仮面ライダー 虚栄のプラナリア   作:ホシボシ

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2号は黒マスクが好きの好きの好き。
ただなんかちょっと黒だけってみなされるのも嫌なんですよね。
黒なんだけど、一応新緑っていうことにしておいてほしい。

いやまあ、だから緑は入れなくてもいいっていうか。
要するにメガマックスの2号でいいんですけど。

どうです? めんどくさいでしょう?
やなオタクだよあたしは(´・ω・)


第12話 絶影のバルドクロス

 

 

隼世は階段を駆け下りながら事情を説明する。

向こうで驚きの声を受けながら隼世は、警察署を出た。

 

 

「!」

 

 

そして、止まった。

 

 

「剣崎――ッ、一真……!」

 

 

黒いスーツにサングラス、剣崎が立っていた。

人間、一人立っているだけだ。なのに全ての道が埋まっているような感覚だった。

凄まじいプレッシャー。黒い壁が隼世を押しつぶそうとしている。息が止まりそうだ。隼世は真っ青になり、一歩後ろに下がる。

 

 

「市原隼世くん!!」

 

 

そこで、後ろから声が聞こえた。

隼世はそこで踏みとどまった。

振り返ろうとして、やめた。それよりも早く言葉が届いたからだ。

 

 

「信じた道を進んで!」

 

 

ルミの言葉が、ありがとうと言ってくれた少女達を映し出す。

剣崎がブレイバックルを装備したとき、隼世は――、前に出た。剣崎が何を伝えたかったのか。今ならば少しは分かる気がする。

彼はきっと本当にこの世界を終わらせようと思っていた。けれどもその中に一つだけ、優しさと自由を残した。

 

ライダーになるということは、剣崎と肩を並べるということ。

ましてや世界を守れるだけの力を獲得するということだ。

剣崎が滅びを齎すなら、全力で止めればいい。

 

憧れと崇拝は違う。ライダーとして剣崎が間違っていると思ったら止める。

それが対等なる関係、仮面ライダーに選ばれたものの選択肢ということだ。

しかれども、あえて、隼世は叫ぶ。叫ぼうと思った。

 

 

「仮面ライダーに憧れてッ! 何が悪い!!」

 

 

剣崎は少し眉を動かした。

 

 

「正義を信じて! 何がいけないッッ!!」

 

 

いろんな人間がいる。きっとそれは仮面ライダーだってそうに違いない。

仮面ライダーを愛している人たちだってそうだ。

隼世だって昔、SNSでいろんな意見を見て、いろいろなものがあやふやになった。

 

でも違う。考えてみて思ったし、分かった。

自分が好きだった『仮面ライダー』とは――、苦しんでいる人たちを決して見捨てない。

助けてと言った人がいたら、絶対に助ける。

 

 

「簡単に手に入るものなら、憧れるものか!」

 

 

そして今、人々の平和を脅かすものがいるのなら、何としても止める。

 

 

「剣崎一真! 少なくとも今日だけはッ! 僕は貴方を超えるッ!」

 

「――ッ」

 

「お見せしようッ! 仮面ライダー!」

 

 

腕を右横へ伸ばす。ピキィーン! と音がした。

さらに隼世はボタンを外し、ジャケットを大きく広げて腰にあるベルトを見せ付けた。

そして両腕を真上に伸ばすと、そのまま振り下ろすように左へ。

グララランと音がして、肘を曲げる。2号のポーズを取った。

 

 

「変身!」

 

 

シャッターが開き、隼世は空へ飛び上がった。

 

 

「トォーッッ!」

 

 

ベルトから巨大な十字架(クロス)が生まれる。

赤、黄色、青のスパーク。仮面はほとんど黒に近い緑に、そしてグローブは真っ赤に。

仮面ライダー2号。着地したところにはサイクロンが。

剣崎は無言だった。無言でオーロラの中に消えていく。2号はアクセルを全開にしてサイクロンを発進させる。

灰色の壁を、疾走するマシンが打ち砕いた。

 

 

「お前にとって、その姿はなんだ?」

 

 

灰色の破片の中、ブレイドの幻影が言った。

 

 

「決して消えない、傷痕(プライド)だ!」

 

 

破片が消えていった。2号はそこで急ブレーキ。

おっといけない。忘れるところだった。振り返る。

ルミが追いかけてきていた。

 

 

「行ってきます」

 

「うんっ! 行ってらっしゃい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『んっ、ん……』

 

 

涼霧はゆっくりと目を覚ました。

起きたら、男になっている。ジワリと広がっていく喜び。

しかしなにやら感覚が遠い。声を出したら、ゴポリと音がした。

水の中にいる? いや呼吸はできているから、これはまだ夢なのか?

 

 

「目覚めたか」

 

『あ……』

 

 

良神院長がいた。

 

 

「寝起きに一発、栗まんじゅう!!」

 

『流石に今は……』

 

「そうか。ではワシが……」

 

 

シャブっと噛み付く。

一方でゴポリと音がした。なんだか視界が緑掛かった靄で覆われているようだ。

そこで目を細める。なんだか、あれは、普通の栗まんじゅうじゃないような……。

 

 

「ってこれクリトリスやないかい!!」

 

 

良神は大きく振りかぶって涼霧のクリトリスを投げた。

ベチョリと音がして、切り取られたクリトリスは肉塊にぶつかる。

そこで良神は部屋のライトをつけた。良神の白衣は血まみれで、大きな手術台の上には両手両足が切り取られた胴体があった。

 

全身の皮がはがされ、一部の肉体が抉り取られている。

これが、涼霧の胴体である。

涼霧は『頭部』だけになっており、液体が満ちたカプセル(サイズは大きめの水槽くらい)の中に入れられていた。頭の上が切り取られて脳みそがむき出しになっている。そこになにやら線がつながれ、それがなにやら大きな機械に繋がっている。

 

 

『あ、あの、手術……、オレ、あの、オレ――』

 

「ああ。手術はこの通り上手くいったわい。お前の身体はもうワシらのものじゃ」

 

『―――』

 

「男どころか、お前はもう人間にも戻れない。これ、ほれ、お前の子宮、取り除いたんじゃ。乳首も二つとも切断したから」

 

 

良神は涼霧の乳首を両方の鼻の穴につめると、フンッ! と息を強く吐いた。

ポン! と、鼻から乳首が発射され、床に落ちる。

 

 

「まあ少なくとももう女ではないわな。それで妥協してくれ」

 

 

そして良神は両手を斜め上に伸ばす。

 

 

「人生とっても、楽しいY!!」

 

 

涼霧はそこで初めて、自分が『死んだ』のだと気づいた。

 

 

「アァアアアアアアアアアアアアアアアア! ウアァァアァアアアア! ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

発狂。

まさにその言葉が正しい。頭だけの涼霧は声をカプセルにあるスピーカーから発生させている。

一方で良神は笑う。

 

 

「ムカデ人間っちゅう映画があった。とんだクソ映画ではあったが、ワシはそれを見たときに衝撃を受けた」

 

 

なんというクリエイティブな発想か。

今まで人をどうにかこうにかして治そうとしていた良神には、青天の霹靂であった。

 

 

「人間のケツ――ッ、肛門と口を繋げてしまおうなんてッ、どういうモン食うとったら思いつくんじゃ……!」

 

 

悔しかった。こんな想像力に富んだ人間が存在しているという事実に嫉妬した。

その時、強く思った。自分もあんな風に人に衝撃を与えるものを作りたい。

衝撃を与える人、つまりショッカー……。

ああいや違う違う。そんなんじゃ駄目だ。もっと超えるッ、そういうの。なにか、一つあるとすればそれは――ッ!

 

 

「神」

 

 

その時、良神は気づいた。

そうか。そうだ。神という文字が自分にはある。これは一つの運命に違いない。

だから良神クリニックの地下に、自分だけの王国を作った。

 

 

「それが、GOD(ゴッド)なのじゃ」

 

 

特定の患者を使って、作品を作った。

幸いに、その『技術』があった。最初は使い方がイマイチ分からなかったが徐々に慣れてきて、より作品の幅が広がった。

 

 

「剃刀人手あたりはまだ甘さも目立ったが、亀頭バズーカー辺りからは割りと自信作が続いたんじゃ。って、聞こえとらんか」

 

 

涼霧はショックからか、白目をむいて気絶している。

 

 

「牛松」

 

「はいッ!」

 

 

手術室に入ってきた牛松、その両腕はしっかりと癒合されている。

豪腕で涼霧のボディを持ち上げると、後ろにもっていく。

そこにはベッドに仰向けで寝ている全裸の珠菜がいた。

ベッドが起き上がり、足裏が地面を向くように――、つまり珠菜が立つような姿勢になる。牛松は涼霧の肉体を珠菜の向かい側にある機械にセットした。

 

 

「よし、巳里くん」

 

「了解ですわ」

 

 

巳里がスイッチを押すと、涼霧の肉体が珠菜のほうへ移動し、密着する。

空ろな表情を浮かべている珠菜は、ゆっくりと腕を涼霧の肉体の背中にまわし、抱きしめる格好になった。

丁度、珠菜の胸と涼霧の胸が密着する形になる。すると正面だけでなく、背後や左右にも『肉』が迫り、珠菜に密着する。

歪なる合体。珠菜の身体を、死体が包んでいく。

まさにそれは、死体のミルフィーユ。

 

 

「これで、十面鬼が完成する」

 

 

部屋の隅にはケースがあり、そこには人間の頭部が飾られていた。

トンボくんの顔もあるし、他の人の顔もある。

それは選ばれた美形ということなので、どうか誇りに思って欲しい。

 

美の連鎖。

くっつけることで芸術的ポイントが高まっていくのだ。

分かるだろうか? 学のない諸君にも、この美しさが。

涼霧は肉体だけでいい。なぜならば珠菜の顔を入れると、数が合わない。

十面鬼、顔は十個。肉はどれだけくっつけてもいいが、顔は十個だけじゃないと歪になってしまう。

珠菜は肉に包まれるため、顔も見えなくなるが、それがまたポイントなんじゃ。

十面鬼、おいおい回りにある顔は九個だぞ。ばかもん! 中にもう一つ!

――的なね!

 

 

「楽しみじゃな。のう? 路希」

 

「……うん」

 

 

良神に肩を叩かれ、路希は微笑んだ。

今日も彼は室内だがフードを被り、マスクで口を隠し、サングラスをしている。

するとまた部屋に誰かが入ってきた。白衣を着た真白だ。

 

 

「院長。こちらにライダーが向かっているようです」

 

「ふむ。やれやれ……、脅しは効かんか。ならば仕方あるまい。頼むぞ真白くん、巳里くん、牛松」

 

「ハッ!」「了解ですわ」「ようし! 僕の筋肉の出番だ!」

 

 

並び立つ三人。すると変化は一瞬で起こった。

白衣を着ていたはずなのに、一瞬でレザーを基調にしたスーツに変わる。

真白は背中にパネルがついたものに。巳里はシースルーのドレス。牛松はグレネードランチャーがついたバックパックを背負った衣装に。

そして真白はアルマジロ、巳里は蛇、牛松はバッファローのマスクを被る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

V3は隼世からのメッセージを確認し、良神クリニックの扉を蹴り破った。

今日は臨時休診ということになっているが、そんなのは関係ない。城をイメージした病院、中にいるのは当然『ナイト』だ。

広い広いエントランスホール。シャンデリアが照らすのは、偉大なるレジェンドライダー、火野(ぴの)映司(えいじ)

 

 

「やあ、来たね」

 

「………」

 

 

映司の肩には、ずっと探していた相棒、アンクが乗っていた。

 

 

「おゥ、映司! 気をつけろ、アイツ相当やべぇぞ」

 

 

映司は立ち上がるとダブルドライバーを装着する。

 

 

「やるしかないってか。アンク、メダル!」

 

「………」

 

「変身ッ!」「タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバタトバ!」

 

 

映司はオーズに変身するとアンクを肩に乗せて走り出す。

するとその顔面に拳が叩き込まれた。よろけたところを蹴られ、真横に吹っ飛んでいく。

棚に直撃したらば、上にあった花瓶を巻き込んで倒れた。

オーズはすぐに起き上がろうとするが、視界がフラついてうまく立てない。

生まれたての小鹿みたいにプルプル震えて、やがて肘が崩れて地面に顎を打ち付ける。

痛みと衝撃で気が緩んだのか、お尻から音がした。

 

 

ブッ!

 

 

「え? ダサ……」

 

 

オーズ、放屁。V3が思わず零した声に、羞恥と怒りがこみ上げる。

 

 

「殺す――ッ!」

 

 

オーズは気合で体を起こすと、後ろへ走る。

そしてバッグから強化アイテムを取り出した。缶を思い切りシェイクし、プルタブを開ける。プシューっと音がして、液体が勢いよく噴出される。

 

 

「タカトラバッタスパークリング! イェイイェェエエエエエエエイ!!」

 

 

強化フォームとなってメダジャリバーで切りかかるが、V3はヒョイっと剣を交わすと、オーズの腹部に膝を入れた。

呼吸が止まる。中腰で固まるオーズの頭部を、V3は思い切り叩いた。

 

 

「んブッ!」

 

 

頭を叩かれた衝撃からか、鼻からブボッっと鼻水が飛び出してきた。

怯んでいると、蹴り飛ばされる。オーズは地面を転がり、呼吸を荒げる。

 

 

「アンクやばい! コイツ強いッ!」

 

 

ならば仕方ないとアンクが叫んだ。

オエージ、アレを使え。オーズは戦慄する。

確かにV3を止めるにはアレしかない。しかしアレは暴走の危険性を孕んでいる代物だ。簡単に使えるものではない。

 

 

「言ってる場合かよ! ホラッ! 使えッ!」

 

 

やむをえないのか。オーズは立ち上がると、アンクから受け取ったコインをダブルドライバーへ装填していく。

 

 

「トリケラ! プテラ! ティラノ!」「プットティラーノ! サウル――」

 

 

V3のフックがオーズの頬骨を粉砕する。

そのまま投げ飛ばされ、オーズは壁を粉砕して崩れ落ちた。

 

 

「もう意味わかんねぇ。死んどけよ……、マジで!」

 

 

怒る。すると奥からゾロゾロと人が出てきた。

 

 

「はじめまして! イモータルガイジです!」

 

「現れたなライダー! リスペクトガイジが相手だ!」

 

「カルボナーラガイジ、緩やかな死を」

 

「僕はカイジ! ンンンンン!」

 

「コントローラガイジです」

 

「クリアファイルガイジ! オイラとスパークしようぜ!」

 

「許せねぇ! ネバーエンディングガイジが悪意を砕く!」

 

「ハマジ」

 

 

老若男女、V3は殴り、殴り、殴り飛ばす。

なんの感情も湧かなかった。こいつ等は全部、タチの悪い冗談だ。存在が滑ってる。冷めたV3の心には欠片も響かないし、どうでもいい。

今もなお、V3は萎えていくばかりだ。

 

 

「!」

 

 

階段を上がろうと思っていたところ、フラつくガイジたちをかき分け、誰かが走ってきた。

ブレードアルマジロだ。彼は飛び上がり、体を丸めて背中の電磁プレートを発光させる。

V3はすばやくバリアを発動。防御力を跳ね上げるが、回転前宙はそれを簡単に粉砕してみせる。

V3が後退していくなか、着地するアルマジロ。

 

 

「やあ。来たんだね」

 

「ああ」

 

「何をしに来たの? 実力は分かってるでしょ? 死んじゃうよ?」

 

「それでいい」

 

「え?」

 

 

聞き間違いではなかった。V3はまっすぐにアルマジロを睨んだ。

 

 

「それでいい」

 

 

仮面を被っているから、表情は分からないけれど。

それを聞くと、アルマジロは唸る。そしてプレートから一本、電磁ナイフを取り出した。超音波により、刃が激しく振動する。

アルマジロは走り、ナイフを思い切り突き出した。狙うのは心臓だ。しかしV3はそれを回避してアルマジロの腕を掴む。

 

 

「死にたいくせに」

 

 

アルマジロは跳ねた。足でV3の首を挟むと、一瞬で倒して見せる。

しかしV3のマフラーが大きく羽ばたき、倒れたまま高速旋回を行う。

視界がグルリと回り、アルマジロが怯んだ。

 

V3は拘束を抜け出すと、立ち上がり、アルマジロを殴った。

しかしアルマジロもまた反応し、背中を向けていた。V3の拳を電磁プレートで受け止め、放電によるカウンターを行う。

 

V3が怯んでいるところにハイキック。

V3が地面に倒れると、前のめりになってナイフを突き刺そうとする。

 

 

「!」

 

 

そこで激しい怪音波。ブイスリーホッパーから放たれる音波、スクランブルホッパーがアルマジロの脳を揺らす。

 

 

「ぐっ!」

 

 

アルマジロは頭を抑えて後退していく。一応、ナイフを投擲してみるが、力が入らないため、簡単に回し蹴りで弾き落とされた。

だがアルマジロがある程度距離を取ったとき、V3の全身から火花があがった。

 

ガトリングパイソンだ。

彼女のマスクには防音装置が施されているため、スクランブルを遮断してみせた。

V3が怯んでいると、爆発が巻き起こる。

グレネードバッファローの弾丸を身に受けてしまったのだ。煙をあげて固まっていると、ショルダータックルで吹き飛ばされた。

入り口の扉を破壊し、V3は転がっていく。

 

 

「牛松さん。後、お願い」

 

「分かったよ真白先生!」

 

 

踵を返して歩き出すアルマジロとパイソン。

バッファローはV3にトドメを刺そうと歩き出す。

 

 

「ん?」

 

 

外に出たバッファローは固まった。

それは随分と不思議な光景であった。なにやら人数が増えている。

サイクロンに跨って並んでいる1号と2号、さらにそのサイクロンに足を乗せて立っているV3。

 

V3は1号と2号の肩に手を置いた。

そこで二台のサイクロンが急発進、光のオーラを纏いながらバッファローへ突っ込んでいく。

バッファローは両肩にあるグレネードランチャーをすぐに発射。

二つの弾丸は向かってくるサイクロンに直撃する。が、しかし勢いは全く衰えることなく、逆に加速していくばかり。

1号、2号、V3のベルト風車が激しく回転し、光は尚も強くなる。

それはまさに弾丸へ。

 

 

「ライダートリプルパワー!!」

 

 

2号が叫んだ。バッファローは両腕を広げて真っ向から受け止めようとするが――

 

 

「!!」

 

 

アルマジロが急いで戻ってきた。轟音が聞こえたのだ。

エントランスホールの中央にてバッファローが倒れている。

振り返ると、まっすぐに伸びた中央階段がある。さらにそこから左右に階段が、V字のように分岐した通路。

 

正面から見て左上には1号が立っていた。

左腕を右上にまっすぐ伸ばすと、複眼が赤く光り輝いた。

 

右上には2号が立っている。

右に伸ばした両腕を大きく旋回させ、左に持っていく。両肘を曲げ、左の拳は天を向き、右の拳は左肘の傍に。

ライダーポーズ、2号の複眼が赤く輝く。

 

そして中央のV3。

一度左の掌を、右の拳で叩くと、右手の指でVの文字を作り、左手を右肘へ添える。

緑色の複眼が強く発光する。ライダーパワー、強化であり、鼓舞であり、それは威嚇。

 

 

「志亞」

 

 

2号が口を開く。

 

 

「僕はどんな人間でも好きになろうとした。たとえ少し難がある人でも、理解しようと努力した。でもそれでも、僕はキミが嫌いだ」

 

 

怒りで腸が煮えくり返りそうだ。

強い感情の昂りをテレパシーで拾った。というよりも流れてきた。

志亞が茂男を『使った』ことを。それは隼世にとっては決して許せない行為だ。

はっきり言って殺してやりたいとすら思ったかもしれない。少なくとも志亞に協力するなんて絶対に嫌だと思った。

そういう2号の負を、V3もまたテレパシーを介して知った。

 

交じり合う思考。

ならば2号も分かっただろう。

V3はそれを望んだ。『茂男を犠牲にしてまで生きて、珠菜を助ける』――、その道を選んだ。

 

選んだんだ。珠菜だけのヒーローになることを。

その選択肢を選ぶレバーを引いたこと、決して許されるものではない。

しかし人間は一つが全てではない。

たとえ99が気に食わなかったとしても、無視できない1がある限り、隼世は手を差し伸べることを選んだ。

 

 

「珠菜ちゃんを助ける。それは、ルミちゃんも望んでいることだ」

 

「それでいい。オレもお前らは嫌いだ。特に、お前」

 

 

顎で示す。1号は何も言わなかった。

 

 

「しかし珠菜ちゃんは違う。きっとお前らのことも好きになる。オレはその想いを世に残すべきだと思った」

 

「だが助けても彼女は――」

 

「そうだ。だがそれは、彼女を助けない理由にはならない」

 

 

2号は頷いた。

すると入り口からエックスとアマゾンが入ってくる。

アルマジロも確認する。そして振り返り、改めて2号たちをマジマジと見つめる。

ナイフを抜きながら大きなため息が漏れた。

 

 

「はじめた時から、こんな風になるとは思ってた。まさに今だね」

 

 

アルマジロの言葉を聞いて、2号は思う。

絶影(ぜつえい)。馬の名前ではない。文字通り――、絶対の影だ。

どこへ行こうが、どこに逃げようがピッタリと自分の後をついてくる。

服を着替えても無駄、髪を伸ばしても無駄、顔を変えようが姿を変えようが、自分にくっついてくる。

 

絶対に逃げられない。

どんな光の中でも自分に黒があるのだと教えてくれる。暗いところに逃げたらば、闇が全て自分になる。

直視しなければならない。これが自分だと。誰もが皆、黒い自分がいるのだと。

 

 

「誰もが皆、十字架を背負っている(バルドクロス)から、逃げることができない」

 

 

しかしそれでも――、そうだとしても――ッ!

 

 

「時代がライダーを求めてる!」

 

 

2号が跳んだ。

一回転した後に、アルマジロの前に着地する。拳はすぐに弾かれ、蹴りがとんできた。

しかし2号も左腕で蹴りをガードすると、右のアームハンマーですぐに足を叩く。

 

右と左のワンツー、右は受け止められ、左は弾かれた。

飛んできたナイフを交わすと、2号は腕を掴んで背負い投げを行う。

V3も跳んだ。狙うのは立ち上がったバッファローだ。殴りあう中を走りぬけるエックス、アマゾン、そして1号。

 

 

「残念だよ、ほんと」

 

 

エックスがつぶやいた。もう良質なグッズが買えないこと。

あと、なんだったら、『選ばれなかった』ことも、ちょっと残念。

 

 

「敬喜ちゃん。珠菜ちゃんはどこにいると思う!?」

 

「分かんないや。けれど――」

 

 

このクリニックを知っているからこそ、分かる。

そんな大それた事を行う場所はなかった。ということは、残る場所はひとつしかない。

 

 

「地下だ」

 

 

ライダーの聴覚を駆使すれば、特定は難しくない。

しかし向こうもそれが分かっているのか、ゾロゾロと人影が。

ガイジたちとは違う。ガスマスクをつけた黒尽くめの人間だった。三人はそれをなぎ倒しながら前に進んでいく。

 

ふと、1号は殴り飛ばしたガスマスクの素顔が気になり、マスクを外してみた。

誰だか分からなかった。毛という毛は全部剃られ、両耳が切断され、唇は銀のワイヤーで縫い付けられている。

眼球は真っ白になっており、頭には雑な縫合の痕があった。

 

1号は思い出す。

そういえば年間で2000人ほどが行方不明になっているらしい。世界を入れればもっとか。きっと、彼らはその一部だ。

 

それをエックスもアマゾンも見ていた。

動きが変わる。アマゾンはガスマスクたちを殺し始めた。

1号とエックスはそれを止めなかった。それは優しさだと思ったし、正しいかもしれないと思ったからだ。

けれどもやっぱり正解が分からなくて、必死に前に進んだ。

この先に、答えがあるような気がした。

 

三人は中庭に来た。噴水が止まっていて、位置もズレていた。

ぽっかりと穴が開いていた。階段があった。そこを降りた。長い廊下があった。ガスマスクが五人ほど襲い掛かってきた。

アマゾンが跳んだ。ガスマスクの両肩に着地し、両腕で首を掴む。

 

思い切り上に引っこ抜いた。首が飛んで血が噴水のように飛び出す。

アマゾンは次のガスマスクに跳んだ。着地した。ヒレの刃で脳天を叩き割った。

跳んだ。着地する。ホップ、ステップ、ジャンプ。頭を噛んだ。

血まみれのアマゾンは最後の一人に手を伸ばした。しかしそれは届かない。ガトリングパイソンはアマゾンの腕をバックステップで回避すると、左腕のガトリングを乱射する。

 

アマゾンが倒れ、血の上を滑っていく。

エックスが前に出てライドルを激しく回転させて盾を作った。

とはいえ弾丸は強力だ。衝撃に負けて踏みとどまるのが精一杯だった。まっすぐに伸びた通路というフィールドでは、ガトリングから逃げるのは難しい。

 

 

「僕に考えが」

 

 

アマゾンの提案に乗った。

バイクを生み出し、強引に突破しようという作戦だ。

先頭を行くジャングラー。アマゾンは思い切り身を低くして、向かってくる弾丸を防ぐ。

 

弾丸は当然ジャングラーに当たって押し出そうとするが、その後ろを走るクルーザーとサイクロンが強引にジャングラーを前に出していく。

そうしていると範囲に入った。アマゾンはシートから跳ね、パイソンに掴みかかる。

二人がもみ合っている間に、1号とエックスは奥へ進む。

扉があった。二人が近づくと、自動で開いた。

 

 

「う――ッ!」

 

 

思わず目を背けたくなる場所である。

そこは手術室であり、ラボであり、アトリエだ。

おびただしい量の血が見え、臓器が転がり、人の破片が散らばっている。

 

血まみれのビニールカーテンをかき分けて前に進むと、エックスが思わず立ち止まった。

見知らぬ機械が見える。大きな装置だ。そしてそこから伸びる管をたどっていくと、カプセルの中に入れられた涼霧の頭部を発見する。

 

 

「オェ――ッ!」

 

 

視線を逸らす。

思わず吐きそうになるのをグッと堪えた。すると涼霧はエックスに気づいたのか、空ろな目で笑う。

 

 

『敬喜? 敬喜か? 敬喜だよな? 見て、面白い夢だろ? オレ、首だけになってるんだぜ? でも生きてる? なあ、これは夢だよな?』

 

「………」

 

 

少し離れたところで座っていた良神院長は立ち上がると、機械のスイッチを入れて特別な信号を涼霧の脳に流した。

すると涼霧はゴポゴポと空気を漏らし、強制的に眠りへ落ちる。

 

 

「――ッ涼霧はアンタを信じた! アンタの優しさを信じたんだ! それを何で裏切った!?」

 

 

エックスはライドルを抜いて、剣先を良神に向ける。

 

 

「……誰もが皆、人生の主役になれる。ワシはそれを信じてこの道を歩んできた」

 

 

綺麗になりたい、自分らしい自分になりたい。

誰もが持っている願いだ。だから良神はそれを叶えたかった。

たった一度きりの人生だ、思うように生きてみたいならそうさせるべきだと。

 

 

「だがそれは大きな間違いじゃった。此の世界という物語には、確かに主要人物がいて、弱いものは脇役となる。輝かしい活躍の裏でひっそりと死んだり、利用されて息絶えたりするものなのだと。それがハズレくじを引いたものの末路というものじゃ。言い換えてみればそれが――、運命となる」

 

 

良神はパチンコだけではなく、映画が好きだ。

いろいろな映画を見た。そうするとやはり面白いアクションだと死んでこそ輝くシーンがある。

悪役の存在を示したり、モンスターの恐ろしさを強調したり、決して逆らえぬ自然を強調したり。

 

 

「不平等だとSNSで怒っている人間は、とっくの昔にそこに気づいておったのじゃな。いやはや、夢見る老いぼれよりも……、よほど賢い」

 

 

残念ながら、地球とはそういう星なのである。

薄い壁の向こうに行っただけだ。おいしいエサをあげると招きいれ、その裏で捕食するチョウチンアンコウや、食虫植物と同じになっただけ。

 

 

「優先順位とも言うし、矜持とも言う」

 

「ふざけんなよォオッッ!!」

 

 

そのせいで、涼霧は、架奈たちは――!

エックスはライドルを構えて良神のほうへと走る。

だが銃声。良神が隠し持っていたライフルの弾丸を受けて、エックスは後退していく。

 

 

「キングダム・ダークネス」

 

 

良神は立ち上がり、この地下空間に設置してある機械の名前を告げた。

 

 

「クロスオブファイアが齎した。かつてショッカーが使っていたとされるナノロボット生成や、管理に使用していたマシンの名前じゃ」

 

 

良神は白衣のポケットから注射器を取り出す。なにやら緑色の液体が入っている。

彼はそれを躊躇することなく、己の首に刺した。

液体を注入すると、変化は一瞬で起こる。貧相な肉体がウソのように膨れ上がり、筋肉質なものに変わった。特に上半身だ。白衣がはじけ飛び、肉体が露になる。

 

だがココでエックスたちは息を呑んだ。

皮膚の色が変色し、紫や茶色になる。壊死を起こしているようだ。

一方で頭部も膨れ、髪が一瞬で抜け落ちて、脳の部分が膨れ上がる。耳は尖り、背中からは巨大な翼が生まれた。

 

キングオブモンスター、ドラキュラとフランケンシュタインの融合。

それだけではなく良神が注目したのはその『儚さ』だ。

 

 

「どんなに面白い映画でも、終わりは来る」

 

 

あのスタッフロールを見つめているときの余韻が良神は好きだった。

切なく、虚しく、けれども満足感が心を取り巻いている。

今がまさにそうだった。夢が始まり、夢が終わる。

この美学が仮面ライダーには分かるだろうか?

 

 

「限界を超えた。この変身後、ワシの全身は腐り落ちッ、死に至るだろう!!」

 

 

死に至る病。

しかし気分がいい。気持ちも若々しくなってきた。

良神は亡くなった妻と見た映画を思い出す。そうだ。もうすぐだ。クライマックスが終われば、そちらに行く。

いや――! 違う! 地獄か!!

しかしそれでも、幕だけは下ろさせてくれ――ッ!

 

 

「俺はコウモリフランケン! エックスライダー! 貴様を殺す!!」

 

 

コウモリフランケンは翼を広げてエックスに襲い掛かった。

 

 

「ここはボクが! お兄さんは奥に!」

 

「分かった!」

 

 

1号は走る。そして奥の部屋にたどり着いたとき、珠菜の姿を確認した。

 

 

「――ッ!??!?」

 

 

珠菜は肉の塊に囲まれ、首から上だけが出ている状態だった。

丸い肉塊には、それを囲むように頭が埋め込まれている。その数は九つ、珠菜の顔を合わせると十個ということなのだろう。

 

 

(しかしこれは一体なんなんだ?)

 

 

良神はこのために悪事を重ねてきたのだろうが、これが何を意味するのかはサッパリ分からなかった。

 

 

「箱舟ですよ」『ロック・オン!』

 

「!?」

 

 

1号が右を見ると、壁にもたれかかっていたフードの少年、路希がカッティングブレードを倒した。

頭上からメロン型の鎧が降ってきて展開、仮面ライダー斬月が生まれる。

 

 

「あと少しで……!」

 

 

斬月は無双セイバーを振るい、1号へ斬りかかっていく。

 

 

 

 

 

 

V3はまず二回、バッファローの胸を叩いた。

ラストはキック、腹を蹴って反動で後ろへ跳ぶ。そうすると豪腕を回避することができた。

着地したV3はすぐに冷凍光線を発射。しかしバッファローはそれを真っ向から受けてもビクともしない。一応は薄い氷で覆われたが、それをすぐに破壊して前に出てくる。

 

ならばと次は電撃を撃ってみるが、結果は同じだった。

走ってくるバッファローの勢いは止まらない。

だったらとV3は高速回転を行い、自分を赤い車輪に変えてみる。

突撃だ。しかしバッファローの寸前まで移動したとき、V3は車輪を解除してスライディングに切り替えた。

 

このままならば死ぬ。

そう本能が察知したのだが、間違いではなかったようだ。

地面を滑るV3の上を通り抜ける豪腕。あのラリアットを食らえば、変身していても首の骨を持っていかれるかもしれない。

 

攻撃を受けずに倒すべきだ。

V3は立ち上がると、V字のオーラを纏いながら突撃。しかし直撃はしてみるが、バッファローに効いている様子はなかった。

そうしているとまた腕が飛んでくる。V3はマフラーを羽ばたかせて飛翔。バッファローの周りを高速で飛行する。

 

V3遠心キックだ。

そう思ったとき、V3の体が吹き飛んだ。

どうやら竜巻の中心にいたバッファローがグレネードを握りつぶして爆発を発生させたらしい。

地面を転がっていくV3を見て、その隙にバッファローはグレネードを肩にある砲口へ放り投げていく。

 

 

「………」

 

 

アレしかない。V3は確信していた。

クロスオブファイアは情報を更新していく。それは時間と共に。それは感情と共に。

激しく燃え上がる感情が、たった一つだけ。

 

 

「死ねェエエ!」

 

 

グレネードランチャーが火を噴いた。

V3はそれを真っ向から受け止め、爆発の中に消えていく。

 

 

「やった!」

 

 

バッファローは喜んだ。見よ、あの炎上し、地面に膝をつくV3を。

 

 

「……最期に聞かせてくれ。アンタは誰かを愛していたか?」

 

 

V3が言った。

 

 

「ああ。妊娠中の恋人がいた。妻にもなる人だった」

 

「その為に戦うのか?」

 

「いや、僕が殺したよ。とっても柔らかくて気持ちよかった」

 

「そうか」

 

 

そこでバッファローは気づく。

なにかがおかしい。V3は確かにダメージを受けたようだが、よく見るとベルトの風車が激しく回転している。

するとどうだ。V3を包んでいた炎が、その風車によって吸収されていくではないか。

何か、マズイ気がして、バッファローはさらに弾丸を撃ち込んだ。爆発が炎を生んで、V3はさらにそれを吸収していく。

 

 

「オレは、珠菜ちゃんを愛していた」

 

 

V3・リターン。

炎に包まれたV3は、複眼を光らせて立ち上がった。

ダブルタイフーンが炎を吸収し、熱エネルギーに変換、コントロールしているのだ。

 

炎上している体も今は力に変わっている。

炎の鎧になっているのだ。

おかげで胸部装甲の色がはがれ、スケルトン状態になっている。

 

とはいえあまり時間はない。

吸収循環時間が一定を過ぎると、炎をコントロールできずに炎上、内部装置を巻き込み爆発を起こす。

決着をつけるなら早々に。V3は走り出した。

 

 

「!」

 

 

陽炎を残しながら迫るV3のスピードたるや。

先ほどとはまったく違う。バッファローが反応する前にV3は懐へもぐりこみ、拳を胸に打ち当てた。

すると小規模の爆発が起きて、バッファローの体が後ずさる。

 

 

「うぐ――ッ!」

 

 

思わず痛みと衝撃で声が漏れる。

そんな馬鹿なと、バッファローは納得できずに再びV3へ殴りかかる。

しかしまたも拳が飛んできた。一発、二発、そして体をひねって足を伸ばしてのキック。

それら全てがバッファローのスーツを焦がし、火傷を負わせる。

それだけじゃない。爆発の影響で肉が飛び散った。

バッファローは呻きながら後退していく。

 

 

「ブモォオオオオオオオ! バッファ!!」

 

 

グレネード弾を連射。しかしその中をV3はまったく怯むことなく歩いていく。

炎を全て吸収し、複眼を光らせたV3は一歩、一歩、また一歩と確実にバッファローに近づいていくのだ。

そして一定の距離に来ると、V3が飛び上がった。

 

 

「く、クッソオォォオオオ!」

 

 

両腕を広げて走り出すバッファロー。

飛んできたキックを叩き落とそうと集中する。

 

 

「ハアアアアア……ッッ!」

 

 

V3キック、バッファローは足に触れるが、激しい熱を感じて手を戻してしまった。

そうしていると胸に直撃する一撃。V3はそのまま後ろへ飛んでいき、『反転』を行う。

一方で衝撃でよろけているバッファローにできることなど何もない。そうしているとV3が戻ってきた。

おお、見よ。あの轟々と燃え滾る右足の輝きを。

 

 

「ダアアアアアアアアアア!!」

 

「ウワアアアアアアアアア!!」

 

 

V3、反転火柱キック。

文字通り、足裏が直撃すると同時に炎の柱が生まれた。

バッファローはその中で呻いていたが、やがてすぐに動かなくなり、倒れたまま炭になるのを待つだけになった。

 

 

「オレは珠菜ちゃんを愛していた」

 

 

炎上が収まり、ベルトが廃熱を行っている。

V3は呼吸を荒げながら、バッファローの死体を踏み越えていく。

 

 

「それしか無いんだよ」

 

 

 

 

 

ガトリングパイソンが、その左腕を振り下ろした。

大きなガトリングガンだ。アマゾンは腕をクロスにしてそれを受け止める。

するとパイソンは足裏でアマゾンの腹を蹴ろうと動いた。

 

しかし見ている。

アマゾンは体を横へひねりつつ、その勢いで回し蹴りを。

右足と左足が二発、パイソンの体を打った。

 

よろけている。今ならば追撃がいけるかもしれない。そうは思ったが、そこで銃声がしてアマゾンは焼けるような痛みを覚えた。

パイソンはフラつきながら腰にあったハンドガンを抜いていたのだ。

さらに引き金を引いてアマゾンの足を狙う。

痛みでアマゾンはよろけ、倒れた。そこでガトリングが回転を始める。

無数の銃弾が発射され、アマゾンの肉体から無数の火花が散った。

 

 

「うぐっ! うがっぁあぁあ!」

 

 

死ぬ。死ぬ。アマゾンは叫んだ。

なんとか体を回転させてパイソンから逃げると、そこでジャングラーが間に入ってたてになってくれた。

アマゾンは重い体を何とか起こし、叫ぶ。

 

 

「なぜ協力を!?」

 

「……生まれ変わった。その恩返し」

 

 

ガトリングが止まった。

どうやら牛松とは違い、巳里と真白は理性を保っているらしい。しかしアマゾンにとってはそちらの方がゾッとする話である。

まあ自分が言えた義理ではないが。

 

 

「こんなこと普通じゃないぜ。何人死んだと思ってるんだ? 悪趣味に。や、ま、俺が言えた話でもないけど」

 

「……普通じゃなかったわ。ゴミみたいな人生だった」

 

「?」

 

「妬みも、嫉妬も、憎悪も」

 

 

ブス。何度言われたことか。

本当に可愛い子からも言われた。そうすると何も言い返せない。

両親を何度も責めたことがある。そこに自己嫌悪して。

でも社会に出てもそれは同じだった。ブスだから何を言ってもいい、冷たくしてもいい、セクハラしてもいい。訴えようとしてもブスのくせに何を偉そうにと終わらせられる。

 

 

「何も楽しくなかった。でも今は違う。ウソみたいに楽しくなった!」

 

 

パイソンは思わずマスクを脱ぎ捨てた。もっと自分を見て欲しかった。

確かに今の巳里はとても美しい。可愛くて、でも綺麗で、そして妖艶だ。

チヤホヤされることがこんなに楽しいことだったのか。男性に優しくされることがこんなに気分の良いものだったのか。美しい体で行うセックスとはあんなにも心躍るものだったのかと。

 

 

「その楽しさを、"あの子"にも与えてあげたい。そう思ったんですわ」

 

 

だって良神の技術があれば、彼女の顔を――!!

 

 

「……うらやましいなぁ。楽しいことがあるなんて」

 

 

それは本当に楽しいことなんだろう。

アマゾンは自分の『喜怒哀楽』なんて、全部ウソだと思ってる。

それはとっくの昔に思ってた。犯罪者が苦しんで死ぬことでしか射精ができないってなんじゃそりゃ。しょーもなさすぎて笑ってしまう。

 

でもそれしかないのだから仕方ない。

適応するべきだ。そして自分が正しいと言い続けなければならない。事実、間違っているのは世界のほうだと今でも信じてる。

 

 

「でも何のために生きてるって? 協力するため? それは少しおかしな話だ」

 

 

普通に楽しいことがあるなら、それを優先させるべきだ。

巳里はやっと自分の人生を掴んだのだから尚更ではないか。

 

 

「こんなイカレたことをやって、同じ生活に戻れると思っているなら、あんたは本物のキチガイだ。どの道、終わってる。さっさと病院行け」

 

「……思っていないわ。戻れるなんて。でもね、元から死んでいたも同じ。いい夢を見させてもらったと割り切れる」

 

「……じゃあアンタは死んだままだ」

 

「え?」

 

「匂いは偽れない。あんたの匂いは善も悪もない。虚無の香りなんだ」

 

 

無臭とは少し違う。巳里は自分の行いを正しいとも思っているし、間違っているとも思っている。

犯罪を犯しているつもりはない。だから今までの犯罪者とは違う。

 

 

「生きていないからそんな匂いが出せる」

 

 

巳里は絶句した。

醜かった自分はずっと綺麗に執着していた。

しかしいざ綺麗になったとき、ずっと自分を動かしていた活力が消え、何かが終わってしまった。

だからこんな姿になったのか?

 

 

「そんな――ッ、ウソよ!」

 

「俺はもっと生きてみたい。本当の幸せをもっと感じてみたい」

 

「私の幸せも本当だった!」

 

「ウソだね。本当ならば守りたいはずだ」

 

 

アマゾンは思い出す。

ココに来る前、2号と合流した。

カラスちゃんに出会ったこと、1号と戦ったこと、そして協力すると決めたこと。それを告げると、思い切り2号に殴られた。

 

 

『自分勝手な暴力だ。だがな山路、この意味をどうか理解してくれ。その上で僕に力を貸してくれるというのなら、ついてきてくれ』

 

 

アマゾンは2号の言葉の意味を、今ならば少し理解できる気がした。

きっと彼は本気で生きてきた。だから苦しんだし、だからこそその意味を軽視していた自分を殴ったと。

 

 

「何にも分かってないから俺は殺してきたんだよ。そしてそれはアンタもだ」

 

「ッッッ!」

 

「イカれてるんだよ結局俺たちは! そして自分が病気だから何をしてもいいって考えてる! いいか、よく聞けよ。まともな人間はな! 人を傷つけないように生きてるんだよ。辛いけど、知り合いが間違った道を行ってたら、裏切ってでもそれをやめさせようとするんだよ!!」

 

 

アマゾンは隼世から支給された携帯を取り出した。

 

 

「射精のために殺人とかアホじゃねぇの!? 感謝のためにコスプレしてガトリング撃つとかナメてんの!? 俺たちが本当にやらなくちゃいけなかったのは、真面目に働いて金を稼いで、税金払って! 保険に入って! 法律を守ることだったんだろうが! 結局そこから逃げただけにしか過ぎないんだよ俺たちがやってることは! 幼稚な現実逃避ばっかりだ!!」

 

 

電話をする。ライダー以外の連絡先はたった一人だけ。

 

 

「あ、もしもしカラスちゃん? ごめん、何か励まして。じゃないと俺もう駄目かも」

 

 

巳里は動けなかった。そうしているとカラスちゃんの声が。

 

 

『ご、ごめんなさい。あれから考えたけどね、やっぱりお母さんや妹を殺すのは駄目だと思ったの。そういう意味では1号さんに本当に感謝してる。で、でもね、山路くんが殺してくれるって言ったとき、それはやっぱり凄くうれしかった。私は世界でひとりぼっちじゃないんだ。こんなわたしにも味方してくれる人がいるんだって。それはね、昔も思ったことなの、それは、あの……、ほら、施設のとき――、山路くんが……』

 

 

長いと思ったのか、カラスちゃんは少し考える。

 

 

『山路くんがヒーローって言ったのは、ウソじゃないし、間違ってもなかったよ。だからね、私には分からないかもしれないけど、がんばって』

 

「……うん」

 

『私みたいに苦しんでる人の助けになって。お願い山路くん。そして私のところへ帰ってきてね』

 

 

アマゾンは電話を切って、放り投げた。

あの時、あの言葉、あの女のせいで狂ったんだろう。でもあれが希望でもあった。

 

 

「今、決めた。俺はアンタを殺す」

 

 

クロスオブファイアが燃え上がり、山路に新しい情報と力を与える。

コンドラーが消えた。変わりに山路の手には新しいドライバーがあった。それを腰に押し当て、注射器を差し込む。

 

 

「アマゾン」『n・e・o』

 

 

衝撃波と熱が発生し、パイソンは地面を転がっていく。

一方でアマゾンに鋼の装甲が追加された。無機質な電子音が、武器のロードを告げる。

 

 

「生きるつもりがないなら、俺がアンタの肉を食らって生き延びる」

 

「ふざけ――ッ」

 

 

巳里は立ち上がり、ガトリングを回転させた。

しかしそこで絶叫。彼女は今までの戦いで、アマゾンにはまともな飛び道具がないと思い込んでいた。

でも今は違う。装備したニードルガンから針が発射され、巳里の右目を貫く。

 

痛みから来る混乱。

ガトリングを乱射するが、狙いが悪い。アマゾンはジャングレイダーの影に隠れ、お次はクローをロードした。

フックが発射され、巳里の足をワイヤーが絡め取る。

引き倒された彼女は一瞬でアマゾンのもとへ引き寄せられた。

 

 

「ッッ!!」

 

 

胸に突き刺さる剣。

ソードをロードしたアマゾンは刃を豊満なバストへ沈めていく。

剣を切り離した。アマゾンはベルトを触る。

 

 

『a・m・a・z・o・n・s・l・a・s・h』

 

 

巳里の右腕が飛んだ。左腕もすぐに斬り飛ばされた。

アマゾンは巳里をかき分けた。肋骨を毟り、肺を放り投げた。

気づけばアマゾンは立ち上がっていた。両手で大切そうに抱えていたのは巳里の頭部だ。

本当に美しい。彼女はそれを手に入れただけで、きっと満足してしまった。

彼女の本体はあくまでも醜い巳里だったのだ。顔を変えた瞬間、彼女は死んでしまったのだ。

 

 

「頂きます」

 

 

しかし変わろうと思っていたことは決して駄目なことではない。変わったことはむしろ評価されて然るべきだ。

だから敬意を表し、アマゾンはその美しい顔にキスをする。

 

と言っても、唇を押し当てるのではない。

アマゾンは巳里の唇の周りを噛んだ。そして食いちぎる。皮膚が破れ、肉が千切れ、歯がむき出しになった。

綺麗な歯並びだった。アマゾンはトウモロコシを食べるように、口で歯を毟り取っていく。

 

命を頂戴いたします。

だから私は頂いた命の分まで生きます。

生かされているので、多くの人が喜ぶように生きます。

ありがとう。感謝します。アマゾンはそう思いながら巳里を噛んでいった。

 

 

 

 

 

 

通路は一つだけではなかったようだ。

コウモリフランケンはエックスを掴むと、翼を広げて飛翔。

一気に羽ばたき、一瞬で地上に出た。

 

エックスは中庭に投げ飛ばされる。

すばやく立ち上がるが、敵は空に浮遊していた。

フランケンの背中には大砲が装備されていた。そこから弾丸が発射され、エックスの傍に着弾する。

爆発が起こった。エックスは踏みとどまり、ロングポールで叩き落そうと試みる。

 

しかし大振りの攻撃など当たるはずもない。

フランケンはすぐに飛行して距離を取ると、再び弾丸を発射する。

エックスは地面を転がって回避するが、敵はそれを読んでいた。エックスが回避するだろう位置を予想して、そこへ弾丸を撃っていたのだ。おかげで直撃とはいかなかったが爆風でエックスは吹き飛ばされて地面を転がる。

花が散っていた。草が燃える。エックスは舌打ちを零した。

 

 

「ねえ! なんで! なんでさ!」

 

 

エックスはライドルをロープに変えて投げる。

狙いはいいが、それをフランケンが掴んだ。

 

 

「みんなアンタを信じてた! 助けてほしいと心から願ったから、手を伸ばしたんだ!」

 

 

敬喜は涼霧の苦しみを知っている。理解も多少はできる。

そして良神クリニックを訪ねたのは、そういう人たちだ。

良神はそれを裏切った。変わりたいと思う人たちを、歪に変えて、怪人に変えた。

父は、そんなところに憧れて――ッ!

 

 

「なんでッ! なんでェエエ!!」

 

 

しかし怒り虚しく、フランケンはロープを振るい、エックスを投げ飛ばす。

壁に叩きつけられたエックスを、フランケンは悲しそうな目で見ていた。

 

 

「どうでもよくなったからだよ、そいつらがな。もっと大事なものが俺にはあった」

 

「皆あるよ! 皆あるんだよ! ふざけんなよ――ッ! マジで! アンタは医者だけじゃなくて、人間失格だ!」

 

「人間じゃない? そんなヤツ、沢山いるだろ」

 

 

フランケンの背中にある砲口が光った。

普通の弾丸じゃない。エックスはライドルを回転させてシールドを作る。

そこへ直撃するレーザービーム。エックスは必死に耐えたが、時間の問題であった。その中でフランケンは淡々と口にする。

 

 

「ハッキリ言ってな、まともじゃないんだよ。いいか敬喜、人は己を受け入れるべきだ。それができない人間は人間としてガラクタなんだよ。だから俺が作り変えた。リサイクルともいえる」

 

「なんだと……!」

 

「お前だってそうだろ。男のくせに女の格好をして。普通じゃない」

 

「アンタはそういう人たちを肯定してきたじゃないか!」

 

「今まではな。だがもう違う。ビジネスは終わりだ。俺は俺のやりたいことをやる。その結果が今なんだ。いいか敬喜、異なることと異常は違うんだ」

 

「――ッ」

 

「お前たちは道しるべを求めて俺のもとに来た。だったら俺が道を示してやるよ」

 

 

そこでシールドが打ち破られた。エックスは全身にレーザーを受け、大爆発を起こす。

変身が解除され、敬喜は地面に倒れた。

咳き込むと血が溢れた。遠のいていく意識、敬喜は悔しげにフランケンを見上げた。

 

しかしそこで平衡感覚がおかしくなり、崩れ落ちる。

ホワイトアウトしていく世界。

幼い敬喜がプリコの手を握って歩いていた。

 

 

「パパかあちゃん。ボクは普通じゃないの?」

 

 

敬喜は目の端に涙を浮かべていた。プリコは少し悲しげに笑う。

 

 

「……そうね。普通じゃないわ。でもね敬喜ちゃん、普通じゃないのはべつに悪いことじゃないのよ」

 

「え? そうなの?」

 

「もちろん。そもそも普通っていうのはどっかの誰かが決めたことなの。その結果、どいつもこいつも似たり寄ったり。そっちのほうがつまらないと思わない?」

 

「でも――、バカにされちゃうよ……」

 

「そうね。じゃあ敬喜ちゃんは髪を短くして、男の子みたいな格好がしたい?」

 

 

敬喜はプリコを見た。そして首を振った。

プリコになりたかった。プリコが喜んでくれると思ったし、自分も好きだったからだ。

 

 

「じゃあそのままでいいわ。敬喜ちゃんが教えてやりなさい。普通っていうのはね、壊れるものなのよ。あなたが胸を張っていたら、きっと周りの人間がバカだったと思うわよ」

 

「ほんとに?」

 

「ええ。でもだからって周りの人を攻撃しては駄目よ。そんなことをする時間があったら、もっと綺麗になりなさい」

 

 

それにもう一つ、プリコは微笑んだ。

 

 

「あなたのことを普通じゃないと思っている人間を、受け止める海になりなさい」

 

 

海にバカヤローと叫ぶ人間もいるけれど、海に助けられた人もたくさんいる。

プリコもそうだった。だから水野町にやってきた。

 

 

「おいしそうなサーファーもいるし。なにより波の音を聞くだけでも好きなの。敬喜ちゃんもね、いつか私が死んだら波の音を思い出して。そうすればきっと大丈夫よ。必ず大丈夫」

 

 

フラッシュバック。

あの日、架奈ちゃんを抱きしめた日。

敬喜の胸の中で架奈は呟いた。

 

 

「わたしね。自分のこと……、普通じゃないって思ってた。でも敬喜ちゃんも似たようなかもって思って嬉しくなっちゃった」

 

「周りなんてどうでもいいよ。自分の心を一番大事にしないと」

 

「そうだよね。でも、なかなかね……。怖かった」

 

「まあ、そうか。ボクも似たような感じ。でもさ、やっぱりパパが言ってたんだ」

 

 

ねえ、敬喜ちゃん。

自分を不自由にするのは、自分自身なのよ。

あなたが自由なら、世界は貴方を絶対に縛ることはないわ。

 

 

「………」

 

 

敬喜は架奈にキスをした。彼女は黙って受け入れた。

耳を澄ませば、波の音が聞こえた。

 

 

「生きたいように生きて、何が悪い」

 

「!」

 

「変わりたくて何がいけない。好きな自分になりたくて、どうして非難される!」

 

 

敬喜は立ち上がると、唇を擦り、血を拭った。

 

 

「みんな自由になりたくて。でもなれなくて苦しんでる。悪意ある言葉を受けたり、窮屈な常識に縛られて! でもそれでも前を向いて歩いてる!」

 

 

波の音は不思議だ。落ち着く音だが、なんだか悲しく泣いているようにも聞こえる。

それはまるで、父の叫びのようだった。

病気になっても、いつもプリコはニコニコしていた。しかしそれは敬喜の前だったからだ。父だってきっと苦しかったに決まっている。

 

 

「その通りだ敬喜! だから俺は選んだ。自分が生きたい道を!」

 

 

みんな、変わりたくて、やってくる。

でもそれは世界中の人間にも言える。どこかで、変わりたいと願っている。

 

 

「変身したいんだよ! 俺達はァア! その欲望は――ッ、誰にも止められない! だから強いヤツがより強いものに変身していく! まさにそれはフリーダム!!」

 

「アンタのはただの自分勝手だ! いやもっと酷い! お前は自由を履き違えてる!」

 

 

敬喜が起き上がったのは、なによりテレパシーが拾ったからだ。

波の音、そして彼女の泣き声を。

架奈ちゃんは泣いていた。あれだけ敬喜の前では笑っていた彼女も、ふと思ってしまった。

敬喜と恋人になれたのはとってもハッピーだが、もしももっと仲良くなって指輪を貰ったとしても、自分はそれをつける事ができない。

 

今はよくても、ふと敬喜の心が離れてしまうかもしれない。

それが辛くて、架奈ちゃんは声をあげてボロボロ泣いた。

付き添っていたマッコリ姉さんも、自分の手を見て、釣られて泣いていた。

 

 

「お前の自由は、どうしてここまで人を傷つける!? ボクらはそんな自由を求めて戦ってなかったはずだ!」

 

 

最低の卑怯者だ。

自由を盾にして自分の欲望を優先し、その結果、他人の未来を奪った。

 

 

「ボクは絶対にアンタを許さない! アンタが不自由を強いるなら、ボクがみんなの自由を取り戻す!」

 

 

敬喜は両腕を真上に伸ばし、そのまま腕を横へ持っていく。

そして一つ、変化が起こる。敬喜の髪がパーマがかかったようにカールしていく。

そして両手が左右に伸びた後、右腕を左上に伸ばした。

 

 

「大ッ! 変身!」

 

 

敬喜は再びエックスへと変身した。

しかしその姿は以前のものとは違っている。

 

"SICフォーム"。

胸部の赤い装甲が大型化しており、額のVが大きく、そして赤い部分が黒い部分に重なっている。

さらに腕のガントレットも重厚なものに。これはライドルの新形態・ライドルガントレットによるものである。

ライドルが変形しているのではなく、ライドル未使用時には肉弾戦が強化されるのだ。

さらにエネルギーの放出により、背後に爆発が巻き起こった。

 

 

「敬喜……、テメェにもいつか分かる時がくるさ」

 

 

フランケンは体を伸ばし、弾丸のように飛翔する。

先ほどよりも装備が重厚になった分、動きは鈍くなっただろうとの考え。

それは間違っていないが、スペックは上昇している。

 

高速で動くフランケンをエックスはしっかりと目視。

体をわずかに逸らす、最低限の動きで突進を回避する。

さらにここでライドルを抜いていた。変形させるのは新形態・ライドルガン。

通り抜けざまに撃つと、銀の弾丸が発射、それはフランケンの右翼の付け根を貫き、墜落させて見せる。

 

 

「あぐぉ!」

 

 

地面に落ちたフランケンはしばし沈黙。そして地面を殴りつけた。

 

 

「クロスオブファイアの適合――ッ!」

 

 

立ち上がると、唸り声をあげてエックスに殴りかかる。

しかし彼はすぐに立ち止まった。薔薇だ、薔薇の花びらが辺りに舞っている。

 

 

「ライドルローブ」

 

 

ライドルが棒状に、さらにそこへマフラーが巨大化してマントになって配置。

まさに闘牛士のマントだ。それをはためかせる度、薔薇が舞う。

かまうものか。フランケンは走り、エックスを殴った。すると拳は確かに体へ沈んだが、エックスは大量の薔薇の花びらになって消えてしまう。

 

 

「ミラージュ・ロッソ」

 

「!?」

 

 

フランケンの背後、噴水の真上にエックスが立っていた。

 

 

「ライドルハープーン」

 

 

それは巨大な『銛』だった。『ドメニコ』という先端の尖った部分が発射されると、薔薇をかき消しながら一瞬でフランケンの腹部に突き刺さる。

 

 

「グォオオオォオ!」

 

 

とはいえ巨大で長い銛も、フランケンの体を貫くことはなかった。

だがしっかり刺さってはいる。苦痛の声と共に、大量の血が零れ出た。

 

 

「それは――ッ、卑怯だぜエックスライダー。そんなデータはッ、なかったはず!」

 

「炎がボクを選んだんだ! ボクはエックスライダーッ! 未限数『X』は未知数の象徴ッ、無限の可能性! 止まらない成長の証なんだよ!」

 

 

皮肉な話だ。

良神がずっとクリニックで人々を笑顔にしていれば、こんな進化が齎されることは無かった。

 

 

「それだけの腕が、アンタにはあったのにッ!」

 

 

エックスが腕と足を伸ばし、Xの文字を作って飛び掛る。

しかしフランケンは動けなかった。

そうしていると押し棒が分離し、銛先だけがフランケンの体に残る。同じくしてエックスはフランケンを押し倒した。

しっかりと体を掴み、フランケンを巻き込んだまま高速で前転を開始。

中庭の花壇を、噴水を、モニュメントを破壊しながら突き進む。

 

 

「いいか敬喜ぃい! よく覚えとけよ!!」

 

 

終わりを確信したのか、フランケンが大量の血を吐き出しながら叫んだ。

 

 

「人を殺してまでッ! 叶えたい夢があるってことをぉォなあッッ!!」

 

 

そこでエックスは飛び上がる。回転しながら空に舞い上がると、そのまま落下。

フランケンの脳天が地面に激突する。

ゴギリと、音がした。そして地面に背中をつけたエックスは足裏を伸ばして、上にいたフランケンを空に打ち上げる。

 

 

「アンタこそ忘れてないっ?」

 

 

背中にXのマークが広がった。

それがエックスを跳ね上げる。空中に舞い上がったエックスの目の前には、フランケンの無防備な背中があった。

 

 

「叶えちゃいけない夢もあるってことッ!」

 

「ッッ!!」

 

「エックスキック!!」

 

 

炸裂するX。

フランケンは悲鳴をあげて地面に墜落していった。

 

 

「う――ッ! ガフッッ!」

 

 

背骨を粉々にされているのか、立ち上がることはできない。

倒れ、無様に呻く姿を、着地したエックスは悲しそうに見ていた。

 

 

「人を傷つける夢は……、ただの殺意だ。捨てなきゃいけないものなんだよ。アンタには理性があったでしょ?」

 

「あるんだよ……、それでも。あったんだよ。叶えたい夢が――」

 

 

フランケンはまだ前に行こうとしていた。

しかしそこでまた血を吐いた。ドス黒い血であった。

リジェクションが早めに起こったらしい。体を動かすために必要なものが次々と急激に腐っていく。

脳が凄まじい勢いで死んでいく。それでもフランケンは前に進もうとした。

あるんだ。あったんだ。今も、なお。

 

 

「叶えて――……、あげたい――、夢……が」

 

 

止まる。本人に止まったつもりはない。もはや体を動かすのは不可能だった。

変身も解除できない。良神は怪人のまま死んでいく。

 

 

「栗まんじゅう」

 

「……え?」

 

「食いたかった。最期に……」

 

 

そこで、コウモリフランケンは息絶えた。パッタリと人生を終えた。

エックスはそれを黙って見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エントランスホール。

木材、プラスチック、ガラス。いろんなものをバキベキと踏みながら2号は走った。

前蹴りは手で弾かれた。続いて体をひねりながら繰り出した横蹴りはバックステップで避けられる。

そのままアルマジロは踵を返して中央階段を駆け上がる。

 

追いかける2号だが、半ばに差し掛かったところでアルマジロはバク宙で一気に階段を下りた。

そのまま回し蹴りをすることで、2号の足を払う。

2号は階段の上に倒れた。見えたのは、ナイフ。

 

 

「グッッ!」

 

 

ナイフを突き刺そうとしたアルマジロの腕を両手で掴む。

すぐにアルマジロもナイフを振り下ろす手に、もう一方の手を添えた。

両者の腕が震える。顔に刃を突き刺そうとする力と、それを抑えようとする力が拮抗していた。

 

 

「うッ、ウォオオオオオオオ!!」

 

 

2号が吼え、首を振った。

それで力が出たのか、アルマジロの腕を横へずらすことに成功する。

 

ドスッと音がしてナイフが階段に突き刺さった。

思わず前のめりになるアルマジロ、顔が近づいた。2号は頭突きをヒットさせる。

突然の衝撃にアルマジロが怯んだ。追撃に腹を蹴ってみせる。

 

アルマジロが背中から地面に倒れた。

2号は立ち上がると、飛び上がり、前宙しながらアルマジロに接近する。

踵落とし。しかしアルマジロはすばやく体を反転させると、背中のプレートで踵を受け止めた。激しい放電、2号は苦痛の声を漏らして勢いのまま前に転がる。

 

両者、すばやく立ち上がる。

アルマジロはナイフを二本投擲してみせた。

一本は弾かれたが、一本は2号の胸にヒット。苦痛の声が漏れる。

 

 

「クソッ!」

 

 

2号はすばやくナイフを抜いて、投げ捨てた。

血が出る。一方でナイフを構えて走ってくるアルマジロ。

突きだ。2号は体を逸らして回避するが、回し蹴りが飛んできた。足裏が側頭部に入り、大きく後退する。

しかし意識はハッキリとしていた。飛んできた腕を掴み、絡め――。

 

 

「!?」

 

 

アルマジロが跳ねた。

腕を足で挟まれ、視界がグルンと回る。

何が起こったのかしばらく理解できなかった。

 

しかし天井のシャンデリアが見えたとき、自分が仰向けに倒れているのだと理解する。アルマジロが腕を挟んだままだということを理解する。

一方のアルマジロは腕をホールドし、力を込める。

へし折る。そのつもりだったが、そこで背中が床から浮いた。

 

 

「うがぁああああああゥッッ!!」

 

「!?」

 

 

2号が雄たけびをあげる。左腕ひとつでアルマジロを持ち上げると、そのまま右の方へ叩きつけた。

顔面から地面に叩きつけられ、思わずアルマジロから声が漏れる。

力も緩んだ。2号は腕を脚から引き抜くと、倒れているアルマジロを掴んだ。

 

 

「ライダーきりもみシュートッ!」

 

 

投げて、横へ転がる。

一方で投げられたアルマジロはシャンデリアに激突して、シャンデリアと共に落下する。

しかしすぐにガラス片を纏いながらアルマジロは立ち上がった。

走る。2号もまた、走る。

 

 

「ライダーチョップ!」

 

 

手刀が来た。

しかしそこへアルマジロはナイフをあわせる。

 

 

「――ッ!」

 

 

2号がすぐに後ろに跳んだ。腕から血が流れる。

アルマジロはナイフを捨てると、腰を落とした。

それを見て2号もまた腰を落とす。

 

先に動いたのはアルマジロだ。

走り、飛び上がる。体を丸めて高速回転。

それを見て2号も飛び上がり、足を前に突き出した。

 

 

「ライダーキック!」

 

 

激突する両者。競り合い、そこで電磁パネルが強く発光する。

 

 

「ぐぅウウぁああッッ!!」

 

 

弾かれたのは2号だった。地面を滑り、脚を抑える。

一方で着地したアルマジロは腰からナイフを抜くと、それを投擲。

2号の肩に刺さった。もう一本、今度は胸に。

 

電磁パネルの端から二本、振動ナイフを抜いて、投げる。

しかし2号は強引に腕でそれを弾く。

とはいえ出血。他のナイフも抜き、さらに出血。

 

 

「……!」

 

 

しかし2号はすぐに立ち上がった。そこでアルマジロは腕を組んで唸る。

 

 

「ふむ。やっぱりキミは他の二人とは違うね。闘志が高いっていうのかな? 年齢もあるか……? いやでもやっぱり他の二人は結構早く諦めた感じがあるけど、キミはしぶといや」

 

「泣いてる人がいた」

 

「え?」

 

「本来、流す必要のない涙を流している人がいたんだ」

 

「それは――、たぶん、コチラ側のせいなんだろうねぇ」

 

 

2号は何かを言おうと思ったが、そこで崩れ落ち、地面に膝をついた。

呼吸が荒い。だけれども、地面を殴りつけ、自分を鼓舞する。

 

 

「ありがとうと――ッ、言ってくれた人がいた……!」

 

「???」

 

「僕はッ! 平和のために戦う!」

 

 

2号はハッキリとそう言った。

 

 

「お前とは、覚悟のレベルが違うッ!」

 

 

アルマジロは沈黙し、かわりに背中に手を伸ばす。

 

 

(立派だけど、隙があるよッ!)

 

 

喉を狙う。ナイフを投擲しようとした、まさに時だった。

 

 

「ッ!」

 

 

銃声。手に衝撃を感じて、アルマジロはナイフを投げるのを止める。

 

 

「おぉ! 当たったぜ!」

 

 

入り口付近に立っていたのは立木だった。

後ろにはマリリンもおり、アルマジロを見て目を輝かせている。

さらに応援の刑事や警官も流れ込んできた。

 

 

「ちッ!」

 

 

さて、どうしたものか。

そう思っていると、立木の後ろから可愛らしい小柄な少女がヒョイッと顔を見せる。

 

 

「イッチーッ!」

 

「ルミちゃん!?」

 

 

間違いなくルミである。

さらに後ろでは瑠姫が心配そうな表情を浮かべている。

2号はバッと跳ね起き、ルミに近づこうとして止めた。

 

 

「だ、駄目だよ! 危ないよッ!」

 

「いやでも! そうだけどッ! 応援したいから!」

 

「!」

 

「負けてほしくないからッ!」

 

 

2号の雰囲気が変わったことに、アルマジロは気づいていた。

 

 

「うらやましいね。本物のヒーローみたい」

 

 

先ほどの平和のために戦うという発言。

まさに与えられるべくして与えられたというべきなのか。

でもアルマジロは同じような力を持っているからこそ分かる。そんな完璧な善人超人なんてテレビのなかだけだ。

 

皆、何かを引きずって戦う。

と言うよりも活力がないと前には進めない。

命を賭けているならば尚更だ。アルマジロはつい疑問を口にする。

 

 

「キミはさ、なんで戦ってるのかな? あと、名前は? 記念に教えてよ」

 

 

言葉はすぐに返ってきた。

 

 

「正義――、仮面ライダー2号」

 

 

言葉を交わすのはそろそろ終わりにしよう。

お互いはそれを理解したし、だからこそ走り出した。

アルマジロはナイフを投げながら2号へ距離をつめていく。

 

一本目はキャッチされ、二本目は弾かれた。

三本目は当たらない。するともう距離は間近にまで迫っていた。

アルマジロは飛び回し蹴りで2号を狙うが、ガードされる。

着地と同時に回転。ナイフを頭に刺そうと試みるが、空を切った。

 

屈んでいた2号は、立ち上がるようにしてアッパーを繰り出す。

顎をしっかりと捉えた感覚があった。事実、アルマジロは空に上がっていく。

2号も地面を蹴って追いかけた。掴みかかると、アルマジロは放電を開始する。

 

 

「ライダー放電!」

 

「なにッ!? グゥウウ!」

 

 

しかし電撃を持っていたのは2号も同じらしい。

お互い、バチバチと音を立てて光に包まれる。こうなると後は根性だ。

2号は必死に耐え、意地でも離すものかと歯を食いしばる。

 

 

「ライダーッ! 一段!」

 

 

そのまま腕を掴み、地面に叩き付けた。

 

 

「二段ッ!」

 

 

さらに背負い投げで地面にぶつける。

 

 

「三段ッ、四段ッッ!」

 

 

ビターンビターンと左右に叩きつけ、思い切り飛び上がる。

 

 

「超絶五段返しッッ!」

 

 

階段に向かって投げ飛ばされる。

手すりを破壊し、叩きつけられるアルマジロ。そのまま階段を転がり落ちていく。

その間に2号は着地し、ライダーポーズを取った。

 

 

「ライダァアアア……ッ!」

 

 

両腕を左へ伸ばし、そのまま旋回させて右へ持っていく。

右肘を投げて、拳は天をむいた。そういえば右へ旋回させると同時に、腕には赤い光が纏わりついていたか。

構えを取ったと同時に輝きは最高潮へ。

走り出す2号、しかしアルマジロもナイフを持って接近していた。

 

切りかかる。

しかし2号は体を反らして回避。だがアルマジロもそれは読んでいた。

だからもう一方の手にもったナイフを突き出してみせる。

するとどうだ。2号は右腕ではなく左腕を動かして、ナイフを弾いた。

 

 

「ッ」

 

 

ならばとアルマジロは急旋回。背中を向けるが、そこで気づいた。

肩を――、掴まれている。

 

 

「!」

 

 

2号は掴んだ肩を引きながら横へ。

気づけば、アルマジロは2号のほうを向いていた。

 

 

「パァアアアアアンチッッ!!」

 

「うごガァ――ッッ!」

 

 

腹部にめり込む2号の拳。アルマジロは凄まじい勢いで吹き飛んでいく。

 

 

「オォォオオオオオ!」

 

 

だが向こうにも意地はあるらしい。倒れず、踏みとどまったのだ。

マスクから大量の血が零れた。すぐにナイフを抜くが、そこで全身が悲鳴を上げた。

凄まじい痛みを感じ、アルマジロはナイフを落とした。

 

 

「ハァ、ハ――ッッ!!」

 

 

息が止まる。膝が、地面についた。

アルマジロは天を仰いだ。もう十分、戦い抜いたと思う。

血が流れる。アルマジロは諦めようと思った。

 

劣勢になれば心は折れ、自らのやってきたことが目の前に広がっていく。

そうすればさらに心は押しつぶされそうになる。

しかしどうしたことか、たった一つだけ、どうしても見過ごせない笑顔があった。

 

本当の――『 』だと思っていた。

なついてくれることが嬉しかった。

だから彼の夢を、どうしても、どうしても――ッ

 

 

「ォォ」

 

「!」

 

「ォオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 

あの涙は、流すべきではない。

 

 

「ズァアアアアアアアアア!!」

 

 

ブレードアルマジロは吼えた。そして立ち上がると、全速力で走り出す。

 

 

「ヅァアアアアアアアアア!!」

 

 

その想い、確かに受け取った。

2号もまた拳を握り締めると、全速力で走り出す。

その叫びはまるで泣いているようにも聞こえた。ブレードアルマジロはそのアンデンティティであるナイフを捨てて、己の拳だけで2号に襲い掛かる。

 

2号もまた回避はしなかった。ノーガードで殴りつける。

意地がある。誰だって。男も、女も、譲れないプライドがある。

殴られ、脳が揺れる、アルマジロは踏みとどまると、2号を殴った。これで終わりだ。今日で終わりだ。

 

2号もまた血を吐いた。

血がアルマジロに掛かった。その場所を殴りつけた。全てを込めて殴りあう。

 

二人の拳が交差した。

お互いは吹き飛び、地面を転がっていく。

2号が立ち上がった時には、アルマジロが立ち上がった時には、既にお互いの姿を捉えていた。

アルマジロは再び腰を落とし、背中のプレートを光らせる。

 

 

「勝って! ライダーッ!」

 

 

ルミの声が聞こえた。2号は一瞬彼女を見る。

そしてハッとしたようなリアクションを取ると、アルマジロを睨んだ。

 

 

「ハァアアア!」

 

「トォオオ!」

 

 

アルマジロは走り、飛び上がる。体を丸めて高速回転。

一方の2号も飛び上がって両脚を突き出していた。そして体を捻り、回転しながらアルマジロへぶつかっていく。

 

 

「ッ!?」

 

 

競り合い。そしてすぐに気づく。

2号が弾かれない。いや、むしろ回転数を上げて、キックの威力はさらに高まっていく。

そうしているとバキッと音がした。プレートにヒビが入ったのだ。

 

 

「ライダーッッ! 卍キィイイックッッ!!」

 

 

2号のキックがアルマジロを打ち破った。

ルミはそれを震えながら、汗を浮かべてみている。今はもうあまり口にはしていないが、一時期腐るほど口にしていた挨拶――ッ!

 

 

『イッチーおつぴこ~。マジ卍ぃ』

 

 

それを、思い出した。

 

 

「ま、マジ、(マンジ)……!」

 

 

一方、着地を決めた2号。

その視線の先で、アルマジロが唸りがら体を起こしていた。

 

 

「ハァ! ハァ! あ――ッ! アグァアッ!」

 

 

息が苦しい。アルマジロはマスクを外すと、それを思い切り投げ捨てる。

 

 

「オェ――ッ! うッ、ぐっ! ア゛ァ! ゼェ! ハァ!」

 

 

起き上がる。しかしすぐに膝が崩れた。

 

 

「こ、ここまでかッ!」

 

 

行動は一瞬だった。

彼は近くに落ちていたナイフを手に取ると、それを首へ押し当てる。

よせと2号が叫んだが、もう無駄だった。アルマジロはナイフを思い切り――

 

 

「!」

 

 

その時、ナイフの刃が割れて、落ちた。

そういえばあのナイフは、少し前にライダーチョップを受けたものだったか。

 

 

「今度は死なせないッッ!!」

 

 

2号はアルマジロを首を押さえ、押し倒す。

以前、ペガサスを死なせてしまった。だからこそ今回はそうはさせない。

 

 

「いいか! よく聞けよッ! 死ぬなんて一番情けない逃げなんだ! アンタ今まで何人殺してきたよ!? 自分を殺す覚悟があるならなッ、罪を償う覚悟を持てよッッ!!」

 

「――ッ、どうせ死刑さ」

 

「だったらその最期(とき)まで生きろよッ! アンタは、それだけのことをしたんだ! ましてやそれだけのことをしようと思ったんだろッ!? だったら僕に負けたくらいで死んでんじゃねーぞッッ! 生きろよッ! 生きろォオオオオオオオオッッ!!」

 

「ッッ」

 

「負けたから終わり? そんなちっぽけなモンのためにアンタ戦ってたのか? 違うだろうがッ! ああ、あとそうだ。貴方、親は?」

 

「……いるよ。もう随分、連絡は取ってないけど」

 

「じゃあ取れよッ! 今まで殺してきた人たちも親がいた! その人たち全てを悲しませる覚悟があったんだろ? だったら最期くらい、自分の両親とも向き合えよ! 受けてきた愛から目を逸らすなよ! それを奪ってきたんだろうガァアア!」

 

「……ッ、まいったなぁ。正論を言われると返しが困るよ」

 

 

アルマジロは深いため息をついて、両手を挙げた。

マリリンが特注の手錠を持ってきてくれたので、それをかける。

輪っかと輪っかの間がチェーンではなく、太い鉄の棒なので強引に外すことはほぼ不可能である。さらに高圧電流も流せるので、抑止にもなると。

 

 

「教えてください。どうしてこんな事を?」

 

 

2号が問うと、真白は遠い目で虚空を見た。

 

 

「別に、一つじゃない。保身もあったし、同情もあった」

 

「……っ」

 

「でも一つに絞るとするなら、僕の場合は……それこそまさに『愛』かな」

 

「愛?」

 

「そう。愛だよ。むしろそれ以外に一般人がこんな狂行は犯さないよ」

 

 

警官に支えられ、真白は立ち上がる。怯えや警戒の目を感じて、彼はフッと笑った。

 

 

「大丈夫、抵抗はしない。僕はもう折れた」

 

「………」

 

「仮面ライダー2号。僕と殴り合ってくれてありがとう。避けないでくれてありがとう」

 

「それだけの理由があったんでしょう?」

 

「本人の前じゃ、あまりにも(こく)すぎるから言えなかったけど、どうか彼を止めてくれ。僕では彼を救えなかった」

 

「彼――、良神院長ですか?」

 

「いや、路希くんだ」

 

「確か、院長のお孫さん」

 

「そうだよ。全ては彼のためだ。でも――……やっぱり間違ってるよな、こんなこと。今更だって? ごめんね。でもキミに負けてみて改めて思ったんだ」

 

 

そこで真白は、何があったのかを説明した。

全て。そう、全てだ。それを言い終わって真白は運ばれていった。2号は拳を強く握り締めた。

そうすると、テレパシーで連絡が入る。エックスからだ。

 

 

『市原先輩どこいるのーッ!? 早く来てーッ! コイツ強すぎッッ!!』

 

 

2号は場所を把握。すぐに動きだす。

 

 

「立木さんたちは外で待機お願いします」

 

「お、おう! 言われなくても見守ってるぜ!」

 

 

そこでルミの後ろにいた瑠姫が手を上げる。

 

 

「あ、あの隼世さん。岳葉くんは……?」

 

「ああ。大丈夫ッ、死なせはしないさ」

 

 

それに彼も仮面ライダーだ。2号は走りだし、中庭から地下に向かう。

何が起こっているのかはすぐに分かった。アマゾン、V3、エックスが地面に倒れている。そして今まさに目の前で1号が切り伏せられた。

 

 

「僕が相手だ!」

 

 

殴りかかる。

しかし斬月は盾でしっかりとパンチをガード。次いで伸びた拳も全て受け止めてみせる。

そしてシールドバッシュ。大きな盾を前に、2号は防御するしかない。

 

しかしこれがまた強くて、重い。

2号が押し出されると同時に斬月は盾から手を離して、体を捻りながら後ろへ下がっていった。

もちろん既に腕は無双セイバーに伸びている。レバーを引いて光弾をセットすると、銃弾を連射、光球が次々と2号へ命中していく。

 

2号は一応とガードしてみたが、それが囮だとすぐに気づく。

弾丸に気を取られている隙に、斬月は高速移動で2号の背後に回っていた。

しまった。そう思ったときには斬られていた。そしてそのパワーだ。剣で斬られると、体が浮き上がり、地面に倒れる。

 

2号は近くにあった斬月の足首を掴んでみた。

そしてグッと力を込めて倒そうとするがビクともしない。

そうしていると手首に無双セイバーが刺さった。

苦痛の声が漏れる。貫通はしていないが、肉体は侵食している。血が出てきたし、それで力が緩んで足首から手を離してしまった。

自由になった斬月は2号を思い切り蹴り飛ばすと、壁に叩きつける。

 

 

「ッ!」

 

 

2号はそこで巨大な肉塊に気づく。

そしてそこに埋め込まれている珠菜も。

 

 

「あれは――ッ!」

 

「十面鬼。おッ、お、おじいちゃんの……、きッ! 夢の、結晶……」

 

 

かつて肛門と口をくっつけた映画を見て、衝撃を受けた男が、どうすればあれを超えられるかと模索した結果の作品だった。

珠菜の周りにありったけの人間の死体をくっつけて、球体にまとめたあと、その周りに9人の頭部を埋め込む。顔が見えるように。

 

 

「キミはそれを素晴らしいと思うか?」

 

「カッッ!? さ、さあ。ボクには、よ、よく、分からないッ! けッッ、けど……!」

 

 

その喋り方は、どこか岳葉と似ているものがあった。

しかし殺意は鋭利にして俊敏だ。斬月は一瞬で2号の前にくると、肩から腰にかけて一閃。

反撃の拳を見たときには既に背後にて一撃。

 

2号は勘で動きを予想して回し蹴りを繰り出してみるが既に距離を取って光弾を連射。

動きが鈍ったところを一撃。振り向きざまに一撃。バックステップで裏拳を回避して突き。追撃の斬撃を三回。

 

2号が跳んだのを見てから銃撃で墜落させる。

1号たちも立ち上がり、斬月を狙うが、そこで落ちていた盾を拾い、投げた。

斬月の周りを旋回する盾は、1号たちをなぎ倒しながら飛行する。

 

 

「た、頼む――ッ!」

 

「え?」

 

 

皆、倒れている中、V3が呟いた。

 

 

「珠菜ちゃんは……、助けてくれ。なんでもする。靴も舐めるし、土下座もする。だから……」

 

 

斬月は首を振った。

 

 

「そ、それは――……、できない! だって彼女が一番ッ、お気に入りらしいから」

 

「ッッ」

 

「愛さえも知らぬ無垢」

 

 

そこに何か大きな闇を感じた。

だからだろうか? 1号は立ち上がると、うめき声をあげて逃げ出した。

 

斬月は一瞬反応を示したが、特に追いかける理由はなかった。

それは周りも同じだ。特に止めないし、今はやるべきことがある。

V3は斬月に懇願した。なんでもするから、珠菜を助けて欲しい。

 

 

「だ、だからッ、できない。そもそも彼女は――ッッ! が、癌で、もうすぐ死ぬ。ぼ、ボクらの行動が延命に繋がるだけで、助けては、す、すぐに死ぬ」

 

 

そう語る斬月。一方で1号はすぐ傍にいた。

彼は逃げてはいなかった。たどり着いたのは、キングオブ・ダークネスだ。

1号は良神の変化を見ていた。情けない話だが、斬月に勝てる気がしなかった。

 

だからこそ手っ取り早い強化を求める。

近くにあった注射器をチューブに繋ぎ、スイッチを入れると緑色の液体が満たされていく。

1号はそれを取ると、変身を解除する。

 

 

「――ッ!」

 

 

首に刺す。

そう思ったときだ。腕を掴まれた。

 

 

「いい。それは、しなくていい」

 

「隼世……ッ!」

 

「僕たちの道は、そこには無いんだ」

 

 

2号はそう言って戻っていった。

斬月は2号を追いかけることもしなかった。

エックスたちが向かってきたら適当に斬って、後は何もしてこない。それは彼なりの優しさか。あるいは興味がないのか。

 

まあそれはどうでもいい。

2号は大きなため息をついた。そうなるのか。そうなってしまうのか。

それは全て自分のミスだ。エックスたちが傷つくのも、1号があんなことをしようとしたのも、全て自分のせいだと2号は思った。

 

もっと強ければ――……。もっと神に近ければ。

でもそれは駄目だ。太陽に近づきすぎたイカロスは、翼が溶けてしまい、地面に落ちて死んだ。

2号は拳を握り締める。その力は強すぎて、血が出てきた。

 

ずっと憧れてきた力なんだ。

なのに、なんでこうなる。なんでココまで――ッッ!

それが堪らなく悔しかった。

 

 

「なあ、路希くん」

 

 

ピクリと斬月が反応した。

エックスもそうだ。声で分かってはいたが、改めて中身が路希であることを知る。

 

ずっと気になっていたことがある。

ブレードアルマジロやガトリングパイソン、あるいはガイジたちは、おそらく微量のクロスオブファイアを所持しているかもしれないが、その力の源はキングオブダークネスによるナノロボットだ。

 

しかし斬月だけは違う。

彼はライダー、つまりクロスオブファイアを所持している。

カテゴリでいうなら隼世たちと同じなのだ。

 

つまり、それだけ強い想いがある。

今まではそれがライダーの力を高めてくれた。

それが自分たちをライダーにしてくれた。強い願いが、ライダーであり続ける理由になった。

 

 

「でもそれは……、夢なんだよ。一時だけの夢」

 

 

もう十分だった。もうたくさんだった。ライダーごっこは。

 

 

「路希くん。もう終わりにしないか? 僕たちがライダーになったのは、ただの……、偶然なんだ。たまたま少しだけ不思議なことが起こっただけで、僕たちはそういうものを手にしていい世界には住んでいないんだよ」

 

 

強い願いがある人間は山ほどいる。

でもその人たちは、あの手この手で頑張って、どうにかこうにか叶えようと頑張っている。

もちろん中には駄目になってしまう人もたくさんいるが、みんな妥協して生きていく。それが悲しくも、ある意味新しい未来に向かって歩いていけるルールなんだ。

そういう星で生きているんだ。

 

 

「なあ、他人を傷つけてまで、ライダーであろうとする心は赦されると思うか?」

 

「……よせ」

 

「真白さんから、全部聞いた」

 

「やめろ」

 

「路希くん。ハッキリ言おうか? キミは間違ってる。そんなことを――」

 

 

斬月は2号の胴体を切断して殺そうと強く思った。

だからカッティングブレードを倒し、武器を強化した状態で抜き胴を行う。

全力を込めた。しかし2号とてライダーだ。しかも今までクロスオブファイアを体内に入れてきた市原隼世だ。刃は胴体に入ったが、切断まではいかない。

 

まあ、とはいえ。斬月が通り過ぎたとき、2号の変身が解除される。

隼世の胴体には赤い線が一本、しっかりと刻まれていた。

血が流れる。隼世は掌にベットリとついた赤い血を見て、少しだけ安心したように微笑んだ。

 

ならばもっと血を見せてあげよう。

神様はそう思ったのかもしれない。斬月は刀と盾を捨てて隼世に殴りかかった。

どうにも、ムカっ腹の立つことがあったに違いない。斬月は隼世を全力で殴った。

 

頬に拳を受ける。

クロスオブファイアの恩恵があるとはいえ、きっとどこかの骨は砕けた。事実、青くなって腫れ上がる。

隼世はさらに傷口に手を突っ込まれ、強引に広げられた。

痛みで叫ぶ。だがそれでも、隼世はまっすぐに斬月を睨んでいた。

汚職、公害、詐欺、強姦、猟奇、傷害、殺人……。

 

 

(この世には、救えないことが多すぎる)

 

 

だからヒーローを望んだ。ライダーを望んだ。

でもそれが大きすぎる過ちだと気づいた。たとえ隼世が呼び寄せたじゃないにせよ、もっと早く終わりにするべきだった。

 

 

「お前は、悪だ」

 

 

斬月は拳を止めた。おそらく、その時の隼世の目を一生忘れることはないだろう。

気づけば後ろに跳んでいた。圧倒的有利な男が退避を選んだのは、それだけ隼世という男に『危険性』を感じたからである。

 

というよりも、きっと彼女(・・・)が理解した。

市原隼世という男は唯一、『奴等』と同じ匂いを出してくる。

あまりにも危険な男であると。

 

 

「な、な、なにッ、なッ、何者ッ!?」

 

 

斬月の問いかけに、隼世は真面目に答えた。

 

 

「柔道六段、空手五段」

 

 

ちなみにそれは、立木。

 

 

「――に、ボコボコにされながら鍛えられた男」

 

 

隼世は構え、斬月をまっすぐに睨んだ。

頬が腫れて、それは醜い顔だったが、その目はギラリと輝いている。

 

 

「人間――、市原隼世」

 

 

人間であると。それは、みんな。

だから全ての夢は終わりにするべきだ。

全ての炎に、決着を。

 

 

「今日で仮面ライダーを終わらせる」

 

 

テレパシーが使えるからだろうか。隼世の考えを読み取ってくれた男がいた。

本間岳葉は、隼世の隣に並び立ち、ベルトを出現させる。

 

 

「炎が弱まれば……、薪をくべればいい。新しい炎を移せばいい」

 

 

二つの炎が合わされば、前よりも強い火力が出るだろう。

二人は頷き、同時にポーズを取った。岳葉は左腕を右上に伸ばし、隼世は両腕を右へ伸ばす。

隼世の怪我が、急激に治っていく。

 

 

「ライダー……ッ!」

 

 

腕を大きく旋回させると、グラララランと音が鳴った。

 

 

「変身ッ!」

 

「変身!!」

 

 

グォンと突き伸ばす腕。ゴゥンと振り下ろす肘。

ヒュィィイン、キィイイン、ベルトの風車が回転して光のスパークが巻き起こる。

激しく回転する風車。凄まじい烈風が巻き起こる。

まさにそれはサイクロン、そしてその中央に立っていたのは二人の戦士だ。

 

仮面ライダー1号。

そして――、仮面ライダー2号。

 

変更点はやはりマスクであろう。

両者、色がライトグリーンに変わっており、見た目もソックリである。

唯一違うのはラインが1号は二本、2号は一本。そして手袋の色が、1号は銀色、2号は赤色だということだ。

色が変わっただけと言えばそうなのだが、仮面ライダーという作品においてそれが何を意味しているのかは斬月とて十分に理解している。

 

彼は、仮面ライダーが好きだった。

 

だからこそ盾を思い切りなげた。

するとどうだ。1号は右手で、2号は左手で間にとんできた盾をガッチリと掴んだではないか。

テレパシーがあるから、脳内でタイミングを合わせる。

 

1号と2号は同時に手を前に出して盾を投げ返した。

高速のフリスビー、斬月はそれを跳んで回避した。同時に剣を振り上げてはいたが、そこで衝撃。

見れば2号が1号の腕を掴んだかと思うと、そのままぶん回してみせたのだ。

 

まるでそれは人型の武器だ。

1号は脚を伸ばしており、強引なキックが斬月を弾き飛ばす。

もちろんこれは既にテレパシーで把握していた動き。1号が着地すると、同じように2号を振り回す。

 

今度は腕を放した。

2号は投げられた勢いのまま、壁に叩きつけられていた斬月に足裏を叩き込む。

2号が跳ねた。そのまま着地。そしてすぐに斬月を引き起こすと、腹に二発拳を打ち込み、フックで顔面を揺らしてから、再び自分のほうを見た斬月の顎をアッパーで打つ。

 

 

「ウゥウッ!」

 

 

フラつく斬月だが、首を大きく振って意識を覚醒させると、高速移動を開始。

すばやく2号の背後に回りこむ。そしてそれはフェイクだ。

本命は右に回りこんでの切り払い。

 

 

「!?」

 

 

しかし、そこで斬月はしっかりと見た。

自分の動きに合わせて、首を動かしている2号を。

 

 

「ライダー!」

 

 

2号は斬月の両肩を掴み、捻りを加えて投げ飛ばす。

 

 

「きりもみシュート!」

 

「うぅうう゛ッ、げぇ!」

 

 

激しく回転しながら地面に叩きつけらる。

視界がゆれる。吐き気を堪えて斬月は立ち上がった。

背後に気配。振り向きざまに剣を振るい、1号を狙った。

 

 

「!」

 

 

1号は腕でしっかりと剣をガードしていた。

斬月が力を込めても、刃がそれ以上進む気配はない。

やはり色が変わっただけでも、その中身は大きく変化している。

 

1号は剣をたぐりよせるようにして脇で挟んだ。

斬月が力を込めても、剣は引き抜けない。斬月は悔しげに腕を引いたり、逆に押してみたり。

そうしている間に、1号はグッと脚に力を込めて、思い切り体を捻った。

 

回転する1号。

柄を掴んでいた斬月は、釣られて移動する。

あまりにも早い回転に、身が持っていかれた。

 

その姿は隙だらけだ。

1号が掌を前に出すと、掌底で斬月はよろけ、離れていく。

 

1号は脇を開いて無双セイバーを落とすと、全速力で走り出す。

スピードに乗せたパンチ。斬月がそれを防ぐが、続いて繰り出す連打はそうもいかなかった。

まさしくただ連続で両方の拳を前に出すめちゃくちゃなパンチだ。

 

しかし1号の力が十分な脅威にしてくれる。

斬月は拳を掴もうとするが、掴まれても思い切り引けば、簡単にすっぽぬけた。

 

不安定なライダーバトル。

いつか隼世が言っていた。自分たちは全て、クロスオブファイアによって決まるのだと。

力も、想いも、答えも。1号は踏み込み、斬月の腕とベルトを掴んだ。

体を捻り、投げ飛ばす。ライダーきりもみシュートにて、斬月が2号のほうへ飛んでいく。

 

 

「ライダーパンチッ!」

 

 

さらに浮かせる。

 

 

「ライダーチョップ!」

 

 

叩き落す。衝撃が強く、さらに斬月の体が浮き上がる。

ノックするように叩き、踏み込んで思い切り殴り飛ばす。

 

 

「ライダーツインパンチ!」

 

 

滑る斬月。その隙に1号と2号は再び並び立つ。

一方で飛来する盾。斬月はそれを手にして立ち上がる。

 

 

「ウラァアア!」

 

 

叫び、盾を投げた。

すると1号と2号は軽くジャンプし、互いの足裏を蹴る。

それで勢いがついて左右に跳躍。盾は真ん中を通り抜けていく。

しかし既に斬月は動いていた。狙うのは2号だ。一瞬で盾が戻ってきて、シールドバッシュで前に出る。

 

 

「ライダーッ!」

 

 

2号はすばやく両手を左に伸ばし、旋回させて右腕にパワーを溜めた。

 

 

「パンチッッ!!」

 

 

今まではビクともしなかった盾。

しかし全ては今だ。2号の赤い拳が、メロンの盾を粉々に打ち破り、斬月の胸に届く。

 

 

「うあぁぁああ!」

 

 

上ずった声をあげて、斬月が地面を滑っていく。

一方で2号と1号は再び並び立ち、頷きあう。

 

 

「――ゥ! ッッ!!」

 

 

斬月が立ち上がったとき、空中に2号と1号の姿があった。

 

 

「「ライダーッッ!」」

 

 

二人の声が重なる。

1号は右足をまっすぐ伸ばし、2号は左足を上のほうへ伸ばした。

まずいッ! 斬月が動こうとするが、そこで激しい抵抗感。見ればエックスがライドルロープで脚を縛っている。

 

 

「「ダブルキィーック!!」」

 

「ウッグガア! ァァアォウゥェエ!」

 

 

斬月の胸に突き刺さる銀と紅。

手足をバタつかせながら反転。斬月はそのまま地面に激突すると、装甲がバラバラになって変身が解除される。

 

 

「ガァアッ! ウァアァゥツヅ……! ゲェエエエ!!」

 

 

路希は嘔吐すると、震える手に必死に力を込めて立ち上がった。

そのままフラつく足で前に出る。1号も、2号も、どうしていいか分からなかった。

なぜならば2号は知っている。1号も、すばやくテレパシーにて事情を把握した。

 

全てではないが、一部だとしても分かる。

岳葉は簡単にライダーになった。しかし斬月は違う。

だから何と声をかけていいのか分からなかった。一度は『斬月(ライダー)を殺す』と決めた隼世でさえも。

 

が、しかし、決めた以上は終わらせなければならない。

2号は路希の腕を掴んだ。

 

 

「触るなッッ!!」

 

 

弾かれた。

その勢いでフードで隠していた顔が露になった。

衝撃でマスクもちぎれ落ち、サングラスも割れているため、正真正銘『良神路希』がそこにいた。

 

彼の顔を見た瞬間、エックスは言葉を止めた。アマゾンとV3でさえ固まった。

路希は左右の瞳の色が違った。そして顔には無数の傷痕、正確には縫った痕が確認できる。

そしてその境目からは『肌の色』が違っていた。

 

耳の形が左右、違っていた。

彼は大きく手を振って何かを掴むようなアクションを取った。

そこで気づく。手にも沢山の傷があった。指の色が違う。長さが違う。

 

 

「まさか――ッ、そんな……!」

 

 

エックスが震えた声で呟く。

一方で路希は珠菜のほうへ向かっていく。

流石にマズイ、2号が止めようと腕を伸ばしたとき、凄まじい痛みと衝撃が全身を包んだ。

 

 

「うグ――ッ!」

 

 

2号だけじゃない。他のライダーたちも再び地面に倒れた。

それを――、見た瞬間。2号の中に感じたことのない怒りが生まれた。

ただひたすらに強く、拳を握り締め、歯を食いしばる。

 

 

「満足か?」

 

 

小声で呟いた。斬月には聞いてほしくない。

 

 

「お前が全て……、狂わせた――ッ! なんの罪もない人たちを利用したんだッッ!!」

 

 

思い切り地面を殴りつける。

そして斬月の上に浮かぶ『女』を見た。

 

 

「そうだろ! なあ――ッ!」

 

 

その女もまた、果てしのない憎悪を瞳に乗せて2号を見下していた。

 

 

「Chiharuッッ!!」

 

 

 






tips【カルテ】


・ピッケル鮫肌おじさん

受診内容は『肌荒れを治したい』
逆に硬質化させ、紙やすりのようにすることで、立派な鮫肌を獲得。
同じく脳改造を実行。柔らかいものを破壊する快楽を覚えることで、女性の肌をピッケルで貫く快楽に目覚めた。
まあもともと危ない思想ではあった。


・亀頭バズーカー

受診内容は『勃起不全』
睾丸にナノロボットを注入し、性器周りを改造。
精子製造スピードと高圧プレッサー並みの射精に耐えうるペニスを獲得した。
性的興奮を覚えると、精子が急激に作られ、液体がすぐに睾丸貯蓄量を超えてしまうため、早急に射精しなければ死亡する。
それが逆に定期的な射精を促すかと思われたが、やはりリジェクションの域を脱することはできず、今後の課題となる。


・剃刀人手

受診内容は『ハンドケア』
両腕に鉄製の刃物を埋め込んだ。この刃物は時間と共に体外に排出されようとするため、時間と共に激痛が襲う。
柔らかいものを切れば刃物は再び肉体に埋め込まれていくため、定期的な傷害行為が必要となる。
この時点ではナノロボットの形状記憶機能を理解しておらず、実際の刃物を使用していた。
脳改造においても、良神クリニックの記憶を消して新たなる快楽の獲得を目的として設定してはみたが、理性との両立が不可能であり、今後の課題となる。


・仮面ライダーケツアナおじさん

最初期の作品。受診内容は『気になっている人にコスメグッズを買いに来た』
声帯と脳改造を施せば特定の単語しか言えない人間を作ることは難しくは無かった。
手術痕も上手く隠せたし、文字を書くという機能も脳から排除したので、誰かが気づかない限りは一生ケツアナしか言えずに死んでいくことになる。

しかし……、文字を書けず、何を聞いてもケツアナしか喋れない男に手を差し伸べる人間がこの時代にいるのだろうか?
いるとして、それは優しさか? 慈愛か? 自己犠牲か?
はたまた一種の狂気なのか。ワシの純粋な疑問である。


・エジャンガイジ

ケツアナおじさんの前に作った。
この時は声帯を弄らず、『絵じゃん』以外の単語を口にしようとすると、喉が激しい炎症を起こして激痛と高熱が出るようにした。
これからの自分の人生を受け入れられなかったのか、気づけば自分で命を断っていた。
すぐ死んだので、おそらく知っている人はいないと思う。
やはり作品は多くの人の目に触れて欲しい。これは今後の脳改造の課題となる。


・ハサミ豹柄

受診内容は『整形』。
ナノロボット技術の把握により、肉体の一部を指定した物体に『変身』させることができるようになった。
これにより両腕をハサミにしたままではなく、使用者の意思で自在に形状を変更できるようになる。
とはいえ脳改造が失敗。常にハサミにしたままで、アイドルたちと握手をしにいったらしい。
ちなみに、いくら顔を変えようが、中身が駄目だといつまでも駄目なままなのじゃ。


・ノコギリトカゲ面

受診内容は『整形』
ナノロボットに針を記憶させれば、何かあったときに針を巨大化させることで遠隔で殺害することができるということを把握。
この患者に関しては、脳改造の向上を目的に手術を実行。
アシスタントだけではなく、良神クリニックが無関係であるということを警察やライダーたちに記憶させる役割の遂行。
報告によればハーモニーガイジとやらは我々が一切関係していない患者のため(ハーモニーガイジという呼び名はトカゲ面が勝手に呼んだだけ)、全く別の人間が手術を行ったか、本物のキ●●イである。


・イカクセーファイアー

受診内容は『包茎手術依頼』
精液を可燃性の液体に変えた。
これが上手くいけば、血液を可燃性にして、人間爆弾を作ることが可能である。


・アポロキチガイスト

話があると呼び出した。彼は親友なのですぐに来てくれた。
そこを薬で眠らせ、あとは脳改造とナノロボットによる改造手術を施した。
目的は秘密結社ガイジという架空の存在をつくり、警察の捜査から良神クリニックを外させること。
つかパンツを被るなんて、異常者のやることだ。そんなヤツと友達だと思われたくない。


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