東方project × ONE PIECE ~狂気の吸血鬼と鮮血の記憶~   作:すずひら

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前回のまとめ
・迫害されている白狼
・里帰りした鴉天狗

※注意
時間のない中書き殴ったせいかちょっと本話は少し暴走気味、具体的に言うとちょっとえっちいです。
苦手な方は次話へどうぞ。


白狼の怯えと天狗の戯れ

 

 

「ところで貴方、ちょっと汚すぎますね。私の家で過ごす以上は身なりくらいは清潔に保ってください」

 

「は、はい。ごめんなさい」

 

「この家にはお風呂があるでしょう。さっさと洗ってきてください」

 

鴉の行水とは言うけれど、実のところ鴉天狗である私はお風呂が好きだ。

元々キレイ好きではあったけれど、小さい頃にフランさんやメイリンさんとよくお風呂に入っていたのが原因だろう。

あの人たちは本当によくお風呂に入るし、時間も長い。

まだ幼かった私とはたては何度ものぼせてフラフラになったものだ。

 

そんなわけでこの家には割りと大きめのお風呂がある。

そもそも私が里帰りするのもこのお風呂の存在が大きい。

外で飛び回る生活をしていると、秘境の温泉を見つけたときくらいしかまともに湯に浸かれないから。

それにこの家のお風呂はいくらでも水が出て、温度調節も自由自在で、シャワーまで付いているのだ。

作ってくれたにとりさんには感謝しかない。

 

……おや、少女が立ち上がったまま浴室へ向かおうとしない。

そしてなにやらもごもごと唸っている。

 

「は、はい。あの、でも、その、私……」

 

「なんですか、煮えきりませんね」

 

「ご、ごめんなさい。その、私、水が苦手で……」

 

そう言った少女の顔は真っ赤で、耳と尻尾がへにゃんと垂れ下がっている。

うん?

泳げないというのは聞いていたけれど、水が怖い?

 

水が嫌いな犬もいるとは言うが、ミンク族はフランさんのイメージによって特性を付与されているので、水が嫌いなイヌ科のミンクはいないはず。

なんでも水を怖がるようになる狂犬病という病気のイメージが強いらしく、この病気にかからないようにとイヌ科のミンクはみな泳ぎが得意なようにしたそうだ。

 

泳げないから水に恐怖を抱く。

ふむ、何度も溺れかけていたらそういうこともあるのかしら。

それで水浴びもしないからこんなに薄汚れているわけか。

 

んー、めんどくさいな。

……でもまぁ、ひっじょーに面倒くさいけど、まあ水が苦手になった理由であるだろう悪魔の実は、私の妖力から生まれたんだろうし?

それを勝手に家に入り込み食べたのはコイツだとしても、一抹の責任を感じないこともない。

それに、こんなに弱弱しくいじらしい姿を見せつけられると、どうにも疼く。

 

……優しくしてやろうかと思ってたけど、前言撤回。

ちょっといじめ……ごほん、荒療治するかな。

 

「脱ぎなさい」

 

「……へ?」

 

「服を脱ぎなさいと言いました。もう一度言いますか?」

 

「い、いえ、あの、その、こ、ここで?」

 

「ええ、ここで。今すぐに。全部」

 

今は居間でお茶を飲みつつ話をした直後だ。

すぐそばに窓もあり誰かが通りかかったら見られるかもしれない。

もっとも、この家には結界が張られているのだけど、コイツはそのことを知らない。

そして、出会ってすぐの私に対して裸を見せるという行為に抵抗も覚えるのだろう。

 

「わ、わかった……」

 

おや、いきなりこんなことを言われ、屈辱で噛み付いてくるかと思えば案外従順だ。

相変わらず赤面したままで、今度は耳と尻尾がピンと緊張している。

突然言われたこんな理不尽な命令に素直に従うのか。

 

しゅるしゅるという衣擦れの音と共に一枚ずつ脱いでいく。

脱いだ服をちゃんとたたんでいるのは高評価。

下着は……上は着けていない。

下は……意外なことに褌などではなく、見た目相応の子供っぽいショーツだ。

 

ていうか私のじゃん。

 

そうか、ちょっと冷静になって考えれば、服を拝借してるんだから下着もそうだよね。

まさか他人が私の子供の頃の下着を着けているのを見ることになるとは。

なんか変な気分。

 

「あの、下も……?」

 

「さっき何といったか聞こえませんでしたか?」

 

「いえ……ごめんなさい」

 

少しの逡巡のあと、少女は私の言葉通りに従った。

完全に一糸纏わぬ姿で立ち尽くしている。

うーむ、私がこんなことをしているのは、これからのことを考えて従順に従うように躾けようと思ったからだったんだけど。

ほとんど何もしてないのに既にここまで大人しく下手に出られると、どうにも嗜虐心が刺激されて仕方ない。

 

私は、自分より下の相手をからかったり虐めたりするのが好きだ。

そして大体の相手は鴉天狗である私より下の存在なのだから、まあ有り体に言って誰に対しても態度が悪い。

こんなんだから友人の一人もできず、皆から嫌われるのだと頭では分かってはいるのだけど。

せめても表面上だけでも人当たりを良くしようと誰にでも敬語を使うようにしてはいるが、心の底では見下しているのがバレるのか、いい関係を築けた者は未だにいない。

あのお気楽でめんどくさがりな引きこもりのはたてとはまた違ったベクトルで私も人格破綻者である。

 

そしてどうにもコイツのような年端もいかない子供を相手にすると抑えが効かなくなる。

ああ、悪い癖だと自覚しているのに。

コイツは何を考えてるかよく分からなくて少し苦手に感じるけれど、それを補って余りある程に……。

 

「手は後ろで組みなさい。足は肩幅。胸張って顔は上げる。足で尻尾を挟まない」

 

「う……はい」

 

もはや何も隠すことなどできない囚人か、あるいは奴隷のような格好だ。

ここまで屈辱的な指示によく従うものだと多少の感銘を覚えるが、内心では私を殺したいほど憎んでいるに違いない。

ただ、こうやって嫌われることも含めて愉しんでしまっているのだから、私という奴は全く救えない。

 

「随分とまあ貧相な体ですね」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

改めて見れば十歳かそこらの少女に見える。

本人の自己申告である十二歳よりは幾分幼く、ガリガリとまでは言わないものの痩せていて、貧しい体をしている。

普段の食生活も聞く限りでは満足に食べられてはいないようだったから、そのせいか。

 

それにしても、清浄が保たれていた服を脱ぎ全裸になると、小汚く薄汚れているのがよくわかる。

何年体をちゃんと洗っていないのか、まるで泥遊びしたあとの犬のようだ。

近づいてみれば体臭も凄いのではないだろうか。

 

「こちらに来て後ろを向きなさい」

 

「はい」

 

後姿を見ると、思ったよりも尻尾が大きい。

いや、体が小さいのか。

そういえば昔は私も体に対して羽が大きすぎてよくバランスを崩したっけ。

そんなことを思い出しながら、言われたとおりに目の前まで来た少女の後ろ手に組んだままの手を紐で拘束する。

 

「あ、あの、射命丸様?」

 

「私の服の飾り紐で縛りました。強く手を動かしたら千切れますのでそのままにしておくように。いいですね?」

 

「は、はい」

 

さて、まあ予定外に十分遊んだし、とっとと本来の目的を果たそうか。

私は少女の背中と膝の裏に手を入れ、ヒョイと持ち上げた。

 

「え、あ、あの!」

 

私はそう力が強い方ではないけれど、それはフランさんやメイリンさんと比べてのことで、人間やミンク族などとは比べ物にならない程度の身体能力はある。

それにしたってコイツは軽いが。

……ホント、ちょっと体調が心配になるレベルの軽さだ。

 

私は少女をそのままお姫様抱っこで浴室まで運んだ。

少女は突然持ち上げられて運ばれたことで目を白黒させていたが、私が浴室に近づいていることに気がつくと、目に見えて顔を青ざめさせた。

逃げようにも後ろ手に縛られている上に私に抱え上げられているのでなんの抵抗もできない。

せいぜいが耳を伏せて縮こまり、身を震わせる程度だった。

なにかしら文句を言うかと思ったが、口答えをするなという命令を律儀に守っているのか何も言わない。

まぁ都合はいい。

このあと暴れられても困るから。

 

私は必死に縮こまる少女を浴室の椅子に座らせた。

そして、シャワーノズルを手に取る。

 

「ひっ……」

 

耳をぺたんと伏せ俯く少女から押し殺した声が漏れる。

怯えて震える幼子のような姿にぞくぞくするものを感じないわけでもないが、これはれっきとしたショック療法であり、疚しいことは何もない、うん。

 

「絶対に椅子から立ち上がらないように」

 

そう言って、返事を聞く前に蛇口をひねる。

 

「キャンッ!?」

 

頭の上からシャワーを浴びせてやると、一瞬悲鳴を上げて飛び上がりそうになったが、肩を掴んで椅子に押さえつける。

瞳孔が開き切り、ハッハッハッと舌を出して息を荒げ、胸は激しく上下している。

体はガチガチに固まり、ぎゅっと固く握り締められた掌では爪が食い込み、少し血が流れている。

どうやらかなりのトラウマらしいが、気絶しないのであれば何も問題はない。

 

温めの温度に調節して、シャワーは出しっぱなしにしておく。

そして、浴室に備え付けられている私の愛用のシャンプーを手に取る。

ガタガタ震えたままの少女の髪に垂らし、乱暴にわしゃわしゃとかき混ぜる。

 

「全然泡が立ちませんねぇ。どんだけ汚れているんだか」

 

一度洗い流し、再度シャンプーを塗り付ける。

数度も行っているとようやく泡立ちがよくなってきた。

敏感な獣耳も念入りに洗う。

このあたりでようやく、少女の震えは収まってきた。

少しお湯の温度を上げる。

 

「シャンプーは目に入りませんでしたか?」

 

「……ぁ、え……」

 

まだ混乱しているのか返答は言葉にならない。

まぁ痛がってはいないようなので気にせず作業を進めることにする。

髪と耳が洗い終わったら、次はスポンジと石鹸で首筋、肩と徐々に下へと洗っていく。

 

「あ……んっ……」

 

汚れは酷く垢もかなり出るので結構強めに擦ってやると、なんか変な声を出し始めた。

……いや、今は別に普通に洗ってるだけなんだけど。

薄汚れた浮浪者を洗ってやってるだけなのになんかイケナイことでもしてる気分になる。

 

「なに変な声出してるんですか。発情でもしましたかこの駄犬」

 

「……ぅあ、ごめん、なさい……きもちよくて……」

 

……なんて直球な。

ああいや、よく考えたらコイツ、他人に体を触られるのが初めてなの……か?

というかコイツの生い立ちで性知識なんかないか。

 

「腕ほどきますよ」

 

飾り紐を解いても、依然としてしっかり後ろ手に組んだままだ。

爪も掌に食い込んだままなので、手のひらでにぎにぎと包み込みながらゆっくりとほどいてやる。

血が滲んでいるのが痛々しいが、そこまで大きな怪我ではない。

 

ただ、目の粗いスポンジでは痛いかもしれないので、石鹸を直接手で泡立て、指同士を絡めるようにして洗っていく。

……爪の手入れもちゃんとされてないな。

伸びきっているし、爪と指の間にゴミが溜まっている。

まぁ、これは後回しか。

 

「――っ!」

 

掌の爪痕をなぞると、石鹸が染みたのか体をこわばらせた。

しばらくそのまま手を握って慣らす。

徐々に力が抜けていき、ふにゃっとした子供の手に戻った。

 

――小さな手、紅葉のような幼い手だ。

そして、助けを求めて伸ばして、誰にもつかんでもらえなかった手。

そうして今こうやって性悪の鴉天狗に捕まってしまっているのだから、本当に救いようがない。

 

「手をあげてください」

 

「え?」

 

「万歳ですよ、ほら、ばんざーい」

 

手をあげさせて、腕から、脇、胸、背中、と順に洗っていく。

こうして見るとミンク族にしては毛のない箇所が多い。

種族や個体によっては全身ふさふさだったりするけど、コイツは耳や尻尾以外ほとんど人間と変わらないかもしれない。

 

「あ、の……しゃめいまるさま……」

 

「ん、なんですか?」

 

聞き返したが、待てども質問が来ない。

なんだ、呼んだだけ?

まぁいい、ようやく半分が終わったところだ。

 

「腕はおろしていいですよ。その代わり立ってください。足は肩幅に開いて。尻尾は持ち上げてもらえると助かります」

 

「あ、はい……」

 

背中からお尻にかけて洗っていく。

尻尾は……毛の量が多いし、もしかしたら()()()()かもしれないので今は触れずに後回しにしておく。

それにしても少女を立たせ、その足元に私が跪いて洗っている今の姿は、私の方が召使いのようだ。

そういえばそろそろ私の服も濡れて張り付き、鬱陶しい。

脱ぐ暇がなかったとはいえ、着衣状態でシャワーを浴びることになったのは初めての経験だ。

 

太ももから膝、ふくらはぎと洗っていき、もう一度椅子に座らせる。

今度は足を持ち上げて洗う。

 

「んっ……くすぐったい……あっあっ」

 

指の股や足の裏に手を滑らせると嬌声が響く。

口元に手を当てて必死で抑えているようだけど、全然抑えられていない。

まぁ、これからもっと酷くなるかもしれないのでこの程度ならば気にしない。

 

足の先まで洗い終え、また立ち上がらせて、今度は私が椅子に座る。

 

「さ、私の膝の上に腹ばいになってください」

 

「はい……」

 

椅子に座った私の膝の上に少女が恐る恐る横たわる。

姿勢としてはいわゆる、お尻ぺんぺんのポーズだ。

恥ずかしいポーズだろうが、従順でなにより。

心の中でどう思っていようと、表面上従ってくれればそれでいい。

 

「さて、暴れないでくださいね」

 

そう言って、尻尾の付け根を揉むようにして洗う。

反応は、劇的だった。

 

「ひゃんっ!? あっ、だ、だめっ――きゃいんっ!」

 

「こら、暴れるなといったでしょう」

 

「ひっ!?」

 

パァンと軽く尻を叩いてやると、すぐに大人しくなった。

手足がだらんと脱力している。

尻尾のもみ洗いを再開するとやはり反応は大きかったが、今度は歯を食いしばって声を抑え、手足も動かさないように努力している。

 

まぁ、こうなることは予想していた。

イヌ科のミンクは尻尾の付け根が弱い。

神経が多く通っていて刺激が脊髄に直結するため、どうしようもなく敏感だ。

ちなみにこれはミンク族に限ったことでもなく、私も翼の付け根は弱く、フランさんも同じ部分が、メイリンさんは顎の下と角が弱いらしい。

フランさんのあの棒のような羽に神経が通ってるのを知ったときは驚いたものだ。

 

それにしてもごわごわの尻尾だ。

長い間櫛入れどころかまともに洗われてなかっただろうから、毛と毛の間に汚れが溜まり、指で梳こうとしてもすぐに絡まる。

石鹸もまったく泡が立たない。

 

「っ、ふっ、ふっ……あ、あの! しゃめいまるさま!」

 

「終わるまで止めませんよ。静かにしててください」

 

「ふぁ、ひゃい……」

 

どうせ恥ずかしいからやめてくれとかそんなことだろう。

気持ちは分からなくもない。

私だって翼を他人に洗ってもらうなんて気恥ずかしいし、変な声でも上げたらと思うとやってられない。

 

うーむ、方針変更だ。

ぱぱっとまとめて終わらせるつもりだったけど予想外に汚れがしぶとい。

ちょっと時間はかかるけど、毛を一本一本洗っていくような感じにしよう。

 

「はっ、はっ、……っは、はっ……ん……」

 

しばらく洗っていると少女の息遣いが荒くなり、声が漏れてき始めた。

そして姿勢のおさまりが悪いのかもぞもぞとお尻を動かしている。

 

「こら、動かないでくださいよ」

 

そう言うと動きは止まったものの、数分もするとまたもぞもぞ動き出す。

ずっと同じ姿勢で疲れたのだろうか。

しかし、もう少しで尻尾も洗い終わるのだから手元を狂わせないでほしい。

いい加減張り付いた服が不快になってきているのだ、早く終わらせたい。

 

「動くなと言っているでしょう」

 

返事はない。

それどころか動きが若干速くなった。

ここにきて従順さが薄れてきたか?

とりあえず、先のように一発軽くお尻を叩いてやることにした。

 

「こら駄犬、動くな」

 

パァン、といい音が浴室に響く。

同時に、「ひっ」という息を吸い込む短い悲鳴。

――シャワーとは別のちょろちょろと水が流れる音。

なぜだか温かくなる私の右腿。

その温かさは膝を伝い、足首まで伝わっていく。

「ひっく、ひっく」としゃくりあげる涙声。

 

思わず、毛を梳いていた手が止まった。

 

シャワーの流れる音、少女の嗚咽、謎の水音だけが浴室にこだまする。

二十秒か、三十秒か。

それくらいの時間が流れ、水音は止まったが、私の右足はすっかりと温められてしまった。

 

「あやややや……まさかこんなところでマーキングされるとは……」

 

いや、ほんと勘弁してほしいというか。

泣きたいのはこっちなんだけど。

ああもう、確かに話を聞かずに黙れと言ったし、もじもじしてるサインにも気が付かなかったけれども。

けれども!

 

……まぁ、ここが浴室なのが不幸中の幸いか。

すぐに洗い流せるし、服は洗濯すればいい。

虐めすぎた報いとでも思おう。

 

「大丈夫ですから、気にしなくていいですよ」

 

「でも、その、あの、わたし……ひゃあん!?」

 

うだうだと言っているので、尻尾の付け根を弄ってやる。

すっかり綺麗になった尻尾は、茶色く薄汚れていた面影などなく、水を弾いて白銀に輝いている。

もにもに、ぐりぐりと遊んでやると、随分といい反応をする。

 

それにしても、考えてみればここ数百年、こうして誰かと触れ合うことなどなかった。

ミンクの里を出てフランさんたちと別れてからというもの、出会う人たちとは常に距離をとっていた。

今回はまぁ成り行きというか、勢いに任せた部分が多かったけれど、それでも珍しいこともあるものだと思う。

実家に帰ってきて気が緩んだのかな。

 

さて、そろそろ終わりにしよう。

いい加減私も湯に浸かりたい。

 

「さて、悶えているところ申し訳ないのですが。……こら、いつまで発情しているんですか」

 

「ひゃんっ」

 

悶えていた駄犬は一発くれてやると静かになった。

同じところを三発も叩いたからか、うっすらと紅葉の手形が浮かんでいる。

 

「それで、気分はどうですか?」

 

「あ……すごくきもちよかった……」

 

「いや、そう言うことを聞いているのではなくてですね。水はまだ怖いですか?」

 

「へ? ……あれ?」

 

今もシャワーは私と、膝の上の少女に勢いよくかかっている。

しかし、当初見せたような怯えは見られない。

ショック療法はまぁ、成功かな。

 

「あれ……なんでわたし……」

 

「お湯は温かくて気持ちがいいでしょう。力が抜ける感覚はありますか?」

 

「いや、大丈夫……目も見える……」

 

「あなたは水が苦手なんじゃなくて水に浸かるのが苦手なのです。分かりましたか?」

 

「は、はい」

 

「では落ち着いたところで膝から降りてくださいな。いい加減服がずぶ濡れで鬱陶しいのです」

 

膝の上から少女を下ろし、湯船にお湯をためる。

そしてその間に、ようやっと服を脱ぐ。

今着ている服はフランさんの服のように妖力でできているものではないので、パッと消したりはできないのだ。

 

「あ……羽……」

 

「うん? 私の羽がどうかしましたか?」

 

「服から飛び出てるから、引っかかるかと思って……」

 

「ああ、私の羽は妖力が具現化したものですからね。服に穴は開いてませんよ。脱ぐ時も少し気を付ければ……この通り」

 

シャツを脱ぎ、下着も外す。

羽には引っかからないけど、濡れて肌に張り付いているので随分と脱ぎにくい。

 

羽に関しては、本当はしばらく前から消して体内に収納することはできるようになっている。

その方が抜けた羽の処理もしなくていいし、普段の生活でも引っかかったりしないし、寝る時もうつ伏せではなくベッドに背中を付けて寝られるようになる。

しかしまぁ、この羽は鴉天狗である私の誇りみたいなものだから、生活の快適さ程度と引き換えではあまり隠す気にはならない。

せいぜい取材で人間に扮して潜入するときくらいか。

あとは、フランさんが羽を消せないらしいから、私だけ消すのもな、っていう思いもある。

なんか寂しいじゃない?

 

ようやく鬱陶しいずぶ濡れの服を全て脱ぎ去る。

結構な時間同じ姿勢で座っていたためか、大きく伸びをすると軽く音が鳴った。

 

「きれい……」

 

少女がそんなことをつぶやく。

一瞬体の事かと思ったが、その目は私の翼に向けられている。

それならばと少しバサバサと動かしてみると、わかりやすいほどにキラキラと目を輝かせた。

鴉天狗の誇りに思っている羽なので、そんな純粋な反応をされると嬉しいものだ。

人間相手だと異物感の方が強いらしく、奇異や嫌悪の目を向けられることの方が多い。

まあ動物の特徴を身に持つミンク族にしか理解されない美醜感覚なのかもしれない。

 

「さて、さっさと湯に浸かりましょう。シャワーを浴びるだけではやはり味気ないものです」

 

「あ、でも私は……」

 

「気にせずとも三人以上は入れる大きさの湯船……ああ、水に浸かるのが心配ですか」

 

とはいえ彼女がただの水嫌いなのではなく、悪魔の実の副作用で泳げないだけなことがわかったので対処は簡単だ。

お風呂に入り、お湯に妖力を溶かしていく。

大事を取って少し濃い目にしておこうか……こう表現するとなんだか入浴剤のようだ。

 

「まあ騙されたと思って入ってみてくださいな」

 

「で、でも……」

 

「ほら」

 

逡巡する少女の手を引き湯船に引き込むと、ひっ、と息を吸い込むような押し殺した悲鳴が浴室に響く。

少女は縋るような目でこちらを見てくるが、それを無視してそのまま肩を掴んで座らせる。

ざぷん、と水面が波立ち少しお湯が溢れた。

暴れようとするのを背後から抱きつくような姿勢で、力づくで押さえ込む。

 

「はいはい、どーどーどー」

 

「あの、はな、離してっ」

 

「肩まで浸かって百数えたらいいですよ」

 

「そんな!」

 

しかしまあ、暴れている時点で水に浸かっても力が抜けていない、ということに気づいても良さそうなものだけど。

そのことに少女が気づいたのは実に一分以上も経ってからだった。

 

「あれ……私……?」

 

「はいはい、落ち着きました?」

 

「あの、私、水に……」

 

「ええ。先程そう説明しましたが、何事にも例外はあります。具体的には悪魔の実の能力者は水に浸かれない。ただし妖力の混ざった水を除く、といったところでしょうか。これは悪魔の実の力と妖力の親和性が非常に高いことを利用した画期的な方法でして、このやり方が発見されるまでは概念の反転とかいう恐ろしい魔法を使っていたそうですから……とはいってもあなたは悪魔の実が何なのかも分かってはいませんしね」

 

「えっと」

 

「そうですね、私と一緒なら水も大丈夫ということです。いまはそう覚えていて貰って構いませんよ」

 

少女はまだよく分からないといった顔をしていたが、この説明でとりあえずは納得したようだった。

はあ、これでようやくのんびりできそうかな。

 

 

 

 






ドSロリコンツンデレ鈍感系鴉天狗とドM薄幸系デレデレ従順な白狼の話。

日常回が書きたかっただけなのに、ただ風呂に入るだけで終わった……どうしてこうなった。

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