりだったからびっくりしちゃった!じゃあ早速いこ!今日のデートは私に任せて!」
「ああ、悪いなデートの計画を任せちゃって。男の俺がやるべきなのに」
申し訳なそうにするお兄ちゃんに私は首を振る。
デートの計画をしたいと言い出したのは私のほうなんだから気にしなくていいのに。
「気にしないで!それよりデートを始めよ!今日は忙しいんだから!」
計画はしっかりと練ってある。
開始30分前に着いた分、余裕をもって始められそうだ。
「今日は楽しもうね!お兄ちゃん!ううん、灯火!!」
彼の腕に抱きつながらお兄ちゃんではなく、灯火と彼の名前を告げる。
彼は私が名前を呼んだことに硬直して驚いていた。
「今日はデートなんだから兄妹は関係ないよ。灯火も私を妹としてじゃなくて一人の女の子として見てほしいな」
今日の目的であるお兄ちゃんの中での私の立ち位置を妹ではなく恋愛対象として意識させるため、この名前の呼び方は大事になってくる。
お兄ちゃんと呼んでいてはいつまで経っても私は彼の中で妹のままだ。
だから今日から彼のことは名前で呼ぶ。
それが彼攻略のための最初の一歩目だ。
「・・・・」
灯火は私の言葉に困ったように無言のまま黙り込む。
まだ抵抗があるみたいだけど、今日のデートが終わる頃にはその抵抗をなくしてみせる。
「「「・・・・」」」
「ねぇ灯火!どう?似合ってる?」
興宮で一番大きな服屋。
私がデート先で一番最初に選んだ場所はそこだった。
灯火の両親は服のデザイナー。
だから灯火も服には興味があるんじゃないかと思ったんだけど、どうかな?
「ああ、よく似合ってるぞ。前から思ってたが詩音は服のセンスがいいな」
「えへへ!ありがとう!!」
「こっちも似合うんじゃないか?」
灯火は私の服を観察した後に褒めてくれる。
私が今回意識して選んだのは男の子が好きそうな女の子らしく、そしてエロいコーデ。
胸を少し強調するためのニット素材の服に少し短めのスカート。
自分のスタイルの良さを自覚しているからこそ着る、灯火を悩殺するための服装。
しかし灯火は私が想像していたような私を見て鼻を伸ばすことをせず、あくまで真剣に私の服を評価していた。
そして灯火は私のためにいくつか服を探してくれる。
渡されたのは清潔感があり、しかし少し肌が見える服。
時折ちらりと肌が見えるフレアスカートに清潔感のある白のシャツ。
他にもかわいいワンピースも選んでくれた。
灯火が私のために服を選んでくれた!
絶対に買う!お気に入りの服決定だ!!
ああ、これだけでも今日デートした甲斐があった!
その後も灯火は店内の服を興味深そうに眺めている。
「灯火はやっぱり服とかに興味あるんだね」
男女関係なく服を見て回る灯火を見てそう呟く。
私に服を渡す時もけっこう服に詳しそうだったし。
灯火は私の言葉を聞いて苦笑いを浮かべながら答える。
「まぁ一応両親がファッションデザイナーだから。家の中にはファッション雑誌がたくさんあるし、両親もそういう話をよくしてるから自然と興味を覚えたな」
灯火はその後も服を見ながら家での出来事を話してくれる。
話を聞いてると、灯火はファッションデザイナーに多少の興味があるみたいだ。
「そうなんだ。じゃあやっぱり将来はファッションデザイナーになるの?」
灯火の話を聞いてそう問いかける。
私の言葉を聞いた灯火は一瞬固まった後に、考え込むように黙り込んだ。
「え、あの、お兄ちゃん?」
「・・・・」
黙り込んでしまったお兄ちゃんに不安になり声をかける。
もしかして私の発言にお兄ちゃんを不機嫌させてしまった?
不安になりながら待っていると、ゆっくりとお兄ちゃんが口を開く。
「・・・・悪い、そういえば将来のことってあんまり考えてなかったと思ってさ」
お兄ちゃんはそう言いながら謝る。
私の言葉に不機嫌になったわけではないことに安心する。
「そうなんだ。まぁ私の将来のことはあんまり考えてないし」
私の場合は考えていないというより、考えないようにしてるだけだけど。
お兄ちゃんさえ一緒にいてくれたのなら、私の将来はずっと明るい。
「でもそうかぁ。確かに将来のことについて考えないとな。ファッションデザイナーか・・・・確か母さんが近くにそういう学校があるって言ってたな」
「・・・・そうなんだ」
「あ、もちろん詩音の高校のこともちゃんと考えてるからな!園崎家にはこれからも詩音が好きな高校に通えるように言うつもりだ」
お兄ちゃんは慌てて私にそう伝える。
もしかしてお兄ちゃんは高校はファッションデザイナーになるために専門学校にいくつもりなのかな?
・・・・もし行けるのなら私も一緒に行きたい。
別に服が大好きってわけでもないけど嫌いでもないし。
好みの服を自分で作れるようになるのも面白いかもしれない。
でも、それはきっと無理だ。
お兄ちゃんは園崎家に私が自由に高校に通えるように言ってくれるけど、私は今雛見沢の興宮分校に通えることすら奇跡だと思ってる。
これ以上、園崎家は私を自由にさせてくれるとは到底思えない。
・・・・だから私は中学の間にお兄ちゃんを手に入れる。
それしか私に残された道はない。
「とりあえず会計してくるね!灯火が選んでくれたものは全部買うから!」
「あ、じゃあ俺がお金出すぞ」
「全部で3万以上するけど払える?」
「・・・・無理です」
灯火が払ってくれるように言ってくれるけど苦笑いで断る。
お金に関してはお母さんからもらっているから問題ない。
まぁ、使いすぎたら後で怒られるけど。
「服を買ったら別のところに行こうね!まだまだ寄りたいところいっぱいあるんだから!」
「ああ、今日は詩音の行きたいところにどこでも行くぞ。荷物持ちでも何でも任せろ」
「うん!よろしくね!」
灯火の言葉に笑顔で頷く。
そしてそのまま会計を終えて、外へ出る。
まだまだデートは始まったばかりだ、灯火と一緒に行きたいところはたくさんある。
「じゃあ次行こ!可愛い小物がおいてるお店を知ってるの!」
灯火の手を引いて早足で店を出る。
一秒でもデートの時間を無駄にはしないために。
「詩音・・・・あんなにお兄ちゃんにくっついて!服も選んでもらってるし!うぅ、いいなぁ」
「へぇー!興宮にはこんなお店があるんだね!あ、この服とってもかぁいい!」
「みぃ、礼奈。値札にとんでもない値段が書いていますのですよ。僕たちでは買えないのです」
「ここは私のお気に入りの場所なの」
雑貨屋、本屋と興宮で私のお気に入りの場所に案内した後、お昼にするために私たちは近くの公園にやってきていた。
「桜がきれいだな」
灯火は周りに舞う桜の花びらを見ながらそう呟く。
ここは子供のころから家族で花見をするときに使っていた場所だ。
周りには桜の木がたくさんあり、私たちと同じように花見をしている人も多くいた。
「ここでご飯にしよ!お弁当作ってきたの!」
敷物を敷いた後にバッグからお弁当を取り出して広げる。
この時のために料理の勉強をしてきたと言ってもいい。
灯火から礼奈は料理が得意と聞いて以来、負けないように私も料理の勉強をする必要があったのだ。
「おお、美味いな」
私の用意したお弁当を食べた灯火が思わずといった様子でそう呟く。
その後、箸を止めることなくどんどん食べてくれた。
「えへへ!よかったぁ!いっぱい作ったからどんどん食べてね!!」
美味しそうに食べてくれる灯火に私も嬉しくなる。
わざわざ早起きした甲斐があったというものだ。
午前中に行った服屋に雑貨屋、本屋。
どれも私のお気に入りの場所だ。
わざわざそこに行ったのは私の好きな場所をお兄ちゃんにも好きになってほしかったから。
好きな人には自分の好きなことを好きになってほしい。
それは私だけじゃない、恋をしている人なら誰しも思うこと。
まだまだ私の好きなところはたくさんある。
灯火には私の好きなことを全部知ってほしい。
そしてできれば灯火も同じように好きになってほしい。
そして今度はあなたの好きなことを私に教えてほしい。
あなたの好きなことを私も好きになりたい。
でも、あなたに一番好きになってほしいのは服屋でも雑貨屋でも本屋でもない。
私を好きになってほしい。
私があなたのことを好きなように。
あなたも私を好きになってほしい。
もしあなたが私以外の人を好きなのだとしたら。
私はきっと・・・・。
「詩音?食べないのか?さすがに一人でこれ全部は食いきれないぞ」
「えっ!?あ、ごめん!ボーっとしてた!」
灯火の声を聴いて我に返る。
私はせっかくの灯火とのデートの最中に何を考えているんだ。
最悪の想像なんてするな!
大事なのは今この瞬間をどう使うかなんだから。
「ほらこれも食べて食べて!この卵焼きなんてすごい自信作なんだから!」
先ほどまで頭に浮かんでいた暗い考えを消して笑顔を浮かべる。
灯火は私の箸で掴んだ卵焼きをそのまま食べてくれる。
そして温かな笑顔を浮かべながら美味しいと言ってくれた。
その笑顔を見るだけで私の胸も温かくなる。
今この場にいるのは私と灯火だけ。
他の誰でもない私だけを灯火は見てくれている。
それを実感し、どうしようもないほどの歓喜と優越感が自分を支配する。
この人は誰にも渡さない。
未来永劫この人の隣は私の物だ。
・・・・もし、他の誰かに取られるくらいなら、いっそのこと。
「っ!?」
何を考えているんだ私は!
いったん落ち着くんだ私!
さっきからせっかくの灯火とのデートなのに考えごとばかりしてどうするんだ!
こんな考えて浮かぶのは私が焦っている証拠だ。
大丈夫、彼争奪戦で一番リードしているのは私のはず。
これまで誰よりもアピールをしてきたし。
今日だってこうしてデートをしてる。
大丈夫だ、彼はちゃんと私を選んでくれるはず。
そうじゃなきゃ私は・・・・!
「詩音?」
「え、あ、なにお兄ちゃん?」
彼の声に慌てて答える。
声に反応して彼に顔を向ければ、私を心配そうに見つめてくれていることに気付いた。
「具合でも悪いのか?だったら今日は無理せず帰ったほうが」
「だ、大丈夫だよ!ちょっと早起きしたから眠かっただけ!」
灯火の言葉に慌ててそう答える。
くそ!何をやってるんだ私は!
待ちに待ったデートの日なのに彼に気を使わせてしまった。
今日は最高の日にしようと誓っていたのに、こんなことで終わりになんて絶対にしたくない!
「よし!ご飯も食べてたし次に行こ!」
「ああ、わかった。でも無理はするなよ」
「本当に大丈夫!!ほら早く早く!!」
弁当を片づけた後に彼の手をとって立ち上がる。
そして握った手を離すことなく繋いだまま公園を後にする。
「えっと次はすっごい美味しいデザートがあるお店があるんだ!食後のデザートにはちょうどいいよね!」
「確かにそれは良い提案だが、慌て過ぎだって!そんな早足で歩いたら転ぶぞ!」
灯火の手を引きながら早歩きで公園を後にしようとする私に灯火が慌てた様子で声をかけてくる。
「子供じゃないんだからこのくらいで転んだりなんてしないよ」
灯火の言葉にそう答えながらそのままの勢いで公園の出口へと向かう。
出口に近づけば、そこには何台もののバイクが止まっていて出口を防いでいるのがわかった。
「・・・・っ!邪魔!」
急いでるところをバイクで邪魔されて怒りでそう叫ぶ。
そしてイラつきながらも早足で何台もバイクが並ぶ隙間を通り抜けようとした時。
「・・・・あっ」
隙間を通り抜けられずにバイクと接触する。
私と接触したバイクはゆっくりと車体を横に倒していき、近くに止めていた他のバイクを巻き込みながら地面へと大きな音を立てながら倒れた。
「あっちゃー」
横で一緒に見ていた灯火がそう呟く。
彼が倒れたバイクを立て直そうとした時、公園のほうから何人もの怒声が響き渡った。
「「「そこのガキどもぉ!!俺らのバイクに何してくれてんだぁぁぁ!!」」」
こちらにそう叫びながら三人の男がこちらへ近寄ってくる。
見れば随分とガラの悪そうな高校生達だった。
「すいません。俺らの不注意でした、すぐに立て直します」
こちらを睨みつながら、こちらをやってきた男たちに灯火は頭を下げる。
しかし男たちは灯火の言葉に額に血管を受けべながら怒号を上げる。
「謝って終わりの話じゃねぇんだよ!!」
そう言って一番手前のいた男が灯火の胸倉を掴んで引き寄せる。
それを見た私は慌ててそれを止めるために口を開こうとしたところで灯火と目が合った。
彼は胸ぐらを掴まれながらも慌てる様子もなく私に目を向けて何もするなと伝えてきた。
彼の意思に気付いた私が動きを止めた後、灯火はゆっくりと男達へと向き直る。
「・・・・はぁ、公園の出口にこんなに止めていたら他の人らの邪魔だろうが。止めるのなら横の駐車場に止め直せ」
胸ぐらを掴まれていることなど全く気にすることなく彼はため息と共にそう呟く。
「はぁ!?こいつ!!ふざけんじゃねぇぞ!!!」
灯火の言葉を聞いた男は我慢の限界が超えたかのように腕を振り上げる。
そして灯火の顔面に拳が叩きこもうと振り下ろす。
「っ!!お兄ちゃん!!」
襲われるお兄ちゃんを見て我慢できずに叫び声をあげる。
しかし彼は私の最悪の想像とは裏腹に首を少しずらしただけであっさりと男の振り下ろした拳を躱してしまう。
そして拳が躱されたことでお兄ちゃんの身体へも覆い被さるようになった男の腹へ彼の膝が突き刺さった。
「ぐぁっ!!?」
お兄ちゃんの膝を受けた男は彼から離れたうめき声を上げながら地面へとうずくまる。
残った二人の男たちが倒れた男の傍に駆け寄った後に灯火を睨みつける。
「てめぇ!よくもやりやがった!!」
「ぶっ殺す!!」
残った二人は目を血走せながら彼へと襲い掛かる。
しかし、どちらの拳も灯火にあっさりと避けられ、そのままカウンターの拳を無防備な腹へと叩き込まれる。
たった数秒で地面に芋虫のように蹲る男たちが完成した。
「うわぁ、お兄ちゃん強すぎ」
地面に蹲る男たちを眺めながら思わずそう呟く。
私の言葉に彼はつまらなそうにつぶやく。
「いや、こいつらが弱いだけだから。こんな格闘技のかの字も知らない奴らにやられたら茜さんに後で死ぬほどしごかれるわ」
「ふふっ。お母さんにしごかれるんだ」
顔をしかめながらそう答えるお兄ちゃんに思わず笑ってしまう。
灯火が何年も前から園崎家で格闘の訓練をしているんだった。
最近だとおねぇにも勝ってるみたいだし、よく考えなくてもこんな奴らにお兄ちゃんが負けるはずもないか。
「・・・・ていうかこれって原作で悟史が詩音を助ける展開のやつに似てるな。あれ?これやったか俺」
「お兄ちゃん?どうかしたの?」
倒れる男達を見ながら小さく何かを呟くお兄ちゃんに話しける。
私の言葉にお兄ちゃんは苦笑いを浮かべながらに何でもないと呟いた。
「とりあえず、助けてくれてありがとう!すっごくカッコよかったよ!!」
そう言ってお兄ちゃんへと抱き着く。
ああ、やっぱりお兄ちゃんはすごい。
こんなかっこいい人、他にはいないよ。
そのままお兄ちゃんに抱き着いていると、聞きなれた声が耳に届いた。
「お兄ちゃん、詩音!大丈夫!?」
「んん?魅音に礼奈、それに梨花ちゃんも」
お兄ちゃんの声に反応して目を向ければ、息を切らしながらこちらへとやってくるおねぇ達の姿があった。
「お兄ちゃん達が絡まれてるのを見て慌てて来たけど・・・・」
「あらら、もう終わってるねこりゃ。しまったな。これじゃあ私たちの尾行がバレただけだ」
礼奈とおねぇが蹲る男達を見ながら困ったようにそう呟く。
まぁ、いるかもしれないとは思ってたけど、まさか本当にいるとは。
「みぃ、灯火とっても強いのです。まるで赤坂のようなのですよ」
「いや、赤坂さんと比べるのは勘弁して。瞬殺されるから、マジで」
お兄ちゃんは私を離しながら梨花ちゃんの言葉に苦笑いを浮かべる。
そしてそのままお兄ちゃんはおねぇや礼奈たちと楽しそうに話し始める。
私はみんなが話しているのをボーっと眺めながら思う。
ああ、本当に好きだなぁ。
どうしようもないほどの彼に惚れてしまってる。
お兄ちゃんとしての灯火。
一人の男性としての灯火。
どっちの灯火も大好き。
誰にも渡したくない。
「ちょっとちょっと!今日は私と灯火のデートなんだけど!お邪魔虫達はどっか行ってよね!」
「ちょっとくらいいいでしょ!ていうか詩音!あんたさっきお兄ちゃんのこと灯火って」
「なんでもいいでしょ。ふふ、じゃあデートの続きをしよっか。ねぇ灯火」
三人に見せびらかすように彼の腕をとる。
私を見て悔しそうな顔をする三人に舌を出して答える。
「じゃあね三人とも!尾行してもいいけど邪魔したら許さないからー!」
騒ぐ三人を置き去りにしながら彼の手を引く。
誰にも渡してなんかやるもんか。
この人は私だけのものなんだから!
「・・・・そう、どんな手を使ってでも灯火を手に入れる」
鏡の前で自分の姿を確認しながら一人呟く。
無事デートが終わった後、私は彼と別れて事前に用意をしていた服装へと着替える。
「よし、どっからどう見ても魅音だ」
髪型を魅音と同じポニーテールにし、服装も魅音が使っているものを着る。
これで誰も私のことは詩音ではなく魅音だと思う。
「・・・・ふふ」
もう一度鏡で自分の姿を確認して暗い笑みを浮かべる。
そして先ほど別れたお兄ちゃんの下へと急いだ。
「お兄ちゃん!!」
ゆっくりと歩きながら家へと帰っていたお兄ちゃんへと話しける。
私の声に反応した彼はゆっくろと私へと振り返り、そして私を見つめる。
「・・・・魅音」
「うん、あはは!今日はデートの邪魔しちゃってごめんね!どうしても気になっちゃてさ!」
魅音のふりをしてお兄ちゃんへと笑いかける。
私の言葉に灯火は少し間を置きながらも苦笑いで答える。
「・・・・気にするな。それでどうしたんだ?そんな慌てて、何か俺に用事か?」
「うん、実はね」
彼の質問に私は内心で笑みを浮かべがら口を開く。
私は彼がどうしてもほしい。
彼以外ほかのすべてを捨てでも。
彼を手に入れるためなら私は何でもする。
「今日のデートを見て、私思ったんだ・・・・私は兄を想う気持ちと好きな人を想う気持ちを取り違えてたんだって」
「・・・・」
おねぇ、あんたには悪いけどお兄ちゃんは渡さない。
園崎家はおねぇの好きにすればいい、ただしお兄ちゃんだけは私がもらっていく。
「私はお兄ちゃんのことを兄として好き。だから、私はお兄ちゃんと詩音の仲を応援するよ」
恋は戦争。
出遅れた奴が悪いんだ。
私は偽りの表情を浮かべながらそう自分に言い聞かせる。
そんな私に彼は。
「・・・・何言ってんだ、
言葉に明らかな怒気を宿らせながら
彼の瞳を見た瞬間、私の身体中の血液が凍り付いてしまったかのような強烈な悪寒が私に襲い掛かった。
今回の話も終わりが近づいてきました。