レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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赤坂と梨花と沙都子

牧野さんが案内してくれる場所はどこも絶景で、観光の目的で訪れているわけではない俺でも唸るような景色が溢れていた。

 

初めは観光客を装うつもりでシャッターを切っていたが途中から純粋な興味で写真を撮るようになっていた。

 

ダム騒動さえなければ雪絵を連れてきてやりたいな。

 

この新鮮な空気を吸わせてやりたいし、この目を洗ってくれるような眩しい緑の景色を見せてやりたかった。

 

「こんなのが面白いのですか?赤坂は変な人なのです」

 

「こういう昔の郵便ポストなんて今はとても貴重だよ。なんていうかうまく表現できないけど、とてもいい」

 

郵便ポストにカメラを構えながら梨花ちゃんの質問に返事をする。

 

こういう昔のものには不思議な魅力を感じるな。

俺は納得のいく写真が撮れるまで夢中で撮り続ける。

 

「・・・・雛見沢は楽しいですか?」

 

「うん?ああ、とても楽しいよ。退院したら是非とも家内を連れてもう一度来たいな。その時には生まれている子供も一緒にね」

 

「・・・・約束なのですよ」

 

「ああ、約束だ」

 

梨花の笑顔にこちらも笑顔で応える。この子の笑顔を見るためだけにもう一度ここに来たいぐらいだ。

 

「んじゃあ、最後に1番景色がいいとこ案内しましょうかねぇ」

 

時間は夕方の少し前、梨花ちゃんとの雛見沢散策も終わりを迎えようとしていた。

 

「一番景色のいいところですか?」

 

「そんりゃ梨花ちゃま、境内からの景色を置いて、他にはありはしませんや!」

それを聞いて、梨花ちゃんが笑顔を一層弾けさせた。

 

「では赤坂をボクの家にご招待なのです」

 

「んん?どういう意味だい?」

 

「梨花ちゃまは神社の神主さんの娘さんなんですよ、そんでその古手神社はいいー景色が見れるんですよ」

 

「・・・・古手神社」

 

梨花。フルネームは古手梨花。

 

 

古手って確か御三家の1つだったよな?園崎家が実質的な実権を握っているとはいえ、村の重鎮と呼ばれる旧家の1つじゃないか。

 

いやそれよりも重要なのは、古手神社って鬼ケ淵死守同盟の事務所があるところじゃないか!?

 

「た、楽しみです。ぜひ、お願いします」

 

「よし!それじゃあ行きますかいねぇ」

 

牧野さんの声を聞いて車に乗り込む。

 

天気も怪しくなってきた。夕立でもきそうな雰囲気だ。

 

セミたちも夕立が来る前に今日の分を全て鳴き終えてしまおうとでも思っているのか、一層激しくないていた。

 

 

 

 

 

古手神社。鬼ケ淵死守同盟の本拠地。

 

自分はひょっとして、もう正体を見破られていて、彼らの事務所に連行されているのではないのだろうか。そんな焦燥感にも駆られ始めた頃、車は神社の駐車場に停まった。

 

「着きましたのですよ。ただいまなのです」

 

梨花ちゃんは俺の膝を乗り越えて車から1番乗りで降りると早く早くと誘ってくる。

梨花の誘導に従い車を降りて神社に向かうと異様な光景が広がっていた。

 

ワゴン車を改造したお手製の街宣車が何台も止められていて、さらにいたるところに攻撃的な文言を記した旗や看板が置いてあった。

 

「神社はダム反対運動の事務所も兼ねてましてね」

 

牧野さんが唖然とした表情で神社を見ている俺に苦笑いをしながらそう答える。

 

「赤坂、こっちなのです」

 

固まっている俺を梨花ちゃんが手を引いて誘導する。

どうやら覚悟を決めていくしかないようだ。

 

階段を上がり神社の境内に入るとそこには町会のテントがいくつも立てられていた。

テントには長机とパイプイスが出してあり、何人かの老人たちがテントの下で雑談に花を咲かせていた。

 

彼らのしているタスキに『ダム計画断固粉砕!!』等の過激な文句が書かれていなければご近所の老人たちが仲良く雑談をしているようにしか見えない。

 

「ん?牧野さん、その人が電話をくれた観光の人かい?」

 

しばらく境内を回っているとテントで話していた老人の1人がやってきた。

 

「そうですよ。こちら、村長さんの公由さん」

 

朗らかに笑い、優しそうな雰囲気のある老人。なんと、鬼ケ淵同盟の会長‥‥公由喜一郎本人だった。

 

「ようこそ雛見沢へ。ここは綺麗なところでしょ」

 

「はい、今日一日、美しい場所をいくつも堪能させていただきました」

 

「それはよかった。緑の美しさはここの自慢ですからね」

 

公由村長の言葉に同意する。長年都会で暮らしてきたせいか自然に囲まれたこの村は新鮮で美しかった。

 

「天気がよければさらに良かったんですがね‥‥ん?梨花ちゃま戻ってたのかい?」

 

曇り空を悩ましげに見ていた公由村長はこちらに視線を戻し、俺の隣にいた梨花ちゃんを発見した。

 

「みぃ、赤坂の案内をしてたのですよ」

 

にぱー☆と満面の笑みを公由村長に向ける梨花ちゃん。それをみた公由村長はそうかそうかと梨花ちゃんの頭を撫でていた。

 

「でも困ったねー。ちょうどついさっき悟史君が梨花ちゃまを探しにいったところなんだよ」

 

「悟史が僕をですか?」

 

「そうだよ。もうすぐ雨が降りそうだからと心配してね」

 

「みぃ、ごめんなさいなのです」

 

「梨花ちゃま、それは悟史君にいってあげなさい」

 

公由村長は梨花ちゃんの頭を撫でながら優しい笑顔で言う。梨花ちゃんもその言葉に同意するように頷いた。

 

どこからどう見ても仲のいいお爺ちゃんと孫娘の姿である。

 

「沙都子ちゃんも心配していたよ?奥にいるからいってあげなさい」

 

公由村長の言葉に頷いて神社の奥を目指す梨花ちゃん。

 

なぜか俺の手を掴んだまま。

 

「あの、梨花ちゃん?」

 

「赤坂に僕の友達を紹介するのですよ」

 

友達のところに行かないの?と口を開こうとしたタイミングで梨花ちゃんに先回りで答えられる。

もう少し公由村長と話して情報を得たかったのだが、梨花ちゃんの誘いを無下にはできずついていく。

 

梨花ちゃんに手を繋がれたままテントに向かい、村の老人たちで賑わうテントの中を歩いていると老人たちの中に梨花ちゃんと同じぐらいの女の子が老人たちの方に飲み物を運んでいるのを発見した。

綺麗な金色の髪を短めに揃えた可愛らしい女の子だ。老人たちと同じようにダム反対のタスキをつけているがブカブカでずり落ちそうになっている。

梨花ちゃんも発見したらしく一生懸命な様子で飲み物を運ぶ女の子の方へと近づく。

 

「沙都子、ただいまなのです」

 

「ん・・・・?」

 

梨花ちゃんに声をかけられ飲み物を運ぶのを中断して梨花ちゃんの方へと顔を向ける女の子。

梨花ちゃんの方を見るとキョトンとした顔で一瞬停止した後、すぐに飲み物を近くにあったテーブルに置いて梨花ちゃんに近寄っていった。

 

「梨花!戻ってきていたのですの!?」

 

「ついさっき戻ってきたのです」

 

「・・・・にーにーと入れ違いですわ」

 

手を顔にあてて落ち込んだ仕草を見せる女の子。さっきの梨花ちゃんを探しにいった男の子のことを言っているのだろう。

 

「みぃ、ごめんなさいなのです沙都子」

 

「いいですわ、無事に戻ってきたんですもの。でも次からはもう少し早く戻ってきてくださいまし」

 

「はいなのです」

 

「それで?こんな時間まで何をしていたんですの?」

 

沙都子と梨花ちゃんに呼ばれていた女の子の質問にドキッとしてしまう。

何を隠そうこんな時間まで梨花ちゃんを連れ回していたのは俺なのだ。

 

「赤坂に雛見沢の案内をしていたのですよ」

 

「赤坂?もしかしてそちらにいるかたのことですの?」

 

梨花ちゃんの言葉に反応してこちらに視線を向ける沙都子ちゃん。

 

「そうだよ。梨花ちゃんにこの村の案内をしてもらっていたんだ。遅くまで連れ回してしまってすまない」

 

「いいんですのよ。梨花が勝手についていっただけでございましょう?」

 

俺の謝罪を簡単に受け入れ、というか梨花ちゃんがついてきたことをあっさりと見抜いてしまった。

それに対し梨花ちゃんが頬を膨らませながら抗議をする。

 

「むー、沙都子は意地悪なのです」

 

「心配した身にもなってくださいまし。赤坂さん、梨花を連れてきてくださってありがとうございましたわ」

 

「いやいや、梨花ちゃんがいてくれてとても助かったから。だからそんな謝らないで」

 

礼儀正しい子だなー、親御さんがしっかりしている証拠だ。俺も見習わなくては。

 

「今まで不自然なくらい私たちのところに来ていたのに急にいなくなるんですもの、心配にもなりますわ」

 

「みぃ?そうなのですか?」

 

「そうなのですかって、毎日のようにこちらに泊まりに来ておいてよく言いますわ。公由さんも苦笑いしていましたわよ」

 

呆れたような顔で梨花ちゃんを見る沙都子ちゃん。梨花ちゃんはそんな沙都子ちゃんをニコニコと見つめる。

 

2人がとても良好な関係を作っているのがよくわかる。

 

 

というか今、沙都子ちゃんは何と言った?

 

 

「公由さん?沙都子ちゃんは公由村長のとこに住んでいるのかい?」

 

もしかして公由村長のお孫さんか?だとしたらなにか有益な情報を知っている可能性が出てくる。

 

「・・・・ちょっとした事情で公由さんの家にお世話になっているんですの」

 

俺の質問に少し間をおいて答える沙都子ちゃん。辛そうな顔からこの質問はしてはいけなかったと後悔した。

 

「赤坂、こっちなのです」

 

謝罪の言葉を口にしようとした時、隣にいたいた梨花ちゃんが俺の手を掴みテントの外へと誘導してきた。

 

「梨花?」

 

「赤坂を僕のお気に入りの場所に連れて行くのですよ。にぱー☆」

 

沙都子ちゃんに笑顔でそう告げ、俺の手を引っ張る梨花ちゃん。

俺は抵抗することなく梨花ちゃんの手に引かれるままついていった。

 

「沙都子たちの両親はダム賛成派の人たちなのです」

 

神社の裏へ回り、階段を上る途中で梨花ちゃんが呟いた。

 

「・・・・ダム賛成派か」

 

この村のすべての人たちがダム反対派というわけでは、もちろんない。

 

この村を出て別のところに住むことを良しとする人たちも当然存在するだろう。

だが・・・あれだけ激しい反対活動をしているのだ、賛成派の人たちの立場は最悪だろう。口喧嘩ぐらいで済めばいいところのはずだ。

 

両親がその賛成派だとするとその娘である沙都子ちゃんも子供とはいえ冷たい対応をされていても不思議ではないはずだが。

 

「沙都子の両親は村の人たちから嫌われて毎日のように村の人たちと怖い顔で言い合いをしているのです。沙都子たちはそれに巻き込まれないように公由のところに避難しているのですよ」

 

俺の思った疑問に梨花ちゃんは答える。

なるほど、公由村長のファインプレーというわけか。

 

もしそのまま両親の元にいたならば沙都子ちゃんにも少なからず被害がいっていたはずだ。

 

両親と離れ離れというのは良くないが状況が良くなるまでは仕方ないだろう。

 

「だから公由村長のところに住んでいるというわけか」

 

「そういうわけなのです」

 

「正しい判断だと思う。そのまま両親のところにいたら沙都子ちゃんもすごく嫌な目にあっていただろうから」

 

「・・・・ええ、ほんとうにその通りだわ」

 

「あ、ああ、そうだね」

 

想像していたよりも重たい声に少し驚く。

 

「・・・・着いたのですよ」

 

梨花ちゃんの声が耳に入ると同時に少し長めの階段が終わりを告げる。

階段の先に目を向けると、そこには雄大な景色が広がっていた。

 

「・・・・すごい」

 

カメラを持っているのにファインダーを覗くことすら忘れてしまう。

しばらくの間、心を奪われて呆然としていた。涼やかな風が火照った体を冷やしてくれて心地よい。

 

「ここが僕のお気に入りの場所なのですよ」

 

にぱー☆と笑顔でそう告げる梨花ちゃん。

その笑顔はすごく儚く見えた。

なぜなら彼女が気に入っているこの景色は‥‥暗緑色のダムの底に沈んでしまうかもしれないのだ。

 

「こんな村がダムの底に沈んでしまうなんて信じられないよ」

 

思わずそう口にしてしまう。そしてすぐに後悔した。なんて残酷な言葉を言ってしまったんだ。だが、梨花ちゃんは俺の言葉に顔を曇らすことなく、むしろ笑顔で微笑み返しながら口を開く。

 

「沈みませんよ。ダム計画なんてもうすぐなくなっちゃいます」

 

少女特有の根拠のない言葉のはず。だが梨花ちゃんの言葉に決定染みた雰囲気を持っていた。

 

「もうすぐ・・・・なくなる?」

 

その根拠を聞きたくて梨花ちゃんを見る。

 

「はいなのです」

 

「どうしてそう言い切れるんだい?」

 

脳裏に今日の楽しい1日で忘れかけていた本当の任務。大臣の孫の誘拐事件が過る。

本当に誘拐事件がここで起こり、大臣との交渉が水面下で成功しダム計画の中止が確約している?

 

そんなわけがない。

この村は誘拐事件とは無関係のはずだ。

 

「・・・・赤坂」

 

不意に梨花ちゃんが俺の名を呼ぶ。

 

「・・・・なんだい?」

 

俺が考えごとをやめて梨花ちゃんの方へ向くと、梨花ちゃんは何かを迷うような表情をしたあと、服の端を掴みながら1度強く目をつぶり開く。

 

そして意を決したように俺を見つめ。

 

 

 

 

 

 

「東京へ帰って」

 




この時期には沙都子と悟史はもう迫害されてたのか知らないのでもし違ってたらすいません

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