私はただ生存率を上げたい   作:雑紙

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UA150000、お気に入り2600を突破してました。たくさん見てくださる方々に感謝を。感謝をっ。感想を下さったりわざわざ誤字報告までして頂いて、さらに感謝の念を抱く限りです。
今回は比較的短め……かな? 今後とも是非よろしくお願いします


百八十九日目~百九十一日目

 配属百八十九日目

 

 私の名前は筒井マモル。四月四日生まれで歳は十八。

 ……うん。偶にはシンプルなのも良いものだ。

 

 

 昨日の日のページに寝ぼけていたのか妙な文字を書いてしまっていた。眠っていたはずなのに……夢遊病かなにかだろうか。最後の『ころす』なんて、私らしくもない。私ならちゃんと殺すと書くもの。何を殺すかまでは知らないが……十中八九アラガミだとは思うけれども。

 

 胸の中がもやもやとしていたが、最早日常と化してしまった、朝にユイが起こしにきてくれることによってそれはほとんど晴れた。よくもまあ、あんなに笑顔を振りまけるなぁといつも私は感心する。他の人が言うには私もほんの少しだけ表情を変化させている時があると言うが……それでもあんなに豊かな顔を見せることは出来ないだろう。まあ、特別見せたいとも思わないが。

 

 そういえば、ノヴァのオラクル活性化能力の影響で各地にアラガミの被害が頻発しているらしい。今朝一番の任務はそれらを手分けして沈静化させるものだそうだ。早く倒さなければ戦力が削られるし外掘りから攻められる……無意識か故意なのかは知らないが、本当に厄介なアラガミだ。次会ったら必ず奴に一撃与えてやろう。

 

 一先ずは目先の任務からだ。そのどれもがノヴァよりかは楽だろうが、油断は生存率を大きく下げる大敵だ。気を引き締めて行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 求めているアラガミ……アルダノーヴァ堕天種を探していたら、例の白い少女の影に遭遇した。今回は前の三人に加えてアリサも任務に参加している為、それと影に触れた際に起きた感応現象が偶然かどうかを確認する為に私は少女の影に手を添えた。

 

 すると、再びその場にいた私達全員にシオの記憶が流れ込んできた。どうやら偶然などではないらしい。アナグラで共に過ごした記憶だったせいか、ソーマさんとアリサの表情がどことなく気になるものだった。それらに浸る間もなく討伐対象のアラガミが現れたが、元となったオリジナルのアルダノーヴァと交戦経験のある私達にとってはなんてことの無い相手だった。

 

 シオの影がいる先に目的のアラガミがいる……これはコウタの何気ない発言であったが、かなり的を射ているのではないだろうか。先日のカリギュラも私達がシオの影を追い彼女が消えた直後、まるで導かれるようにこちらへとやってきたのだから。……ありがたいものだ。

 

 それにしても、あの頃に比べると装備も技術も経験も普通のゴッドイーターに近づいてきたと思う。だが果たして私の生存率は果たして上がっているだろうか。新型のアラガミが続々現れてくるものだからその度に生存率が下がっている気がして仕方がない……主に情報面での問題で。

 

 ダメだ。暗い気持ちになっているとそれらが伝染して士気が落ちる可能性がある。第一今はそんな事どうでも良いではないか。まずは、ノヴァを倒すこと。それだけでいい。それだけでいいんだ。精神まで死んではならない、笑顔笑顔。

 

 

 

 ……表情筋死んでたんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 久しぶりに新型の新人……アネットとフェデリコの二人と任務を受けた。といっても軽いものなどでは断じてなく、超弩級アラガミ達の討伐任務である。……あ、さんを付けないのは二人に付けないでくださいと言われたからだ。頭まで下げられたのには若干驚いたが。

 

 先輩だから良いところを見せちゃうぞ、なんて思ってはいなかった。張り切りすぎてつい見栄を張ってしまい警戒を怠り首から上をパックンとされることもあるからだ。私は堅実に、安全第一を心掛けて戦っていた。

 

 それなのに、無事任務を終えた後二人から「どうしてあんな危険なことを平気で出来るんですか?」なんていう質問を受けてしまった。私は上記のことを守りながら戦闘していると伝えたら、二人して『なにいってんだこいつ』的な視線を送ってきた。危険なことなんて私には全く身に覚えがないのだが……もしかして新人にまでいびられているのだろうか。いやまさか、あんなキラキラした瞳を持っていた二人がそんなことをするはずが無い。

 

 思い返してみよう。貯めに貯めたチャージクラッシュでアラガミを一刀両断した。ブラストの爆発と放射を応用した急ターンで逃げるアラガミの前に躍りでた。装甲の出っ張りで相手の喉を突き刺した。今回の任務で工夫した面は今挙げたくらいのものだと思うが……やはり、私でも出来るくらいなのだから普通のことではないのか……? この程度のことを工夫といってしまう私の方が恥ずかしく感じてしまうくらいなのだけれど……。

 

 思考して、ふと私は気づいた。なるほど! と席を立ち上がるくらいに閃いた。新人の二人はセンスの塊であり、私の戦闘を時々武器を振るうことなく客観的に見てくれていた。そのことから推測するに、彼女らが言いたかったのは『工夫が足りないから危険すぎる』ということだったのではないか。恐らく任務の時に信じられないものを見るような目をしていたのも、私の動きがあまりに不完全だったものだから呆れ果ててしまっていたのだろう。先輩なのに申し訳ない気持ちになる。

 

 私の生存率を上げる為だけ……よりシンプルにいうと自己保身の為の自己的なものなのに、二人がアドバイスをくれたことに感謝をしなければ。今度食事でも奢らせてもらおう。何なら最近習得したアラガミ料理を振舞っても良い。ボルグ・カムランの尾やシユウの羽、腿を焼いたものは比較的アラガミの肉の中では美味しい部類に入るし。ああでも、二人にも好きなアラガミの肉があるかもしれない。機会があったら直接聞いてみようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 明日の任務に備えて任務を受けようとしたら久々にヒバリさんに叱られた。第一部隊の皆にも叱られた。何故だ……明日の任務は苦戦するだろうと言われたから練った工夫を試そうと思っていただけなのに。

 

 訓練室を使えば良いと言われたが、動く大型アラガミがいないものだからどうにも歯ごたえがない。小型アラガミなら無数に湧いてはくれるがチャージ状態のバスターブレイドや咬刃展開状態のヴァリアントサイズを振るうだけで草を刈れるように両断してしまうので味気ない。

 

 渋々こうして部屋に戻って日記を書いているわけだが……どうしたものか。極東の訓練は他の支部の訓練に比べると恐らくまだ緩い方なのだろう。私のような新人でも身体を動かして適当に神機を振るっていればいつの間にか終わっていたのだから。

 

 よし、榊支部長に頼んで上級者用に訓練のバリエーションでも増やしてもらおう。勿論ノヴァを撃破した後で。隊長権限が残っている内なら多少の我儘くらい通してくれるだろう。多分、きっと。

 

 迷惑をかけてしまうのは忍びないが……ここは心を鬼にするのだ、私。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 配属百九十日目

 

 

 

 

 朝一番の任務はハンニバル侵喰種……ではなく、神速種と呼ばれるハンニバル種の新種だった。侵喰種と神速種の言葉が似ていてつい聞き間違えてしまい、そのアラガミを目の前にするまでは前者だと思っていたせいで危うく怪我を負いそうになった。

 

 神速というあたり中々に素早かった。なんとなく全身を赤く染めたら似合うんじゃないかなぁ、とハンニバルの槍を避けながら考えるくらいは余裕はあったが。こっちは不死のアラガミと称されるほどに再生力のあるハンニバルを幾度と無く滅多打ちにして再生出来ないくらい粉々にしてきたのだ。たかが二倍速、三倍速になった程度で私の生存率は揺るがない。

 

 それに、速さは時に欠点にもなるのだ。槍で突撃してくる軌道上にそっと神機の刀身を添え、いつかの侵喰種の如く上顎と下顎が別れを告げた状態で消えていったハンニバル神速種の姿を思い浮かべると今でもそう思う。粉々にする必要はなかったみたいだが……侵喰種のパワーと同じようにあの速さの代償といったところだろう。

 

 そういえば、馬肉を食べ続けると足の筋肉がつきやすくなるとかいう話を聞いた覚えがあるが……もしかしてアラガミの肉を食べたらそのアラガミの力を取り込むことが出来たりするのだろうか。……いや、流石にないか。三桁まではいかないものの相当なアラガミを食べてきた私やシオにだってこれといった変化は無かったのだし。

 

 もしそうだったら私も二倍速とか試してみた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 途中で日記が途切れてしまった。あの場合は仕方ないことだったが。突然ユイにコウタ、アリサが部屋に押しかけてきたかと思えば首根っこなり腰なり足なり捕まれて迅速かつ強制的にヘリに乗り込まされた。足音が聞こえて咄嗟に日記を隠した私を誰か褒めてほしい。……ああ、むなしい。

 

 えー……何の話だったか。

 

 

 そう、ヘリに乗り込んだ私は渡された無線機を通じて榊支部長に話を聞いた。強力なオラクル反応……超弩級アラガミを空母エリアで捕捉したのだが、その近くにノヴァが接近しておりコアを奪われてはたまらないので至急急行して欲しいとのことだった。アナウンスで第一部隊を呼び出していたそうだが、日記に集中していた私は気づかなかったようだ。本当申し訳なかった。みんなの視線がとても痛かった。勿論土下座した。

 

 さて。空母に急いで赴いた私達だったが、超弩級アラガミらしきものは既に倒されておりそこに立っていたのはノヴァと、それに対峙するように立つ白い少女の影……シオだった。恐らくはノヴァがコアを摂取するのを防いでくれているのだろう……そう判断した私は急いでヘリから飛び降りる。かなりの高度からでぐんと地面に向かって加速するが、神機の銃口を地面に向けて放射弾を発射。上手く衝撃を殺して着地する。

 

 少女の影はノヴァに攻撃らしき音波のようなものを放っていたが、ノヴァにそれは効くことなく逆に倒されてしまった。私は急いでノヴァのもとに向かうが、一瞬地面が揺れたのを察し装甲を下に展開する。その直後赤い槍の柱が私を打ち上げた。

 

 舌打ちをし、ノヴァを横目に見る。既にそこにコアはない…………やられた、と私は顔を歪めた。だが妙なことにコウタがヘリから狙撃した銃弾にノヴァは怯んだ様子を見せていた。

 

 不思議に思ったのは一瞬、思考を切り替える。いつの間にか降りてきていたユイ、ソーマさんと共にノヴァに向けて神機を振るうが、間一髪躱されて逃げられてしまう。その際、ノヴァとまた目が合った。

 

 ――――次は、倒す。

 

 私はそのような意を込めて視線を送った。アラガミと意思疎通出来ることはシオによって証明されている。最もその数は極わずかだろうが……あのノヴァがその少数に入っている可能性だってゼロではない。事実、返ってきた相手の視線には敵意を感じられた。……ただ、今でさえ以前戦った時よりも強くなっていたのに更にまた強くなることを考えると些か憂鬱ではあるが。

 

 私が倒れたシオの影を起こそうとした時、またもや感応現象が起きた。だがそれは今までのものとは違い鮮明であり断片ではない……言わば、映像だった。光景から予測するに恐らくはソーマさんと共にシオを探しに行った時の少し前だろう。……シオがいつから生まれたのかは分からないが、あの小さな身で過酷な選択を迫られていたと思うと……いや、今は浸っている場合では無いか。

 

 これから第一部隊で話し合いだ。コウタの銃弾がノヴァに効いてたのが気になる……新たな突破口となれば良いが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一部隊のブリーフィング前、ソーマさんが「俺に力を貸してくれ」と神妙な面持ちで話してきた。

 

 すぐに「え、今更?」と思わず口にしてしまった私は悪くない。皆して……ソーマさんを除いて笑われた。いや、ソーマさんも少し口端が上がっていた気がする。恥ずかしかったが、場の雰囲気が和んでくれたので結果オーライと言うべきか。

 

 

 そして、リンドウさんとサクヤさん、それにリッカさんを加えてブリーフィングが始まった。

 

 

 ノヴァは今山岳地帯で休眠状態……サナギとなって休息しているそうだ。それから還れば晴れて成体となる。あの見た目で虫のような工程を踏むのだなと思いながら、私は話を聞き続けた。

 

 成体になれば恐らく撃破することはほぼ不可能。だが、ノヴァはコアを取り込んだ時暫く無数にある変色因子が数種類にまで減る……つまりは、神機による攻撃が効く体質にまで落ちるのだそうだ。コウタの銃弾があの時ノヴァに効いたのはコアを取り込んだ直後であったからだろう。

 

 決してノヴァに屈しない意志が編み出した、現状において最も効果的な対策案……それはアラガミのコアを神機に取りこむのではなく、ノヴァの方に取り込ませるというものだった。今まで集めた超弩級アラガミ達のコアを組み合わせた人工コアをノヴァへと取り込ませ、弱体化しているうちに倒さなければならない。もし失敗すればそれこそ人類ではもはや敵う者がいない最強最悪のアラガミとなるこだろう。

 

 いわば、これは諸刃の剣だ。相手がコアを完全に取り込むまでに倒しきるか、それまでに私達がノヴァを倒しきるか……それが全て私達の腕にかかっている。

 

 人工コアの精製には一日かかり、作戦の決行日及びノヴァの羽化は明後日だそうだ。ギリギリのタイミングだった。突破口を切り開いたコウタは今回勲章をさずけられても良いのではないだろうか。

 

 ……それにしても、また人類滅亡の危機を私達がまた担うことになるとは。こんな重い荷は終末捕喰の時だけにして欲しかったものだ。ゴッドイーターになった以上、私はただ生存率を上げたい。それだけで良いのにご覧の通りだ……運が悪いにも程があるのではないか。

 

 私は一度第二のノヴァ……アリウス・ノーヴァに敗北を喫している。それも幼体の時点でだ。正直なところ不安しかない。私がいなくても皆が倒してくれるのではないか……なんて、思ったりはしないが。

 

 現第一部隊隊長は筒井マモルだ。第一部隊総出でかからなければならない任務に私は不可欠なのだ。戦力になるかどうかは別にして、責任ある立場のものは決して戦場から逃げてはいけない。逃げたら絶対責任を負わされて社会的に死を迎える。もしくは実験台にされる。それはとても嫌である。

 

 故に戦う。人類の為でもなく仲間の為でもない利己的で自分勝手な理由に自己嫌悪を覚えるけれど、それが私なのだから。

 

 まあまだ戦いまでは一日ある。今日と明日は……ゆっくりと休むことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 配属百九十一日

 

 

 

 

 前日において書き忘れていたことがある。それは作戦決行日……明日が『エクストリームスーパームーン』と呼ばれる満月がとても大きく見える日と時間だということだ。

 

 その時は特になんとも思わなかったので日記には記すことは無かったが、そういえば月見の話なんてしていたなぁと日記を読み返していたら思い出したのだ。こういうことがあるから日記は大変便利である。

 

 シオがいる衛星である月。それがノヴァが成体へと進化する日に最も地球へと近づく。榊支部長は興味深い巡り合わせだと言っていたが、私もそう思う。まるで前々から準備されていたかのごとく見事なタイミングなのだから。

 

 十八年に一度の光景……ゴッドイーターじゃなければきっと普通に楽しんでいられたのかもしれない。勿論ゴッドイーターになったことには今はほとんど後悔していないが。唯一悔いるのは生存率を追い求めるがめつい性格になりがちになってしまったことだろう。……まあ、元々私は利己的ではあるのだけれど。

 

 今日はアナグラ内でずっとお休みの日だ。わたしも偶にはゆっくりと身体を休めるとしよう。

 

 

 

 

 明日絶対にノヴァを倒すことができるように。

 絶対に、私が生き残るために。

 絶対に……今の日常が壊されない為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おやすみなさい。




エクストリームスーパームーンの下りは忘れていたわけじゃありません。このように書くと大抵の人は「ああ忘れてたんだなと」思う傾向があります。ですが私は無罪を主張するのです。

本来ならハンニバル神速種討伐後すぐに帰投することなく空母に赴きますが、今回はハンニバル神速種を倒すのが早すぎた為に一度アナグラに戻ってから再度出撃することになっていました。これもミスではないです。本当です。

否定すればするほどそれが真実味を増していくことってありますよね。ないですかね。……ないか。

読んでくださりありがとうございます。

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