東方project × ONE PIECE ~狂気の吸血鬼と鮮血の記憶~ 作:すずひら
・それでも彼女はいなくならない
その後のことを語ろうと思う。
メイリンからの永久ストーカー宣言(本人曰く”一世一代の告白”)を受けて、私達は以前のような関係に戻った。
今にして思えば、私はなんでメイリンを避けていたのやらって感じだけど、まあ過ぎ去ったことだからこそそう思えるんだよね。
まあとにかく、私は心も体も万全の状態に復帰したわけ。
そうそう、あのあとメイリンが、「私達の関係って何なんでしょう?」と尋ねてきた。
言われてみれば、確かに私達の関係性を表す言葉というのは見つからなかった。
強いて言えば、主と従者?
まあでも、私としてはそんな角ばった関係は嫌だったから、「家族」と答えておいた。
メイリンが小さかった頃から育てているから子供みたいなものだし、長年連れ添った仲だ。
一緒に過ごした時間なら、ぶっちぎりのトップでもある。
なにより、スカーレット海賊団のクルーは皆家族だって思ってるしね。
船の上っていう特殊な環境は仲間内の絆とか、そういうものを強力に育む効果がある。
長い航海を共に過ごしたのなら、それは血のつながりよりも濃い絆になる。
だから家族っていう関係性は、とてもしっくりと来た。
メイリンも気に入ってくれたみたいだし。
ただ、どっちが姉で、とか母で、とかそういう話はしていない。
色々とこじれそうだしね。
主に実年齢と見た目で。
それで、私は久しぶりに地上に帰ろうかと思ったんだけど、リヴァイやレヴィアや島長たちに、じゃあバイバイと別れることはできなかった。
とりあえず近いうちに地上に戻ることは伝えて、そのまま魚人島に滞在することに。
もうすぐレヴィアと島長が結婚しそうだしね。
娘の晴れ姿は見たいし、披露宴を盛り上げてあげなきゃ。
目指すはタイやヒラメや魚人や人魚や海王類が舞い踊る竜宮城だ。
ていうか実際に建てて結婚祝いに新居としてプレゼントしようかな、竜宮城。
どうせ体の大きいレヴィアのために、特注の家は作らなきゃならないだろうし。
そうそう、魚人島への滞在中はメイリンと彼女の船のクルーもここに残ることにしたらしい。
メイリンはまあわかるけどクルーたちまで付き合わせるのはなんだか申し訳なかったので、「良ければラフテルに送り返そうか?」といったんだけど、なんと彼らは皆ラフテルの出身ではないらしい。
メイリンが今回の深海行きに用いた植物はヤルキマンマングローブという。
ボコボコ気泡を出す”やる気満々”な”マングローブ”のような植物だからとメイリンがつけた名前らしいけど……まあ彼女のネーミングセンスは今に始まったことじゃない。
で、このヤルキマンマングローブは実験と調整のために魚人島の真上あたりで大量に飼育していた。
数百年も経つと完全に島のようになり、いつの間にか人も多く住み着くようになったらしい。
つまり彼等クルーはその島――シャボンディ諸島の出身だということだ。
島を作ったり、擬似的な国が出来上がったり、メイリンも意外と色々やってるよね。
実際海底までくる技術も発明してるし。
メイリンによって調整されたヤルキマンマングローブのシャボン玉で船をコーティングする技術は、学べば一定の覇気持ちの人なら誰でもできるって言うし。
私の魔法による船体保護は私しかできないから、汎用性って点で足元にも及ばない。
そんなシャボンディ諸島出身のクルーたちは地上に帰ることを拒否した。
というか人魚たちにメロメロになったというのが正しい。
魚人と人魚たちは私が作り出したホムンクルスをベースにしているので、体つきや顔つきはわりと理想形に整っているからねえ。
美男美女揃いで体も逞しかったりしなやかだったりである。
まあ、魚の種類によってはアレな見た目の人も結構いるけどね。
クルーのうちには魚人に一目惚れした人もいるようだ。
タコの魚人にとはまたマニアックな趣味をお持ちで。
ちなみに、魚人と人魚の男女比については、魚人は男性が多く、人魚は女性が多い。
ただ、多いだけでいないわけじゃない。
★
そんなこんなで五年ほど。
レヴィアが無事出産した。
産まれた人魚の男の子は元気に泳ぎ回っている。
驚いたのはその大きさ。
だいたい30メートルくらい?
レヴィアと島長のちょうど中間くらいだ。
あれかな、海王類のリヴァイの血が薄まって大きさが小さくなっているのかな。
このまま数世代も重ねれば普通の大きさになるだろう。
良かった、レヴィアは体が大きいのがちょっとだけコンプレックスだったらしいからね。
日用品とかも特注サイズだし、可愛い洋服もない。
夜の営みもサイズが合わなくて大変だと嘆いてた。
うん、そういう生々しいのはやめてね。
私これでもそういう経験ないからさ。
……てか娘に先を越される母親って凄く珍しいような。
いいもん、一人でも。
強いていうなら今のメイリン?
人妖の狭間にして、人として練り上げた体も頂きを極めている。
どんな味がするのかは気になる。
そういえばメイリンの血って飲んだことなかったな。
マロンやクックといったスカーレット海賊団の初期メンバーはだいたいスキンシップで吸ってるんだけど、メイリンだけ加入時期が遅かったからなあ。
たしかメイリンってB型だったし美味しいとは思うんだけど。
B型は他に比べてまろみが違うんだよね。
今まで飲み比べた中じゃB型が一番おいしい。
思い返せば数百年以上血は飲んでないし、今度飲ませてもらおうかな。
★
そんなこんなで十年。
ある日、ふと思った。
「ねえ、メイリン」
「ん、なんですか、フラン様」
「その、フラン様っての、どうなの?」
「へ? どうなの、とは?」
「いや、前に私たちの関係について話したことがあったじゃない。で、結論として家族ってことで」
「ええ、そうでしたね。……ああ、私の敬語とフラン様って言う呼び名ですか」
「そう。家族に対して敬語とか様付けとか変じゃない? いや、長年そうだったから別に違和感があるとかってわけでもないんだけどさ。ふと気になって」
家族に敬語とかっておかしいよね?
そういう人がいるのは知ってるけど、メイリンはこぁとかにとりとかにはため口で話してるの知ってるし。
なんかこう距離あるなーって。
いやまぁ物理的な距離ならここ十年くらいはかなり近い気もするけど。
「うーん、考えたことがありませんでしたねぇ。私もこの話し方で慣れてしまっている部分がありますし。さすがにフラン様のことを呼び捨てたりため口って言うのはなんか違う気がして」
「そんなものかな」
「私は別に近しさとか気の置けなさとかで口調変えてるわけでもなくて、その人に一番合うような感じで自然にしゃべっているだけっていうか……」
「なるほどねー」
「でも、そうですね、何か家族っぽい、家族にしかわからないような特別な呼び方とかはあってもいいかもしれません」
む、この流れはもしかして私たちの関係性を明らかにする必要がある話?
でも複雑なんだよねぇ。
見た目ならメイリンが年上に見えるし、実際は私の方が上で。
子供のころから育ててる関係的には母娘だけど、メイリンの見た目も十代後半ってところだから姉と妹に見えるし。
実年齢を考えるとおばあちゃんと孫すら超える。
いや、1800歳のおばあちゃんと1100歳の孫ってのもアレだけど。
メイリンにおばあちゃんって呼ばれるのはちょっと嫌だなぁ。
でもお姉ちゃんってのはなんか違和感。
お母さん、は割としっくりくるけどなんかまだそんなに所帯じみたくない感はある。
まだまだ若々しくいたいっていうか?
まー、体はまったく成長しないし心の方も相応な感じでそう大きな変化をするわけでもないと思うけどね。
そんなことを考えていると、同じく考え込んでいたメイリンがパンッ! と勢いよく手を合わせた。
「思いつきましたよ、フラン様の呼び名!」
そのいかにもいい物を思いついた、と言わんばかりのはじける笑顔を見てちょっと嫌な予感がした。
そういえばこの子、ネーミングセンスはことごとく壊滅的な……。
「
おおっと、予想の遥か斜め上を飛んで行ったぞ。
いも……いもねえ。
これはつまり、
ん、んー、だめだな、不意打ちだったせいかちょっと顔が赤くなってるかもしれない。
「えっと、その、メイリン? それはそういう意味でいいんだよね?」
いも。
中学や高校の古典の時間に習うような、基本的な単語だ。
意味は“親しい女性”。
男性が自身の女きょうだいを指すこともあれば、女性から女性のことを言うのにも使う。
ただ、それよりもっとメジャーな使い方がある。
それはいわゆる、
つまり、“恋人”や“伴侶”を示す言葉だ。
普通は男性から女性に使うのだけど、まさかこの場面で普通の友人という意味で使ったわけではないだろう。
私がラフテルの辞書にちょろっと載せただけの、この世界には存在しない古語をわざわざここで持ってきているのだし。
だからこれは、当人同士の間でしか分からない、秘密の睦言のような呼び名なわけで。
考えようによっては、ストレートな愛の言葉よりもよっぽど淫靡なそれで。
えっと、だからその、メイリンの言う家族って言うのはつまり、母と娘でも、姉と妹でもなくて。
「はい! 単に
ずっこけた。
「……? え、は? ああっと、つまり、その、メイリン? あなたのその
「え、普通に妹ですけど?」
気が遠くなった。
いったん血の気が引いて、また頭に上ってくる。
「じゃ、じゃあなんで
「え、短い方が呼びやすいし、なんだか響きが可愛くありません? いもさまーって」
あ、ダメだこれ。
ダメな奴だ。
私は頭を抱えてうずくまった。
は、恥ずかしいぃぃぃっっっ!!
なんだこれ、一人で意識してバカみたいじゃない!
ああもうそうだよ、メイリンを信じた私がバカだったよ。
世間的には知られない言葉を当人同士の符丁のように使うとかなにそれ、本人も知ってないよ。
そうだよあの抜けたところのある真っ直ぐなメイリンがそんな高尚な言葉を使うわけないじゃない。
愛の告白するならもっと直接するってば。
ああもう、なんだこれ、なんだこれ。
顔が熱い、血液が逆流して沸騰しそうだ。
なにが母娘でも姉妹でもない家族だよこのコンチクショウ!
なにが可愛い響きのいもさまーだよもう!
「え、え? フラン様、どうしたんですか!? 大丈夫ですか!?」
「大丈夫……ちょっと自殺したくなっただけ……」
「それ全然大丈夫じゃないですよね!? 気をしっかり持ってください!」
ガクガクと私の体をゆするメイリンに、以前のような遠慮はない。
これまではボディタッチの回数もそう多くはなく、一線を引いているような慎みのある態度だった。
それが、こないだの“告白”以降は精神的にだけじゃなく、物理的にも距離が近くなった。
一緒にお風呂入った時とかたまーに、
相変わらず彼女は親しい友人か距離の近しい従者といった感じで、何も進展があったりはしない。
私の方も、自分で自分の気持ちがまだ整理できてないからさっきみたいな醜態をさらしてしまうのだ。
いやほんとどうしたんだろう、私。
レヴィアの胸がやたら気になったり、魚人族と人魚族の恋愛模様を聞くのがここ数十年の趣味だったり、最近はメイリンのクルーたちと人魚たち(うち一人は魚人)との初々しいやり取りを見るのが楽しみだったり。
冗談で言ってたつもりだったけど、これほんとに思春期じゃなかろうか。
結局、
彼女はやっぱりポンコツでその言葉に言葉以上の意味はないけれど、まぁいいかなって。
しばらく呼ばせて馴染ませて、そのうち機会があったらバラしてやろうと思う。
あとメイリンが予想以上に気に入ったというのもある。
なんかしっくりくるそうだ。
そして、敬語はもう割とどうにもならないらしい。
試しにため口でしゃべってみてと言うと、苦渋の表情で口をもごもごさせ、あーだのうーだのうなった後に、「フ、フランさ……ウゥン! その、いい天気で、だ、だな!」といった感じで挙動不審な不審者そのものだったので諦めた。
まぁこれから長い付き合いをしていく中で変わるなら自然と変わっていくだろう。
ちなみに私の方からは何も変わっていない。
あれはただの便宜上のあだ名みたいなもの。
私からメイリンのことをお姉ちゃんと呼ぶこともないし、今の口調を何か変化させることもしない。
なお、
しかし“家族”にだけ通じる呼び名、という当初の目的は達成されているあたりが、メイリンの凄いところだ。
彼女はなんというか、理屈とか道理とか計算とかそういうものを飛び越えて結果を掴むようなところがある。
★
そんなこんなでさらに十年。
ある日のこと、私はメイリンにプレゼントを渡すことにした。
それは、メイリンがこんな海底くんだりまで諦めずに私を追いかけてくれたことへの感謝であり、ずっと私のそばにいてくれると言ってくれたことへの感謝であり、私の心を救ってくれたことへの感謝の気持ちを形にしたものだった。
プレゼントは、帽子。
色は緑を基調として、形はベレー帽のような平べったいもの。
メイリンのいつも着てくれている、私が作った中華風の服に合うようにデザインした。
帽子は手編みで、妖力を細く糸のように束ねて一本一本丁寧に編んで作った一品だ。
なにせ編み物なんて初めてだったから作り始めてから完成までに十年以上もかかってしまった。
ただ、編み物とはいっても目に見えるか怪しい細さで編んでいるので、見た目は普通の服のような生地と変わりはない。
服を作った時のようにぽんと作ることもできたのだけれど、一本一本に感謝の気持ちを込めたくて、わざわざめんどくさい方法で作ってしまった。
まぁ込めた想いの重さなら、メイリンにもなかなか負けていないだろうと自重するような逸品だ。
あとメイリン専用ってことが分かるように、帽子には“龍”と印字した
プレゼントを帽子にしたのは込めた想いが頭という一番大事で相手に近しい場所にいつも触れているから。
あと帽子を贈ることには「私を包み込んで」なんて意味もある。
国によっては「私を抱い――ごほんごほん、いや、なんでもない。
プレゼントを渡したときのメイリンの反応は……うん、まぁ恥ずかしいからこれは秘密。
まぁ、その日のメイリンはいつになく鋭くて、私が帽子に込めた想いを尽く読み取ってしまったのだけれど。
それだけ私が分かりやすいということかもしれない。
いやほんと、思い出すだけで恥ずかしいね。
でも、それ以上に嬉しかったから、いい思い出。
その帽子は、それからいつも被ってくれている。
★
そんなことがあってさらに数十年、いや、三百年ちょい?
正確な時間は分からないけど、とにかくかなりの時間がたった。
ほんとは地上へ戻ってもよかったんだけど、なんだかんだ居心地がよくてのんびりしてしまった。
けどそこまで経って、ようやく私とメイリンは地上へ戻ることにした。
きっかけは、レヴィアの死だ。
魚人や人魚の寿命は人間のものとそう変わらず、50年から60年ほど。
一部の覇気を身につけた者は100年以上生きる者もいる。
また、種族全体として年々寿命は延びているのでいずれは皆80くらいまでは生きるようになるだろう。
そんな中にあってレヴィアは海王類の血を引いているためか、非常に長生きした。
結婚した島長は天寿を全うし、彼自身の才覚もあって110歳まで生きたが、それでも彼が天に旅立ったその後の年月はとても長いものだった。
私はレヴィアもまた長い生に疲れてしまうかと心配していたのだけれど、彼女にそのことを話してみるとむしろ「お父さまとお母さまを置いて先立つ、親不孝な娘をお許しください」と泣かれてしまった。
それにはもう私もリヴァイもどうしていいかわからず大わらわ。
結局メイリンが仲立ちして場を収めてくれるまで大変だった。
レヴィアは幼少の頃こそ自身の能力と周囲との違いに悩んでいたけれど、成長してからは、誰の言葉にも耳を傾け、いつも親身になって助けてくれ、優しさを持ちながらも然るべきところではきちんと叱り諭すことのできる、素敵な女性になった。
島長と結婚したことも一因だけれど、それ以上に彼女はその在り方で魚人島の誰からも慕われ愛される、島の中心のような存在になっていた。
あとは、島長亡き後方々から後夫にと求婚されていたけれどその尽くを断る、一途な愛に生きる女でもあった。
そんな彼女に海王類達もベタ惚れで、レヴィアの能力が作用しているのかなとも思ったんだけれどそういうわけでもなく、単に彼女が魅力的だったりとか。
結局老いても変わらず心優しく、魚人島の皆の将来を案じ、静かにのほほんと微笑んで逝くような、私の自慢の娘だった。
レヴィアが亡くなっても特に魚人島が変わることはなかった。
彼女の葬儀で島中が深い悲しみに包まれはしたものの、彼女の子供も孫も健在で、島は正常に回っていた。
ただ、お父さま――リヴァイはもう落ち込んで落ち込んで。
生前に散々彼女と語らって、出来うる限りの覚悟は決めていたらしいけど、それでもやはり耐えきれないほどのショックと喪失感だったようだ。
まぁそういう落ち込みは私も何度も経験しているし、一応同じ娘の親として語ったり慰めたりと色々手は尽くした。
その結果リヴァイは立ち直りはしたけれど、彼女との思い出が多すぎる魚人島からはしばらく離れることにしたらしい。
それで、ちょうどいいきっかけだということで私とメイリンも地上へ戻ることにしたというわけだ。
ちなみに、メイリンのクルー達はというと、そのほとんど全員が人魚と結婚し、寿命と共に魚人島に骨をうずめた。
もともと「海に潜る」ということにロマンを感じて、ただそれだけを追い求めていた男たちがクルーになっていたわけで、その先で見目麗しい人魚に出会ってしまったらもう終わりというわけだった。
まぁみんな幸せそうだったのでいいだろう。
中にはハーレムを築いている猛者もいたことだし。
ああ、ハーレムを築いていたのは魚人好きの彼だ。
ハーレムメンバーは推して知るべし、なかなかの漢だったといえる。
一応幾人かは家族を地上に残しているということで、血の涙を流しながら誘惑を振り切って帰った者もいた。
私はシャボンディ諸島の座標を知らないので転移魔法は使わず、魔法の泡で彼らを覆い海王類に地上まで運んでもらうことになった。
これにはレヴィアがひと声かけてくれるだけで多くの海王類が協力してくれることになり、必要もないのに数十匹の大所帯で地上を目指すことになっていた。
地上ではまぁちょっとしたパニックになるだろうが、戦いをするわけでもないし仮に人間が襲っても海王類達には毛ほどの痛痒も与えられない。
むしろそれら海王類を率いて帰った(ように見える)クルー達は、さぞ英雄的扱いを受けて家族に対しても鼻高々だっただろう。
メイリンが一緒に帰らないから、「深海に行ってきた、そこには空想上の生き物だと思われていた人魚が住む楽園のような島があった」、なんて言ってもたわごとだと思われるし、帰らなかったクルー達を途中で見捨てて逃げ帰ってきたのか、なんて非難される可能性もあった。
しかしまぁ、海王類を群れで引き連れて帰るなんて常識外のことをやらかしたなら信憑性も十分だろう。
念のため証拠にということで、魚人島で如何に幸せでラブラブチュッチュな生活を送っているかを赤裸々に綴ったクルーらの手紙や、魚人島の名産品などを土産に持たせたけれど。
なおメイリンはメイリンで私のそばをウロチョロしたり、魚人たちに武術を教えたりとそれなりに楽しんでいたようだ。
特に武術に関しては師匠的なことをするのに憧れでもあったのか、随分と熱心にやっていた。
メイリンの武術はクックに教えられた武術と我流の拳法の組み合わせだ。
総合的にはメイリンのそれは非常に洗練されたカンフーっぽい武術のように見えるけど、源流は実は異なる。
実はクックの武術の方が本人が和風な感じなのにカンフーっぽく、メイリンは中華っぽいクーロン出身なのに彼女独特の拳法は空手っぽい。
そして、メイリンは此度魚人たちに武術を教えるにあたって、クックから伝承したカンフーではなく、自身の考案した空手に限って教えることにしたそうだ。
まぁ師匠の許可もとらず勝手に孫弟子をとるようなものだしね。
クックがもう亡くなっていることを考えるに、メイリンが使うカンフーのような武術はもう誰にも伝承されないのかもしれない。
ま、メイリンが生きている限り絶えることはないし、メイリンは死なないから永久に絶えないといっても過言じゃないんだけどね。
あ、そういえばクックがかつてなんでか知らないけど武術を教えてた砂漠のジュゴンたちがいたな。
アレらが千年以上も武術を伝承してたらちょっとすごいけど。
また、メイリンは自身の空手の技術だけでなく、魚人の身体的特徴を活かした技や、水中であるからこそできる技なんかも考案、会得して、魚人たちに教えていた。
さらっとそんなことをできるあたり、この子も大概人間やめてるよね。
とにかく、メイリンはこの武術を魚人空手と名付けて熱心に教え、また魚人たちもよく学んでいた。
ちなみに、人魚たちは魚人族に比べて種族的に好戦的な者が少なく、ほとんど学ぼうとしなかったため、魚人空手の名がついている。
メイリンはそれはそれは楽しそうに武術を教えまわっていたけど、それから100年もたつとどうやら魚人空手については教えることがなくなったようで、今度は魚人柔術なるものを開発して教え始め出した。
私も教育の真似事は好きだけど、メイリンにも伝播してるのかも。
さらに柔術に関してはあまり好戦的でない人魚族も興味を示し、人魚柔術というものも開発して教えだした。
私が前世などで学んだ知識やらを教えているのに対して、メイリンはその場で自分がまず独力で学び、それを伝えていくというなんとも高等なことをやっている。
たぶん教育者としてなら完敗なんだろうなぁ。
メイリンが恐ろしいのは、人魚族が柔術に興味を示したのをきっかけに更なる武術の道に引きずり込もうと画策したことだ。
そしてそれが成功しちゃうんだから、ほんとにもう。
メイリンは魚人族が自身の体を武器に戦うことを好む一方で、人魚族はそうではないことに気が付いた。
これはまぁ、体のつくりの違いというか力に優れる魚人と速さに優れる人魚の違いだからしょうがない。
そこでメイリンは人魚たちに武器術を教えだした。
彼女は剣をマロンに、槍をランに教わっていた他、その他の武器もほとんどを非常に高いレベルで収めているから武器術もお手の物だ。
なんか鎖鎌とか鉄扇とか、三節棍にモーニングスター、トンファー、手甲鉤、チャクラムなんかも使っているのを見たことがある。
彼女はどこへ向かっているのか。
無駄に時間は有り余ってるからそうなるんだろうけども。
ともかく、人魚具術と名付けられたその武器術によって人魚族もメイリンの修行沼に引きずり込まれることになったのだ。
まぁ、楽しそうなら何より。
★
そんなこんながいろいろあって、千数百年にも及ぶ私の海底生活は幕を下ろした。
地上で暮らしていた年月は800年ほどだから実はこの世界に来てから、海底で生活している時間の方が長いっていうね。
そうして地上に出てみれば、眩しく輝く太陽。
吸血鬼の天敵を実に千数百年ぶりに見て、なんだか感慨まで抱いてしまった。
陽樹イブは太陽と同じ光を放つけれど……やはり一度木を通した光と直接の太陽光は、比べてしまえばそれこそ天と地の差だ。
まずはラフテルへと帰ろう。
※前話のタイトルの形式がいつもと違ったり前書き後書きがないのは仕様です。
前話は回収したかったタグが一つ回収できて非常に満足しました。
魚人の女性
魚人の女性は本編に出ないのでいないものと誤解されがちですが、はっちんの想い人であるタコの女魚人オクトパ子が扉絵に出ています。
B型が一番おいしい
ワンピース世界の血液型はいわゆるABO式血液型ではなく、X,F,S,XFのXFS式血液型です。
ただ、フランがいてXFSとかいう謎の名称が付くはずもないので本作ではそのままABO式を採用ということで……。
ちなみにB型が一番おいしいというのはレミリアの好みで、永夜抄おまけテキストから。
姉妹だからきっと味の好みも同じ。
いも
女性から女性へ使う用法はあまり知られませんが、こんな使用例が。
風高く辺には吹けども
友人にお土産を持ってきた時の句ですが、ちょっと押しつけがましい感じに戯れています。
魚人空手他
魚人空手が有名ですが、魚人柔術、人魚柔術、人魚具術も原作に登場しています。
★帽子のプレゼント★
ワンピースにおいて帽子の授受は最重要事ですね。
東方においてもZUN帽の重要性は共通している気もします。
これにて家出編終了!
時間も一気に飛んで次章「大戦争編」に突入です。
「天空の戦」を超える本作最大のバトル展開ですが、描写しきれるか……最悪ダイジェスト化までありえる。
そこを超えれば、原作時空に突入していきますね。