仮面ライダー 虚栄のプラナリア   作:ホシボシ

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第4話 腐敗するピクシー

 

山路(やまじ)大栖(だいす)は物心ついた時から養護施設で暮らしていた。

裏山に捨てられていたらしく、同じ境遇の仲間たちや指導員はいい人たちばかりだったので、それなりに楽しく過ごしていた。

 

養護施設は山の中にあり、週に一度はバスで山を降りて町に行く時間があった。

山路はバスに乗るのが好きだった。友達に頼んで、いつも窓際にしてもらった。

景色を見るのが好きだったのだ。ある日、山路は道に赤い塊が落ちているのに気づいた。狸が車に引かれて死んでいたようだが、山路は不思議とその死体に目を奪われた。

 

綺麗な赤だった。木々の緑に赤がよく映える。以前テレビで見たが、色を組み合わせるのがファッションらしい。

ははあ、そうかと山路は思った。以来、彼は緑色の服を着るときは常に赤い何かを組み合わせることにした。

緑と赤は合う。そして、それだけではない何かが山路の中にあった。

しかしそれが何かは分からず、山路はお出かけの日を楽しみにしていた。

 

 

「やまじくん。おちんちんおさえて、どうしたの?」

 

 

隣に座っていた女の子が笑った。

よく分からないと山路は答えた。猿の死骸を見たとき、山路は確かに勃起していた。

 

 

山路は人の名前を覚えるのが苦手だった。顔も似たように感じるし、名前はたくさんあって複雑だ。

しかし動物は好きだったので、微かな特徴を見つけては周りをあだ名で呼んでいた。

ある日、山路はカラスちゃんが落ち込んでいるのに気づいた。カラスちゃんとはいつも黒い服を着ている女の子だ。

バスでもよく隣になっていた、あの子である。

 

カラスちゃんは、どうやらこれからヤモリ先生に怒られるらしい。

足の速いイノシシ君と、体の大きな雄牛くんと遊んでいたら、園長先生が大切にしていた花瓶を割ってしまったらしい。

 

みんな、ヤモリ先生が嫌いだった。彼はすぐに怒るし、怒ると長いし、酷いことを言われたり叩かれたりする子も多かった。

山路もヤモリ先生のことは嫌いだったが、彼はなんだか良い匂いもしたので皆が言うほど嫌いではなかった。

ヤモリ先生もそれを何となく感じたのか、お酒を飲んだ日は優しいときもあった。

 

そういえば、前にカラスちゃんが山路のおちんちんについて触れたが、ヤモリ先生も同じようになっている時があった。

山路はそれを思い出しながら、カラスちゃんたちがどうなるのか心配だったので、説教部屋に先回りして棚の中に隠れた。

ほどなくしてヤモリ先生と、カラスちゃんたち三人がやって来た。

いつものようにヤモリ先生は激しく怒った。怒鳴り、女の子であったとしてもおかまいなしに頬を叩いた。

そこで山路は、ヤモリ先生が勃起しているのに気づいていた。

 

 

前から気づいていたので、一緒にお風呂に入ったときに聞いてみた。

ねえ先生、どうして皆を怒っているときに、おちんちんが大きくなるの?

それはね、先生がそういう人間だからだよ。みんなに酷いことを言ったり、みんなを叩いたり、うーん、特に女の子をかな。とにかくそうするとね、気分がよくなっておちんちんが大きくなるんだ。

 

確かにカラスちゃんを叩くときは、男の子を叩くよりも楽しそうだった。

しかしカラスちゃんや雄牛くんは泣いていたけれど、イノシシくんは違っていた。キッとヤモリ先生を睨みつけていた。

だからヤモリ先生もついつい意地悪になってしまう。

彼はイノシシくんのお母さんの悪口を言い始めた。いつまで経っても迎えに来ないのは、お母さんがうそつきだからだ。臭いバイシュンフ。指導員の一人とヤッてるなどなど。

山路には何を言っているのかサッパリ分からなかったが、イノシシくんは皆よりも大きかったので、意味をなんとなく理解したようだ。

 

イノシシくんはナイフを取りだして、ヤモリ先生に襲い掛かった。

しばらく取っ組み合いが続く。しかしヤモリ先生は大人だ。イノシシくんからナイフを奪うと、凄く怒鳴り始めた。

よく分からないが、襲ってきたことがどうしても許せないらしい。

その時だった。ヤモリ先生から凄く良い匂いがした。

 

気づけば山路は棚から飛び出していた。山路もヤモリ先生が嫌いだった。

山路もお母さんのことを悪く言うヤツは嫌いだった。山路は自分のお母さんを覚えてはいないけど、夢で見た。

クラゲお母さんは、ゆらゆらと綺麗に輝いて、白い翼が生えていた。

山路はクラゲお母さんのことがすきだった。

気づけば、山路はヤモリ先生にしがみついていた。そうしているとイノシシくんはナイフを奪い返し、ヤモリ先生のお腹を刺した。

 

一回刺した。赤い血が出た。

二回刺した。イノシシくんから良い匂いがした。

三回刺した。山路は勃起していた。

 

ヤモリ先生は倒れた。イノシシくんは何かを叫びながら部屋から出て行った。

カラスちゃんは泣いていた。雄牛くんは気絶していた。

山路はナイフを拾い上げ、ヤモリ先生の喉を刺した。

赤い血が出てきた。山路は何かを感じていた。

 

そうだ。ちんちんを切りたい。

強くそう思って、ヤモリ先生の服を脱がそうとした。

ヤモリ先生は呻きながらもがき苦しんでいた。ちんちんはしょんぼりしていた。山路は残念だと思った。

思ったが、一応切り取ってみた。

 

なんだか凄く楽しかった!

次は頬を刺した。骨に当たってうまく刺さらなかった。

なので次は肩を刺した。胸を刺した。足を刺して、そのままナイフを動かしてみた。何かに突っかかった。ナイフを抜いてお腹に刺した。

おしっこが出る! 山路は驚いてナイフを投げ捨てた。

おしっこは出なかった。

そうしていると指導員の人たちがやって来て、悲鳴をあげた。

指導員に連れてこられたイノシシくんは惨殺されたヤモリ先生の死体を見て、少し驚いた顔をしていたが、全て自分がやったと言ってくれた。

施設を出て行くことになったのだが、その時に小声で言われた。

 

 

「山路。ありがとな。おかげでスカッとした」

 

 

よく分からないが、山路はありがとうと言われるのが好きだったので嬉しかった。

立ち尽くしていると、カラスちゃんが近寄ってきた。

 

 

「わたしも秘密にしておくね」

 

 

さらに続けて。

 

 

「もう先生いないからひどいことされないんだって。みんなよろこんでたよ。やまじくんのおかげだね。わたしもうれしい。ありがとう」

 

 

山路は照れたように笑った。

 

 

「やまじくんはみんなのヒーローだね」

 

 

今まで生きてきて一番嬉しい言葉であった。

山路は施設のテレビでずっと仮面ライダーを見ていた。自分も皆を守れるヒーローになったのだと気分が良くなった。

その後、施設の評判が悪くなり、経営が上手くいかなくなったとかで皆はバラバラになった。山路は新しい施設で平和に暮らした。

 

中学生になるとインターネットが使えるようになったので、山路はいろいろ調べた。

ハリネズミくんは頭が良かったので、検索ロックをはずしてくれて、好きなページを調べることができた。

友達はみんなエッチなサイトを見ていたが、山路は動画サイトで映画を見るほうが好きだった。

 

山路はホラーが好きだった。特にスプラッターには何か特別な魅力を感じた。

あるとき、映画でネクロフィリアという単語が出てきて、山路はそれを検索した。

どうやら死体に興奮したり、死体とセックスをする人間のことをいうらしい。

山路はなるほどと思った。自分がそうだ。

 

しかし確かに死体には興奮するが、それだけではないように思えた。

なぜならホラーやスプラッターは『面白い』から好きなのであって性的なものは欠片も感じなかったからだ。

ネットで本物らしい死体画像を見ても同じ感想だった。別にセックスがしたいとは欠片も思わなかった。

 

ある日、施設に新しい仲間がやってきた。人を殺して、少年院から戻ってきたらしい。山路は彼をウルフくんと名づけた。

ウルフくんは孤高だった。みんなは人殺しのウルフくんを怖がり、ウルフくんもそれを持ち出して威張っていた。

山路はウルフくんが嫌いではなかった。彼は良い匂いがした。

ある日、ウルフくんがブタくんを殴っているのを見つけた。ブタくんは何もしていないのにと泣いていた。

ウルフくんはアイツみたいにお前も殺してやろうかと怒鳴っていた。ウルフくんお決まりの脅し文句らしい。

別の日には、ハリネズミくんが目に青痣を作っていた。

ウルフくんは怒られていたが、うるせぇと怒鳴り、反省する様子はなかった。

 

山路はそこでヤモリ先生のことを思い出した。

すっかり忘れていたが、そこで山路は何か大きな感情が湧き上がるのを感じていた。

 

夜。

個室でぐっすり眠っているウルフくんの足をガムテーブで縛った。口も塞いだ。

シチューに混ぜた睡眠導入剤が効いたのだろう。山路は持ってきたハサミで彼のアキレス腱を切った。

もう一つも素早く切った。適当ではあったが、何となく上手くいったらしい。ウルフくんは起き上がり、暴れたが、弱弱しいものだった。

良い匂いがした。山路は工具箱にあった錐で、ウルフくんの右目を思い切り突いた。

すぐに叫び声がしたが、ガムテープで口を塞いでいるので音量はたいしたものではなかった。

山路は左目も突いた。抵抗に目を閉じていたのだが、強引に何度も突いた。

 

やがてウルフくんの目にポッカリと穴が開いた。

口にあったガムテープを取ると、彼はしきりに助けを求めた。

山路は勃起していた。そしてそれはかつてない性的な衝動だった。目にあいた穴に指を入れると、キュンキュン締め付けてくる気がした。

 

なんだかとてもウルフくんが可愛く見えた。

あれだけ強く、威張っていたのに、今は情けなく泣いている。とても愛おしいように感じた。

 

山路はもう我慢できなかった。

ハリネズミくんと一緒に見たAVを思い出し、見よう見まねで自分の性器をウルフくんに入れた。

場所はよく分からないが、お尻に一つだけ穴があったので、そこにした。

上手く入らなかったし、病気になるかもしれないと思ったが、止められなかった。

山路は自分のことを理解した。ウルフくんは酷い人だ。お金が欲しいからという理由で人を殺し、反省もしていなかった。そして施設の皆をいじめた。

 

きっと彼は自分が強いと思っていたのだ。自分が正しいと思っていたのだ。

 

それをグチャグチャにして壊す感覚がたまらなかった。

それにきっと彼が死ぬと皆は喜ぶ。そういう人間を俺は壊しているのだ。そう思うと興奮が止まらなかった。

山路は持っていたハサミをウルフくんの喉に突き刺した。同時に射精もした。

山路はすぐに逃げた。そして便と血と精液で汚れた性器を見て、ニヤリと笑った。

自分が分かった気がして嬉しかった。ずっと自分の中にたまっていた大きなものを吐き出せた気がして、本当に嬉しかった。

 

山路はそれから3人殺した。

山路には才能があった。それは殺人鬼、あるいはこれから大きな犯罪を行おうとするものを感じることができた。

彼らは匂いが他とは違う。凄くエッチで、美味しそうな匂いを発するのだ。

 

しかし四人目の殺人で山路はミスを犯した。

ターゲットは見るからにガラの悪い男であった。金髪でタトゥーをいれ、山路は彼から凄くエッチな匂いを感じ取っていた。

これはよく暴力を振るう者が発する匂いだ。

 

山路は彼をつけ、廃工場に入ったところでアクションに出た。

ハンマーで襲い掛かり、良い感じになったところでアキレス腱を切るか、足を骨折させるか。

しかし今回はイレギュラーがあった。それは犯人に仲間がいたということだ。

山路は後ろから鉄パイプで殴られ、地面に倒れた。

 

山路の殺人は勢いがあるだけで、技術面は皆無だ。

一方で向こうは麻薬をやりとりする者たちのようで、多少なりとも場数は踏んでいたようだ。

山路は四人くらいに囲まれ、殴られ、蹴られ、鉄パイプで打たれた。

 

骨が折れた気がした。耳鳴りが酷い。血が出てきた。

山路は死を覚悟した。するとお母さんが見えた。透明で、ユラユラして、虹色に輝くクラゲのお母さん。

みんながいた。友達が沢山いた。動物だらけだった。

楽園だ。緑が生い茂り、これは――、はて? なんだったか? 似たような景色をテレビで見た。

あれは、たしか、こういう名前だった。

 

 

「――アマゾン」

 

 

気づけば、山路の周りには死体が転がっていた。

四人だったはずなのに二十個ほどになっていた。仮面ライダーアマゾンはスーツの中で射精していた。

今までの人生で一番濃いのが出たと思う。激しい疲労感と達成感を覚え、変身が解除されて気絶してしまった。

 

 

 

目を開けると、彼は病院の中にいた。

以前から目をつけられていたらしい。証拠もあったみたいで、山路は殺人犯として捕まった。

少年院の中はまるでラブホテルだ。エッチな雰囲気の場所で、山路は嬉しくなった。

そしてそこで過ごす中で、山路は自分が仮面ライダーになれたのだと確信した。

 

魂の炎が全てを教えてくれた。

そもそも仮面ライダーアマゾンは施設にあった仮面ライダーの本で知っていた。

それだけじゃない、山路は他にもおまけを持っていた。だからそれをあげる人をずっと探していた。

そして見つけた。良い匂いだけど、お友達で、殺したくない人を。

 

 

「トンボくん。これあげる」

 

 

トンボくんはいろいろな人のペットを攫ってはバラバラにしてた罪で少年院にやってきた。

彼もホラーやスプラッターが大好きらしくて、山路が見た映画はほとんど知っていたので、話がとにかく盛り上がった。

 

 

「モグラくん。これ使ってよ」

 

 

モグラくんは頭が良く、爆弾を作って同級生の顔面を吹っ飛ばしたらしい。

彼は優しい人なのだと思う。他の人と比べて匂いが少なかったから。それにご飯のプリンをくれた。

山路は別にプリンが好きじゃなかったが、嬉しいは嬉しいのでお友達だと思った。

とにかく、山路は自分のことを包み隠さず教えた。実際に変身してみせれば二人はすぐに山路を信じたし、興味を持ってくれた。

 

山路はもっと大きな快楽を得るために仲間が欲しかったのだ。

仮面ライダーの力があれば脱走は簡単だった。そして街中で、最後の一人に声をかける。

 

 

「私は奉仕に努めてきました。得た収入7割以上を寄付に費やし、チャリティー番組は欠かさず見ているし、募金を欠かしたことはないし、必ず涙もしています。会社では部下のミスを肩代わりもするし、電車やバスでは絶対に席を譲る。タバコもしないし、酒もしない。ギャンブルだってそうだ。困っている人がいれば絶対に助けるし、自殺志望者を諭す仕事だってやってきた。匿名のネットなんかで悪口を書いたことは一度たりともない。むしろSNSではそういう幼稚な行いをしている者を積極的に注意しています。たとえ不満があっても、それを匿名という場で発信するべきではないと私は考えているからです。ただ、その中で一つだけ、たった一つだけ。日常を楽しむアクセントとして強姦をしているだけだ。むろん私に病気がないかを月1で検査しているし、彼氏や旦那さんのためにも使うのはアナルだけ。そこだけは絶対に譲れない私のプライドでもあります。ちゃんとゴムもするし。事前にローションでほぐします。まあ胸は触らせてもらうが、むりやりキスをしたりをすることはない。断じてない」

 

 

なるほどと思う。どうやら彼には矜持があるようだ。だからこそ匂いが他の強姦魔と少し違っていたのか。

山路は頷き、ベルトを差し出す。

 

 

「貴方には、正しい快楽を求める心がありますか?」

 

「もちろんだとも。キミは他者をあだ名で呼ぶそうだが、私のことはどうか座薬と呼んでくれ」

 

 

こうして最後の仲間が加わった。

最初のターゲットは慎重に選んだが、やはり分かりやすい王道でバージンを捧げることにした。

ハゲ散らかした小太りの男性、あだ名は話し合った結果、『肉まん』。

 

彼の香りが教えてくれる。よく暴言や暴力を払うクレーマータイプの人間だ。

もちろん匂いだけではなく、山路たちは犯行前にターゲットをよく調べる。

肉まんさんは、他人のペットに毒のエサを食べさせた疑いがあるし、他人の車に傷をつけたこともある。ずいぶんとまあ小悪党タイプの人間だった。

人を殺したことはまだ無いが、匂いでこれから殺す可能性があることは分かっていた。

これがいい。これは分かりやすい。山路たちは並び立ち、ベルトを装着する。

 

 

「アマゾン」『OMEGA』

 

「あッ、アマゾン」『ALPHA』

 

「アマゾン……」『SIGMA』

 

 

アマゾンズドライバーで、アマゾンたちが生まれていく。

一方で山路はコンドラーを装備しており、腕を大きく広げ、閉じた。

 

 

「アーッ! マァー! ゾォーン!」

 

 

ハスキーな声が響く。

山路はアマゾンへ変身。四人のアマゾンはそのまま並んで肉まんの家のドアノブを捻った。

鍵は簡単に壊れた。

 

 

「死ねが14回、ありがとうが0回。これが何を意味するか分かりますか?」

 

 

数分後、肉まんさんは床に転がっていた。

床は既に血溜まりになっている。両手両足を切断された肉まんは、真っ青になって天井を見上げていた。ヒューヒューと細い呼吸で、眼からは涙を流している。

 

 

「貴方が言った罵倒の言葉と、お礼の言葉の数です。これは貴方の人間性をよく表しているとは思いませんか?」

 

「それだけではない。女性にわざとぶつかっているな? 子供たちをうるさいと怒鳴ってもいた。今日だけではない、貴様は頻繁にこんなことをしている」

 

 

オメガの調べでは、周りでは厄介者として忌み嫌われていたようだ。

 

 

「教えてください。逆にどうしてそんなにクズなんですか? 何を食べて育てばこんなにどうしようもない生き物になるんですか?」

 

 

アマゾンは肉まんさんを責めつつ、けれども下半身をギンギンに勃起させていた。

興奮していた。激しい性的感情の高ぶりを感じていた。なんてセクシーなんだろうと思う。

彼は今まで自分だけが良ければそれでいいと孤高なる覇道を歩んできた。同じくして自分が上の存在であると証明したくて周りを攻撃してきた。

子供や店員など、言い返せないものを攻撃していれば、自らには反撃がないと分かっていたのだろう。

 

けれども今、彼はその安心たる檻を壊され、蹂躙されている。

まるでそれは性を知らない無垢な少女を陵辱しているような。あるいは高飛車なお嬢様を汚しつくしているような興奮を覚えた。

テーブルには飲みかけのビールと、餃子、ラーメンがある。山路にはこれがアダルトグッズにしか見えなかった。

 

 

「好きな食べ物があるんですね。今日は美味しいご飯で一杯やって良い気分になろうとしていたんですね。良い、凄く良いなアンタ。人生を謳歌しようと思う心があるんですね」

 

 

それを踏みにじられるとは思っていない。

今日は良い気分になって眠るつもりだったんだろう。でもそんな未来はやってこない。

快感だった。

 

 

「テレビがあるんですね。好きな番組はなんですか? 逆にテレビがあって、貴方は何も学ばなかったんですか?」

 

 

人間性を責めているわけではない。これは一種の言葉責めなのだ。

気持ちよくなって欲しい。みんなに。自分に。

 

 

「残念ですね。もう何も食べられないし、何も見れませんよ」

 

 

大、切断。

アマゾンが腕を肉まんの首に押し当てる。

刃がズッブリと沈んだ。肉まんの首が体から離れた。

 

 

「すばらしい」

 

「ああ、最高だぜ」

 

「う、うん。この力があれば、ぼくらは無敵だ」

 

 

オメガは、シグマは、アルファはアマゾンにお礼を言った。

すばらしい力を与えてくれて、どうもありがとう。

アマゾンは照れながら変身を解除する。そして下半身を露出させると、おもむろにペニスを掴んで自慰行為にふける。

それがアマゾンズには神秘的な光景に見えた。まだ人を殺したことに怯えているアルファ以外は、変身を解除して同じように自慰を行う。

 

 

「ありがとう。山路くん。はじめて女性のアヌス以外で抜ける」

 

「新しい快楽っすね……。マジで、こんな日がくるとは」

 

「うん。でも狙うのは悪い人だけ――、それも傲慢で、自分が死なないとタカをくくってるヤツがいい。誰でも殺れる一般人(ビッチ)より、ガードの固い犯罪者(おじょうさま)を殺れたほうが、興奮するだろう?」

 

 

射精。少し遅れて座薬くんが射精。最後はトンボくんが射精。

白濁の液体は、肉まんくんの死体にかかっていく。

 

 

「エッチすぎる」

 

 

山路は満足だった。四人が家を出ると、既に夜だった。

月が空に昇っていた。山路はそれが真っ赤に見えた。無色の月に、はじめて色がついたように思えた。

 

 

 

 

 

 

 

岳葉は、母に申し訳なく思う。

せっかく作ってもらった朝ごはんは、全てエチケット袋の中だ。

隣にいる隼世はなんとか堪えているようだが、顔が真っ青になっている。

 

 

「大丈夫かぁ? えーっと、ちょっと待てよ」

 

 

警察、会議室の一つに立木、岳葉、隼世がいた。

立木はタバコをふかし、慣れない手つきでパソコンを弄っている。

腐敗が進み、虫まみれだった最初の画像が変わってくれて、少し綺麗になった死体が出てくる。

どうやら解剖室の画像らしい。執刀を担当したマリリンは、すぐにあることに気づいた。

 

 

「注目してほしいのはな。コイツの肌だ」

 

「肌、ですか」

 

「舌にも変化が出てたんだが、舌は引っこ抜かれちまってて」

 

 

画面が変わる。死体の肌の拡大画像になった。

 

 

「これは……!」

 

 

驚く隼世。それはまるで無数の刃を繋ぎあわせたような。

 

 

「似たものが海にある。サメだ」

 

 

ザラザラとしたサンドペーパーのような肌。もちろんこれはただの肌荒れではない。

 

 

「あと昨日な。裏路地で精液まみれの死体が見つかった」

 

 

死体の画像が出て、岳葉はハッと表情を変えた。

目がなくなっているため少し判断におくれたが、あれは間違いなく亀頭バズーカーだ。なんでも自分の精液で窒息していたのだという。

 

 

「チンコがどうにも他の人間と違うみたいでな。マリリンにもよく分かってないみたいだったが、これも当然普通の人間じゃねぇ。前に水野町で見つかった、両腕に刃物が仕込まれた女の死体とあわせて、この三人は明らかに異常だ」

 

 

まさに、怪人。

 

 

「隼世、岳葉、お前らクロスオブファイアを感じるとかできねぇの?」

 

「いや、特にそういうことは……」

 

 

隼世には一つ引っかかるものがあった。

クロスオブファイアを注入された怪人にしては、なんだかどれも中途半端に人間が残っているような気がする。

確かにアマダム産であったとしても、ペガサスやタイタンなどは既存の怪人ではなかったが、それでも今回のように人間らしさはほとんど残っていなかった。

 

 

「んー。後なぁ、関係あるかどうか分からんが、警察にこんなのが届いた」

 

 

立木は動画ファイルを再生する。

するとまずアファベットの『G』マークに、翼が生えた紋章が映し出される。

そこへ白いマントで体を隠した一人の男が現れた。ギョッとする隼世と岳葉。

まず目についたのは特徴的な頭だ。真ん中だけ禿げており、両サイドにある黒髪は長く、そして逆立っている。

なによりも、男性は女性物の真っ赤なパンツを被っていた。丁度足を出すところが目の部分あり、まるでそれはマスクにも見える。

 

 

「へ、変態仮面……!」

 

 

隼世は以前ルミがケラケラ笑っていた映画を思い出す。

すると、映像の男性が口を開く。

 

 

『今、この私の姿を見て変態だと思った者は、その心を恥じるがいい』

 

 

隼世はハッとして唇を噛んだ。なんだか凄く嫌な気分になった。なんでこんな変態に説教みたいなことを――……。

 

 

『哀れな差別主義者どもめ。男が女性のパンテェーを被って何が悪いのだ』

 

 

そりゃ何が悪いかと聞かれると少し困るが、少なくとも公衆の面前ではそんな――。

などと隼世が考えていると、男は話を続ける。

 

 

『はじめまして警察の諸君、私は秘密結社GAIJIの創始者である』

 

 

諸君らは、なぜこのような名前にしているのかと疑問に思ったことはないか?

ならば答えよう。私は本来、この言葉が大嫌いなのだ。ガイジ、主にそれはキチガイを表現する意味でネットやSNSでは使われているが、これは本来絶対に使ってはならない侮蔑や差別の言葉なのである。にも関わらず、今の若者は笑いながらこの言葉を使っている。

 

だがまあそれは良い。

私が怒っているのは、そもそもこの様な言葉が存在していることなのだ。

なぜ人は周りと違うものを異端とみなし、理解できないと攻撃をするのか。

 

人間が絶対にやってはいけない行為は確かに存在する。

だがそれ以外は、人は自由にもとに赦されるべきなのだ。もちろんパンツを被ることは、なんら非難される行いではなく、そのことについて私は――……。

 

失礼、昔を思い出しました。

とにかく私はこの人類に一度教育を行うことにした。

貴様らが普段おもしろ可笑しく使っているガイジと呼ばれる存在は、貴様らよりも上位であることを私が証明しなければならない。

 

 

『キチガイだと下に見ている存在が、貴様らよりも超越している存在だと教えてやらなければならないのだ!』

 

 

男はマントを翻した。

黒いスーツに、胸には太陽のマークが輝いている。

 

 

『見たまえ。雄雄しき太陽を』

 

 

ノベリスト、シネマリスト、フェミニスト。いつの時代も、特化人(とっかびと)は存在していた。

 

 

『ならば私はキチガイストとなり胸を張ってやろうではないか。そして太陽と医術の神・アポロの名も借りて、貴様らが異端者だと見下すものたちを照らし、つまらない同調圧力に縛られる抑制という名の服を脱がすのだ』

 

 

男は銃を取り出すと、それをカメラに向ける。

 

 

『我が名はアポロキチガイスト。人間よ、そしてライダー共よ、震えて眠るがいい!』

 

 

そこで映像が切れた。立木はため息交じりにタバコの煙を吐き出す。

 

 

「頭が痛くなるぜ。なんなんだよコレは」

 

「アポロガイストというのは……、仮面ライダーディケイドに登場する敵です」

 

 

隼世は世代じゃないからそこまで詳しくはないが、元は仮面ライダーXに登場する敵であると記憶している。

逆立った髪や、赤いパンツ、白いマントといい、アポロキチガイストがそれを模しているのは明らかだった。

 

 

「風間志亞がV3に変身したということは、仮面ライダーXに覚醒したものがいる可能性は高いですね」

 

「あ、あ、あ、ところでっ、風間くんは?」

 

 

岳葉の問いに、立木は頷いて手帳を確認する。

 

 

「志亞のもとへ捜査員を向かわせたが、いなかった。学校も無断欠席してる。後を追ってはいんるんだが、ちと時間がかかるかもしれん。犯罪してるわけじゃねーし、指名手配もできないもんな」

 

「そ、そうっ、ですっ、か」

 

「んで話は戻るんだが、さっきのアポロキチ――……、変態野郎は特定できた」

 

 

パンツで顔を隠していたとはいえ、特徴的な髪型や、加工していない声から割り出すことができたらしい。

名前は昏碁(ぐれご)慶太郎(けいたろう)、六年前まで大学病院で天才外科医と呼ばれていたが、パンツを被っている写真が流出してから病院に居辛くなったのか、辞めてからは消息不明になっていた。

 

 

「慶太郎の友人だった医者が、水野町で良神クリニックってのをやってる。隼世、岳葉、ちょっと話聞いてきてくれ」

 

「わかりました」

 

「わ、わかっ、わかりました……!」

 

「気をつけろよ。鮫肌野郎と、刃物女は水野町で見つかってる。他にも何かがいる可能性は高い」

 

「分かりました。行こう、岳葉」

 

「う、うんっ!」

 

 

会議室を出て歩く。

すると隼世が足を止めた。岳葉の顔が真っ青だ。まあ、あれだけ損壊の激しい死体を見たのだ。

無理もないといえばそうだが、お昼から水野町に行くのだ。新幹線に乗ると酔ってしまうかもしれない。

 

 

「だ、大丈夫。酔い止め飲むから……!」

 

「それでも何か胃には入れておいたほうがいい。ちょっと早いけど、お昼にしよう」

 

 

すぐ近くに良い食堂があるのだと。そうしていると岳葉は背後に気配を感じてふりかえる。

すると、いつの間にか男が一人、岳葉のすぐ近くに立っていた。

 

 

「う、うあぁ!」

 

「………」

 

 

思わず腰を抜かすが、隼世は笑う。

どうやら同じくバルドのメンバーらしい。

 

 

「滝黒さんだよ。一緒に水野町に行ってくれるんだ」

 

「あ、そうなんですか。それはど、どうッ、どうも」

 

「………」

 

 

滝黒は無言だった。

伸びはやした前髪からチラリと見える眼光が、ジロリと岳葉を睨んでいた。

思わず身構える。なんだ? 何か気の障ることをしてしまったのか?

内心ビクビクしていると、隼世がフォローを入れてくれる。どうやら滝黒は凄まじくシャイな性格らしい。隼世もはじめは苦労したとか。

 

 

「でも良い人だから。それで、どうしたんです?」

 

「……あの、ごはん行くなら、オレもご一緒していいですか?」

 

「なんだ。そんなことか。僕は大丈夫ですよ」

 

「お、俺も――ッ、俺も! です……!」

 

「……ども」

 

 

こうして三人は警察署横の藤島食堂に入る。

 

 

「いらっしゃいませー!」

 

 

中に入ると、若い店員さんが迎えてくれた。

岳葉は思わず凝視してしまった。店員さんは凄まじく可愛い。とんでもない美少女だ。何よりも凄く胸が大きい。

アッシュゴールドの髪に目を取られたが、顔立ちを見てみれば海外の血も入っているようだ。

 

 

「彼女は藤島ブリジット陽子さん。ココの看板娘さ」

 

「はじめまして! ミンナからはビディって呼ばれてます! あなたもそう呼んでね!」

 

 

岳葉はそのまま隼世が座ったところの向かいに座る。そこで気づいた。

滝黒がいない。見れば彼はまだ入り口付近で立ち尽くしていた。

 

 

「???」

 

 

滝黒を見る。凄く顔が赤い。前髪に隠れた目が見えた。

眼球はしっかりとビディを捕らえている。

 

 

「ははあ」

 

 

岳葉が頷くと、隼世と目が合った。

隼世はニヤリと笑い、まず滝黒を指差し、そしてビディを指差し、最後にサムズアップを行った。

というかもう小声で答えを教えてくれた。滝黒はあの子のことが好きらしい。

良いことだ。すばらしいことだ。岳葉は水を飲みながら、上手くいってほしいと強く願う。

というかまだ滝黒は立ち尽くしている。そろそろ座ったほうがいいのでは? そう思っていると、ビディが滝黒のもとへ。

 

 

「いらっしゃい! キョーも暗いね! そんなんじゃ運気が逃げちゃいますよ!」

 

「……あ、ど、どうも」

 

「えへへ! しどろもどろで気持ちワルイ! 滝黒くんって本当にヤバイね! ハンザイシャみたい!」

 

 

いや、すげー辛辣な子だな。岳葉は若干引き気味で藤島の笑顔を見ていた。

とはいえ滝黒は少し嬉しそうだった。なるほど、彼はドMなのか。まあ気持ちは分かる。

岳葉も瑠姫にいじめられるのは好きだ。え? 気持ち悪い? ああ、気持ち悪いよ。

さて、ここで滝黒も席につく。

岳葉としてはこれからお世話になる人だ。ここは一つ仲良くなろうと試みる。

 

 

「あ、あの、滝黒さんはおいくつなん――ッ、何歳なんですか?」

 

「……25です」

 

(ぐっ! 年下――ッ!?)

 

 

まあ、そんな気はしていたが、岳葉は折れそうになる心を叱咤して楽しいおしゃべりを目指す。

 

 

「び……ッ、ふッ、あのッ失礼ですが……、そ、その、ビディさんとはまだ――?」

 

 

変な汗を浮かべる岳葉。滝黒も同じような汗を浮かべて沈黙する。

コミュ障同士の哀れな時間だ。隼世が一つサポートに入ってくれた。

 

 

「そう。まだデートもしてないみたいだよ」

 

「………」

 

 

滝黒は真っ赤になってコクコクと頷く。

そうしていると料理がきた。隼世はきつねそば、岳葉はきつねうどん、滝黒はデラックスラーメンだ。各々食器を受け取り、お礼を言う。

しかし滝黒は、緊張しているのか、目を合わせずに軽く会釈を行うだけだった。すると料理を持ってきたビディはフゥとため息をついて呆れた顔をする。

 

 

「お礼を言ってくれないの滝黒さんだけですよ! アリガトウも言えないんですか? 人間シッカクですね!」

 

(いや辛辣だな!)

 

 

岳葉は青ざめながら箸を手にする。

滝黒を見ると、少し困ったように、少し照れたように笑っていた。

まさかこういうプレイなのか? 隼世も何も言わないし、岳葉は黙っていることにした。こうして、三人はさっそく麺をズゾゾゾゾと啜る。

 

 

「た、滝黒さんは、こ、こ、告白しないんですか?」

 

「は、恥ずかしい話なんですけど、断られるのが怖くて……」

 

「分かるなぁ。傷つきたくッ、ない……、ですもんね」

 

 

岳葉と滝黒はエヘエヘと笑いあう。

 

 

「それに、しちゃいけないんだ。オレは……」

 

「?」

 

 

岳葉はその言葉の意味は理解できなかった。

さて、だいぶなじんできたのか、滝黒は岳葉にも話しかけてくれるようになった。

というよりも岳葉が自分と近いタイプと分かったのか、麺がだいぶ減ってきた頃には――

 

 

「つうか酷くねェっすか? 新しい傘を買えばほぼ三日以内に盗まれるし、自転車のサドル盗まれてネギだけ刺さってたし、たこ焼き買えば高確率でタコさんがいなかったりするんですよ!!」

 

(めっちゃ喋るな……)

 

 

滝黒は一度距離が近くなればグイグイ来るタイプの人らしい。

先ほどまでの無口が嘘のようにペラペラと自分の不幸体質について語っていた。岳葉はそこでチラリと店内を見る。

するとビディがコチラを見ていた。岳葉はハッとしたが、彼女の目は合わない。

ビディは微笑み、少し嬉しそうにも、反対に悲しそうにも見える。

 

 

「???」

 

 

するとビディが歩き出した。岳葉はギョッとして、視線をうどんに戻す。

彼女は滝黒に向かって微笑んでいた。

 

 

「普段クライのに、めっちゃよく喋りますね!」

 

 

ビディは可愛らしい笑顔だったが、どこか棘がある。

とはいえサービスでコーヒーを持ってきてくれた。女の子はよく分からない。岳葉は目を閉じてコーヒーを啜る。

 

 

「ありがとうございます! またキテくださいね!」

 

 

食事が終わり、なんのことはなく三人は店を出た。

警察署に戻る中、先ほどの件に戻る。滝黒はビディが好きだった。

ビディも割りと酷いようなことは言うが、だからといって嫌悪しているようでもなかった。

 

 

「た、滝黒さんはビディさんに、その、こくっ、告白しちゃいけないって言ってたんですけど。あの、あ、えと言いたくないなら言わなくてもいいですけど、えっと、あれはどういう――?」

 

 

滝黒は頷いた。

 

 

「オレ、彼女の父親を、殺したんです」

 

「……えッ!?」

 

 

滝黒は23で刑事になった。

成績は優秀だったし、注目の若手だと周りも可愛がってくれた。先輩は何度も藤島食堂でお昼をごちそうしてくれたものだ。

当時は、藤島の父(おじさん)が料理を作っていて、積極的に会話もした。

おじさんも滝黒のことを好きになった。滝黒がまだ女の子と付き合ったこともないと知ると、ゲラゲラと笑っていた。

 

 

『若いヤツは遊んでおかないとダメだぜ。まあお兄ちゃんは真面目なのが取り得だから仕方ないか! おお、どうだ、ウチの娘で試してみるか?』

 

 

それは親世代の悪ノリだった。まあ少しは本気だったのかもしれない。

おじさんは、高校を卒業して店を手伝っている娘を早く嫁に行かせたかったみたいだし、真面目で刑事の滝黒は悪くなかった。

おじさんは滝黒の手を掴むと、配膳を行っていたビディのお尻にぐっと押し当てた。

もにゅりと感触を感じて、滝黒は真っ赤になった。すぐにビディのビンタが飛んできた。

 

 

『男は度胸だ! こんくらいやるガッツがなけりゃ嫁さんはもらえんぞ! 大丈夫だ、俺も何度もビンタされたが結果的に母ちゃんは嫁いできてくれた』

 

 

おじさんは笑っていたが、滝黒は赤くなった頬を押さえてうなだれていた。

しかし、正直なところ滝黒もビディのことが気になっていた。このまま上手くいけば、なんて考えたことは何度もある。

ある日、滝黒はおじさんの家に招待された。ビディと一緒に食事をした。

楽しかった。嬉しかった。おじさんも同じ気持ちだったのか、お酒が進んで眠ってしまった。滝黒はおじさんを、おじさんの部屋に運んだ。

 

押入れが開いていた。見えるところにパイプと注射器があった。

嘘だと思った。ありえないと思った。はじめはドッキリだと思った。

しかしよく見ればそれはやはり覚せい剤を使用する際に使うものだった。

滝黒は本当に腹がたった。どうしてだと怒鳴り散らしたくなった。

 

滝黒はその日に答えを出せなかった。

考えて、考えて、一度は黙っていようとも思った。

しかし本当にそれでいいのか? そんな想いがあふれ、三日経った後、おじさんを家の傍にある公園に呼び出した。

問い詰めると、おじさんは知らないと言った。

 

 

『藤島さんの前でも同じことが言えますか?』

 

 

それに本当に身に覚えがないなら、検査は受けられるだろうと。

そういうと、おじさんはアッサリと認めた。

 

 

『母ちゃんのダチにもらったんだ』

 

 

頼む。見逃してくれと頭を下げられた。

しかしその葛藤はもう終わっていたのだ。滝黒はキッパリと断った。なぜならば滝黒はビディが好きだったからだ。

まだ付き合えてもいないが、結婚を前提にと考えていた。だからおじさんとは家族になる筈だった。

 

家族なら――、嘘をついたままでは過ごせない。

そういうと、おじさんは怒りはじめた。

酷いじゃないか。まだ家族じゃないのに、そんなことを言わないでくれ。

ビディにだけは知られたくなかったようだ。おじさんは悲しい顔をしながらナイフを取り出した。

滝黒がまだ誰にも言っていないと事前に聞いていたので、彼を殺して口封じを行うつもりだったのだ。

 

二人は揉み合った。滝黒は悲しかった。どうして好きな人の父親とこんなことをしているのか理解できなかった。

そして何よりもやはり、激しい怒りがそこにあった。

だから我に返ったとき、怒りで理性を失ったのか、それとも恐怖で記憶がとんでいたのか自信が無かった。

ただ分かることがあるとすれば、滝黒はおじさんに馬乗りになり、奪ったナイフで数回刺していたということだ。

 

返り血で血まみれになった滝黒が振り返ると、そこにビディが立っていた。

ケーキを作ったから、滝黒と父親に食べてもらおうと呼びにきたのだ。

ちゃんとコーヒーも淹れていたのだ。なのに、なのに……。

 

 

『どぉして?』

 

 

心から出た発言だった。滝黒は、涙に塗れた彼女のその顔を、一生忘れる事はできないだろうと思った。

 

それから滝黒は事情を聞かれ、会議にも出された。

問題は、正当防衛だったのかどうかだ。正直な話、警察としては何としても正当防衛を通したかったし、事実有利なポイントはいくつもあった。

シャブ中毒のおっさんが、激高して非番の刑事に襲い掛かった。それで全ては丸く収まった。

滝黒は既に答えを出していた。それは、『どちらも』あったということ。

つまり反撃しなければ本当に殺されたし、僅かな殺意もあった。それをビディに包み隠さず伝えた。

その上で土下座し、涙した。

 

 

『店を続けようと思うんです。お父さんとお母さんのタイセツな場所だから。ワタシもダイスキだし』

 

 

だから、絶対にまた来て。

ビディはそう言った。だって大黒柱が亡くなったのだ。経済的な面でも不安はある。

だからお客が減るのは避けたかった。ただでさえ、悪評も流されるだろうし。

 

 

『今、ワタシは貴方のことが大キライだけど。恨んではないです。でも来てくれなかったら恨みます。呪いコロします。だから毎日来て、高いタベモノを頼んでね』

 

 

別れ際、ビディは泣きながら微笑んだ。

 

 

『ワタシは、ゼッタイ、あなたをユルさない』

 

 

それは随分と歪んだ絆であった。

話を聞き終わった岳葉は、何と声をかけていいかサッパリ分からなかった。

隼世は既に聞いていたから何も言わなかったが、彼も正直どう声をかけていいか分からなかった。

滝黒は歩きながら、目線を少し下に落とす。

 

 

「昨日の夜、ガイジを捕まえたけど、凄い怖かったです」

 

 

フローラルガイジはお婆さんであった。

お店で大量の商品を万引きし、事務所につれて行かれたことで激昂、カバンから水筒を取り出して、中にあった液体を店員に向かって撒き散らした。

通報を受けて滝黒が駆けつけると、既に老婆が取り押さえられていた。

液体は酸性タイプの洗剤と、塩素系漂白剤を混ぜたものだった。幸いにもかけられた一人が体調不良を訴えたが、病院で手当をうけて何事もなく終わった。

滝黒が老婆を連行しようとすると、ヤツは正体を明かした。他のガイジたちもそうだったが、もはや何を言っているのかは分からない。

 

 

「一つだけ分かることがあるなら、ガイジたちは皆、何かに怒ってました。でもオレには全く理解できない。分からない」

 

 

けれどもビディの怒りは分かりやすく感じることができる。

彼女はちゃんと怒ってくれている。それを感じると、滝黒は安心したのだ。

 

 

「オレはまだ、怒られる理由を探してる……」

 

 

岳葉は立ち止まった。なぜか滝黒の言葉が引っかかったのだ。

 

 

「最後にひとつ。隼世さん、立木さんが言っていたんですが、ガイジたちにはもしかしたら何か共通点があるかもしれないと。住んでいる地域や、年齢、境遇もバラバラですが……、今、立木さんが調べてます」

 

「ああ。分かりました」

 

 

それから三人は警察署に戻り、各々で水野町に行くことにした。

岳葉は隼世の車に乗って一旦、家に帰って荷物をとってくる予定になっている。

車内、岳葉が助手席で景色を眺めていると、隼世がポツリと呟いた。

 

 

「バルドにいる人たちは、みんな何かしらの問題があるみたいなんだ」

 

 

居場所がなくなった人たちが、危険犯罪に立ち向かう英雄に選ばれる。

それは言ってしまえば、生贄だ。クロスオブファイア所有者にただの人間が立ち向かうのは釣り合いが取れてない。

幸い、ガイジはただの人間のようだが、最近見つかっている亀頭バズーカーのようなタイプでは話が変わってくる。

 

 

「響也は、死に場所を探しているのかもな」

 

「あ、あ、えと、滝黒さん?」

 

「ああ。警察を辞めようと思っていたらしい、でもバルドの話が出たら、自分から志願したみたいだ」

 

 

契約書を一枚書かされるらしい。

死んでも、文句は言うな。だいたいはこんな感じだ。

 

 

「立木さんとかも、なのっ、かな」

 

「だろうね。まああの人たちの事情は知らないけど、響也と違って強制的に送られたみたいだから。もっと酷いんじゃない? マリリンさんは何となく分かる……、あの人、死体を見たり解剖するのが好きで、この前も神社に沢山の人が死ぬようにお願いしにいったらしいし」

 

 

あまり得意じゃないと隼世は言っていた。

 

 

「得意、じゃないって? き、嫌いってこと?」

 

「いやッ、ま、うーん……。苦手って感じかな」

 

 

信号が赤だ。隼世はブレーキをかけ、ため息をつく。

 

 

「警察官が犯罪を犯さないとも限らないのが、アレだよな」

 

「え? え? それは――、どういう?」

 

「この世に、絶対的なものなんて無いのかもしれない。それはあらゆる意味で」

 

「うッ、ん?」

 

「でも岳葉……」

 

 

信号が青になった。隼世はアクセルを踏む。

 

 

「仮面ライダーだけは変わっちゃいけない。どうかそのことを忘れないでくれ」

 

「――ッ!」

 

「僕はアマダムとの戦いのなかで、クロスオブファイアの激しい熱を感じた。その僅かな瞬間、僕は本物の仮面ライダーになれた気がしたんだ。キミはどうだ?」

 

 

岳葉は思い出す。カーリーを思い出した。

 

 

「うああああああああああああ!!」

 

 

車の中で絶叫する。隼世は思わずビクッと体を震わせた。

岳葉は我に返ると、急いでポケットにあった袋を取り出し、そこに先ほどのうどんをぶちまけていく。

 

 

「た、岳葉……」

 

「い、いやッ、ごめん。お、おれッ、おれおえお俺が悪いんだ!」

 

「ごめん。あの、僕……!」

 

「いや、や、気にすんな隼世!」

 

 

隼世は申し訳なさそうにしながらも、頷いた。

岳葉の事情は分かるが、それでも伝えたいことがあった。

 

 

「仮面ライダーだけは間違えてはいけないんだ。僕たちは、人を助けることができる力を持っているんだから。正しく生きないと……」

 

「あ、ああ」

 

 

いいこと言ったように思えるけど、王蛇とか普通に殺してるじゃん。

本物っていうか、本物ってなんだ? 岳葉は一瞬、そう思った。

でも隼世が変わっていないことは嬉しかった。彼にとって仮面ライダーは絶対的なヒーロー、正義の象徴であると信じている姿は変わっていないようだ。

チクリと、胸が痛んだ。

 

車が停まる。岳葉は自分の部屋に戻り、カバンを取った。

今日は母が休みだった。顔を合わせる。

 

 

「じゃあ水野町に、い、行ってきます」

 

「お友達によろしくね。ちゃんと大切にしなさいね」

 

「わ、分かってるよ」

 

「瑠姫さんにもよろしくね。嫌われちゃだめよ。あの子が困ってたら助けてあげなさいね」

 

「う、うん」

 

「お腹ががすいたら何かを食べなさいね。ホテルの場所が分からなくなったら携帯を使ってね。あ、お腹が痛くなったらダメだからおむつ持って行く?」

 

「あの、あの母さん、俺もう28歳……」

 

「ああ、そうね。なんだか岳葉がまだ12歳くらいに見えて……」

 

 

岳葉は恥ずかしそうに俯く。

 

 

「あ、あの」

 

「?」

 

「お、お母さん、いつもありがとう。行ってきます」

 

 

母親は嬉しそうに笑い、いってらっしゃいと答えた。

 

 

 

 

 

「お待たせ」

 

 

翠山家につくと、瑠姫が顔を見せた。

長袖に丈の長いスカート、黒タイツと、露出は抑えられている。

大きなリュックを背負い、大きなカバンも持っていた。ここにいろいろ服やらが入っているらしい。

 

 

「瑠姫は……、どうするんだっけ?」

 

「私は託児所の園長さんのお家にお世話になることになってて」

 

 

岳葉と隼世は警察が用意してくれたホテルに泊まるらしく、ルミもそこにお邪魔すると。

 

 

「ほらルミ! 何してるの? 早く!」

 

「ほいほーい!」

 

 

ルミが奥からやってくる。

オフショルダーのフレアスリーブと、キュロットのハーフパンツ。

浮き輪をして、水中メガネに、シュノーケルパイプ、そしてスイカ柄のビーチボールを抱えて参上する。

 

 

「待て待て待て。ちょっと待って! 思いっきり遊ぶ格好じゃない!」

 

「だ、だって、だって水野町は海が綺麗だって! 今日はギリギリ暖かくて、泳ぐなら今しかないもん!」

 

 

ルミは強引に突っ走ると、隼世の車に飛び乗った。

 

 

「大丈夫なの隼世くん?」

 

「まあ、僕がついてるし。大丈夫だよ」

 

「ひゅぅ!」

 

 

隼世は赤くなって、車に向かっていった。

こうして四人は駅の駐車場に車を停めて、電車で水野町に向かうことに。

40分もかからないうちに目的地だ。座席を反転させてボックス席にすると、窓際に隼世とルミが座り、通路側に岳葉と瑠姫が向かい合って座った。

 

 

「ルミ、知らない人にはついていかないこと。お菓子とかも貰っちゃダメだからね。おトイレがしたくなったら、早めに行くこと。分かったかしら?」

 

「姉貴……、あっし、もう22ですぜ」

 

 

出発してほどなくして瑠姫は寝息をたてはじめた。

最近疲れているようだ。みんなは気を遣って、無言で時間を過ごした。

しばらくすると隼世が立ち上がる。

 

 

「どしたの?」

 

「ちょっとトイレ。ごめん岳葉っ、前通る」

 

 

しばらく待ってみるが戻ってこない。ルミも景色を見るのに飽きたので、岳葉とお喋りをすることに。

 

 

「イッチー、ウンチかな?」

 

「うん」

 

「いひひひ! あ、そういえばタケちゃんも泳ぐ? 浮き輪かしてあげよっか?」

 

「まあ」

 

「なんか有名な名物とかあんのかな?」

 

「ああ」

 

 

ルミでさえ気づいた。岳葉は先ほどから、うん、まあ、ああの三パターンを繰り返しているだけだ。

心ここに在らずといった様子で、何か考え事をしているように見えた。

ルミは頬を膨らまして窓の外を見る。すると、ちょうどそこで新幹線が止まる。

 

 

「お!」

 

 

売店が見えた。ルミが注目したのは、キラキラと輝くレタスサンドである。

実は今日、無性にサンドイッチが食べたくなり、お昼にコンビニに買いに行ったのだが、タマゴサンドしかなかったのだ。

今日、ルミが食べたかったのはレタスとハムがたっぷり入ったレタスサンドである。まあその時は仕方なくタマゴで妥協したが、やはりダメなのだ。

今のルミちゃんのお口はレタスサンドだったのだ。

 

 

(たべたい……)

 

 

シャキシャキのレタスにしょっぱいハムのハーモニー。

アレを手にジンジャーエールでキュッとやったら最高だろう。しかも今は移りゆく車窓という肴もある。

もう我慢できない。丁度、扉も開いたようだ。ルミは立ち上がると、眠っている姉を乗り越えて通路に出る。

 

 

「タケちゃん! アタシちょっくら売店行ってくる! すぐ戻るから」

 

「まあ……」

 

 

岳葉は聞いていなかった。なんだったらルミが席を立ったことすら気づかなかった。

彼はずっと考えていた。席につくまでは若干旅行気分だったのは確かだ。

だが改めて、これはもっと大きくて、危険で、恐ろしいことに足を突っ込もうとしているのだと理解してくる。

 

もし……、いや、や、確実に亀頭バズーカーのような敵と出会うのだろう。

前回はなんとかなったが、もしももっと強い敵が出てきたらどうなるのだろう? どうすればいいのだろう?

それにもしも戦いが終わったとしても、志亞が残っている。志亞はどうするのだろう?

岳葉は名前も知られている。いや、いや、ちょっと待て。そもそも亀頭バズカーは死んでいたと聞いた。

 

死んだ? なんで? 溺れて?

え? いや、ちょっと待って欲しい?

もしかしたら自分のせいなのか? いや、いや違う。自分は溺死させていない。だから違う。岳葉はそう思って、震えていた。

そうしている間にルミは外に出て売店に向かって、サンドイッチを手に取ると、そこで動きが止まる。

 

 

(ん? てりやき……? あ、これも美味しそうだな。そうだ! お姉ちゃんたちにもお土産で買っていってあげよう! 喜ぶぞぉ! うしししし! ん!? まてよポテサラ? あ、明太子が混じってるのか! へぇ! 美味しいのかなぁ? どわわわ、カツサンド! これも――)

 

 

 

 

(遅いな)

 

 

少し時間が戻る。トイレの前にいた隼世だが、個室タイプのトイレは現在使用中である。

前にも一人青年が順番待ちをしており、隼世は三番目だった。

しばらく待ってみるが、出てこない。

前の青年がモゾモゾしはじめたので、声をかける。

 

 

「他の車両にもトイレがありますよ。もし使用中だったら戻ってきてください。場所を空けておきますので」

 

 

青年はお礼を言って他のトイレを使いに行った。

隼世はしばらく待ってみる。出てこない。

 

 

(お腹を壊してるだけならいいけど……)

 

 

心配になる。もしかしたら具合が悪くて気絶しているのかもしれない。

そう思うと、そうとしか思えなくなってきた。隼世は少しドアに近づいて音がするかどうかを確かめる。

 

 

「ッ?」

 

 

声がした。まさか……?

隼世は意識を集中させる。魂の炎の火力を上げて、ライダーの力を使う。

聴力が強化され、ガタゴト揺れる中であってもある程度、個室の音を拾うことができる。

そこで気づいた。やはり中にいる人間は、電話をしている。

 

 

「あの、すみません」

 

 

ドアをノックする。返事はない。声だけは聞こえた。

 

 

「………」

 

 

少し強めにドアをノックする。何度もノックする。

すると流す音がして、一人の若い男性が出てきた。男性は隼世に気づくとジロリと睨みつけるような目をする。

 

 

「あのッ、電話をするならトイレを出てからにしてもらえませんか!?」

 

 

男性は何も言わず、ただ不機嫌そうな顔をして立ち去っていった。

 

 

「は?」

 

 

思わず声が漏れた。

隼世は目を細め、男性を睨みつける。

おかしいと、強く思う。普通は謝るはずだ。トイレは一つしかないし、個室タイプしかない。

お腹が痛いならまだしも、電話のせいで長引いて、ましてやそれで待っている人がいるんだから、どう考えても向こうが悪い。

 

誰だって分かる。小学生だって分かるはずだ。

そもそも百歩譲って大切な用で、やむをえずだったとしても、そしたら出てきて謝るだろうに。

どう考えてもおかしい。すると、隼世の中にある想いが芽生えた。

 

 

(まさかアイツ……! ガイジか!?)

 

 

可能性は高い。明らかに普通の人間ではない。

となると周りに危険が及ぶ前に動いたほうがいい。

とりあえず脅しの意味でもポケットにある警察手帳を見せて、話を――……。

 

 

「!」

 

 

隼世はゾッとして、手帳から手を離した。

今、いろいろ間違えていたような気がする。上手くはいえないが、隼世はかつて消防士の隊長に言われたことを思い出した。

隼世は警察手帳を支給されたが、それは彼が仮面ライダーだからだ。だから警察学校を卒業していないにも関わらず、特別に支給されている。

それは、あってないようなものだ。隼世はゴクリと喉を鳴らす。

 

 

(そういえばあの火災があったホテルも水野町だったな)

 

 

いけない。熱くなるな。ただ単に謝るのが苦手は人はいる。

シャイな人だと、隼世が怒っているのを見て、怖くなって言葉が出なくなっただけなのかもしれない。

隼世はため息をついてトイレに入った。

手早く済ませると、さっさと出て手を洗う。

ドアが閉まる。そろそろ出発するようだ。隼世は席に戻るまえにひとつ景色でも見ようかと、左を見た。

 

扉の向こうにいたルミと目があった。

おかしな幻を見るなと思った。疲れているのだろうか?

新幹線が動き出した。ルミの幻が涙目になって何かを叫び、追いかけてきた。

 

 

「………」

 

 

手には売店の袋が見える。

 

 

「え!?」

 

 

隼世はドアに張り付き、外を覗き込む。

同じくして血相を変えて飛び込んできた瑠姫、岳葉と合流。どうやらルミがいないことに気づいたらしい。

 

 

「隼世さん! あれは私の幻じゃないわよね!?」

 

「ああ! 残念ながら現実みたいだッッ!」

 

 

ルミが涙目になって追いかけてきている。

 

でんしゃは、はやい。

 

あっという間にルミさんは見えなくなった。

 

 

「本間さーんッ! 市原さーんッッ! お姉ちゃああああん!!」

 

 

知らない駅に取り残されたルミは叫び、崩れ落ちる。

持っていたのは財布だけ。携帯や服やもろもろは姉のリュックの中。

 

 

「んもぉおッ、何やってるのよあの子は! 信じらんないッ!」

 

「ま、まあまあ。僕が次の駅を降りて迎えにいくから」

 

 

隼世はさっそく次の駅で降りると、サイクロンを出現させて前の駅まで戻った。

そこにルミの姿はなかった。

 

 

 

 

 

映司はアンクを探すなかで、ふと立ち止まる。

手を繋いでいる男女とすれ違った。微笑ましい光景だ。

恋人だろうか? いや、最近は友達同士でも手を繋ぐことがあるらしい。

 

 

「友達――、か。アイツとも繋いだっけな」

 

 

アンク……。彼は今どこに?

 

 

「ん? 繋いだ手?」

 

 

そうか。映司はあの二人を追いかけた。

もしかして彼らが何かを知っているかもしれない。繋いだ手がアンクに繋がるなら、まずは女の子に話を……。

いや、待て。映司は立ち止まる。

前もそうだったじゃないか。あの子はアンクじゃない。

マンコだ。

 

 

「そっか。じゃあ――」

 

 

え? アン――、アンク。マンコ。 マン……? いやアン――ッ、ちがうマンク。

マンク! え? マン……、ちがうちがう。アンク! アンコ? マンコ? マンコか!

マン――、マンマンコ? いや違うマンコか。え? アン……、あ、それは違うか。いやでもアンク? アンク!? アンッッ! いや、マンコ。

マン――? マンって……、あ、マンコはマンコか。

マンコだ!

 

 

「お姉さん! ねえ、マンコ見せてもらってもいいかな!」

 

 

男女は逃げ出した。

映司はちょっと待ってくれと。なんで逃げるのかと。

 

 

「そうか、グリードだからだ!」

 

 

そう思ったとき、男女の体が化け物に変わった。

やはりグリードだったのだ。危ないところだった。映司はオーズドライバーを取り出すと、腰へ装着する。

 

 

「変身!」「タカ!」「トラ!」「バッタ!」「タ・ト・バ! タトバタトバ!」

 

 

オーズが走ると、男の子のほうが踵を返して戻ってきた。

彼女を守ろうというのか。でもオーズは知っている。グリードは悲しい生き物だ。

感情を再現したところで、それは真似しているだけにしか過ぎない。

本物じゃないんだ。

 

 

「うわぁあ!」

 

 

しかしこのオスグリードがなかなか強い。

オーズは倒れると、地面を転がっていく。しかし丁度カバンが傍にあったので、オーズはそこから素早く強化アイテムを取り出した。

使うのは初めてだったが、夢で見た。

あの通りにやれば――ッ!

 

 

「ごめんよ。でもさ、オレにも信じる正義があるんだ!」

 

 

チィチィチィチィチィ!

パチャコン! プスィー!

 

 

「ラビットアンドスパークリング! シュワッとはじけるゥ! イェイェエエエエエイ!!」

 

 

ビチャビチャのシュワシュワだ。

発泡液体の力で相手を弱らせ、よく濡れたところにクワガタヘッドによる電撃攻撃をお見舞いした。

しばらく電撃攻撃を加えると、オスグリードは活動を停止した。

しかし再び動き出す危険性もある。怯んでいる今がチャンスだ。オーズはメダジャリバーを取り出すと、グリードの体に刃を叩き込んだ。

 

 

「クワガタ!」「トラ!」「チーター!」

 

 

高速移動形態になり、オーズは逃げたメスグリードに駆け寄ると、同じくメダジャリバーを胴に叩き込んだ。

七分後、オーズは人間態に戻った女グリードとセックスを行っていた。

血まみれで、既に息もないが、これも全ては友人を探すためだ。

しばらく腰を振っていたら、気づく。

 

 

「って探してるのマンコじゃなくてアンコゥウウウウウウウウウウウウ!!」

 

 

 

 

 

おわり

 

 

 




すいませんでした(´;ω;`)

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