君を知ることで、始まるんだ
ずっと探していたような気がした。
ずっと求めていたような気がした。
心がどこか、ぽっかりと穴が空いた様に釈然としなかった。
それがいつ頃だったかなんて、もう覚えていない。
――そんな時、
電車の反対車両で目があった瞬間、
根拠なんて何もない。ただの日常の風景で、そんなもの出会いともなんともいえないほどのものだ。
電車のすれ違い際に目が合うなんて普通のことで、何の運命もない。
――それでも、気づいたときには駆け出していた。
「はぁっ、はぁっ……!!」
普段は運動をしないものだから、自然と息が乱れる。
それでも不思議と疲れたような気持ちにはならなかった。
むしろ胸の高鳴りで、心がどうにかなってしまいそうだった。
何の当てもなくて、この行為が無駄かもしれないってことは薄々気づいている。
それでも何故か―――ここで走らなきゃ、永遠に後悔すると思った。
わざわざ一駅で途中下車をして、その前の駅へと向かって一心不乱に走り抜ける。
時折住宅街を歩いていたり自転車で走り抜ける人たちに怪訝な目で見られようが、一切気にも止まらない。
ただ足で地面を蹴って、汗を拭って、いるかもわからないあの人を求めて、走り抜ける。
「「――――――」」
……走り抜けた先にいたのは
階段の上と下から視線が重なる。
……どんな言葉を掛けたら良いんだろう。だって
ただ電車の反対車両で視線が交わって、本能的にここまできてしまったのだから。
だからか、交わっていた視線も次第に遠のく。
互いに視線を地面に向け、何事もなかったように俯きながら階段を上り、下る。
―――
その目は不安そうに、でもどこか期待するように縋っているような目だった。
――階段を上りきって、俺は思った。
――階段を下がりきって、私は思った。
――俺は、このまま何もなくあのつまらない日常に戻っても良いのかって。
――私は、この心の高鳴りを我慢して、通り過ぎてしまって後悔しないのかなって。
唇を噛み締める。馬鹿みたいに心臓がドクドクと振動しているのかが自分でもわかる。
口を開くのも恥ずかしくて、顔もきっと真っ赤だ。
――だけど、
聞きたいことがたくさんあるんだ。
この心の動きの正体を、このどうしようもない高揚を。
この正体を知らない限り、きっと現実には戻れない。
だから、声を掛けたい。
――
「「あ、あの……!!」
声が重なる。
同じことを考えていたのだということだけ、
声を交わすだけで、今まですっぽり空いていた何かが埋まっていくような感情に囚われる。
「あの、変なこと聞いているかもしれないんだけどさ……」
「わ、私も……変なこと、聞きたいんだけど、さ」
唇が震える。
手も足も、緊張で震える。
なんでこんなことをしているんだろうと。これから仕事なのに、後で怒られることも確定的なのに――時間を忘れたように、会話を交わす。
――
誰にもそんなことを話せなくて、誰にも相談できなくて、自分の中でも妄想の類って決め付けてた。
でも今なら断言できる。
――
そんなことをいきなり言えるはずはない。
だから最初に聞くことはきっと……
「「――君の、名前は?」」
――そんな、ありふれた言葉なんだろう。
――俺たちの世界は、見えていた景色は変わった。何色もなかった楽しくない世界に、色彩豊かな温かな色で彩られる。
――私たちは、触れることで、話すことできっと始められる。心に空いたものはいつの間にか埋まっていて、私たちの足りなかったものを埋めてくれる。
――君の名を知ることで、
はじめましての方ははじめまして!
マッハでゴーだ!と申します。
本作は作者の妄想が爆発した結果生まれた勢い作です!
自分的には今後瀧くんと三葉ちゃんが歩むであろうニヤニヤしちゃうような初々しいイチャイチャを描けたらなーって思っていたりします!
中編小説なので短い期間の更新になると思いますが、どーかお付き合いください!
また本作以外にも二次創作、そして一次創作もしています。
作者ページからそれを確認できますので、よろしければお読みいただいて、楽しんでもらえればと思います。