レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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疑心暗鬼結果 解

誘拐され、行方不明になっていた寿樹君の財布が落ちていたという場所に到着した俺は大石さんの案内に従って怪しい箇所がないかを捜索していた。

 

大石さんの土地勘や長年培ってきた経験によるものなのか、驚くほどの短時間で誘拐犯が隠れるにはうってつけの小屋を発見するに至った。

 

「んん?なんか様子がおかしいですねぇ」

 

誘拐犯に気づかれないように慎重に歩を進めていた時、隣で同じように歩を進めていた大石さんが口を開く。

 

大石さんの声に従って小屋を注視する。

最初は距離があり、よく見ることができなかったが、だいぶ近づいてきたため小屋の様子をはっきりととらえることが出来た。

 

「・・・・ずいぶんと荒らされている様子ですね」

 

距離が近くなったことにより小屋の様子を確認することが出来たが、その状態は予想とは違うものだった。

 

まず小屋に扉が存在しなかった。

いや、正確には扉だった残骸があるのだが、まるで強引に引っぺがされたかのように痛々しい状態だ。

 

この時点でこの小屋はハズレかに思えたが、さらに近づくにつれ、小屋の中に人の気配があることがはっきりとわかった。

 

「・・・・」

 

俺と大石さんが空いたままの扉の左右に位置取り、同時に突入のタイミングを視線にて計る。

そして大石さんが大きく頷いた瞬間、僕たちは同時に小屋の中へと突入を開始した。

 

「‥‥なんだ‥‥これは?」

 

「おやおや‥‥これはすごいことになってますねぇ」

 

小屋に突入した俺たちは想像すらしなかった室内の状態に呆然とその歩を止めてしまう。

小屋の室内はひどく荒らされていた。

 

目の前には強引に吹き飛ばれたであろう小屋の扉が床に落ちており、壁には中を小さなものが貫通した跡、そして飛び散った血痕があった。

 

血痕の先には2名の男が縛られた状態で倒されている、息遣いと体の動きからして、生きてはいるようだ。

 

そして室内の中央には2人の少年が座っており、その横にはおそらくこの現状を作り上げたであろう黒スーツを着た男がこちらを無言で睨み付けていた。

 

これはどういう状況なんだろうか。

 

少年の内1人は背中を向けているため確認できないが、もう1人については写真で確認していることからよく知っている。

 

彼は俺たちが捜索していた大臣の孫である犬飼寿樹君で間違いない。

財布の発見でほとんどわかってはいたが、本当にこの町に誘拐されてしまっていたとは。

 

このまま彼を救出して帰りたいところだが、現状の把握をすることが出来ない。

 

床に倒れて縛られているあの男たちは誰だ?

 

目の前で俺たちを睨みつけている男は何者だ?誘拐犯なのか?

犬飼寿樹君以外のもう1人の少年がどうしてこんなところにいるんだ?

 

数々の疑問が頭の中を走り回り、状況の整理がめちゃくちゃになっていく。

 

「これはどういう状況か・・・・教えてくれますかねぇ?」

 

同じように状況が整理できていないのか大石さんからこの状況に対する説明を求める声があがる。

 

この状況を理解するには目の前の男に聞くのが一番早いだろう。

もっとも素直に答えてくれるとはまったく思えないが。

 

「灯火さん」

 

大石さんから放たれた名前が耳に届いた言葉を、俺はすぐに理解することが出来なかった。

 

とうかさん?大石さんは何を言っているんだ?

 

どうしてこの状況下でその言葉が出てくるんだ?

 

今は目の前の男に現状の説明を求めている場面だろう、それなのにどうして大石さんはその名前を口にするんだ?

 

どうして大石さんは目の前の男ではなく

 

 

もう1人の少年を見ながら聞いているんだ?

 

 

大石さんに声に反応して、顔の見えなかった少年がゆっくりと俺たちの方へと顔を向ける。

 

それは時間にしてほんわずかなものだったはずだ。

 

しかし俺の目にはまるで世界がスローモーションにでもなってしまったかのようにゆっくりと進み、その間俺はまるで金縛りにでもあったかのように身体が動かず、呆然とその姿を見ることしかできなかった。

 

その少年の顔を完全に捉えた瞬間、バス停で出会った梨花ちゃんと一緒にいた少年の顔が浮かび上がった。

 

「・・・・こんなところで奇遇ですね大石さん」

 

完全に俺たちの方に向きなおった少年が口を開く。

 

その目と声はバス停で出会った時とはまるで別物だ。

まるで生気を感じさせない目に、冷たさを感じさせる静かな声。

 

ああ、間違いない。彼があの竜宮灯火だ。

 

ゾッとするような寒気が身体を走るのを感じた。

 

彼が竜宮灯火なのだとしたら、バス停で会ったのは偶然でもなんでもない。

俺が誘拐事件の手がかりを得るために町に訪れ、あのバス停で降りることもすべて把握されていたんだ。

 

そして無害な少年を演じて俺に接触した。

 

俺に向けていた笑顔の裏で俺をどうするべきかを考えていたんだ。

 

そしてずっと泳がされていた。いつでもどうとでもできると判断されて。

もしかして園崎家の親族会議の情報もわざと俺に流したのではないか?

 

俺の存在に自分たちが気づいていることを知らせるために。

 

負の方向に走り出してしまった思考を止めることが出来ない。

 

今までの俺の行動全てが竜宮灯火の思い通りだったとしか考えられなくなっていく。

 

俺たちは村の住民が見つけた犬飼寿樹君の財布を手掛かりにここまでやってきた。

 

財布が見つかった時は運がよかったなんてのんきに考えていたが、あれも偶然ではないとしたら?

 

俺たちをここに呼び寄せるためにわざと財布を落とした。

 

村中がグルなのだとしたら財布を交番に届けて口裏を合わせてここに誘導するくらい簡単にできる。

 

一度そう考えだすと、それが全ての真相であるかのように頭の中に反映されていく。

 

「・・・・赤坂さん?」

 

近くにいるはずの大石さんの声が遠く聞こえる。

俺の名前を呼んでいるような気がするが、それに応える余裕がない。

 

「・・・・き、きみが・・竜宮灯火だったのか・・・・」

 

震える口を懸命に動かしてなんとか言葉を発する。

 

落ち着くんだ、相手は自分の背丈の半分もない幼い少年なんだ。

 

年端もいかない少年に大人の俺が恐怖するなんてありえるわけがない。

 

「うん、バス停で会って以来だよね。顔色悪いけど大丈夫?」

 

「あ、ああ・・・・・大丈夫だよ」

 

友好的な笑みを浮かべる彼になんとか言葉を返す。

先ほどの冷たい雰囲気ではない、以前バス停で出会った少し変わったところがある少年になっている。

 

今までの彼の話は誰かが適当に作り上げた嘘話に違いない。

 

園崎家でもない少年が園崎家の跡継ぎと同等の位置にいるなんてありえるわけがない。

 

今だってきっと、この少年はなんらかのトラブルによってこの現場に巻き込まれてしまったに違いない。

 

そうじゃなければ、誘拐犯のいる小屋にいるはずがないのだから。

 

・・・・もしもトラブルに巻き込まれたわけでもなく、自分の意思でここにいるのだとしたら・・・・・それはきっと。

 

「赤坂さんに良い物をあげるよ」

 

爽やかな笑みを浮かべながらこちらに近づいてくる。

 

右手を上着のポケットに入れて何かを取り出そうとしているのが見えた。

 

待て・・・・どうして俺の名前を知っているんだ?

 

バス停の時、梨花ちゃんに対して名を名乗ったが彼には名を名乗ってなんかいない。

 

なのにどうして当たり前のように俺の名を口にした?

 

先ほど思い浮かんだ言葉が再び浮かび上がる。

 

もしもトラブルに巻き込まれたわけでもなく、自分の意思でここにいるのだとしたら、それはきっと。

 

 

 

俺を殺すためだ。

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!????」

 

その答えを頭が出した瞬間、叫び声をあげながら彼がこちらに突き出した腕を払っていた。

俺に腕を払われたことで彼が持っていた何かが手から離れて飛んでいくのが目に入る。

 

「赤坂さん!!落ち着いてください!」

 

パニックになった俺に大石さんがすぐに肩を抑えるようにして叫ぶ。

 

その後ろでは黙ってこちらを睨んでいた黒スーツの男が叫んでおり、それを彼が必死に抑えているのが見えた。

 

落ち着くように俺に呼びかける大石さんを横目に、彼が持っていた物が落ちた場所に目を向ける。

 

落ちていたのは・・・・可愛らしくラッピングされたチョコレートだった。

 

俺を殺すための凶器だと思って弾き飛ばしたものがただのチョコレートだった。

 

可愛らしいラッピングを見るにおそらく手作りであろうもの。

 

それを見て緊張していた身体が楽になるのを実感する。

 

彼は体調の悪そうな俺を気遣って、チョコレートを俺にくれようとしていたのか。

それを理解した瞬間、彼の好意を踏みにじった罪悪感と彼の行いを勘違いした羞恥が俺を襲う。

 

謝らなくてはと彼に目を向けた時、彼の近くに倒れていた男の1人が急に動き出すのが見えた。

 

「バカが、油断したな」

 

気づいた時にはもう遅かった。

俺が動き出すよりも早く、倒れていた男が彼の首を掴み、自身に引き寄せる。

 

「若!!??いますぐその手を放せや!!ぶっ殺されてぇのか!!!」

 

彼の関係者、おそらくは園崎家の人間であろう男が銃口を構えながら吠える。

しかし彼をとらえた男はまったくこたえた様子もなく笑みを受かべるだけだ。

 

「騒ぐんじゃねぇよ、てめぇに撃たれた傷に響くだろうが」

 

口元に血を覗かせながら荒い息を吐く男。

横腹辺りからは血が滲んでおり、服から滴った血が床を濡らしている。

 

「くそ、縄で縛ってたはずなのに!」

 

男に首を掴まれ苦しそうに顔を歪めながらそう口にする灯火。

 

「残念だったな、関節を外せば縄なんて簡単に抜けれるんだよ!おら、さっさと銃をこっちに向かって捨てろ!こいつの首をへし折るくらい今の俺でも簡単にできるぞ!」

 

「・・・・」

 

首を掴まれ苦しそうに息を吐く彼を見て相手を睨みつけながら銃を地面へと捨てる黒スーツの男。

 

彼を掴んでいる男は黒スーツが手放した銃を掴み、銃口を黒スーツの男へと向け、一瞬のためらいもなく引き金を引いた。

 

「葛西!!!」

 

「ぐっ!?若・・・・なんとお詫びをしたらいいか」

 

脇腹に弾をもらった男はくぐもった声を上げて地面へと倒れる。

それを見た彼は必死に脱出しようと暴れるが、銃を撃った男はそれを無視して油断なく俺と大石さんを視線で牽制している。

 

「ひっ!!」

 

目の前で人が銃で撃たれたのを見て、状況がわからず黙っていた寿樹君から悲鳴が漏れる。

 

一瞬にして状況が最悪へと変わった。

俺のせいで彼は男に捕まり、彼を守っていた黒スーツの男も銃で撃たれて倒れてしまった。

加えて大臣の孫である犬飼寿樹君も完全に保護出来ていない。

 

「くそ、離せ!!葛西!しっかりしろ!葛西!!」

 

男の腕から逃れようと必死に暴れているが幼い彼の力程度では振りほどくことは出来そうにない。

 

「暴れんじゃねぇ!!うざってぇんだよ!!」

 

そう言って暴れる彼の頭を銃で殴りつけた。

 

容赦なく殴られた彼の頭からは血が流れ、そのまま意識を失ってしまったのか力抜けた状態で動かなくなってしまった。

 

「子供を無遠慮に殴るとは・・・・覚悟は出来てるんでしょうねぇ、あんた」

 

いつも飄々とした笑みを浮かべていた大石さんから初めて笑みが消える。

 

「けっ、こんな得体のしれない野郎をガキとは思わねぇよ」

 

男に捕まれたまま血を流しながら気絶している少年を見て吐き捨てるようにつぶやく男。

得体のしれない・・・・確かにその通りだ。

 

俺は彼、竜宮灯火についてほとんど知らない。

 

人は正体のわからない存在を不気味に思う。当たり前の感情だ。

今だってこれまでの出来事を思い出せば背筋にうすら寒いものが走る感覚が襲ってくる。

 

だが、警察官として、いや、1人の子を持つことになる親として、目の前で子供が傷つけられてなんとも思わないわけがない!

 

竜宮灯火の正体、この小屋で起きた真相、誘拐事件、園崎家、そんなものは全て後回しだ。

 

今はただ、目の前の傷ついた子供、灯火君を助けて、目の前の男をおもいっきりぶん殴ってやる!

 

「さて、そこで泣きべそかいてやがるガキにはまだ用があるかならな。ガキを残して小屋から出ろ」

 

「断る!彼を解放しろ、お前のその傷だって軽くはないだろう!」

 

男の脇腹からは今も赤い血が滴り、服の色が赤色に染め広がっている。

 

「余計なお世話だ、さっさと外に出ろ!このガキの頭が吹っ飛ぶとこを見たいんだったら別だがな」

 

そう言って銃口を彼の頭に当たる。

 

どうすればいい・・・・どうすれば彼を救出することが出来る。

 

この現状を作り出してしまったのは俺だ。ならそのむくいは全て俺が受けるべきであって、決して彼が受けていいものなんかではないんだ!

 

「・・・・・」

 

必死にこの現状を打破するための策を考えている時、気絶していたと思っていた少年、灯火君の目がかすかに開いたのをとらえる。

 

灯火君は男に気づかれないようにゆっくり口を開き、自身を捕まえている男の腕に全力で噛み付いた。

 

「ぐぁ!?このガキ!!気絶してなかったのか!!」

 

腕を噛み千切るほどの気迫で噛みつかれた痛みによって男の意識がこちらから灯火君に移る。

 

男の意識がこちらから灯火君に移った瞬間、全身のばねを使い、男の懐へと飛び込む。

 

銃口は未だ灯火君を向いたままだが、その引き金が引かれるよりも俺のこぶしが男を打つほうが早い!

 

「なっ!?」

 

男がこちらに気づいた時、俺のこぶしは男の顔の目の前まで迫っていた。

 

「うおおおおおおお!!!!」

 

渾身の一撃で男の顔にこぶしを打ち込む。

 

その衝撃によって男が吹き飛ぶ瞬間、男の腕から灯火君を救出する。

 

俺のこぶしをくらった男は勢いよく壁へと激突し、その壁を突き破って小屋の外へと消えていった。

 

「うわぁ、すんごい威力ですねぇ」

 

後ろから大石さんの呆然とした声が聞こえる。

俺の全力のこぶしを受けたのだ、小屋の薄壁一枚突き破って当然だ。

 

「へへ・・・・さすが赤坂さん!ほんと頼りになるよ!!」

 

腕に抱えていた灯火君から明るい声が漏れる。

 

彼だけは俺の力に対して驚いていなかった。

 

驚くのではなく喜んでいた、ずっと見たかったものを見たかのように無邪気な声で。

 

なぜ彼が俺のことを知っていて、この小屋にいたのか、落ち着いたらじっくりと聞かなくてはな。

 

「そう・・だ・・はやく葛西を病院に・・・」

 

その言葉を、彼は最後まで言い切ることが出来ずに意識を失ってしまった。

 

精神、身体と共に限界がきたのだろう。

倒れている男はもちろん、灯火君も急いで病院へ連れていかなくては危ない。

 

「あの・・・・その子は大丈夫なの・・・?」

 

気絶してしまった灯火君を心配そうに見る寿樹君。

 

血は出ているが大量に出ているわけではない、命にかかわることはないだろう。

そういうと安心したように息を吐く寿樹君。

 

とにかくこれで誘拐事件ついては解決だ。

 

事件の詳細については後からやってくる仲間がやってくれるだろう。

俺は彼らを病院へ送った後、東京に戻ることになるはずだ。

 

ああ・・・・はやく妻に会いたいな。

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみにですが赤坂は雛見沢症候群にはかかっていません。
今まで積み重なった勘違いによって不安定になっていただけです。

一撃で薄壁とはいえ貫通させる赤坂のこうぶ。
原作ではあの山犬相手に無双していたので、現時点でもこれくらいは出来そうだと思いました。

戦闘能力はあるけど、場数を踏んでいないので精神のほうは、まだまだ未熟といった感じ。

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