俺の家に魔王が住み着いた件について   作:三倍ソル

7 / 35
日曜日



買物

 三日前ぐらいからこの家に住んでいる魔王(♀)。そろそろこいつのせいで、あるものが枯渇してきた。それは……。

 

 「魔王。」

 「何だ。」

 「また、外出るぞ。」

 「分かった。」

 

 ―――日用品である。こいつが居候し始めてから、水道代電気代なども二倍近くかかっているが、なによりも日用品が無くなってきた。それは、ティッシュとか…まあ、それはいいとして。お風呂の素とか洗剤とかが枯渇してきた。なので、今日はそれをデパートに行って買う。

 魔王は水色の服にピンクのフリルスカートと、先日と同じ格好で出かけた。何だか、もう慣れたみたいだ。

 

 

 「おー!ここがデパートという場所かー!結構大きいな!」

 「だろ?ここには凄くいろんなものが売ってる所なんだ。」

 

 俺は車を運転し、近くにある結構大きいショッピングセンターに行く。魔王は窓から顔を覗かせ、その直立するビル群を凄く新鮮な目で見つめている。

 

 「これまた、凄い時代の進歩と言うべきものだろうか?この車と言い、街並みと言い、人類も捨てたものじゃないな。」

 「認めてもらえてよかったよ…。もうさお前、普通の人間で良くない?態々魔王なんて名乗る必要ないだろ?」

 「それは無理だ。魔王というのは、あくまで先代魔王の子孫として生まれてきたから。いわゆる、称号みたいなもので、これは絶対に捨てることは出来ない。」

 「そうなんだ。魔王って称号だったんだな。」

 

 俺は新たなる魔王のうんちくに感心しつつ、適当な駐車場で車を止めて、デパートの中に入る。

 

 

 「おー…凄く広いな、ここ…。迷ったりしないのか?」

 

 魔王は予想以上だったかはどうかわからないがデパートのその広大さに圧倒され、目をグルグルさせている。確かに、ここは広すぎるからなあ…。普通のデパートならもっと狭くてもいいんだよな…。

 

 「迷ったりはしないよ。何故なら、所々に地図があるからな!」

 「アレが地図か?凄いな、壁に絵が彫られている。」

 

 魔王は俺の指さした方向に行くと、そこの柱に案内図が書かれているのを発見した。封印される前の時代は主に紙に描かれてたりとかそんなのが多かったのか、魔王は新鮮なモノを見るような目で壁を見ている。

 

 「これ、どうやってやったんだろう?」

 「まあ…知らないな。ホラ、さっさと目的地に向かうぞ。」

 

 壁に夢中になっている魔王を呼び寄せて、エスカレーターという技術に魔王が驚きながらも向かった先は、まず服屋。

 

 「おおー、服屋か?なんだ、我の衣装をリニューアルさせてくれるのか。」

 「それもあるが、俺の服もサイズが合わなくなってきたんだ。だから、ここに来たワケよ。」

 

 そして俺らは自分がいいと思った服を選んだ。俺はあまり派手な色が好きではないので基本時に白をベースにした模様が描かれている服や、無地の服を選んだ。一方、魔王はというと…。

 

 「…本当に、それを選ぶのか?」

 「そうだっ!!」

 

 魔王が目を輝かせて俺に見せたのは、……何か、凄く禍々しい色で染められ、センターにでかでかとしゃれこうべが描かれている悪趣味な服。こういうのは、不良が着そうな服なんだが…。これを買われたらマズい。この場を切り抜けよう。…よし。

 

 「…まずこの服のどこがいいのか、説明してくれ。」

 「分かった!まず、この禍々しそうな紫…いや、ちょっと黒が混ざっているな。いや…青か?この青紫の色が我のストライクゾーンにクリーンヒットしてだな。あと何といってもこのドクロだ!!これがカッコいいと思わんのかフウマ!?…あれ?」

 

 魔王が夢中になって話している隙に、俺は会計を素早く終わらせる。あんな服高くて買いたくないし、まずこいつの趣味に合わせていたら俺の人生が変な方向に突っ走ってしまうからな…。

 我に返った魔王は妙に大人しく、しょぼんとした表情でこちらに向かってきた。

 

 「何だ、今日はやけに素直だな。」

 「いや、まあな。強ばかりは我も貴様を振り回すわけにはいかないと思ってだな…。」

 「気遣いどうも。だが、お前はそのままでいい気がする。素直だとどうも落ち着かん。」

 「じゃああの服を買ってくれないk―――」

 「ダ メ で す 。」

 

 …まあ、何か自分でも言っている事がおかしくなっている気がした。だが、魔王はそのままでいい。これは本当だ。言うなれば、それを止めるのが俺か。

 

 「…むー…。まあいい。今度は、私の行きたい所に連れていって欲しい。」

 「何だ。また碌なもんじゃないだろうな。」

 「例えば、凶器屋とか…。」

 「だからお前の時代残酷すぎだって!まずあそこで何を買うんだよ!?」

 

 職業の事と言い、人間の性格と言い、凶器屋といい、魔王の生きていた時代は残酷の極みだな…。俺もその時代に生まれなくてよかった。本当に。

 あの時に話を戻すと、一応接客業はあったみたいだが、物騒なモノを売っているがゆえにあまり平和じゃなかったんだな…。

 

 「じゃあ、ただの武器屋はあるのか?」

 「それも無えよ!」

 「えー…?じゃあ、何があるんだ?」

 

 …何があるかと聞かれても、色んなものがありすぎてまず何から言えば良いのかが分からない。まあ大体お店とレストランとゲーセンに別れるがな。

 そうだ。俺の巧妙な話術でコイツを俺の行きたい所に連れて行ってやろう。

 

 「何があるって言われても、そりゃあ電化製品などが置いてある店が結構あるな。例えば、ビックカメラとかヤマダ電機とか。」

 

 巧妙な話術と言っても、本当にここのデパートは大規模で、電化製品店がここの4階を全部占めている。

 

 「電化製品店か?我はそこにはあんまり興味はないのだが…。」

 「行ってみれば?もしかしたら、結構面白いものがあるかもしれないぞ?」

 「…まあここ、我が行きたい店は一つもなさそうだしな。行ってみるとするか…。」

 

 語り部:魔王

 

 ―――電化製品店…もとい、ビックカメラという場所に着いた。壁や床は殆ど白で統一されており、我が全然見たこともない電化製品と言われるものが棚に並んでいる…。

 

 「…これは、それぞれどんな時に使われるものなんだろうか…。」

 「それぞれ独自の使い方があるんだよ。ちなみに、テレビも電化製品だ。」

 「テレビ?…ああ、あの薄い奴か。」

 「そうそう。アレ薄型だけど結構古いデザインだし、新調しようと思ってな。」

 「金は大丈夫か?」

 

 噂によると、テレビ…いや、あのような家具はかなり高額だと聞く。

 

 「大丈夫。銀行で下してきたから余裕はある。とりあえず、5万くらい。」

 

 フウマはそう言うと、我に財布を渡す。確認しろというのか。見てみたら、確かに5万以上は入っていた。

 

 「とりあえず銀行で下した額の半分でテレビを買い、残りは他の安い電化製品や日用品を買うつもりだ。」

 

 普段はガサツな印象だが、コイツも計画はちゃんと練ってここに来ているんだな。

 

 「じゃあとりあえず、さっさと買おう。フウマ、神速を使って高速で買い物をするんだ。」

 「人が多すぎて使えねえよ…。誰かにぶつかるかもしれないじゃないか。」

 「…そうか。なら歩くしかないな…。」

 

 正直言って、歩くのは面倒臭い。だが、フウマに昨日運動不足だと言われたので歩かなければいけないのも事実だ。だが、面倒臭いものは面倒臭い。やっぱりフウマの神速を使って一瞬で買い物を終わらせたいものだ。それが出来ないとは残念極まる。

 

 「じゃあ、早速テレビを買いに行くか。」

 「分かっ―—―」

 

 我がそう言おうとしたら、突如として特異な臭いがした。それは、昔ならまだ別だが、いまこの現代では殆ど嗅ぐことのない、"アレ"…―――

 

 ―――火薬である。

 

 火薬のにおいがした方へ振り向いてみると、何かサングラスを掛けて黒いヘルメットをかぶり、軍隊的な服を着た男性が複数いた。なにか大きいバッグを背負っており、何かを計画しているような話しぶりをしている。

 

 「な、なあフウマ…。」

 

 我は緊迫した顔でフウマの肩を叩く。

 

 「何だ?」

 「何やらあの連中、不穏な空気がするのだが…。」

 「え?まあここ、人口も多い街だしな。ちょっとくらいあんな服装が居てもおかしくないだろう?」

 「…だが、一瞬火薬のにおいが…。」

 「気の所為じゃないのか?言霊になるぞ。」

 

 フウマはどうやら信じていないようだ…。だがよく考えてみれば、ここの出入り口は一つしかないし、テロリズムも起きやすい場所だな…。クソ、これは少し警戒した方がよさそうだ…。

 

 「えーと?ここを右に行ったら…あったあった。テレビコーナー。」

 

 我らはテレビが置いてある場所に着き、どれが一番いいのかを見極める。値段も手ごろで、尚且つ画質が良かったりするものを…。そして、そこら辺をうろついている従業員を呼び、それを購入しようとしたら…。

 

 バンッ!!

 

 ―――辺り一帯に銃声が鳴り響いたのである。

 ここにいた客は突如としての銃声に何事だと戸惑い、混乱する。

 

 「静かにしろお前ら!これは、絶対の命令だ!そして、これから言う事に従え!!」

 

 次に辺り一帯に響き渡るような大声で、ついさっき見た男性のリーダー格の一人がそう言う。

 

 「…やっぱり、そうだったのか…。」

 「……マジかよ……夢か?」

 

 何となく予想はしていたのだが、まさか本当に起きるとは思わなかった。フウマは、この空間が現世か否かすらも分からなくなってきているようだ…。

 リーダー格の男性の一人に銃で脅迫された従業員の一人は、店内の少ない入り口のシャッターを全部下げる。それを確認した一人は、客を全員集め、手足をテープで縛る。勿論、それは我らも対象外ではない。

 

 「……オラ、さっさと手ェ出せよ!!」

 「ま、待て。そのまえに、一つ聞きたいことがある…。」

 「一体なんだ?」

 

 フウマが一つ、質問をする。

 

 「なぜこんな事をするんだ?金目的か?それとも、()()()()()()()()()()()()()()が欲しいのか?」

 「……。」

 

 テロリストの一人は、何も答えずに我らの手足を縛った。

 

 

 やがて我ら人質は、全員一か所に集められた。シャッターからは、ドンドンと音が聞こえる。中には、警察や一般人の声も…。

 

 「お、これは丁度がいい…。」

 

 テロリストのリーダー格の人が、忙しなく叩く音を鳴らすシャッターに向かって怒鳴る。

 

 「おいお前らッ!!」

 「ひっ!?」

 「お前ら今直ぐ今言う事を聞け。そしてそれを誰かこのデパートの代表者に伝えろ。"今、ここは我々が制圧した。人質もいる。そして、我々の要求に従い、今から2時間以内に金を1000万出せ。もしできなければ、このデパートに仕掛けた爆弾が全て一気に爆発する"とな。」

 「!?」

 

 いつの間にそんなのが仕掛けられていたのか。という事は、今人質はビックカメラだけだが、実質的にはデパート全体が人質に取られたようなものなのか…。しかも、1000万って何なんだ一体。多すぎるだろう。せめて、800万ぐらいには出来なかったのか?

 …まあ、そんなことはどうでもいいか。

 

 「まあ、逃げようとしても無駄だ。全ての出入り口に俺の仲間を置いているし、誰かが逃げようとしたら即座に俺の手に持っているリモコンでデパートが爆破される。」

 「お、おいちょっと待て、お前の命はどうでもいいのか?」

 

 自慢げに話すテロリストに、人質の一人が質問を問いかける。

 

 「ああ、それは大丈夫だ。ここは階数も低いしな。すぐ逃げることも出来るさ。」

 「…大体なんで、こんな事をするのよ?」

 「そんなの、お前らが知って何になるんだ。確かに金目当てではあるが、それを知ったって何も変わらないだろう?」

 

 そんなやり取りをしていると、デパート全体にアナウンスが流れ始める。それは、我らが人質に取られ、テロリストから金目的の要求をされていると言うもの。要するに、デパートが人質に取られたという報告のアナウンスだった。

 

 「お、ちゃんと誰かが伝えておいてくれたらしいな…。どうするか?追加ルールで、30分ごとに人を殺すっていうのはどうだ?」

 「イイっすねそれ!」

 

 余裕があるテロリストたちは、おふざけなのか分からないがそんなサラッと物騒な会話をしている。これには、さすがの我でも腹が立つ。これまで数多の人間を魔法で殺していたこの我でも。

 

 「……?」

 

 突然、拘束されている手のテープが解かれたような感触がした。後ろを振り向いてみると、そこには…。

 

 「…!?」

 

 赤い髪に蒼い眼、そして、中学生ぐらいの容姿…。それは紛れもない、ユーキだった。あの、昨日会った、我の正体を掴んでいる奴だ。

 

 「…何でここに!?」

 「俺は知っているぞ。お前らの行動も全てな。そして、お前らに付いていったらこの有様だ。」

 

 ……。

 お前らの行動も全てって…。それは、ストーカー行為だぞ…?

 

 「何で拘束が解けたんだ?」

 「おっと、拘束されているフリをしとけ。ばれたらマズいからな。」

 

 我は気づき、慌ててテープを手首にかるーく巻き付けておき、拘束されているように見せる。

 

 「で、何で解けたんだと聞いている。」

 「まあ、俺は手にサバイバルナイフを持っているからな。なんとかそれをポケットから取り出し、解くことに成功したんだ。」

 

 ユウキはそう言い、こっそりポケットからそれと言われるものを取り出す。

 

 「おい、フウマ。」

 

 我はフウマに小声で話しかける。

 

 「?」

 「ユウキだ。覚えてるよな?」

 「…あ、お前…!」

 

 フウマはユウキの姿を確認した途端に驚いた顔になる。そりゃそうだ、まさかこんな状況で再び会うなんて誰も予想しないだろうな。

 

 「とりあえず、拘束を解く。だが、拘束されているフリはしろよ?」

 「…分かった。」

 

 フウマを拘束しているテープがナイフによって切れる。後は、こいつらをどうやって鎮めるか…だが…。まるで方法が思いつかない。

 

 「…まず状況から把握しよう。」とフウマ。

 

 テロリストは全員で4人ほど。全員フリーダムで、時たまに人質を監視するが、やっぱり話している時が多い。話している隙を見つけ出してテロリストを倒せればいいのだが…。

 

 「…あいつらの武装…、あの銃本物だな…。」とユウキ。

 

 我には偽物か見分けがつかないが、ユウキが多分そう言うならそうなんだろう。根拠は特にないが。という事は、その気になれば人を殺すことは可能って訳か…。

 ……ちょっと待てよ?もしかして、さっきの"30分ごとに人を殺す"ってルール可決してないか!?

 

 「おい二人とも!?アレ、何か適用されてるぞ!?」

 「は!?マジかよ…。おっと!」

 

 テロリストの一人が我らの不審な行動に気づいたらしく、見張りに来た。我らはそれに気付いてすぐ、大人しくする。だが、拘束がされてない今、その気になればここで暴れることは可能だ。

 

 「はーい、30分経過。という事で、誰か一人を殺しまーす。」

 

 ……ヤバい。これで死者は出来るだけ出したくないのだが…。

 

 「おいお前、立て!!」

 「……。」

 「…あ。」

 

 …ハハハ。テロリストも不運だな…。なんでフウマを選んじゃったんだろうなー…。アイツ、神速使えるからすぐに逃げれるぞ?とは、もちろん言わないでおく。

 

 「こいつが死ぬ5秒前。4…3…2…1…。」

 「今だッ!!」

 「ゼr…!?」

 

 フウマはテロリストの0と言うタイミングを見極め、鳩尾を肘で強く打つ。

 テロリストは悶絶し、衝撃で銃を上に動かし、天井を撃った。運悪くその弾は真上にぶら下がっている照明器具に当たり、フウマを殺そうとしていたテロリストに落ち、動けなくさせる。

 

 「ぐおッ!?」

 

 そして、それを再び見たフウマは、神速を使い、とんでもない速さで残りのテロリストの目を欺く。態々0に合わせた理由は、テロリストの油断した隙に動く方が一番安全だからだろう。

 

 「き、貴様止まれ!!」

 

 テロリストが銃を向け、乱射するが、それはフウマに当たることは一切無く…。

 

 「…失礼。」

 「がッ!?」

 

 我とユウキはテロリストがフウマを撃つのに夢中になっていた隙を見つけ出し、テロリストの足を掴み、咄嗟に手前に引っ張る。急に足を取られたテロリストは転び、我とユウキはテロリストの持っている銃をはぎ取り、いざと言う時に撃てるようにする。これで、二人の鎮静化は成功。

 ……え?何でユウキまで?

 

 「き、貴様らー…!!」

 

 残った一人が我らに向かって銃を向ける。その後ろからフウマが迫っていた事も気がつかずに…。

 

 語り部:フウマ

 

 「ふー、やっと終わったー…。」

 

 俺らは一気に背伸びをして、デパートを出る。

 あの後はそこまで何も起きなかった。俺が残り一人のテロリストの後頭部を強く叩いて失神させたとき、タイミングが丁度良すぎるというべきか窓からサツが侵入してきたのだから。テロリストも、窓の監視はしていなかったようだな。

 

 「テロリストは逮捕されたし被害も少なく済んだからよかったけど…。疲れた…。」

 

 魔王は運動不足の体を無理矢理動かしたせいで凄く疲労がたまっているようだ。

 ちなみに、俺らがテロリストを鎮めたっていう事はばらすなと警察と人質に言っておいた。これのせいでなんか有名人みたいになっても嫌だからな。

 

 「そういえば、爆弾は?」

 「あー、あれか?もうテロリストが口を割って全部位置を話したからすぐ解体作業に取り掛かるとよ。」

 「そうなんだ。良かった…。」

 「それよりも、アイツだよアイツ。」

 「アイツ?ユウキの事か?」

 「そうだよ。何かアイツ……何と言うか……不思議だよな。」

 「まあな。」

 「何でお前の正体を知っているのか。」

 「だな。」

 「何でお前をストーカーしているのか。」

 「今はいないがな。」

 「いろいろと謎なんだよな……。」

 

 ちなみに肝心のユウキは今此処にはいない。何故か、テロリストが逮捕されたあと忽然といなくなってしまったのだ。

 

 「まあいいか。今日の晩飯はハンバーグにしよう。」

 

 これ以上考えても仕様がないので、話題を切り替える。

 

 「ハンバーグ?」

 「ん、知らないか…。ホラあれだ。肉の塊。」

 「肉の塊か?知らないが…おいしそうだな。牛カルビ弁当と似たようなものか?」

 「それとはちょっと違うな。肉を細かくした奴を固めて焼くんだ。」

 「美味そうだな!よし、食べようじゃないか!」

 

 俺らは、駐車場に泊めてある車へと向かった。

 

 

 「我が家に到着!早速晩飯を作るのだ!」

 「…ここお前の家じゃないけどな。」

 

 俺は手洗いを高速で済ませて材料を用意し、料理を開始する。10分後したら、完成。今日は魔王も腹を限界まで空かせているようだし、急いで作らないといけないな。

 

 「フウマ。」

 

 魔王が台所に入ってきた。

 

 「何だ。あともう少しでできるから待ってろ。」

 「いや、違う。その料理、我にも手伝わさせてくれないか?」

 「え、ああ、まあ…別にいいが、後は焼くだけだぞ?」

 「いや、別にいい。フウマばっかり労働させると申し訳ない気分になるのでな。」

 

 魔王はそう言って、ガスコンロの前に立つ。そして、今まさに焼かれようとしているハンバーグをじーっと見つめている。

 

 「……教えてやろうか?」

 「余計なお世話だ!今ちょっと、やり方を考えているんだ…。」

 

 ……失敗しないことを祈るとするか。

 

 魔王は、どうやら火の付け方が分からないでいるようだ。なぜ、何故つまみに気付かないのか。それとも普通気が付かないのか?

 

 「……フウマ。ちょっと木材と棒持ってきてくれ。」

 「そんな原始的なやり方じゃなくてもいいんだがな!?」

 「じゃあどうやってやるんだ?」

 「…気づかないのかな。ここにつまみがあるだろう。」

 

 俺はガスコンロの下にあるつまみを回し、火を付けた。魔王は火を付ける方法が自分のすぐ傍にあったことに気が付かず、少し顔を赤らめる。

 

 「……こんな所に……。」

 「じゃあ今度は自分でつけてみろ。中火と強火の間で3分ぐらいだぞ。」

 「中火と強火の間で3分な…。えいっ!」

 

 魔王はつまみを回した。これで火が付いた……強すぎる程に……。

 

 「ぎゃああああこれ完全なる強火じゃねぇか!?焦げる焦げるーーーーッ!!??」

 

 俺は慌ててつまみを限界まで回し、消火する。

 

 「…強すぎたか?」

 「うむ。強い!もう少し弱めろ!」

 「分かった。」

 

 魔王は再びつまみを回し、今度は丁度いい具合に中火と強火の間に火加減を調整する……という事をしないで、またつまみを強火の所まで回した。

 

 「話聞いてたのか!?」

 「よし、後は…。」

 「聞けよッ!!なんでコップ持ってるんだよ!?何で水入れてんだよ!!焦げるって焦げるーーー!!」

 「……よし、準備完了。」

 

 魔王は水を入れたコップをガスコンロの真上でひっくり返そうとする。

 

 「や、ヤメロオオオオォォォォォォッ!!!」

 

 阿鼻叫喚。

 駄目だコイツ。こいつに料理をさせたらヤバいような気がしてきた。確実に大惨事になる。

 

 「もう俺が全部やるからお前は待ってろ。」

 「…わ、分かった…。何だ、才能が無いとでも言いたいのか?」

 「才能が無いというより、どっちかと言うと一から教えた方がいいかもしれないな。」

 

 魔王は渋々その場を離れ、再びテーブルの椅子に着席する。俺は濡れ鼠になったガスコンロを雑巾で拭いた後、再び調理を再開する。

 数十分後、ハンバーグ完成。一回魔王に手伝いの名を借りた邪魔をされたものの、何とか完成できた。我ながら、かなりいい出来だな。

 

 「ほい、完成ー。」

 「待ちくたびれたぞ、フウマ。何故もう少し早く準備できない。」

 「お前が邪魔するからだよッ!!」

 「邪魔してない。あれは手伝いだって言っただろう?」

 「……。」

 

 いや、アレは確かに邪魔をされた。手伝いなんてそんな優しいものではない。やったことと言えば、ただガスコンロを濡らしただけだ。それを邪魔だったと自覚していないとは……ある意味魔王だな。

 

 「さーて、食うとしますか。今回は、箸で食えよ?」

 「…箸か…。ナイフとフォークはないのか?」

 「それステーキだろうが。」

 

 俺はもう慣れてしまった魔王の天然ボケに対して華麗に突っ込み、箸を渡す。

 

 「頂きまーす。」

 「…頂く。はむ…。」

 「どうだ?美味いか?」

 

 俺はハンバーグを口にした魔王をまじまじと見つめながら、そう問いかける。今日の味には物凄く自信があるのだ。

 

 「……ごくん。」

 

 やがて魔王は口の中で細かく砕いたハンバーグを飲み込み、一つため息。そして俺に対してこう言った。

 

 「美味しい。」

 

 それは、昨日も一昨日も聞いた感想だ。だが、いつもならそれを叫びながら言う。しかし今回は、無我の境地に達したかのような真顔で俺にそう言った。

 

 「美味しいのか?それは本当なのか?」

 

 いつもとは違うその反応に、俺は思わず顔をしかめてそう言ってしまう。

 

 「本当だ。紛れもなく本当だ。一体何なのだこの美味さは?噛めば噛むほど肉汁が溢れ出てくるぞ?おまけに、この玉ねぎの香ばしさがハンバーグの美味しさを倍増させてくれている。これ以上美味しいものはあるのか?」

 

 ……完全に今の発言は食レポのそれと一緒だな…。こいつ口はよく回るから食レポ番組のレギュラーにでも出演したら大ブレイクしそうだな。

 

 「…だが今回はやけに落ち着いてるな。なんだ、喜ぶのが馬鹿らしくなるほどおいしいってことか?」

 「うん。」

 「そうか。それは良かった。」

 

 俺はそう言った後、自分もハンバーグを口に運ぶ。

 

 「………。」

 「美味いだろう?」

 「………。」

 

 ハンバーグを細かくかみ砕き、飲み込む。そして、俺の最初の感想。

 

 「美味いなこれ。」

 「だろ?美味いだろう?」

 「うん。すごい美味い。これが自分で作ったモノなのかって疑うほどに。」

 「だろう?」

 「……。」

 「……。」

 

 暫しの沈黙。

 

 「…ぷっ。」

 

 皆は経験したことがあるだろうか?お互いに顔を合わせてそのまま喋らないでいると、どんどんと笑いが込み上げてくるのを。

 俺らは、今まさにその状況だった。

 

 「…はははっ。何だこれ、凄い美味いぞ!?」

 「何だフウマ!?それ自分で造ったやつだろう?」

 「美味い!!チョー美味い!!」

 「変な奴だなー…美味いッ!!

 

 魔王は笑いながらハンバーグを口に運び、そう叫ぶ。

 そのままお互いに笑いながら時が過ぎた後、俺は有ることを思い出した。

 

 「そうだ魔王!お前、酒知ってるかい?」

 「酒か?なんだなんだ。飲ませようってんのか?」

 「飲めるのか?」

 「飲めるとも!!酒クレー酒ぃ!!」

 

 なんだか、もう酔っているようなテンションだが、そんなことはどうでもいい。今の俺らは、ハンバーグの味に酔っているようなものなのだから。

 俺は冷蔵庫から酒を取り出し、魔王に投げ渡す。

 

 「酒だー!!久々の酒だー!!うっへへー、飲むぞ飲むぞー!!」

 「何だ何だ、もう酔っているような口ぶりだなあ。」

 「ゴクゴク……。美味い!!お前も飲め!!」

 「言われなくとも飲みますとも!!」

 

 その後、酒を飲んで宴会のようなテンションになった二人が物凄い近所迷惑になったことは、また別の機会にお話しするとしよう。




今回なんか色々と酷い仕上がりだな。まず超展開。色々といつもよりひどい駄文。後半あたりは謎テンションで書いたからヤバいことになっている。なんか10000文字も書いてるし、俺もう寝ます。

途中から見ている方は、第1話も是非! ここ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。