七聖剣使いの航海日記   作:黒猫一匹

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4ページ目 泥棒猫と女狐

 

 

 

 △月▼日 晴れ

 

 

 

 

 気が付いたらどことも分からぬ島に漂着して2日。

 あれから七聖剣に凄んでも結局何も応えてくれず(←当たり前だ!)、どういった経緯でこの島に来たのかは不明だ。まぁオレが無事にここにいるという事は海軍からはうまく逃げられたのだろう。

 

 …そういえば、オレと一緒にいたあの海賊達はどうなったのだろうか? うまく逃げきれたのか? ……まぁ別にどうでもいいか。

 

 そんなこんなでオレはこの2日間、ジャングルの中を隅から隅まで探索してみたが人っ子一人見つける事ができなかった。この事から、ここはどうやら無人島の様だ。ジャングルという事もあり、何度か猛獣に襲われる事も多々あったが、そこは七聖剣のおかげで余り脅威に感じる事はなかった。

 食料に関しても襲ってきた猛獣や、草木に生えるキノコや果実があったのでそこまで問題はない。だが、食料があってもこの島から出る方法がなかった。

 無人島という事もあって当然、船もない。この島に停泊している海賊もいない為、その船を奪って海に出る事もできない。

 

 その辺の樹木で、いかだでも造って海に出るという選択肢もあるにはある。幸いにもジャヤへの永久指針(エターナルポース)は懐に入れていた為、そこを目指して進めばいつかはたどり着くだろう。しかし、ここは偉大なる航路(グランドライン)、いかだで進むなどそんなのはただの自殺行為だ。やはりちゃんとした設備の船とそれを操縦する船乗りが必要だな。

 

 一刻も早くそんな都合のいい存在が現れてくれるのを待つしかないか…。

 まぁ今までもなんとかなってきたし、今回もなんとかなるだろう。

 

 

 

 

 

 ○月●日 晴れ

 

 

 

 

 あれから数日、オレは砂浜に出て海を眺めるものの帆影の影すら見えず、時だけが無情にも過ぎ去っていく。こんなに広い大海原だというのに船の一隻も見当たらないとは…。心のどこかですぐに船の一隻ぐらいは見つかるだろ、などと楽観的な事を考えていたが、甘かったとしか言えない。

 

 流石に焦燥感を感じてきたのか、このままこの無人島で誰に会う事もなく一生を終えてしまうのでは? などと不安になる事もある。

 

 もうこの際、海賊でも人攫いでもオカマでも過激派海軍でもいいから早くオレを助けてくれェェ!!

 

 

 

 

 

 ×月Θ日 曇り

 

 

 

 

 結局あれからさらに日数が経ち、なんだか最近、狩りの腕が上がってきたなと感じ始めた頃、砂浜に小さな宝箱が流れ着いていた。

 とりあえずその宝箱を開けてみると、中には金銀財宝! …などといった輝かしいモノではなく、変な模様の入った紫色の果実だった。…中身は間違いなく財宝だと思っていた分、オレのテンションが著しく下がったのは言うまでもない。全く無駄に期待させやがって。

 

 この毒々しい見た目からこれはきっと毒に違いないだろう。

 なぜそんな毒入り果実が大事そうに宝箱に収まっているのかは謎だが、結局今日も船を発見する事はできなかった。

 オレは毒入り果実を捨て、汗と汚れを落とす為にジャングルの中にある湖畔へと水浴びしに向かった。

 

 

 

 

 

 □月μ日 曇りときどき鎖

 

 

 

 

 食事を摂り軽く水浴びした後、いつもの様に大海原が見渡せる砂浜に向かい歩いていると、なんとこの島に巨大な船が停泊しているのが見えた!!

 その事にオレはかなりテンションが上がる。だがそれも仕方がないだろう。待ちに待った存在がやっと来たのだ。オレはこの気を逃さずにすぐさま砂浜へとダッシュして森を抜ける。

 

 そしてそのまま砂浜にたどり着くと、巨大な船の全容が顕になる。

 サメのヘッドに宝石が船体の至る所に埋め込まれている派手な船だ。どう見ても商船でもなければ海軍の船でもない。だが、そんなのはそこまで気にする事もない些事だ。相手が海賊でも襲撃して力尽くで言う事を聞かせればいい。なんならあの海賊達にやった様に七聖剣を使って操ればいいのだ。…操り方知らないけど、まぁ何とかなるだろう。

 

 すると、オレが海賊船に視線を奪われていると砂浜にいくつかの人影が見えた。何やらガラの悪い連中が多い事からやはり海賊の様だ。…いや賞金稼ぎや人攫いの可能性もあるが…、そこは別にどちらでもいいか。

 しかし、こうして人に会うのも久しぶりだと感慨にふけりそうになっていると、何やら揉め事が起きていた。

 武器を持った複数の男達が、オレンジ色の短髪の少女と帽子を被ったボーイッシュな恰好をした少女を取り囲んでいた。

 武器を持った人相の悪い男達がいたいけな少女達を取り囲むという絵に何やら犯罪の様なモノを感じるな。どうやら絶賛面倒事が発生中の様だ。

 

 とりあえず今のうちにこっそりと船に忍び込みこの島を脱出しようかなぁと割とゲスな事を考えていると、オレンジ髪の少女とうっかり目が合ってしまった。

 そして彼女はパアァと顔を輝かせると、オレに向け大声で「親分!! 助けにきてくれたんですね!!」などと叫びやがる。

 その少女の声と視線を追い、男達はオレの方へと視線を向ける。すると、もう一人の帽子を被ったボーイッシュな少女もオレンジ髪の少女の言葉に合わせる様に「ウシシ、待ってましたよ親分!! あとはお任せします!!」などと言い、そのまま二人は森へと全速力で駆けて行った。

 

 

 …え? オレってもしかして君達の囮? それってちょっと酷くない?

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

「なっ!? あの小娘共が逃げたぞ!?」

「クソッ、追うぞ! まだなんのケジメもつけさせてねぇんだ!」

 

 砂浜にそんな男達の言葉が響き渡る。そしてすぐさま少女達を追いかける為に森へ駆けて行こうとした時、一人の男の声が彼らの動きを制止した。

 

「待て! 追いかける必要はねェ!」

 

「な、なぜですボス! あいつら俺らの宝を盗もうとしやがったんですぜ!!」

 

 部下にボスと呼ばれた赤いサンゴの様な髪形をしたその男は、鎖を弄りながら余裕の声を発する。

 

「ジャラララ、わかってる。だが今からこんな鬱蒼とした森ん中を追いかけるのも面倒臭ェ、それにわざわざ小娘共の親分がここに残ってくれてるじゃねェか」

 

 男、マッド・トレジャーの言葉に周囲の部下達が背中に刀身の長い剣を背負った少年に視線を向けてその顔に笑みを浮かべる。

 対して翠色の髪をした少年ヒスイは困ったなぁと呟き溜息を吐く。

 

「おい小僧、俺らの宝に手ェ出そうなんざ随分と舐めた真似してくれたな」

「子分達の変わりにおめぇが変わりにケジメをつけな」

「ただのコソ泥風情が海賊から宝を盗み出そうとは身の程知らずめ」

 

 マッド・トレジャーの部下達がヒスイに近づくと、彼はもう一度小さく溜息を吐くと視線を上げて声を発する。

 

「……、アンタ達は何か誤解してるみたいだけど、さっきの彼女達は別にオレの子分ってワケじゃ――」

 

「しらばっくれんじゃねぇ!」

 

 ヒスイの言葉を遮り部下の一人が突如殴りかかってくる。その様子にヒスイはすぐさま瞳を鋭くすると背負っていた七聖剣を抜き放ち、そのまま斬り捨てる。

 

「……あ、」

 

 その行動にヒスイはしまったと言わんばかりの表情をする。つい最近までレベルの高い賞金稼ぎや人攫い達と毎日の様に戦っていた為、攻撃されるとついつい反射的に行動してしまう時がある。それが今でてしまった様だ。

 

「あァ~、ワリィ今のはワザとじゃなくてな、つい反射的に――」

 

「テメェ! よくもやりやがったなッ!!」

 

 男達に言い訳をしようとするヒスイだったが、一人の男の怒気がそれを遮り周囲の者達は全員ヒスイを睨み付けながら武器を構え出す。

 そんな海賊達の姿にヒスイは「まぁ当然の反応か…」と言い訳を諦め溜息を吐く。

 

 そんな一触即発な中、唯一怒気も発さず武器も構えていないのは、マッド・トレジャーだけだ。どうやら彼は自分の部下がやられたというのに余り堪えていない様だ。今の彼の視線はヒスイが持つ七聖剣へと向けられている。

 細長い薄緑色の刀身。その刀身に刻まれた天文と埋め込まれた7つの宝石がキラリと太陽の光を反射し輝く。

 その光景にマッド・トレジャーは笑みを浮かべる。

 

「ジャラララ、なかなかの宝刀じゃねェか…。トレジャーハンターの血が騒ぐぜ」

 

 マッド・トレジャーがその様な事を呟き、サングラスを掛けたその瞳が妖しく光る。どうやら七聖剣を獲物として捕らえた様だ。

 

 そしてマッド・トレジャーが七聖剣へと気を取られている間にも状況は動き出していた。彼の部下達がヒスイの命を取ろうと襲い掛かる。

 だが、ヒスイはいつもの様に七聖剣から溢れる妖気を浴び、言い知れぬ高揚感が彼の身体を支配すると、そのまま楽しそうな表情で部下達を斬り捨てていく。

「ぐわッ…!?」「ギャアァ!?」などと悲鳴を上げ砂浜を赤く染め上げていく部下達を後目にマッド・トレジャーは、悪魔の実“ジャラジャラの実”能力を使い、その掌から鎖を出す。

 

「マッドアンカー!!」

 

 そして掌から発射された複数の鎖がフックショットになりヒスイを襲う。

 迫るフックショットを横目で見たヒスイは軽い身のこなしでマッド・トレジャーの攻撃を回避する。しかし、周囲の部下達はそうはいかない。そのまま部下達の身体を貫き悲鳴が上がる。

 

「ギャアァッ!!」

「ボ、ボス!? 攻撃するのならそう言ってくれよ…!?」

 

 部下達は吐血を吐くとその場に倒れる。マッド・トレジャーはそんな部下の様子をまるで気にした気配もなく上機嫌に笑いながらヒスイを見る。

 

「ジャラララ! 今の攻撃をよく避けられたな。だが、奇跡はそう何度も起きねぇぜ…。貴様のその妖しくも美しい剣はこのマッド・トレジャーがいただく!!」

 

 そしてマッド・トレジャーは再び能力を発動し大量の鎖を右腕に纏わせると、ヒスイの元へ駆ける。

 

「チェーンハンマー!!」

 

 放たれる大量の鎖を纏った拳をヒスイは七聖剣の刀身で受け止める。そしてマッド・トレジャーの鎖の拳が七聖剣に触れた瞬間、妖気が発せられ拳の勢いを殺される。その事にマッド・トレジャーは目を見開く。

 

「悪いけどお前に七聖剣はやらねェよ…。今はこいつがねェと無事にアスカ島まで帰れねェしな!!」

 

 ヒスイはその様な事を発すると同時にマッド・トレジャーの鎖の腕を弾き、彼の身体を斬り裂こうと七聖剣を振り下ろす。

 対するマッド・トレジャーはすぐさま両腕に大量の鎖を巻き付け、振り下ろされる七聖剣の一撃を大量の鎖を纏った両腕で防ぐ。予想していたよりも重い一撃にマッド・トレジャーの顔から余裕が消える。

 するとそこで、がら空きの腹部目掛けてヒスイは妖気を纏った拳で殴りつける。

 

「ガハッ…!?」

 

 腹部に受けた強いに衝撃にマッド・トレジャーは口から空気を吐き出す。そしてそのまま吹き飛ばされるマッド・トレジャーへとヒスイは地を蹴り追撃する。

 その様子を吹き飛ばされながらも視界に収めたマッド・トレジャーは痛む身体を気にせずに能力を発動させた。

 

「グッ…! …マッドチェーン…!!」

 

「!?」

 

 大量の鎖がヒスイの視界全体に広がり、ヒスイの周辺を取り囲む。しかし、周囲を取り囲むだけでその鎖が襲ってくる様な事はなかった。その事に訝しみながらもヒスイはそのままマッド・トレジャーへと追撃を仕掛ける。

 が、そこでマッド・トレジャーが口角を吊り上げ、嫌な笑みを浮かべた。

 

「ジャラララ! 拘束しろ! チェーンロック!!」

 

 瞬間、周囲を取り囲んでいた大量の鎖が、突然意志を持ったかの様にヒスイ目掛けて前後左右上方から物凄い勢いで迫ってきた。

 対するヒスイは襲い迫ってくる鎖に視線を向けるもそこまで焦った様子はない。鎖が一斉に襲い掛かってくる程度の事はすでに予想はしていたのだろう。

 落ち着いた様子で七聖剣を構え鎖を撃退しようとした時、

 

「なっ!?」

 

 突如、足元の砂浜から鎖が出現した。予想外の所からの鎖の出現にヒスイは目を見開き反応が僅かに遅れ、そのままその鎖に拘束される。そして一瞬遅れて周囲から襲い掛かっていた鎖がヒスイの身体にさらに巻き付き厳重に拘束した。

 ヒスイは鎖に何重にも縛られまるで芋虫の様な姿になりその場に立ち尽くす。

 

「ジャラララ! 勝負ありだな!」

 

 その光景にマッド・トレジャーは腹部を押さえながらも上機嫌そうに笑い声を発しながら、ゆったりとした足取りでヒスイに近づく。

 ヒスイは身体に力を入れて鎖を引きちぎろうとするも、拘束する鎖の数が多すぎるせいで引きちぎる事ができない。そんな些細な抵抗を示すヒスイの姿にマッド・トレジャーはその顔にさらに上機嫌そうな笑みが浮かぶ。

 

「ジャラララ! 無駄だ、俺の鎖はただの鎖じゃない。そんな力だけで砕けるものか! 宣言通りその剣は貰うぜ、ジャラララ!!」

 

 その様なマッド・トレジャーの声が砂浜に響く中、身動きが取れないそんな状態でもヒスイはその目に宿る戦意が消える事はなかった。いや、それどころかさらに溢れ出ている。

 そんなヒスイの様子に気付き、マッド・トレジャーは笑いを収めると上機嫌そうな表情から一転して不愉快そうな表情を浮かべる。

 

「…なんだその顔は…。気に入らねェな」

 

 ギュッと拳を握り締めると、ヒスイの身体を拘束していた鎖がヒスイの身体を締め付ける。

 

「…っ!?」

 

 その締め付けにヒスイは苦悶の声を漏らし顔を俯ける。その様子にマッド・トレジャーは再び上機嫌そうな表情に戻るも、「…ククク」と笑うヒスイの声が届きまたしても眉を顰める。

 

「…テメェ…何笑ってやがる…?」

 

 マッド・トレジャーは険しい顔をしながらヒスイを睨み付けると、ヒスイは俯けていた顔を上げマッド・トレジャーを見上げる。

 

「いや、悪いな。もうすでに勝負に勝った気でいやがるお前を見てると凄く滑稽でな…思わず笑いがこみ上げてきてな…――」

 

「アァ…?」

 

 ヒスイの言葉にマッド・トレジャーの額に青筋が浮かぶ。そして先ほど以上に拳を握り締めると、ヒスイの身体を拘束する鎖の力が上がり、先ほどとは比べものにならない凄まじい力でヒスイの身体を絞め上げる。

 

「…テメェ状況が分かってねェみてェだな…。その鎖は俺の能力で作ったモノだ。意味、分かるか? テメェなんざいつでも絞め殺す事ができるって意味だ」

 

「…状況が分かってねェのはお前ェだよ。もうすでにお前有利の状況など終わった」

 

 マッド・トレジャーは能力を使いヒスイを脅すも、ヒスイは特に苦しむ様子を見せないどころか、その様な事を宣う。その事に自分の能力が効いていないと知ったマッド・トレジャーは盛大に目を見開く。

 そしてヒスイはそこで突如、その口角を吊り上げると僅かに赤く染まる瞳で続ける。

 

「…いや違うか…そもそも、お前有利の状況など最初から存在すらしていない、と言った方が正しいか。…それからこの程度の拘束でいつまでも…オレを…七聖剣を…本気で拘束できると思ってんのかこの鎖野郎ォ!!」

 

 ヒスイが吼える。すると突然と薄緑色の爆炎が彼を包み込む。その突然の爆炎にマッド・トレジャーは驚きヒスイから距離を取り、後ろへ後退する。

 そしてヒスイを拘束していた鎖は爆炎により焼き切れ、砂浜へと力なくジャラジャラと音を立てながら落ちる。鎖が全て焼き切れると爆炎が虚空へと消えた。

 あれほどの爆炎が突如発生し自分の鎖を焼き切った事やその爆炎の中から現れたヒスイが全くの無傷だという事が、マッド・トレジャーにとっては信じられない光景であった。

 

「さて、次はこちらが攻める番だ」

 

 そんなマッド・トレジャーの態度にヒスイはその赤く染まりつつある瞳で射貫くと七聖剣を持ち上げ妖気をその刀身へと収縮させる。

 

「――ハッ!!」

 

 そして気合一閃で放たれた爆炎を纏った巨大な妖気の斬撃がマッド・トレジャーに放たれた。

 マッド・トレジャーはその一撃は防げないと判断したのか素早くその場に転がり込みながら回避する。そしてヒスイが放った妖気の斬撃はそのまま砂浜を駆け抜け、停泊中のマッド・トレジャーの海賊船へと迫った。

 そしてヒスイの放った妖気の斬撃は誰にも邪魔される事なくトレジャー海賊団の巨大な帆船を一刀両断する。

 

「なっ…!? 鋼鉄と宝石で固められた俺のシャークエメラルダ号が…!?」

 

 帆船が両断されるなどという信じられない光景にマッド・トレジャーは今まで以上に驚きを顕にした。海賊船シャークエメラルダ号が両断された事により、その海賊船の中で待機していた海賊達の悲鳴が聞こえる。それによく目を凝らしてみると両断された箇所から緑色の火の手が上がり、船を燃やさんと轟々と燃え盛り始めていた。

 そしてそんな惨状を作り上げたヒスイはと言うと、

 

 

「――――、…………ああァァァッッ!!!? しまったァァァッ!!!? オレが使う(予定だった)船がッッ!!」

 

 

 両断され燃やされ始めている海賊船を眺めてその様な叫び声を上げる。

 最高潮に達する高揚感のせいで、どうやら周囲の事などまるで頭に入っていなかった様だ。

 

 ヒスイは暫く呆然とした表情で眺めていると、いつの間にか赤く染まりつつあった瞳は元に戻っていた。

 そして次第にその顔に怒りの表情を浮かべマッド・トレジャーに喰ってかかる。

 

「おいコラ鎖野郎お前ェェ!! お前がオレの攻撃を避けやがるから船に攻撃が当たっちまったじゃねェかッ!!」

 

 ブンブンと七聖剣を振り回しながら理不尽な事を言うヒスイ。対するマッド・トレジャーはヒスイの言葉に反応すら示さず、ただ燃えゆく自分の海賊船を眺めていたが、次の瞬間にはその顔に不気味な笑みを張り付けていた。

 

「ジャラララ…ジャラララッッ!! ジャッララララララ!!! スゲェ刀だなおい!! 帆船を両断するとは信じられねェッ!! 益々ほしくなったぜその刀!! ジャラララ!! ジャララララララッッ!!」

 

 狂った様に笑うマッド・トレジャーの姿に、理不尽な怒りを抱いていたヒスイも漸く平静になり、静かな瞳でマッド・トレジャーを見つめる。

 暫し、砂浜にはマッド・トレジャーの笑い声だけが響き渡っていたが、突如として急に笑い声を収めると、狂気に染まった視線をヒスイに向ける。

 

「これだ、この感じだ! トレジャーハントの醍醐味は強敵との獲物の奪い合い!! その瞬間が最高に燃えるぜェェ!! マッドチェーン・ギガンティア!!」

 

 掌から鎖を出すと、それを全身に鎧の様に纏いマッド・トレジャーはヒスイと対峙する。あれほどの一撃を見ても尚、その戦意は薄れる事はないどころかさらに燃え盛っている様だ。そんなマッド・トレジャーの狂気に染まったその姿にヒスイは溜息を吐くと無言で七聖剣を構える。

 すると、構えた七聖剣の刀身の天文が埋め込まれた7つの宝石が、妖しい輝きを放つと妖気がヒスイの身体を踊る様に纏い始めた。

 

「ジャララララララァァァァッッッ!!! 死ねェ小僧ォォ!!!」

 

 そしてマッド・トレジャーはそんなヒスイの姿に狂った様な笑みを浮かべながら鎖で強化された身体で全力で砂浜を蹴り、ヒスイへと襲い掛かる。

 対するヒスイも妖気により強化された身体で全力で砂浜を蹴ると、マッド・トレジャーへと斬りかかる。

 

 

「……ガッ!?」

 

 全身に鎧の様に纏った鎖が紙の様に容易く斬り裂かれ、マッド・トレジャーは盛大に血しぶきを上げながらその場に倒れ伏した。

 

 そして、余りにも呆気なく、決着は一瞬でついた。

 

 

 

 

 

「………」

 

 ヒスイは暫く無言で倒れるマッド・トレジャーに視線を向けていたが、もう起き上がってくる様子がない事にふぅぅと一息吐く。そして七聖剣を背中に背負い鞘へと納めると、視線を両断された海賊船へと向ける。

 どうやら火の手はもう収まっている様だが、あれではもはや使いものにならない。

 これはかなりの予定外だ。どうしようかと思わず黄昏ていると、聞き覚えのある二人の少女の声が届いた。

 

「…強いのねアンタ。あのトレジャー海賊団を相手にここまで一方的だなんて、夢でも見てる気分だわ」

 

「それに帆船を両断するなんて、もはや人のなせる業じゃないわ…この目で見てなかったら到底信じられない話ね、ウシシ」

 

 ヒスイはそちらに視線を向けると、そこには彼を囮に森へと一目散に逃げ出したハズのオレンジ髪の少女とボーイッシュな少女がいた。

 

「あ、…お前らは」

 

 そんな二人に視線を向けたヒスイは僅かに目を見開く。てっきり自分を囮にしたっきり戻ってこないと思っていたからだ。

 

「あの時は囮にしてごめん。あたしも逃げるのに必死だったの。でもアンタ本当に強いわね。あたしは海賊専門の泥棒ナミっていうんだけど、あたしと手を組まない?」

 

「…海賊専門の泥棒?」

 

「そう。アンタの強さなら大物海賊も十分狙えそうだし、分け前だって――」

 

「ウシシ、やめた方がいいわよ。ナミと組んでも大した分け前も貰えず捨てられるのがおちよ。それより私と手を組んだ方が大儲けできるわよ?」

 

「ちょっとカリーナ! 勝手に話に割り込まないでくれる! 大体それはこっちのセリフよ! 大した取り分もなく捨てる気なのはアンタでしょうがこの女狐!!」

 

「なにさこの泥棒猫!! 貴女こそ彼を言いように利用するだけ利用して今回みたいに囮にでもする気なんでしょう!!」

 

「アンタだって囮にしてたじゃない!!」

 

 そこで二人の少女ナミとカリーナはヒスイをそっちのけで互いに悪口を罵り合い、口喧嘩をしながら取っ組み合いを始めてしまう。

 

「…なんだこいつら?」

 

 そんな彼女達の姿を呆然とした様子で眺めながらヒスイはその様な事を呟いた。

 これが泥棒猫ナミと女狐カリーナとの出会いだった。

 

 




ナミがいる事から皆さんすでに気付いていると思いますが、ヒスイがいるこの海は
『偉大なる航路(グランドライン)』ではなく『東の海(イーストブルー)』です。
彼がそれに気づくのもう少し先になりそうです…。

あと、早くもストックが尽きたので、次回からは超不敵更新になります。

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