特級人型危険種『風見幽香』   作:歩く好奇心

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口調とか、名前の呼び掛けとか、帝具の能力が若干原作と異なっているとこがあるかもしれません。
指摘して頂ければありがたいです。

あと感想と評価、ありがとうございます。
誤字もわざわざして頂き、本当助かっております。



相変わらずね

ナイトレイドアジト、大広間。

ナジェンダの召集にメンバーが集まる。

 

「ただいま戻りました。皆さん、心配かけてすいません」

 

その日、シェーレが治療を終えて帰ってきた。

 

「あ、マイン……」

 

「シェーレええええ!!!!!!」

 

言葉がかき消される。

彼女の登場とともに、マインはいの一番に彼女に飛び付いた。

衝動的な飛び付き。

その顔は綻んでおり、目には涙すら浮かべている。

 

「ま、マイン、あ、危ないです、落ち着いてください」

 

「ほんっとよかったあぁぁああ」

 

シェーレが戸惑いながらも宥めるが、マインは構わず彼女を強く抱き締めた。

 

シェーレの元気な姿に、喜びを抑えられなかった。

二ヶ月にも渡る治療。

この日をどれ程待っていたか。

 

他の面々も彼女の復帰にホッと安堵した。

 

「シェーレ、体調はどうだ?」

 

「はい、ボス。任務に支障はありません」

 

煙草を片手にナジェンダは尋ねると、彼女は穏やかな表情で返す。

 

「そうか、ではすまないが早速次の任務から入ってもらおう。体調が優れない時はすぐに言ってくれ」

 

ナジェンダはホッとした。

 

二ヶ月の治療期間。

それは彼女の怪我の重傷度を示してもいた。

彼女は優秀な暗殺者だ。

数少ない帝具の使い手を失ってしまえば、大きな戦力ダウンは免れない。

 

 

「ったく!心配させやがってぇコイツぅ」

 

「あ、ちょっとレオーネ!シェーレは病み上がりなのよ!そこんとこは配慮してあげてよね!」

 

バンッと彼女の背中を叩くレオーネに、マインはすかさず声を荒げて指摘する。

 

「……ま、マインがそれをいうのかよ」

 

自分を棚に上げる彼女に、レオーネは口端をヒクヒクさせて苦笑い。

 

彼女のことを構わず、衝動のままに抱き付いていたのはどこの誰なのか。

他のメンバーも何とも言い難い心持ちになり、マインのむちゃくちゃさに苦笑する。

 

「よし、では復帰祝いに豪勢なメシとするか!」

 

「肉!!」

 

優しげな微笑みで、そんなやり取りを見つめると、ナジェンダはふと思い立って提案する。

 

その提案に、アカメは目の色を変えて食い付いた。

黒色の瞳孔に星が輝いている。

彼女の頭では、今日の昼食は肉料理と決定した。

 

「じゃあ俺に任せてくれ!腕によりをかけてつくってやるぜ‼」

 

「いい肉を頼む」

 

「下僕の癖に良い心がけじゃない!ターンとつくりなさいよね!」

 

シェーレとは初対面となるタツミだが、自身も仲間の復帰を祝おうと、彼は手をあげて意気込みを見せた。

 

間髪を入れずに注文するアカメ。

 

「だから誰が下僕だっての!!」

 

「何よ‼褒めてあげてんのに、生意気ね!!」

 

そしてマインは彼女なりに褒めたつもりだが、タツミは下僕扱いに過敏に反応し、二人は言い合いとなった。

 

「毎度のことだが、よく飽きないな二人とも」

 

しかし、その二人の言い合いは日常の光景となっており、周りもやれやれと笑っている。

 

「………ふふ」

 

そんなやり取りを見て、シェーレも笑みをこぼした。

 

「いいから、早く行くわよ!私も手伝うわ!」

 

タツミの手を引っ張り、マインは「早く早く」と食堂へと向かうと、二人は大広間から出ていった。

 

「痛ッ」

 

大広間から出る際に誰かとぶつかる。

勢いよく突進したため、マインは尻餅をついた。

「っ~」とお尻を差すって睨み付ける。

 

 

「あら、ちゃんと前を向いて歩きなさいな。親にそう教えてもらわなかったの?」

 

……幽香であった。

 

 

「……あちゃー」

 

ラバックは、やってしまった、と言わんばかりに、目を片手で覆った。

 

他のメンバーも、あーあといった感じに、どこか諦めた顔をする。

 

また始まるのか。

ナジェンダは顔に手をやって、ハァと息をつく。

 

「な!アンタね!」

 

「ま、まあまあ。マイン、今はシェーレの復帰祝いが先だろ、早く行こうぜ」

 

またケンカになってしまう、と危ぶんだタツミはマインを説得し食堂へと引っ張っていく。

 

「あ、あと幽香さん……」

 

シェーレの治療からの復帰とその復帰祝いのご馳走。

彼は去り際にそれだけ伝えると、唸るマインを連れて去っていった。

 

 

「……これは何の集まりなのかしら?」

 

二人を見送ると大広間へと顔を向けて、ナジェンダにそう尋ねる。

視界に見知らない顔を見つけるが、幽香は特に気にした風もなく、視線をナジェンダへと向けた。

 

「ハァ……」

 

召集には時間通りに来てほしい。

そう注意したかったナジェンダだが、ため息をついてそれを飲み込みんだ。

 

「紹介しよう、シェーレだ。今までは治療で仕事ができなかったが、今日から復帰することになった」

 

「シェーレです。よろしくお願いしますね」

 

シェーレはニコリと微笑んでお辞儀をするが、幽香はふーんと無表情で向き合うだけであった。

 

「そう、大変だったのね」

 

幽香は平坦な口調でそう言った。 

 

何の感慨も持っていないような言葉だ。

それを聞いて、一体誰のせいでこうなったのか、と思わずにはいられない。

 

苦笑する者、ただ無言で見つめる者、反応は様々だ。

 

「…ああ、幽香。私達と始めて会った時、シェーレとは一応、一度会っているんだが覚えてないか?」

 

「…全く覚えてないわね」

 

ナジェンダはそう確認するが、幽香の返答に、まあ仕方無い、と苦笑する。

 

シェーレの怪我は彼女の正当防衛が原因だ。

幽香に非はない。

とはいえ、どこかやりきれない気持ちが残るのは確かであった。

 

「ボス」

 

顔を向けると、シェーレはニコリと頷くが、ナジェンダは、ええ?といった感じにキョトンとする。

 

「幽香さん。あの時はごめんなさい。仕事とはいえ、斬りかかって」

 

その言葉に、ナジェンダだけでなく、幽香もキョトンとする。

何を言ってるのかこいつは、と訝しげな顔だ。

 

「何を謝っているのかしら。急に謝られてもこっちが困るわよ」

 

「でも、貴族の館で会った時に、私は貴方を殺そうとしてしまったので」

 

「そう。私は覚えてないから、別にいいわよ」

 

興味なさげにそう答える幽香。

しかし、シェーレはそんな彼女を気にした風もなく、微笑んで続ける。

 

「あくまでもけじめです。私は幽香さんとも仲良くやっていきたいですから」

 

その言葉を受けて、幽香は彼女をじっと見つめ続ける。

 

そして淡々とした口調で「そう」と呟くと、その場を後にした。

 

「…………」

 

シェーレの肩にポンと手が置かれた。

見ると、ナジェンダは目をやや潤ませ、優しげなな表情でシェーレを見つめている。

 

「……?」

 

「シェーレ、お前はやはり出来る子だ」

 

ナジェンダはやや感極まっていた。

 

幽香がいると、いつ険悪な空気になるか、と彼女はいつも心配していた。

 

ここにいる者達は志が高く、実力もある。

自分のために、苦しんでいる人達のために頑張れる心の強い者達ばかりだ。

 

しかし、それでも若いことに違いはなく、その精神も年相応だ。

対人関係もそう上手くはいかない。

 

それ故に、

 

シェーレの大人な対応と素直な気持ちに、感謝と感動が胸に渦まいたのであった。

 

 

 

それから幽香はシェーレとペアを組むことが多くなった。

シェーレを始めとして、ここからメンバーとの人間関係を改善してほしい、といったナジェンダの思惑があった。

 

「あっ」

 

幽香と一緒に料理をしていたら、シェーレは鍋を爆発させた。

 

「……………」

 

「……すいません」

 

幽香は無表情ながらも、何をしてるんだコイツは、とでも言いたげな様子である。

 

しかし、それだけでは終わらなかった。

 

掃除では花瓶を割りまくる。

 

はたきも折れば、ついでとばかりに箒も折る。

 

買い物では商店にすらたどり着けない。

着いたとしてもただで終わらず、メモとは違うものばかり籠に放り込み始める。

 

洗濯も同様だ。

バタンと洗濯機の蓋を閉めたと思ったら、瞬時に部屋一面が泡にあふれる。

仕舞いには、「お洗濯しますね」といって、幽香を洗濯機に入れようとする程のトンチキな行動を見せる始末であった。

 

 

「……貴方、頭がおかしいんじゃないかしら」

 

流石の幽香も呆れを隠せなかった。

普段は変わらない表情に歪みを見せる。

 

「……よく言われます」

 

彼女はションボリしてそう答える。

 

「昔から本当にドジで何もできなくて、何一つ誇れるものがありませんでした。頭のネジが外れているともからかわれました」

 

「そんなことでよく暗殺なんてできるわね」

 

本当に信じられない話だ。

暗殺はできるのに、掃除、洗濯等といった雑用ができないこの矛盾。

 

「暗殺の才能があったんです。そしてそれが、私の唯一できること……」

 

彼女はそう言って俯いた。

 

暗殺のための高度な体捌きと躊躇いのなさ。

仕事をともに行ったこともある故に、彼女のそれはまさに本物だ、と幽香は認めざるを得なかった。

 

才能。

 

確かにそう言う他ないのだろう。

 

しかし……

 

「……………」

 

幽香は何もいわずに、俯いた彼女を見続ける。

 

シェーレが何かを決意したように顔をあげた。

 

「だから、私とても悔しかったです。唯一の取り柄である暗殺が、…私の暗殺がいとも簡単に捌かれたことが」

 

彼女は幽香を見つめてさらに続ける。

 

「私が否定されたようで。暗殺しか……取り柄がないのに……」

 

シェーレは悩んでいた。

 

彼女は暗殺以外の雑務が全てできなかった。

暗殺だけが唯一の自分が出来ること。

 

彼女は人一倍劣等感を持っていた。

 

それ故に、戦場で足を引っ張ることが、誰よりも嫌だったのだ。

自身の価値が否定されるようで。

 

「…………」

 

何か思い詰めたように、さらに呟く彼女の言葉。

 

幽香は無言でそれを聞き続ける。

しかし、その表情はどこかつまらなさげであった。

 

 

 

 

「次の暗殺対象についてだが、お前らも噂で聞いたことはあるだろう。連続通り魔の首切りザンク、コイツだ」

 

ナジェンダはメンバーを集め、次の任務を言い渡した。

 

首切りザンク。

元は帝国の監獄で働いていた処刑人。

大臣の恐怖政治で毎日の様に死刑執行が続き、命乞いをする人々を殺していく内に精神に異常をきたした。

現在では首を斬るのが癖になり、無差別に人を殺す大罪人である。

 

 

「討伐隊ができた直後に姿を消しちまったみたいだか、また現れたのか、あのヤロウ」

 

「ああ、警備隊もかなりやられている。行方不明直前に帝具を盗んだという情報もある。油断ならない相手だ」

 

拳を握って静かに怒りを示すブラート。

彼の言葉に相槌をうってそう返すと、ナジェンダは二人一組で暗殺に向かうことを提案した。

 

「奴もある意味被害者だが大罪人には違いない。遠慮はいらん。」

 

彼女は厳かに続ける。

 

「それにこれは帝具を回収するチャンスでもある。帝国に取られる訳にはいかん。何としても先に回収するんだ」

 

「ゆけ」と手を振り出撃を示す。

メンバーはやる気を示す返事とともに出撃へと向かった。

 

 

 

「……悪、悪、悪はどこにいる」

 

その日、セリューは夜の見回りをしていた。

 

彼女は非番であった。

しかし、心中穏やかでない彼女は、家でじっとしていることはできなかった。

 

帝具の消失、愛犬コロの死亡。

 

そんな悲しみもあるが、胸中には更なるある感情が占めていた。

 

「悪は断罪、滅却してやる」 

 

悪鬼を思わせるその表情で、彼女はそうぶつぶつと呟く。

 

緑髪の女性。

彼女への。

悪への憎悪で一杯であった。

 

自身の無力さ故に、目の前で悪を見逃したことが彼女は許せなかったのだ。

 

 

「……辻斬り。これ以上の悪を許すわけにはいかない」

 

彼女は噂の首切りザンクを探している。

悪に負けた故の、怒りと憎悪に駆り立てられての行動であった。

 

「今度こそ、悪を断罪してみせる!!」

 

正義の鉄槌。

 

その言葉を胸に、セリューは夜の街を駆け出していった。

 

 

 

「愉快愉快、今日も皆悪い子だ、こんな夜中に出掛けるなんて。最近は物騒になってきているのに。ああ、大丈夫なのかな、あの子達は、僕は襲われないか心配だよ」

 

天を穿つ程の高さを誇る時計塔。

首切りザンク。

彼はそのてっぺんで眼下を見下ろしていた。

歯を剥き出しに、喜悦の表情を浮かべている。

 

「愉快愉快、ああ、いけないなこんな夜中に。美女二人で夜のお散歩なんて、なんて危ないのか。しっかり注意してあげないと」

 

彼は凶相な笑みをさらに深くする。

 

視線のはるか先には二人女性。

緑髪のショートボブと紫髪のロングが特徴的だ。

 

そんな彼女らを、額の無機物な瞳の視線が貫く。

 

眼球の形をした帝具『五視万能スペクテッド』

洞視、遠視、透視、未来視、幻視といった五視の能力を持っている。

 

ザンクはその能力を発揮し、遠視によって二人を覗いていたのだ。

 

「心配だ、心配だ。きっと彼女らは襲われる。僕が迎えに行ってあげないと、ああ、彼女らはどんな顔を見せてくれるのか、愉快愉快」

 

ザンクは次の首の標的を彼女らに定めると、その巨体に見合わない軽々しさで跳躍し、闇に溶け込んでいった。

 

 

 

「な、なんでここに……」

 

シェーレは目を見張った。

眼前にかつての親友が微笑んで立っている。

 

「シェーレ」

 

かつて親友が優しげな声でそう言った。

 

その言葉に、ふらふらとつい足が前に出るシェーレ。

彼女は目を潤ませる。

 

「……ほ、ほんとに、ほんとに、あなたなの?」

 

怯えていない。

親友が自身に怯えずに、優しく声をかけてくれている。

そのことに、彼女は感動せずにはいられなかった。

 

また、彼女と笑い合える。

 

シェーレは親友を抱き締めようと、夜の街を歩いていった。

 

 

 

 

「彼女、どうしたのかしら?」

 

幽香は目の前の現象に疑問に思った。

共に行動をしていたシェーレがふらふらと明後日の方向に歩いて行ったのだ。

 

声を掛けても全く反応を示さない。

 

「ねぇ、ちょっと聞いてるの?」

 

平坦な声が響く。

しかし、聞こえていないのか、彼女はそのまま歩いていく。

 

何が何やら、と幽香は呆れ顔でハァとため息。

 

「……仕方無いわね」

 

傍に駆け寄って、ポンポンと肩を叩く。

 

無視。

 

再びポンポン。

 

無視。

 

幻覚でも見ているのか、シェーレは前方を向いて嬉しそうな表情をするばかり。

幽香には相変わらず反応を示す様子がない。

 

彼女はやれやれと再びため息をつく。

もういいか、と諦めたような顔だ。

 

 

「幽香」

 

 

幽香は目を見開いた。

 

普段は冷めた無表情ばかりであるが、しかし、その時、彼女は呆気にとられた表情へと変えざるを得なかった。

 

「……う、嘘」

 

声に反応して振り向くと、そこには巫女服の女性。

 

長髪を束ね、お祓い棒で肩をポンポンと叩いて不敵な笑みを浮かべている。

 

「……………」

 

「そんなとこで何してんのよ?幽香」

 

巫女の女性にそう問われる。

不敵な笑み。

挑発染みた口調だが、どこか親しげな口調だ。

 

何がおかしいのかしら。

普段の幽香ならそう問い返すであろう。

 

しかし、今は、何も言葉を口にすることができなかった。

 

「アンタ、相っ変わらず無愛想よね!もっと嬉しそうにしなさいよ」

 

荒々しい口調でそう言うと、彼女は腰に手をあてて睨んでくる。

 

全く変わらないあの頃の彼女。

おぼろげな、掠れた記憶から彼女を思い出す幽香。

そう。

彼女はこうだった。

 

幽香は呆然と彼女を見続ける。

 

「何よ?さっきからだんまりしちゃって、もしかして私のこと忘れた訳じゃないでしょうね」

 

額に青筋を浮かべて、彼女は怒りだす。

 

その荒っぽい口調が、そのふてぶてしい態度が。

まさしくその全てが、彼女に他ならなかった。

 

幽香はフッと笑みをこぼす。

その瞳はとても穏やかであり、とても懐かしいものを見た、といった感じだ。

 

「………霊夢」

 

この名前を呼んだのはいつ以来か。

それすらも思い出せない。

 

とても懐かしかった。

 

「何よ、ちゃんと喋れるんじゃない‼ボケたのかと思ったわ」

 

フンッと鼻を鳴らして、憎まれ口を叩く彼女。

 

こんなやり取りも懐かしく感じる。

過去の自分に戻った感覚だ。

 

幽香は微笑みを浮かべた。

 

「霊夢、貴方も相変わらずね」

 

「フンッ、あったりまえじゃない!」

 

 

幽香の呼び掛けに気を良くしたのか、彼女は怒りながらも、ご機嫌な様子になる。

 

器用なのか不器用なのかわからない態度だ。

 

幽香はクスクスと笑った。

 

そして、

 

「ホラ、何ぼさっとしてんのよ。早くいくわよ!」

 

巫女服の女性は元気にそう言うと、笑ってむこうに駆け出していった。

 

 

 

 

 

「待ちなさいよ」

 

その瞬間、ザンクは言葉を失った。

 

彼女の言葉とともに、辺り一帯が異世界へと変わったのだ。

否、彼がそう錯覚したに過ぎない。

 

彼もその認識が錯覚であることはわかっている。

しかし、そう思わざるを得なかった。

 

「どこにいくと言うのかしら?」

 

その言葉は彼に向けられた訳ではない。

彼女の見ている幻覚に問い掛けているのだ。

 

しかし、

 

「(なんて殺気だ‼)」

 

夥しい寒気と共に、質量を伴った圧迫感が彼を襲った。

 

あまりの殺気に膝がガクガクと笑いだす。

 

「久しぶりに会ったというのに、連れないわね貴方は」

 

彼は愕然とした。

 

彼女は笑っていた。

どこまでも冷酷な瞳で。

しかし、その表情は獰猛な笑みを張り付け、凄まじいまでの眼光を解き放っていた。

 

「(まずいまずいまずい)」

 

先ほどまで喜悦に満ちた彼の顔が嘘のようだ。

 

今、彼の顔は驚愕と恐怖に染まっている。

 

「貴方が何で生きているのか、何でここにいるのか。……そんなこと、もはやどうだっていいわ」 

 

本能が大音量で警鈴を鳴らし続ける。

 

今か今かと物陰で、獲物を待ち構えていた彼であったが、今や彼女の首のことなど頭に全くなかった。

 

この場からの離脱、ただそれだけだった。

 

「霊夢。……今度こそ、私がぶち殺してあげるわ」

 

彼女と視線が合った。

 

「う、ぅあああぁぁああああああああ!!!!!!!」

 

必死の形相で、彼は物陰から逃げ出した。

 

 

 






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