IS×ケンイチ(仮題)   作:凡人さん

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お久しぶりです
最近二次創作もそうですが、一時創作も進まないので気分転換がてら、書き溜めていた色々あれなオリジナル回に多少の手を加えて出しました。


幕間 前編

「今日から、放課後に、お前たち専用機持ちの指導のために、時間を割いてくれることになった白浜先生だ」

 

透き通るような青空の下、ジャージ姿の教師二人が生徒たちの前に立つ。

放課後のアリーナに集まるのは、一年生の専用機持ちである五人だった。

 

「織斑先生、一人足りないんですけど」

 

控え目に言葉を放つ兼一。

 

「一身上の都合で今は来れないですけど、そのうち合流するそうです」

 

千冬は軽く流す。千冬の言葉にはいつにもまして棘があった。

 

「最初の課題は、どんな手段を使ってもいいから白浜先生に一発当てることだ。ああ、安心しろ、白浜先生には特注の防具をつけてもらうことになっているから、当たってもケガをすることもなければ死ぬこともない。ま、今学期中に達成できれば上等な方だな」

 

千冬は言いたいことだけ言い終えると、兼一と場所を変わる。

兼一のその出で立ちからは特注の防具とやらは影も形も見当たらない。まあそもそも、その特注の防具とやらは今現在どこぞにいる『天災』によって開発途中なのだ。八割がた完成しているらしいが、それが兼一の元に届くのは果たしていつになる事やら。

 

「そういうわけだから、誰から来る」

 

入れ替わり前に出た兼一は笑みを浮かべていた。特注の防具はないが、普段愛用している鎖帷子と手甲を装着している。兼一の身を守るのはその二種類のものだけであった。

 

 

 

「それでは、わたくしから行かせてもらいますわ」

 

一番手に名乗りを上げたのはセシリアだった。その手には六七口径特殊レーザーライフル《スターライトmkⅢ》があった。

 

「悪く思わないでくださいまし」

 

それは遠距離武器を使うことに対しての謝罪であるのだろう。そして、せめてもの情けとして、開始を同じ地上にしている。兼一は千冬の方に目を向ける。

 

「オルコット。悪い事は言わん、飛んでおけ。それでなくともせめて距離をとれ」

「いいえ、このままで結構です。織斑先生、合図をお願い致します」

 

セシリアはこんなくだらないこと早く終わらせたいのだろう、千冬の言葉を拒絶する。

千冬の言葉を拒絶した理由はそれだけではない。

あの試合での出来事を見ていたセシリアは、兼一がISと生身で戦えることは重々承知している。しかし、それは同じ土俵で戦った場合だと思っているのだ。あの時は武器を持っていたとはいえ、それは剣であり接近戦用の物であった。だが自身の扱う武器は遠距離専用の武器なのだ。

だから、近付けさせなければ何の問題もないと考えているのだ。

 

普通の相手であればセシリアの考えは正しいだろう。しかし、相手は普通ではないのだ。

距離を取られるのなら、自分から接近すればいいくらいにしか兼一は考えていないだろう。

 

「はぁ、分かった。それでは」

一呼吸置く、兼一の纏う空気だけが急激に変化する。

「始め」

 

合図のすぐ後、砂煙が舞う。そして、セシリアはシールドエネルギーを根こそぎ削られて、地面に倒れていた。一発も撃つことなく、照準を合わせる暇もなく敗れたのだった。

 

「そこまで」

千冬は終了の合図を告げた。

 

 

 

「今、何が起きたのよ」

 

鈴音の漏らす言葉は、その場にいる生徒全員の言葉でもあった。

やられた本人ですら何が起きたのか理解できていないのだ。ただ、全身に凄まじい痛みが走っているという結果だけがあるのだった。

 

その技の名を『岬越寺 無限生成回帰』という相手に腕を掴まれた時その相手を投げ、脳から「取った手を放せ」という伝達が運動神経に伝わるまでに数回投げる超高速の投げ技である。

説明した通りこの技は本来、自分の腕が掴まれた状態の時に使ういわば受け身的な後の先の技であるが、今回はそれを能動的に使用したのだ。達人とは言え、いや達人だからこそ技の改良に余念がない。

 

「これに懲りたら、次からは他人の忠告を素直に聞いておくことだな。さて、オルコットが何をされたのかは……お前たちでは肉眼で捉えられるはずがないな」

 

ISに搭載されているハイパーセンサーを用いているはずのセシリアでさえ、兼一の姿を見失っているのだ。ただの動体視力で捉え切れるはずがなかった。

生身でそんな速度の動きをするなど生徒たちの理解の範疇に無い。

 

「説明は後でいいか。次は誰が出る」

「ボクがやります」

 

二番手として名乗りを上げたのはシャルロットだった。

 

「デュノアさんが次の相手か」

 

ISを展開し、その手には連装ショットガン『レイン・オブ・サタデイ』とマシンガンを持ち、戦闘準備を整えたシャルロットの瞳には油断はない。だが、それでもまだ足りないのだ。

その場にいる生徒たちは、兼一の変化に気がついてはいない。

 

「デュノア、お前も……ふん、まあいいだろう」

 

千冬は一瞬呆れそうになる。けれど、シャルロットの顔つきを見ると考えを改めた。

 

(織斑先生は今学期中にって言ってた。それってつまりこの先にもチャンスがあるってことだよね。だから、これは次への布石だよ)

 

セシリアの試合を観たシャルロットは、この一回で勝てるとは思っていない。

ISをもってしても見失う速さを人が出せるなどと、にわかには信じられない。だからここで見極める。

兼一から離れれるだけ離れた所を開始位置として合図を待つ。

 

「始め」

 

千冬が合図を出した瞬間に兼一はシャルロットに向かい駆ける。一歩遅れてシャルロットは空へと向かう。十分以上に距離をとったことを確認すると、そのまま左右の手に持つ銃の引き金を引く。

 

ズダダダダダダダダダダダダダダッ

 

けたたましい音ととも大量の弾丸が兼一の元に飛来すると、砂煙が舞い上がる。

「やったか」

一夏がそう呟いた。目の前の光景を見ればその呟きは必然である。

 

しかしシャルロットは違った。

(どこ)

砂煙で覆われた地面にいるであろう兼一を血眼になって探す。

だが、残念ながら地面に兼一はいない。そのことにいち早く気が付いたのはラウラであった。

 

「な……」

「どうしたんだラウラ?」

 

あまりにも常識外れの光景に言葉が出ない。その様子を不思議に思い一夏が声をかけると、震える指でそれを指差す。その場にいた生徒たちは皆その指の先、シャルロットのいる位置よりさらに上を見ると絶句した。

腕組みをした兼一が空中に上下逆転して立っているのだ。

 

「うんうん。中々悪くはない判断だけど……やっぱり人の助言は素直に聞いておくべきだよね」

「先生、なんでそんな所に!」

シャルロットが当然の疑問を投げつけるが、兼一はにこりと笑みを浮かべるだけで答えない。それにつられてシャルロットも固い笑みを浮かべる。

 

瞬間、兼一の姿が消えた。

次に砂煙が舞い上がった。

そして、意識を失ったシャルロットが兼一に抱えられていた。

 

「そこまで」

 

 

 

「これの説明も後でするとして、次は誰が行く。このタイミングで助言をするのもなんだが、なんというか……もう少し頭を使え」

いまだ呆気に取られたままの生徒たちに千冬は言葉を投げる。あまりにも一方的すぎるため思わず言葉が漏れた風であった。

今回の決まり手は『暗外旋風締め』と言う腕全体を使う絞め技に急速な回転を加え、強いGでブラックアウト状態にしてからコンマ一秒で絞めを行う技である。ISの様々な保護機能を無視して気絶させるという、これまた人間離れした芸当であった。

 

「先生、次はあたしとラウラで行きます」

「な、なにを言うんだ。二対一など――」

鈴音によるいきなりの宣言にラウラは戸惑っているが、その反応に割り込んでさらに続ける。

「別に禁止してはいないが。良いですよね白浜先生」

二対一発言に必要はないと思いながらも、千冬は兼一に確認をとる。

「いやー、別にいいけど……ちょっと大変かな」

苦笑いを浮かべる兼一であるが、その発言からはかなりの余裕がみられる。

そもそも、だ。この人外生命体を相手に、いくら超兵器を使っているとはいえただの高校生たちが、一対一の対決で勝てると考える方が無理がある。そのため千冬は事前に『どんな手段でも』と言ったのだ。

 

とは言え、碌に連携も取れない状態では話にならない。そのことを鈴音は理解しているため、どうにかして時間を稼ぎたいと考えていた。

 

「織斑先生、少し打ち合わせの時間をあげませんか?」

故に、兼一の提案は願ったり叶ったりであった。

「いや、まあ、白浜先生がそう仰るのでしたら良いのですが」

お人好しが過ぎる兼一の発言を、千冬はある程度予想はしていた。予想はしていたが実際に耳にすると頭痛を覚えた。

 

「まあでも、タダであげるのは違うと思うから……織斑君とボクが試合をやってる時間が君たちの相談できる時間ということでいいね」

「ええ、もちろんよ」

兼一の示した条件を二つ返事で了承する鈴音。しかし彼女は気が付いていない、兼一の瞳から怪しげな光が出ていることに。

 

「そういうわけだから、時間稼ぎよろしくね一夏」

「はいはい、でも別に勝ってもいいんだよな」

どこか不吉な気配が漂う二人の会話が風に乗ってさらわれた。

 

「それじゃ白浜先生、よろしくお願いしますよ」

「うん、こちらこそ」

挨拶を済ませると一夏は空に向かう。時間稼ぎで終わるつもりは毛ほどもない。勝ちに行くのだ。

(織斑君も若いな)

一夏の勝ち気溢れる様子は、兼一にとってとても微笑ましいものだった。

 

「それでは……始め」

千冬の声が発せられると同時に一夏は動き出す。

「そこまで」

終了の合図は生徒たちが結果を見るよりも早く出された。それは三戦の中で最も早い決着だっただろう。

 

「二人とも相談はできたかな?」

意識を失っている一夏を担いだ兼一が、とてもいい笑顔で問いかける。無論、数秒にも満たない時間でまともな作戦立案などできるはずもない。それどころか、話し合いのはの字もできていないのだ。だが、そんなことを気にしてくれる相手ではない。

 

『退歩掌破』。これが一夏を襲った技である。一歩引いた脚と、前に突き出した反対の腕を一直線にすることによって、向かってくる相手を返り討ちにするというただのカウンター技である。ただのカウンター技ではあるのだがその実、己の力を一切使わず、相手の力が強ければ強いほど効果が増大する高度な攻撃技である。かつて兼一がこの技を使った際、その相手は自ら地面に固定された棒に突っ込んでいったと解説されている。

 

「よし、それでは凰、ボーデヴィッヒ始めるぞ」

千冬にそう告げられてはもう逃げ道など存在しないのと同義である。諦めて二人は兼一の前に出るのだった。

とは言え、やはり代表候補生である。すぐさま装備を展開し、空に向かう。切り替えの早さは人並み以上だった。

 

「始め」

本日四度目の開戦が告げられる。

 

「ラウラ、AICで先生の動きを止めて」

「了解した」

二人はプライベートチャンネルを開くと先程できなかった話しを今ここでする。鈴音の指示をある程度予想していたのか、ラウラの行動は早かった。

AICこと慣性停止結界の有効範囲に兼一を捉えると、即座に発動する。

「動かなけりゃこっちのもんよ」

個人を相手どる場合において、反則的な強さを誇るラウラの停止結界が決まったことで勝利を確信する鈴音は、空を駆け手にしている青竜刀で斬りかかる。

しかし、使った本人であるラウラは浮かない表情だった。この程度で兼一を止められるとは思えないのだから。

千冬もラウラと同意見である。そもそも、この程度で捕まえることができるのなら、とうの昔に死んでいてもおかしくない。

兼一は、動けないから負けるなどというレベルの存在ではないのだ。動けないなら動けないなりの戦い方を心得ている。

 

「へー、これがAICなのか」

停止結界に捕らわれたにもかかわらず兼一は笑みを崩さない。

ラウラの謹慎中に話は聞いていたが、やはり実際に受けてみると中々のものである。が、中々程度である。

 

(動きを止めると言っても完全に止めれるわけじゃないみたいだし……いろいろ試してみたいけど、今回は――)

 

自身の周囲にドーム状に展開される停止結界。これを使うには多大なる集中力が必要となる。だから、その集中を欠いてやればいいのだ。

 

唐突に兼一の気配が変わった。それと同時にラウラは得も言われぬ感覚に襲われる。そして、それによりラウラは一瞬意識が遠のいた。

それによって多大な集中力を必要とするAICが途切れることのは当然の結果である。

 

「な!」

 

上空から駆けて来る鈴音は突然自由になった兼一に肝を冷やす。けれど時すでに遅し、賽は投げられてしまったのだった。

青竜刀を振り抜くもそれが兼一に触れることはなく、大きな隙を見せる。その隙を逃すわけがなく、武器を持たない腕を掴むとラウラの方に投げつける。

相当な勢いで投げられたのであろう、ラウラに当たっても勢いが衰えることはなく、そのままアリーナの端の壁にぶつかった。

それでもシールドエネルギーは残っているため立ち上がり攻めに転じようとする二人だが、いつの間にかやって来た兼一がそれを阻止する。

 

「ちょ、え何、これどうなってんのよ」

「痛ッ、動くな鈴」

 

気が付けばラウラと鈴はよくわからない体勢で両手両足が絡み合っていた。

 

「そこまで」

この状態になってしまえば既に勝負はついた。それが分かっているため千冬は終戦を告げる。

二人にかけられた『岬越寺 責人自重山』は本来もっと多人数相手に使う者だ。ラウラと鈴音でつくられた形をうず高く、それこそ山のように積み上げるというものなのだが、今回はそこまではせず、ただ単に互いの両手両足を使って関節を極めているだけにとどめている。

 

こうして訳の分からないまま兼一との試合を終えた専用機持ちたちだった。

 

 

 

「さて、約束通り説明をするが……まあ訳が分からないだろうな」

皆の意識が戻ると、額に手を当てながら千冬は言った。

「まずオルコット」

「は、はい」

「お前は投げられた。次にデュノア」

「はい」

「お前は絞め技でおとされた。次に織斑」

「はい」

「お前はカウンターを食らった。最後、凰とボーデヴィッヒ」

「はい」

「はい」

「関節を極められて動けなくなった。私が解説できるのはここまでだ。あとは各々で白浜先生に質問しろ」

 

あまりにも簡潔すぎる説明。しかし、千冬にはこれ以上の説明は無理だ。いや、できることはできるだろうが、納得させれない。故に投げた。そして、自分の仕事は終わりだと言わんばかりにアリーナを出て行った。

 

「織斑先生も強引だな。質問って言われても困るよね」

兼一の言葉に五人の生徒たちは首肯する。

「それじゃ、軽く感想戦みたいなことをしようかな。まずはオルコットさん」

「は、はい」

「人の助言はちゃんと聞かないと。それに、遠距離型の君が接近戦しかできないボクの間合いで挑むのはダメだよ」

「痛恨の極みですわ。それにしても、生身の人間の投げ技でシールドエネルギーを削るなんて……」

「ハハハ、そこは努力したからね」

努力でどうにかできるものじゃないだろうと皆は思ったが、口にはしない。なんというかそういうものなんだと割り切らなければ、精神衛生上よろしくないと感じたからだろう。そしてそれは大いに正しい。

 

「次はデュノアさんだね。悪くはないけど見込みが甘かったかな」

「いや、でも人が空中に立てるなんて考えられませんよ」

「え、ああ、あれね。あれはアリーナのバリアを足場にしてただけだよ」

当たり前のように告げる兼一に一同は絶句する。凹凸も何もないはずのバリアを足の握力だけで掴んでいたのだから仕方ないだろう。そもそもそんなことができる人間の存在など、考えも及ばなかったはずだ。

 

「で、次は織斑君。まあ、なんというか馬鹿正直すぎるよ。いくら君の武器が剣だけだとしても、無手の僕に自分から突っ込んでくるなんて、どうぞカウンターをしてくださいって言ってるような物じゃないかな」

あまりにも正論を言われた一夏は返す言葉もなくその場でうな垂れるしかなかった。兼一がさも当然のように語るため、本来であれば目で見てから出来ることではないということが一夏の頭から抜け落ちている。

 

「凰さんとボーデヴィッヒさんはもう少し連携をうまくしなくちゃね。あと、相手の出した条件を鵜呑みにしないこと」

「でも先生、いくら何でもあれはひどくないですか?」

言われたことはもっともだが、それでもやはり納得いかないのか鈴音は食って掛かる。

「うん、まあ、ボクとしても十秒くらいはあげたかったんだけど、織斑君が突っ込んできたからつい撃退しちゃったんだよ」

兼一の答えで鈴音は一夏を睨みつける。ただでさえ気落ちしている一夏はその圧に耐えかねて縮こまってしまった。

 

「先生、どうやって私の停止結界を破ったのですか」

「あれは気当たりをぶつけて、集中力っていうか意識を欠かせてもらったんだよ」

何度目とも知れない絶句。

だが、仕方あるまい。兼一の語ったことがすべてで事実であることは疑いようもなく、しかし、人間にそんなことができるなどと信じられないのだから。

 

「あの、白浜先生って何なんですか? ISを生身で圧倒したり、手を触れずに相手の意識を失わせたり……そんなこと千冬姉――織斑先生でも中々できませんよ」

どうにか立ち直った一夏が皆を代表して問いかける。

何気に千冬も兼一と似たようなことができかねないと言う辺り、彼女の強さは信頼されているのだろう。

 

ともあれ、兼一としてはどう答えるべきか悩み所である。

単に達人と言った所でおそらく……いや十中八九理解されない。だからと言ってそれ以外に言葉があるかと言われればノーである。

 

であるから

「自分で言うのもなんだか変な感じだけど、武術を極めた達人だよ」

色々と逡巡した後にそう告げるのだった。

 




というわけで後編に続きます
と言っても短いですが

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