レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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綿流し

時計の時針が19時を指して今が夜だと示す。

電灯のような闇を照らすものが少ない雛見沢では真っ暗で慣れてないと散歩することも難しい時間帯。

 

いつもなら誰も外には出ずに風が草木を揺らす音と虫の鳴く声だけが雛見沢の夜に鳴り響いているのだが、今日ばかりは違う。

 

暗い夜道を照らすかのように様々なテントから明かりが漏れ、木々や虫の鳴き声を掻き消すかのように雛見沢の住民達の楽しそうな話し声が響き渡る。

今日は雛見沢の住民の全てが待ち望んでいた綿流し。

昨年の綿流しはダム建造騒動によって本来の形では出来なかった。

去年はただテントの下で酒を飲んで騒いで鬱憤を晴らしていただけだった。

親父たちはそれでよかったかもしれないが、酒を飲めない子供やお酒を飲まない方達は不満だったに違いない。

 

去年のその日に親父達よりも酒を飲んで騒ぎを起こした未成年の人達がいたような気がするが、気にしてはいけない。

 

「お兄ちゃん早く早く!」

 

久しぶりの綿流しの祭りを見て目を輝かせながら俺の手を引いて先へと急ぐ礼奈。

俺もだが、礼奈も年に一度のお祭りを心待ちにしていたようだ。

 

「礼奈、灯火。あんまり走ると危ないよ」

 

はしゃぐ礼奈の様子を見て注意の声が届く。

声を聞いた礼奈は足を止めて声のほうへと振り返る。

 

「お父さんも早く早く!急がないと祭りが終わっちゃうよ!」

 

「あはは、祭りはまだ始まったばかりだから大丈夫だよ」

 

俺の手を引いて早く祭りへと行こうとする礼奈に苦笑いを浮かべる父さん。

 

「お母さんも早く早く!」

 

礼奈は父さんの後ろからゆっくりと歩いてきている母さんにも声をかける。

 

「はいはい、そんなに焦らくても祭りは逃げたりしないんだから」

 

礼奈の声を聞いた母さんは呆れながら進む足を速めていた。

そんな両親を見ながら祭りの前に礼奈から提案された内容を思い出す。

 

一週間前、毎年のように梨花ちゃんに悟史達と魅音達を誘って祭りを回ろうと計画していると、礼奈が俺にある提案をしてきた。

 

今回はみんなで回るのでなく、みんなそれぞれの家族と一緒に回りたいらしい。

悟史達が両親と仲良くなれた。

なので今回の綿流しは家族水入らずで過ごしてほしいと考えたようだ。

それを聞いた俺はすぐに公由さんに相談をした。

 

まだ茜さんがケジメとして命令した一年間の雛見沢への貢献が終わっていない。

なので両親は悟史達と一緒にいることは本来なら難しいのだが、綿流しの日くらいは一緒に過ごせないかダメ元でお願いをした。

 

それから少し時間が経った後、俺達のところに嬉しそうな表情をした悟史が綿流しの日は両親と過ごすことが出来るようになったと報告をしてきた。

どうやら公由さんが動いてくれたようだ。

 

悟史達が両親と綿流しを過ごすことが決まったことで、せっかくなので今回は俺達も家族と祭りに向かう流れになり、梨花ちゃんも魅音と詩音もそれぞれの両親と共に綿流しを楽しむことになった。

 

今までの綿流しはみんなと過ごしてきたので、今回家族と過ごす綿流しは新鮮に感じる。

 

「本当に人がいっぱいね、屋台にも人が並んでて物を買うのも一苦労しそうだわ」

 

「そうだね、これはまず二手に分かれて買いに行ったほうが良さそうだ」

 

予想以上の祭りの混み具合を見て驚きながらそう提案する両親。

今回夕食は祭りで済ますつもりだったので俺達は何も食べていない。

 

なので腹を満たすために食べ物と飲み物を手に入れなければならないのだが、確かに母さんの言う通りこの混み具合では入手するのに時間がかかりそうだ。

それぞれのテントに並ぶ長蛇の列を見てため息が口から洩れ、腹からも不満の声が漏れる。

父さんの言う通り二手に分かれるのがベストだろう。

 

「!じゃあ礼奈はお父さんと一緒に焼きそばを買ってくるね!お兄ちゃんはお母さんと一緒に飲み物をお願い!ほら行こ、お父さん」

 

「お、おい礼奈!走ったら危ないって!そんなに強く手を引っ張らなくても」

 

父さんの言葉を聞いた礼奈が父さんを連れて焼きそばを売っている屋台へと向かう。

焦るかのように父さんを引っ張って人混みへと消えた礼奈を見て少し困惑を覚える。

 

礼奈、そこまでお腹が空いていたのか?

 

「礼奈、すごい勢いで行っちゃったわね。そんなにお腹空いてたのかしら?」

 

俺と同じ結論に達した母さんが呆れた様子で礼奈と父さんが消えた方へと視線を向ける。

そんな母さんを横目で見ながら嫌な考えが脳裏に過る。

まさか、礼奈は俺と母さんを一緒にいさせようとしてる?

強引に父の手を掴んでいった礼奈、もし礼奈が俺が母さんのことを良く思っていないことに気付いていて、仲良くさせようと二人っきりにしたとか。

 

・・・・いや、まさかな。偶然に決まってる。

嫌な思考を頭を振って追い出す。

 

「さぁ礼奈の言う通り私達は飲み物を買いに行きましょう。灯火は何が飲みたい?」

 

「・・・・せっかくの祭りだし、定番のラムネかな」

 

「わかったわ、じゃあ行きましょ」

 

俺の言葉を聞いた母さんが飲み物が売っているテントを探しながら歩き始める。

それを見て俺は内心で緊張しながらゆっくりと口を開いた。

 

「・・・・ねぇ、はぐれたら危ないからさ。手、繋ごうよ」

 

緊張と羞恥で顔が熱くなるのを実感しながら母さんへと手を伸ばす。

これが礼奈の狙いではなかろうと、せっかく母さんと二人になったのだ、俺も歩み寄る努力をしなければならない。

あの沙都子が父と和解したんだ、俺も原作知識がとか下らない言い訳をしているわけにはいかない。

母への疑念が消えたわけでは決してないけど、だからといってこのままにはしたくない。

 

「ふふ、今日の灯火は素直ね。はい、手を繋ぎましょ」

 

羞恥で目を逸らしながら手を出す俺を微笑ましく見ながら俺の手を握る母さん。

握られた手は、先ほどまで握っていた礼奈の手より大きく、温かい。

それを感じて、どうしてか少し心が温まるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・えへへ」

 

「礼奈、いきなり戻ってどうしたんだい?」

 

「ううん、なんでもないの!行こお父さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食べ物と飲み物を買った俺達は道の脇に設置されていた長椅子に四人で並んで座って食事を行う。

 

「はうーお腹いっぱい!」

 

焼きそばを完食した礼奈は満足そうに口を開く。

そうは言っても甘いものが売っているテントを見つけたら食べに並ぶに決まってる。

まぁ俺も食べ足りないのでそれでいいんだけど。

 

「お兄ちゃん、お母さん!実は礼奈ね、食べ物以外にこれも買ってきてたの!」

 

食べ物を食べ終えた礼奈が後ろに置いていた袋から何かを取り出す。

やけに大きな袋を持っているなと思っていたら、食べ物以外も入っていたのか。

 

「これは、動物のお面かしら?」

 

礼奈から手渡されたものを見た母さんがそう呟く。

それを聞いた俺も見てみれば確かに可愛らしい顔をした猫のお面だった。

母さんのも同じく猫のお面だが、俺のとは猫の顔が違っている。

 

「えへへ!そのお面はね!お兄ちゃんと母さんみたいだなって思った動物の顔を買ったの」

 

嬉しそうに語る礼奈の話を聞いて改めてお面を見る。

母さんの猫の仮面はクールな印象を与える綺麗な顔の大人猫だった。

そして俺は、仏頂面のデブな子猫である。

 

「おい礼奈、俺と母さんの面の差がすごいことになってるんだが、これを選んだ理由を聞こう」

 

「え?お兄ちゃんそっくりだよ?」

 

「嘘だ!!」

 

俺の質問に純粋な表情で答える礼奈に思わず叫ぶ。

嘘だろ、礼奈から俺はこんな風に見られてるのか。

俺がショックのあまり呆然としている横で礼奈は自分の分と父さんの分のお面を取り出す。

 

見れば礼奈も父さんも猫の面で、礼奈は可愛らしく口を開けて満面の笑みを浮かべている子猫で、父さんのほうは落ち着いた印象の大人猫だった。

 

どう考えても俺の面だけ差別を感じる。

いやいや、これは礼奈のセンスが悪いだけで、決して俺とこいつが似ているわけでないはずだ。

 

「あらそのお面、本当に灯火にそっくりね」

「灯火を猫にしたらこんな感じだね。さすが礼奈だ、よく見つけたね」

 

「・・・・」

 

俺の仮面を見た両親が揃って俺のお面への感想を口にする。

そんなわけがない、俺は信じないぞ!これはたまたま俺以外の竜宮家のセンスが致命的なだけなんだ。

俺は心の中で葛藤しながら受け取ったお面を頭の横に付ける。

礼奈達も同じように頭にお面を付け、それを見た礼奈は嬉しそうに笑う。

 

「えへへ!お揃いだよ!」

 

そう言って笑う礼奈の表情は、頭に付けている子猫の面とそっくりだった。

礼奈の可愛らしい表情を見てほっこりとした気持ちになる。

この顔を見れるならお面くらいいくらでも付けるに決まってる。

 

あれ?礼奈と頭につけている子猫は確かにそっくりと言えるほど似ている。

ってことは礼奈のセンスはおかしくない?

てことは俺とこのデブ猫もそっくりということで・・・・

 

 

それに気付いた俺はそれ以上深く考えない事にした。

 

 

「あ、灯火に礼奈なのです」

 

俺が自分のお面と睨み合いをしていると通りかかった梨花ちゃんが声をかけてくる。

梨花ちゃんのほうへと顔を向ければ梨花ちゃんだけでなく、羽入はもちろんだが、両親の姿もあった。

話した通り梨花ちゃんのところも家族で綿流しを過ごすことにしたようだ。

 

「こんばんは梨花ちゃん!梨花ちゃんも家族と一緒になんだね」

 

「こんばんはなのです!はい、今日は両親と一緒なのでお金を気にすることなく買い放題なのですよ。にぱーー☆」

 

「だからって買いすぎよ」

 

礼奈の言葉に笑顔で答える梨花ちゃん。

梨花ちゃんの言葉を聞いた梨花ちゃんのお母さんが呆れたようにため息を吐いている。

一体どれほど買ったんだ梨花ちゃんは。

 

「みぃ、礼奈たちがとっても可愛い猫さんのお面を付けているのですよ」

 

「えへへ!みんなでお揃いなの!」

 

梨花ちゃんが俺達が付けているお面に気付いて感想を述べる。

それを聞いた礼奈は梨花ちゃんに嬉しそうに説明をしていた。

 

「あうあうあう!すごいのです!灯火の付けている猫さんのお面と灯火がそっくりなのですよ!」

 

近くで俺とお面を交互に見ていた羽入が感心したような声を漏らす。

それを聞いていた梨花ちゃんが俺と仮面を見つめる。

 

「ほんと、そっくりね。灯火を猫にしたらこんな感じなんじゃないかしら」

 

梨花ちゃんも羽入の言葉に同意するように答える。

2人の意見を聞いてどんどん心が死んでいくのを感じる。

嘘だろ、俺ってまじでこんな顔なのか。

今まで自分の顔を客観視できていなかった事実に落ち込む。

俺って悟史には負けるけどそれなりにカッコいいと思ってたよ。

 

「僕たちも家族でお揃いなのですよ」

 

俺が落ち込んでいる横で梨花ちゃんは自身が着ている巫女装束を礼奈に見せながらクルリと回る。

それを見た礼奈はあまりの可愛さに「はうっ!」っと声を漏らして手で口を押さえる。

今は家族のいる手前、暴走を抑えているようだ。

 

梨花ちゃんの言葉を聞いて梨花ちゃんの両親を見てみれば、確かに2人とも梨花ちゃんと色違いの同じ服を着ている。

いつも神社で着ているものとは装飾が違っていて、綿流しの儀に使うためのものなのだろうか。

 

「えへへ!礼奈たちと一緒で家族でお揃いなんだね」

 

「はいなのです!()()()()()()お揃いなのですよ!にぱーー☆」

 

礼奈の言葉に笑顔で答えながらちらりと羽入へと視線を向ける梨花ちゃん。

 

「梨花っ!」

 

いつも巫女装束に身を包んでいる羽入は梨花ちゃんの言葉の意味に気付いて感激で目に涙を溜める。

悟史達の一件で梨花ちゃんも家族に対して思うところがあったようだ。

微笑ましい気持ちで笑みを浮かべながら嬉しそうに泣く羽入と照れて顔を背けている梨花ちゃんを見つめた。

 

 

「はうはうはうー!今日の梨花はとっても優しいのですよ!わたあめもリンゴあめも食べれてもう最高なのです!」

 

テントで売っている甘いものを味わうことが出来た羽入は頬を緩ませながら俺の近くを浮遊する。

 

「羽入、悟史達が今どこにいるかわかるか?」

 

「え?悟史達なのですか?ちょっと待っててくださいなのです」

 

俺の言葉を聞いて上空へと昇っていく羽入。

少しの間上空で辺りを見回していた羽入はゆっくりとこちらへと戻ってくる。

 

「いました。僕たちとは少し離れていますが、家族全員で楽しそうにご飯を食べているのですよ」

 

「・・・・そっか、ありがとう羽入」

 

万が一を心配していたけど、その様子なら大丈夫そうだ。

2人は雛見沢症候群を発症していない。

そう結論を出して安心して息を吐く。

後は悟史達が綿流しを楽しんでくれることを願うばかりだ。

 

 

「お兄ちゃん!あっちで面白そうなものがあるよ!」

 

離れた場所で礼奈がこちらへと手を振るのが見える。

両親と梨花ちゃん達も一緒にいるようだ。

 

「行きましょうなのです灯火」

 

「ああ」

 

羽入の言葉に従って俺を待つみんなのところへ向かう。

俺達も悟史達に負けないくらい綿流しを楽しませてもらおう。

 

 

 

 

「お兄ちゃん!これって前にお兄ちゃんが着たメイド服だよね!だよね!」

 

「・・・・」

 

礼奈が俺の服を掴みながら興奮したように口を開く。

確かに礼奈の言う通り、テントの中には見覚えのある服が凄まじい存在感を放ちながら鎮座していた。

 

「よう灯火、元気そうで何よりだ!今年もこの服を持ってきてやったぜ!」

 

いつかの綿流しで見たおっさんが歯を光らせながら俺へ見せつけるように服を掲げる。

天使の輪っかに露出の激しいメイド服。

以前の綿流しの日に俺が強制的に着ることになった『堕天使エロメイド』とかいう名の服だ。

 

「どうしてそれがここにあるんだ!それは前の綿流しで俺が綿と一緒に川に流して葬ったはず!」

 

二度と帰ってくるなと川に放り投げたことを今も俺は鮮明に覚えているぞ!

 

「そんなもん俺が後で回収したからに決まってるだろ。苦労したんだぜぇ、危うく滝つぼに落ちるところだった」

 

そのまま落ちればよかったのに。

店主の謎の熱意に項垂れるように顔を下げる。

 

「灯火、今年も着てやってくれ。こいつもお前に着られたがってる」

 

真剣な表情で俺に服を手渡そうとする店主。

もちろん、全力で拒否する。

こんなもんもう一度着た日には村の笑い者だ。

 

「えー!着てあげようよお兄ちゃん!礼奈またお兄ちゃんのメイド姿を見たいかな!かな!!」

 

「みぃ、こんなこともあろうかとカメラを持ってきているのですよ。これに灯火のメイド姿をばっちり撮影できるのです。にぽーーー☆」

 

興奮して息の荒い礼奈と暗い笑みを浮かべる梨花ちゃんが俺へ詰め寄ってくる。

うちの両親と梨花ちゃんの両親に助けを求めるが、全員興味津々に俺を見つめるばかりで何も言ってこない。

 

「嫌に決まってるだろ!俺はもう二度とそれを着ないと誓ったんだ!」

 

詰め寄ってくる礼奈と梨花ちゃんに距離をとりながら叫ぶ。

そういうのは将来やってくる圭一にやってくれよ!俺は女装なんて絶対にしたくない!

 

「礼奈、それに梨花ちゃんだったかな。灯火が嫌がってるのに無理に着せるのはよくないよ」

 

諦めずに再び俺に近寄る礼奈と梨花ちゃんに、うちの父さんが優しく説得する。

父さんから言われるとは思ってもいなかった礼奈たちは動きを止める。

 

なんということだ、まさか父さんが俺の味方をしてくれるなんて。

やはり大切な息子に女装なんてさせるわけがないんだ。父さん、ありがとう!

 

「灯火にはそんなものより、僕が手掛けたこの大精霊チラメイド服のほうがよく似合うに決まっている!!」

 

いつの間にか背後に回っていた父さんが俺を拘束しながら高らかにそう宣言する。

 

は?

 

俺の横にいつの間にか出現していた別の服を見て思考が止まる。

さっきの服と変わらないくらいに露出の激しいメイド服になぜか白い羽が付いている。

 

「父さん・・・・?」

 

震えながら俺の背後に陣取る父さんを見つめる。

父さんはいつもの優しい笑みを浮かべながら俺に向かってゆっくりと口を開いた。

 

「灯火、僕が苦労して作ったこの服。灯火なら着てくれるよね」

 

「絶対着ない」

 

父さんの言葉に即答する。

いやあんたデザイナーだろ!!なんてものデザインしてやがる!

まさかあんた、こんな感じの服を作りまくったせいで母さんから呆れられたんじゃないだろうな!

だとしたら俺の今までの気持ちの恨みは計り知れないぞ!

 

「灯火」

 

「っ!母さん!」

 

この際だ、母さんから父さんに言ってやってくれ!

同じデザイナーの母さんに叱られれば、父さんも目を覚ますだろう。

 

「あなたなら必ず似合うわ、だって母さんに似て綺麗な顔をしているもの。完璧な女装をすることが出来るはずよ」

 

さっきまでこのお面のデブ猫にそっくりって言われたんだけど俺。

俺が心の中で母さんにツッコミを入れている間に父さんと店主が口論を開始していた。

 

「けっ!そんなダサい服を灯火が着るかよ。灯火はこの堕天使エロメイドを着たがってるんだ」

 

着たがってない。

 

「そちらこそ僕の息子の趣味を勝手に決めつけないでください。灯火は僕の作った大精霊チラメイドが好きなんです」

 

好きじゃない。勝手に俺の趣味を決めつけてるのは父さんだ。

 

「じゃあ間をとって両方着るのはどうかな?かな?」

 

「「まぁ、それなら・・・・」」

 

着るわけないだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!

何それで妥協するかみたいな顔をしてやがる!

なんで俺がそれらを着ることを前提になってるんだよ!!

 

「あはは!お兄ちゃん達が面白いことやってる!」

 

俺が魂の叫びを伝えるために口を開こうとしたタイミングで聞き覚えのある声が耳に届く。

嫌な予感を覚えながら振り返ると、そこには予想通り悪い笑みを浮かべた魅音の姿があった。

 

「え、なになに?お兄ちゃんがこの服を両方着るの?」

 

いつの間にか俺にくっついていた詩音が父さんと店長の持つ服を見て面白そうな表情を浮かべる。

最悪だ、最悪のタイミングでこいつらが来やがった!

魅音の後ろには茜さんと茜さんの夫の姿が見える。

どうやら魅音達も家族で綿流しを楽しんでいたようだ。

それは非常に喜ばしいのだが、できればそのまま家族だけで楽しんでほしかった!

 

「話は聞かせてもらいましたよ!」

 

「・・・・」

 

もう声だけで誰かわかる。

死んだ目で声のしたほうを見れば、そこにはメガネを光らせて笑う入江さんがそこにいた。

 

「メイドの匂いにつられて着てみれば、まさかこんな素晴らしいメイド服に出会えるとは思ってもみませんでした!灯火さん!これらを着ないなんて、共に魂となって地獄を巡ったソウルブラザーである私が許しませんよ!」

 

荒い息を吐きながらこちらへ詰め寄る入江さん。

ソウルブラザーはやめろ!その呼び名は後でフラグになりかねない!

 

「ねぇねぇお兄ちゃん」

 

俺が入江さんにその呼び名をやめさせようとしていると、礼奈が俺に声をかける。

 

「お兄ちゃんはこの服を着るのが恥ずかしいんだよね?だよね?」

 

「・・・・まぁ、そうだな」

 

恥ずかしいとかの以前に着たくないだけなんだが、似たようなものなので否定してない。

それを聞いた礼奈は恥ずかしそうに頬を染めながら呟く。

 

「だったら私も一緒に着るよ。それならお兄ちゃんも恥ずかしくないよね。どうかな?かな?」

 

礼奈の発言を聞いていた周りの男どもが一斉にざわつく。

馬鹿な、礼奈がこのふざけた服を俺と一緒に着るだと。

たぶん店主や入江さん達は女の子はこの服を着てくれないと諦めていて、代わりに俺に着せようとしていただけにすぎない。

可愛らしい女の子が着てくれるなら当然そちらのほうが良いに決まってる。

小学生の礼奈にこの服を着こなせるとは思えないが、そのアンバランスが逆に興味を刺激する。

 

「「「灯火(さん)!!!」」」

 

俺と同じ結論に至った父さんと入江さんと店主が俺の名前を呼ぶ。

俺はそれに答えるかわりに父さんが持つ大精霊チラメイドを奪い取る。

服を肩に下げながら着替えるために店主のテントへと向かう。

 

俺がキモイ姿を晒そうと、礼奈の可愛らしい姿を見れるなら安いものだ。

三人から敬礼を受けながら俺は着替えスペースで着替えを開始した。

 

 

 

 

「ごめんなさいお兄ちゃん。店主さんにもらったこの服なんだけど、小さくて着れなかった」

 

着替えから戻った俺に礼奈が申し訳なさそうに出迎える。

当然メイド服には着替えておらず、私服のままだ。

 

「まぁ、二年以上前に灯火が着たやつだからなぁ。さすがに礼奈ちゃんでも着れなかったか」

 

「クッ、礼奈さんのメイド服が見れないとは非常に残念です。しかし、灯火さんのもすばらしいです!さすがソウルブラザー!同じメイド魂を持つ灯火さんなだけあります!」

 

「やっぱり僕が作った服は灯火に似合うと思ってたんだ!来年も作るから期待してて」

 

男どもは礼奈のメイドを見れないことを悔しがりながらも俺の姿を見て感心したように声をだす。

魅音達は必死に笑いこらえており、梨花ちゃんは持参したカメラを持って何度も俺に向かってシャッターを切っている。

 

「・・・・」

 

悟史達、祭り楽しんでるかなぁ。

 

 

 

 

 

 




1話にまとめるつもりが少し長くなったのでニ話に分けました。
次回は悟史目線で始めます。

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