IS×ケンイチ(仮題)   作:凡人さん

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どうもお久しぶりです
短いですがどうぞ



第十撃

その日の朝も兼一は日課と化している早朝スプリント……もといい早朝ランニング(地蔵の代わりに普段は打鉄を背負って)をしていた。

爽やかな朝な空気が夏の到来を感じさせる中、学生たちが生活をしている寮から悲鳴が聞こえた。

悲鳴の発生した場所が場所だけに兼一は急いでその場所――一夏の部屋に向かう。

自身の探知能力を超えて侵入者が現れることを予想していないわけではなかったが、こんなにも早くやって来るとは思っていなかった。兼一は、音を置き去りにし最短の道のりで一夏の部屋に向かう。

 

しかしそれは徒労に終わる。

 

「えーっと、織斑くんにボーデビッヒさん。二人とも何してるの? 不純異性交遊……ではなさそうだけど」

 

目の前に広がるその光景に兼一はそう口にするしかなかった。

諸々の事情から現在の一夏は、一人部屋である。しかし、そのベッドの上には一夏のほかにもう一つ影があった。

 

一糸まとわぬラウラが、一夏のことを組み伏せていた。

 

短い付き合いではあるが、一夏がどのような人間なのかを大いに理解している兼一は、ベッドの上で組んず解れつしているさまを見れば誰しも思い当たる結論を否定する。

実際に不純異性交遊などではなく、いつの間にかベッドに全裸で忍び込んでいたラウラをどかそうと一夏が悪戦苦闘をしているだけである。

 

「先……生?」

 

ベランダから突然投げかけられた聞き覚えのある声に、一夏は信じられないものを見たかのように言った。

無論、この反応は当然のものである。なにせ寮の窓からISを背負った人間が顔を見せているのだ。兼一が赴任してきてからそれなりの時間が経ち、彼の常識の非常識さを少なからず理解してきたとはいえ、やはり理解できないことの方が多いらしい。

 

「先生。今日は打鉄ではなく、鈴を背負っているみたいですね」

 

ラウラの言葉を耳にした一夏は改めて兼一が背負っているものを見てみる。するとそこには見慣れたツインテールがあった。

 

「みんなやる気があるからね」

 

とてもいい笑顔で兼一はそう告げると、二人とも事情を察した。

 

 

 

兼一から専用機持ち達に課題を課された最初の一週間、皆お行儀よく放課後や休み時間に挑戦をしていたのだが、普通に挑んだところで全くと言っていいほど歯が立たなかった。

 

それはもうゾウに群がるミジンコのような力量差に、見ている側が瞳に涙を浮かべてきてしまうようであった。それは戦闘というよりも蹂躙であった。

 

正攻法での攻略ができないことを骨の髄まで理解し、本能レベルで納得した彼女たちはなりふりなど構っていられなかった。

なぜなら、設けられた期限までに達成できなかった場合のことを聞いた時『死なない程度に死にそうな特訓をしてもらうだけだから』という返答があった。最初はその言葉を脅し程度に考えていたのだが、同席していた千冬の顔から血の気が失せているのを見てしまい、またその顔で『死ぬことはないが、臨死程度は覚悟しておけ』とぼそりと言われたのだから仕方がないだろう。

 

そういう事情があって夜討ち朝駆け、奇襲闇討ちなどなど様々な手段を用いてどうにか一本を取ろうとしているのだが、その結果は兼一に背負われている哀れな犠牲者から察せるだろう。

いまだ兼一に掠ることさえできていないのだった。

 

 

 

「それじゃ、ボクはランニングに戻るから」

特に問題があったわけではないためそう言って、この場を立ち去ろうと二人に背を向ける兼一。

 

その姿を見て、一夏がラウラに目配せをする。

ラウラはその意図を理解すると、すぐさま兼一の背中に飛び掛かる。

やった、傍から見ていた一夏はそう思った。

しかし、その思いは即座に塗り替えられることとなる。

 

「少し判断が遅いかな」

兼一がそう呟いた時には、ラウラは彼の足元に倒れていた。

 

事態を飲み込めないながらもラウラは立ち上がると再び兼一に挑もうとするも、またその場に倒れてしまう。

 

立ち上がり、倒される。

立ち上がり、倒される。

立ち上がり、倒される。

 

ラウラは背中を向けている兼一の足元に五度平伏し、戦意を失った。

そうなってからようやく一夏は動き出したのだが、当然遅きに失している。

 

後少しで辿り着くとなった時、いつの間にか背中から鈴音を降ろした兼一がぐるりと自身の方に体を向けていた。

そしていつもと変わらぬ笑顔を浮かべたまま、風のようにすれ違う。

 

「馬家 縛札衣」

 

その言葉が一夏の耳に届いた時には既に結果が生じた後であった。

一夏の両腕と両足が着用していた衣服によって縛られ、身動きが取れなくなっていた。

 

相手の着衣を用いて動きを封じる、このご時世で(なくとも)使いどころを少しでも間違えれば警察のお世話になること間違いなしの技である『馬家 縛札衣』。

しかし、活人拳の極みの技の一つでもあり、動いている相手の衣服が破れないように、それでいて簡単には脱出できないように縛るという無駄に高度な技なのである。

技の開発者である馬剣星は女性に対して躊躇なく、むしろ喜々として使っている。

 

またラウラに対して行ったことは至極単純で、制空圏に入った所で足払いをし、戦意喪失するまでそれを繰り返していただけである。

なおこの足払いは百分の一秒レベルのスロー再生でようやく残像が確認できるというとんでもない早さである。しかし、この超高速足払いを最初(?)に行った無敵超人こと風林寺隼人はそのさらに上を行く速さで行うことができるのだが、兼一はそのレベルにいまだ達していない。

 

さて、ベランダにはISと全裸の少女、室内には身動きの取れない少年といい仕事をしたという具合に爽やかな笑顔を浮かべている男。こんな状況を何も知らない第三者が目撃したとしたらどんな反応を示すのだろうか?

 

「全く、部屋の鍵をしていないなんて不用心ではないか。ほら一夏、朝稽古をするぞ。日曜だからってだらけていてはだめだぞ」

 

道着に袴、それに竹刀を持った箒が室内に入って来た。

「篠ノ乃さん、おはよう」

「おはようございます……白浜先生?」

 

何食わぬ顔で挨拶をする兼一に対して、なぜこんな所にいるのか僅かに疑問を抱きながらも、箒は挨拶を返す。いまだ部屋の惨状は目に映っていないようだ。

 

「丁度いいや、一夏君たちのことお願いするね」

兼一はそう言うと、返事を聞かずにベランダに行き鈴音を担いでそこから飛び降りるのだった。

兼一がいきなり飛び降りたのだから、箒は慌ててその姿を確認しようとベランダに駆け、下を見るが、そこには何もなかった。

 

「寝ぼけていたようだな。一夏、すまないが顔を洗わせてくれ」

兼一がいたという事実を寝ぼけておかしなものを見たという風に無理矢理に納得させると、箒は室内に目を向ける。

 

そして混沌とした状況と出来事を箒は頭の中で整理する。

 

ベランダで茫然自失となり空を流れる雲を見やる全裸のラウラ。

よくわからない形で体を拘束されている一夏。

ISを背負ってそれなり以上の高さから飛び降りた兼一。

 

「わ、私としたことが昨日の疲れが残っているようだ。一夏、すまないが今日の朝稽古は中止にさせてくれ」

 

結果、整理することを諦め現実から逃げ出すことを決意するに至った。

 

「ちょ、箒! 出て行く前に解いてくれよ。頼むから助けてくれ!」

 

一夏の必死の言葉も今の箒の耳には届かなかったらしく、虚しく響くだけとなった。

 

一夏とラウラが助けられたのはセシリアが朝食を誘いに来たおよそ一時間後のことであった。

 




約半年ぶりの更新ですが、お楽しみいただけたでしょうか?
それではまたその内にお会いしましょう。

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