イリヤ兄と美遊兄が合わさり最強(のお兄ちゃん)に見える 作:作者B
あと、後書きの最後にお知らせがあります。
「わぁ~、広ーい!」
イリヤが目をキラキラさせながら辺りを見回している。目の前に広がるのは、観覧車にゴーカート、メリーゴーランドやジェットコースター。そう、俺たちが居るのは遊園地だ。
「ちょっと、いつまではしゃいでるのよ、イリヤ。遊びに来たわけじゃないんだから」
「ぶー、いいじゃんちょっとくらい」
クロに窘められて、イリヤは不機嫌そうにこっちへ戻ってきた。今日ここへ来たのは、俺、イリヤ、クロ、美遊、それに遠坂とルヴィアの6人だ。当然このメンツということは、ただ遊びに来たというわけではなく―――
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「はぁ?遊園地?」
カード回収のための工事の手伝いに行った帰り、ルヴィアがひょんなことを言い出した。
「はい。実は、大師父からこのようなものが届きまして」
そういって懐から1枚のチケットを取り出した。
「えーっと、なになに?『魔法のような体験を家族と共に!』?なんだこれ、よくある遊園地のチケットじゃないのか?」
「お兄ちゃん。これ、僅かだけど魔力の反応があるわ」
「なっ?!」
クロの言葉を聞いて驚く。なんだって、こんなただの入場券に魔力が込められてるんだ?
「ついでにこれが、チケットと一緒に送られてきたものよ」
今度は遠坂が、トートバッグから遊園地のパンフレットと思しきものを取り出した。
それには『おめでとうございます!あなたの家族はPlaylandでの昔ながらの家族の楽しみに参加する権利を獲得しました!』という謳い文句から始まり、園内のアトラクションの紹介などが掛かれてる。
「これも、見た感じは普通のパンフレットと何も変わらないな」
「まあ、そうなのよね。でも、チケットに残留する魔力の痕跡から、最初ははぐれの魔術師による悪質な悪戯ということで処理されてたんだけど」
遠坂が何やら意味深な言い回しをする。何かあったのか?
「これ、一般人に無差別に流されてるみたいなのよね」
「一般人に?それってまずくないか?」
魔術って確か、関係者以外には徹底的に秘匿しなくちゃいけないはずだもんな。
「その上、パンフレットに書かれてる遊園地、実在してるらしいのよ」
「そうなのか?だったら、調査に行けばいいんじゃ……」
「協会が初めて件の遊園地を発見したのがポーランド。次はフィンランドで1回、ロシアで3回、中国で2回。しかも、出現してひと月ほど経つと消えてしまうみたいなの」
それって、移動してるってことか?しかも、その進路ってもしかして―――
「そう。次の出現地は日本ってわけ」
「大した被害は報告されていませんが、放っておくわけにもいかず、そこでステッキを預かっている
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そういうわけで、遠坂とルヴィアを手伝うべくイリヤたちと一緒に遥々敵地へとやってきたというわけだ。
「でも、この遊園地って世界中を移動してるんだよね。じゃあ、どうしてマスコットが"ライオン丸くん"なの?」
イリヤがその辺を歩いている着ぐるみを見ながら不思議そうに呟く。
ライオン丸くんとは文字通りライオンをモチーフにしたキャラなのだが、知名度でいえばせいぜい国内止まり。確かに言われてみればおかしな話だな。その上、着ぐるみを着てる人がやたらと多くないか?遊園地のほとんどが着ぐるみで埋め尽くされてるんだが。
「遊園地のマスコットは毎回変わるらしいわよ。恐らく今回も、日本のキャラクターに合わせたんじゃないかしら」
「へー、そうなんだ。でも、見た目は普通の遊園地と何も変わらないんだね」
イリヤの言うとおり、ライオン丸くんがモチーフとなっている以外は普通の遊園地に見える。これが本当に、魔術によるものなのか?
「はぁー…遊園地で仕事など、なんてナンセンスなんでしょう。そういう訳で、シェロ?せめて雰囲気だけでも遊園地を楽しみましょうか」
そういうと突然、ルヴィアが俺の腕を抱き寄せる。
なぁっ?!る、ルヴィア=サン?女性特有のあれが俺の腕に当たっているんですがそれは!
「一々それやらないと気が済まんのかアンタはぁー!」
「げはぁッ!」
すると案の定、遠坂の
ふぅ、助かった。ルヴィアはたまに常識外れの行動をしてくるからなぁ。その度にルヴィアのところの執事が目を光らせてくるし。
「ほら、さっさと仕事を片付けるわよ」
「凛さん?一体何処に―――」
「こんなところで立ち止まってても埒が明かないでしょう?」
イリヤの言葉にそう返した遠坂は、ルヴィアを引きずりながら、遊園地内に溢れかえっている着ぐるみの1体に近づいていく。
「ねえ、ちょっと聞きたいことがあるのだけれど」
『ようこそ!Playlandへ!どういったご用件でしょうか?』
あれ?思ったより社交的だな。魔術師が作ったって言ってたから、こう、もっと偏屈なものとばかり。
「この場所ってなんなのかしら?」
『このPlaylandは貴方達の楽しみに応える場所です!私たちは貴方達の要望にいつもお答えし、皆様にご満足していただくためにために常にベストを尽くします!』
だけど、遠坂の直球過ぎる質問に対しては、何処かずれた答えを返す着ぐるみのキャスト。流石にそう簡単には教えてくれないか。
「ふーん。まあ、簡単に言う訳ないわよね」
『とんでもない!
「ッ?!ルヴィア!」
着ぐるみの話を聞いた二人は、体勢を立て直して相手から少し距離を取った。
ど、どうしたんだ急に?!
「こいつ……知りもしないはずの私の名前を言い当てた!」
「ええ。たかが悪戯レベルと舐めてましたわね」
二人は警戒態勢に入りながら、それでもなお着ぐるみを見据える。
俺たちも加勢した方がいいのか?でも、さっきより着ぐるみのキャストが増えたせいか、二人のところへ直ぐに行くのは中々骨が折れそうだ。
「……」
「落ち着きなさい、ミユ。まだ戦闘になるって決まったわけじゃないわ」
サファイアを構えて転身しようとする美遊をクロが手で制する。一方のイリヤは、急に張りつめた空気になったせいであたふたしていた。
『どうしたのですか?遠坂さん!エーデルフェルトさん!城内での危険行為はお止め下さい!』
「やっぱりこいつら、私たちの宝石を攻撃手段だって認識してるわね」
『……申し訳ありませんが、これ以上は他のお客様のお楽しみを台無しにすることになります。どうかお止めください』
溜め息をついたように着ぐるみが忠告すると、いつの間にか周囲の他の着ぐるみが二人を囲うように立っていた。
「質問に答えなさい。ここは誰が作ったの?」
『……こんな事したくありませんでした』
その言葉を皮切りに、着ぐるみたちが二人に一斉に飛びかかった。
「ッ?!遠坂!ルヴィア!」
俺も急いでで駆けつけようとするも、目の前に何人もの着ぐるみが立ちはだかり、行く手を塞がれてしまった。
「なっ?!ちょっと!離しなさいよ!」
「貴方達!レディになんてことを―――きゃっ!何処を触っているんですの?!」
すると、二人は着ぐるみ達に担ぎ上げられ、そのまま入園口まで運ばれていく。
「ッ!イリヤ!」
「うん!」
イリヤと美遊は互いにアイコンタクトすると、魔法少女の姿へと転身する。しかし、俺たちの行動を阻むように着ぐるみが俺たちの周囲を囲んだ。
「なッ―――お前ら!」
『彼女たちは他のお客様のご迷惑となりますので退場措置を取らせていただきました』
『誠に恐縮です』
『お客様も同等の行為を行えば、わたしたちも対処せざるを得ません』
『ご承知ください』
「くッ……」
着ぐるみたちは、こちらを見つめる。その着ぐるみゆえの無表情が、奴らの不気味さをより際立たせている。
まずいな、俺たちの目的は此処の調査だ。俺たちまで追い出されたら面倒なことになるかもしれない。
「……二人は本当に退場させられただけなんだな?」
『はい!もちろんですとも!』
よく耳を澄ますと、俺たちが入ってきた入口の方から遠坂とルヴィアの怒声が聞こえてくる。どうやら、一応こいつらの言ってることは本当らしい。
すると、俺の携帯に電話がかかってきた。
「もしもし?」
《聞こえる?衛宮君!》
「遠坂!」
電話の主は、さっき着ぐるみに追い出されたばかりの遠坂だった。
「無事なのか?!」
《ええ。本当に追い出されただけだったから。でも、再入場しようにもあいつらが邪魔で入れそうにないわ―――ってルヴィア!こんなところで大技出そうとするなぁ!》
よかった。とりあえずは無事そうだな。
《ったく……強行突破は最後の手段にしたいし、とりあえず私たちはこの周囲を探索しつつ、入れそうな場所を見つけてみるわ。中の方の調査、お願いできる?》
「え?あ、ああ、分かった。気をつけろよ?」
《そっちもね。イリヤたちが居るとはいえ、中の方が危険度は高いんだから。それじゃあ》
そこまで言うと、遠坂は電話を切った。
「お兄ちゃん、ルヴィアさんたちはどうだった?」
「ああ、特に問題はないみたいだ。遠坂たちは外周の方を調べることにしたって」
先程の電話の内容を簡単に説明すると、美遊はほっと息を吐く。
いつの間にか、俺たちを取り囲んでいた着ぐるみ達も散り散りになっていた。
「でも、これからどうするの?話を聞こうとしても、凛さんと同じことになりそうだし」
イリヤの疑問も尤もだ。こうなれば、情報は自分の足で稼ぐしかないか。
『それなら最初は何処へ行きます?ロマンチックなメリーゴーランド、手に汗握るゴーカート、あるいはコーヒーカップでTOKIMEKIをどこまでもエスカレートさせちゃいますか?』
するといきなり、今まで静かにしていた愉悦型ステッキがしゃしゃり出てきた。俺は、何言ってんだこいつ、という感情を目一杯乗せた視線をルビーにぶつける。
『ややっ!士郎さん、そんな情熱的な目をしなくてもちゃんとわかってますよ。観覧車で気になるあの娘と二人っきりになりたいのでしょう?大胆ですねぇこのこの!』
「なっ!お兄ちゃん、それどういうこと?!」
「お、落ち着けって!ルビーの言葉を真に受けるなよ!」
俺の懐までずずいっと迫ってくるイリヤ。その後ろで静観している美遊も、心なしか目が怖い……
『まあ冗談はこのくらいにして。正直な話、現状はこれが最善手だと思いますよ?』
どういうことだ?
迫ってくるイリヤを宥めつつ、やや真面目なトーンで話し出したルビーの言葉に耳を傾ける。
『凛さんもルヴィアさんも、周囲の迷惑になるという理由でしょっ引かれました。つまり我々も、おおよそ遊園地に相応しくない行為をすれば、同様の対処をされる危険性があります』
『つまり姉さんは、遊園地で遊ぶフリをしながら調査をした方がいい、そう言いたかったのですね』
『その通りです!いや~流石サファイアちゃんは話が分かる!』
なるほどな。確かにそれなら園内を探索しても怪しまれないか。
「そういうことならお兄ちゃん!私、ジェットコースターに乗りたいな~。お兄ちゃんと隣の席で」
ルビーとサファイアの話を聞くや否や、クロが俺の手を握ってジェットコースターの方を指さした。
「あっ!クロずるい!」
「へへーん。こういうのは早い者勝ちよ!」
そして、二人して追いかけっこを始める。まあ、二人ともまだ小学生だもんな。遊園地と聞いたら遊びたくなるのも当然だ。
すると、美遊が二人のことをほーっとした表情で眺めていた。
「どうしたんだ?美遊。何かあったのか?」
「あ、ううん。ただ、遊園地に来たことが今までなかったから、どういうものか想像できなくて」
―――ああ、そういうことか。
「大丈夫さ。ほら」
俺は美遊に手を差し出す。
「難しく考えなくていい。ただ、思ったとおりに感じればいいさ」
「……うん!」
美遊は一転して、笑顔を浮かべながら俺の手を取った。
「まあ、今日は遊ぶだけってわけにもいかないけど、もしよければ今度改めて皆で行こうか」
「うん、楽しみにしてる」
そして俺たちは、未だにじゃれ合っている二人と合流すべく歩き出した。
「この最初のガコガコするのがいいんだよね~」
「正直に言うと理解できない。態々位置エネルギーを運動エネルギーに変換するだけのおおおああああああああああ!!」
ジェットコースターが加速すると同時に、美遊が今まで聞いたことのないような声を上げたり―――
「はんっ!アンタなんか最初からアウト・オブ・眼中なのよ!イリヤ!」
「上等じゃない!コーナー2コでバックミラーから消してやるんだから!」
クロとイリヤが峠を攻めるが如くゴーカートで競い合っていたり―――
「"筋肉"は信用できない。皮膚が"風"にさらされる時、筋肉はストレスを感じ、微妙な伸縮を繰りかえす。それは肉体ではコントロールできない動き」
パァンッ
「銃は"骨"でささえる。骨は地面の確かさを感じ、銃は地面と一体化する。それは信用できる"固定"」
パァンッ
「す、すごい!すべての弾がど真ん中に!」
美遊が射的場で、まるでスナイパーの様に的の中央を打ち抜いていたり―――
「ふぅ~遊んだ遊んだ~」
クロの満足そうな声を聞きながら、俺たちは道端に設置されていたベンチに腰掛ける。
「でも、こんなに遊んじゃってよかったのかな?」
「いいのいいの。これも調査の一環なんだから」
「もう、クロは調子いいことばっかり!」
確かに、アトラクションは何処も特別おかしなところもなかったし、これじゃあ本当にただ遊んでるだけだったな。
『それはそうですよ。だって、明らかに怪しいところは避けて通りましたもん』
は?どういうことだ?
『皆さんが園内を隈無く歩いている間、私とサファイアちゃんで周囲の魔力反応を調べていたんですよ』
『調査の結果、園内の施設ほぼすべてから微弱な魔力反応を検出しました。でもその中で、他に比べて明らかに大きい反応を示している施設がいくつかありました』
『たとえば、そこのフードショップ≪ハングリーバーガーのキッチン≫とか、後は外装がSFチックだった≪異次元の扉≫とか≪テレポートマシン≫とか』
ああ、そういえばそんなのもあったな。美遊が初めての遊園地だって言っていたから、比較的メジャーなところをチョイスしてただけなんだけど。
「でもよかったのか?明らかに怪しいなら、中に入ってみた方がいいんじゃ?」
『何言ってるんですか、士郎さん!今回の目的はあくまで調査。そもそも、この依頼は凛さんとルヴィアさんに来たものなんですから、我々が態々危険を冒す必要はありません』
まあ、それもそうか。まだ二人とは逸れたままだし、今回は一度合流して情報交換した方がいいかもな。
「それじゃあ、もうそろそろ此処を出るか」
「そうだね。もう日が暮れてきちゃったし」
うわっ、もうそんな時間だったのか。まさか、この歳で時間を忘れるほど熱中するなんて思わなかった。
休憩を終え、俺たちが入園口まで歩いていると、着ぐるみの一体が話しかけてきた。
『やあ、衛宮さん!楽しんでいますか?』
「あ、ああ。暗くなってきたし、これで帰ることにする」
一々相手にしなくてもいいかもしれないけど、無視しても何をされるかわかったものじゃないし、一応最低限の会話をする。
『それは勿体ない!これから君たちの為にナイトパレードを行うんだ!それに新しくアトラクションもオープンするよ!ぜひ見て行ってよ!』
しかし着ぐるみは、俺たちを引きとめようと必死に気を引いてくる。
「いや、俺たちは―――ッ?!」
奴の言うことを無視して隣を抜けようと視線を横に移した瞬間、俺たちの周りにいつの間にか着ぐるみ達が集まりだしていた。
『眠る場所だって心配いらない!君たちの為にベッドルームだって用意したんだ!』
「……お兄ちゃん」
「ああ」
美遊の声で全員警戒態勢に入る。
まずいな、これじゃあ遠坂とルヴィアの二の舞になっちまう。強行突破するか、それともここは様子を見てこいつらに着いていくか……
【
すると、どこからともなく声が聞こえてきた。
【
【
【
「これは……高速詠唱?」
壁の向こうから聞こえてくるそれは、壁越しであるにも関わらずはっきりと聞こえた。
【
【
【
まてよ?この声ってまさか―――
【
【
【
「ッ?!皆、伏せろ!」
【
俺の言葉とほぼ同時に、遊園地の壁が轟音と共に爆発した。
「な、何?!なんなの?!」
「何って、こんなことする人間は二人しか居ないわよ!」
その場に伏せながらも状況を理解しきれていないイリヤに、この事態を起こしたであろう相手に悪態をつくクロ。
そして、多分それは俺の想像した人物と一致してるだろう。
「どうよ!遠坂流ガント術最終奥義の威力は!」
「まったく、高速詠唱で30秒も掛かっては、とても実戦向きとは言えませんわね」
未だ舞う砂埃の中から現れたのは、案の定と言うべきか、遠坂とルヴィアだった。なんというか、いつでもパワフルだな、あいつらは。
「でも、これで助かった!皆、あの穴から脱出するぞ!」
「う、うん!」
怪我の功名というべきか、とにかくこれで外へ出られる!
そう思った次の瞬間―――
【越えて越えて虹色草原、白黒マス目の王様ゲーム――走って走って鏡の迷宮。みじめなウサギはサヨナラね?】
何処からともなく聞こえてきた少女のような声と共に、辺り一帯が光に包まれる。
「今度はなんなの?!」
目を開けられないほどの光は、たった数秒ほどで収まった。しかし、目を開けてみるとそこには―――
「ッ?!壁の穴が!」
まるで、最初から何事もなかったかのように、遠坂の破壊した壁が綺麗にふさがれていた。
「ちょっ!どうなってるのよこれ!」
「これは、完全に閉じ込められましたわね!」
そして、そんな俺たちを取り囲むように、着ぐるみ達がにじり寄ってくる。
「ちぃッ!遠坂!ルヴィア!こっちだ!今は逃げるぞ!」
「―――ッ!ルヴィア!」
「言われなくとも!」
二人と合流した俺たちは、着ぐるみ達の包囲網の薄い方へと走り出した。
「何なのよ、あの壁!治るなんて聞いてないわよ!」
『こうなれば、この遊園地の原因を探し出して取り除くしか、脱出は難しそうですね』
「サファイア、目星はついていますの?」
『候補はいくつか。まずは、ここから一番近い場所へ向かいましょう。こちらです』
サファイアの誘導に従い俺たちは、いつまでも立ち止まって此方を見ている着ぐるみ達から、逃げる様に走り出した。
「はぁ……はぁ……皆、無事?」
「な、なんとかぁ~」
俺たちが逃げ込んだのは屋内系のアトラクション。ここなら、ある程度身を隠せそうだ。
「……あいつら、追って来なかったわね」
「恐らく、彼らの目的は『私たちを外に出さないこと』です。なので、遊園地の奥に走る分には、彼らは妨害する意味を失うのではないでしょうか」
遠坂と美遊の話を聞いて思考する。
でも、それならどうして遠坂とルヴィアは最初に追い出されたんだ?追い出す相手と閉じ込める相手で、何か条件が違うのか?
「それにしても、凛はどうしてあんな真似したのよ。携帯で連絡ぐらいすればよかったじゃない」
「したわよ!何度も!でも、電波が届かないとかなんとかで繋がらなくって。そうしたら中が騒がしくなってきたから、やむを得ず突入しようと」
マジか!まさか電話がつながらなかったなんて。もしかして最初につながったのは、入り口に近かったからなのか?
「それも小癪にも、外壁には対魔力の結界が張られていましたの」
「持ってきてる宝石も少ないから無駄遣いはしたくない。幸いにもランクはあまり高くなさそうだったから、とっておきのガンドをお見舞いしたってわけ」
「ガンドって……あれが?」
ガンドって確か、よく遠坂とルヴィアが指から飛ばしてる丸い球みたいなやつだよな。本気出すと、あんな破壊力になるのか……
「それで、結局此処は何処なのよ?」
そういえば、サファイアに連れられるままに駆け込んだから、外装は全然確認してなかった。辺りを見回すと―――トランプに紅茶に帽子に縞模様の猫?なんだっけ、どこかで見たことある様な。
「これって、不思議の国のアリス?」
ああ、なるほど!トランプ兵とマッドハッター、それにチェシャ猫か!
『どうやらここは、その"不思議の国のアリス"をモチーフにしたアトラクションのようですね』
しかし、本当にこんなところに遊園地の元凶があるのか?
周囲をきょろきょろと見回していると、ふと後ろから誰かの視線を感じた。
「?」
だが、振り返ってみても、そこにはトランプ兵の柄が掛かれた壁があるだけ。
気のせいかな?疲れてるのかも。そんなことを考えながら再び視線を前に戻すと、そこには背後の壁から飛び出て遠坂に向かって槍を構える別のトランプ兵の姿が―――
「危ないッ!」
俺は咄嗟に遠坂を抱きかかえ、そのまま床に転がる。そして、さっきまで遠坂の頭があった場所をトランプ兵の槍が通過した。
「え、衛宮君?!」
「敵だ!壁の絵の奴ら、襲い掛かってくるぞ!」
「ッ?!」
すると、俺の言葉を聞いて取り繕うのをやめたのか、壁から次々とトランプ兵が飛び出してきた。
「イリヤ!」
「うん!
しかし、イリヤと美遊が素早く転身し、砲撃でトランプ兵を攻撃する。
「こいつ!強さは大したこと―――ないわねっと!」
クロも双剣を構え、トランプ兵を撃退していく。確かに実力自体は大したこと無さそうだ。俺も、干将莫邪を投影して加勢する。
しかし―――
「こいつら!次から次へと湧いてきてキリねーぞ!」
倒しても倒しても壁から無尽蔵に現れる。その速度は、こっちが敵を倒しきるよりも圧倒的に早い!
そのせいで、あっという間に出入口の扉の前を埋め尽くされてしまった。
「奥に逃げるわよ!最悪、壁をぶち抜けば脱出できるわ!」
遠坂の言葉を合図に、俺たちはトランプ兵の数が少ない建物の奥へと駆け出した。
「もー!次から次へとなんなのよ一体!」
クロが走りながら文句を漏らす。でも確かにおかしい。
急に襲い掛かってきたのもそうだけど、トランプ兵の動きも変だった。イリヤたちを相手にしている時より、俺が相手にしていた奴の方が心なしか動きが活発だった気もする。これも、何か関係があるのか?
すると、一番前を走っていた美遊の足が止まった。
「?美遊、どうし―――」
そこまで言いかけて、言葉が止まった。
部屋の仲がやや薄暗くて見えなかったが美遊の、俺たちの目の前に何かが居る。何かが、立ちはだかっている。
「■■■ッ!」
身長が2メートル以上あろうかというほどの赤黒い肌の巨人。背中と顔の両脇に刺々しい翼を広げ、体表には青白い線の模様が浮かび上がっている。
「何よ、これ……バーサーカークラスの化け物じゃない……」
誰かが言葉を零す。
それは圧倒的だった。ただそこに居るだけで相手に死を予感させるその存在感からは、あのバゼットと戦った時とは比べ物にならないほどの恐怖を感じる。
『皆さん。こんな時になんですが、いい報告と悪い報告があります』
互いに睨み合っているこの状況で、ルビーがその静寂を断ち切った。
「……くだらない事だったら承知しないわよ。それで?」
『まずはいい報告から。1ヶ所目にして大当たりです。巨人の肩を見てください』
ルビーの言葉を聞いて視線を向ける。さっきまでは動揺のあまり気が付かなかったが、奴の肩に誰かが座っているのが見えた。
暗くてよくわからないが、腰までかかるくらいの長い白髪から察するに、女の子か?
『彼女から強い魔力反応を感じます。恐らく、あれがこの遊園地の核ですね』
「つまり、悪い報告っていうのは……」
『お察しの通り、彼女をどうにかするには、まずあの巨人を何とかしなければなりません』
最悪だ!よりによって、あんな奴を無力化しないといけないなんて!
すると、巨人の方に腰掛けている少女が口を開いた。
「やっちゃえ、ジャバウォック」
「■■■■■■■■■■―――ッ!」
少女の声を皮切りに巨人、ジャバウォックがその巨腕を俺たちに向かって振り下ろした。
「くッ!」
俺たちは四方八方に散らばり、何とか回避する。視線を戻してみれば、さっきまで俺たちが居た場所の地面が大きく抉れていた。
くそっ!なんて破壊力だ!
「
空中に足場を作って回避した美遊が、奴の顔面に魔力弾を飛ばす。しかし、奴はそれに一瞥することなく俺の方へ拳を振り上げてきた。
「な―――ッ?!」
俺は再び地面を転がりながら躱す。
やっぱりおかしい。攻撃した美遊じゃなくて、明らかに俺を狙っている。すると今度は狙いを変えたのか、俺に背を向け、目も鼻も口もついていない顔をルヴィアの方に向けた。
まずい!……いや、これはチャンスだ!幸いにも奴の動きは鈍足、これなら!
「
投影するは捻じれた剣。それを、射易い形へと変化させる!
「
真名解放された宝具が、奴の身体の胸郭を貫いた。
「やった!」
同じく空中に退避していたイリヤが喜びの声を上げる。しかし―――
「■■■!」
「なッ?!」
奴の上半身を大きく抉った傷は、何事もなかったかのように瞬く間に修復された。
あの腕力に加えてこの再生能力?!そんなのありか!そして、再び標的を俺に戻したジャバウォックが、
……なるほど。なんとなく分かってきた。
「イリヤ!美遊!クロ!俺たちが囮をやるから、そのうちに肩の奴を!」
「えっ?!そ、それじゃお兄ちゃんが!」
「問題ない!そもそもこいつは、いや、こいつらは
そこまで言うと、再びジャバウォックの拳が俺に迫る。俺は反撃ではなく回避に専念し、無駄な攻撃も行わずにひたすら奴の周りを動き続ける。
「■■■■■ッ!」
ちょこまかと動く俺に動きの遅いジャバウォックが追い切れるはずもなく、その場で俺を視線で追いながら右往左往し始めた。
「今だッ!」
俺の言葉を合図に、美遊がジャバウォックの死角に回り、サファイアにクラスカードを翳した。
「
出現したのは歪んだ短剣。すべての契約魔術を破棄させる、裏切りの魔女の宝具―――
「
ジャバウォックの肩に乗る少女は、美遊の攻撃に抵抗することなく、そのまま胸を短剣で突かれた。
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――――――――――
―――――
周囲の施設が光の粒子となって崩れ始める。ライオン丸くんの着ぐるみも、アトラクションも、トランプ兵も、ジャバウォックも、すべてが光となって消えてゆく。その中で、巨人の方に乗っていた少女だけが、俺たちの前に立っていた。
「貴女は、一体……?」
イリヤが尋ねる。無理もない。何故ならその少女の姿は、イリヤと瓜二つだったのだから。
すると、イリヤにそっくりの少女は微笑みながら口を開いた。
「
そう言うと、少女は光に包まれ、そして消えて行く。
気が付けばもうそこには何もなく、ただ何もない草原が広がっていた。
「結局、なんだったのかしらね」
何とも言えない感情が心の中を埋め尽くす。
その時、ふとさっきまで少女が居た場所に目を向けると、そこに何かが落ちているのを見つけた。
「なんだこれ?何々……『Nursery Rhymes』?」
俺が拾い上げたのは1冊の本だった。中は……白紙だ。何も書かれてない。
「どうやら礼装の類みたいね。魔力が籠ってる」
「それにしても、『ナーサリー・ライム』だなんておかしなタイトルですわね」
「え?どういうこと?」
ルヴィアの言葉にイリヤが疑問を投げかける。
「ナーサリー・ライムは絵本のジャンルのこと。言うなればこれは、本のタイトルに『SF』や『ミステリー』と書いてあるようなものですわ」
『Nursery Rhymes』、わらべ歌、子供たちの夢。
この白紙の本には、何が描かれていたのだろうか。いや、きっとこの白い頁は、見たものの夢を写す鏡なのかもしれない。
――こんにちはすてきなあなた。夢見るように出会いましょう?――
≪補足1≫
・ハングリーバーガーのキッチン
知性を持った食べ物「ハングリーバーガー」を販売しているフードショップ。さながら踊り食いのような体験ができるが、油断していると逃げられてしまうので注意が必要。
・異次元の扉
屋内に不気味な扉が1つあるだけのアトラクション。その扉の先に何があるのかは、入った人にしかわからない。
・テレポートマシン
SF映画に出てくるような転送装置が設置されているアトラクション。園内に複数設置されており、それぞれのマシンの場所へ瞬間移動できる。ただし、動作原理は不明。
≪補足2≫
・終末の死風
凛がガンドを極限まで強化した
勿論これも作者オリジナルではなく元ネタがあります。
という訳で遊園地回でした。まあ、もはや原型がありませんが。
分かる人は少ないかもしれませんが、今回の話は「某海外版都市伝説っぽいもの」も参考にしています。と言っても、設定はだいぶ弄っています。
そしてお知らせなのですが、ある方からご意見を頂き、今後のストーリーの進め方(具体的には日常回の頻度を減らすか否か)のアンケートを取りたいと思います。詳細は活動報告の方に記載しますので、よろしければ見て行ってください。
期限は次話投稿まで行います。
最後に更新速度についてですが、今後暫くリアルが忙しくなるため、最速でも月1投稿になってしまうかと思います。申し訳ございません。