私が私自身を誰かに語っていくとするならば
臆病で、弱虫で、一度挫けると立ち上がれない、そんなネガティブな言葉ばかり口に出してしまうだろう
それは、お母さんの期待に応えられなかった事やお姉ちゃんへの劣等感が生んだ卑屈さの集大成
きっと、どれだけ努力してもお母さんが言う西住流になることは出来ないだろう、なんて諦めが心の底でカビのように広がって、染み付いている
このままでは、自分の道なんて見付けられないだろうと理解していたのに、現状を甘受して、停滞を受け入れて、不変に心地好さをさえ感じていた
意気地無し
詰まるところ、私の自分自身に対する評価なんてそれだけだった
でも、そんな私でも譲れないものは出来て
なんとしても守りたいものは、確かにあった
例えばそれは、私の好きなぬいぐるみの事だったり
例えばそれは、私を守ろうと闘ってくれた友人達の事だったり
例えばそれは、私を救ってくれた皆が居る学園艦の事だったり
例えばそれは、何時も不機嫌そうな顔をしているあの人の事だったり
それらは、私を構成する重要な1部分で自分自身を語る上では、決して抜かすことの出来ない大切なものであった
第64回全国高等部戦車道大会は、大学選抜との激闘を制した大洗戦車道(実質は高校選抜のようなもの)の隊長であった、西住みほの高校最後の大会ということであらゆる方面からの注目を集めていた
前年の有力な隊長や副隊長、隊員達が抜けたのはどの学校も同じであったが、それでも下馬評では4強である黒森峰、プラウダ、聖グロリアーナ、サンダースは勝ち上がるだろうと予想され、比較的有力な選手が抜けたのが少ない西住みほ率いる大洗は優勝候補筆頭であった
昨年の大会で、初出場かつ無名校である大洗の大躍進はある種の伝説となっており、まことしやかに軍神の異名で呼ばれている西住みほのもとで戦車道を履行したいと多くの者が大洗での戦車道を希望した
また、全国大会の優勝、大学選抜への勝利は、大洗女学園の名を世に知らしめるには充分で、学園が戦車道への予算を大幅に上乗せするのも当然と言えた
そんないくつかの理由から、大洗の戦車道は抜けた戦力よりも新しく加わった戦力の方が圧倒的で、軍神西住みほの隊長続投は隊員達の士気の面でも他校にはない強さを持っていた
向かうところ敵無しだろうとあらゆる人達が予想して、誰もが西住みほの奇抜な策の数々を期待した
実際、大洗は阿吽の呼吸のごときコンビネーションと逆境を跳ね返す経験の数々からありとあらゆる場面で圧倒的な強さを見せ付ける
昨年よりも更に強く、隙の無い連携、扱う戦車と人員の増加と質の向上により今大会、大洗は最強だと思われていた
「みぽりん、またその雑誌読んでるの?」
私は、隊長としての引き継ぎを漸く終らせる事が出来たため、時間が空いた放課後のこの時間に読もうとあらかじめ鞄に入れていた、もう何度読んだか分からない戦車道の雑誌を机上に広げていた
「あ、沙織さん…。うん、この前の大会について詳しく書いてあるから、何度も読んじゃうんだ。」
「その雑誌酷いこと書くからあんまり好きじゃないんだけど、やっぱりその雑誌以上に高校の戦車道を詳しく書いてるの無いもんね。」
「そう…なんだよね。」
先日行われた大会の細かい動きなどが詳細に記された、この雑誌は情報誌としては優秀なものの批判的な書き方も多く、私はあまり好きになれない雑誌であった
転校直前の黒森峰時代にも、私への批判が掲載されていたこともエリカさんが激怒していたから知ってはいた
でも、その時の私には雑誌を悠長に読んでいるような余裕は無くて読まなかったから、実際に読んでいたらもっと精神的に追い詰められていたかもしれない
大会が始まる前にこの雑誌の標的となっていた黒森峰、いやエリカさんはどんな気持ちだったのだろう
反骨精神を隠そうともしないあの人は、もしかしたら今はしてやったりと満足してるのかもしれない
「けど、みぽりんは凄いなぁ、終わった試合をちゃんと復習して悪いところをチェックしてるんだね!」
「そんなこと無いよ、大会で予想外な戦法を取られたり、裏をかかれちゃったことが有ったから次はおんなじ失敗しないようにしたくって。」
「流石みぽりん!じゃあじゃあ、私も一緒に勉強しよっかな!」
そう言って空いている席の向きをこちらに向けると、鞄からピンク色の可愛らしい筆記用具入れと、デカデカと戦車道と書かれたメモ帳を取り出した
私は沙織さんが使えるスペースを作るために雑誌の位置を軽くずらして迎え入れる
沙織さんは今開かれている雑誌のページに視線を走らせるとあごに手を当てて呻いた
「うわぁ…、こうやって改めて見てみると今年の黒森峰は凄かったんだね。」
開かれているページには、トーナメント表が描かれており、各試合の残戦車数と勝敗が記されていて、私達大洗とは真逆の位置から優勝まで赤いラインが切れることがなく続いている
エリカさんが率いた黒森峰だ
黒森峰は、大会前に戦車道に関わる一部の人達から落ちぶれた王者なんて呼ばれて、酷い誹謗中傷を受けていたから、士気的な問題や新入隊員会得の難しさから勝ち進むのが厳しいだろうと思っていた
それが蓋を開けてみれば圧倒的な強さでの優勝
私達、大洗と決勝戦で当たるまでは1両も落とすことの無いという完全試合を行って見せたのだ
対プラウダ戦10ー0
対知波単戦10ー0
対サンダース戦15ー14
正直、この結果を聞いた時は耳を疑い
そんな試合が可能なのかと、慌てて詳細を確認した
対プラウダ戦
超遠距離砲撃の嵐による撹乱、散らばったプラウダをまるで散らばる先が読めているかのような各個撃破によりフラッグ車以外を行動不能にしていき、最後は悠々とフラッグ車を打ち倒した
対知波単戦
伝統の突撃・粉砕(相手がとは言っていない)を控えることを覚えた知波単に対して、移動速度を重視したゲリラ部隊が強襲、撤退を繰り返しプラウダ戦で見せた超遠距離砲撃と合わせての完封
対サンダース戦
これは、前の2試合とはうって代わりフラッグ車のみを狙った電撃戦であり、鬼才水瀬さつきが乗った黒森峰最強の戦車による強襲はサンダースに一撃も砲撃する間を与えることなくフラッグ車を撃破した
異常であった
いいや、理論上は可能であろう
超遠距離砲撃も、まるで反撃する間もないゲリラ部隊も、電光石火のフラッグ車撃破だって、個別に見れば、個人に高い能力が求められるものの不可能ではない
では何が異常なのか、それは情報量だ
超遠距離砲撃も、ゲリラ部隊も、フラッグ車のみを狙った強襲も、相手に悟られず正確な情報を手にしている事が大前提のはずで
そんな圧倒的なアドバンテージを何処から持ってきているのかが、分からない
分かる筈がない、それが分かればいくらでも戦略の幅が広げれる
たとえば、過去に大洗と対決したサンダース高校が無線の盗聴により、完璧に私達の裏を掻く事に成功した
なるほど、次に相手がどう動くか分かれば裏を掻く事など容易いだろう
だが、この大会の黒森峰はそんな生易しいものではない
盗聴などでは得られぬはずの情報量
たとえば、フラッグ車の位置なんていちいち無線に乗せることなどしない
たとえば、超遠距離砲撃でちりじりになった戦車の位置を正確に把握出来る筈無い
そう、まるで未来予知をするような、人知を超えたような戦略の恐ろしさに鳥肌が立った
そして、なにより驚いたのは
―――こんな戦略、絶対に西住流では無いからだ
「うん…、強かった…今まで戦ってきた誰よりも。」
惨敗した
かつて無い程に
いや、より正確に言うのならば、小さい頃に訓練の延長としてお母さんと戦った時以来の惨敗だった
甘く見ていた訳ではない、対策をしていなかった訳ではないのだ
結果を聞いて、自分が知っている今までの黒森峰ではないと確信して、可能な限り情報を集めて
その上で、勝つことが出来なかった
「私、皆と最後の大会、優勝したかったな…。」
「ね~…、行けそうな感じはしてたんだけどね。」
今までにない、充実した戦力を持つ事が出来た
昨年、優勝することが出来たあの戦力を思えば優勝を確信してしまうのは無理の無いことで
隊員達全員が油断していなかったと言えば嘘になる
そんなチームの油断を取り除く事が出来なかったのも、私の隊長としての力不足だろう
どうすれば良かった、なんて結果論はいくら考えても尽きなくて
そんな事ばかり考えているから、今さら、いくらそんなことを考えても、終わってしまった事は変えられないんだって嫌でも実感させられてしまう
ただただ今は、私を支えてくれた皆を優勝させてあげられなかった事が申し訳なかった
「沙織さん、最後の大会、優勝出来なくてごめんね。」
「もー、みぽりん。別に悔しかったねって話をしてるだけで、誰が悪いなんて言ってないってばー。」
何なら私なんて水瀬ちゃんと撃ち合いになった時に負けるの覚悟しちゃったし、と沙織さんは嫌な事でも思い出すように眉間に皺を寄せる
そうだ、誰が悪いなんてどうでも良いんだ
責任を追及する意味も意志も無いんだから
この大会でも昨年の時のように、皆で手を取り合って楽しむことが出来た
それで良いじゃないか
あれだけ嫌っていた筈の勝利至上主義が、気づかぬ内に自分にも深く染み付いているような気がして軽く自己嫌悪してしまう
「みぽりんは最近ネガティブに考えすぎだよ!全国大会準優勝は充分良い結果だし、今年は廃校の危機とかも無いんだから楽しんだもん勝ちなんだよ!」
「沙織さん…、そうだよね。」
「そうですよ、みほさん。私達皆、みほさんに着いてきて本当に良かった、楽しかったと思っているんですから。」
「華さん、ありがとう…。」
「あれ、華。生徒会の仕事は終わったの?」
「生徒会の方も引き継ぎは終わったんですから、余り3年生の人達が手伝わないようにしてるんですよ。」
何時の間にか、今は元生徒会長の華さんが沙織さんと同じように近くの席に腰を下ろす
この学校に来た頃から変わらない私達の関係
大きく変わってしまった様々な事の1つに華さんが生徒会長になったことがあって
高校での立場や大洗戦車道の状況が変わっても、私達のこの関係が何一つ変わらなかった事に酷く安心したことを覚えている
「華の仕事も終わったみたいだし、帰ろっかー。このあとどうするー、お茶でもする?」
「そうですね、近くに新しく出来た喫茶店がありますしそこでも良いですけど、今度寄港予定の場所には紅茶で有名な店もあるそうですから、紅茶以外を味わっておきたいですね。」
「おお、良いねー!あっ、そう言えば、いつも買ってる雑誌の発売日今日だった!コンビニ寄っても良い?」
「良いですよ、結婚情報雑誌ですか?」
「違うよ!?私を何だと思ってるの!?」
「婚活戦士?」
「最近華の弄り方がえげつないぃぃぃ!!」
大袈裟に両手で顔を覆って嘆く沙織さんに思わず声を出して笑ってしまう
しばらく視線を下げて笑いを治めてから、顔を上げると華さんはそんな私の様子を見て安心したように微笑んでいた
そんな柔らかな表情に何だか気恥ずかしくなって、頬が段々熱を持っていくのを感じてしまう
「良かった、みほさんがようやく笑ってくれましたね。」
「え?」
「大会の後からみほさん。何処か陰があって、思い悩んでいたようなので心配していたんですよ。」
「華さん…。」
「ねぇ、つまり私の被害って…。」
「沙織さんと話し合えた事で、色々吹っ切れたみたいで良かったです。」
「うんっ…!2人のお陰で悩みが吹き飛んじゃった!」
「うふふ、それは良かった。」
「…まあ、良いんだけどね。みぽりんが楽しそうだったし。」
大洗に転校してきてから、充分した学校生活を送れたのは、紛れもなくこの2人のお陰で
もう無くしたくない、私の掛け替えの無い大切な友人達だ
「あ、梓ちゃんだ。」
じゃあ、喫茶店に向かおうかと広げた荷物を片付けて席を立った折に、沙織さんが窓からグラウンドを見下ろして呟いた
梓ちゃんは大洗戦車道の現隊長を任せている後輩で、戦車乗りとしての実力も折り紙付きだ
私も沙織さんの視線の先を追って窓の外を見るが、もう何処にも見当たらなかった
「梓さんも最近、大変そうですよね。」
「やっぱり、大変そうだよね…。私も何度か聞いてみたんだけど、大丈夫としか言ってくれなくて…。」
「う~ん、やっぱり隊長を任された事のプライドとかもあるんだよ。大丈夫大丈夫、梓ちゃんの周りにも頼りになる友達は一杯いる訳だしね!」
沙織さんは軽く笑いながら、華さんは少しだけ心配そうにして、もう見えない梓ちゃんの姿を追うように窓の外を見つめた
色んな人の立場が変わり、今まで背負ってきたものを下ろす人や、逆に背負わなければならないものが出てきた人がいて
そんな当たり前の事に最近、ようやく気が付いた
「隊長と言えば…、みほさんのお姉さんは大学に入って直ぐに戦車道の副隊長になられたんですよね。」
「うん、この前会った時に高校との違いが結構あって大変だって話をして。黒森峰の時は敵だった人が同じチームになるのは、今まで知らなかった事を知れるから楽しいって言ってたよ。」
黒森峰の頃より楽しそうに戦車の事を話していたお姉ちゃんを思い浮かべる
目指すべきものが定まったのか、心変わりがあったのか、お姉ちゃんの心情を推し量る事は出来なかったが楽しそうな様子に少し安心したし
みほとは敵として、もう一度試合もしたいけどやっぱり同じチームで一緒に戦いたいな、と言われた時は嬉しくなってしまった
「あー!そう言うの楽しそう!私は聖グロリアーナ女学院のローズヒップちゃんと一緒に戦車乗ってみたいな~。」
「私はサンダース大付属のナオミさんか、プラウダ学園のノンナさんと談義してみたいですね。」
「あはは、何となく相性が良さそうな組み合わせだね。」
沙織さんは世話焼きだから、暴走特急のようなローズヒップさんの扱いはお手の物だろうし、華さんは砲手として語り合いたい事が一杯あるだろうと思う
まだ見ぬ未来に想いを馳せる2人に、微笑ましいものを見るような気持ちの自分に気が付いた
まるで、自分には関係の無い話を聞いているようだ
私は…、どうなのだろう
お姉ちゃんとまた一緒に戦車に乗りたいとも思うし
愛里寿ちゃんと戦術について話し合いたいとも思う
カチューシャさんやケイさん、ダージリンさんとの戦車道だって、きっと楽しいだろう
今までに無い戦車道なら、ミカさんやアンチョビさんや西さんとだって体験する事が出来る筈だ
それらどれもが魅力的な筈で、楽しいだろうと思うのに、何かしっくり来ない
パズルのピースが噛み合わないような感覚
私というピースは酷く歪だから、既に形が定まってしまっているピースにはきっと噛み合うことはないのでは無いだろうか
その点、大洗学園での戦車道は、幸運にも戦車道そのものが無かった状態だったから、私という歪なピースが引っ掛かるような部分が無かった
勿論、大洗の皆だから上手くいった部分だってあるだろうけれど、もし彼女達が元々戦車道の経験があったのなら、今の形は無かったのかもしれない
そんなことを考えてしまうから
「みぽりんは誰と一緒に戦車に乗ってみたい?」
なんて、私に向けられた沙織さんの言葉に
「私は大洗の皆と乗っていたいな。」
こんな、無難な事しか言えなかった
変化は好むも好まざるも関係なく向こう側からやってくる
待っていても、向かっていっても、準備しても、いつか必ず変化は訪れる
けれど、現状の打破が必要であるにも関わらず、自ら変化しようとしなかった怠惰な者にはそれ相応の代償が降り掛かる
変わろうとしなかった、あの時の私の代償が黒森峰の敗北で、周囲からの軽蔑で、大切な人との離別であったのなら、これから起こる変化の代償はどれだけのものになるのだろう
意気地の無い馬鹿な私は、あの手痛い経験から何も学んでいやしなくて、支払うべき代償が向こう側から迫り来るのに気が付いていなかった
「み、皆さん、ここに居られましたか!」
休まず走ってきたのか、特徴的な癖毛を汗で濡らして、激しく息を切らせた優花里さんが私達しかいない教室に飛び込んできた
予想外の優花里さんの様子に、私達3人とも目を見開いて驚いてしまう
ついさっき休み時間に会った時は何時も通りの優花里さんだったのに、どうしたと言うのだろう
膝に手を着いて息を整える優花里さんに私達は慌てて近付き背中を擦る
「どうしたのゆかりん、そんなに慌てて。まさかまた大洗の廃校の危機、とか?」
「ち、違いますっ…、け、けど、みみみ、みほ殿っ。」
言葉も絶え絶えに私に向かって何か伝えようとする優花里さんの様子から、どうやら私達3人を探していた訳ではなく、私個人に伝えたい事が合ったようだ
そんな優花里さんの尋常じゃない様子と、片手に持たれた今はリレーの棒のようにグチャグチャに丸まった最新号であるあの雑誌が嫌でも目に入って
気持ちの悪い吐き気と、どうしようもない悪寒を感じて、嫌な予感に襲われた
「あら、この雑誌は…。」
華さんが優花里さんが持っている丸まった雑誌に気が付いたみたいで、そこに書かれた文字をまじまじと目だけで追って、顔を強張らせた
それは、先程感じた嫌な予感が間違っていなかったと証明するかの様で、耳を塞いで目を瞑ってしまいたいと一瞬本気で思って
「逸見殿、黒森峰の逸見殿が!酷い批判が書かれているんです!それも、2年前のあの事故の責任は全て逸見殿にあるみたいな書き方をされていてっ!今大会を優勝出来たのは全部全部他の隊員のお陰だって!こ、こんな、酷いっ…!」
それを聞いた瞬間、優花里さんから奪い取るように雑誌を受け取り、慌ててページを広げた
愕然とする
こんなに人を扱き下ろせるのかと恐ろしくなる
両脇から覗き込んでくる沙織さんと華さんを一切気にもせず、読み進める
名前は出ていない、が明らかに少し戦車道に関わっていれば誰の事を書いているのか分かってしまう
王者黒森峰を貶めた戦犯、なんて
当時の副隊長を責め立てるために川に戦車を落とした、なんて
大恩あるはずの西住流に仇で返す、なんてっ
ある筈の無いことを書き立てていた
気持ちが悪い、気持ちが悪い、気持ちが悪い
止まらぬ吐き気、血の気は引いて、震える身体は少しも制御できない
私の知らない内に、私が守りたかったものは、呆気なく崩れていて、私の全ては無駄だったと理解して、終わってしまった事は、もう取り戻せないんだと思い知らされた
「あ、ああああ、わ、私の、私のせいだっ。違うよ、違う。なんでっ、私がエリカさんから離れた意味はっ…。どうしてっ!?」
雑誌を落として、頭を抱えた私に慌てたような3人の声が聞こえてくる
けれど、グチャグチャなった私の頭では何も理解する事は出来なくて、競り上がってきた胃液が喉を焼く
誰かが倒れた音がして、それが自分が出した音だと誰かに抱き起こされて漸く気が付いて
段々、周りの声が聞こえなくなっていき、消えていく意識の中で、焼き付いて離れないあの時のエリカさんの顔が浮かんで消えて、一人ぼっちのエリカさんの後ろ姿が遠くに、見えた
ほら、代償を払う時が来てしまった