イリヤ兄と美遊兄が合わさり最強(のお兄ちゃん)に見える   作:作者B

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2wei!!からと言っておきながら、プロローグは無印1話より前の話です。



※ドライ39話のネタバレが若干あります。ご注意ください。



士郎はこうしてシロウとなった

「ならば、すべてを切り裂こう。貴様の世界ごと」

 

俺の世界が崩れる。

あの、世界を切り裂く剣のせいじゃない。美遊からもらっていた魔力(ちから)がなくなったからだ。でも、これでいい。これで、美遊はもう苦しまなくて済む。

 

「……勝ったよ。切嗣」

 

俺は誰もいないそれを見上げて、ぽつりと呟いた。

 

あぁ、でも

一つ心残りがあるとすれば

最後まで守ってあげたかった

 

 

 

 

 

 

ふと、ほのかな草いきれが鼻に通う。

……草の匂い?

 

「―――ッ!」

 

俺は思わず飛び起きた。ありえない!だって、俺がさっきまでいた場所は!

目を開けるとそこは、一面の草原が広がっていた。雲ひとつない深い空は一面ほのおのように大きく渦巻き、大地は平らでくるぶしまでの柔かい草が浅瀬のように広がっていた。

なんだここは?こんな綺麗な場所は冬木市に―――いやそれよりも!なぜ俺の身体は動く?!俺はさっきの攻撃をまともに食らったはず!

だが、そんなこととは裏腹に俺の身体に傷は一切ついてない。魔術の使い過ぎで黒ずんだ腕も元に戻っている。ただ、ところどころ破れた服だけが、さっきまでの戦いが夢幻(ゆめまぼろし)ではないことを告げる。

すると、まるでこの暖かい陽気の春一番だと言わんばかりの、息が苦しくなるほどの風が吹き込んできた。思わず腕で目を覆うが、数秒もしないうちにその風はすぐに止む。ただ、その風が運んできたのは春なんかじゃなかった。

 

「切……嗣……?」

 

こんな広い草原の真ん中に現れた、草臥れた和服を着た中年ぐらいの男性。その姿は間違いなく切嗣のそれだった。そう、その姿(・・・)は。

 

「誰だお前。切嗣じゃないな」

 

俺の言葉に答えるように微笑を浮かべる切嗣。だけど、俺にはその表情がどうも貼り付けたような笑みにしか見えなかった。見た目はどこをどう見ても切嗣。でも、ずっと一緒に居た俺には分かる。あれは切嗣じゃない(・・・・・・)

 

「お前が俺をここに連れてきたのか?此処は何処だ?お前は何者―――」

「士郎。士郎には選択肢がある」

 

俺の言葉を遮るように切嗣が話し出した。柔らかいようで、暖かいようで、それでいて人間味を感じない声で。

 

「ひとつは"選ばない"こと。そしてもうひとつは"選ぶ"こと」

「……選ぶ?」

「そうだ。その身を糧に願いをかなえるか、否か」

「ッ?!」

 

願い、だって?

 

「どういう意味だ」

「そのままの意味さ。士郎がその身を差し出すならひとつだけ、願いが叶う。ああ、もちろん対価は死んだ後に貰うから心配いらないよ」

「……」

 

まるで、世間話でもするかのような軽い口調で告げる切嗣。正直、突拍子もない話でついていけない。大体死んだ後にっていうのなら、もう俺は死んでいるだろう。なんたって、あの規格外の宝具を食らったんだから。でも、もしも……もしも願うことが許されるのだとしたら―――

 

「―――妹を、美遊を守りたい」

 

そうだ。美遊を守りたい。美遊が手に入れるあたりまえの幸せを奪う、その何もかもから。

 

「そうか。喜べ、士郎。お前の願いは叶う」

 

そこで、俺の意識は闇に落ちた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ……はぁっ……な、なんでこんなことに!」

 

確かに、一成に頼まれた仕事が思いのほか時間がかかって、空も暗くなるまで学校にこもってたけど!だからって!

 

『■■■■■ッ!!』

「あんなのに襲われるなんて、思わない、だろッ!」

 

何かが反転するかのような感覚。そして、その直後に現れたアイツ。

全身にくまなく施された禍々しい刺青、頭と腰に赤い布を巻いた男。そんなやつが二刀一対の双剣を持って、何の因果か俺を追ってくる。

 

「くそッ!」

 

思わず言葉が漏れる。そんな余裕、元より俺にはないはずなのに。

だけど、今は1階に下りる階段。このまま逃げ切れば、もうすぐ校庭に出られる!

 

「間に合えぇッ!」

 

階段を一気に駆け下りた俺は、そのまま目の前の昇降口に駆け込む。そして―――

 

「出られた!」

 

後は警察にでも何でも駆け込めばいい!そうすれば助か―――

 

「―――え?」

 

突然、俺の左胸から突起物が突き出した。

 

「―――な、んで」

 

現状を理解できないまま膝から力が抜ける。地面に倒れるまで、俺の時間感覚が極限まで引き延ばされる中、俺は後ろを振り向いた。そこにいたのは、昇降口の扉の前で弓を構えるあの男だった。この突起物の正体はあの男が放った矢だったんだな。

……そうか。学校から出たかったのは、むしろあいつの方だったのか。校内じゃ弓なんて使えないもんな。

そんな自分のことを他人事のように考えていると、ようやく俺の身体が地面に触れた。

弓が光の粉となって消滅する。俺の下に血だまりができる。アドレナリンが分泌されているのか全然痛みを感じないのが唯一の救いか。

あいつが近づいてくる。その手には俺を仕留めた弓矢じゃなく、さっき持っていた陰陽の双剣を握っていた。俺に、止めを刺しに来たのか?

 

あぁ、俺、死ぬのかな。

 

特に未練なんてないけど……そういえば、今度の休みに買い物に付き合うって約束したっけ。約束、守れそうにないな。

 

ごめんな。イリ、ヤ……

 

 

 

 

 

――生きたいか?少年――

 

…………なんだ?男の、声?

 

――生きたいか?少年――

 

…………幻聴か?だったら、別に最期ぐらいこんな胡散臭そうな奴の声じゃなくてもいいじゃないか。

 

――生きたいか?少年――

 

…………しつこいな。そりゃ、助かるのなら助かりたいさ。人間だれしも好き好んで死にたくないだろ。それに―――

ふと、襲い掛かっていたあいつのことを思い浮かべる。あいつが現れたのは学校。つまり、あいつを野放しにしたら学校の皆も襲われるかもしれない。そして何よりも。

―――イリヤが、妹が危ないから、な……

 

――君は運がいい。丁度一つ、手の空いている魂がいてね――

――喜べ少年。君の願いは叶う――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同調開始(トレースオン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死に体だったはずの俺の身体に魔力が灯る。熱い。体の中が火に焼べられたように熱い。その中で何かが溶かし尽くされ、混ざり合い、俺という存在が曖昧になる。それはまるで熱した鉄を鍛えて剣にするかのように、俺でありながら俺でなくなる、どこかそんな確信があった。だけど、それでも構わない。

これで、イリヤ/美遊(いもうと)を守れるというのなら!

 

投影開始(トレースオン)!」

 

俺は起き上がると同時に、両手に投影した干将莫耶で奴に切りかかる。攻撃は双剣で防がれたものの、奴は大きく後退する。

身体の熱はまだ冷めない。俺の体内が高速で、戦いに最適な構造へと書き換わる。存在しなかったはずの27の魔術回路に魔力が走る。熱と痛みで思考がまとまらない。だが、そんな俺のことなどお構いなしに、奴は双剣を構えてこちらに向かってきた。

 

「ちぃッ!」

 

切りかかる奴の双剣の片割れを、同じくこちらの干将で迎え撃つ。しかし、攻撃を一度防いだだけで干将はあっけなく砕かれた。

 

「なッ?!」

 

呆ける俺を余所に、奴はもう一方の剣で切りかかる。俺は身体を捻って剣を無理やり莫耶で弾くと、干将と同様に跡形もなく砕け散った。どういうことだ?!こんなに脆いなんて!

剣が両方砕かれたことで、俺は一旦距離を取る。まずい。こんなんじゃ、剣を受け止めることだって出来やしない。幸い、奴の剣技はそのまで高くない。これなら経験の差で―――

そんな思考の僅かな隙、奴は再び俺に接近し、剣を振り落す。俺は咄嗟に投影した干将莫耶の双刀でそれを防ぐが、やはり罅が入る。そして、両腕のふさがった俺に、奴はもう片方の剣の柄頭で俺のこめかみを殴りつける。

 

「がぁッ!」

 

吹き飛ばされた衝撃で干将莫耶は再び砕け、俺は無様に地面に転がる。何を馬鹿なことを考えてんだ俺は!衛宮士郎は極める者(・・・・)なんかじゃない!

追撃とばかりに向かってきた奴に、俺は顔の横を流れる血を無視して起き上がり、無手のまま走り出す。そして、奴が切りかかろうと腕を振り上げた瞬間、今度は俺が奴の剣の柄頭を掴み、動きを止める。

 

『■■■ッ?!』

「――――投影(トレース)

 

創造の理念を鑑定、基本となる骨子を想定、構成された材質を複製、製作に及ぶ技術を模倣、成長に至る経験に共感、蓄積された年月を再現する!

 

「――――完了(オフ)ッ!」

 

奴を剣ごと向こうへ押し出すと、俺の両手に再び干将莫耶を投影する。そうだ。俺は極める者じゃない。何時だって俺ができるのは、最強の自分を創造することだけ!

 

「はぁぁぁッ!」

 

今度は俺の方から打って出る。さっきまでの劣勢が嘘のように、剣は砕けず、鍔迫り合いは互角以上に戦える。当たり前だ。奴と同等の経験を得た俺なら(今まで戦ってきた敵に比べたら)、意志のない抜け殻同然のこいつなんかに負ける道理はない!

今度は奴の方から距離を取る。そして、その頭上にはレイピア、ロングソード、ショーテル、フランベルジェ、エストック、青銅剣等の無秩序なまでの剣群が現れる。

 

「ッ―――投影開始(トレースオン)!憑依経験、共感終了!工程完了、全投影待機!」

 

それに対抗するため、俺の背後にも奴と全く同じ剣たちを投影する。性能が同じならこれで十分だ。

 

『■■■ッ!』

「停止解凍、全投影連続層写!」

 

俺の剣と奴の剣がほぼ同時に放たれ、それらがすべて相殺されていく。そして剣がぶつかり合う中、俺は奴の下へ走る。もとより、剣の打ち合いで決着がつくなんて思っちゃいない。

 

「はぁッ!」

 

俺の振り下ろした莫耶を奴が双剣を交差させて受け止める。それは奇しくも、さっきの俺と奴の攻防の再現となった。

 

「でりゃあッ!」

 

両手がふさがりがら空きになった腹部を思い切り蹴り飛ばし、そのまま両手の干将莫耶を破棄する。そうだ、二度目のチャンスを与えられたのなら、今度こそ―――

 

「……あんたには世話になった。だから―――俺はあんたを越えていく」

 

エミヤ()専用に造られた西洋弓と、選定の剣を改造することで原典の特性を得た名剣()を投影する。

 

I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う。)

 

奴は地面を転がりながらも体勢を立て直す。だが、もう遅い!

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!」

 

弓から放たれた剣は螺旋状に回転し、大地を抉り、周りの大気を巻き込みながら突き進む。

 

『■■■■■ッッ!』

 

そして、奴の身体を貫いた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

――――――――――

―――――

 

 

 

 

 

「―――ッはぁっ……はぁっ……」

 

気が付くと、俺は校庭のど真ん中に立っていた。さっきまでの戦闘の跡は一切なく、まるで白昼夢でも見ていたかのような錯覚を覚えた。

いや、本当に現実だったのか……だって、急に変な奴が襲ってきて、俺も剣を取り出して……駄目だ、頭がはっきりしない。さっきまでクリアになっていた思考に、急に靄がかかる。

俺、何してたんだっけ?……ああ、そうだ。一成の頼みごとが思いのほか時間がかかって、今から帰るところだった。早く、帰らな、い……と……

 

肌寒い夜に、まだ熱の引かない俺はそのまま眠るように意識を落とした。

 

 

 

 

 

 




おかしい。

イリヤや美遊といちゃいちゃしたかっただけなのに……
どうしてこうなった。

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