六道の果実   作:たいそん

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三人称視点なため、主人公の感情を疎かにしてしまい、誠に申し訳ありません。
混乱された読者の方、おられると思います。全て作者の力量不足です。
マリージョア襲撃を決意する時、主人公が思っていた事を書きました。
後付けっぽくなってしまって、なんだか情けない気持ちになります。


第六話 名無しの深淵

タイガーは落胆する。世の中そう、上手い話はないのだと。巨大な船と共に現れた満身創痍の少年。

なんと彼は、その船をプレゼントすると一足先に飛雷神で魚人島へ帰ってしまったのだ。

 

「先程の戦いで思った以上に消耗した。本来なら飛雷神で船ごとお前たち全員を飛ばす予定だったが、もうチャクラの残りが少ない」

「………。見捨てるつもりか?」

「そうではない。この船をやる。これに乗って逃げればいいさ。上手くいけば助かるだろう」

 

ーーではな。俺は飛雷神で帰る。

 

そう言うと少年は残り少ないチャクラを使い、魚人島へ飛んだ。タイガーや奴隷達は唖然とした顔でそれを見送ったという。

考えてみれば当然である。少年は名を上げる為にリスクを冒す事を承諾したが、命を懸けることは承諾していない。

囮をしっかりとこなし、海軍最高戦力の一角を引きつけて貰った手前、文句も言いづらかった。だが、もう少し他人を思い遣る心を持っていてもいいだろうに。

 

ちゃっかり脱出手段を用意してある所にも腹が立つ。自分の仕事はやったから、残りは勝手にやってろと言わんばかりの見事な丸投げである。

自分が逃げても責められない様な言い訳をしている根性にも腹が立つ。

 

「………はぁ。帰ったら一発ぶん殴ってやる!」

 

心境を表すなら、オンラインゲームで素材集めをしていた時。先に自分の素材が揃ったからと言って、パーティメンバーを残して一人だけチームを離脱する奴に腹を立てる気持ちに似ている。

結局、一人で後始末をやらねばならないタイガーは頭を抱えた。奴はやっぱり、味方になっても毒だった。

 

 

 

 

 

 

マリージョア襲撃から二週間後。少年の傷は癒え、くれてやった船の代わりも用意した。今では視力も元通りだ。しかし、タイガーはまだ戻って来ない。

見捨ててしまった様な形で別れてしまったため、良心が痛む。だが、それだけだ。もしあのまま足手纏い達を庇護していたら、死んでいたかもしれない。それほどまで少年は弱っていたのだ。

 

「まぁ、自分の命に比べればなぁ。良心の痛みぐらい、どうって事ない」

 

タイガーはいい奴だった。ご冥福をお祈りしよう。こっそり作った彼の墓に酒をかけて、手を合わせた。天国や地獄は無いけれど、神はいた。

せいぜい成仏してくれよ、と。心の底から祈っていた。

 

「勝手に人を殺すなァ!」

「ぷげら!?」

 

少年は後ろから鉄拳を喰らい、地面と熱いキスを交えた。

タイガーは自分の名前が書かれた墓に唾を吐きかけた。本当に一歩間違えればこうなっていたのだから、冗談ではない。

 

「お前、あれからどれだけ苦労したことか……ッ!」

「え?タイガーか。生きてたのか。よかった」

「よかっただと?どの口が言いやがるクソガキ。やっぱり人間なんか信用すべきじゃなかった」

 

嬉しく思う気持ちは本当だ。タイガーはいい奴だ。実際に付き合ってみてそう思う。苦労したなどと言っているから、おそらくあの奴隷達も全員逃がす事が出来たのだろう。

これで良心が痛まなくて済む。胃が痛くなりそうだから、どんな苦労があったのかは聞きたくないが。

 

「傷は癒えたようだな」

「ん?……まあな」

 

タイガーは少年の隣に腰を下ろした。彼が飲んでいた酒を奪い取り、自分の盃に注ぐ。

 

「逃げ上手のお前があそこまでやられたんだ。相手はどんな野郎だったんだ?」

「……ボルサリーノとか言ってたな。ピカッと光って、一瞬で攻撃してくるんだ。こっちの攻撃なんて一部の水遁以外は効きゃしない」

「それは災難だったな。そいつは海軍中将だ。自然系の能力者らしい」

 

やはりか。少年は納得したように天を仰いだ。

 

「って事はピカピカの実の光人間とか、そんなオチか?いや、そうに違いない」

「……奴みたいな系統の能力者に、物理攻撃は通用しねぇぞ。覇気がなきゃ倒せもしねぇ相手だ」

「ハキ?何だそれは」

 

タイガーは覇気について軽く教えた。武装色、見聞色、覇王色の三つの力が存在する事。

内、覇王色は選ばれた人間にしか使えない。武装色や見聞色は人によって得意不得意があり、一応、誰にでも使える素質はあること。

 

武装色は気合の力。防御力や攻撃力を跳ね上げ、流動する能力者の体を実体として捉える事が出来る。

見聞色は聞く力。相手の気配や心を読み取り、攻撃を先読みしたり位置を調べたり出来る。

ここまで聞いて、少年は頭を傾げた。

 

「俺、覇気なんて使ってないぞ。そんなもの自体知らなかったんだが……」

「自然系を相手にするときは、覇気が基本戦術だ!逆になんで勝てたんだ……」

 

少年から、海水を染み込ませた樹木で縛り能力者の実体を捉え、水の塊で窒息させたと聞いたタイガーは頭痛を覚えた。

最早こいつがなんの能力者なのかわからなくなって来た。そこいらの自然系より余程強い能力だろう。

 

「死ぬ前に知れてよかった。覇気か。そうか……。そんな力もあるのか」

 

少年は掌を握りしめた。まだまだ、自分には知らないことが多すぎる。手遅れにならなくて本当に運がいい。また一歩、安寧に近づく事が出来る。

少年の目的は安寧を手に入れることだ。誰かの手に怯えながら、隠れ潜むことは安寧とは言わない。それは肉体的には安寧であろうが、精神的に安寧ではない。

 

彼が望むものは、安心して眠れる場所。安心して暮らせる場所。だが、前世とは違うこの世界。海賊時代などという物騒な戦乱の時代。何処にいようとも、無力な者は己の力不足に殺される。

ここはあの日本国のような。理不尽に命を奪われる事がない世界ではないのだ。

 

であればこそ。そんなものがないなら、それを手に出来る程、強くなればいい。

 

誰一人として、彼を傷つけられないほど強くなればいいのだ。もしくは、争いそのものを人間の中からなくしてしまうべきか。

全人類を死滅させるか、無限月読の幻術世界に閉じ込めるか。後者の方が殺さない分、良心が痛まなくていい。

 

そのための名声。これを隠れ蓑にして、自分は来るべきその日までに力を蓄えるのだ。マリージョア襲撃も、その通り道に過ぎない。

 

ーー悪いな、みんな。俺のせいで死んでくれ。

 

少年は心に渦巻く黒い感情に自嘲する。

転生者として生き返る権利を得たその時から、自分はもう、自分のためだけにしか生きることが出来なくなってしまっている。

悪い事を考えてる自覚もあるが、これはもう性分だ。

 

「………なぁ。タイガー?」

 

だからこそ、少年は羨ましい。誰かの為だけに。とはいかないものの、誰かの為にも自分の命や信頼を懸けることの出来る存在が羨ましくて仕方がないのだ。

少年にはなくて、タイガーにはあるもの。

本当の意味での、他者への思いやりだ。

 

実はタイガーに話を持ちかけられた時。彼の中にも少しあったのかもしれない。自分だけではなく、誰かの為に!という気持ちが。

だが、ボルサリーノと戦い、命の危険を感じたことでその思いは粉々に崩れてしまった。どうしようもなく、臆病な男だ。

 

「お前はこれからも、今回みたいに。誰かの為に命を懸け続ける人生を送るのか?」

 

タイガーは少年の放つ威容に鳥肌さえ覚えた。この男は、こんな顔も出来るのかと。

もしかしたら今までの彼は全部、演技だったのかもしれない。目の前にいるこいつこそが、本物のあいつなのではなかろうか、と。

 

「おれが選んだことだ。仲間は殺させねぇ。そして敵ももう、殺さねぇ」

 

天竜人を殺害した時。タイガーは血に濡れた拳を見て決意したのだ。人の中に眠る残虐性も、魚人の中に眠る残虐性も同じであると。

同じなのだ。種族は違えど、恐怖する心もある。もうあんな思いをするのは二度と御免だと思った。誰かにさせるのも嫌だった。

 

「………そうか」

 

少年は立ち上がる。

自分が受けた苦しみを他者に味わせたくない。この思いはタイガーと同じだ。

だが、実際にその通りに行動する事が出来、その為には自分が苦しい思いをすることに耐えられるのがタイガーで。

自分が苦しい思いをするぐらいなら、他者を見捨てる方がマシだと思うのが少年である。それだけの違いであり、決定的な違いだ。

 

「俺はもう行く。お前の事はよくわかった。………いい奴だな、タイガー」

 

少年は身を翻す。既に準備が整っているコーティング船へと近づき、それに乗り込む。

 

「………そういやぁ自己紹介がまだだった。一度しか言わないから、良ければ名前でも覚えといてくれ」

 

タイガーはノイズの入らない少年の名前を聞く。ここでようやく、彼は少年の名前を知る事が出来た。

 

 

 

 

 

 

〜とある新聞の一面〜

 

 

 

『閃光』メアリー・スー。懸賞金2億5千万ベリー。

 

 

罪状、フィッシャー・タイガー同様。

マリージョア襲撃の主犯格。その力は聖地を火の海へ変え、海軍の中将を瀕死の状態に追い込んだという。

 




これにてマリージョア襲撃編は終了です。
しっかし、書き始めた当初、こんなに評価されるなんて思いもしませんでした。
自分で言うのもなんですが、好き勝手書いてるので結構設定ガバガバですよ?
原作者に申し訳ない気持ちになってくる。

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