東方project × ONE PIECE ~狂気の吸血鬼と鮮血の記憶~ 作:すずひら
・楽しい大航海ライフ
・覇気の設定垂れ流し
エクスナー・ルミニアはもともとラフテルで最も名誉ある職――巫女を目指す少女だった。
素質は十分で、年若く美しく聡明で心が強く男を知らない
巫女候補となってルミニアは悪魔の実を食した。
これは、巫女はなるべくフラン様に近しくより悪魔らしい存在として在るべき、またもし何かあったときに身を挺してフラン様をお守りできる力を、という理由で行われ始めていた慣習だった。
そのために悪魔の実に関しては見つかったものが常にいくつか央都にストックされていて、優先的に巫女に与えられる。
ルミニアが食した悪魔の実の能力は自身を闇に変える力であり、ロギア系ヤミヤミの実と名付けられた。
夜の支配者たる悪魔の王、吸血鬼フランドール・スカーレットに仕える者としてふさわしい能力であると周囲にうらやましがられた。
ただし、優秀なルミニアであっても最初は酷く苦労した。
悪魔の実の能力者は自身の能力をうまく制御できないと能力が勝手に発動してしまうからである。
ゾオンであれば人間形態でも耳や尻尾が生えたりしてしまう。
ロギアに属するヤミヤミの実を食べたルミニアは、食べた当初体が勝手に闇になってしまうのを制御できなかった。
例えばこれがメラメラの実やヒエヒエの実などであれば被害を考えてすぐに周りとの距離をとるということができたのだろうが、ヤミヤミの実は厄介な能力を持っていた。
それは、重力変化である。
いや、重力というより強力な引力だろうか。
この能力に関してはのちにフランが「光さえ吸い込むブラックホールに類似する性質」と考察しているが、とにかく何もしなくても勝手に周りの物を引き寄せて闇の中に吸い込んでしまうのである。
そしてしまいには吸い込んだ物は凄まじい重力で押しつぶされてしまい、人間であれば精神が崩壊してしまうのだ。
初めてルミニアが能力を制御できず暴走させてしまったとき、そこは彼女の自宅だった。
そして、どうにか能力の制御を取り戻したときには、彼女の自宅は周囲の家も巻き込むレベルで跡形もなくなっており、エクスナー家の全員、つまりルミニアの父と母、そして兄、加えて隣の家のエドガー老夫妻の五人はルミニアの闇に取り込まれ心を壊してしまっていた。
ルミニアは嘆き悲しんだが、意図せずとも器物損壊に殺人未遂である。
ラフテルではフランが日本のものを参考に法律を定めており、この件は明確な法律違反。
ルミニアは駆け付けた警察に逮捕された。
だが、ルミニアとしてはもう死刑になろうが構わなかった。
精神が壊れた家族や隣人はもうまともに喋る事すらできず、廃人状態。
死人も同然である。
意図せずとはいえそんな罪を犯してしまった彼女は良心の呵責に耐えられなかった。
ルミニアは初め、すぐに処刑されるだろうと思っていた。
精神が崩壊したエドガー老夫婦の間には離れたところに住む遺族がいると聞いていたため、彼らに謝罪ができないことが心残りだった。
ところがルミニアは普段は使われない簡易の留置所にいれられ、数日間も処刑されなかった。
これには彼女も内心首を傾げた。
ラフテルではそもそも悪意を持った事件というものはほとんど起きない。
住人全員が例外なく高い信仰心を持ち、法の下ならぬフランドール・スカーレットの下に平等である、という意識がある。
そして、資本主義ではなく社会主義に近い社会形態をしている。
国家宗教と社会主義が結びついた結果、ラフテルの住民同士の結束は非常に固い。
ゆえに信仰心を持たざる者、ラフテルの在り方に疑問を抱く者は住民の密告により地方警察の手で秘密裏に“処理”される。
どこぞの東側諸国よりもよっぽどたちが悪い。
かつてフランが評したようにある意味でこの国は国民全員が狂っているとも言える。
そもそもトップが一番狂気を振りまいているのだから何を言わんやということではあるが。
そのため争いと言えば男女の痴情の縺れ程度しか発生しない。
そしてもし発生した場合だいたいはその場で処断される。
軽度なら厳重注意。
重度ならその場で死刑である。
フランドール・スカーレットが住まうことを許している
ならば処刑されない自分は一体何なのだろう。
ルミニアは暗い留置所で一人考え込んだが、何もわからなかった。
両親と兄と隣人を五人も殺し、それもただ殺すのではなく精神だけ殺すという惨いことをした自分にふさわしい拷問処刑の用意でもされているのかと考えた。
ルミニアはそれで構わなかった。
せいぜい苦しんで死ぬことくらいしか彼らに償う方法はないと思っていた。
しかし、ルミニアは事件の数日後、央都セントラルの裁判所に連れてこられた。
ルミニアには何が起きているか分からなかった。
ラフテルの地方都市には裁判所はないが、央都セントラルにだけは裁判所がある。
これは地方警察が判断しきれない案件が発生した場合や警察そのものに問題が発生した場合、または自然災害など非人為的事故の処理などを担うためである。
ただし裁判と言っても検察や弁護士はいない。
複数の裁判官のもと、警察が事情を説明して判決が下されるのだ。
裁判当日、被告人席に連れてこられたルミニアは酷く驚いた。
なぜなら裁判所の最上段には憧れのフランドール・スカーレットがいたからだ。
そして、驚いたのはルミニアだけではない。
事前に知らされていなかった参加者は全員目玉がとび出るほど驚いた。
なぜならラフテルで行われる裁判にフランが顔を出したのは初めてのことだったのである。
事前に説明を受けていた裁判官たちも酷く緊張していた。
フランは裁判に口出しをする役職ではないが、彼女が白と言えば漆黒も漂白される。
ラフテルにおいてフランは司法権のトップに位置しているのだから。
そして裁判官たちが出した結論にフランが否を唱えることが彼らには恐ろしくてたまらない。
もしそんなことになれば彼らはラフテル中の住民から非難の目を向けられるだろう。
もしかすればその場で処刑まであり得る。
いや、処刑などされずとも彼らはその前に自罰の念から自害を選ぶ可能性の方が高いが。
裁判が始まった。
まずはルミニアが起こしたことの詳細が警察官の口から語られる。
その声はかすかに震えていて、彼がいかに緊張しているかが伝わる。
彼自身は裁判の行方にほとんど関係がないと言っても、フランの目の前で報告を読み上げるだけで凄まじい緊張を強いられている。
通常ならルミニアは問答無用ですぐに死刑になるはずだった。
しかし、現場に駆け付けた警察官が見た光景は更地になった家屋跡と、地面に倒れている人間を泣きながら揺すっているルミニアの姿。
事情を聞けば悪魔の実の能力が暴走したという。
警察官は困った。
これは事件として処理すべきか事故として処理すべきか。
さらにはルミニアを処刑するとして、物理攻撃を無効化してしまうというロギアの能力者をどうやって殺せばいいのか。
手に余る案件だと感じた警察官はとりあえずルミニアを警察署に連れて行き、裁判所に申し立てた。
「被告エクスナー・ルミニア、以上のことに間違いはないかね」
「……はい、ありません」
「つまり本事件は悪魔の実の能力の暴走によるもの、と。うむむ」
それからは裁判官たちによる議論が始まった。
悪魔の実の能力は本人に由来するものであり事件扱いにすべきだ。
いや、意思と関係なく暴走したのならば事故として処理すべきだ。
いや、制御できないこと自体本人の過ちとして考えるべきだ。
いや、何の実なのかすらわかっていない状態で食べて、食べたとたんに暴走するケースだって考えられる。
いや、いや、いや。
フランが見ている前で水掛け論のような展開を見せるのは望ましくないかもしれない。
だが、フランが見ているからこそあらゆることを考慮して結論を出さなければならない。
裁判官たちの議論に終わりは見えなかった。
ルミニアはそれらの裁判官の議論をBGMに最上段に座るフランを見ていた。
そして、フランもまたルミニアを見ていた。
ルミニアはフランをずっと見つめることが不敬なのではないかとも思ったが、その真紅の瞳に魅入られたように視線を外すことができなかった。
一方フランは何を考えているのか分からない微笑みを浮かべてルミニアをじっと見ていた。
「……あ……ア、あァ……あああぁあああアあァー!」
膠着した議論を終わらせたのはルミニアだった。
ずっとフランの瞳に魅入っていた彼女は、狂気の許容量を超えてしまったのだ。
家族と隣人の心を殺し罪悪感に苛まれ、不可解な現状に悩み、自身の行く末に絶望し、暗い留置所でただただ死を願っていた彼女の精神は既にかなり参っていた。
そこにあこがれの存在であり狂気の塊であるフランと出会ってしまった。狂気の瞳に魅入ってしまった。
狂った叫び声と共にルミニアの体が末端から闇と化す。
ルミニアが立っていた木製の証言台が闇に引きずり込まれバキバキと音を立てて崩壊していく。
裁判官たちは咄嗟に立ち上がり距離をとる。
警察官たちも同様に避難する。
本来ならば取り押さえるべきなのだろうが、手を出しかねた。
なにせ報告通りならこの闇に呑まれれば廃人になってしまうのだ。
「ああああアああぁぁぁあああああアアぁぁぁ!」
闇は徐々に広がり、証言台だけでなくその周りの設備をも食い散らかす。
このままではまずいと勇気ある警察官が飛び出そうとした時だ。
「面白いね。ブラックホールみたい」
フランが最上段から軽い足取りで降りてきた。
警察官が悲鳴じみた声で「フラン様、お下がりください!」と叫ぶ。
もしもフランを傷つけるようなことがあればラフテル始まって以来の大惨事だ。
しかし、当のフランは警察官に向けて微笑みを向けた。
「あはは。夜の支配者たる吸血鬼の私が、闇でどうにかなるとでも思ってるの?」
「そ、それは……」
そう言われてしまえばだれも何も言い返せない。
実際、精神的にはともかく力量的にフランを傷つけられるものなどラフテルにはいないだろう。
彼らが神は、そう言う存在だった。
「悪魔の実かぁ。どうやったら抑えられるんだろうね。こないだの剣士みたいに妖力で抑え込めるかな?」
まだ覇気が悪魔の実に有効であるという情報が出回る前である。
フランは妖力でなんとかできると思ったわけではなく、意思によって自在に操れるほぼ万能の力であり自身の吸血鬼としての力の源である妖力ならなんとかなるかなと楽観的に考えていただけだ。
加えて先日クルーの選考会でロギアに対処していた人間の操る妖力のような力――覇気というものを思い出したのだ。
そうしてルミニアの闇はフランの妖力に簡単に抑え込まれた。
闇が再び少女の体を形作る。
「――ああああ、あ、ああ……。あれ、私、は……」
「や。意識はある?」
「あ、え――ふ、フラン様……!?」
★
「さて」
ルミニアが落ち着いたのを見計らってフランが語りかける。
その言葉は裁判所の中にいる人全員に向けられている。
皆は一言も聞き漏らすまいと傾聴の姿勢を取った。
いうなれば神託である。
「まぁみんなもなんで私がここにいるのかってのはずっと疑問だったと思うけど、こぁから話を聞いて“こういうこと”が起こりそうだから来たわけ。正直に言ってさ、私は悪魔の実なんて実体のよくわからないものを簡単に食べちゃう現状がどうなの、って思ってるの。確かに人智を超えた力は手に入るだろうけど、力にはそれに見合う責任が付随すると思うんだ。いやまぁガラにもないことを話してるとは思うんだけどね、私も一応700年以上神様として生きているわけで」
事実、フランは過去に自分の能力の暴走で死にかけたことがある。
まだ古の地に旅立つ前、この世界に来てから半年ほどたったころ。
フランは“フランドール・スカーレット”の持つ
ちょうどレーヴァテインの火力調整もうまく行えるようになってきたころで、身一つで放り出された未知の島で半年のサバイバル生活を切り抜け自分の能力に自信を持ち始めていたころでもあった。
分身して作業を分担すれば楽になるだろうと軽い気持ちでフォーオブアカインドを発生させた。
結果、血みどろの壮絶な殺し合いが発生した。
禁忌『フォーオブアカインド』によって生み出された三体のフランの分身はその誰もが「自分こそが本物である」という意識を持っていた。
故に本体であるフランから作業の分担を告げられた時に「なぜ分身が本体に命令を出すのか」と喧嘩になった。
喧嘩と言っても幼女の喧嘩という見た目ほど生易しいものではない。
まだ自身のスペックを完全に開花させる前であったとはいえ、悪魔の王たる吸血鬼の能力まで使用した全力の殺し合いに発展した。
本体が勝ちを拾えたのはたまたまである。
状況が一対一対一対一というバトルロワイヤルの状況であったこと。
分身も本体同様能力の使用に未熟な面を持っていたこと。
朝日が昇った時偶然一人だけ日陰にいたこと。
分身がまだ妖力を十全に使えず日光に怯んでしまった隙に『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』で分身たちを殺せたこと。
その時までに分身の一人が既に脱落しており『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』で手に移動させる“目”が二つで済み、両手で発動できたこと。
もしこれがバトルロワイヤルではなく一対三の状況だったら。
分身が本来のフランドール・スカーレットの実力を持っていたら。
朝日が昇った時に自分も日光に晒されていたら。
分身が妖力を纏うことで日光を克服していたら。
『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』が効かず殺しきれなかったら。
三人が残っており両手では一人殺しきれなかったら。
一歩間違えばフランは死んでいた。
いや、分身に成り代わられていた。
なんとか無事に事態を収拾できたと、ほっとしたフランだったが、すぐに衝撃の事実に気が付いた。
生み出された分身たちは自分が本体だと思い込んでいた。
ならば、今ここにいる私――“本体”は本当に本体なのだろうか。
フランは必死に自分が自分である証明を探したが、一両日かけてもついに手掛かりは何も見つからなかった。
それはそうだ、世界五分前仮説を反証するようなものなのだから。
気が狂いそうになった。
いや、このときフランは多少なりとも狂ったのだろう。
しかしその翌日フランはまた、ふと気が付いた。
自分が何者であるか。
そんなことはもしかしたら割とどうでもいいものなんじゃないか。
だって“私”はもともと“フランドール・スカーレット”ではなかったただの一般人だったはずなのだから。
確かにそれはそうだろう。
だが、そのことと自分が本体なのか分身なのかについて論理的な整合性はない。
しかしそれでもフランはこの考えに至ったことで、一応の精神の安定を見せた。
事実はどうでもよい。
大事なのはフランがそのことをどう捉えるか。
彼女にとって自己の肯定は自己によりのみ完結した。
この事件によってフランはなぜフォーオブアカインドというスペルカードに“禁忌”の名を冠しているのかを知ったのだ。
同じく禁忌の名が冠されているレーヴァテインについても最高温度で暴発させた場合自分が一瞬でドロドロに溶ける可能性だってある。
この日からフランは自分の能力の制御の訓練を日常的に始めた。
その努力がめでたく実って、
今ではフォーオブアカインドで本体の操作権を失うこともないし、レーヴァテインで黒焦げ肉を作ることもない。
フランは正気と引き換えに強さを得た。
今では自分の力を“フランドール・スカーレット”の物だからという理由では信用していない。
自身が努力によって磨き上げてきたものだから頼れるのだと自負している。
努力は裏切らないと身をもって経験した。
だからこそフランはよくわかってもいない悪魔の実をもてはやすラフテルの現状に疑問を抱いていた。
勿論ラフテルの王ならぬ神たるフランが一声あげればラフテルの住民はそのことごとくが悪魔の実を知恵の樹の“禁断の果実”よろしく禁忌の食物として手を出さなくなるだろう。
それどころかすでに実を食べた人間全員が次々に自殺を始めるだろう。
だが、フランはそうしなかった。
それは悪魔の実が現状フランの脅威になるような代物ではないという認識、そしてできればこのことにラフテルの住民が自らの手で気づいて欲しいという、これまで彼ら土の民の成長を見守ってきた立場からの思いだった。
しかし、今回のルミニアが起こした事件。
悪魔の実の中には一歩間違えば周囲に甚大な被害を与える能力もありそうであるということが判明した。
加えて悪魔の実、特にロギアの者たちには物理的な攻撃や拘束が効かないという報告も受けていた。
ともすればラフテルが危機に陥る可能性もある。
それを懸念し、フランは今ここにいた。
なんだかんだで立派に神様やっているのである。
「まぁロギアの対策については妖力が有効みたいだから何かあれば私かこぁに声をかけてくれればなんとかするよ。他にもなんらかの対処法は考えないといけないと思うけどね。で、いままで悪魔の実に関しての法律もなかったわけで……『法律なくして刑罰なし』とまでは言わないけど遡及処罰の禁止くらいはあってもいいと思うんだよね」
そんなやりとりがあって、ルミニアはこの事件においての処罰を与えられなかった。
それでも、罪悪感に潰されそうだった彼女に、フランはある提案をした。
そうして、エクスナー・ルミニアはいまだ自分の能力と、そしてそれがもたらした罪に向き合えないまま、サンタ・マリア号に乗り込むこととなる――。
・唐突な重い話。巫女の話やったし今更か
ところで投稿初日から日間ランキング載ったみたいで評価に赤色付くくらい色々な人に読んでもらえました。
感謝感謝です。
原作までまだまだ遠いんですが読み続けてもらえれば幸いです。