東方project × ONE PIECE ~狂気の吸血鬼と鮮血の記憶~ 作:すずひら
・ゾウをこらしめる
・ミンクの里、ゾウの上に移転
・統一王国による侵略戦争の話を聞く
統一の歩みとその計画の名
統一王国は私やメイリンが月へと行っていたこの数百年の間に、破竹の勢いで版図を広げていた。
その手法は侵略とも呼べるもので、降れば寛容に統治すれども、敵対すれば一切の容赦なく相手国を攻め滅ぼした。
統一王国は発生の経緯にラフテルを母体としているものの、本拠地はすでにラフテルからは独立している。
そのため統一王国はかの国の超常的なテクノロジーを利用することこそないが、数世紀は未来を先取りした文明でもって強引に支配を拡大した。
問題となったのは船の航行だ。
この世界には海王類などの凶悪な生物が多数存在し海に出ることがとても危険だ。
そこで統一王国が目を付けたのは、海王類と意思の疎通ができるという人魚の姫だった。
かつてメイリンが考え出し定着させたというシャボンによる潜行技術でもって大軍を送り込み魚人島を制圧した統一王国は、人魚の姫を人質に取り魚人島の勢力と海王類を操る力を手に入れた。
海底という孤立した環境と海王類に襲われないという状況は魚人島を戦慣れさせておらず、また友好を装い魚人島に入り突如宣戦布告もなしに奇襲をかけた統一王国の精兵の前にはなすすべもなかったのだ。
人間の十倍の筋力を持つ魚人とて、彼らの姫を人質に取られれば大人しく従う他なかったのである。
そうして外洋の安全な航海を可能にした統一王国は本格的に世界征服を目指し侵略を進めていくことになる。
私とメイリンが月から帰ってきてミンク族の騒動を治めた時、統一王国はすでに世界の半分以上を完全に支配していた。
そして、魚人島を経由して
そして、サウスブルーと
すでに数百年の間戦争を続けているが侵略の速度は衰えておらず、黄金郷とまで名を馳せた黄金都市シャンドラを滅ぼしたことでむしろ士気は上がっている。
サウスブルーの残りの国と今はまだ無事なイーストブルーがその手に落ちるのも時間の問題だった。
メイリンはこの話を文から聞き、事実確認のためにジャヤへとすっ飛んでいった。
そして私もミンクの里を離れ、統一王国の首都へと向かった。
「よくぞ参られた、『永遠に紅い幼き月』よ」
「これはまた盛大な歓迎だね」
驚いたことに統一王国には私の話が代々伝わっているそうで、上空から突然王宮に降り立った私に対して近衛兵が剣を向けるどころか恭しくもてなされた。
そして五分もすれば王様への謁見すら叶った。
なんか変な異名みたいなので呼ばれたけど。
なんでも本名は恐れ多いからと付けられたらしい。
まるで"名前を呼んではいけないあの人"みたいな扱いである。
「無論。歓迎させていただくとも。むしろ我々のほうが貴女を探していたのだ。我が曽祖父の代、百年ほど前から世界中に捜索の手を広げてはいたのだが、影も形も見つからなんだ」
「あはは、そりゃあ月にいたからねえ。地上をいくら探しても見つからないよ」
「なんと。月とは……いや、その話も詳しく聞きたくはあるが、先に用を済ませようか。このたびは如何様な用件で?」
王様との謁見はトントン拍子に進んだ。
まあ謁見て言っても豪華な応接室みたいなところで対面に座ってお茶を飲みながらお喋りしているんだけど。
向こうもこっちに礼儀を求めてきたりしないので気楽なものだ。
「うん、世界征服を目指してるって聞いてね。詳しい話を聞きたくて」
「ふむ、それは重畳。我々が貴女を探していた理由もまさにそのことよ」
「へえ。じゃあ話してもらえる? あ、突然来ちゃったけど用事とか大丈夫?」
「無論。百年待ったのだ。今更些事になどかかずらってはおれん」
そうして、王様と宰相の説明を聞いた。
ことの始まりはそもそも統一王国を作った男の願いだったという。
彼はラフテルで生まれ、外界に興味を持ち若い頃から船で世界を旅した。
そして、絶望した。
ラフテルと比べてあまりにも遅れている諸国の文明に。
例えば、ある国では雨が降らないときには権力者の若い娘を生贄に捧げることで雨乞いをしていた。
ある国では医療が発達しておらず、なんでもないような病気でバタバタと人が死んでいた。
ある国では食人の風習が残っていた。
彼は内にこもる傾向のあったラフテルの民に働きかけ、一部の民を引き連れて北の海に新しい国を作った。
勿論、その国の目的は。
「なるほど、統一王国って名前はそういうわけね」
「代々の王家にはそのように伝わっている。すべて効率を優先し、国をまとめるために最も強い者が王となることを定めたのも初代の王だ」
「で、国力十分と判断してついに悲願の"統一"に乗り出したわけね」
「本来ならば世界に乗り出すのはせめて北の海全域をよく治めてからの予定だった。しかし、我らは魚人島と、そこに住む海王類を操る者の存在を知った」
「なるほどね、思いがけず計画の短縮ができたわけだ」
「あとは、貴女に出会った三百年ほど前の王が『世界統一の暁には神の槍をこの手に』と遺言を残している。記録によればその王から本格的な統一に乗り出したとのことだ」
ああ、そういえばそんなことを言ったっけか、世界統一したらグングニルあげるみたいな。
メイリンと戦ったランの子孫の彼だ。
あの時は統一王国って名前から連想して適当なことを言ったんだけど、そもそもご先祖の悲願だったとはね。
「さらに言えばその王から代々の王はDの名を継いでいる。我もまた、Dを継ぐ者よ」
「……ん。つまり、あれからみんな王様は血縁で継承してきたってこと? 実力主義はやめたの?」
「否。最も力のある者が国王となる法は続いている。歴代の王らは自らの子や孫をこの国で一番の猛者に鍛え上げ続けてきたのだ」
「うわぁ、そりゃまたすごいね」
「王族の子女の、幼少よりの環境がよいことは否定せん。しかし、同時に幼少から貴女のことが代々伝えられてきた。同時に我が国の悲願も。故に我が一族は誰よりも修練に励み、高みを目指してきた。我もまた幼い時分から寝物語に『永遠に紅い幼き月』のことはよく聞かされ、子供心に興奮したもの。今こうして拝顔の栄に浴すことができ、恐悦至極。ふふ、実は内心では舞い上がっておるのだ」
「あはは、それは照れるね。でもこんなちんちくりんでがっかりはしなかった?」
「何を言う。むしろその矮躯を打ち倒せる光景を想像すらできんことがより恐ろしいものよ」
そんな風に会談は終始和やかな雰囲気で進んだ。
侵略戦争――彼らは”統一戦争”と呼ぶ――についても、しっかりと彼らの嘘偽りない話を聞いた。
同時に、そこに懸ける思いの丈も。
それは、王の想いだけでなく、国の想いですらなく――統一王国が積み重ねてきた、歴史の”重さ”。
「理想を言えば一切の血を流さず、平和的に話し合いだけでの併合をすすめるべきなのだろう。しかしそれは夢物語なのが現実。ならばなるべく犠牲は少なく、短期間に、だ」
「敵対者は容赦なく粉砕する。後顧の憂いを子孫に引き継ぐわけにはいかんのだ。我々は、流した血の、何倍もの笑顔を未来に見ている」
「我らの幸福は敵対者にとっての不幸だ。だからこそ、我らは彼らを
「なぁに、我が国の自慢はラフテル一国であったころから一度も、そう、一度も反乱が起こっていないことよ。厳格な統制のもとではあるが、国は栄えている。故に我らは止まる理由がない。もとより止まる気も、ない」
王と宰相から聞いた話は概ね文から聞いた話と合致した。
そして、私はこの話を聞いて、彼らを止めるべきかどうか迷った。
いずれこうなることは予想していたし、ずっと考えてはいたけれどついに出せなかった答え。
例えば、侵略するにしても相手国の文化を尊重せよ、だとか。
でも、初代の王の話を聞いて、今の王の話を聞いて、決意は固まった。
彼らはラフテルの文化を愛し、それを広めようとした――している。
それは押し付けでただの侵略かもしれないけど、ラフテルの、私達の作り上げた文化をそれだけ優れたものと認め、広めることで幸せな未来をつかめると考えたから。
子供に教育をするのは悪だろうか。
何も知らぬ幼子に"自分たちの常識"を教えることで、自由な思想を奪うことは。
その常識が「人を殺してはいけない」であっても、「異教徒は殺して良い」であっても、教えられる子供からすれば同じこと。
そして、教える大人たちからしても同じことだ。
ただ、”常識”を教え、教えられる。
そう、ただそれだけのこと。
唯一違いを観測できるのは第三者、傍観者のみ。
それは他国であったり、後世の歴史家であったり、あるいは神か。
……ならば、私は神ではなく、傍観者ではなく、好き勝手に世界を引っ掻き回してきた、ただの前世持ちの吸血鬼。
人間は好きだけど仲間や家族のほうがずっと大事な、小さな当事者。
そうだ、だいたいあのゾウだって、魚人島だって、ミンク族だって、もう私の手を離れていて、その全てに対して責任なんて負えるものかと考えたばかりだった。
ふっと肩の力が抜けた。
私の決断は褒められたものじゃないかもしれない、憎しみを持って迎えられるようなものかもしれない。
それでも私の、この世界に来てからの四千年間が無駄ではなかったのならば。
楽しみに、させてもらおう。
「……そっか、ありがとう。話はだいたいわかったよ。それで、そっちが私を探していた理由は何? この統一戦争絡みだって言ってたけど」
「うむ。単刀直入に言えば、この戦争の行く末を見ていて欲しい。我らが悲願が為されるか否かを」
「世界を統一できるかどうか、ってこと?」
「ふふ、それだけではない。それだけでは初代の国王から何も進歩していないではないか」
「うん、違うの?」
「そうだ。さらにその先がある。我々は、その計画をずっと練りに練ってきた。技術もいまでは十分に実現可能と試算が出ている。一部はラフテルの封印されし遺産、”古代兵器”を使わねばならんだろうが」
「古代兵器?」
「そう、”天より墜ちる裁きの落雷”と”大地揺るがす破滅の豪砲”よ」
「ああ、ウラヌスとプルトンのこと?」
衛星兵器
技術はにとりがすべて解析し、ラフテルの防備のために建造して配備した覚えがある。
ウラヌスは月の衛星として一つ、プルートは飛行能力を排したダウングレード版を「プルトン」と名付けていくつか。
まぁあれから三千と五百年くらい経ってるし、古代兵器ってのも納得。
配備からいままで一度も使用されてないはずだし封印されし遺産ってのも言い得て妙な。
てかあれ今でも動くの?
……にとりが作ったやつだし動きそうだね。
「計画の最終段階は、世界の統一を終えた後――それら古代兵器で大規模な、それこそこの世界史上最も苛烈な破壊を行う。その破壊とのちの統制をもって計画は完遂される」
「ほー。そりゃまた随分大胆だね。世界を滅亡でもさせるつもり?」
もしそうなら流石に止めるけども。
私だって終末の世界で生きたくはないし。
「否。むしろそれこそが恒久平和の始まり、真の統一よ。破壊するのは人ではない。壁だ」
よかった、どうやら無差別虐殺を行うとかじゃないみたいだ。
壁ってぱっと思いつかないけど、人種の壁とかそういう?
「この世界には壁がある。あの壁を壊さぬことには、真の統一はならぬ。人々は一つになれぬのだ。しかし、壁を壊せば世界は混乱の渦に陥る。場合によっては大規模な破滅もあり得る。故に、世界を完全に統制したのちに慎重に事を運ぶ必要がある。何十年、何百年とかけ、いつか為さねばならぬ」
「その壁って?」
「ここからでも見える。ほれ、あれだ」
そう言って王様は部屋の窓を指さした。
その先にあったのは、大きな赤い壁――なるほど。
「我らの計画はあの
なるほどね。
連絡を取るだけなら飛行機の開発とかも考えられるけど……今の技術力じゃ無理だし、なにより前世の世界に比べて空が不安定なのと、正確な地図がないこと、島々が離れすぎているので航続距離の問題とかでいろいろ難しいか。
レッドラインはかなりの高さだからそれこそジェット機レベルは必要だ。
今の世界で作れるのはきっとにとりとエイリンくらいだろう。
船にしても航行の危険は前世の比ではなく、加えて厄介な
現状四海を行き来するにはカームベルトを越える技術力と魚人島の存在を知らなければいけない。
それにしたって、魚人島のシャボンで覆える船の大きさは限られている。
「あの土壁を打ち壊し、北の海と東の海、西の海と南の海を繋ぐ。そして、カームベルトもゆくゆくは排し、それぞれを繋ぐ」
「カームベルトの方は考えてるの?」
「現状でも海楼石を船底に敷き詰め、無風でも走れるようにした特殊な船による航行は可能だ。海王類を絶滅させることは難しいことから、なんとか海楼石の増産を行いたいが、こちらも現状では研究が進んでおらず難しい。ただし、今でも徐々に増えてはいるから、しっかりと管理をすればゆくゆくは十分な数が配備できると考えている」
「でもそれだけじゃないんでしょ?」
「うむ。まさにそれこそ統一戦争を大きく進めるきっかけになった。以前よりこちらの北・西の海から南・東の海へ渡るための魚人島については報告があり、我らも利用させてもらっていた。そして、数百年の時をかけ、徐々に彼の国へと友好的に浸透していった。なにせ我らの計画には欠かせない最重要の拠点になる」
「まぁ魚人島がなかったら完全に行き来できないもんね」
「そしてその中の報告から「人魚の姫には海王類を従える能力を持つ者が産まれることがある」という伝承を知ったのだ。我らはその存在を待ち望んだ。もしもそれが本当に存在するのならば、計画の最終段階に用いる古代兵器と同等以上の価値を持つ戦略兵器になり得るからだ。我らはかの存在を古代兵器の命名に倣い、”四海制する海王の姫”
海王類を従える人魚……間違いなくレヴィアの事だ。
あの力は子孫にも発現したんだね。
ちなみに名前に関してはちょっとだけ疑問がある。
ウラヌスはギリシャ神話の天空神ウーラノスからだけど、ローマ神話ではカイルスと呼ばれる。
プルートはローマ神話の冥界神で、こちらはギリシャ神話だとハーデースと呼ばれる。
それぞれ神話が違うから、きっとウラヌスに倣ってギリシャ神話の海神ポセイドンをもってきたんだろう。
ところがポセイドンはローマ神話ではネプチューンに相当して、海王星の英名はポセイドンではなくネプチューンの方が採用されている。
だからちょっとだけちぐはぐな感じがある。
天王星、冥王星でウラヌス、プルートと付けたから命名規則に従うと海王星はネプチューンだ。
だけどこの世界には天王星も冥王星も海王星も存在しない。
ポセイドンは私が辞書に記したことから名付けたんだろう。
まぁ、こんなこと気にするのは私だけだから別に人魚姫の事を古代兵器ポセイドンと呼ぶことには何の問題もないけども。
閑話休題。
「で、そのポセイドンが現れたと」
「そう、待ち望んだ存在がついに生まれたのだ。今から三百年ほど前のことだ。我らは魚人島を速やかに制圧し、人魚の姫の力――ポセイドンでもって、ここ北の海とカームベルトの向こうの西の海の全域を支配した。その頃は今に比べて国力も十分ではなく、二つの海を制するまでに八十年ほどもかかった。そして、人魚の姫も寿命で死んでしまった」
「そして、今また新しい姫が産まれたんだね?」
「その通り。先代の頃から南の海の侵略はじわじわとすすめてきた。しかし、我が代になってから待望の姫が産まれたのだ。我はなんとしても我が代で南の海だけでなく、東の海の制圧を、少なくともポセイドンが生きているうちに東の海での拠点までは築かねばならぬ。次のポセイドンがいつ生まれるかは分らぬ故に」
王の言葉には覇気があった。
目的と手段がはっきりしていて、目指す心と力が十分にあった。
「我らの計画はもう着地点が見えている。このまま問題なければ、今の国力でもって十年以内に東の海の制圧も完了する。ウラヌスとプルトンの起動実験もラフテルを通じ既に終わらせている。故に”永遠に紅い幼き月”、貴女には我らの悲願が為されるところを直に見ていただきたかった」
「それで、私を探していたんだね。その計画に、名前はあるの?」
「ふふ、よくぞ聞いてくれた。実はそれを言いたくてたまらなかったのだ。初代の王から志を引き継ぎ、しかし代々の王が頭をひねりさらに発展させたこの計画こそ、我らが悲願、我らが誇りなのだから」
王は子供のように無邪気に笑った。
それはどこまでも真っすぐで、光に満ち溢れている笑顔だった。
「我らの計画は、世界を統一し、壁を壊し、帯を取り去り、この世界を真に一つにする。そしてその果てに、皆が手を取り合って穏やかに、笑顔で生きていける平和で発展した世界を築く。故に我らはこの計画の事をこう呼ぶのだ」
【
永遠に紅い幼き月
本作にはレミリアが登場しないのでレミリア成分はフランに吸収されています。
カリスマにも溢れている。
ちなみに魚人島で落ち込んでいた時(参照:31話・それでも彼女はいなくならない)の格好はカリスマガードだったり。
ポセイドン
ようやく出せた3つ目の古代兵器。
原作のプルトンが本作ではプルートだったのもこの命名規則の問題があったためです。
そのため、飛行能力ありの戦艦→プルート、飛行しない戦艦→プルトン、とちょっとわかりにくくなってしまった。
ワンピース
こちらもやっと出せたタイトル回収。
原作でのワンピースはなんなのかまだ謎ですが、本作ではこういう設定で。
ひとつなぎの大秘宝は白ひげの言葉からなにか物質として存在していそうですが、本作ではそれはこの計画のことです。
世界を“一繋ぎ”にするものであり、また世界中の“人を繋ぐ”ものであり。
”ひとつなぎ”が平仮名なことにも意味があるならこんなダブルミーニング、そしてつづりはone pieceですが、実はone peaceでトリプルミーニングなら……
なーんていち読者の妄想ですが。
前話まででキリがいいので次話は来年と言っていましたが、この話までやっておいた方が続きに期待を持ってもらえるかな?と思いなおしてストック放出しました。
次こそ来年のはず。