イリヤ兄と美遊兄が合わさり最強(のお兄ちゃん)に見える 作:作者B
なので、クオリティはあまり期待しないでください。
~Introduction~
「……」
ごく普通の高校生や魔法少女が暮らすごく普通の家、衛宮邸。そこには、ごく普通の
なお、主に仕事をしているのは一人だけだと、ここに注記しておこう。
「……」
そして、先程から無言のまま立ち尽くしている彼女こそ、衛宮邸で働いている家政婦の一人、セラである。その理由はというと、なんてことはない。
時は休日の午前七時。セラはいつもの様に洗濯物を洗うべく、洗濯機のある浴室の脱衣所の扉を開けた。ただそれだけだ。
ただしそこに、日課の鍛錬の汗を流し終えた士郎が、今まさにバスタオルで体を拭いているタイミングに鉢合わせたというだけの話である。
「えーっと……セラ?」
「ハッ?!し、失礼しましたッ!」
士郎に声を掛けられたことで我に返ったセラは、それはもうすごい勢いで扉を閉めた。
(な、何故咄嗟に出て行ってしまったのでしょうか?!別に今更気にすることも―――ま、まあ、士郎さんも一応思春期なのですから、そういう相手に考慮するのは当然の配慮な訳でして……。というか、最近
士郎からすれば、幼少の頃から一緒に暮らしてるんだから別に気を使わないでいいのに、なんてことを考えていた。しかし、そんなことは露知らず、セラは顔を真っ赤にしながらひたすら慌てふためいている。
故に気が付かなかった。
『……ほほ~う』
その現場を、最も目撃してはいけない人物(?)が目撃していたことを。
~Introduction End~
「はぁー…暇ねぇ」
「……」
私こと、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、私の部屋にも拘らず我が物顔でベッドに横たわるクロを尻目に、せっせと夏休みの課題を進めていた。
「海にも行っちゃったし、暫く予定も無いし。夏休みって、こういう空き時間があるところがちょっと難点よね」
「……だったら、クロも宿題すればいいじゃない。言っとくけど、後で見せてあげないんだからね」
「なによーケチー」
まったく、後で泣きついてきても知らないんだから!
クロのだらけきった返事を聞き流し、クロの方へ向けていた意識を再び目の前の問題集へと移す。毎日小まめにやっておかないと、後が大変だもんね。
でもそんなやる気も、突然の襲来物によって打ち砕かれた。
『甘ぁ~いッ!甘いですよイリヤさん!角砂糖三個分くらい甘々です!』
この
「……今度は何なの?」
『冷たっ!まるで養豚場のブタでもみるかのように冷たい目です!でも、そんなことでルビーちゃんは砕けません!それはもう、ダイヤモンドの様に!』
……ダイヤモンドって確か、ハンマーで叩くとあっさり割れるよね。
『ややっ!何やら物騒なことを考えられいるような気がしますが、今は気にしないでおきましょう。今回は何を隠そう、士郎さんのことなのですから!』
「え?お兄ちゃん?」
『
ルビーが羽を器用に動かして人差し指を突き出したようなポーズをとる。前から思ってたけど、その羽って飛ぶために使ってないよね。羽ばたいてるの見たことないし。
「お兄ちゃんがどうしたって言うのよ」
ルビーの言葉に関心を持ったのか、さっきまでだらけてたクロが起き上がった。
『はい!ルビーちゃんは気づいてしまったわけなのですよ。このままでは、イリヤさんルートがディスク容量の都合で実装されない、なんてことになりかねないと!』
「言ってることはよくわからないけど、それってお兄ちゃんが盗られちゃうってことでしょ?当たり前じゃない。お兄ちゃんはイリヤじゃなくって私のところに来るんだから」
なっ!ちょっとクロ!それどういう意味?!あ、あと、私はお兄ちゃんとなんて、別に、ゴニョゴニョ……
『いえいえ。クロさんも他人ごとではありませんよ。なんせ、
「強敵?凛とルヴィア……は別に大したことないし、後はミユ?まあ、確かにあの娘は最近色々と突き抜けてる気がするけど」
ミユかぁ……
この間の海での誕生会のときも、席を立つ振りしてちゃっかりお兄ちゃんの隣に座ったり、雀花たちの前で堂々と『お兄ちゃん』宣言してたし。その上、浜辺でエンカウントした凛さんたちと色々あった時も『お兄ちゃんは私のもの』とか―――あれ?そんなこと言ってたっけ?何だか記憶が曖昧な……
『いえ、確かに近頃の美遊さんの
「え、何その力。初めて聞いたんだけど」
『それよりも、目下の敵が判明したのです!それは……』
ルビーの凄む様な口調で、思わず生唾を飲み込む。
そ、それは……?
『それは―――セラさんです!』
「ねーイリヤ。宿題どこまで進んだ?」
「ええっと、もうすぐ算数の問題集が終わるとこ」
『ちょっ!何事もなかったかのようにスルーしないでください!』
えぇー、そんなこと言ったってー…。
「だって、何を言い出すかと思えばセラ?ないない。ねえ、イリヤ?」
「うん。確かに二人で料理してるときは完全に二人の世界に入ってることもあるけど、それ以外はあんまり……」
『かーっ!私は悲しいですよ!お二人とも、自らの置かれた現状を理解していない!』
そんなこと言われても、だってセラだよ?ことあるごとにお兄ちゃんに突っかかってるし、お兄ちゃんが料理当番のときなんか未だに不機嫌そうな目で見てるし。
『出会いは悪い印象から始まる。ボーイミーツガールの定番ですよね?』
「え、何?突然」
確かによくある展開と言えばそうかもだけど……
『二人で行う共同作業、料理のような共通の趣味。パーソナルスペースに入り心理的距離を縮めるにはもってこい』
ま、まあ、言われてみれば。
『そのうえ、ラッキースケベという恋愛モノ特有のハプニングも―――』
「えっ?!何それ聞いてないんだけど!」
『安心してください。ラッキースケベされたのは士郎さんの方なので』
それはそれでどういうことなの?!
何だか雲行きが段々怪しくなってきた気がする。い、いや、気のせいだよね?!それに、それくらいだったら私だって経験が……
『確かに、セラさんの建てている恋愛フラグのひとつひとつは小さなものです。でもそれは、共に過ごしてきた長い時間の中でコツコツと積み上げられ、今では既に山となっているのですよ?!』
そ、それは……私だって、一緒に暮らしてたのは同じだし!
『イリヤさんは今まで、士郎さんと同じ屋根の下で暮らしているという地位に甘んじていたのではないですか?』
「うっ……」
ルビーの指摘を受けて、思わず言葉が詰まる。
『士郎さんも高校を卒業すれば、一人暮らしすることもあるでしょう。元来、世話焼きのセラさんはきっと「きちんと生活できているか心配だから」と定期的に様子を見に行くかもしれません。
初めての上京、日々募る不安、そこにやってくる包容力のある姉のような存在。やがて士郎さんは今まで気付かなかったセラさんの魅力に触れ、二人の距離は次第に縮まり、そして―――』
いやぁー!止めてぇ!それ以上聞きたくないっ!
私は両耳を塞ぎ、その場にしゃがみ込んだ。うぅ……、何故か今の光景が鮮明に想像できてしまった……
「まったく、見ていられないわね」
「……クロ?」
私がルビーの言葉に打ちのめされていると、クロが呆れたように溜め息をついた。
『おや?クロさんはあまりショックを受けていないようですね』
「当たり前でしょ。今のは所詮ルビーの妄想でしかないわけだし。そういう訳で、行くわよイリヤ」
え?行くって、一体何処に……?
「決まってるじゃない。セラとお兄ちゃんのところよ」
―――――――――――――――
――――――――――
―――――
時刻は昼時。
居間の入り口で視線だけを覗かせていると、そこにはキッチンで料理真っ最中のお兄ちゃんが居た。夏休み中ということもあってか、お昼ご飯の担当もお兄ちゃんとセラの交代になってる。そして、一方のセラはというと、居間から外に出て洗濯物を干しているところだ。
(……妙ね)
(妙、って何が?別にいつも通り、料理をしてるだけだと思うけど)
(そっちじゃないわよ。セラよ、セラ)
セラが?
クロの言うとおりセラの方をじっくり観察していると、言われてみれば確かに、なんとなくだけど動きがぎこちない気がする。それに、心なしか顔がいつもより赤いような。
『恐らく、
え?!ルビーの言ってたのって、ついさっきのことだったの?!
『しかし、士郎さんはまったく気にしていないご様子。いやぁ、ここまで意識されてないと逆に憐れになってきます』
(そ、それってつまり、お兄ちゃんはセラのことを特別視してないってことだよね?それなら安心安心!)
『……イリヤさん。それ、思いっきりブーメランになってますよ』
ぐはぁッ!
止めて!薄々気づいてた事実を突きつけないで!
「あれ?おかしいな。セラ?ちょっといいか?」
「は、はい?!」
「うわっ!ど、どうしたんだよ、急に大声あげて」
「い、いえ、すみません。ぼーっとしてたもので」
なんだろう。二人の間にピンク色の空間が醸し出されている気がする。
「そ、それでどうしたんですか?」
「ああ。それが、あれ見当たらないんだけど―――」
「中華鍋でしたら、スペースを取るので上の戸棚にしまいましたよ」
「そこにあったのか。サンキュー」
中華鍋。昼間から中華はさすがにちょっと……って、場所確認しただけか。
「おや?」
「はい、ハンガーの追加」
「あら、ありがとうございます」
そういえば、料理の印象が強かったけど、セラは他の家事もやってるんだよね。私も手伝った方がいいのかなぁ。
「そういえば、あれ何時でしたっけ?」
「特売なら明日の午後6時からだぞ。牛肉のやつ」
特売かぁ。それなら、明日は焼き肉がいいなー。
暫く観察してみたところ、最初こそセラがドギマギしていたものの、それ以降は会話もポツリポツリとあるだけで二人とも自分の作業に集中してる感じだった。
(うーん。ルビーが大げさに言うから警戒しちゃったけど、別に和気あいあいとしてるわけじゃないし、取り越し苦労みたいだったみたい)
(……)
(クロ?)
クロが何やらジト目でお兄ちゃんのことを見てる。どうしたんだろう。何か変なところでもあったかな?
すると、料理が終わったお兄ちゃんが入り口に居る私達に気が付いた。
「あれ?イリヤにクロ?まあ、丁度いいか。ご飯で来たぞ」
「あっ、はーい。ほら行くよ、クロ」
私はクロの手を引いて料理の配膳を手伝う。今日の献立は夏の定番の冷やし中華だ。いつもながら、お兄ちゃんの料理はおいしそう。
(何なの、さっきのあれ?ツーカー?甘酸っぱいとかもうそんなレベル通り越して、既に熟成された感マシマシなんだけど!イリヤは全然気づいてる様子ないし、これは生半可な攻勢じゃ効果無さそうね。セラ、恐ろしい子!)
「どうしたの?クロ」
「べっつにー」
「?」
何だかクロがブツブツ言ってた気がしたけれど、まあ気にしてもしょうがないか。
結局、今日もルビーに振り回されただけだったなぁ。
因みに翌日、またクロがお兄ちゃんの部屋に薄着で忍び込んでいたのを注記しておく。
八月○△日 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
といわけで、今回はセラ回(ただし出番は少ない)でした。
士郎視点ではなくイリヤ視点ということで、一応番外編にしました。
実際のところ、前書きは半分冗談で、本当はリアルの予定が忙しいせいでゲームすら碌にできない状況でした。(でも一通り触った)
ふと湧いて出た冬休みのおかげで今回投稿できたので、可能なら近いうちに次話を投稿したいという気持ちはありますが、どうなるかはわかりません。
というか、最終章やったせいでFGOも書きたくなってしまったので、ホントどうなるか分かりません。