俺の家に魔王が住み着いた件について   作:三倍ソル

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土曜日



外出 後

 「…甘い…冷たい…。」

 

 魔王は、さっきから俺の買ったソフトクリームを食べてばっかりいる。これを食わせるには相当時間がかかった。何故なら…

 

 「ほら、買ってきたぞー。」

 「え?うわあああああ!!まきグソ!!白いまきグソを近づけるなあ!!!」

 「何がまきグソなんだよ!!美味いから食えよ!!」

 「いやだあああああああああああ!!!」

 

 こいつがソフトクリームのとぐろを巻いた形状を白いまきグソと勘違いしたためである。初めて見たゆえの勘違いなのだろうか?その後無理矢理食わせたら少し気に入ってくれたようだ…。なんでだろう、俺もまきグソにしか見えなくなっちゃったじゃないか。

 

 「フウマ、美味いなこれ。我を美味しいものを食わしてくれてありがとう。」

 「本当、ソフトクリームを気に入るとか魔王のくせに偽物なんじゃないかって思うなー…。」

 「……"魔王"……。」

 「美味しいものは美味しいんだ。魔王がソフトクリームを好きになって何が悪い。」

 「イメージが崩れるというか…なんというか…。」

 

 でも世の中には、パロネタを連発する魔王もいるらしいからな…。そいつと比べてまだ魔王がソフトクリーム好きなのはおかしくないか…。

 

 「じゃあさ、この後何する?」

 「じゃあ次は……。」

 「ちょーっと待ったーっ!!」

 「「…え?」

 

 突如路地裏から見知らぬ人物が現れた。赤髪に透き通るような青色の目、魔術師のような風変わりな服、そして左手には魔術の本…と書かれているノート。背丈は中学生ぐらいか。

 

 「何の用なんだ?」

 「フッフッフ、言うまでもないだろう…。俺はッ、お前を倒しに来たんだ!!」

 

 自信満々にそう言って、指さしたのは…魔王。

 

 「…!?」

 「お、おいちょっと待て。何でコイツが倒されなくちゃいけないことになるんだ?」

 「……演技しろってことか。」

 

 一先ずコイツを振り払いたくなったため、俺はコイツの正体が魔王ではない演技をする。魔王もそれを察したのか、自分も魔王じゃない演技をする。

 

 「俺は知っているんだ!数百年前、禍々しき者がこの地に降り立ったってことをな…!そして、その伝記物に書かれていた姿とお前が酷似している!逆に疑わない理由があるか!?」

 

 ……どうも胡散臭い情報だな。誰が遺したのかも分からんっちゅーのに。

 

 「じゃあ根拠は何だ根拠は!」

 「お前の名前はヘルだろう!?」

 「違う、零だ!」

 

 どうやら、確かな情報を掴んでここに来ているだろうな…。とりあえず、俺はしばらく口を出さないとするか。後は魔王の成り行きに任せる。

 

 「零?フン、そんなのどうせ仮名だろう!?バレバレなんだよ!!」

 「…なッ、フウマ、このまま隠し通すか?」

 「通せ。そのうちアイツも諦める。」

 「了解。」

 「何をこそこそ喋っているんだ!そう言えば、コイツは誰なんだ!?」

 「この人は私の義父だ!それがどうかしたのか!?」

 「…成程、しもべかと思ったが、そうではないようだな…。」

 

 そいつは独り言のようにそう言い、魔術の書と書かれている者をパラパラとめくっている。それは本当に魔術の書なのか?なんか矛盾してるぞ?

 

 「…人違いなのか?いや、だがこいつは確かに…。」

 

 あまりにも魔王が拒否するため、コイツは本当に目の前にいる奴が魔王なのか疑うようになってきた。だが残念、そいつは魔王だが、力がない為実質魔王ではない。

 

 「おいお前!!何だか知らないが、俺の娘を魔王などと抜かすのはそれ以上辞めるんだ!!」

 

 これ以上水掛け論が勃発しても仕方が無いので、俺は無理矢理この場から離れようとする。

 

 「そうだそうだ!!私は魔王ではないのに…。()()()()()()()に訴えてやろうか!?」

 

 ―――が、魔王が余計な一言を…。

 なんで消費者センターなんだよ!そこは普通保健所とかだろ!?ホラあいつも困った顔をしているじゃないか!?とか言おうとしたら、また次に相手が予想外の反応を返してきた。

 

 「…な、何だと?消費者センターは…マズい。」

 「お前も乗るなよ!!なんで消費者センターはマズいんだよ!!」

 「どうだ?消費者センターはマズいだろーう?なら、貴様は今すぐこの場から失せろ!」

 

 ……なんとか行けているようだ。結果オーライだなぁ…。消費者センターがどうマズいのか分からないが、相手は身を退きだした。

 

 「…く、クソッ、俺の名前はユウキだ!!この名前を自分の脳味噌によーく焼き付けておくんだな!次会った時は()()しないぞ!!」

 「勇者じゃなくて容赦だろクソガキー!!」

 

 俺がそう叫ぶと、ユウキとやらはさらに顔を赤らめて逃げていった。まあどうせ、アイツの方からももう会ってはこないだろうな。

 

 「ふー、にしてもどうして初対面なのに我の正体が分かったというんだ…。」

 「あいつ、情報源は不明だが本物の情報を持ってきているな。子供だと思うのにすごい奴だ。」

 

 魔王は自分の正体がばれかけていた時に冷汗をだらだらと流していたらしく、凄く疲れたようだ。

 だが、よくよく考えたらもしあいつに魔王だってばれたとしても周りの人が信じるかどうかだな…。別にアイツ自体そこまで権力はないだろうし、血眼になっていろんな人に伝えまくってもやがて揉み消されるのがオチだろうか。

 

 「…だが、あの伝記書をアイツはどうやって手に入れたんだ?」

 「そうだな…。そう言えばお前、封印される前何処に住んでいたんだ?」

 「んー、名前はよく覚えてないが、…ヨーロッパのどこかだった気がする。」

 

 ヨーロッパのどこかって…。曖昧にもほどがあるが、それは仕方ないとして…。だとしたら、コイツに色々疑問が浮かぶ。何で日本語を解せるのか、何でここに着いたのか。まあ、二番目の方は誰かが旅行の際に置いてったとかそう言う風に考えていいが、一番目の方もそこまで深く考える必要のない問題だが……やっぱ気になる。

 

 「ヨーロッパのどこかって、何でじゃあお前日本語分かるんだよ。」

 「我は魔王だ。人間のお粗末な脳ミソと一緒にしてもらわれたら困る。言語を理解するなど容易いことなのだ。」

 「……腹立つなコイツ。」

 

 どうやらもう既に魔王は全言語を理解し翻訳することが可能らしい。俺より頭が小さいっていうのに、こいつの脳細胞はどの位有能なんだ。解剖して調べたい。…冗談です。

 

 「ささ、次に向かうぞ。今度は、道中で気になったところへ行きたい。」

 「え?何だそこは?」

 「よく分からないが、"Cats Cafe"と書かれていた。」

 

 …キャッツカフェ…?そこってもしかして、猫カフェということか!?…何ということだ。俺猫アレルギーなのに…。

 

 「……じゃあ、行こうか。」

 「どうした?何か暗いぞ?」

 「い、いや何でもない。」

 

 ああああああ!!もう何でなんだ俺!!素直に言えば良いだろ!!なんで何でもないなんて言っちゃったんだよおおおおお俺!!馬鹿ーーー!!!

 

 

 「……零。」

 「何だ。」

 「すまん、一人で行ってくれないか。」

 「嫌だ。」

 「…何故。」

 「我は人間と話すのが苦手だ。その意味でも、お前が居てもらわねば困る。」

 

 …クソッ、強制的に俺が行かなければいけないのか…。なんか魔王が楽しみにしているみたいだし、今更断るなんて真似できない…。

 

 「猫カフェってどんなところなんだ?」

 「まあ、喫茶店に猫が居るって感じかな…。俺猫苦手なんだけど…。」

 「苦手ってことは別に"居ちゃいけない"ということはないだろ?」

 「…いや、苦手というk―――」

 「ホラ行くぞ。」

 

 遮らないでください…。今結構大事なこと話そうとしたんですけど…。

 

 

 結局来ちゃったよ…。今俺達はもうすでに猫カフェに入ろうと入口に差し掛かっている所。さてこっからどうするべきなのか…。

 アレルギー反応ってアレルゲンを体内に取り込むことで発生するんだっけ?なら、ずっと息を止めていれば大丈夫だな。

 ……え?ずっと息を止める…?

 

 「…猫だ!!」

 「……。」

 「凄い!猫がいっぱいいる!!これ、触ってもいいのか!?」

 「いいんですよー。」

 

 店員が優しく声をかけてくれる。俺は魔王が猫に夢中になっている間、店員にこっそろ耳打ちをする。

 

 「俺、猫アレルギーなんですけど、何か薬無いでしょうか?」

 「ええっ!?アレルギーなのに来たんですか!?…仕方ないですね。私達には如何する事も出来ませんので、どうか耐えきってください。」

 

 藁にも縋る思いで店員にアレルギーを止める薬を貰おうと思ったのだが、まずそんな人が猫カフェに来るのも予想しなかったのは当たり前で、店員は何もしてくれなかった。

 

 「モフモフだ…。おいフウマ、フウマも触ってみろ!」

 「……ぃゃ、別に…。」

 「遠慮するなって。ホラモフモフだぞ。」

 

 …く、苦しい…。モフモフなのは十分に分かったが、そろそろトイレに駆け込みたい…。そして酸素を取り込みたい…。

 

 「…じゃぁ、俺トイレ行くから……。」

 「…お、おう。何か様子が変だぞ?」

 「キにする…な…。」

 

 体内の空気を限界まで出したため、もう本当に酸素が足りない。地上なのに酸欠で死ぬ。

 

 ガチャッ!バタンッ!!

 

 「ぜー…はー…。」

 

 酸欠で動かない筋肉を無理矢理動かし、トイレに駆け込んで呼吸を繰り返す。こんな事になるぐらいだったら猫カフェ断るんだった。なんで来ちゃったんだろう本当に。

 

 「……よし、スゥゥゥッ…!!」

 

 空気を大量に吸って、酸素を大量に取り込む。これでまあ大体1分間ぐらいは大丈夫だろう。肺活が普通の人よりちょっとある方なのが救いだな…。

 

 「お、フウマ、来たか。飲み物頼んでいいか?」

 

 俺は呼吸が出来ないながら精一杯の笑顔を保ち、コクリと頷く。多分、顔は蒼白だ。

 

 「ご注文は何にいたしましょうか?」

 「えーと…。このココアってなんだ?」

 

 店員に対してため口…。これは普通の人なら許されざる話し方だぞ。店員の心が広くて助かった…。

 

 「ココアというのは、茶色く甘い飲み物です。チョコレートを溶かして牛乳に混ぜたような味がしますよ。」

 「…ふむ、成程。じゃあ、それ一杯頼む。」

 「はい。そちらの方は…大丈夫ですね。」

 

 店員がこちらに視線を向けたが、顔面蒼白になりながら何かを訴えているような笑顔を保っている俺に対して大丈夫だと判断し、台所に向かった。

 …やばい。また死にそうになっている俺。またトイレになんて行けないし…。あ、そうだ。最初からこれすればよかったじゃん。

 

 「スゥゥ…。」

 「どうした?ハンカチを口に当てて。」

 

 避難訓練でもよくやった方法だ。煙を吸わないで呼吸をするためにハンカチを口に当てて呼吸すると習ったが、まさかこんなところで使う羽目になるとは。逆にすごいな俺。

 

 「お待たせしましたー。ココアです。(自己解決しましたね…)」

 (ああ、これで大丈夫みたいです。)

 「美味いっ!?チョコのような甘さを飲み物で味わえてるだと!?この世の天国だ!!」

 

 魔王はココアを絶賛している。どうやら気に入ってくれたようだな。あまりこの世の食べ物を知らないだけに、美味しいと決めつけるハードルが低すぎるんだろう。

 

 「コラコラ、あんまり叫ぶなよー。他にお客さんもいるんだから。」

 「わはー、猫モフモフしてるー……。極楽天国ニライカナイ…。」

 

 何かコイツ、猫のせいで浄化されているような気がしてきたぞ。ニライカナイとか何故知っているんだコイツ。

 

 

 「はふーっ、楽しかったなーフウマ。」

 

 俺らは猫カフェを出た。俺がハンカチを口に当てて必死に呼吸をしている間、アイツはずっと猫と戯れてて天国に居るような穏やかな顔をしていたからな…。なんとその間2時間。最終的に猫も嫌がってしまったが、魔王の強大な力(笑)の前には猫も抵抗できないという皮肉。

 俺のアレルギー被害は、首元に出来た数個のいぼだけだった。

 

 「まあな…。ただし、しばらくの間は行かないからな。」

 「…まあ、いいか。猫アレルギーなら仕方がないからな。」

 

 ……は?

 

 「ん?ちょっと待って…。もしかして俺が猫アレルギーだってこと知ってた!?」

 「え!?本当にそうなのか!?」

 「は!?どういうこと!?」

 「お前が猫を嫌がっている時点でだいたい察しがついていたが、本当だったとは…。今のは適当に言っただけだぞ?」

 

 ……嘘!?俺の心を見透かして言ったのかと思ったら、まさかの偶然本当だったって奴か!?もしや、俺のツッコミを求めていたのかこいつは!?

 

 「…何てことだ。大体、お前も何故言わなかったんだ。」

 「いや、なんか気を遣わせたら悪いかなーって…。」

 「我に3分でカップラーメンを食わせた奴がよく言うな…。」

 

 魔王弄りは楽しい。これ重要。俺はそんなこと言われてもなんとも思いません。というか、昨日の朝食の件であんな風になっちゃったから、もう弄れねえけどな…。

 

 「まあ、外っていうのは楽しい場所だな。多少最低の人間はいるが、世の中の人間の大部分は良い人間なのか。」

 「お、分かってるじゃーんヘルくん。これで安心して外に出られるな。」

 「まあな。今日は楽しかったなー!!」

 

 魔王は、日が沈んで褐色に染まった空を見ながら、大きく背伸びをした。




途中から見ている方は、第1話も是非! ここ

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