11月の上旬、プラウダ高校のとある空き教室にて俺とクラーラはカチューシャに呼び出された。
長テーブルのように並べられた学習机のお誕生日席で肘をついて手の甲に顎を乗せて足をブラブラとさせながら彼女は口を開いた。
「来たわねタクマ、クラーラ。呼び出した理由は時期的にわかるわね? 今年もノンナへのサプライズパーティーを成功させるのよ!」
来たる11月21日はプラウダの副隊長、ノンナの誕生日。それに向けての準備をしようというわけだ。普段は暴君ながらこういうことはキッチリやるからウチのチビッコ隊長は憎めない。
「そういえば一昨年も去年も大成功だったわよね〜。流石は私ね」
腕を組みながらウンウンと自画自賛するカチューシャ。しかし、残念なお知らせがあるぞ。そもそも一昨年も去年もサプライズは成功していない。なぜかって? それは俺の胸ポケットに挿しているペン型の小型カメラで全部ノンナに筒抜けだからだ ! …言っておくがノンナの命令でやってるだけだぞ。そこに俺の意思はない。そう、俺はただのカチューシャの記録係なのだ。
「じゃあクラーラ!ノンナが今欲しそうなものはわかるかしら」
「ソウデスネ〜。物というよりは手作りケーキが食べたいってこの前言ってましたよ」
お察しの通りクラーラもグルだ。ノンナの「カチューシャの手作りケーキを食べてみたい」という要望を叶える為の誘導をかましている。
「手作りケーキ? そんなのでいいのかしら?ノンナも欲がないわね。まっ、いいわ。この私がササッと作ってあげる!」
こうして誘導は成功し、カチューシャが手作りケーキを作る事になったのだが、これはこれからはじまる悲劇の序章にすぎない。だって、あのカチューシャがノンナ無しで手作りケーキだぞ。俺達がどうにかサポートしなきゃ絶対無理だ。そのことをクラーラもわかっていたのか覚悟を決めた目でアイコンタクトを送ってきた。君、大学選抜戦でカチューシャを庇った時にそんな目してたのか?
そこから俺とクラーラのサポートがはじまった。カチューシャよ、卵の殻を入れないように割れ、ハンドミキサーを暴走させるな、味見で食いすぎるな、砂糖入れすぎたからって塩を入れるな、途中で寝るな、etc、etc…。
そんな紆余曲折があってノンナ誕生日当日
「「
「ノンナ!驚いた?あとこれは私からよ。しっかり味わって食べなさいよ」
「ええ!ありがとうございます。シベリア並の寒さの冷凍庫で永久保存させていただきます」
「ちゃんと食べなさいよ!!」
そんなやり取りをカチューシャのサポートで撃破された俺とクラーラはおぼろげに聞いていた。そして誕生日会は無事に終わり…
「寝たか?」
「ええ、ぐっすりです」
ケーキ作りで疲れたカチューシャはノンナがどこから出したかわからない布団でノンナと添い寝をしていた。いや、俺の方が疲れているんだけどな。っと、忘れるところだった。
「ノンナ、これは俺から」
「ありがとうございます。…ひまわりの髪留めですか?」
「ああ、ひまわりが好きだろ? あと出会った頃と比べて髪がだいぶ長くなったからな」
「昔、誰かさんがロングヘアー好きって噂を聞きましたので」
「…ありがとうございます」
「ふふっ、どういたしまして。髪留め、大切に使わせて貰いますね」
「おう」
よし、プレゼントも渡したし俺も帰って寝よう。そう思って出口に向かおうとした時、ノンナに手を掴まれた。
「ノンナ?」
「その…ですね。せっかくの誕生日なのでもう少しワガママを聞いて欲しいと言いますか…私とカチューシャだけではこの布団は寒くてですね、あと一人分入れるスペースもありますし…えっと」
「お邪魔します」
こんなもん即決だろ。俺はすぐに布団に潜り込んだ。するとケーキ作りの疲れもあってか、嘘みたいなスピードでウトウトとしているとノンナに優しく頭を撫でられ
「ノン…ナ、おやす…み」
「おやすみなさい。タクマ」
自分の額に柔らかい感触を感じながら意識を手放した。
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「ってことが高校時代にママとあったんだ〜」
「何それ? ママ、カチューシャさんのこと好きすぎじゃない?」
「そうなんだよ〜。ママ、『カチューシャ日記』ってカチューシャのことを観察した日記を…」
「…パ・パ? 何を話しているの?」
「ヒッ!?」
「お話があります。すぐに寝室に来てください」
「…はい。じゃあパパはママに怒られてくるから今日はひとりで寝てね」
「はーい」
私がそう言うとパパが部屋から出ていってすぐにパパの断末魔が聞こえた。ああいうことがなければパパとママ、いい夫婦だと思うんだけどな。そう思いながら私はママから貰ったひまわりの髪留めを外して布団に潜った。