【悲報】知らない間に幼馴染がジムリーダーになっていた件について【まさかの裏切り】   作:海と鐘と

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第六話

 苦手なものはなかなか変わらないものだなぁ、と先日のことを思い出しながら歩いていた。

 

 印象を払拭するようなよっぽどの出来事がないかぎり、苦手なものは苦手なままらしかった。

 

 コトネちゃんのメリープにやったことが、その証明である。

 見た目可愛らしい、全く害のなさそうなふわふわもこもこしたメリープに、割と躊躇なく攻撃できてしまえた。

 考えてみれば、コトネちゃんに聞いてみるなりポケギアでスキャンするなりすれば、メリープに痛い目を見させずに特性を知ることが出来た筈である。あの時は全く考えが及ばなかった。

 

 言い訳するならば、あの時は痛い目を見せてでも自分でポケモンの特性を理解させて、戦術的な戦い方を編み出してほしいと思っていた。

 人に言われて理解するより、痛い目を見て自分で打開策を探す方が身につくものなのである。

 特性『せいでんき』は、物理的な攻撃を食らったときに相手を麻痺させる優れた特性であり、麻痺の状態異常は相手の速さを鈍らせる。スピードで勝てなかったストライクも、麻痺させれば十分勝ち目があるはずだった。

 

 ……完全にただの言い訳である。

 

 

 四足歩行の獣型。

 

 

 ロケット団にとび蹴りかましたその日のうちに、奴らと似たようなことをしでかすのだから救えない。

 今度会う機会があるなら頭下げて謝らないとなぁ。

 そんなことを考えながら歩いていると。

 

 

「……あ」

 

 

 コトネちゃんだった。

 驚いたような顔をしてこっちを見ていた。

 目線があって数秒、固まっていた。

 噂をすれば影っていうのは、頭の中で考えているだけでも効果を発揮するものなんだな、なんてことを考えていたのである。

 見つめあったような形になった後、視線を外された。

 しかし、無視して行ってしまうのでもなく、困ったように目を下に向けて所在なさげに立っているところを見るにつけて、本当にコトネちゃんはいい子だった。

 

 

「……コトネちゃん。ジム戦、勝ったんだってね。ツクシから聞いたよ。おめでとう」

 

 

 気付くと、自分から話しかけていた。しかも、謝罪から入るのではなく当たり障りない共通の話題から入るあたり、実にへたれっぽかった。

 

 

「……はい、ありがとうございます。なんとか、勝てましたよ……?」

 

「うん。ツクシも、褒めてたよ。随分強くなってたって」

 

「あの後、調べたんです。メリープちゃんのこととか、特性とか、麻痺の効果とか……」

 

「……う。そ、そう。そりゃあ、まぁ、なんというか……」

 

「……ちゃんと、調べたんですよ……?」

 

 

 近づくと、気まずくてとてもじゃないがコトネちゃんの顔なんて見れなかった。

 控えめに言う声が、なんだか恨めしそうな響きに聞こえてきてしまった。

 

 

「ちゃんと、調べましたよ……?」

 

 

 謝るしかない。

 

 

 

「あの時はすいませんでしたぁっ!」

 

 

 頭を下げた。

 

 ……返事がない。

 恐る恐る、顔をあげる、と。

 

 

 目をまんまるくして、驚いた顔のコトネちゃんがいた。

 

 

「……えっ?な、なんで、クヌギさんが謝るんですか……?」

 

「えっ?」

 

「ふぇ?」

 

 

 首を傾げる様子が可愛かった。

 

 

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 

 

 

「いろいろ教えてもらっていたのに勝てなくて、怒られちゃったのかなぁ、って思っていたんです」

 

 

 と、恥ずかしそうに、コトネちゃんは打ち明けた。

 道中付きっ切りで相手の特徴を教えていたのが裏目に出ていたのだろうか。あれだけ教えてもらったんだから勝てなきゃ嘘だよ、とばかりに勢い込んでしまったコトネちゃんだが、結果は惨敗だった。

 そのあと、それまで優しく接していた俺が急に暴力的に怖い感じになるものだから、期待を裏切って俺が怒ったのだと思ったという。

 

 なんともお人好しで優しくて、そして自分を低く考える子であった。

 

 別れ際に残した俺の言葉をちゃんと聞いていて、言われたとおりに調べて、言われた以上のことも調べて、そして勝つために戦術を練って訓練して、再度ジムリーダーに挑んだという。

 

 なんとも生真面目で頑張り屋で、そしてなにより素直すぎる女の子である。

 

 概ね俺が思っていた通り、否、それ以上の成長をしてくれたコトネちゃんである。ポケモン一匹一匹について詳しく調べるという経験も、相手に勝つために戦法を考えるという経験も、ここで積んでおけばあとあと役に立つことは間違いないのだが。

 

 メリープに関しては、100%こちらが悪い。

 

 普通、自分の大事なポケモンを傷つけられたら、その相手のことを嫌って当然、無視して当然だ。

 そうならないコトネちゃんがちょっと心配である。

 

 

「今日探して見つけられなかったら、もう次のコガネシティに行こうかなって思っていたんですけど」

 

 

 会えてラッキーでした、とはにかんで言った。

 

 

「会えてラッキーだったのは俺もだよ。ちゃんとコトネちゃんに謝れたし、メリープにも、謝れたしね」

 

「うん、それはそうですね。メリープちゃんには、ちゃんと謝ってほしいと思ってました」

 

 

 つん、としたような雰囲気を出したかったのだろうか、ふんすと顔を背けるコトネちゃんはやたら可愛かった。

 コトネちゃんの足元をちょこちょこ歩くメリープに顔を向ける。

 こっちの方は、俺のことが怖くなってしまったのだろう。コトネちゃんを盾にするようにして、俺をちらちらと観察していた。

 

 メリープを見ていると、めぇ、と鳴いた。見るな、と言われているような気がしたので、視線を前に戻した。

 

 

「……でも、私に謝ってもらう必要はないです。私がもっとちゃんと出来てれば、クヌギさんがあんなこと、する必要はなかったんですから」

 

「いや、それは……。新米トレーナーが出来ないのは、むしろ当たり前のことだったよ。出来なかったことをやらせようとした俺が悪かったし、メリープにやったことはそれに輪をかけて悪かった」

 

「でも、強くなるためには出来なきゃいけないことですよね?自分の仲間が何を出来るのか、相手にそれがどんな風に効果があるのか。考えてみれば、バトルするためには当たり前に考えなきゃいけないことなのに、それが分かっていなかったんです。トレーナーになって、舞い上がっちゃってたんですかね。私」

 

「…………」

 

「教えてくれて、ありがとうございました。クヌギさんのおかげで、ちゃんと出来るようになりました。だから、功罪帳消しです!私に謝る必要はないですよ、クヌギさん?」

 

 

 ちゃんと(・・・)、という言葉を、やけに使いたがるな、と思った。

 

 

「……OK、了解。もう謝らない。コトネちゃんには謝らないと決めた」

 

「うんうん!それでいいんです!これでこのお話はおしまいです!」

 

「これから先何があってもコトネちゃんには謝らない」

 

「……うん?どういうことです?」

 

「勝手にコトネちゃんの写真を撮っても謝らないし、偶然スカートがめくれちゃっても謝らないし、必然スカートの中を見てしまっても謝らない」

 

「ふぇえ!?ダメです!それは謝ってください!」

 

「誤っても謝らない」

 

「……なにやら最低な人を生み出してしまった気がします……」

 

 

 呟くコトネちゃんに向けてにっこり笑いかけると、仕方ないなぁとでも言うように笑い返してくれた。

 将来悪い男に捕まりそうで、実に心配である。

 

 

 そんな風に話をしながら、ウバメの森に向けて歩を進めていた。

 今日も晴天で、実にいい天気だった。

 日差しは強いが、ド田舎の舗装されていない道路が程よく熱を吸収し、辺りに生えている木々が木陰を作り出していた。

 

 自然と共生している街、ヒワダタウンである。

 ヒワダタウン以上に自然に囲まれた街は、俺の知る限り、ホウエン地方のヒワマキシティくらいしかない。

 

 ヒワマキシティ。あそこの住人は、ほとんどがウッドハウスに暮らしていた。

 鉄もガラスも使わずに、木だけの家に住んでいたのである。

 開きっぱなしの窓からたまにむしポケモンが入ってくるんだと、笑いながら話してくれた覚えがある。

 率直に言って変人だらけの街だと思った。

 自然に囲まれ過ぎると、人はおかしくなっていってしまうのだろうか。 

 

 ジムリーダーの女の人も、すこぶる綺麗な人だったが若干電波入っていたなと思い出しながら、コトネちゃんに話していた。

 

 

「その人、鳥ポケモン使いだからか、風を読むのがすっごくうまくてさ。本人いわく、風の様子が声として聞こえるんだそうな」

 

「こ、声として、ですか……?」

 

「まぁ、そういう才能が有りすぎて常人には理解できん所にいる人なんだろうけど、その人の趣味が、風の声の変わり様を観察することでさ。高いところでぼうっと立っているのが日課でさ。端から見ると、何もないところをぼんやり眺めて、すっごい幸せそうにしてるんだ。その人の美貌も相まって、まるで電波を受信してるように見えてさ……」

 

「あ、あははは……。世の中には、いろんな人がいるんですね……?」

 

「考えてみれば、ホウエンのジムリーダー、半分以上変人だったわ。世界の変人祭りだったわ」

 

「そ、それは、ちょっと失礼なのでは……?」

 

「まぁ、個性がなきゃジムリーダーとかやっていけなさそうだし、すごい人は、どこかしら変なところがあるものなのかもしれないな」

 

「あぁ、それは分かるかもしれません。クヌギさんも、そうですもんね!」

 

「……う、うん……?」

 

 

 今、割と直球に、変人扱いされたか……?

 素直なコトネちゃんは、思ってることがそのまま口に出る。ってことは、俺、変な人だって思われてる……?

 

 もやもやした気持ちを抱えながらも、ウバメの森へと続くゲートが見えるところまで来た。

 コトネちゃんはこのままコガネへ行くので、ここでお別れである。

 

 

「じゃあ、この辺で」

 

「はい。いろいろありがとうございました。ヒワダタウンに来てから、私ちょっと強くなれた気がします」

 

「それも、コトネちゃんの頑張りだよ。あとバッジ6個だけど、コトネちゃんなら、きっと直ぐにゲットできる」

 

「は、はい!頑張ります!」

 

 

 向かい合って、握手を交わした。

 コトネちゃんの50m程後ろにゲートがある。あそこを通れば、すぐにウバメの森に入る。コトネちゃんに会うことも、もうないだろうと思った。

 

 

 

 

 と、思っていた時。

 ゲートの自動ドアが向こうから開いた。

 出てきたのは、赤い髪に、この世の悪全てを煮詰めたようなきつい眼差し。

 奴だった。

 

 

 

 

「……あ、あのですね。クヌギさん、もしよろしければ、なんですけど……」

 

 

 コトネちゃんはゲートに背を向けている。奴のオーラを感じ取るには、コトネちゃんは修行不足だった。

 ぐっと引き寄せて、最寄りの民家の壁に押し付けるようにして身を寄せた。

 

 

「……できれば、連絡先の交換を……? ふわぁ!?クヌギさん!?ちょ、な、何を……?」

 

「しっ!静かにっ!」

 

 

 びっくりしたのか、顔が赤くなっているコトネちゃんを隠すように、顔の横の壁に手を押し当てた。

 なぜ奴がここに……?まさか、待ち伏せをしていたとでも言うのか!非常にまずい事態だった。

 眉をひそめて、じっと奴の様子を伺う。

 

 

「……く、クヌギさん……?あ、あの、その、お顔が、その、近いと言いますか……」

 

「黙って」

 

「ひぅ……」

 

 

 諦めたように、コトネちゃんがぎゅっと目をつぶった。

 

 諦めんなよ!一緒に打開策を考えようよ!

 

 コトネちゃんは目を開けない。俺一人でなんとかするしかないようだった。

 どうする……?奴が行くまで待ち続けるのか……?しかし、奴は一体いつまでここにいる?くそっ、情報が足りない!

 

 

 民家の引き戸がガラッと開いた。

 歩きづらそうに出てきたのは、最近ぎっくり腰になったボングリ職人のガンテツさんだった。

 

 ガンテツさん!ここはガンテツさんの家だったのか!これでいける!

 ガンテツさんは壁にいた俺たちを見ると、怪訝そうな顔をしていった。

 

 

「……なんや小僧、辛抱溜まらんって顔しおってからに。別に乳繰り合うのは構わんが、人ん家の壁使うなや」

 

「黙れエロ爺ぃ!ふざけてる場合じゃないんすよ!ちょっと中に入れさしてもらいます!」

 

「んおぉっ!?」

 

 

 コトネちゃんの手を握って、ガンテツさんの家に転がり込んだ。

 格子の隙間から、ゲートの方を見る。奴はまだいた。

 

 

「おい小僧!わしの家は連れ込み宿とちゃうぞ!」

 

「10歳に何言ってんだあんた!コトネちゃんに聞かせるような単語じゃないでしょうが!そうじゃなくて、あれ見て、あれ!」

 

「うぅん……?」

 

 

 ガンテツさんにゲート前に陣取る脅威を見せる。

 コトネちゃんは、つれこみ、やど……?と首を傾げていた。純真なままの君でいてください。

 

 

「……なんや、最近ここ来たトレーナーやないか。もうそろそろコガネへ行く言うとったで」

 

「ならさっさと行けよやぁ!あんなところでうろうろしやがって、一体何を企んでいやがるんだ奴は……!」

 

「……追われとるんか、ソウタロウ?よく見れば、お前さんが連れとんのは、ヤドンの井戸で会った嬢ちゃんやないか」

 

「……ど、どうも、こんにちは、ガンテツさん」

 

「奴に会うとヤバい事情があるんです。コトネちゃんを危険に晒すわけには……?」

 

 

 あれ、よく考えてみれば、コトネちゃんは別に隠れなくてもよくないか?

 咄嗟に連れてきちゃったけど、その必要はなかった……?

 奴の脅威に頭の十割が危険信号を出していたせいで、そこまで考えが回らなかった。だめだ、最近頭が悪い。天才の称号も返上である。

 

 

「……あれって、シルバー君、ですよね?」

 

「……!知っているのか、コトネちゃん?」

 

「えぇと、知り合い?なのかなぁ……」

 

 

 奴と知り合いとは、コトネちゃんもなかなかに侮れない精神力を持っているようだ。

 でも、それならば話は早い。コトネちゃんとはここで別れて、俺は奴が去るまでガンテツさん家に入れておいてもらえばいいのである。

 

 

「……シルバー君に付き纏われてるんですか?」

 

「……ああ、そうなんだ。奴は俺にとって実に恐ろしい存在だ」

 

「なら!私が言ってきてあげます!」

 

 

 天使がいた。いや、救いという意味での女神かもしれなかった。

 

 

「……だ、だから、連絡先、交換してもらえないでしょうか……?」

 

 

 ポケギア、パソコン、家の住所、全て教えた。

 

 

 

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、気を付けて、コトネちゃん」

 

「はい、分かってます!私もワカバタウンからここまで旅してきたんですから、大丈夫です!」

 

「いや、そっちじゃなくて。『名前を言ってはいけない赤い髪の奴』に気を付けて。奴は『のろい』が得意なんだ。油断してるとやられるかも」

 

「は、はぁ……」

 

 

 よっぽど苦手なんだなぁ、とコトネは思った。

 ボングリ職人、ガンテツの家の前である。

 先日ジム戦の時にアドバイスをくれた頼れる少年が、玄関の壁に隠れるようにして見送ってくれていた。

 

 一体どんなことをすれば、この少年がこんな風に警戒するようになるのだろうと、コトネはシルバーに怒りを覚える。メリープには酷いことをしたけれど、それも謝ってくれたし、基本的には優しくて。物知りで。理知的で。

 とっても素敵な少年である。

 

 彼がこんなに怯えるなんて、ポケモンバトルで相当酷い負かし方をしたのだろうか。考えたくはないが、出会った時からポケモンに優しくない言葉をかけていたシルバーである。戦闘不能になった彼のポケモンに、追い打ちをかけるように攻撃していても不思議はないと思った。

 

 

 コトネは激怒した。

 必ず、かの邪知暴虐のシルバーをコテンパンにすると決意した。

 彼女は政治が分からぬ。

 彼女は純朴な一トレーナーである。

 しかし、シルバーのような邪悪には人一倍敏感であった。

 

 

「シルバー君!」

 

「……?ああ、お前か。……ふん、お前、復活したロケット団を倒したってな。風のうわさで聞いた」

 

「シルバー君、人に迷惑をかけている自覚はあるの!?」

 

「……迷惑?覚えがない。そもそもヒワダタウンにはほとんど滞在してない」

 

「うそ!うそだよ!よく考えてみてよ!」

 

「……なんだお前。俺はここのところ、ずっとウバメの森の奥で鍛錬を続けていたんだ。ヒワダタウンには、食い物が切れたら戻ってくるくらいだ」

 

「じゃあ、クヌギさんって名前に聞き覚えは!?」

 

「……!クヌギ、だと……っ!?」

 

 

 名前を出した瞬間に、表情が変わった。それまで飄々としていたのが嘘のように、表情が色づいた。

 やっぱりそうなんだ、とコトネは思った。

 

 

「クヌギさんに迷惑をかけるのはやめてよ!これ以上続けるなら、私許さないから!」

 

「お前には関係ない!!口をはさむな!」

 

「……っ!関係あるもん!クヌギさんには、お世話になったんだもん!シルバー君がクヌギさんをいじめるのを、止めるために来たんだもん!」

 

「……世話になった、だと……!それに、俺があいつをいじめる、だと……!」

 

 

 言った途端、なにやらすごく怖い顔でコトネを睨んできたが、コトネは気丈にも睨み返した。

 

 

「……お前、あいつとポケモンバトル、したのか」

 

 

 怖い顔をしたまま、質問してきた。

 

 

「してないけど、それがなにか関係あるのっ!?」

 

「……は、はっはははははははは!」

 

 

 答えると、怖い顔から一転して笑い出した。

 意地悪そうな笑顔をしながら、シルバーはコトネに言った。

 

 

「分かってない!お前は全くあいつのことが分かってない!」

 

「……分かってるよ!物知りなのとか、優しいのとか、全部!」

 

「そんなものはどうでもいい!あいつの本質は知識とか、優しさとか、そんなぬるい物じゃない!はは、助言をもらうだけのお前は、あいつの庇護下にあるだけだ!」

 

「……どういうこと?」

 

「俺はお前とは違う!いつかあいつに並んで、追い越してやる!お前も、ロケット団を倒したその力、見せてみろ!」

 

 

 モンスターボールを構えた。

 多分こうなるだろうとは思っていたので、驚きはしない。

 お互いに離れて、向かい合った。

 

 

 

「……いって、ピジョン!かぜおこし!」

 

「……いけ、ゴルバット!ちょうおんぱだ!」

 

 

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 

 

 

「……それでそれでっ?それでどっちが勝ったのっ?」

 

「……なんかお前、超楽しんでね?これ一応、俺のお悩み相談なんだけども」

 

「超楽しんでるよっ!超面白いっ!ジムリーダーになってから一番くらいに面白い!」

 

 

 言葉尻が跳ねまくっていた。

 

 ポケモンジムの休憩室である。椅子に座って向き合っていた。

 ツクシにこの間あった事を話していたわけだが、まるで心躍る冒険譚を聞いている子供のようなはしゃぎ振りであった。

 キャラちげぇ、と思いながらも話を続ける。

 

 

「あのジム戦で負けた時以来のコトネちゃんのバトルだったけど、すごく戦術的な動きが増えててびっくりしたよ。マグマラシ相手にタイプ苦手なベイリーフでもある程度戦えてたりして、驚いた。バトル中、メリープもモココに進化するし、ああ、この子選ばれてんなぁ、って思ったもんだった」

 

「おおっ!バトル中の進化!いいねぇ、ロマンだね!じゃあ、勝ったのはコトネちゃん?」

 

「いんや、奴の方」

 

「奴?」

 

「『名前を言ってはいけない奴』だよ。言わなくてもお前なら分かんだろうが。あの野郎、ズバットは進化してるし、戦い方も洗練されてたし、挙句の果てにはゴースがゲンガーになってやがった。もうバッジ5個目くらいの力は有りやがるんじゃねえのかな」

 

「えぇっ!ゴースがゲンガーまで!?君、交換してあげたの?」

 

「するかボケぇっ!心優しい誰かに頼んだんじゃないのか?あの時のアドバイスきっちり聞いてるんだから笑うわ。いや、笑えんが」

 

「へぇえ。じゃあ、コトネちゃん負けちゃったのか。それでその後は?」

 

「あの野郎、高笑いしながらコトネちゃんに向かって『いいか、お前が負けたのはお前のポケモンが弱いからじゃない!お前自身が弱いからだ!』とかなんとか言ってくれやがって、そのままウバメの森に消えていきやがった。今頃はコガネシティにでもいるんじゃないか?」

 

「あっははは!それ君が最初に言ったやつじゃない!覚えてるなんて、シルバー君はいい子だね!」

 

「やかましゃあっ!大爆笑しやがってツクシてめぇ!そんなに笑いたいならもっと笑かしてやるわ!」

 

「うわっ、ちょっ、なにするんだ! んふぅっ! あは、あっはははははは!」

 

 

 座っていたツクシを押し倒して、くすぐってやった。

 笑いたくなくなるくらい笑わせてやれば、笑うのを止めるだろうか。

 

 

「そんでな、コトネちゃんはポケモンが全て戦闘不能になったから、一旦ポケセンに戻ってその日はヒワダに泊まってな?」

 

「ふはっ!はははははは!くすぐりながら、喋るの、やめてぇ!」

 

「次の日改めて見送ったんだが、その時に、『絶対シルバー君を止めて見せますから!』ってな?コトネちゃんマジ天使」

 

「ふひゃあ!あはははははは!もうだめ!もうだめだぁ!息、出来、ないよぉ!」

 

「ツクシ聞いてる?」

 

「も、も、だめ、ふぅ、やめ、やめへぇっ……!」

 

「ツクシ、聞いてるの?」

 

「んぁあ!き、聞いてる、からぁ!」

 

「聞いてるなら感想言えるよな?どう思ったん?言ってみ?」

 

「いう!いう、からぁ!ぁ、ああ、手ぇ、止めてっ……!」

 

「このまま言って、ツクシ?このまま言ってみろや、おお?」

 

「んふ、うふぅ、んっ、んっ、んふぅ……!」

 

 

 こんこん、とドアをノックする音がした。

 休憩室なんだから、ノックなんていらないのに、誰だろうとドアを見ても、誰かが入ってくる様子はない。

 少し間が空いてから、ドアの向こうから声がした。

 なぜだかとても気まずげな声だった。 

 

 

『あ、あのー。クヌギ君?えっと、ここは一応、公共の場、だからね?君たちの個室じゃ、ないからね?』

 

 

 ジムトレーナーのお姉さんのようだった。

 もちろんそんなことは分かっていた。ちょっとうるさくし過ぎたかと思いながら返事をする。

 

 

「あー、すみません。うるさかったですかね。お姉さんは休憩ですか?入ってきてもいいっすよ?」

 

『えっ、ええ!?まさかの途中参加歓迎!?クヌギ君、進み過ぎ……。お姉さんにはまだちょっとレベルが高いかなぁって……』

 

「レベル?よく、分からないっすけど、ツクシをいじってるとめっちゃ楽しいっすよ?」

 

『え、遠慮しときます!声かけちゃって、ごめんなさいでしたっ!終わったら呼んでくださいっ!』

 

 

 ばたばたばた、と走っていくような音がした。

 なんで敬語?

 休憩はしないのだろうか。熱心な人だなぁと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回少し長かったですかね。
読んでくださってありがとうございました。
感想、誤字脱字等ありましたら書き込んでくれると嬉しいです。

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