俺の家に魔王が住み着いた件について   作:三倍ソル

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土曜日



外出 前

 二日前から俺ん家に棲み着いている魔王(♀)。この世界で生きていくうえで、最低限でもこの事はさせとかないと思った。

 

 「おい魔王。」

 「なんだ。我は今テレビを見るのに忙しい。」

 

 魔王はそう言って、テレビに入っているドキュメント番組をずっと見続けている。多分、人間の事をよく理解しようと思っているのだろう…。

 だが俺は、早く言いたいことを言いたいのでテレビの電源を切る。

 

 「あーっ!貴様、何をする!」

 「話を聞け。」

 「…なんだ。」

 「お前、外に出てみろ。」

 「は!?」

 

 …やっぱりか。返ってくる反応は予想と同じだ。こいつは、いま外に出るにはあまりにも無理がある格好なのだ。水色の髪に全身に羽織っている漆黒のローブ。この格好で現代の外に出るにはあまりにも目立ちすぎるのだ。最初会った時は深夜だったから人はいなかったが…。

 

 「無理、無理だ!!」

 

 魔王は首を横にぶんぶん振って拒否する。

 

 「でもな?お前をこの家にずっと閉じ込めるわけにもいかないし、たまには外の空気も吸わしてやりたいしな?」

 「魔王にそんな思いやりは言語道断!我はずっと家に居るだけでも満足だ!…いやまあ、外に出たいって言うのはあるが―—―」

 「えーとだな。そのためにはヘルっていう名前はいけないな。和名を作るか。」

 「聞けコラーーーーーーーーーーー!!」

 

 とりあえず、魔王を何としてでも外に出したい。それだけの一心だ。こいつをずっと家に住まわせてしまうとエコノミー症候群とかなんかそんなのになってしまうからな。

 

 「…そうだ、俺の苗字に因んで、高崎(タカザキ) 経瑠(ヘル)にしたらどうだろう?」

 「ヘルはそのままなのかよ!」

 「でもまあ、漢字は悪くないと思うけどな。」

 「名前の感じが悪いわ!ヘルを変えて、別の名前にしろ!」

 

 なんだかんだで、魔王も乗ってるじゃん。こいつも、一回でもいいから外に出てみたいのかな。

 …あ、そうそう。俺の苗字は、高崎だ。

 

 「じゃあ、…そうだ、お前のお父さんの名前、分かるか?」

 「…ロキだ。」

 「ロキ?じゃあ、高崎露紀(ロキ)はどうだろう?」

 「父の名前パクんなゴラーーーーー!!」

 

 …まあ、漢字の違和感の無さには自信あるけど、コイツは気に入ってくれないだろうな…。だからってこいつに新しい名前を入れると我が息子に名前を付けてるみたいでなんか嫌なんだよな…。

 

 「じゃあ、経瑠と露紀、どっちがいい?」

 「二択だけなのか!?」

 「気に入らないなら、自分で考えてみろよ。」

 「お、いいのか?」

 

 もともと自分の名前を考えるのには興味があったのかもしれないな。魔王は真剣に考えだした。

 

 「…よし、決めたぞ。」

 「どんなんにしたんだ?」

 「(レイ)。」

 「お、そうきたか。悪くはないんじゃないか?」

 

 名前の由来に深い意味がないことは確かだが、偶然にも例という名前は俺が子供につけたかった名前でもある。

 

 「じゃあ我の和名は、高崎(タカザキ)(レイ)でいいな?」

 「覚えました。…あ、苗字と一緒だとあれだ、俺らどんな関係なんだって思われるんじゃないか?」

 

 別姓にしようかとも考えたが、それだと色々と複雑な設定になってしまう。設定を手早くまとめるには、苗字は一緒にしておいた方がいい。

 

 「…ああ、それは…結婚したっていう設定でよくないか?」

 「無理がありすぎる!」

 

 何回も言っているが、コイツの背丈は中学生とほとんど同じだ。それで俺達結婚しましたなんて言うと逮捕…というか不審な目で見られかねない。

 

 「じゃあ、お前の子供という設定ではダメか?」

 「俺独身なのにどうやって子供出来たって思われるよ!?」

 

 隠し子なんて言ってみたとしても、コイツの顔と俺の顔は全くもって似ていない。それにレンなどにそう説明してしまったら…自殺するかもな。

 

 「…むぅ、じゃあ何がいいんだ!」

 

 …まあ、それを言われると俺も悩むわけだが…。こいつの背的に言ってもやっぱり俺のこと言う設定が一番似合うんだよな…。だが、顔は全く似ていない、か…。

 

 「…よし、これでいいだろう!」

 「?」

 「俺が孤児院でお前を拾ったという設定だ。」

 「……いいだろう。本当は嫌だが、今回は仕方がない。」

 

 まあ、納得しないのもよく分かる。だが、今回に免じてそれは…まあ、仕方がないな。

 

 

 という訳で、魔王は外に出る事が出来……おっと、一つ忘れるところだった。それは、必ずやっとかなければいけないモノだ。

 

 「…魔王。」

 「今度は何だ。我は早く外に出たい。」

 

 早く外に出たいのか、魔王が体をうずうずさせている。だが、もうしばらく待ってもらわねばいけないのだよ…。

 その理由は、

 

 「服を替えろ。」

 「え?」

 

 魔王の服によるものである。こいつの服装は、漆黒のローブを全身に羽織っているいかにも魔王っていう感じの服装だ。こんな服装で外に出たら、確実に恥をかく。

 

 「…いや、この服は特別な素材でできていて、何日着てもボロボロにはならないのだが…。」

 

 趣旨を理解できてない魔王の脳味噌の幼稚さよ。魔王としてどうなんだ。

 

 「そう言う訳じゃないんだよ。このお前の服では、外に出る事が出来ない。」

 「それは本当なのか!?外にバリアなんて張られてない―—―あいたっ!」

 

 魔王の察しが悪いことに腹が立って、うっかりチョップで殴ってしまった。本当に魔王なのかどうか、このたびに疑わざるを得ない。

 

 「格好がイタイってことなんだよ!ちょっと服買ってくるから、待ってろ。」

 「…ま、待てだと!?…くそー、早く外行きたいっちゅーのに…。」

 

 俺は魔王の服を買いに、外に出た。まあこいつの場合安物の服は嫌がるだろうから、ちょっと高いのを買わなければいけないかなー…。金が…。

 

 

 10分後

 

 

 「ただいまー、買ってきたよー。」

 「むむむ、早く着せろっ!外に、外に出たい~~…。」

 

 …こ、子供だ…。映画を見るのを明日に持ち越されてうずうずしている子供と全く一緒だ…。

 

 「分かってるって、だから落ち着け。」

 

 そう言ってビニール袋から取り出したのは、水色のやや薄手のTシャツに桃色のフリルスカート。シャツは髪の色に合わせたのだが…。改めてみると、何か合わないような気がしてきた。

 

 「…こ、これを着るのか?」

 

 …まあそりゃあその反応も分かる。だがそこは、子供っぽいから仕方がないの一言で済まさせてほしい。

 

 「…き、着替える。見るなよ!背を向けてろ!」

 「別にそんなん見ても何の魅力もなグフッ!?」

 

 …おいおい、また腹パンかよ…。というか胸はぺったんこだし背丈は完全に子供だから何の魅力もないことは事実なのに…。今のは流石に解せない…。

 

 「…着替え終わったぞ。何だかこれ、着てると落ち着かないんだが…。」

 「まあそれは仕方がないな…。」

 

 何はともあれ、やっとこいつは外の世界に出る事が出来たのだ。その感情の表現は魔王にしかわからないため、一旦語り部を魔王に移しておこう。

 

 

 何か語れと言われた。別に、コイツが家を留守にしていた時も語り部をしていたような気がする。

 だが、そんなことはどうでもいい。我はやっと外の世界に出る事が出来たのだーーー!!え?フウマと初めて会う時には外に居た?違う、それは断じて違う。あの時は深夜帯だ。外の世界なんてまともに確認出来やしない。今は、昼。明るいからいいのだ。

 

 「にしても、空気が美味しいし日光の光は気持ちがいいし、これは外に出て正解だなー!!数百年ぶりにテンションが上がってきたーーー!!」

 「あまりはしゃぐな。恥ずかしい。」

 

 我は闇雲に走り出し、少し広い場所へ出る。そして、吹くそよ風、夏の暑さ、その他諸々…を体感する。現代の外がこんなに気持ちいいものだったとは知らなかった。今の人達はこれをほぼ毎日体感して居るわけか。羨ましい限りだ…。

 

 「これは新鮮で気持ちがいいな!!フウマ、ちょっとこっちへ来い!!」

 「はいはい、なんでしょうか。」

 「お前も体感してみろ、日光の気持ちよさや風の感触…!!素晴らしいと思わないか!?」

 「別に俺は会社に行くとき毎日体感してるけどな。」

 「…あぁッ、そうか!いやでも、これを何回も体感しているフウマは最早新鮮さは感じることは出来ない…。だが、私は今この新鮮さを感じ取ることが出来ているのだ!!何てことだ!今ここのフィールドは私だけの世界となっている!!」

 

 最早テンションの上り様が半端ではなく、考えだけがあたかも世界を支配した口調になってしまっている。

 

 「ちょっと落ち着けよ。じゃあ次、美味いもん食わしてやるから。」

 

 フウマも私がはしゃぎまわってるのを見てホッコリしているようだ。こいつは何だかんだ言って、時たまに失礼な時があるけど面倒見がいいやつなんだよな…。

 

 「美味いもんってなんだ?」

 「ソフトクリームだ。丁度あそこに売っている店があったはずだから、食いに行こうか。」

 「行こうか!!」

 

 我はソフトクリームたるものがどんなものかを早く知りたく、フウマに場所を教えてもらいそこに一目散へと走った。フウマは、置いていく。

 

 

 ドンッ!!

 

 「うおっとと…貴様!人間の分際をして我の走る道を退けないとはどういうことだ!?」

 

 走っている途中で人間にぶつかってしまった。その人間は恐ろしく巨体で、我が怒鳴った後に我を抱き上げ、しばらく見つめた後こう言った。

 

 「成程な。これは一発するには丁度いいや。持って帰るとするか。」

 

 言葉の意味はあまりわからなかったが、その我を舐め回すような顔と腰に地味にハジキがあったのを発見し、一瞬で背筋が凍り付いた。そして、恐怖に怖気ついて動けなくなってしまう。

 

 「…はっ、はーなーせっ!!」

 

 我は必死の抵抗を試みるが、そいつは恐ろしく強い力で我を絞めつけて一切の行動をできなくさせてしまう。

 

 「……っぁ…。」

 

 辛うじて呼吸は出来るが、あまり酸素が補給できない、これでは死んでしまうだろう…。ああもう、何たる失態だ。やはり人間は狂暴な生物なのか…。

 

 「オイ。」

 「あ?何だテメェ。」

 「そいつを離すんだ。」

 

 ―――フウマは別として。

 

 「何で見ず知らずの男にコイツを渡さなければいけないんだ?ひょっとして、父親か?」

 「ああそうだ。これ以上そいつになんかでもしたら通報するか、俺の手の下で制裁を受けるかどっちかを選ぶことになる。」

 「何を言ってるんだ?一般人の分際でよォ!!」

 「おっと、そんなこと言ってしまっていいのかい?なら制裁をしてやろう。丸出しなんだよ、弁慶の泣き所がな。」

 

 フウマはそう言い、露出している相手の脛を強く蹴る。そいつは痛みに悶絶し、我を手から離した。そしてすぐに他人の一般人に通報され、そいつは逮捕されることとなった。

 

 「…ああクソッ、やっぱり人間は最低な野郎だ!!一瞬でも信じた我が馬鹿だった…。」

 「まあ確かにそいつは最低だ。だが世の中は全員こんな奴じゃない。だから機嫌直せ。」

 「…その言葉を絶対に信じていいのか!?本当なのかそれは!?」

 「本当だ。ほら、ソフトクリーム買うぞ。」

 

 フウマはそう言った後、私の手を取って立ち上がらせた。




途中から見ている方は、第1話も是非! ここ

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