ミカ Happy Birthday!! 実は昨日知って急いでかき上げました!!すまねえミカ!!
「3等大当たり~。」
威勢のいい、はっぴを着たオッチャンが鐘を鳴らしながら叫ぶ。
俺の見つめる先には黄色の小さい玉。
俺は休日を利用して商店街に買物いに来ていた。何やらキャンペーン中ということで一定金額以上買い物をすると抽選が出来るらしい。そこで何の気なしに回した結果、3等を当ててしまった。当たるとも思っていなかったので特に賞品がどんなものなのか見ていなかった。さて何が手渡されるのかなと思っていると当たった時は嬉しそうだったオッチャンの顔が渋い顔になっていった。
「実は兄ちゃん、ちょっと悪いんだけどよ・・・・」
オッチャンの説明はこうだ。3等の商品は焼き肉店の食い放題無料券らしいのだがその券の有効期限が本日までと言う。何やら商店街の手続きのミスでこうなったらしい。当時は早く誰かに当たれば有効期限もその分あるだろうと楽観的だったのだが、抽選キャンペーンの最終日の今日まで当たりが出なかったらしいのだ。
「すまねえ!」と両手を合わせるオッチャン。まあ、今日まで使えるのであれば俺は気にしない。
「大丈夫っすよ。今日行ってくるんで。」
オッチャンが俺の両手を取り、「ありがとう、ありがとう」とオーバーリアクションしてくるので周りから変な目で見られた。賞品を受け取りながらオッチャンに店の場所を教えてもらいその場を離れ、歩きながら今後の事を考える。もうすぐ夕飯。メニューは焼き肉と決まった。しかし一人で焼き肉店に行くのは気が引ける。といっても急に誰かに連絡したところでなかなか来れないだろう。しかたない、ただの紙切れにするよりはマシだ。そう思い込んで焼き肉店へ足を運ぶ。
(あそこの信号を曲がれば店が見えてくるはず。)
迷うことなく足を進め、信号を曲がると牛が描いてあるベタなお店の看板と広いスペースの駐車場が見えてきたのだが・・・。何か見覚えのある戦車が駐車場に止まっているのが見えた。いや、戦車が止まっているのはおかしいことじゃない。戦車道とかあるし、戦車専用の駐車場だってあるからね。問題はすごく見覚えのあるという点。・・・いや考えすぎか。たまたま同じBT-42なだけ・・・
「もー!!ミッコしっかりして!!お肉見ていたってお腹は膨れないよ!!ミカも手伝って!!」
凄く聞き覚えのある声が聞こえてきた。その後に弦楽器を弾く音も。
「何やってんの?」
もう無視するわけにはいかなくなった。
「えっ?タクマ何でここに? いやそれよりも聞いて!ミッコがお腹空きすぎて運転放棄してずっとこんな状態なの!!」
アキが指差した方を見るとガラスにへばりついて店内を虚ろな目で眺めているミッコの姿が・・・・おい、よだれ出てるぞ。
「ミカもいつもの感じでカンテレ弾いてるし・・・も~う!!」
頭に手をやって髪をわしゃわしゃと掻きだしたアキ。これは相当キテるな。
「タクマ~おごって~。」
こちらを見ずに力ない声でミッコが言ってくる。
「彼に頼ることに意味があるとは思えない。」
ポロローンという音が俺を煽ってくる。言ってくれますねミカさん。俺におごる財力は無いと言いたいのだろう。確かに事実ではあるがしかし、今日の俺は違う。俺のターン!!
「じゃあ意味のあるものに変えてやるよ。」
ドロー!!焼き肉食い放題無料券!!このカードの効果は本日までに限り、4名様まで焼き肉食い放題が無料になる!!行けー、トゥータ・サルミアッキアターーック!!!
券を見せた瞬間、アキとミッコが飛びついてきて券を見ながらウオオオーとキャアアアのハーモニーを奏でている。ふふ、字だけにするとまるで断末魔のようだ。2人撃破!残るはミカ1人。だがコイツは手ごわい。しかし要点を掴めば簡単だ。
「行くぞ、アキ、ミッコ。」
「「は~~い。」」
ニコニコしながら俺の後をついてくる2人。店の入り口まで行き、扉を開けながら
「すいませーん、3名で・・」
ガシッ!!
言い終わる前にミカが俺の腕を掴んだ。
「せっかく4名まで使えるのに3名分しか使わないのは少しもったいないんじゃないかな?」
「俺に頼ることに意味があるとは思えないんじゃなかった?」
「状況はいつでも変わるも「3名でーー「君の判断を信じよう。」
・・・まあこのひねくれ娘から涙目でここまで言わせれば勝ちでいいか。腕に込められてくる力がだんだん強くなってるし、怒ってるなぁこれ。これ以上の意地の張り合いに意味があるとは思えない。終戦の言葉を言おう。
「店員さん4名でーす。」
店に入り店員さんに券を見せてテーブル席に着く。俺の隣にミカ、前の2席にミッコ、アキ。店員さんの説明だとここの食い放題は逐一注文するタイプではなくビュッフェのように好きな肉を好きなだけ取っていくタイプのようだ。ふむ、合理的でいいな。店員さんの説明が終わるや否や、3人はまず白飯のコーナーに行ってご飯をよそうと、肉は取らずに席に戻り、一斉に白米をかき込んだ。その姿を見た俺は涙を堪えながら適当に様々な部位の肉を4人分取ってテーブルに持ち帰った。トングを使って肉を網の上に乗せ、あのたまらない焼ける音を出すとご飯を食べていた3人の箸が止まり、視線が肉に集中する。・・・捕食される動物の気持ちが今ならわかる気がする。ミッコがもう1個のトングを持ち、カチカチと鳴らしながらまだ焼いてから10秒も経っていない肉に手を付けようとする。
「ミッコ、まだだぞ。」
「うう~~。」
あっ、コレ犬の待てだ。
食い放題開始から数十分経って少し3人が落ち着いてきた。焼いても焼いてもすぐに食うからその間、俺はただ肉を焼くだけのマシーンになりさがっていた・・・まあ、少しは食えてるはいるが。幸せそうな顔で口をモグモグと動かす3人を見ていると全員お茶碗が空っぽになっているのに気がついた。
「ご飯食うならよそってくるが食うやついるか?」
無言で3つの茶碗が俺の前に差し出された。わかってたけどね。茶碗を持って白飯のコーナーに行き、ついでに適当に肉もいくつか取って席に戻る。
「すごーーい!!片手でお茶碗3つ持ってる!!タクマ、手大きいんだね!」
「そうか?」
各自に茶碗を配って、手を広げて眺めているとアキが手を合わせてきた。
「ほら!!大きい!!」
アキと手を合わせた瞬間、ミカの箸が止まったのを俺は見逃さなかった。
「どれどれ?おお~本当だ。」
続いてミッコが合わせてくる。ミカの動きがピクッ、ピクッと面白いことになってるが絶対言わない方がいいだろう。
「ミカも合わしてみれば?」
ほら、優しいアキちゃんが助け舟を出してくれたぞ!
「その行為に意味があるとは思えない。」
出たーーーーミカ節。素直になればいいのに。そう思うと少し意地悪をしてみたくなるのが男子の性である。俺はちょうど焼き具合のいい肉を取り、
「ほれ、ミッコ。あ~ん。」
ミッコに差し出した。一瞬キョトン顔になったミッコだがすぐに俺の意図を察してくれたようでニヤリと笑うと口を開けて顔を差し出してきた。
「あ~~~」
肉が揺れながら運ばれる。ミッコのお口まであと数センチ・・・
ガシッ!!
本日2度目のミカの腕掴み。
「何をしているのかな?」
「いやなに、運転で疲れたミッコを労っているだけさ。」
「その行為にも意味があるとは思えない。」
「こういうのは気持ちが大事じゃないかな?」
「その考えには賛同できなっ!!」
もううるさいから片手でミカの顎を持って口を開かせ肉を放り込んだ。熱かったのだろうか、必死に平静な顔を作っているが顔の筋肉がピクついて涙目だ。さすがにこれは悪いことをしたと思う。数分間ミカの肩パンを喰らうことになるのだが俺は無視して肉を焼き続けた。
「ご馳走様!!タクマ!!焼き肉なんて本当に久しぶり!!」
「にしし!ごちそうさん。」
「はい、どういたしまして。」
店の外に出て、焼き肉を堪能した2人からお礼を言われる。ミカは相変わらずふてくされた顔をしている。
「じゃあ気を付けて帰れよ。またな。」
3人に手を振って焼き肉店を後にする。
家路に着くべく、街灯の少ない薄暗い通りを歩いているとポロローン、ポロローンという音が聞こえてくる。怖いなー、怖いなーと思いながらゆっくりと振り向くと誰もいないんですよね。前を向いて歩き出すとまたポロローンと音が聞こえるんです。今度は思い切ってパッと振り向いたんです!そしたらそこには!!
「隠れきれてないぞミカ!そもそもカンテレ鳴らしながら来たらバレるに決まってるだろ。」
電柱からいつも通りの涼しい顔のミカがカンテレをひとつまみ弾いて出てきた。
「アキとミッコは?」
「先にBTに乗って帰ったさ。」
「ああそう。・・・で、なんでミカは俺についてくるの?」
「風に呼ばれただけさ。」
はいはい、予想してましたよ、その答え。
「その風は俺の家に吹いてるんですかね?」
「さあ、どうだろうね?」
ミカに返答に軽くため息をついているとズンズンとミカが近づいてきて俺の手首を取る。華奢で柔らかい感触が肌に伝う。手首を俺の前まで持ってくると自身の手と俺の手を合わせてきた。
「本当に・・・大きいね。」
それだけ言うと今度は俺の手を握り、先に歩き始めた。突然のことでバランスを崩しかけたがどうにか立て直しミカを見る。顔はわからないが耳は赤かったのは辺りが暗くても見間違わなかった。さっきアキとミッコに手を合わせたのに嫉妬してくれての今の言動なんだな。そう考えると顔が綻んでしまう。
急にミカが振り返り、その様子を見つかってしまった。またもや彼女の肩パンが飛んでくる。だが手は繋いだままだ。痛みが幸せで半減されたような気分だ・・・いや、やっぱりちょっと痛い。
「ミカ。」
名前を呼ぶ。繋いでいる手の力が少し強くなる。
「明日になったら君に渡したいものがある。」
そう、今日の買い物は全て明日の為。別に祝日でも行事があるわけでもない。でも彼女にとって、大事で特別な日。だから俺にとってもそれは同じだ。
風のような君に是非、俺が用意した火を吹き消してほしい。そう願いながら俺は彼女の手をもう一度強く握った。
プレゼントは買って、ケーキは時間指定で当日に届くように手配したというどうでもいい裏設定。