真かみさま転生200X(未完)   作:tbc

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CAGE

 

>いわゆるウラシマ効果の日

 フェアリーサークルをくぐって妖精郷に帰ってきた。九条ちゃんに日数を確認すると、どうやら1週間近く経っていたらしい。体感的には3日だったが、やはり思うより経つな……とりあえず原作シナリオの段階を知るためにも情報収集へ。

 スティーブンに連絡を取って状況を聞くが、最近レジスタンスのリーダーの女の子が捕まったところだそうな、救出作戦はまだ行われていない。……ゆり子やヒーローたちとの遭遇には間に合わなかったけれど、大破壊前には一応間に合ったか。

 

 九条ちゃんにどれだけ知識を得たか、メシア教やガイア教への印象について尋ねる。悪魔との付き合いはガイア教が上手だけど、生活環境はメシア教が平和という、中立的な感想。異能についての理解も尋ねるが、自分の他にも変身能力と異なる異能者が沢山いると知ったことで、魔法少女という特別意識がだいぶ薄れたようだ。明治神宮は良い教育をしたが、代わりに若干上から目線というか、自分は運命に選ばれて悪魔と戦う守護者だなんて選民思想じみた考えが付きつつある……カオスに寄ったか?

 実際、勢力としてのカオスやロウに属さなければ俺は別に構わないのだけど……守護者という考えはこの先の展開を考えると死ぬ可能性が高いな。少し早いかもしれないが、明日、彼女に俺の正体を話しておこうと思う。ICBMで人が大勢死んで、心がポッキリ折れないためにも。

 

 

>俺にだって出来ることと出来ないことがあると伝えた日

 九条ちゃんは激怒した。必ず、彼の邪智暴虐なるICBMを除かねばならぬと決意した。九条ちゃんには政治がわからぬ、けれども邪悪に対しては人一倍敏感であった。

 

 冗談はさておき、俺が転生者であることと、この先この世界がどうなるかを知っていることを話した。転生者の下りに関しては、彼女が異能者に憧れていたこともあって先輩はそういう由来で異能を手に入れたのだと、パワーソースであると誤認しているようだったが……了承してくれた。

 しかし、世界の行方、未来について、特にICBMが必ず降ることを知っていると告げると彼女は激怒した。「どうしてそんな酷いことが起きると知っていて、動かないのか」と。

 俺は三つの理由を話した。一つは、俺が知っている未来は殆どICBMが降った後のことだけで、降らなかった場合はどうなるのか、またICBMに狙われることが起きないのかどうかは分からないと告げた。もう一つは、例えICBMを発射するトールマンを倒しても、倒さなくても……どちらにせよ彼が殺された時に今際の際で発射する流れになっており、止める方法が思いつかないこと。最後は、もしICBMを止めたとしても、その後多数の勢力の敵意を受け止める実力も自信も、今の俺には無いことだ。幾ら強いといっても、所詮40レベルの人間でしかない。四大天使が首揃えて殴りこみに来たり、魔王ルシファーやアスラおうたちの相手は難しい。襲う側ならともかく、敵意を受け守勢になると単身で彼らに勝てる実力は、無い……。

 だが九条ちゃんには、俺が諦めた理由を分からない。彼女にとってトールマンやゴトウと、大天使たちおよび魔王ルシファーは同列で「単身では勝てない相手である」にしか思っていないのだろう。実際はレベルが上がれば楽に倒せる悪魔と、例えレベルがカンストしても消耗が避けられない強力な悪魔の差があるとしても、彼女の尺からは等しく「強い悪魔」という認識。これは知識だけでなく、そのレベルを体験しないと分からない経験から生まれるものであるため、口で説明するのは難しい。

 

 言い訳ばかりになった俺に愛想を尽かし、九条ちゃんは私がなんとかしてみせると単身で妖精郷を出ていった。20レベル近い彼女は、準備と戦いようによってトールマンを倒せる実力は確かにあるけど―――現在の【耐電撃】持ちアメノウズメをランクアップさせ、女神アリアンロッドにするだけでトールマン対策は済む―――怒りに駆られた彼女の様子では、今すぐにでも赤坂駐日アメリカ大使館駆け込むんじゃないかと思われる。間違いなく返り討ちに遭うだろう、しかし今の俺が彼女を追いかける資格はあるだろうか?

 

 明らかに博愛と正義感に満ちたLight属性な彼女に、転生を前提として動く打算的なNeutral属性の俺は合っていない。恩を売り、彼女の無知に漬け込んで利用しようとしても、いずれ知識を身に付けた彼女に反旗を翻されるとも俺は感じていた。それを避けるために、俺が早々に知識をつけさせたことで、それが今すぐに早まって発生しただけの話。

 ……利用するなら徹底的に利用するか、早いうちに利用している旨を告げた方がマシだったかもしれない。自分の要領の悪さに自己嫌悪して、立ち直れない。早く動かないと九条ちゃんの身が危ないと分かっているけど、合わせる顔が無くて動けない。

 このまま妖精郷にいるだけでも、ICBMは避けられるからいいけど……いや、それでいいのか?

 

 

>的殺(偽)の日

 ライドウくんに万能パンチ食らった。痛い。

 

 彼は俺が九条ちゃんに何を言ったかは知らないが、彼女がICBMが発射されることを知り単身大使館に突入したことを聞いて、俺と何かあったのだろうと察して妖精郷を訪れたらしい。実際そのとおりであるが……しかし、彼は俺の知ってるもみあげライドウじゃないけど、彼は彼で人情味のある人間だと知る。つまり主人公を投影するだけの無口なキャラではないということだ。彼を見る目が変わった。

 ライト属性寄りらしい彼は、九条ちゃんと違って理論的に俺を諭した。ICBMを止められないのであれば、止められるものの力を頼ればいい。それこそ悪魔でも……悪魔を信じ、用いてこそのデビルサマナーだろう、と。

 

 気付けを入れられたこともあって立ち直した。ふと前回の転生からダメージを受けっぱなしで、心が弱ってたせいでこの度ショックが長引いたかもしれないと後になって思う。今代ライドウくんに感謝を述べ、九条ちゃんの現状を聞く。未だ会わせる顔が無いのは変わらないけど、彼女を怒りのあまり突撃させピンチに陥れた原因として、助けねばならない責任があるだろう。

 しかしライドウから聞かされた彼女の現状だが、大使館に突撃した後に九条ちゃんの消息が失せたという話だ。内部で捕まっているんじゃないかと尋ねるが、そもそも大使館内で九条ちゃんが戦闘を繰り広げた気配すら無いらしい。暴れる間もなく無力化された?

 可能性を色々考えたが……情報が足りない。まずは彼女の消息を調べるところから始めよう。しかし一方でICBMの問題だが、ライドウが葛葉上層部と東京大結界を司る四天王に掛けあって、ICBM着弾を防ぐ結界の瞬間強化を試みるそうな。そもそも俺にはICBMを防げるパワーを持つコネに縁がないこともあり、そちらに関しては彼らに一任する。

 

 ……それでも、多分失敗するだろうな、と俺は気づいている。結界を強化したり、強化しようと思って簡単に防げるのなら原作で東京が滅ぶことはなかったろう。

 それに行うべきは、ICBMの着弾を防ぐでなく、発射自体を止めるべきだ。原作真・女神転生では触れられないが、原作の原作、小説「デジタルデビルストーリー」にてアメリカとロシアの冷戦下で東京へ向けて核ミサイルが発射された時点で全世界が核の撃ち合いとなった流れを考慮すると、この真・女神転生世界でも、東京以外がその他のICBMの標的になるに違いない。

 だからこそトールマンが誰にも殺されず、勝手に病死した設定のデビルサマナー世界線が平和だという理由があるのだが……。

 

 ライドウくんにいいから動けってもう一回ぶん殴られた。痛い。

 

 

>マネーイズパワー、金はリソースだとハッキリ分かる日

 蛇の道は蛇……で調査する時間も暇も無いとして、金で解決する方針に。

 邪教の館にて、妖精ピクシーと堕天使ウコバクを大量購入。そして2体を合体して天使ハファザを大量に作成し、次々と召喚して【スクライイング】で九条ちゃんの居場所、状況などを占わせる。

 1回につき作成費用で1300マッカ、召喚費用で2800マッカ相当を使用するため何度も使えたものではないが、金で手段と時間が買えるなら安いものだ。

 調査の結果、場所は大久保のビルにおり【屍鬼】が関わっていること、状態は死にかけ……気絶か瀕死か生命の縁に立たされており【ヴードゥー神族】が関わっていること、状況は隙をついて襲われ捕われており【怪異】が関わっていること、が判明した。屍鬼にヴードゥー神族(南アフリカから派生した、アメリカ黒人たちネクロマンサーの神族一派)と、間違いなくガイア教徒の一派、「CAGE」による候補者狩りに合ったと見られる。妖精郷や神宮の森から出たと見るや、襲ってきたか。だがそれにしては不可思議なことに、既に死んでいてもおかしくないのに何故生きているのだろうか?生かされている?

 

 不審に思いながら、何があっても問題ないように状態異常対策の回復アイテムや各種御札を整えておく。戦力的には問題無いはずだが、相手は呪術師。不可思議な術の一つや二つ打ってきてもおかしくはない。そもそも偽りの情報を掴まされた可能性すらあるが、そこまで行くと最早お手上げだ。だから組織や世界を相手にするのは怖い。

 

 スクライイングで把握した、新宿の北、戒厳令の封鎖網ギリギリにある大久保のに屍臭漂う雑居ビルに殴り込む。男女の死体から作られたゾンビを秒殺しながら上へ上がる。出てくるものといったら最下級のゾンビばかりで、これといった強敵や罠は出ない。CAGE自体は百年以上生きている屍鬼マンイーターが代表を務める小勢力で、百年かけてもレベル25の悪魔でしかない屍鬼がトップなのだから戦力はさほどでもないが、知識や経験は日本の戦時中、戦後アメリカとメシア教が介入した動乱期を生き延びたベテランである。十中八九何か仕掛けているだろうと警戒しながら、ビルを上がる。

 しかしゾンビの出現以外、何も起こらずに九条ちゃんのいる部屋へと到達する。……すごい死臭がする。扉を開けると、わんさかとゾンビが飛び出してきたが、すかさず造魔が【雲耀の剣】で切り飛ばす。あまりの数に中の様子を確かめる暇はなかったが、幸い部屋の中の血濡れの寝台の上に寝かせられていた九条ちゃんを巻き込むことはなかった。

 が、しかし俺が部屋に入ると同時に、周辺から敵の気配が湧き上がる。どうやら罠として敵を伏せてやがったようだ。死臭がしないあたり、ゾンビとは別物……恐らく情報のキーワードでも出た【怪異】だろうか。レベル的に、怪異ワーキャットだろう……移動が早いな。早くしないと続々と集まってきて九条ちゃんを回収する暇がなさそうだ。

 奴らが接敵する前に九条ちゃんを回収する。意識は無いようだが息はある。蘇生の必要はないだろうと、彼女に近づいて……怪しい気配に気づく。何か仕込んでいる、呪術か?いや……これは彼女から死臭が

 

 ネクロマとトントン・マクートのあわせ技だ!

 

 

>死ぬよりも惨めに踊らされた日

 やられた。やられた……

 

 わざわざ九条ちゃんをビルに捕らえていた理由だが、多分俺への攻撃か、実力の観測が目的だったんだろう。他にもあるかもしれないが、九条ちゃんが釣り餌に使われていたのは間違いない。そして九条ちゃんのことも生きて帰すつもりがなかった。というより、とうの昔に殺され死んでいた。

 ネクロマンサーお得意の、動く死体であるゾンビ化して蘇生させる【ネクロマ】に、ヴードゥー教の秘術でシャーマニズムである【降魔】、つまりペルソナを死霊術に組み合わせることで支配した相手に憑依させる【トントン・マクート】を併用し、あたかも魂が宿った動く死体であるかのように巧妙な偽装を施していたわけだ。部屋にみっちりと詰まっていたゾンビのせいで鼻が効かず、不意打ちを受ける時まで死臭にも全く気づけなかった。

 不意打ちのダメージ自体は、別に大したものではない。しかし動揺して行動が遅れ、怪異らが到着し、乱戦になり、九条ちゃんの憑依を解く暇はなく……その死体ごとまとめて薙ぎ払った。ネクロマされているため、どうせ死んでいると分かったから、というのもあった。

【サマリカーム】や蘇生魔法を試したけど、生き返る気配は無かった……時間が経ちすぎたか、死体の損傷が激しすぎたか、あるいはネクロマをすると蘇生ができなくなるのか、それとも蘇生防止の何かをネクロマンサーに施されたか。何にせよ俺の手では生き返せられないことは確定した。

 

 

 これまでにも人を殺すことは、Ten-DO組に与していた時にそれなりに経験した。親しい人物を殺すことは、アリスさんで耐性はついたつもりだった。今回、九条ちゃんはアリスさんのように愛していた相手ではない……ないのに、何故あの時と同じくらい心にダメージを受けているのだろう。

 九条ちゃんは何で死んだんだろうか。誰のせいで死んだんだろうか。俺のせいと言っていいんだろうか。でも彼女は、なんとなくだけど……

 

 

 

>原作なんてもう勝手に進んでくれる日

 スティーブンから連絡があった。レジスタンスリーダーの公開処刑だが、先日ザ・ヒーローたちが救出し、今からゴトウとトールマンを倒しに行く動きを見せているらしい。つまりそろそろICBMが降ってくるということだ。まあ、これから東京を離れる俺にはもう関係なくなってしまったけれど。

 

 葛葉の今代ライドウや、明治神宮の方と九条ちゃんを死なせてしまった件や、これからの件、その他幾つかの件について話をした。九条ちゃんについての話の詳細は割愛する。蘇生の術は、俺の権限では利用できないし、そもそも利用できる暇が無さそうだ。ICBMが降ってくるのを止められるか怪しいことが分かったから。話によると、セフィロトの魔界で最南にあるマルクトとイェソドを繋ぐアッシャー回廊は日本神族の魔界エリアでもあり、そこに日本の結界の要を担う将門公と四天王がおられるのだが、現在マルクトの方から天使の侵攻を受けており結界強化を交渉しようにも対応できる状態ではないことが判明したそうな。マルクトは天使たちが魔界へ侵攻する橋頭堡となる神の王国で、大破壊後に建造するカテドラルを先に建造しているという話もある場所だが……この時代にきっちり天使たちがそういう方面で日本に攻撃・妨害を行っていたとは。

 しかし、そちらを潰せばICBMを防げる可能性があると分かったのだ、次回からは参考に出来るだろう。

 そう、次回からは。

 

 ちょっともう一度魔界行ってくるわ。

 

 




【ネクロマ】は屍鬼として一時的に蘇生し、相性も変化させる蘇生魔法ですが、屍鬼同様に精神相性への耐性こそ得ても、精神相性のバッドステータス自体への耐性は得ません。よって【魅惑かみつき】のように他相性を経由することで精神相性のBSは通ります。
【トントン・マクート】は、CHARM状態の相手に自らのペルソナを憑依させることで、CHARMを優先順位の高いBSで上書きされるか(DEADやSTONE、PALYZE等)、憑依が解けるまでCHARMを永続化させるスキルです。
 ルール的には耐性がないためPALYZEで上書き可能なこともあるし、そもそもこの2つの組み合わせはあまりシナジーも何も関係ありませんが、魂のない死体に擬似蘇生させてペルソナを憑依させることで、あたかも魂のある生者のごとく死体が動くネクロマンサーの秘術という演出です。カッコツケタカッタダケー

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