レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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事件後の病院での出来事

大臣の孫誘拐事件が解決した次の日。

赤坂さんは俺たちが警告したその日の内に雛見沢を離れ、病院の奥さんの元へと向かった。

今頃病院で奥さんと再会して安心している頃だろう。

 

これで今回の大臣の孫誘拐事件・・・・いや、暇潰し編も完全に終了と言ってもいいだろう。

赤坂さんの奥さんが死んでしまう運命は無事に回避されたし、これからダム建造計画も中止の方向へ向かっていくことだろう。

この後で一番近い出来事は来年の綿流しの日に起こるバラバラ殺人事件だが、その時に殺されてしまう現場監督についても俺の華麗なる頭脳プレイによって現場監督を解任している。

もちろんこれだけでは完全に事件を防ぐことが出来ないことはわかってる。

だが、これで少なくとも大石さんの大切な友人である監督が死ぬようなことにはならないだろう。

かといって代わりの着任した現場監督やそのほかの人が死ぬようなことは避けたい。

誰かの代わりに別の誰かが死ぬような運命なんて嫌に決まっている。

 

まぁ、それも一年の猶予があるのだから、ゆっくり考えていけばいいさ。

 

それよりも今この瞬間に直面している問題を解決する方がよほど重要だ。

 

「・・・・なぁ、暑いからいい加減離れてほしいんだけど」

 

「「「いや!!」」」

 

俺の言葉に三人の少女の声が重なる。

病院のベッドに寝ている俺の身体は現在、三人の妹たちによって拘束されていた。

身体の正面を礼奈に抱き着かれ、左右の腕に魅音と詩音が絡みつくようにくっついて離れない。

いやまぁ、いきなり頭から血を流しながら病院に運ばれたのだから心配するのは当然だろう。

逆の立場なら俺だってすぐに駆け付けるさ。

 

だから彼女たちが俺の心配をしてそばにいてくれるのは嬉しく思うし、くっついてくるのだって微笑ましい気持ちになるさ。

だが、世の中には限度というものがあると思う。

 

彼女たちは朝一番にお見舞いに来てくれた。

心配そうな顔をしながらくっついてきた彼女たちを拒む選択肢なんてあるわけがない。

 

そして現在、時刻は18時 お空は夕暮れである。

 

長いわ!!スキンシップにだって限度あるわ!もう9時間以上引っ付いたままなんだぞ!!

食事の時だって引っ付いたままだったし、検査や他の人の面会の時は空気を読んで離れてくれたが、終わった途端、磁石の引力みたいに再びくっついてくるのを見た時は乾いた笑みしか浮かばなかった。

 

ちなみにその様子を検査してくれた入江先生がうらやましそうに見ていたのは少し引いた。

ロリとメイドをこよなく愛する入江先生にとって、今の時代こそが黄金の時代と言っても過言ではないのかもしれない。

初めて会った時に礼奈たちを犯罪者のような目で見ていたのにはドン引きしてしまった。

基本的に誠実な人なので決して嫌いではないけれども。

 

 

ちなみに俺が入院したという噂は昨日の内に広まってしまったようで今日は朝から多くの人たちが見舞いにやってきてくれた。

 

今まで会うことが出来ずにいた悟史と沙都子も二人を保護してくれている村長の公由さんと一緒に朝一番にやってきてくれた。

 

心配そうな顔で入ってきた二人だったが、俺の身体に装備された状態の三人を見た途端、呆れたようにため息を吐いていた。

 

その後、悟史が心配したんだよと優しく言葉をかけてくれたのに対し、沙都子は威嚇する犬のようにキャンキャンと俺に注意をしてきたのだが、俺を心配しての注意なので甘んじてそれを受け入れた。

二人とも俺の怪我の原因については知らないが、ダムの関係によって負った怪我だと予想していたのだろう。

俺の頭に巻かれた包帯を見て心配そうな顔を覗かせていた。

 

その後にやってきたのはなんと、俺よりも重傷で寝込んでいたはずの葛西だった。

見るからに顔色が悪い状態だというのに俺の病室にやってきたかと思えば、血が出るんじゃないかという勢いで頭を地面へとぶつけながら俺に謝罪したのだ。

自分が不甲斐ないばかりに怪我を負わせてしまったと言い出し、責任取って指詰めますと言いながら目の前で自分の指を切り落とそうとするもんだから、ベッドから転がり落ちそうになりながら慌てて止めることになった。

いくら俺が葛西のせいではないと言っても聞かないので、あきらめて今度は必ず俺を守ってくれるようにと言うと、命に代えてもとガチの声で返されてしまった。

俺の知らないところで葛西にケジメだとか言って拷問でもしないように園崎家に泣いてでもやめるように言っておかないと。

 

今更だけど魅音や詩音みたいな園崎家の人にならともかく、まったく関係のない俺に対してここまでの忠誠心を見せられてしまうと、申し訳ないっていうか・・・・普通に怖い。

もちろん葛西のことは大好きだし信用しているのだが、それとこれとは話が別である。

 

 

葛西を自分の病室に帰した後、たたみかけるように魅音と詩音の母である園崎茜と、現当主である園崎お魎がやってきた。

来るかなー?来てほしくないなー、ていうか来ないで!と昨日の夜に何十回も念じていたのだが、そんな俺の思いは届かなかったようだ。

俺の中の『現雛見沢で怖い人ランキング』TOP5に入る2人が同時に来たことで冷汗が止まらなくなる。

ほっといた方が都合がいい事件に自分から首を突っ込んで怪我をし、園崎家の大事な部下である葛西に大怪我を負わせてしまったのだ。どんな目に遭わされるのか想像したくもない。

 

この二人が来たというのに全く離れるつもりがない礼奈たちが、この時だけは頼もしい。

魅音と詩音なんか、俺の腕にくっついた状態で2人に笑いかけてるし。

 

そんな俺の状態を見てクスリと笑う茜さん。

頭に巻いた包帯を見ながら派手にやったとか、男は怪我してなんぼだよと事件について気にした様子もないように言葉を口にする。

その様子を見て、お?これで何もなしで笑い話で終わるのではと期待しだした時。

 

まぁ、それはともかくと言い、話を区切るように一度口を閉ざした後。

 

「あんたをこんな目に遭わした野郎には絶対にけじめをつけさせるけどね」

 

先ほどの明るい雰囲気から一変、絶対零度の視線を虚空へ向ける茜さん。

 

「うちの灯火に怪我負わせたんだ、草の根を分けてでも引きずりだして、殺してやるよ」

 

あの茜さん・・・・怖いです。安心させてからのふいうちは、ホントにちびりそうになるからやめて下さい。

 

「・・・・母さん、見つけたら私たちにも教えてよね。お兄ちゃんを傷つけたやつに私もけじめつけさせるから」

 

「・・・・生爪全部剥いで、出来る限り苦しめてから殺してやる」

 

茜さんの言葉に魅音と詩音が反応する。

両腕にしがみついている2人に視線を向けると、もうありったけの憎悪を顔に塗りたくったような顔で歯を食いしばっていた。

特に詩音の迫力はやばく、はっきり言って茜さんより怖かった。

 

ちなみに俺の現雛見沢で怖い人ランキングTOP5に詩音はばっちり入っております。

 

 

殺気立つ園崎家のみんなをなんとか宥め終えた頃には俺の精神はすでにノックアウト寸前だった。

なんで療養するための病院でこんなに疲れなければならないんだ。

こんなことなら無理やりにでも退院して家で寝てればよかったと考えてるほどだ。

 

 

しかし一番怖かった園崎家襲来を乗り切ったのだ。ならばもう消化試合みたいなものだろう。

 

 

そう楽観視している最中、今日の最後の見舞い人である、古手一家がやってきた。

 

梨花ちゃんに梨花ちゃんのお母さんとお父さん、その後ろには羽入の姿が見える。

わざわざ俺のために家族全員で来てくれたようだ。

 

見舞いのお礼を言おうと口を開いたが、梨花ちゃんのお母さんの表情を見て固まってしまった。

梨花ちゃんのお母さんは俺を睨みつけるような厳しい表情でこちらを見ていた。

その雰囲気に梨花ちゃんとお父さんは我関せずとばかりに視線を下に向けてしまっている。

あ、これ本気で怒ってるやつだ。

それを理解した瞬間、全身から冷汗があふれ出る。

あれだけ言っても離れなかった礼奈たちも静かに俺から離れてしまっていた。

 

険しい表情のまま梨花ちゃんのお母さんが無言で俺の前までやってくる。

そして------そのまま俺を抱きしめた。

 

「灯火ちゃん、あなたが病院に運ばれたと聞いた時、私がどれくらい取り乱したかわかる?どれくらい心配したかわかる?あなたの親でもない私が言うのは違うのかもしれないけれど、言わせてもらうわ・・・・もう危ない真似はしないで。あなたに何かあれば家族の人はもちろん、梨花も私もお父さんも、とても冷静ではいられないの」

 

俺を抱きしめながら静かにそう口にする梨花ちゃんのお母さんに何も言えずうつむいてしまう。

今日の見舞いの中で一番辛いのは今だ、間違いない。

園崎家の時だって怖くはあったがこんな気持ちにはならなかった。

昨日来た実の両親にも当然強く怒られたが、ここまで辛くはなかった。

やはり俺の中では梨花ちゃんのお母さんは特別なのだろう。

実の母より母らしいこの人に、俺は勝てそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

窓から入り込む夜風が心地良い。

夕暮れ時も終わり、完全に暗くなった夜空を見ながら今日を振り返る。

今日はたくさんの人が見舞いに来てくれた。

来てくれた人の対応はそれぞれだったけれど、みんな俺を心配してくれていたのは間違いない。

みんなの心配そうな表情を思い出し、胸が締め付けられるような痛みが走る。

今回の事件、この程度の怪我で済んだのは運がよかったからだ。

葛西がいてくれたとはいえ、銃を持った大人相手になんの力もない子供が出来ることなんて殆どない。

相手が最初から殺す気で来ていたら、俺は何も出来ずに殺されていた。

今後、今回と似たような状況になった時、殺されない保証なんてどこにもない。

 

今回の件はしっかりと反省し次に活かせるようにしなければならない。

力がないのなら知恵と策で相手を翻弄しなければならない。

俺の安易な行動で失うかもしれない命は俺の命とは限らないのだから。

 

改めて決意を固めていると、病院の退出時間を過ぎ、誰も来ないはずの扉がゆっくり開くのが見えた。

 

 

「こんばんは灯火君、夜風が気持ちいいわね」

 

 

明かり1つない暗がりの廊下から薄い笑みを浮かべながら一人の女性がこちらにやってくる。

この病院のナースにして、俺が入院するきっかけになった死神たちの主。

鷹野三四がそこにいた。

その笑みは暗く、静寂な病室の雰囲気も合わさって、ひどく不気味に感じた。

 

 

 

 


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