東方project × ONE PIECE ~狂気の吸血鬼と鮮血の記憶~   作:すずひら

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前回のまとめ

・砂漠のオアシス堪能
・大量の大理石と雪花石膏発掘
・タージ・マハルもどきの宮殿建設開始

今話は会話文多めの番外編的な感じ?


ナヴィとの話とルミャとの話

 

 

みんながせっせと宮殿を作っている間、暇だった私は砂漠中を飛び回って冒険していた。

しかしそれも半年ほどで飽きてしまい、それからはきまぐれで建築の手伝いをしたり、砂漠の民に色々と教えてあげたりしていた。

大理石の切り出しなどは悪魔の実の能力や、覇気を纏った剣でスパスパきれるのでいいのだけど、もち運びと組み立ては人間の彼らにはそれなりに厳しい。

その問題は私が周囲一帯に重力軽減の魔法をかけるだけで一発解決なんだけど。

 

砂漠の民の方に関しては、最初は見た目が幼女な私がクルーみなのトップらしいということで疑問を持っていたみたいだけど、一回魔法で雨を降らせたことでそれも一発解決だ。

やっぱりオアシスとはいえ砂漠で雨を降らせる能力って重宝されるよね。

降雨の魔法は五行の一、水に関する比較的簡単な魔法なんだけどね。

ただ、雨の中では吸血鬼(わたし)が動けなくなるのと、ペラペラの実の紙人間のナヴィに嫌な顔されるからあまり降らせたくないところではある。

 

お、噂をすればなんとやら。

 

「おーい、ナヴィー」

 

「おや、船長。どうしました」

 

「ちょっとお話ししない?」

 

「ええ、いいですよ」

 

暇だったのでナヴィを捕まえておしゃべりすることにする。

そういえばナヴィは現状に対してどう思ってるんだろう。

 

「そうですね。私としては早く航海を再開したいという気持ちもありますが、カープが実に楽しそうですしね。クルーもみな協力的ですし、しばらくはこのままでいいんじゃないでしょうか」

 

「航海を再開したいって言うのは、やっぱり?」

 

「ええ、私は生きているうちに世界地図を書き上げたい――まぁ、10年以上かけてカームベルトの間のみ、それもまだ半分しか終わっていないという現状では夢物語なことは分かっているんですが」

 

「カームベルトの間って言っても、隅々まで探索したわけでもないしね……」

 

「そうですね。だから夢としては持っていますが、半ば諦めていますよ。だから早く海に出ようとカープを責める気もありませんしね」

 

「……それは、時間さえあれば解決するのかな?」

 

「船長?」

 

「ねぇ、ナヴィ。私が永遠の命をあげるって言ったらどうする?」

 

「それはこぁ様のように眷属化する、ということですか?」

 

「……うん。こぁみたいに完全に私の眷属になれば人間の尺度じゃほぼ不老、永遠の寿命を得ることにもなると思う。ルミャみたいに眷属まで行かなくても、私の因子を強く与えれば100年200年以上寿命を延ばすのはわけないよ」

 

「……船長。いえ、フラン様。今、ご自分がどんな顔をなさっているか分かりますか?」

 

「……え?」

 

「迷っていますね。私を眷属化はしたくない、それでいて(ナヴィ)が死ぬのも嫌だ、なんて。私の自惚れでなければそんな顔をしていますよ」

 

「…………」

 

「そしてそれは、カープにも言えることなのでしょう。それで、私に聞いてみた」

 

「……やっぱりナヴィは頭がいいね。なんでもお見通し、かぁ」

 

「いえいえ、私がというよりはフラン様が素直なだけですよ」

 

「単純って言ってる?」

 

「いえ、わかりやすい、と」

 

ニヤリと笑ったナヴィの顔を見て、私は思わず噴き出した。

こんなやりとりは、ラフテルにいたころじゃ想像もできなかった。

この気安い軽口を叩ける関係性は、この10年にも及ぶ大航海で培われたものだった。

 

笑ううち、涙が出てきた。

この涙は、なんの涙なのだろう。

 

「――そう、だね。私は、ナヴィやみんなが人間であることがうらやましい。今を生きる生命の一瞬の輝きっていうの? それが見ていてとても眩しい」

 

もとは人間だった私が言うのも変な話だけど。

私の持つ妖力と、人間の持つ覇気。

どっちも生命エネルギーのような力で共通点もあるけどまったく同一の力じゃない。

それは、なんでか考えたことがある。

 

その性質を研究してわかったことは、覇気はその時を生きる人間の生命力の発露だということ。

子供が持つ覇気は弱く、外に出すことが難しい。

成長して来れば生命力の増大に伴って覇気の強度も増す。

そして、死に近づくほど弱くなる。

 

それに対して私の妖力は、過去生きてきた歴史の積み重ねだった。

私の妖力はこの世界に生を受けたときはたいしたことがなかった。

それが、この世界で過ごしていくうちに徐々に増大していき、100年を超えるころには人間のそれを上回っていた。

妖力の増大は700年経った今でも続いている。

それを知った時、私の中には納得があった。

吸血鬼を含む妖怪の類はその生きてきた年月が長いほどに力を増す。

私たちのような存在は、過去何を成してきたか、がそのまま力となるのだ。

 

何を成すかで発露される未来に生きる生命の力と、何を成してきたかで顕現する過去に生きてきた生命の力。

それが、覇気と妖力の違い。

そして、人間と妖怪(わたし)の違いだった。

 

「私は“今”を精いっぱい生きるってことができないの。私にとっては“今”は長すぎる。永遠に終わらない“今”を生きるのはある意味地獄だよ」

 

「だから私たち人間がうらやましい、と?」

 

「そう。そして、それだから眷属になんかしたくない。こぁのときは事故で、偶然で、相手も望んでいた結果になったからって自分を納得させることができたけど、今度はそうはいかない。……でも、人間の寿命は――短い。私からすれば、それこそ一瞬の輝きだよ。あと30年もすればスカーレット海賊団の初期メンバーはルミャ以外みんな寿命で死んじゃうでしょ」

 

「そうですね。私や副船長ももう40過ぎです。一番若かったウェンディゴ君も30を超えましたものね」

 

「私はもうラフテルで何回も世代交代を見てきたからさ、慣れてはいるんだよ。それでも、これほど濃い10年間はなかった。みんなにもとても愛着がわいてる」

 

「……そう言ってもらえればクルーは一同涙を流して喜びますよ」

 

「ナヴィは泣かないの?」

 

「私は、水が嫌いですので」

 

「……あはは、そうだったね」

 

空を見上げると、いつの間にか日は落ちて月が昇っていた。

砂漠で見る月は、幻想的なほど美しい。

 

「だからさ、死んでほしくないんだ。でも、人間はいつか死ぬ。私はどうすればいいのかなって思って、ずっと悩んでた。だから、最後にはきっと、みんなの意思を尊重する」

 

「フラン様が「死なないでくれ」、「眷属になってずっと傍にいてくれ」と言えば、私も含めクルーは誰でもフラン様に従いますよ。それでも私たちの意思を?」

 

「……うん。私が欲しいのはお人形さんじゃないもの」

 

「そうですか。――では、フラン様。最初の質問に対する私の答えを」

 

「……うん」

 

「――私は、永遠の命を望みません。フラン様とともにずっと過ごすというのは名誉で、心が打ち震えることですが、それでも私はフラン様が愛してくださった一人の人間として逝きたいと思います」

 

「……そっか。……うん、多分ナヴィならそう言うんだろうなって思ってた」

 

「だからこそ、私に話したのでしょう?」

 

「そう、なのかな。そう、なのかも」

 

「カープにも直接聞いてみることをお勧めしますよ」

 

「……結果は、分かってるけどね」

 

「それでも、ですよ」

 

「……うん」

 

私は夜空に浮かぶ月を見上げた。

そうしないと、水が嫌いなナヴィを不快にさせるかもしれなかったから。

鼻の奥が、痺れたように痛い。

 

「今の話を聞いて、私も一つ学びましたよ、フラン様」

 

「……どんな?」

 

「私は私一人で夢をかなえようと思っていましたが、必ずしもそうしなくてもいいということを。フラン様の言にあやかるなら、人間は未来に思いを託して行ける生き物でしょうから」

 

「そうだね。子孫を作るのは私にはできない、人間にしかできないことだね」

 

「とりあえず私も子供を作ってみようと思います。今まで色恋にはとんと興味を持てなかったのですが」

 

「あはは、航海中だと相手を探すのが大変だね。砂漠の民からだれか気に入った人でも見つければ?」

 

「確かに、水気の少ないこの土地の女性は相性がいいかもしれません」

 

「女性選びもそこが基準になるんだ……」

 

「ええ。どうも私は水気を連想させる肉感的な女性が苦手な様でして。それこそルミャさんのような女性の方が好みですかね」

 

「すっごい真面目な顔で貧乳好き宣言するんだね。ルミャが泣くよ?」

 

「貧乳というよりスレンダーな体型、ですが。ルミャさんに伝わると泣かれる前に副船長に殺されそうなので、ご内密に」

 

「いいけど。ルミャを寝取っちゃだめだよ」

 

「船長は私をなんだと思ってるんですか。自分で言うのもなんですが、恋愛経験のない40過ぎの堅物がそんなことをできるとでも?」

 

「言ってて悲しくならない?」

 

「いえ、まったく」

 

「なんかナヴィのそういうところ尊敬できると思う」

 

「それはありがとうございます」

 

すごく重い会話をしていたはずなのに、いつのまにか内容がとても軽くて気楽なものになっていた。

長く一緒にいた私には、これがナヴィの心遣いだということは分かっていたし、ナヴィも私が気づいていることを察しているだろう。

でも、私は何も言わないし、ナヴィも何も言わない。

 

船の針路のみならず、私の悩みも、会話の流れも、すべてを理解し操って見せるのが、スカーレット海賊団が誇る航海士、ナヴィという男だった。

 

 

 

 

さてまぁ、私もうじうじと思い悩んでいただけではない。

私の教育のおかげで滞在一年がたつころには、砂漠の民は日本語をちゃんと喋れるようになっていたし、一部の知識層は読み書きもできるようになった。あとは船にたくさん積んである辞書を数冊あげれば私たちが去っても文化はすたれないだろう。

ちなみに教育に用いたのは一種の精神魔法。

使い方によっては洗脳とか危ないこともできるのだけど、今回のは単なる知識の植え付けだ。

 

そして言語文化だけではなく、私はさまざまなラフテルの――正確には前世の――文化を伝道した。

そのうちの最も偉大な文化の一つが、何を隠そうずばり、

 

お風呂!

 

である。

 

 

「ふあぁぁぁ、生き返るぅぅぅー」

 

「船長は不死なだけで別に死んでないと思いますけど……?」

 

「いいの、ルミャ。こういうのは雰囲気なんだよ」

 

ここはこの世の楽園、じゃなかった、公衆浴場である。

砂漠で暮らしている人たちにお風呂の文化なんてあるわけもなく、もちろん私が作った。

元日本人のさがか、それとも流水が苦手な吸血鬼ゆえか、私はお風呂がとても好きだ。

それに加えて砂漠だと砂煙が舞い上がって全身がスナスナし始める。

で、我慢できなくなったのでどーんと大浴場を作っちゃった。

 

そしたらまぁサンタ・マリア号の船室の広いお風呂にすでに洗脳されていたクルーのみならず、砂漠の民にも大好評。

やっぱりお風呂は万人共通の文化だとはっきりわかるんだね。

ちなみに水が嫌いなナヴィと、入ったら溶けてしまうウェンは頑なに入ろうとはしない。

なお、悪魔の実の能力者は水に浸かると力が抜けるらしいけど、そこらへんは魔法で対策してある。

この船以外のお風呂に入れないってのは難儀な体だよね。

 

「ルミャもお風呂好きなんだっけ? なんかあんまりそういうイメージないけど」

 

「うーん、私もクルーの皆さんと同じで、この航海で染められちゃった派ですかね。ラフテルにいたころも公衆浴場はありましたけど、なんでわざわざ熱い湯に入るんだろうと思ってましたもん」

 

「まぁラフテルは気候的に寒くならないからね」

 

「そうですね。でもこの間ラフテルに戻った時にしっかり布教しておきましたから!」

 

「あはは。ラフテルにも温泉湧けばいいのにねぇ」

 

「温泉、ですか。天然のお風呂でしたっけ?」

 

「そうだよー。美容に良かったりとかお湯自体にいろいろ効果あったりするの。お肌がつるつるになったり」

 

「それはいいですね!」

 

「ルミャは別に気にしなくても肌もきれいじゃない」

 

「ふふ、船長に言われても自信持てませんよ。――でもまぁ、私も普通の人よりはずっといいんですよね……」

 

ルミャの言葉は前向きだけど、口調に影があった。

 

「……やっぱり、ヒトから外れつつあるのは、気になる?」

 

「いえ、そんなことは……。ううん、船長を、フラン様を責める気持ちとかは全くないんです。どころか、私の命を救ってくれて、それで私はマロンと結婚して子供もできて、幸せなんです」

 

ルミャにはかつて私の妖力を注ぎ込んだ。

その結果、彼女の体の中には吸血鬼である私の因子が混ざりこみ、身体能力などもろもろが人間のスペックを超えている。

具体的には、素の身体能力でクルー最強であるマロンの二倍、夜目がきき、五感に優れ、寿命は200年ほど伸びている。

寿命の延びにあわせて老化もほとんど止まっているため、もう三十路に差し掛かろうというのにルミャの見た目は10代の少女にしか見えない。

だから肌も手入れの必要がないほど白くて綺麗でハリがあるし、それでいてたおやかな外見とは裏腹に多少の怪我では死なない生命力もある。

妖力によって強制的に覇気にも目覚め、今本気でマロンとルミャが闘えば十中八九ルミャが勝つだろう。

 

それほどの恩恵を受けておきながら、実はデメリットはほとんどない。

勿論私がそのレベルにとどまるように調整したおかげだけど、ルミャは日光にも流水にも弱くないし、吸血衝動もない。

せいぜい、興奮した時に目が赤く染まるのと、夜の営み中にマロンの首筋に甘噛みする癖ができてしまったことだけらしい。

もちろん発達した犬歯なんてないので意味はないのだけど。

ちなみにこのせいで彼らがことに及んだ翌日にはマロンの首筋に噛み跡があるのではっきりとわかってしまう。

まぁデメリットと言えばデメリットだろうか。

 

と、そんなことはどうでもいい。

今は真面目な話をしてるんだった。

 

「でも、いつかはその幸せも終わってしまうんですよね。もともとマロンと私には年齢差がありましたし、先に彼が逝くことは分かってたんです。でも、今の私の寿命じゃ、マロンどころか子供たちが大人になって、老人になって、死んだとしても私はまだ生きているんです。そう考えたら、不安になってしまって。マロンがいない世界で私は生きていけるのかなって……」

 

その悩みは、吸血鬼になって以来私が抱えているものと同じだった。

だからよくわかる、他人に置いて逝かれる苦しみは。

その上、ルミャはまだ人間の範疇にとどまる。

同族と異なるというのは、それだけで精神を蝕むことだろう。

私はまだ、自分が吸血鬼だという誇りと自負を持てているから、大丈夫なだけだ。

 

そう言えば、半年くらい前にナヴィとも似たような話をしたっけ。

 

「まったくもう、お熱いことだね」

 

「あ、い、いえ。すみません、フラン様にこんなお話しするつもりじゃなかったんですけど……」

 

「いいのいいの。お風呂はこういう話をするための場所でもあるんだから。身に纏ってる服を脱ぎ捨てて、本音をさらけ出せる場所なんだから」

 

「はぁ……」

 

「そういうものなの。――ま、ルミャ。私から言えるのはせいぜい悩みなさい、ってことくらいだね」

 

「え?」

 

「長い間悩んで悩んで悩んで、それで出した答えがきっとあなたには必要なんだよ」

 

「そうなんでしょうか……」

 

「そうそう。悩め若人暗闇の先の未来は明るいぞ、ってね」

 

「私はもう若人って年でもないと思うんですけど……」

 

「あはは、私からすればみんな若人だよ。――でもルミャ、一つだけ覚えておいて」

 

「はい?」

 

「私はいつでもあなたの味方だよ。答えが出たら私がどうにでもしてあげる。こう見えて私、神様なんだから」

 

「フラン様……」

 

「はい、もうこの話はここで終わり! お風呂に湿っぽい話はつきものだけどね」

 

「――っ、はい、船長!」

 

「じゃあなんかもっと軽い話しよう。最近マロンとはどうなの?」

 

「えっ、あ、いや、その」

 

マロンの話題を振ってあげれば途端に真っ赤になるルミャ。

ほんとこの子は分かりやすい。

 

「私こないだ、ルミャが砂漠の民の踊り子の衣装を買ってるとこ見ちゃったんだけど。スケスケのやつ」

 

「え、えええええ! うそ、誰にも見られないように注意してたのに!」

 

「……え、ええー。冗談だったのに、ほんとに買ったの……? まだ子供作る気?」

 

「~~~~っ!! せ、船長ぅううう!」

 

「あははははっ」

 

しばらく浴場には、ルミャが私に水をかける音と、私の笑い声が響いた。

 

 

――航海に終わりの影は見え始めているけど、それでもまだ、今はまだ、この楽しい時間を。

そんな願いは、一体誰に向けられたものなのだろう。

神様は、私だというのに。

 

 

 

 

 






・砂漠で降雨
それこそほんとに神様扱い。ちなみに原作のダンスパウダーではなく、実際に0から雨雲を作っています

・覇気と妖力の違い
だからフラン様の覇気は人間のものよりもずっと強いんだよ、というチートの裏付け設定みたいなもの。700年でこれなんだから原作あたりの5000年経過フラン様はどうなっているのやら。ここらへんの設定はガバガバ

・ナヴィの女性探し
このあとすぐに一人ひっかける。40過ぎとはいえ神様御一行の一人で誠実そうな男性から口説かれればすぐ堕ちる人もいる。相手はもちろん慎ましい女性

・お風呂
アラバスタ編で大浴場が出てきたので。それはともかくフランちゃんの貴重なお風呂シーン。原作よろしく覗きなんてしたら死にます。フランちゃんウフフ

・神様は、私だというのに
1話に出てきた神様「あれ?」

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