特級人型危険種『風見幽香』   作:歩く好奇心

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ナイトレイド側の皆は、自分の行っていることを正しいとはしっかり思っています。
ただそれを正義って言ってしまうことに躊躇いがある状態なんです。葛藤に悩んでるっていうね。
多分そう思ってるんじゃないかなと、作者は思ってます。

あと、今さらですが、1話を前半だけ少し修正しました。内容はほとんど変わってません。




レオーネと幽香の戦闘が開始されて、しばらく。

戦況は拮抗していた……否、レオーネが優勢であった。

 

「……す、すげぇ」

 

遠巻きに見ているブラートがそうこぼす。

一度幽香にやられ、そして武術鍛錬でもその実力を痛感していることからも、無理のないことだ。

 

そして彼の呟きは他のメンバーの心境も表していた。

 

「ラア!!」

 

レオーネの四肢を自在に操った猛攻が幽香に迫る。

獣化の影響か、その速度は加速的に早まっていく。

 

「……アンタみたいなヤツに……暴力で苦しんでいる奴らの何がわかるんだ」

 

ドスを利かせた低いレオーネの言葉が響く。

 

「アンタみたいな最初から強いヤツに、……危険種なんかに!力無い人達のことなんかわかるわけがないんだ!」

 

戦闘により興奮が高まるのと同様に、レオーネの声音も高ぶっていった。

 

「大切な仲間が死ぬところを!!苦しんで死ぬところを、見たことあるのか!!」

 

強靭な爪が幽香の体を抉る。

かすり傷であるが、彼女の体は既に多くの軽傷が見受けられた。

 

「罪の無い人達を平然といたぶって殺す、貴族の顔をみたことがあるのか!!」

 

幽香は彼女の猛攻を止めるべく、腕を掴もうとする。

しかし、掴む直前。

彼女は恐るべき反射速度でその手を避ける。

 

「あんな糞外道共を殺したのは、アタシがそうしたいからだ!それが苦しんでいる皆のためになるからだ!」

 

レオーネは回避した姿勢から横凪ぎに蹴りを一閃。

鋭利な足爪。

幽香の腹部が横一字に血が噴き出す。

 

「それを正義とのたまえだってか‼ふざけんな‼そんなことを言っちまったら、あの糞外道共とおんなじになっちまうじゃねえか!!」

 

幽香は腹が裂かれるも、気にした様子はなく、眼前にいるレオーネを大振りに凪ぎ払う。

 

「ガハッ!?」

 

避けられず、壁への衝突。

同時に壁が粉々になり、レオーネはその余りの威力と衝撃に呼吸ができなくなる。

頭から血が流れ、血反吐をはいた。

 

彼女は激痛と眩暈に苦心しながらも、よろめき立つ。

 

「はぁはぁ……」

 

しかし、その瞳に光彩はなく、ドス黒さは健在であった。

 

「人殺しを正義だなんてのたまって、あの貴族と同じように、人を殺すことに胸張れってのかよ……」

 

「帝国を変えるためと言うなら、そうすれば?」

 

レオーネは絞り出すかのように言葉を発するが、幽香は事も無げに返した。

 

「人殺しを正義なんて言ってたまるか!アイツらと同じになってたまるかァア!」

 

レオーネは雄叫びを放つ。

 

「アタシはただ、今の帝国が無くなれば、それでいいんだよおおおおおお!!!!!」

 

ベルトの帝具が発光する。

それと同調するように覇気を全身にまとう。

 

圧迫を感じさせる威圧。

 

同時に、レオーネが視界から消えた。

 

「オラァ!!」

 

グワッと大きく振りかぶったレオーネから、強靭な爪が繰り出される。 

幾多の戦闘で磨き上げられた最速の動作。

獣化で強靭化された腕力をもって、幽香の後頭部を狙う。

 

幽香の背後。

レオーネは既に幽香の死角にいた。

獣と化した脚力を全開にすることで、目にも止まらぬ俊足が生み出される。

その速度が幽香の背後をとることを可能にしたのだ。

 

しかし、

 

「……なら、それでいいじゃない。何を怒っているのかしら」

 

パァンと弾ける強打音。

見れば、幽香は視線を前に向けたまま、その場に立っていた。

しかし、レオーネの一撃は直撃には至らない。

幽香は片腕を後頭部にやることで、紙一重でレオーネの一撃を手のひらで受け止めていたのだ。

 

「くっ」と悔しげに唸るレオーネだが、防御されることは織り込みずみ。

 

防がれた腕を軸に、瞬時に体勢を変えて側頭部への回転蹴りへと切り替える。

 

「がああああ!!!!!」

 

ベルトの帝具が発光する。

その瞬間、レオーネは局部的に獣化を進行させることに成功する。

倍以上に下肢筋肉が膨れ上がり、その蹴りは音速を越えた。

 

幽香は咄嗟に残った腕で防御する。

しかし、

 

「あら」

 

ブシャッ

 

幽香の頭部から血肉が飛び散り、レオーネは獰猛な喜色の笑みを浮かべた。

 

「ハッ!!、どう…」

 

レオーネは最後まで言えなかった。

皮肉の言葉を口にするや否や、爪の一撃で捕まれたままのレオーネの腕が振り回される。

 

「うぉおお!?」

 

そのままレオーネは幽香の頭上へとブオンと振り上げられ、その刹那、体が浮遊感を覚えた。

コンマ一秒も満たない時間。

次の瞬間、幽香は人外の怪力をもってレオーネを地に振りおろす。

 

あまりの急転直下に体の制御が利かなくなる。

レオーネは顔面から地面へと叩き付けられることとなった。

 

その衝撃の破壊力を示すかのように地響きが鳴り響いて、階層全体が揺れる。

 

そして、ナジェンダはその光景に呆然とした。

 

「……なんてことだ」

 

他のメンバーも口を半開きにするままだ。

 

レオーネがいない。

 

しかし、幽香はいる。

レオーネを地に叩き付けたであろう姿勢のままでだ。

 

幽香の眼前には特大の穴。

分厚い階層を二枚も穿つ大穴だ。

レオーネはその先に埋まりこんでいた。

 

そう。

彼女は人外の怪力に晒され、二つ下の階層にまで叩き付けられたのであった。

 

「悪く思わないで頂戴ね。癇癪の激しい小娘を宥められる程、私は寛容じゃないのよ」

 

戦闘前と変わらない、抑揚のない幽香の声。

 

「それに、これくらいしないと収まりそうにないみたいだし」

 

幽香の顔面は、ワシャワシャと植物の繊維がうなるように蠢いている。

体もだ。

傷を埋めるように植物が体表面を動いている。

 

半分以上消し飛んだ顔面が少しずつ修復されていく。

 

 

「……帝具も侮れないわね」

 

幽香は薄い笑みを浮かべてそう言い残した。

 

その光景はまさに彼女が危険種であることを再認識させるものであった。

 

 

 

「ほら、下僕!さっさと運びなさい」

 

「まてよ!まだ買うのか?マイン」

 

タツミは疲れた顔でそう言っても、

「早く、次々!」と気が強い口調で急かすマイン。

 

彼女は買い物を楽しんでいた。

タツミは両手一杯に荷物を持って付き従うが、彼女の様子に辟易とする。

 

マインとタツミは帝国に市勢調査にきていた。

しかし、それはただの名目。

マインは買い物目的で出掛けて、タツミを荷物運びとして連れ出したのであった。

 

二人は喫茶店で休憩をとり、外の席で一服する。

 

「何が市勢調査だよ。ただの買い物じゃないか」

 

タツミは紅茶を一口飲んで、そう言って愚痴る。

しかし対面にいるマインは全く気にした様子はない。

 

「買い物も立派な仕事よ、し・ご・と!ほら!これだって……えと、何かの作戦の立案で使うらしいんだから!」

 

そう言って、マインは買い物袋から品を取り出して見せつける。

しかし、その口調はどこかはっきりしない。

具体的にどう使うは知らない様子だ。

 

「……だとしても、明らかに個人的なものが九割じゃないか」

 

タツミは自身が運んだ大量の荷物を見て反論する。

紙袋を指先で引いて、中身をチラッと覗くと女性用品がほとんどだ。

「一体何に使うんだ」とげんなりする。

 

そんなタツミに、マインは指を指して怒鳴り出す。

 

「ちょっと!何乙女のものを勝手に覗いてんのよ!この変態!!」

 

「な!へ、へんたいて……」

 

彼は慌てて手を振って異論を主張しようとするが、彼女は構うことなく続ける。

 

「全く、これだから男ってのは嫌なのよ。下僕の分際で」

 

彼女は腕を組んで、そっぽ向く。

怒りを示すように「フンッ」と鼻を鳴らしている

その様子にタツミは「もういいや」と言って、抗議を諦めて肩を落とした。

 

「……て言うか、下僕ってなんだよ!俺はお前の下についた覚えはないぞ!」

 

彼はふと「下僕」という彼女の言葉を思いだし、再び抗議しようと身を乗り出すが、マインによる突然の腰への衝撃。

有無を言わせない彼女の蹴り倒しだ。

ガッと背中を踏みつけられ、彼女はキーッと怒り出す。

 

「アタシが上で!アンタが下!」

 

「な…に」と彼が顔を歪めて答えるのも束の間。

「わかった!?」とマインは激しく責め立てて、ゲシゲシと荒々しく踏みつけだす。

 

「何だよコレ!横暴だ!こんな扱いないだろ!」

 

グワッと起き立たてて、彼は猛然と抗議する。

あまりの不当な扱いと物言いに反対せずにはいられなかった。

 

しかし、彼女は突然表情を真剣なものにさせる。

 

「自惚れないでよね。すぐに対等になれると思ったら大間違いなんだから」

 

厳しい口調でそう言い放つ。

そして腕を組んで顔を逸らし、憮然とした面持ちで言い放つ。

 

「アカメやブラートはアンタに期待しているみたいだけど。どうかしら」

 

期待できそうにない。

マインは言外にそう吐き捨てた。

横目で見ると、彼はその言葉が気に障ったのか、ムッとした表情だ。

 

彼女からすると、彼の態度は全てが青臭かった。

入団する時も「正義の殺し屋だろ」などと聞いている方が恥ずかしくなるような言葉を口にしていたのだ。

浮ついていると言ってもいい。

その印象は二ヶ月経つ今でも変わらない。

彼は戦闘技術はあるものの、殺し屋としての自覚がまだまだ足りないのだ。

 

すると、タツミは表情を一変させ、真剣な顔つきになる。

 

「わかってるさ。俺が未熟だってのは。…いつまでもこのままでいる訳にはいかないってのも」

 

彼の脳裏には、イヲカル暗殺任務の件が思い出される。

護衛として全く役割を果たせなかった。

マインを危険な目に合わせてしまった。

最後にレオーネ、ブラートの二人が来なければ死んでいた。

そんな不甲斐ない自分が、許せなかった。

 

彼は顔を俯けて、悔しそうに唇を噛み締める。

 

そして再び顔を上げた。

 

「でも、俺は前に進むよ。変わらなくちゃいけない。皆と肩を並べて戦えるようになるためにも」

 

毅然とした顔だ。

彼の表情にマインは頬を紅くする。

 

彼のその言葉と表情は真剣そのものであり、確固たる決意を感じさせた。

合わせる瞳は微動だにしない。

彼女の瞳には、彼が一人の人間として、魅力ある人間に映ったのであった。

 

彼女が先に根負けし、フイッと視線を逸らす。

そして照れ隠すように言葉を浴びせる。

 

「ば、ばっかじゃないの!何格好つけてんのよ!」

 

一瞬彼が格好良いと感じたのだ。

無意識ではあるが、彼女はそれを認めたくなかった。

 

故に、そんな気持ちを否定するように、彼女は言った。

 

「な、何だよ!俺はこれでも真剣にだな!……」

 

彼女の言葉に、タツミは顔を真っ赤にして抗議する。

改めて言ったことを思い返すと、「やや臭いな」と思わざるを得なかった。

彼はムキになってさらに言い換えそうとするが、

 

「はん!今のアンタが言ったところでちっとも響かないってーの!」

 

マインは不敵にニッと笑う。

しかし、その瞳はどこか優しげだ。

 

その言葉に、タツミは彼女を「何とかあっと言わせてやりたい」と考えるものの、何も思い浮かばなかった。

 

「うぎぎぎぎ」と悔しそうに唸る。

 

彼が努力して成長してきているのは確かである。

彼女もそこは認めていた。

 

「ま!早く対等に扱ってほしいんだったら、私の下で馬車馬の如く働いて力をつけることね!!」

 

彼女はそう言うと、片手を口元にやって小者じみたお嬢様のように

「オーホッホッホッホッ」と高笑いする。

 

彼女は完全に調子を取り戻したのであった。

 

対するタツミは悔しそうに唸るも、彼女のその様子にどこか呆れるのであった。

 

二人は休息を終えて喫茶店を出た。

 

すると、騒ぎでもあったのか。

広場の方からザワザワと声が聞こえる。

人混みもできていた。

 

「ん、何だ?」

 

二人は興味本位で見に行く。

 

騒ぎの中心は大きな教会の前であった。

 

 

「──ッ!」

 

 

人が磔にされていた。

 

 

 

 

 

 

教会の壁にめり込んでだ。

 

「……………」

 

その光景に愕然とし、タツミとマインは何も言葉にできない。

 

 

 

 

 

 

 

幽香もいた。

 

磔の傍で腕を組んで悠然と立っている。

 

「……………」

 

犯人は明らかだった。

タツミは目を見開き、顔を青褪めさせ、マインは信じられないといった様子だ。

 

人混みも幽香がこれをやったと察しているのか、彼女から遠ざかるように見物している。

 

 

 

タツミは袖をクイクイと引っ張られる感触を感じた。

 

「逃げるわよ」

 

「え?でも、幽香さんが……」

 

小声で囁くマインに、タツミはそう言うが、彼女は首を横に振る。

 

「ダメよ。アイツがどういう状況でこうなったのかはわからないけど、今ここで関わるわけにはいかないわ」

 

遠くからピーと甲高い笛の音が鳴った。

マインはそちらに顔を向ける。

 

「帝都警備隊よ。私達まで顔が割れる訳にはいかない。アイツのことはボスに報告してからよ」

 

マインの言葉に間違いはなかった。

自分達は反帝国派であり、ナイトレイドだ。

顔を知られたら情報収集が今後難しくなる。

 

タツミは幽香を心配したが、マインの言葉に苦々しげに頷いた。

 

「ああ、わかった。ボスに報告しよう」

 

 

 

レオーネとの決着が着いた後、幽香は帝国へと散策にでかけていた。

 

広場に行くと一人の少女が花を売っていた。

布服一枚と貧相な服装だ。

しかし、その懸命に花を売る様子に、幽香は薄く微笑んだ。

 

タツミでさえ、このような彼女の温かみのある微笑みは見たことがないだろう。

 

彼女も少女から一輪の花を買って、しばらくその様子を近くで見ていたが、問題が起きた。

 

突如、何処からか兵士達が広場にやってきた。

いくつかの木材と複数の死体をもってだ。

 

「何が始まるのか」と様子を見ていた幽香だが、兵士達が何やら準備を始めだすと、

 

「邪魔だ!こんなところで花なんか売ってるんじゃない!」

 

少女がオロオロと、兵士達の邪魔なところにいたのが災いして、ドンッと突き飛ばされる。

 

花が入った籠が落ちて、花が散らばる。

 

スラム街の服装故か。

兵士達は軽蔑の入った視線を少女にむけると、花を踏みにじり待場へと戻っていく。

 

「…………」

 

 

 

 

 

花を踏みにじった兵士は木材を組み立てようとしていた。

すると、ポンッと肩を叩かれた。

 

「何だ?今忙しいんだが……」

 

仕事がめんどくさく、苛立たしげな口調となった。

兵士は訝しげに、肩を叩いた一般市民を見るが、そこには緑髪の淑女がいた。

余りの美貌に目が点となる。

 

「……な、なにか?」

 

その美貌に兵士は気後れするが、幽香は何も言わない。

 

そしてダメな子供を見るような、慈愛の微笑みで一言。

 

 

 

 

 

 

 

「死になさい」

 

 

数秒後。

なし崩し的に兵士全員が教会の壁に大の字でめり込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「悪を発見!!帝都警備隊所属セリュー、隊長亡き今、代わりに指揮権を行使します。現在の状況を報告してください」

 

帝国警備隊の格好をする女性。

セリュー・ユビキタスは広場に来ると同時に、声高らかにそう宣言する。

 

眼前の取り調べを受けている、緑髪の女性。

連絡を受けた情報では、彼女が仲間の兵士達に暴力を働き、負傷させたとのことだった。

 

同じ正義を志す心優しき仲間を。

 

犯人と思わしき女性を見て、セリューは怒りに燃える。

しかし、まだ状況を確認できていない故に落ち着きを払った。

 

しかし、

 

「──ッ! あれは!?」

 

教会の壁に磔にされた仲間達。

それを目にして、彼女は凶悪な形相へと変えた。

 

「(奴は悪と断定。断罪する)」

 

もはや報告も聞こうとせずに幽香へと近く。

幽香は事情聴取を受けているところだが、セリューはもうそんなことは構わず、指を突き付けて宣言する。

 

「あなたを悪と断定!!これより断罪を執行する!!警備隊の皆さん、民間人の避難を!これより悪を断罪します!」

 

「……はぁ?」

 

突然そんなことを言われた幽香は、疑問の声をこぼす。

何を言っているのかこの人間は。

そんな顔を彼女はありありと示した。

その場にいた他の兵士達もびっくりした様子だ。

 

「お、お待ち下さい!セリューさん!この方は罪を認め、署への連行も同意してます」

 

副隊長の警備隊兵士が彼女の前に出てそう言った。

彼女の凶相を見て、額に汗をかき、その表情は焦燥に満ちていた。

 

悪の断罪。

それは戦闘、及び罪人の処分を示していた。

警備隊内の常識である。

セリュー・ユビキタス、彼女がいる故に。

 

「副隊長!悪を庇うんですか‼それに私は暫定的に隊長代理の指揮権を持っています。私の命令に従って下さい!」

 

副隊長の態度が信じられない、といった様子だ。

しかし、ついさっきまでの凶相はない。

セリューの確固たる態度は変わらないが、「今しかない」と副隊長は説得しようと決意する。

 

現在、幽香は兵士達に包囲されており、既にこうやって事情聴取を素直に受けている状況である。

ここから戦闘を始める必要性は皆無だった。

また、こんな衆目の中で死刑を行うのも、上層部の決定なしには有り得ない。

 

副隊長はそう何とか説明した。セリューは説明中に「悪は許しては置けない」「悪は断罪」などと抵抗するも、

 

「……わかりました」

 

そう言って、彼女は渋々納得する。

とても不満そうな表情だ。

しかし、一定以上の理が副隊長にあったため納得せざるを得なかったのである。

 

「ああ、よかった」と陰ながら呟き、副隊長は彼女の暴走が起きなかったことに安堵していると、

 

「何なのその子、頭でも打ったのかしら?」

 

幽香が平坦な口調でそう言った。

そこに嘲りはない。

純粋な彼女の気持ちであった。

副隊長の説明中に、理解不能な理屈をもった反論をしたセリュー。

幽香は彼女の理屈が理解できなかった。

それ故に、つい口にでたのであった。

 

「誰が話すことを許可した!!悪が軽々しく口を開くんじゃない‼」

 

幽香の言葉に過敏に反応して、セリューはキツイ口調で彼女を責め立てる。

悪と断定した者は、彼女にとって、それは存在するだけで許しがたいものだったのだ。

 

「正義を志した尊き警備隊の仲間を、あんな目に合わせておいてこの悪は……」

 

ギリッと歯を食い縛るセリュー。

しかし、

 

「あら、あれは彼らが悪いのよ?可愛い花達を踏み潰したから……だからお灸を据えてあげたのよ」

 

「……は?」

 

怒る彼女を全く意に介さず、幽香はそう反論するが、セリューはその言葉を聞いてキョトンとする。

 

今までの怒りを忘れたかのように、表情が抜け落ちた。

 

セリューは幽香の言っていることが全く理解できなかったのだ。

故に、彼女はそのまま固まったように思考した。

 

 

「は、花を踏み潰したから……私の仲間をあんな目に合わせたのですか?」

 

少しの間を置いて、彼女は確認するように尋ねる。

 

「そうよ」

 

幽香と同様に、セリューもまた幽香の理屈が理解できなかった。

花を踏み潰したから、仲間を磔にした。

幽香はそう言ったのだ。

 

「そ、そんなことで?……花なんて、そんなもののために、あなたは……私の仲間に、あんな非道な真似を?」

 

震える声でさらに確認を繰り返す。

 

「そんなことって何よ。彼らにその花より価値があると思っているのかしら?むしろ命を残してやっただけ感謝して欲しいわ」

 

「何を言っているの?」と言いたげな表情で、幽香は当然のようにそう返した。

 

隣で話を聞いていた副隊長は顔を蒼白とさせる。

 

そしてついに、

 

「悪!!悪!!悪!!悪!!悪!!この者は悪!!」

 

セリューはブチキレた。

凶悪な形相がぶりかえす。

 

「悪はこの場で断罪する!!隊長代理の指揮権をもって各員に通達!!各員、市民の避難を!!これより断罪を開始する!!」

 

 

 




アニメを見たのが半年以上前なんですけど、セリューは凄い印象に残っています。
自己完結した正義。凄いキャラですよね。敵側では一番好きかも知れません。

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