六道の果実 作:たいそん
お気に入り数が5倍ぐらいになってんですけど?
マジでありがとうございます!いや、好き勝手書いてるのにこんなに読んでくれる人がいるなんて……っ!
たいそん、悲鳴を上げてしまった。
血液の匂いが充満する。
大きな掌を広げ、シャボンに包まれた顔を握り潰す。人間の腕力の約10倍とされるエネルギーは人の頭をトマトのように容易く砕く。
「ひぃぃいいい!!来るな!来るんじゃないえ!!」
「お下がりください」
我が子を目の前で殺され、恐怖で錯乱する中年の男。彼を守るため前に出る護衛。
「邪魔だァ!」
「ぐはッ!?」
それを力に任せて捻り潰す。タイガーは動かなくなったそれには目もくれず、自身を飼っていた男を睨みつけた。
彼に睨まれた天竜人は恐怖のあまり白目を向き、泡を吹きながら気絶する。醜態を晒す最高権力者は豚のようである。タイガーは冷笑した。
「おれはこんなカスに……。殺す価値もないようなゴミみたいな奴に、復讐しようと思っていたのか」
既に動かなくなった人間を掴み上げ、トドメを刺す。哀れ。手の中で動かなくなったそれを見て、自分がどうしようもなく恥ずかしくなった。
復讐した後は気分がいい。悪くはない。だが、相手がこれでは態々復讐を企てていたこと自体が恥ずかしくなったのだ。奴らは誇りも何もないカスだとは思っていたが、ここまでだとは思いもしなかった。
「殺す価値もない。……違うな」
タイガーは自分を嘲笑した。権力者達の血で濡れた掌を握りしめ、怒りで沸騰していた激情が萎えていくのを感じた。
「殴る価値もないカスだった。だが、それもお前で最後だ。人間の女」
「ひぃ!お父様!!お父様ァァァァ!!?」
タイガーは泣き崩れる女の姿を見て、少年に聞いていた容貌と同じ特徴であると判断した。自分の仕事はこの小娘を殺すだけ。それで全て終わる。
虐げられてきた、囚人のような生活が今日、ようやく終わるのだ。
「来ないでざます!何故私たちがこんな目にあうざますか!?」
「………分からないのか?今までの行いをよく振り返ってみろ」
「楽しく暮らしていただけざます!奴隷を調教して、女達の舞を見て、■■■■■に愛して貰っていたのに………ッ!彼が消えたと思ったら、どうして!?」
本気で分からないらしい。そして上手く聞き取れないのはあの少年の名前だろうか。彼の名前を聞いたことはなかったが、そもそも、最初からなかったのかもしれない。
「助けて!助けて■■■■■!!私を守ってくれるって言ったざますよね!?お願い助けて!」
「…………」
残虐な行いを平気でしてきた天竜人。首輪が付いていた頃、見上げる顔は悪鬼のようであったのに。
首輪が外れ、自由の翼を手に入れた今。泣き崩れる女を上から見下す。どこからどう見ても一人の小娘にしか見えなかった。
いっそ哀れにすら思う。信じていた男に裏切られ、地獄に突き落とされた箱入り娘の人生を。だが、奴が行ってきた所業は決して許される事ではない。
哀れに思えど、見逃してやるつもりは毛頭なかった。首を締め上げる。
「あいつはお前を助けになんか来ない」
泣き叫び、暴れまわる女。自身の死を悟ったのかもしれない。タイガーに拷問の趣味はないし、天竜人達と同じ事をやるつもりもなかった。
今までと同じように首の骨をへし折り、即死させた。
「後味の悪い始末をさせやがる。おれから望んだ事だったが、もう二度と御免だ」
右手に握る死体を投げ捨て、懐にしまっておいたでんでん虫を繋げる。仕事が終わったことを少年に伝えなくてはならない。
『もしもし。おれだ』
『………タイガーか』
『ああ。仕事は終わったぞ』
『そうか。分かった』
でんでん虫越しに伝わる疲弊した少年の声。どうやら彼は相当強い敵と戦っていたらしい。
『………手を貸すか?』
『いや、必要ない。もう終わった。どこに向かえばいい?』
『東海岸だ』
『なら先に向かってくれ。お前を座標にして時空間を飛ぶ!』
そこで通信は途切れた。
▼
時は少し遡る。タイガーが天竜人を虐殺するほんの数分前の話。
「あっしはボルサリーノォ。おめぇさんが何者かは知らんが、死んで貰うよぉ〜」
ボルサリーノは指を構え、レーザーを放つ。
勾玉が回転し、紅い瞳は驚異的な動体視力を発揮した。光速で飛来する死の光線を首を捻って、紙一重で躱す。
ポーチから数本のマーキングクナイを取り出し、それをボルサリーノに投げつける。
「手裏剣影分身の術」
「ん〜」
光の身体は常に流動している。いくら数を増やそうと覇気を纏わない物理攻撃など、当たるはずもなくすり抜けた。ボルサリーノは発光する。
「遅いねぇ」
瞬間移動。光の移動速度で彼は少年の目の前に迫る。
「………ッ!?」
「重さとは速度」
光の速さで蹴り抜かれる脚。写輪眼となった瞳ですらその速度を完璧には捉えきれない。
人間の反応速度では光の攻撃を躱す事など出来ない。見てからの回避など不可能に近いそれを、少年はチャクラにより強化した反応速度で術を発動させた。
(ーーー間に合え!)
姿が消える。飛雷神の移動速度は使用者の反応速度そのものだ。つまり、写輪眼とチャクラにより強化されていたとはいえ、少年の速度が一時的に光速を上回ったに他ならない。
「あれぇ?おっかしいねぇ」
ノーモーションでの驚異的な移動速度。光速を上回る転移能力。思わずボルサリーノは首を傾げた。
自分より強い敵や味方の存在を知ってはいたが、速い存在など今まで会った事がなかったからだ。
「水遁・水断波!」
先程投げたクナイに飛んだ少年は中距離専用のウォーターカッターを放つ。ボルサリーノはその攻撃を驚異に感じる事なく、受け入れる。
「嘘だろ……?攻撃が通らない!」
これが噂に聞く自然系の能力者……ッ!
真っ二つになった身体が再生していく様を見て、少年は舌打ちをした。こちらの攻撃は全て効かず、相手の攻撃だけが一方的に通る。
ならば水牢の術で動きを止めるか?不可能である。光の速度で動く敵にあの攻撃を当てるなど至難の技だ。ここは逃げに徹しながら、時間を稼ぐしかない。
少年は地中に木遁を仕込む。
「覇気を知らない小僧には、あっしはやれないよぉ」
少年が覇気を知らない事には理由がある。
前世の記憶がないからだ。彼は前世に保有していた原作の記憶を名前とともに消されている。
ボルサリーノはまた光速で少年に接近する。背後から話しかけられた少年は驚愕し、インパクト直前にギリギリで飛ぶ。
「速いねぇ。こりゃあ点と点を結んで移動してる、ワープってところかなぁ。オペオペの実に似てる能力かぁ」
ボルサリーノは思考する。覇気を纏えない人間に彼がやられる事はあり得ない。速度という一点を置くならば、条件付きで自分より速いようだが、驚異には成り得ない。
「………速すぎる」
唖然と呟く少年を見て、ボルサリーノは彼の瞳を見た。尋常でない反応速度はひょっとしたらあの瞳が鍵になっているのかもしれない。
ワープに爆撃に水を操る力。そして何処からともなく巨大な船を呼び出し、それを守る結界を張った。出来ることが多彩過ぎて、反応速度の強化を行って来ても不思議ではない。
考察しても。否。考察するだけ何の能力か分からなくなる能力はこれが初めてだ。だが、自然系ではない。それは確かだ。何故なら奴はこちらの攻撃を受け流していないからだ。
「魔幻・枷杭の術!」
三つ巴の勾玉が回る。少年の目を直接見たボルサリーノは彼の幻術に嵌った。世界が反転する。
何処からともなく杭が現れ、ボルサリーノの身体を縛り付けた。これは覇気ではない。覇気を纏わない攻撃はなんであれ、ボルサリーノを捉えることは出来ないのだ。ならばこれは。
「幻って訳かい。厄介だねぇ〜」
目を合わせただけで相手に幻を見せる。反応速度と動体視力を跳ね上げる。どうやら少年の戦闘はあの瞳を中心に戦術を練られているらしい。
ボルサリーノは覇気を練り込み、それを放出した。生命エネルギーが乱れ狂い、幻術の輪から抜け出す。
「なっ……に?」
「終わりだよぉ〜」
「くっ」
身体の動かないボルサリーノにトドメを刺すべく、接近していた少年は突然の反撃に驚く。急いでチャクラを練り、マーキングクナイへ飛ぼうとした。だがそれはもう読まれている。
光の身体を捉えていた瞳に、ボルサリーノは指を突き出し、発光させる。
「ぐぁぁぁあっ!?」
目潰し。見えすぎるが故に光の奔流を直で喰らい、常人以上に吸い込んでしまう。一時的な失明状態に陥る。
写輪眼を酷使し、なんとか攻撃を凌いでいた彼が視力を奪われた今、ボルサリーノの攻撃を躱せる筈もなく。
「げァ!」
光速の蹴りが少年の身体を吹き飛ばした。
「さて。今死ぬよぉ〜」
ボルサリーノは吹き飛ぶ少年に一瞬で追いつき、逃げられないよう仕留めにかかる。足の裏にレーザー光を蓄え、頭に標準を定めた。
少年は奪われた視界の中、相手の姿を捉える為に感知の術使う。
「飛雷神のーー」
「させないよぉ〜」
格上の相手に、何度も同じ手は通用しない。既に飛雷神の能力が割れている以上、ボルサリーノが少年を安安と取り逃がす筈がない。
少年が術を発動させる寸前、ボルサリーノの蹴りが再度彼を穿つ。
「んん〜?気配が二つに増えた?おかしいねぇ」
ボルサリーノに吹き飛ばされたと同時に影分身を発動させたが、どうやら見切られたらしい。
「それも全く同じ気配。分身したのかい?」
ボルサリーノは瓦礫の下に感じる気配を目掛けて突っ込んだ。どういうカラクリかは知らないが、隠れている方が本物だろう。
もし違っていても、ワープ能力の種が割れている以上、ボルサリーノは少年の速度に遅れを取ることはない。一人殺ったあとでも十分に間に合う。
彼の蹴りが少年を蹴り抜く瞬間、密かに少年の口角が吊り上がった。
「おっとっと〜。こりゃ水かァ?」
分身体が消えたと同時に、大量の水が弾け、それがボルサリーノを包むように展開される。
「油断したねぇ〜」
格下と侮り、勝利を確信したツケが回ってきた。見聞色の覇気を怠ったことが裏目に出たのだ。
水を回避するため力を入れるが、海水が染み込んだ木遁が巻き付き、上手く力が入らないのだ。
昔、ゼファーという上司に言われた事を思い出す。お前は能力に頼り過ぎていると。
少年の策が成功した。木遁が仕掛けている場所にボルサリーノをおびき寄せ、その能力を封じ、水牢の術で窒息させる。
覇気で心を読まれていたら不可能だったかもしれない。それともボルサリーノは行動を読む事はできても考えまでは読めなかった可能性もある。
ボルサリーノの完全に動きを封じたところで、タイガーからの通信が入る。そろそろ脱出作戦も大詰めだ。
タイガーからの報告を聞いた後、あらかじめ仕掛けてさせておいた起爆粘土を爆破させる。損害を与え、捜査の手を遅らせるためだ。
「さて。そろそろ飛ぶか」
少年は船に付けたマーキングに飛び、結界を解除する。彼は視力が戻らないまま、タイガーに標準を合わせ、船ごと東の海岸へ飛んだ。
主人公強すぎ。どうしよう。
まあ、原作開始10年前だし?黄猿まだ中将だし。しかも助かるし一応。原作黄猿の強化フラグも建ったし。
弁明しておきますと、彼は能力の強さ故、覇気を使えない相手に慢心してしまったんですね。
逆に言えば、水遁も一応使えて木遁も写輪眼も使う主人公が負けるという事も想像出来なかったのです。
黄猿こんなに弱くねぇよという方。申し訳ありません。先に謝罪しておきます。
作者自身、今回のお話には自信がないのです……。