いろんなところの整備士さん   作:ターボー001

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あの3人と一緒に寝たい。

そんな願望で書きました。


日本の涼みかた

 

 

昼間の暑さが少しだけやわらぐ夕暮れどき

 

 

 

俺はいつもの戦車整備を終えて寮へ帰るべく、教室に自分のバックを取りに来ていた。

 

机の横のフックに引っかかっているバックを取り、廊下に出ると数メートル先に見慣れた3人が見えた。

 

向こうもこちらに気づいたようで軽く手を振ってくる。

 

 

「タクマ!!ちょうどいいところにいたわね!!どうせこの後暇でしょ?ちょっと付き合いなさいよ!」

 

 

いつも通りの高飛車なカチューシャの声が響く。今日はノンナに肩車されていないようだ。

 

 

 

「みんなで一緒にホラー映画でも見て涼もうかと思っていたところなんです、ほら」

 

 

そう言うとレンタルビデオ店の青い袋からDVDケースを見せてくるノンナ。

タイトルを見ると、髪の長い女がテレビから出てくるあの有名ホラー映画だった。

 

 

「これが日本の涼みかただと聞きました。すごく楽しみです。」

 

 

「そうよ!このカチューシャが直々に日本の文化を教えてあげるわ!」

 

 

 

日本の文化と呼ぶ程のものだろうか。

あと、ワクワクしている様子で答えてくるクラーラを見ていると少し不安になる。

この後、ホラー映画を見るということをわかっているのだろうか。

 

 

 

カチューシャの言うとおり、特にこの後の予定もなかったので俺は二つ返事で了承した。

映画は視聴覚室で見るらしい。

まあ視聴覚室って言ってもカチューシャが私物化しており、ソファやテーブルさらには冷蔵庫まである。

いや、私物化しすぎだろ。いろいろと。

 

 

DVDプレーヤーをセットし、ディスクを入れてソファに腰を下ろす。

座っている順番は右からノンナ、カチューシャ、俺、クラーラだ。

リモコンを持ち、再生ボタンを押すとプレーヤーからディスクの回る音が聞こえ、徐々にテレビに光が映りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・どうしてこんな状況になった。)

 

 

映画も終盤にさしかかりクライマックスを迎えようとしている頃

俺は今、自分に置かれている状況が理解できていなかった。

 

 

 

当初はソファに4人で並んで座っていた。

だが今は違う。

それぞれの状況を説明しよう。

 

 

まずカチューシャだが俺の腹部に抱き着き、顔だけをテレビ画面に向け、怖いシーンになると

小さな悲鳴を上げて俺の胸に顔をうずめてくる。・・・ホラー映画を見ている意味がないな。

 

 

続いてノンナ、映画には集中していて真剣な表情をテレビ画面に向けているが肩が震えている。

それをごまかす為なのか、俺の右手に自身の両手を重ねてたまに強く掴んでくる。

正直、結構痛い。

 

 

最後にクラーラ、こちらもノンナと変わらず画面に集中し俺の左手を強く掴んでいる。

あと、口が開いたままである。・・・日本の映画にハマってもらえて何よりだ。

 

 

 

 

とまあこんな感じでエンドロールが流れるまで身動きが取れぬままであった。

 

 

 

 

映画が終わりテレビ画面に光がなくなるとようやく俺の両手、腹部の3点が解放された。

 

 

「ま、まあ。なかなか面白かったんじゃないかしら?」

 

 

「迫力がありましたね。」

 

 

「日本のホラー映画、奥が深いです。」

 

 

 

3人が映画のコメントをしているなか、俺は解放された喜びから軽く伸びをし、ふと窓の外を見た。

もうグランドの様子がわからないほど真っ暗である。かなり遅い時刻のようだ。

 

 

「じゃあ、そろそろ帰ろうかなぁっと。」

 

 

 

俺はそう言ってソファから立ち上がると

 

 

 

 

ガシッ

 

 

 

 

解放されたはずの3点に再び力が込められた。

 

 

腹部にカチューシャ、右手にノンナ、左手にクラーラ。

映画を見ていた時と変わらない状況が作り出された。

ただ唯一違うのはソファに座っているか座っていないかの差である。

 

 

(さっきから何なんだ?この状況)

 

 

 

無抵抗のままでいると腹に引っ付いてるカチューシャが声を震わせながら話しかけてきた。

 

 

「タ、タクマ。」

 

 

「何?」

 

 

「映画怖かったわよね?」

 

 

「あー。うん、そうだな。」

 

 

状況が状況なだけに正直、内容はあまり覚えていなかったのだが適当に答える。

 

 

 

「でしょー!!!もしかして怖くて夜も寝れないんじゃないかしら?しょうがないからこのカチューシャが一緒に寝てあげても「いや、それはないから大丈夫。」

 

 

言葉を遮って断ると先ほどまで見ていた映画の登場人物と同じ絶望的な顔をするカチューシャ。

面白い。

 

 

 

「同志タクマ、オネガイです。怖いので今日は私の部屋で一緒に寝てください!!」

 

 

とんだ爆弾発言をかましてくるクラーラ。俺の左手を祈るような形で握ってくる。しかも涙目で。

まあ正直でよろしい。そして俺もできることならそうしてあげたい。

だが、

 

 

「女子寮に男が行くのは色々と問題があると思うぞ。」

 

 

 

プラウダ高校は男子寮と女子寮で場所が違う。そして当然だが、女子寮には男子、男子寮には女子の立ち入りが禁止である。仮にバレたとして女子なら厳重注意で済むかもしれないが男子だと退学もありえる。それくらい厳しいのだ。

 

 

「同志タクマ、ではあなたの部屋に行きましょう。」

 

 

 

「!?」

 

 

クラーラよりも上の発言を投げつけてきたノンナ。厳重注意くらい屁でもないと!?

どんだけ怖がってんだよ!! あっ、でも涙目で睨みつけてくるの可愛い。

ヤバい、何か目覚めそう。いやいや落ち着け俺。

 

 

 

「俺の部屋でどうやって4人で寝るんだ?部屋の広さは女子寮とそんなに変わらないだろう?」

 

 

 

現実的問題を指摘すると熟考しはじめるノンナ。そして何か思いついたようで顔を上げる。

 

 

 

「それでは本日は全員ここで寝ましょう。」

 

 

「いやいや、布団ないし。」

 

 

「布団ならこちらにあります。」

 

 

 

カチャ

 

 

 

そういって視聴覚室の奥の扉を開けるノンナ。見ると確かに布団が数点、丁寧にたたまれていた。

 

 

 

「・・・・・なんであるの?」

 

 

「カチューシャがいつ、どこでもお昼寝が出来るよう全ての教室に常備してあります。」

 

 

「よくやったわ!ノンナ」

 

 

「さすがです!同志ノンナ!」

 

 

「ありがとうございます。」

 

 

 

(忘れていた。ノンナがカチューシャ日記をつけるほどにカチューシャのことに関しては用意周到なのを。)

 

 

 

 

逃げ道を失った俺は大人しく提案に乗るしかなかった。

 

 

「はぁー。」

 

 

 

 

ため息をつきながらソファに座ると目の前にノンナが来た。

 

 

「今日は暑いから汗をかいたと思います。こちらが着替えになります。」

 

 

 

そう言って体操服を差し出してきた。

 

 

 

(だからなんであるんだよ!!)

 

 

受け取りながら心のツッコミを声に出そうと思ったらノンナはすぐに移動してしまった。

女子3人が布団があった視聴覚室の奥の部屋の前に集まっていた。

 

 

 

「同志タクマ、私たちは今からこちらの部屋で着替えますので」

 

 

「フフッ、覗いちゃダメですよ。」

 

 

「覗いたら粛清よ!」

 

 

「覗かねーよ。」

 

 

 

 

カチューシャの一言がなかったら「え~、いいじゃん。減るもんじゃないし。」

と言ったノリで返していただろうな。いや、その場合はノンナの視線が怖いな。

 

 

 

3人が着替えている間、DVDプレーヤーを片付けることにした。

DVDを取り出し、ケースに入れ、プレーヤーとテレビを繋ぐ三色コードに手をかけたとき、

 

 

 

ガタッガタッ

カランコロン

 

 

外で大きな音が響いた。

 

恐らく外で強い風が吹いていて窓を叩いているのと、放置されていた空き缶が転がったのだろう。

 

 

 

(今日は風が騒がしいな。・・・なんてな。)

 

 

 

とある漫画のネタを思い出していると奥の部屋の扉が勢いよく開いた。

 

 

 

バンッ

 

 

 

 

「いやあぁぁぁ!!タクマ!!アイツが!!アイツがくるわぁぁ!!!」

 

 

 

「Страшные!!お願いします!助けてください!!」

 

 

 

「同志タクマ!!何故そんなにテレビに近いところにいるんですか!!あの女に引きずりこまれますよ!!ほら、離れて!!」

 

 

 

3人揃って奥の部屋から飛び出してきた。しかも下着姿で。

                     

 

えっ?何でわかったって? だって映ってるんだもん。真っ暗なテレビ画面に反射された3人の姿が。

 

 

 

まず薄いピンクの下着を着たカチューシャが俺の背中に抱き着いてきた。

うん、たまにおんぶしてやる時と感触がまったく変わらないな!!

 

 

続いてクリーム色の下着のクラーラ。俺の左肩に手を置いてその上に自身の胸まで置いてきた。

すごい、胸ってあんなに形が変わるんだ!!

 

 

最後は純白の下着のノンナ。俺をテレビから引きはがそうとして右腕を引っ張ってくる。

あの~、大変ご立派な谷間に俺の腕が挟まっているんですけど。

 

 

 

大変おいしい状況で非常に名残惜しいのだが、このまま何もしないと冷静になった3人に

粛清されかねないので俺は言葉を発する。

 

 

「みんな・・・着替えは終わったんだよな?」

 

 

それは自分たちの状況を理解させるには充分すぎる一言だった。

 

3人はお互いの格好を見つめた後、顔を赤くさせそそくさと奥の部屋に戻っていった。

 

俺は片づけを続けながら思った。テレビの反射の件がバレなくてよかったと。

 

 

 

 

 

 

 

着替えが終わり、体操服姿の3人が出てくると、どことなく気まずい雰囲気が流れる。

もうさっさと寝てしまおうという話になり布団を4つ敷いて全員横になる。

 

 

並び順は映画を見ていた時と同じで右からノンナ、カチューシャ、俺、クラーラだ。

ちなみに並び順はカチューシャの指定だ。俺がカチューシャとクラーラの間に無理やり割り込んだ訳じゃないぞ!!

さらにカチューシャの命令で、両手をお腹の上に置いているカチューシャに手が重なるようにノンナの左手、その上に俺の右手を置くこととなった。まったく、どんだけ怖がりだよ。

俺の左手を握ってくるクラーラは不問だ。だって正直で可愛いもの。

 

 

 

しかし不思議なものでこうして他の人と手を触れていると本当に心が温かくなる気がする。

そしてふと家族のことを思い出した。小さいころはこうやって手を繋いで川の字で寝たなぁと。

 

 

「同志タクマ、どうしました?微笑んでいましたけど?」

 

 

 

「同志タクマ、すごく優しいカオ、してました。」

 

 

 

「ん? いやぁ、こうして寝てるとなんか家族みたいだなぁって。」

 

 

思わず思っていたことを口にしてしまった。

俺の発言で3人は固まっているようだが気にせず俺は続きを喋ってしまった。

 

 

 

「例えば・・・例えばだよ? 俺が父親で・・・そうだなぁ、ノンナが母親で

 長女がクラーラ、次女がカチューシャだったらこんな感じなのかなぁって」

 

 

 

そう発言して数秒沈黙が続いたがすぐに破られた。

 

 

「どうしてカチューシャが一番下なのよ!!お姉さんは私でしょ!!」

 

 

怒るところそこ!?

 

 

 

「私は子供なんですか?」

 

悲しそうに見つめてくるクラーラ。そんなに悲しむことかなぁ?

それよりも左手に凄い力を込められて痛いんですが。

 

 

助けを求めようとノンナを見ると顔を赤くしながら布団に潜ってしまった。

 

あれー?ノンナさーん、助けてよノンナさーん?

 

 

 

「でも黒髪の両親で子供が金髪なのはおかしいと思います。なので母親は私、

 長女は同志ノンナ、次女はカチューシャ様が正しいです。」

 

 

 

クラーラのこの発言をうけて勢いよく布団から顔を出すノンナ

 

 

 

「いいえ、なにもおかしくありませんよ同志クラーラ。髪なんて染めればいいだけのことですから。」

 

 

「っていうかどっちにしたってあたしが一番下じゃない!!」

 

 

3人ともわーわー きゃーきゃー自分の意見を言い出しはじめた。

 

 

 

(そういえば3人とももうホラー映画のことは忘れてるなぁ。)

 

 

そんなことを思いながら俺はめんどくさいことを聞かれる前に

この日はもう寝たふりを決め込むことにした。重ねた手の体温を感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日  放課後

 

 

 

今日も今日とて暑い日が続く。

自販機で買ったスポーツドリンクの缶はすぐに飲み干してしまった。

 

 

 

今は戦車道の練習が終わって整備の途中だ。

 

俺の後ろではカチューシャ、ノンナ、クラーラが地図を広げて次の作戦で使う隊列について仲良く話し合っている。

昨日の夜に言い合いになっていたのが嘘のようだ。昨日見たホラー映画のことも完全に忘れているのだろうか。

 

 

 

 

そんなことが頭の中をよぎり、あることを試したくなってしまった。

これが間違いだった。

 

 

 

 

 

先ほど飲み干したスポーツドリンクの缶を目の前に置き、人差し指と親指で丸を作り、デコピンの要領ではじく。

一点に衝撃を受けた空き缶はわずかにへこみ、数十センチ飛んだあと地面に落ちる。

 

 

 

 

 

カランコロン

 

 

 

と音を立てて空き缶が転がると

 

 

 

 

ビクッ

 

 

 

と3人が寸分の狂いもなく同時に肩をあげた。

 

 

 

「ブフッ」

 

 

その様子を見た俺は噴出してしまった。

 

 

 

 

空き缶の音の原因が俺だとわかると

俺の方を目を細くして無言で見つめ近づいてくる少女3人。

 

 

 

そんな目線には気づかず口元を手で押さえ、笑いをこらえる俺。

 

 

 

 

この後、ホラー映画よりもシベリア送り25ルーブルよりも恐ろしい粛清を3人から受けて

 

 

こんな真夏でも涼しい思いをすることとなったのは言うまでもない。

 

 







実はリング、ちゃんと見たことないんですよね。

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