私はただ生存率を上げたい   作:雑紙

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「よーし、投稿終わったし何か読もうかな」→ランキングをクリック→目を通す→戻す→もう一度それを見る→日間ランキング三位 「…………ふぁ!?」

というわけで、UA累計10000! お気に入り件数400! 評価バーまさかの赤! ランキングにまでのっててとてもびっくり! しかも丁寧な誤字報告まで!
いや、ほんとうにありがとうございます。日間ランキングよく見てたのでびっくりしました、はい。文面で感謝の気持ちが伝えきれないのが残念です、ほんと。

今回は一人称です。日記形式が好みな方はすみません……何卒宜しくお願いします。

追記:誤字ごめんなさい! そして教えていただきありがとうございます!


三十日目 筒井マモル 壱

エイジスへと着いた私達が最初に目にしたのは、女の顔の形をした大きな石のようなものだった。逆さまになっているその額に、シオは取り込まれていた。

その側にいるのはこのアーク計画の主犯……ヨハネス・フォン・シックザール支部長。

 

「ソーマ……随分このアラガミと仲が良かったようだな。だが、それは愚かな選択というものだぞ。息子よ」

 

正直私が今にでもブラスト噴射であの顔を殴りつけたかったが、それはソーマさんがやることだ。私の役目じゃない。それに空気的に手出しは出来なさそう。

 

「黙れ、お前を親父だと思ったことは無い! ……シオを解放しろ!」

 

一足早く降り立ったソーマさんは声を荒らげる。私は意識を失っているシオを見つめる。……いや、あれは、もう……。

一瞬、シオの周りが発光したかと思えば、周りの埋め込まれている結晶も合わせて反応した。

 

「よかろう。特異点が手に入った今、器などに興味はない」

「……っ! ソーマさん、走って!」

 

その言葉に含みを感じた私はすかさずソーマさんに指示を出す。一瞬困惑した様子のソーマさんだったが、額に埋め込まれていたシオの身体がぐらつく直前には走り出していた。

ずるりと抜け出して頭から落ちてくるシオを、ソーマさんは間一髪受け止めた。……恐らく、支部長の言ったとおりあの身体は既に器でしかないが。

 

「ふっ……やはり勘がいいものだな、第一部隊隊長、筒井マモル。リンドウと同等に、なくすには本当に惜しい人物だ」

 

私は反抗とばかりに支部長をにらみつける。しかし、余裕の態度は変わらない。

支部長は長い道のりだった、年月をかけてノヴァの母体を成長させたなどとほざき語っているが私には何も心に響かなかった。今まで手を貸していた自分を罰したいくらいだ。

 

「今回こそは私の勝ちだ、博士。そこにいるんだろう?」

 

支部長……ヨハネスがそう問いかけると、後ろからペイラー博士がやってきた。今までどこにいたのだろう。

 

「ふむ、遅かったみたいだね」

 

そう呟くいつもの笑顔は険しいものになっている。

ヨハネスは何百年後か何時間後かも分からないその時に星を喰らうアラガミ――ノヴァによってこの世界が終わることを危惧し、選ばれた千人を箱舟にのせて人類を存続させるという合理的なことを語った。

対して、ペイラー博士は人間に限りなく近いアラガミを育成することで終末捕食の臨界寸前で留保し続ける理想的なことを語り……その為に私達を利用したことを謝ってくれた。

確かに、ヨハネスの案の方が確実性はあるのかもしれない。だが、可能性のある理想があるのなら私はそちらを取る。……正直、千人だったら新しい世界に行ってもやっていけないと思うし。

ヨハネスとペイラー博士の会話を聞くに、いつかあったヨハネスの出張は博士が時間稼ぎのために行ったものらしい。最も、時はヨハネスに味方したと言っていた時点でその効果は察せられるが。

 

「この特異点は、次なる世界の道しるべとして次の世界の新たな摂理を指し示すだろう。それは定められた星のサイクル、神の定めたもうた摂理だ。そして、その新たな摂理の頂点に立つものは新たな世界であっても我々人間だ」

 

床からオレンジ色のドームのようなものが現れる。それは徐々にヨハネスのもとへと上がっていき、やがて花のようにして開かれた。

そこにあったのは、二対のアラガミの姿。女性の身体をしたアラガミと、炉のようなものを腹に持つアラガミ。そのどちらも人型であった。

 

「そう! 人間は……いや、我々こそが! 『神を喰らうもの』なのだよ!」

 

ヨハネスはそう言い捨てると、そのアラガミの開いていたハッチに飛び込んだ。あれはアラガミではあるが……言い換えるのならば、人型神機といったところか。

 

「人が神となるか。神が人となるか。この勝負、とても興味深かったけど、敗北を認めるよ。今や君はアラガミと変わらない……最も、そのことは承知しているようだがね」

 

ペイラー博士の声音は、どこか哀れみを含んでいた。視線を向けると、博士は頷いて踵を返す。

 

「科学者が信仰に頼るとは皮肉なことだが……今は君たちを信じよう、ゴッドイーター達よ」

 

博士は平然と背を向けて歩いていった。この戦いはすべて任せる、ということだろう。私達はヨハネス……アラガミを見据えながら構えていく。ソーマさんがシオの元から戻ってきた時声をかけようかと思ったが、心配はいらない表情をしていた。

 

「リンドウ、見てる? やっとここまでたどり着くことが出来た……みんなのお陰よ」

 

「俺、みんなが安全に暮らせる場所を誰かが作ってくれるのを待ってたんだ。けど気づいたら簡単なことだった、俺がその場所になればいいって。それを作るために……俺、やるよ」

 

「私も、みんながいたから気づけたんです。こんな私でも、誰かを守ることが出来るって」

 

「私は、自分に自信がなかった。でも皆のおかげで今の私は……強い信念を持ってここにいる。だから、支部長……ううん、ヨハネス・フォン・シックザール……貴方を倒す」

 

「おしゃべりはここまでだ。お前ら、背中は預けたぜ」

 

アラガミが飛び上がった。ゆっくりと、ゆっくりと、臨戦態勢にある私達の元へとおりてくる。

 

「降り出した雨を、贖罪の泉を止める事はもう誰にもできん。その嵐の中、ただ一つの舟板を手にするのは……この私だ!」

 

アラガミは戦闘態勢に入る。世界の終末をかけた、命懸けの戦い。

だから、私もたった一言で済ませる。

 

「……第一部隊、出るぞ」

 

その言葉を皮切りに、私達は駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先陣を切ったのは私とソーマさん。他の四人は一先ず後ろで射撃を行う。

このアラガミにはデータなんて存在しない……どんな行動をするのか全くわからない、未知数の相手だ。

ゴッドイーターにとってアラガミのデータはとても重要なものである。弱点属性しかり、攻撃パターンしかり……情報に助けられたものは数しれない。

故に。目の前のアラガミ――後にアルダノーヴァと名付けられる――は未知というだけでかなりのアドバンテージを持っている。さらに悪いことに相手には知能と知識がある。ヨハネスの知能と、私達の知識が。

ゴッドイーターは基本的に未知の相手に出会った場合、そのデータを取ることに専念する。近接役が囮になり、その間に遠距離を扱うものたちが行動や弱点属性を調べるのだ。

それは今に限ったことじゃない。私達第一部隊もそれにならって、私とソーマさんが斬りこみ隊長という名の囮をかって出たのだ。それに、そのスピードは奇襲といっても過言ではないもの……並のアラガミであれば一撃を入れることなんて造作もないことだった。

しかし、相手が悪かった、悪すぎた。私達は前に出ていた女の方へと双方から切りかかった、が、それは後ろに控えていたアラガミの巨腕によって阻まれる。

――読まれていた。そう気づいた時、女のアラガミは口端を釣り上げると同時に腰を低くして、辺りにアラガミ弾を撃ち込んだ。

近くにいた私とソーマさんはすかさず装甲を展開し、後ろの四人も各々回避に成功する。ほっとひと息つく……間もなく、私は装甲を右に傾けた。次いで、身体の内側まで響く衝撃。炉の腹を持ったアラガミのパンチによって私の身体は軽々と吹きとび、地面を数度バウンドした。

 

「君が最も危険だからね、早々に退場してもらう」

 

そう言って、女のアラガミはこちらへと突進してきた。炉のアラガミはどうやら五人の相手を……いや、四人の相手をするみたいだ。

女のアラガミが急に突進を止める。直後その眼前を紫色のレーザーが通過した。

 

「させない! 私も相手をするから!」

 

活発な声の主は、ユイだった。サポートが出来るのは素晴らしい才能だ、私にはない。

感謝は……戦闘の後にとっておくとしよう。私は余所見をして静止している女のアラガミに切りかかる。

 

「ぐ、貴様……!」

 

文句を垂れる顔にインパルスエッジを発射……が、姿勢を低くすることでかわされた。そのままの態勢で突進してきたのでジャンプして回避、落ちると同時に胴体に刀身を突き刺そうとしたが身体をうねらされてよけられる。

ちっ、と柄にもなく舌打ちをうってしまった。

 

「マモル、大丈夫!?」

「問題ありません。ユイこそこちらへ来て大丈夫なのですか?」

「うん、皆も了承してくれた」

「そうですか。なら、行きましょう」

 

それ以上にお互い言葉を交わす必要は無い。ゆっくりと起き上がる女のアラガミを前に、私達はそれぞれ構える。

 

――私は勢いよく地を蹴った。

 

発射され、迫ってくるアラガミ弾を避ける……ことはせず、そのまま直進する。当たるか当たらないかのところで、それは目の前で衝突音ともに霧散した。弾と弾を衝突させて消滅させる……ユイも大概腕がおかしいと思うのだがなあ。

 

そのままの勢いでアラガミへと切りつける。血が舞った。しかし、浅い。即座に神機を変形させて放射弾を発射、わずかに女の顔が歪むが、すぐさまレーザーを放って反撃してきた。限りなく低くしゃがみこむ事で回避し、その隙に刀身を女の身体へと突き刺す。血が飛び出た。アラガミは身をよじって回避しようとするが、遅い。

インパルスエッジ――内部へと直接送り込まれた爆撃は、確かにアラガミにダメージを与えた。怯んだ僅かな隙を私達が見逃すはずもなく、抜くと同時に銃形態に変形させた神機が放った爆発と後ろからユイが振るった刀身が同時に女の顔に直撃する。……手応えは、あり。

 

だが、悲鳴はあげたものの倒れもしなければ今度は仰け反りもしなかった。女のアラガミは拳を突き出し、不意をつかれた私はその攻撃を諸に被ってしまう。腹から振動してくるとてつもない衝撃が内臓を震わせ、破壊し……私は血を吐き出しながら吹き飛ばされた。

 

「マモルっ……きゃぁっ!」

 

女のアラガミが勢いよくこちらへと向かってくる。止めをさすつもりなのだろう。確かに、私は激痛に襲われて口は鉄の味がしてまず過ぎるし内部には身が焼けるほどの熱を感じてはいるが……動けないとでも思ったのだろうか、それは早計だ。

幾つもの回復錠を一気に飲み込んだ私は、身体にかかる負荷を感じながら放射弾を発射しつつその場を退避、突進を回避した。

忌々しいものを見る目で、女のアラガミは再びレーザーを発射してくる。ステップで軽くかわしつつ、その勢いのまま刀身を振るうもあえなくかわされた。

ユイは……きっと大丈夫だろう。それに、ほかのみんなも。第一部隊の生存率は異常だ、心配するだけ無駄なこと。

 

「よく粘るな、マモル。本気で私に勝てると思っているのか?」

 

あからさまな挑発だ。そもそも戦場において無駄なおしゃべりなんて隙でしかないのに。それでもなおこの傲慢さを醸し出すヨハネスは、まだまだ余裕だということか。全く持って気に入らない。

 

私は刃先を向けることで返答する。無論だ、と。

 

第一、ヨハネスは気づいていない。私は落ちこぼれであるが、確かに狂人だのなんだのと騒がれてはいる。しかし、私は第一部隊で一番多く一緒に任務に行った彼女の方がその実力は上だと……私だけは知っていた。

 

直後、女のアラガミの背後から血が吹き出た。その側には、血に塗れた刀身を持ったユイ。険しい表情で、次の攻撃へと移行する。

 

ヨハネスは驚き、すぐさま全方位型の結界を発動する。ユイは仕方なく下がり、私に合流した。

 

「流石ですねユイ。いい奇襲です」

「マモルが引き付けてくれたおかげだよ」

 

それだけ交わしながら、放たれたレーザーを左右に分かれて回避する。私は銃口を後ろに向け、放射。次いで爆発を起こし、掴もうとしてきた腕を回避。ちょうど真上にやってきた私は、神機を捕食状態にして――。

 

「喰らえ」

 

発射。顔面から咀嚼したそれは大きな口をもぐもぐとさせ、十分なダメージとアラガミ弾を蓄えてから帰ってくる。アラガミは顔を抑えて悲鳴をあげるも、隙は見せてはくれずにまた全方位のバリアを展開した。

 

バースト状態になった私は、アラガミ弾を受け渡し弾としてユイに発射。二連続で渡されたことにより、ユイのバースト状態は二段階となった。

 

「おのれ……!」

 

怒りを孕んだ声と共に、床から高エネルギーの柱がつき出てくる。ユイは装甲を展開するが、私はすかさずアラガミの『真下』に潜り込んだ。どんな不規則な出方でも、自分のところに攻撃が来るようにする馬鹿はいないだろう。

女の顔もぎょっとしていた。……ビンゴだ。

 

アラガミの腹部に刀身を突き刺し、ありったけのオラクルを消費してインパルスエッジを連発する。反動で腕が痛むが、支障はない。オラクルが尽きたのを確認すると、すぐさま後退する。その直後に私のいた場所はアラガミ弾の雨に撃たれていた。

 

 

「く……は……ここまで規格外とはな。君たちの危険性を捉えきれなかった私の落ち度だ」

 

 

……攻撃が当たらない場所に移動するのは普通だと思うのだが、この際どうでもいい。私は刀身を振って血を払いつつ、ユイと共にアラガミに向かって走り出す。

 

振り下ろした刀身がかわされ、そこにユイが追撃して刺突を繰り出す。が、両掌で白羽取りされたので腕を狙って斬撃を放つ。すぐさま神機ごとユイを払ったアラガミは腰を低くして回避し、アラガミ弾を周囲に放った。身動きが取れなかったユイの前に立ち装甲を展開、隙を見せたので神機をアラガミに向けて力の限り投げ飛ばす。

虚を突かれたアラガミの身体に深々と突き刺さり、そちらに意識を向けている間にスタングレネードを取り出しながら接近。気づいて顔を向けたと同時に、放っておいたスタングレネードガ爆発。目の前で起きた閃光に苦悶の声を上げている間に神機の柄を握り、ユイとアイコンタクトを交わしてアラガミの身体を十字に切り裂いた。

 

並のアラガミなら二度死ねる攻撃……のはずだが、まだアラガミは生きている。生物は死のピンチに瀕したときが一番強くなる、人間の馬鹿力がいい例だ。だから……それは、アラガミでも例外ではない。

 

狂喜乱舞と言える動きで周りを動き回り、アラガミ弾を乱射してくる。私達は銃形態で衝突させたり、刀身でなぎ払ったり、装甲で受け流したりとアラガミ弾へと対処していると、急にその雨がやんだ。見ると、女のアラガミは疲れたような仕草をしていた。……何だ?

 

「待たせたな」

 

 

後ろから声がかかり、横に並んでくる。ソーマさんだった。サクヤさん、アリサにコウタも後ろにいる。その後方では、炉のようなものをもっていたアラガミが横になって力尽きていた。

 

「リーダー達が片方を引き付けてくれていたおかげで集中することが出来ました」

 

「ちょっと時間はかかっちまったけどな。さぁ、やってやろうぜマモル、ユイ」

 

「あっちが本体みたいね……終わらせましょう、この戦いを」

 

各々が武器を構え、私は戦闘中にも関わらず少し頬が緩んでいた。……ああ、このメンバーなら全く死ぬ気なんてしない。

 

 

 

「私が……負けるはずなど、ないっ!!」

 

 

ヨハネス――アラガミはその背にある天輪を輝かながら、こちらにアラガミ弾を放ってくる。私とソーマさん、ユイはそれらを掻い潜りつつ前進。アリサにコウタ、サクヤさんは回避しつつバレットを発射した。

頭を狙ったレーザーで牽制しつつ、双方からの連射弾がアラガミの動きを抑制する。その隙にユイが刺突を繰り出してアラガミの肉を刳り、私はそこに銃身を近づけて接射……もちろん、みんな大好き爆発弾だ。

 

「馬鹿な……この私が……人の業からも目を背けるこんな愚か者共に敗れるなど……っ!」

 

アラガミはこちらを血走った目で捉え、腕を振り上げた。そう、捉えてしまった。私を最も危険視してしまったから、周りに意識が行き届いていなかった。私以上に優秀な人、それは紛れもなく第一部隊の面々なのに。

 

「…………貴方の負けです。ヨハネス」

 

瞬間、真反対から強力なチャージクラッシュがアラガミを切り裂いた。

 

倒れふすアラガミの影に隠れていたソーマの顔は、どこか哀れむようなものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヨハネスを倒した私達だったが、ノヴァは既に覚醒しておりエイジスを震わせていた。

コウタは焦り、アリサは迷い、サクヤさんはなにか方法があるはずと言うも表情は二人と似ていた。

 

「ふ、ふふ……無駄だ。覚醒したノヴァはもう止められない」

「私が珍しく断言します。不可能です」

 

頭脳明晰な二人をもってしても、現状の打開策はまるでなかった。

ここまでやってきたことが、全て無駄だったというのだろうか。不意に、服を引っ張られる感触があった。……ユイだ。今にも泣き出しそうな目で、ノヴァを見つめている。

私に出来ることは……何もいわずに、そっと手を添えることくらいだ。

 

 

 

「ソーマ……お前達は、早く箱舟に……っ! くはっ……」

 

私たちを案じるような言葉に驚いたが、ヨハネスももう限界みたいだ。……どういうことだ? 今更そんなことを。

 

 

「支部長、あなたもう……!」

 

「余計な心配は無用だ……もとより、あの方舟に私の席などない」

 

その言葉に驚愕したのは、私やサクヤさんだけじゃないだろう。聞いた話だと、ヨハネスも箱舟に乗る予定だったはず……。

 

「ふふ……世界にこれだけの犠牲を強いた私だ、新たな世界を見る資格などない。……君達は、適任だろう……?」

 

「親父…………」

 

ソーマさんも、親父だと発言するほどに驚いていた。

……最期の最後で良い人アピールとか、本当に勘弁して欲しい。どうしてこう、すっきりといかせてくれないのか。やはり、腹黒だ。

 

「……アイーシャ、すまない」

 

「母さん……ノゾミ……ごめん。約束、守れなかったっ……」

 

ペイラー博士は亡き友人に、コウタは置いてまできた家族へと懺悔をしていた。その時、横たわっていたシオの身体が青く変色しその周りから黒い帯のようなものが浮き上がってくる。

 

「――シオ!!」

 

ソーマさんは思わずといったように、そう叫んでいた。振動はどんどんと大きくなっていく。――世界が終わる、回避できない運命、この場にいる誰もがそう確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、それは突然静止した。

 

 

 

 

 

ノヴァの発光していた部分は光を失い、振動も全く起きていない。全員が驚愕の表情を浮かべ、何が起きたのかを理解しようとする。

 

 

「ありがとね」

 

 

 

聞き覚えのあるその声は、私達の中にすんと入り込んでいった。誰ともなく、声を漏らす。

 

 

「みんな、ありがと」

 

 

今度は鮮明に、確実に聞こえ、それがシオの声だと気づいた。のノヴァの光が、青く……安心させる光へと変わっていた。

 

「これは……」

 

「シオ、なのか……」

 

「まさか……ノヴァの特異点となっても、人の意識を残しているだなんて」

 

 

あのペイラー博士でも、その現象は予測できなかったようだ。――言うならば、それは奇跡だった。

再び振動がおこるが、決して危険なものではない。ノヴァが、だんだんと上昇していっているのだ。

 

「上昇していっている……!」

 

「シオ、お前……」

 

「……あの、おそらの、まあるいの。えへへ、おもちみたいで、おいしそうだから……」

 

私達を釘つけにするノヴァのすぐ後ろに映る星……それは、月だった。その言葉が意味するのは……ノヴァごと、月へ持っていくことだ。

 

「シオ! あいつまだ生きてるんだろ!? サカキ!」

 

「私にもわからん! ただ、そんなことが……っ」

 

決して予測出来なかった現象。今もなお、それがどういう理屈で成り立っているのかはわからない。ただひとつ言えるのは、今のシオの力が人々の想像を遥かに超えていたということなのだろう。

 

「わかるよ。いまなら、わかるよ。みんなにおしえてもらった、ほんとうのにんげんのかたち」

 

シオは学習していった。

 

「たべることも」

 

アラガミを捕食して。

 

「だれかのためにいきることも」

 

守るために立ち上がり。

 

「だれかのためにしぬことも」

 

逃がすために戦場に残り。

 

「だれかをゆるすことも」

 

他の過ちも受け止めて。

 

「それが、どんなかたちをしていても」

 

たとえ、どのようなものであろうと……。

 

「みんな、だれかとつながってる」

 

私達は、誰かと繋がっている。

シオはもう……本当に、子供じゃあない。私の手を握る力が強くなった。すぐそばで、ユイが涙をこぼし、アリサは崩れ落ちて両手で顔を覆っていた。

 

「何言ってんだシオ! 早く戻ってこいよ!」

 

「……シオも、みんなといたいから。だから、きょうはさよならするね。みんなのかたち、好きだから」

 

きっとまた会える。そうシオは言っている。……どれだけの月日がかかるのか、途方もつかない期間を承知しながら。

 

「……えらい?」

 

 

「「全然、偉くなんてないよ……!」」

 

 

「……えへへ、そっか……」

 

 

泣きじゃくる二人に、困ったような笑みを浮かべるシオの姿を幻視した。……まるで、大人と子供みたいだ。

 

「……もう、いかなきゃ。だから、そこの、おきにいりだったけど。そこの、『おわかれしたがらない』じぶんの『かたち』を、たべて」

 

否定の声をあげようとするコウタを、私は手で制す。

そして、相応しい人物へとゆっくりと……ソーマさんへと顔を向けた。

鋭い目と視線が交差する。私の意を汲み取ってくれたのだろう。ふっ、と目を閉じた。

 

「……一人で、勝手に決めやがって」

 

「ごめんね……だけど、おねがい。はなれてても、いっしょだから」

 

ソーマさんは、目を開けた。その目にはもう、迷いはなかった。お互い頷くと、ソーマさんはシオの『かたち』へと歩み寄り、神機を捕食形態にする。

 

そして………………黒は、鳴いた。

 

 

 

 

 

 

 

『ありがと、みんな』

 

 

 

 

 

その場は、雪のように落ちてくる光の粒子に包まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

配属三十日目

 

 

アナグラに帰投すると、皆が一斉に私達のもとへと飛び込んできた。文字通りに、だ。

女性陣を守るために私とコウタが身を張ったが、とてもいたかった。……まあ、悪くは無いのだが。

コウタは一足先に家族の元へと報告しに行くと飛び出していった。本当に、よく私たちに協力してくれたものだ。彼以上の器を持つ人なんて、そうそういないのではなかろうか。

パーティー騒ぎになりつつあるロビーを私は鍛えたスルースキルで通りぬけ、自室へと向かう。入るや否や、私はベッドにダイブした。

今回は本当に疲れた。世界を賭けた戦いだとはいうが、疲労がたまったのだから仕方が無い。

こうしてベッドの上でも日記を書いている私が自分自身呆れてしまうところはあるが。……習慣になったのだから、うん、許される。

あぁ……眠たい。こんな日くらいゆっくり寝てもいいのではなかろうか。日記も早くしまって……いや、わざわざ私の自室に来る人なんていないだろう。というわけであねはへ……(ここから先はミミズのようになっている)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、マモル探したよ! 全く、今日はマモルの誕生日でしょ? どうして主役がこんなに早く眠っちゃうかなあ、疲れてるのは分かるけど起き……ん? なにこれ……日記……? 『私はただ生存率をあげたい』って……マモルの口癖……ってことは、マモルの日記かな? ふふ、面白そう~、みんなにもみせよっと」

 

 

 

 

その日、マモルは社会的に死を迎えることになった。




シリアスで終わると思ったか? 残念! 私にそんな重いのは無理だった!
主人公が死ぬと思いました? 残念! 社会的な死は迎えましたけどね!

調子に乗りましたすみませんなんでもするので許してくださいお願いします。というわけで、今回でゴッドイーター無印のストーリーは完結となります。あっさりしているとは思いますが……えっと、その……ごめん。
次からは小話とか、バースト本編とか、になるとおもいます。他にも何かこうして欲しいとかいうご要望があれば承ります。よろしくおねがいします。

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