とある科学の偽悪論者   作:愚者の憂鬱

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『俺ガイル』も『とある』も、読み手の皆様から登場して欲しいキャラクターの強いリクエストがあった場合は、ある程度参考にさせていただくかもしれません。
ただ、両作品ともメインキャラクターは既に私が何らかの役割を与えて配置済みですので、そこらへんは御容赦を。


八月十五日

 二十一時二〇分。

 比企谷は連日、『掛け持ち』現場にいた。

 真夏の夜は忌々しいほどに蒸し暑く、比企谷八幡はぼんやりと頭上に浮かぶ月夜を見上げた。

 比企谷の眼下で今まさに繰り広げられている『第九九八二次実験』は、場所を第十七学区に設定されていた。敷地の殆どが工業施設で埋め尽くされ、他の学区に比べて極端に人口が少ないこの地は、なるほど表沙汰に出来ない事をコソコソ隠すにはもってこいだろう、と比企谷も合点した。結果として現場も、実験開始時の市街地路地裏から流れて、より人通りの無い街外れの操車場にまで移動している。

 

(しかしまぁ、もう何回『コレ』を見させられなきゃいけないのか想像すると、軽く目眩がするわ)

 

 ふと夜空から、輸入コンテナが無造作に積み上げられた一帯の景色に目をスライドさせて、比企谷はそんなコンテナ群の上に深々と腰を落ち着けた自分の目線の下に、現在進行形で繰り広げられる地獄絵図を見据える。

 普段から目も当てられないほど窶れた彼の瞳は、飛び散る鮮血の赫を反射してよりくたびれた光を反射していた。

 

「はッ‼︎」

 

 一方通行(アクセラレータ)が、狂気染みた笑い声と共に、銃器を持った少女をズタズタに嬲っている。それは既に、比企谷にとっても『慣れてしまった』光景。しかしだからと言って、そこに『何も思うところがない』ワケでもない。

 

(…あの野郎。わざと獲物を弄びやがって)

 

 そう思わず悪態を吐く思念を無理矢理追い払い、目の前の実験に集中する。自身の精神衛生のため、無理矢理に思考停止させた脳内で、ぼんやりと比企谷はただ与えられた仕事──実験の監視官としての役目を、いつも通り全うすることにした。

 自分が何をしたって無駄だ。妹達(シスターズ)に『実験以外で生きる道』が見えてない以上、彼女らにどんな手を尽くしたところで、それは彼女ら自身から『存在理由』を奪うだけの行為になってしまう。そんなことは──絶対的に『悪』である。比企谷は、ただじっと二人の少年少女が繰り広げる殺し合いを、座った目で見つめ続けた。

 

「あっ……ぐぅ……⁉︎」

 

「そらそらァ‼︎ もっとケツ振って逃げろ‼︎」

 

 衝撃。

 銃撃。

 交互に響く、苦悶と悦楽の音。

 地表距離ならともかく、高低差によって離れてしまっている二人の声は、ぼんやりとしか比企谷に届かない。

 

(二〇〇〇〇回のクローン殺害。……逆算して、あと一〇〇一八人か)

 

 何となくそんなことを考えていると、比企谷は眼下の八九九八二号の腰元に付けられた、子供っぽいデザインの缶バッチに気付いた。よく分かりはしないが、確か比企谷も街中で何度か見かけたことがある、カエルの姿をした幼児向けマスコットキャラクターがプリントされた、ちゃちな缶バッチである。

 

(……あんなモンに興味を示すなんて、珍しい個体だな)

 

 それ以上思うところもなかったが、何故かその缶バッチを着けたまま、血塗れで転げ回る九九八二号の姿に、比企谷はふと自分の『妹』の姿を重ねてしまった。クローンではない、正真正銘比企谷と血の繋がった、本当の意味での妹だ。途端に、向ける矛先の無い猛烈な怒りと、嫌悪感が比企谷の内側に湧く。

 

(……胸糞悪りぃ)

 

 だが、それは自分にはどうすることもできない問題だとも分かっていた。実験を牽引するのは、一企業だとか、秘密結社だとかの範疇に収まらない存在──この学園都市そのものだと、比企谷は知っていたからだ。

 ならばせめて。

 願わくばこの地獄が、出来る限り早く終わるよう。

 願わくばこの地獄が、もう二度と繰り返されぬよう。

 比企谷は、心の内に溜め込んだどす黒い感情を密かに滾らせ、もう自分でも何度目の同一作業か分からなくなった、『決意』の再確認を行うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 一八時三〇分。

 第十九学区。

 学園都市創成期の各学区の成長競争に負けたこの地域は、全体的に廃れた雰囲気と、古びた建造物が多い。施設が古ければ人も呼び込めず、人口も減り、人口が減るということは、それだけ監視の目も緩むことを示す。

 つまり、表沙汰にできないような組織が置く拠点は、必然的にこの地域を利用することが多かった。

 統括理事会直下の暗部組織──『フロア』のアジトが在るのも、そんな第十九学区の外れの廃マンションだった。一階から十階まで、すべての階層がボロボロに崩れ、荒れ果てた内装状態のまま放置されている中、五階の五〇三号室だけが、扉の外側だけを錆びと汚れで偽装した見せかけの廃屋になっていた。

 中に広がるのは、北欧風のインテリアと、真っ白な壁紙を基調にした洗練されたデザインのワンルーム空間。

 

「雪ノ下せんぱぁ〜い! 先輩またサボりですか〜⁉︎」

 

 黒い猫耳パーカーの少女、一色いろはは丸みを帯びた白いソファに寝そべり、駄々っ子のように声を上げた。すぐ側のデスクでノートパソコンを開き、何やらせわしなくキーボードを叩くのは、凍るような美貌の少女。

 絹のように柔らかい黒の長髪と、陶磁器のように滑らかな白肌。

 雪ノ下雪乃は、だらけるあまりズレたミニスカートの裾から下着が見えそうになっている一色を見て、冷たい目線を投げかけた。

 

「私に聞かないで頂戴。そもそもあの男が『フロア』を休職している間は、報酬の割り当てもあなたに多めに入っているのよ。何も悪いことなんてないじゃない」

 

「でもつまんないですー! 現場でわざとミスして、先輩を困らせるのが日々のさりげない楽しみでもあったのにぃ」

 

「……他人事ではないのけれど、あなたの様な後輩に目を付けられてしまった比企谷君のことを、偶にほんの少しだけ不憫に感じるわ」

 

 こめかみに手を当て、その場にいない男の顔を思い浮かべて思わず渋面を作る雪の下。

 しかし一色の言葉に反応を示したのは、何も彼女だけではなかった。部屋の片隅、ぽつんと置かれた木製の丸椅子に腰掛け、読書を嗜んでいた青年──葉山隼人が、アイドルにも勝るとも劣らない整った顔立ちに困り笑いを浮かべる。

 

「いろは、まだ比企谷にそんなことしてたのか。止めてやれってあれだけ言ったろうに……」

 

 ふふん、と何故か得意げに息巻く一色。

 

「葉山先輩にしてもいいんですけど、そうなるとどんなことしても淡々と対処していくだけですもん。かっこいいだけな分、面白さでは先輩には勝てませんよ」

 

「かっこいいだけ……⁉︎」

 

 さりげなく心を抉る言葉に、葉山は胸の辺りに疼痛を覚えた。それは生まれてこのかた、あらゆる面において恵まれたモノを持っていた完璧超人の葉山が、この世で最も傷つく言葉だった。

 何をやらせてもそつなくてつまらない。

 お前はかっこいいだけ。

 誰にも教えてないはずなのに、知らずのうちにその言葉を引き出した一色いろはという少女とその隠された嗜虐性に、葉山は戦慄した。

 しかし、休むことなく面倒ごとは畳み掛けられる。

 

「はちまーーーん‼︎ 今日こそは我と学園都市中の『ア〇メイト』を回る約束を果たしてもらうぞ‼︎ 覚悟はいいか……ってんん⁉︎」

 

「入室早々喧しいわよ材木座君。次やったら強制コールドスリープに移行させるから」

 

「いいえ、私が養豚場の豚と入れ替えてきてあげますよ仔豚先輩」

 

「て、手厳しいっ‼︎ というか先輩に向かって仔豚とは何事だ一色女史⁉︎ いや、そうではないのだ! 八幡は、八幡はどこだぁ⁉︎」

 

 部屋のドアを勢いよく開けて入ってきたのは、真夏だというのに制服の上からロングコートを着用した、やや肥満体型のメガネの青年。もちろん体からは、代謝の良さと本日の外気温とが相まって尋常でない汗が滲み出していた。それを見た一色は、うげ、と小さく声を上げる。

 

「比企谷は今日も来ないらしいな。またの機会にしてくれ、材木座」

 

 葉山は本に視線を戻しながらも、材木座義輝に柔らかな声をかけた。

 

「葉山隼人……、ふんっ仕方ない。ならば今回はこの『究極暗殺者』こと材木座義輝が、ただで任務にあたってやるとしよう。統括理事会めありがたく思うが良い!」

 

「報酬はちゃんと規定の額が毎回振り込まれているでしょうに。比企谷君と会うついで感覚で任務に当たるのはやめなさい」

 

 キーボードに置いた手を休めることなく、雪ノ下は冷たく材木座を突き放した。あからさまにしょんぼりとしてしまった材木座は、脱いだコートを部屋の端のハンガーラックにかけると、いつもの定位置──葉山の足元に敷かれた毛皮のカーペットに直に座り込んだ。

 

「……あれ、もしかして今日はこれで全員か?」

 

 しばしの沈黙の後、ふと疑問に思ったことを葉山はそのまま口にした。

 

「うちは構成人数だけはそこそこ居ますからねー。川崎先輩も三浦先輩も戸塚先輩も今回は非番らしいです」

 

 一色が、相変わらずソファの上でゴロゴロしながら答える。なるほど、と相槌を打った葉山は椅子から立ち上がると、代わりにしおりを挟み込んだ文庫本を置いて、雪ノ下の下に詰め寄った。

 

「この人数なら、任務の難易度もたかが知れてるな。雪ノ下さん、詳細を教えてくれ」

 

 雪ノ下は一瞬だけ葉山に目を向けるが、すぐさま淡々と作業に戻る。

 

「御察しの通り、今回は簡単な要人警護任務よ。今からファイルを全員の端末に送るから」

 

 そんな雪ノ下の様子──明らかに鬼気迫る指の動きと、瞳に込められたどこか不安げな光に気付いた葉山は、小さく眉を潜めてからぼそりと声を発した。

 

「……さっきから、何を調べているんだ」

 

 ぴたり、と雪ノ下の手が動きを止める。しかしそのまま数秒間フリーズすると、また何事もなかったかのように作業を再開した。

 

「別に、あなたには関係のないことよ」

 

「大体わかるさ。……比企谷のことだろ?」

 

 その言葉に、雪ノ下は今度こそ何かを迷うような表情を浮かべた。何度も何度も、何かを決意しては諦めて、を繰り返している様子を察した葉山は、それでも真っ直ぐ雪ノ下を見据え続けた。

 そしてとうとう、雪ノ下雪乃も『折れた』。

 

「……絶対に口外しないでね」

 

 雪ノ下はデスクに置かれた分厚いプリントを抱えてから立ち上がり、つかつかと部屋の外に向かって歩き始めた。一色も材木座も何気なく彼女の後ろ姿を目では追うが、それほどまでの興味は示していないようだった。

 ガチャン、とドアノブを回転させて、錆びた押扉を開く。

 雪ノ下の後を追って部屋を出た葉山は、ボロボロの廊下と、眼下に広がる夕暮れの寂れた街並みの中、雪ノ下の言葉をじっと待った。

 

「姉さんに頼んで、比企谷君が参加している──参加『させられている』実験とやらについて、少しだけ調べてもらったの」

 

 しばしの沈黙の後、雪ノ下は脇に抱えていたプリントを葉山に手渡した。

 神妙な面持ちで、葉山はそのプリントにさらさらと目を通す。幼少から読書用の熟読と作戦理解用の速読を使い分けることができた葉山は、今回は後者のスキルを使って一瞬でそのプリントを読み切った。

 

「………………………コレは……⁉︎」

 

 同時に、どうしようもないほどの嫌悪感、恐怖、怒りがこみ上げてきた。

 プリントに纏められていたのは、ある研究者が述べた、能力開発における人類史の到達点とも言える理論──『絶対能力(レベル6)』への進化実験にまつわる情報。

 

「止めさせるべきだ」

 

 学園都市最高峰のコンピューター、『樹形図の設計者』とそれが導き出したとある予測演算。

 超能力(レベル5)者第一位のみが到達できる絶対能力(レベル6)の領域。

 そのため、第一位に第三位を一二八回殺させる。

 超能力者を一二八人用意するのではなく、第三位の劣化模造品を二万体生産。第一位との戦闘を繰り返すことでこれの代用とする。

 

 プリントを雪ノ下に返し、脳内で完結に概要をまとめた葉山は、震える掌をぎゅっと握り込んで、力強く叫んだ。

 

「比企谷にも、そのクローン達にも、第一位にも‼︎ こんなこと、人間の行いじゃない‼︎」

 

 しかし、雪ノ下の表情は晴れず、微動だにする事もない。

 

「無駄よ。この実験を指示しているのは、私達の直上組織──統括理事会そのもの。アレイスター相手に、そんな意見が通るはずもない」

 

 勿論、そんなことはプリントを読み終えた時葉山はとっくに察しがついていた。これだけの大規模、かつ大量の金がかかっていることが分かる実験だ。それならもう、主導権を握る組織に心当たりがあるのは、葉山にもたった一つだけだった。

 千切れんばかりに唇を噛み締めて、見たことも会ったこともないクローン達と、窶れた目付きの見知った青年のことを思い浮かべる。

 葉山隼人には、もはやそれしかできなかった。

 

「何を今更善人を気取っているの、葉山隼人。私達はいずれにせよ、あなたの言う『人間の行い』を外れてしまったからこそ『暗部』にいるのでしょう。偽善じゃあ、この世界で何も救えないのよ」

 

 どこまでも冷え切っていて、どこまでも強い諦念を感じさせる言葉が、葉山を打ちのめした。

 そう、何も間違ったことは言われていなかった。雪ノ下雪乃の言葉はどこまでも正論で、だからこそどこまでも残酷に葉山の心を抉り取る。

 

「……何故、比企谷はこんな……っ」

 

 振り絞るような声で、葉山は小さく呟いた。

 雪ノ下は、遠くのビル群の合間に沈んでいく夕陽を眺めたまま、プリントを握る力を強くする。

 

「私達が首を突っ込んだところで、どこからどんな報復が待っているかわからないわ。比企谷君にも、私達が計画について知っていることは伏せるべきでしょうね」

 

 それは、とても静かで。

 

「待つしかない」

 

 それでも、強く心に焼き付けるための言葉だった。

 

「私達はただ、彼が大手を振って、あの腐って捻くれた笑顔で、私達の元へ戻ってくる日を待つしかないの」

 

 どこか祈りのようにも聞こえた雪ノ下言葉に、葉山もまた赤く燃える夕陽を見つめた。温かい光に照らされた雪ノ下の無表情な美貌は、いつもよりどこか感傷的な雰囲気を醸し出しているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 それから、まるで無邪気な子供が蟲の手足を引き千切り遊ぶかのような、一方的虐殺の様を比企谷は無言のまま眺め終えた。

 妹達九九八二号は。

 片脚を捥ぎ取られ。

 傍に置かれていた古いモノレール車両を『弾き飛ばした』一方通行の攻撃によって。

 頭上から押し潰されて。

 弄ばれたカエルの様に死んだ。

 

(……最後まで、あんなちゃちなモンに執着してたように見えるが)

 

 それは、九九八二号が着けていたカエルの缶バッチ。

 一方通行の猛攻の弾みでいつの間には弾け飛んでいたそれは。

 彼女が片足を引き千切られてもなお、這いずって拾いに行くほどの執着を見せたその缶バッチは今、九九八二号の死体と共に車両の下敷きになっていた。

 

(大事なモノだったのか……? 街で見つけてきた……いや、誰かに貰った……?)

 

 どちらでもいいことを考えながら、なんとも言えない思いで大きく溜息を突いて、比企谷はコンテナから腰を上げようとする。あとはいつも通り、一方通行に一声をかけ、さっさと事後処理をするだけである。

 ──しかし。

 

「……あぁ?」

 

 思わず比企谷の口を突いて出た、訝しげな声。それは彼が、第一位と妹達の戦闘に予定外の外部接触が無いよう、実験毎に周囲数百mに渡り張り巡らせている探知レーダー──『偽悪論者』の能力を応用した結界に、ある反応を感知したからである。

 

(オイオイ……何かの間違いでもなきゃ、これはまずいだろ。実験はどうなるんだよ)

 

 比企谷は咄嗟に、反応のあった方向に視線を向けた。だが、コンテナの上から見る開けた視界から飛び込んできた、その一人の『少女』の姿が、彼の心に燻っていた疑惑の種を確信に変える。

 

(あの制服、常盤台の……ってことはやっぱ!)

 

 比企谷は素早く体勢を起こし、すっとコンテナの上に二本の足で立ち上がった。

 

「おい、一方通行‼︎」

 

「…………あァ?」

 

 コンテナの上から声を張り上げる比企谷に、薄ら笑いを浮かべながら目前に横たわるモノレールと、その下敷きから染み出す赤黒い液体を眺めていた一方通行が、ようやく顔を上げた。

 

「なんだァ、珍しいじゃねぇかよぼっちクン。テメェの方から俺に話しかけるなんざ……」

 

「実験は終了だ‼︎ お前はさっさと引き上げ──……」

 

「──あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

 それでも遅過ぎた。

 比企谷の声を、少女の悲愴と憤激に塗りたくられた絶叫が呑み込んだ。大きく動揺する比企谷を傍目に、一方通行はピクリとも表情を変えず、声の主の方向にだらりと視線を投げる。

 最早、巨大な積乱雲の中で瞬く稲妻ともいわんばかりの青白いスパークを迸らせ、一直線に一方通行へと突っ込んでいく、茶色い短髪の少女。その容姿は、顔のパーツから、身につけている制服まで、ほぼ全てが妹達と同一のモノ。

 常盤台の『超電磁砲(レールガン)』──御坂美琴は、突如として実験場に現れ、息継ぐ間も無く一方通行との戦闘を開始した。

 

「……ハァ? なンだコイツ」

 

 心底面倒くさそうな渋面。相手を舐め切った表情を浮かべる一方通行とは対照的に、震える瞼を見開いて明らかに正気を失った様子の御坂は、早速自身の能力で生成した一条の雷撃の槍を、一方通行に投擲した。

 バチバチとけたたましい音と閃光を撒き散らし、亜音速で突き抜けたその攻撃は──見事一方通行の頭部を撃ち抜くかと思われたが、しかし直前に、カクンとその『軌道を突如折り曲げられた』。

 バチンッ‼︎‼︎ と弾けた雷撃は、結果として一方通行の背後に横たわるコンテナの表面を、真っ黒に焼き焦がす事になった。

 

「……見た目からすっと、また新しい人形か。こンなの聞かされてねェんだけどよォ、比企谷クンは知っ──……」

 

「ぅああああああああッッッ‼︎‼︎」

 

 一方通行は、眼前の電撃使いに微塵の脅威も感じていなかった。彼をもってすれば、何億Vの雷撃が降り注ごうと、それは耳元を飛ぶ羽虫ほどの煩わしさしか生まない。

 会話を続けようとした一方通行に、御坂は次なる雷撃を繰り出した。今度も同じ威力、されど手数は十倍。十条の光の筋は、またも鋭い軌道で一斉に一方通行へと殺到するが──当然の如く、直撃の手前でガクンとその向きを変えた。

 

「……てたワケ? だとしたら舐めてんなァ、俺には普通伝えるだろォが」

 

 何事もなかったかのように言葉が続く。ニヤニヤと高圧的な笑みを浮かべ、やや三白眼気味な深紅の瞳孔が比企谷を射抜いた。

 そんな中、狙いを大きく逸れ、でたらめな地面や、車両、コンテナの壁を撃ち抜く雷撃の束を見て、御坂は漸く少しだけ冷静さを取り戻した。

 

(私の電撃が、通らない……⁉︎ いや、そもそも当たっていない⁉︎)

 

 一方通行の持つ得体の知れない力に、じりじりと後退し始めた御坂は、一旦攻撃の手を止め、何かを長考する素振りを見せるが──直ぐに、そんな平常心も失うこととなった。

 御坂の足元に転がっていたのは、血みどろの脚。それは御坂と同じ肌色と、同じ白のソックス、同じ革のローファーを身に付けた、九九八二号の脚だった肉塊だ。

 

「あ……あ、あ…あああ…!」

 

 御坂は、震える全身を抑えつけるように、自らの肩を抱いた。その震えは、吹雪の如く凍てつく恐怖のせいか、それとも身を溶かすマグマのような憤激のためか。

 

「うあああああああああああああああああああああああああああああああッッッ‼︎‼︎‼︎」

 

 ただそれは、御坂の動揺を極限まで高め、言語能力すら一時的に奪うほどの衝撃を、彼女に与えた。

 コンテナの上から全てを俯瞰する比企谷は、再び膨大な電撃を生成しだした御坂の姿に、忌々しげな舌打ちを漏らした。

 

「九九八二号と面識があった上に、後を追ってきてたのか……! 最悪のエンカウントだ」

 

 果たしてどう動くべきか迷った比企谷は、具体的な行動を起こす前に、まず実験関係者と連絡を取ることを優先した。長点上機学園指定の藍色の制服──その胸ポケットから、緊急用小型端末を取り出す。

 

「……ちッ‼︎」

 

 しかし、液晶に映った端末の電波状況は、『圏外』とだけ示されていた。瞬時に、それが御坂の放つ出鱈目な電磁波のせいだと悟った比企谷は、もはや微塵の役にも立たない鉄屑を足元に投げ付け、瞬時に神経を研ぎ澄ます。傍観者を辞め、『力を振るう者』に思考をシフトする。

 

「早まるなよ、一方通行!」

 

 焦燥の面持ちで第一位と第三位との間に介入する隙を狙う比企谷の眼前において、それでも戦闘は終わる気配を見せない。

 御坂美琴は、ありったけの激情を電磁力に変換し、足元の砂利道から大量の砂鉄を濾し取ると、竜巻のように渦巻く極小の刃と化したそれで、一方通行を呑み込んだ。触れるだけで人間が挽肉になる威力を、握り込むように、白髪の殺人鬼を中心にぐんぐんと圧縮していく。

 それでも、一方通行には有効打たり得なかった。

 砂鉄の嵐が、なんの前触れもなく真っ二つに引き裂かれた。途端、御坂の電磁力による制御から外れた砂鉄は、ふわりと宙で吹き消えていく。

 

「オイ、随分と出力上がってンじゃねェかよ。……つってまさか、オマエ」

 

 御坂美琴は戦慄した。

 俄然余裕の表情を崩さず、むしろ至極愉しげな笑みを浮かべた一方通行と、薄い砂鉄のヴェール越しにばちっと目が合ってしまったからだ。真っ白な白眼と、真っ赤な瞳孔。そこには、凡ゆる人間の善性をまるで感じられない。

 完全に、御坂の理解の外にある存在。御坂は、思わず一歩後ずさった。

 

(そんな、私の能力をあしらえるやつなんて、『あいつ』以外に居るはずが──……!)

 

 御坂の脳裏に浮ぶのは、あるツンツン頭の少年の顔。それまで幾度と無く、少年の『不思議な力』の前に敗北してきた御坂だったが、今回ばかりは『何をどうされて』いるのかも分からない。少年のように『打ち消される』のではなく、ただ『まるで攻撃が通じていない』としか表現できなかった。

 この時の御坂はまだ、眼前の白い悪魔の正体に全く察しがついていなかった。

 

「アッハァ、分かった。オマエ『オリジナル』かァ」

 

 一方通行の口元が、ぎちりと横に裂けた。見る者に根源的とすら思える恐怖をもたらす凄惨な笑顔に、御坂はついに『最後の切り札』を出すことにする。

 スカートポケットから鉄製のゲームコインを一枚掴み取り、コイントスの要領で指先に綺麗に挟み込んで──それを一方通行へまっすぐと突きつけた。

 

「あんた……あんた達、一体何が目的でこんな実験してるの?」

 

 それは、引き金に指をかけ、最後の投降を訴えかける刑事のような、切迫した思いだった。御坂にとっての『ソレ』は、精神的に絶対の拠り所とも言える大技ではあるものの、生身の人間を相手に本気の出力で使うからには、もはやそれは『相手を殺そうとすること』、殺人と同義だからだ。

 御坂は、ボロボロに磨り減った精神で、それでも一方通行と少し遠くに身構えた比企谷を目一杯睨みつける。

 

(こいつ……『絶対能力進化計画(レベル6シフト計画)』の概要を既に知っているのか)

 

 比企谷は、御坂の言葉に思わず落胆の溜息を吐いていた。最高レベルの機密のはずが、今日だけで第三位本人にクローンの存在がばれ、その上で計画の大筋すら割られてしまっている。ただ上層部の人間を情けなく思うあまり、眉間の皺をもんでしまう。

 

「ハハッ。オイ三下、アンタ達だってよ。お前完全にとばっちり喰らう流れじゃねェの?」

 

「………」

 

 っせぇな、と内心で呟きながら、比企谷は敢えて一方通行の言葉に反応を示さなかった。そんなことよりも、この現状──第三位の存在をどう穏便に処理するかばかりに腐心していた彼は、難しい顔を浮かべたまま体を硬直させている。

 

「いいから答えてッ‼︎‼︎‼︎」

 

 一方通行と比企谷、どちらからもまともな回答を得られなかった御坂は、逆上したかのように声を荒げた。そこでようやく比企谷は御坂の声に気付き、一方通行は軽く舌打ちをしてからゆっくりと口を開いた。

 

「なんでってそりゃァ……『絶対的なチカラを手にするため』、だろ」

 

 ──数秒間、時間の流れが停滞する。

 

「……………………………………は、?」

 

 暫くして、御坂美琴の震える声が、隙間風のようにか細く、操車場の闇に響いた。

 

「学園都市第一位とか、『超能力者』だとかはどうでもいいンだよ。俺が欲しいのは、挑む気すら起きないほどの絶対的なチカラ。『無敵』が欲しいってこったァ」

 

 分かンねーかなァ超能力者なら、とほくそ笑む一方通行。対して御坂美琴は、それまでの感情すら全て飛んで、一転真っ白な表情を浮かべてしまうほどに衝撃を受けていた。

 それは、予想を遥かに『下回る』返答があったから。

 下らない。いや、下らな過ぎる。

 まさか、眼前に立つこの男は。

 

「……あ、んたは、そんな……そんな、理由で、そんな理由のために……ッ」

 

 突き出した御坂の右手が、制御を失い震え出す。やがて、その指先に添えられた鉄製のコインが、目に見えるほどのスパークと共にエネルギーを充填させていった。何億Vもの電圧すら制御する『常盤台の超電磁砲』が、全身全霊で撃ち出す『ソレ』は──……

 

「あの子を殺したのかあああああああああああああああああああああああッッッ‼︎‼︎‼︎」

 

 ドゴッ‼︎‼︎ と空気がごっそり吹き飛ばされるかのような轟音と共に、御坂の右手の先から『ソレ』は発射された。

 ──『レールガン』。

 電磁力で音の三倍にまで加速して射出されるコインは、それだけで合金をも溶かす必殺の威力に変化する。学園都市第三位が持つ最大の切り札にして、彼女自身の代名詞とも言える一撃である。

 辺りを呑み込むほど眩い光を放ち、その極太の熱線は一直線に一方通行へと殺到した。

 爆発的なスピードで空気を掻き分け。

 鉄すら瞬時に溶解する熱を込めて。

 一方通行の細身な身体を消し飛ばす。

 ──はずだった。

 

「もういいだろ、このへんで」

 

 レールガンの軌道に突如割り込んできたのは、比企谷八幡。

 常に冷静さを欠き、比企谷の介入など念頭にすらなかった御坂にとっては、それは本当に突発的な出来事だった。

 徒手空拳の比企谷。その背面から、いつの間にか『猛禽類のような燻んだ色の双翼を生やした』青年は、まっすぐ横に伸ばした左翼をそのままに、右翼を自らの体を覆い隠すように折り曲げると、『正面からレールガンとぶつかった』。

 当然、レールガンが内包する威力は、半端な能力者ではまともに太刀打ちができないほど膨大である。それでも現実に、比企谷八幡は真っ向からそれとかち合い。

 

 ──あまつさえ、無効化して見せる。

 

 オレンジ色の極太レーザーは、翼の羽毛に軽く触れ合うほどの位置で、まるで時間そのものが停止したのかと思うほど唐突にピタリと止まると、一瞬の内に核となるコインを残して蒸発する。

 音も無く。

 衝撃波も無く。

 肌を焼く熱波も無い。

 ただ、消え去った熱エネルギーと入れ替わるように、比企谷の左翼が煌々と輝き出したかと思うと──ドズン‼︎‼︎ という地鳴り音と共に、操車場の遥か遠く、どこかも分からないような方角から、巨大な爆炎が上った。

 

「……嘘……でしょ……………?」

 

 御坂は、一体何をされたのか全く理解が追い付かなかった。漠然と、レールガンを『無効化した』上で、本来炸裂するはずだった衝撃を、転移能力の如く『他の場所に移された』のだと感じた。

 コンテナで埋まった地平の向こうから立ち上る炎が、闇夜の暗がりの中で御坂の顔をほんのりと照らし出す。

 御坂はふらつく視界で、眼前の男二人を見た。

 ただでさえ微塵も歯が立たない学園都市第一位を前に、更に自分の『とっておき』を難なく無効化する能力者までもが居合わせている。その現状に、改めて戦慄していた。

 

「帰れ、『超電磁砲』。これ以上の接触はお互いの為にならない」

 

 混乱しきった御坂の顔に正面から向き合う比企谷は、自分の能力をわざわざ語るつもりなど毛頭無かった。ただでさえ派手嫌いな比企谷は、この能力をそもそも好きではなかったし、元はと言えばこの能力こそが、現状の比企谷本人を現状たらしめているとも理解していたからだ。

 それでも能力を使用したのは、あくまで目的を果たすため。狂ってしまった実験計画を、これ以上狂わせないためだった。

 

「オイオイちょっと待てよ三下ァ。ナニ邪魔してくれちゃってんの? せっかく出来損ないの雑魚共とは違って、本物の第三位を殺れたかも知れねェのによォ……」

 

 比企谷に庇われる形となった一方通行は、それを毛ほども気負う素振りもなく、若干の苛立ちの混ざった声で比企谷を糾弾した。

 だが、それも当然のことだ。もし仮に比企谷が一方通行の前に割って入る事が無く、レールガンが一方通行を直撃したところで、何の問題も無いはずだったのだ。息を吸うより簡単に、一方通行はレールガンを『弾き返し』、そのまま来た軌道を帰ることとなった熱線は『御坂美琴を焼いていた』だろう。

 

「……お前、本気で言ってるのか。オリジナルを殺せば、一体どれだけのイレギュラーが引き起こされると思ってんだ。最早実験の範疇での問題じゃあ無くなるぞ」

 

 寧ろ比企谷が懸念したのは、その可能性であった。わざわざ超能力者同士の化け物じみた戦いに割り込んだ理由は、単に超能力者という数少ない人的資源を守るためだ。

 

「アァ? 当然分かって言ってるに決まってンだろォ。そろそろスライム潰しにも飽きたから、新しいモンスターブッ殺して経験値多めに欲しいと思ったんだよ」

 

 その言葉に、比企は自分でも根拠の分からない怒りを覚えた。それは果たして、計画に対して真摯さを感じないためか──あるいは。

 

「予定に無い接触は避けろ。どんな些細な事から、実験に綻びが生じるか分からん」

 

 窶れた双眸を鋭く細め、比企谷は背後の一方通行に睨みをきかせた。巨大な翼を携えるそんな彼の姿に、側から見ていただけの御坂までもが非科学的な質の威圧感を覚えていた。

 

「……退け、第一位。もう二度は言わねえ」

 

 しばらく、比企谷と一方通行は互いを睨み合う。視線を交えたまま、やがて迎える決壊の時に向けて痺れるような緊張感が辺りに満ちていく。

 ──しかし。

 

「…………チッ。分かったよ、めンどくせェこった」

 

 以外にも、一方通行の方が先に折れる形で二人は視線を切った。まさか一方通行が怖気付いたわけでもないことは、相対していた比企谷も十分に理解していたが、それでも一方通行がそれなりに実験に気遣いを見せたことに、彼は内心思わず驚いていた。

 砂利を踏みならして踵を返し、明後日の方向に歩き出した一方通行を見て、御坂はその場にへたり込んだ。彼女をそうさせたのは、極限の緊張感からの解放か、それとも余りにも痛烈な無力感か。

 

「……ってそォだった、自己紹介が遅れて悪かったぜ『超電磁砲』」

 

 そう言って突然くるりと方向転換した一方通行は、来た道を戻り、膝から崩れ落ちたままの御坂の耳に口を寄せ。

 

「『一方通行』だ」

 

 囁くように、絶望を告げた。

 

「ヨロシク」

 

 不敵な笑みを浮かべて、今度こそ一方通行はその場を後にした。砂利を踏み分ける音が次第に遠くなって、闇の中に消える。

 御坂美琴は揺れる脳の中で、ただその名前を反芻し、しばらくしてようやく意味を理解した。

 学園都市第一位。

 あらゆる物体の『ベクトル』を操作する超能力者。

 たとえ核兵器を使用したとしても倒せない、とまで言われる出鱈目な力を振るう青年。

 それが御坂の知る、『一方通行』の名が示すところであった。

 

「……あんま踏み込んだ事は言いたくねぇ。俺もあくまで、上から与えられた仕事として現場に立ち会ってるだけだしな」

 

 一方通行と入れ替わるように御坂の前に立ったのは、レールガンを打ち破ったもう一人の青年──比企谷八幡だった。

 

「……まぁそれでも、くれぐれもこれ以上、俺達に関わろうとはするな」

 

 比企谷は、努めて突き放すような低い声で、御坂に言葉を投げかける。

 

「…………………なんとも、思わないの?」

 

 御坂は茫然と俯いたまま。

 じわりと汗のにじんだ自分の両脚を、穴が空くほど睨みながら、比企谷にそう問うた。

 

「さっきの……『一方通行』は、もう何となく分かる。でもあんたは、まだ、完全に『おかしく』なってないんでしょ?」

 

 比企谷は、反応らしい反応を御坂に返さない。

 

「こんな実験、狂ってるって‼︎‼︎ そう思わないの⁉︎⁉︎」

 

 いや、もしかしたら表情で何かを示しているのかも知れないが、今の御坂には彼の顔を見上げるほどの気力も、その資格すら無いように思えていた。

 

「…………………さぁ、どうなんだろうな」

 

 怒鳴りつける御坂の声に、比企谷は冷たくそう返した。

 ぴしゃり、と冷気が辺りを打ち付け、僅かな夜風の音すらうるさく感じるほどの静寂が支配する操車場。

 そんな中御坂の耳に、どこからともなく砂利を踏みしめる無数の足音が飛び込んできた。

 咄嗟に顔を上げて──戦慄する。

 今日何度目かも分からないそれに、御坂は何周も回って死にたくなるほど自分を情けなく感じた。

 

「…………………あんた達、」

 

 顔、顔、顔。

 まるで悪い夢でも見ているかのごとく、見上げる限りに御坂が毎朝鏡の前で見慣れた顔がそこにはあった。

 同じ制服。同じ髪。同じ声に。同じ顔。

 妹達。現在生産を完了し、実験に使用するための微調節を施されている最中の全二十三体がそこに集結していた。

 その目的はいつも通り、『実験の事後処理』。自身と同一の存在とも言える死体を回収し、現実に被害を及ぼした建造物等の修繕、詐称報告。

 

「『偽悪論者』さん。予定通り事後処理に入りますので、お願いします。と、ミサカは控え目ながら共同作業の要請をします」

 

「おう」

 

 比企谷は応えて、御坂に背を向け歩き出す。

 それから、独白のように空を向いて言葉を紡いだ。

 

「これは豆知識だが、妹達一人一人の単価は十八万円相当。ボタン一つで大量に生産できて、試験管から出されたばっかの赤ん坊同然の自我には、最低限の知識だけ、『学習装置』を使い脳に刷り込んである。妹達一人を作るのに必要なのは、たったこれだけの工程ってワケだ」

 

 御坂の肩が揺れる。

 ついに、茫然自失。

 この数分の間に起きたことだけで、とっくにキャパオーバーだった御坂の思考は、ようやく破綻した。

 

「この世界では……いや、少なくとも学園都市では、命の価値ってのはきっと平等じゃねぇ。お前もこれからの身の振り方は、よく考えておけ」

 

 後ろ手を上げて、比企谷は最期に『名乗る』ことにした。

 

「『絶対能力進化計画(レベル6シフト計画)』、現場監視役の『偽悪論者(バイスチューナー)』だ……別に覚えなくていい」

 

 数人の妹達と共に、比企谷が操車場の闇に溶けていく。残されたのは、かつての快活で他人思いな様子など見る影もなくなった、抜け殻の御坂美琴だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




書庫情報

一色いろは
十六歳
霧ヶ丘女学院所属(籍のみ)
大能力者 『相互移動』
二つの物体の座標を入れ替えて転移させる。自分と他物体、他物体同士の二通りで使い分ける事が可能だが、後者は余計な演算処理能力を必要とするため、連続行使するとすぐに限界を迎えてしまう。現在転移可能な総重量は、自身の重さ+二〇〇キロまで。また最低でも五キロの重さはないと転移させることができない。
この能力と、爆薬や鈍器による暗殺術を併用した中近距離戦闘を得意とする。

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