特級人型危険種『風見幽香』   作:歩く好奇心

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評価と感想ありがとうございます。
ネタが浮かんだで、続き書いてみました。

誤字脱字の指摘もありがとうございます。
わからない文章が見られたら指摘してもらえると助かります。


仲間を何だと思っている

「今回の任務は帝都警備隊隊長、二つ名で『鬼のオーガ』及び商人のガマルの暗殺だ。タツミ、この任務をお前に任かせたい。」

 

「え!?俺ですか!」

 

ナイトレイド、隠れアジトの一角。

幽香、シェーレを除いたナイトレイドが集合する。

そしてナジェンダは新たな任務について説明を行った。

 

 

帝都警備隊隊長、オーガは商人ガマルと密接な繋がりを持っていた。

癒着。

ガマルの犯した違法行為はオーガの権限により揉み消され、罪のない者に罪が被せられる。

その対価として相応の金銭をオーガは得ているのだ。

加えてオーガは地位相応の実力を備え、大柄な体格と強面から誰も逆らう者はいない。

罪を着せられた市民は泣き寝入りする他ない状況であった。

 

ナジェンダはこの二人の抹殺をタツミに任せることにした。

タツミが入隊してしばらく経つ。

現場の空気も慣れただろう。

そろそろ本格的な任務を経験してもらおうと考えていたのだ。

 

「マジで許せねぇ!ボス、そんな外道、俺がぶっ飛ばしてやりますよ!!」

 

「ほほう、中々頼もしい限りだ。ではでは…」

 

ナジェンダの説明に正義に燃えるタツミ。

若い故の青さが見える。

しかし、彼の態度と言葉は彼女にとって、今後も変わって欲しくない、と思うのも事実であった。

 

彼女はうんうん、と頷く。乗せやすい奴だ、と思わなくもない。

このまま勢いに任せ、任務を言い渡そうとするが、

 

「お前にはまだ無理だ。隊長、私も同伴します」

 

 

その場にいたアカメがそれを許さない。

 

当然であった。

彼女はタツミの鍛練の指導を担っている。

故に彼の実力もしっかり見定めていた。

故に今の彼ではオーガを抹殺するには危険が高いと判断したのだ。

 

他のメンバーも口々に反対と心配の声があがる。

 

そもそも今回の任務はタツミ以外のメンバーは待機命令しかだされていない。

これはどういうことなのか。

全員が疑問に思った。

 

「勿論、理由はあるさ。タツミ、この任務は幽香と共に行ってもらう」

 

「幽香ですって!?」

 

マインが嫌悪の声をあげる。

その他もそれぞれ思うところがあるのか、微妙な顔になる。

 

「ダメよ!あんな奴。欠片も協調性がないのよ?足を引っ張ってオジャンになるだけ。それにタツミがいたとしても何の役にも立たないわ!」

 

「むしろタツミが殺される確率が高まる気がするな、俺は」

 

「…俺、そんな信用ないの?」

 

「実力と実積があってこその信用だからな。これから着ければいい」

 

マインとラバックは口々にいう。

役に立たない、失敗する、など言葉の槍がタツミの心を抉る。

落ち込むタツミにアカメはフォローする。

彼女は彼の教育担当としてしっかり慰めた。

単に責任感が強い故、仕事としてやっただけだが、彼にはアカメが天使に見えていた。

 

 

「これは幽香の実力と任務への態度を評価するためにも必要なことだ。数日間お前らと彼女の対人関係を観察したが、険悪になる一方ではないか。現在ペアとして任せられるのはタツミしかいない、これは決定事項だ」

 

そう。

ここ数日、彼らと幽香の関係は悪化の一歩を辿っていた。

幽香は食事には来ない上、鉢合っても会話はなく、挨拶すらない。

 

唯一会話が成り立つのはタツミとマイン、ナジェンダのみ、そのマインに至ってはその度に口論になるばかりだ。

そのため任務中のトラブルを恐れ、幽香には任務を課しておらず基本自由であった。

彼女にとって今回が初の任務となるのだ。

 

 

 

 

 

「私は危険種よ。人間じゃないわ」

 

ナジェンダの悪い予感は的中した。

その他全員は理解が追い付かないのか、唖然としたままだ。

 

「…危険種だと。お前はしゃべってるじゃないか、それにどこも異常はなく人の形だ」

 

無駄と分かりつつも幽香の言葉を否定する。

ナジェンダの聡明な頭脳は幽香の言葉を聞き、その時点で理解した。

しかし、言わずにはいられなかった。

 

「そうだよ、ボスの言う通りだ。人語をここまでしゃべる危険種なんて聞いたこともないぜ?」

 

ラバックはボスの言葉に、そうだ、そうだ、と便乗する。

また彼の言葉に誰もが納得する。

彼女は、あまりにも人間に見えるのだ。

人型なんて代物でなく、人間以上に整いすぎていた。

 

他のメンバーも、何かの間違いではないか、と不安げな言葉が漏れてくる。

 

 

 

不意に、前触れもなく幽香は片腕をあげた。

 

全員がその腕を注目するが、手首から先は見られない。

 

この場にいるものは誰もが知っている、そう、その手首はアカメによって切り落とされたのだ。

 

一体何をしたいのか。そう疑問に思っていると、

 

 

「ッ!?」

 

 

繊維。

 

それは細かに枝分かれをしては絡まるツルであった。

 

その繊維は手首から蠢くように沸きだし、あっという間に手を形成する。

 

ものの数秒。

二度と元に戻ることはなかったであろう、その手が生え戻ったのだ。

 

この光景を見て全員が唖然とする。

 

その様はレオーネの持つ帝具『ライオネル』により強化された自己治癒力に相当する。

並みならぬ再生力。

それは、その帝具を持つレオーネ自身が一番理解した。

 

「これでわかったかしら」

 

幽香は無感情に確認を取る。人でないことを。

 

周囲は沈黙。

 

しかし、無くなった手が生えるといった、帝具に相当する異常性に何も言えなくなる。

 

もはや、納得せざるを得なかった。

 

 

幽香は、あ、そうそう、と付け足すように呟く。

 

「因みに帝具のせいだとか言わないで頂戴よ。そんな戯言に付き合ってる程、私は暇じゃないんだから」

 

 

 

 

 

ナイトレイド、アジト内の一角。

 

ラバックはウキウキ気分でナジェンダの一室に向かっている。

急用があるため彼女の部屋に来てほしいと連絡があったのだ。

 

今は夜で、それなりにいい時間帯。これはもうアレしかないだろう。

そんな男の下心溢れる夢を胸一杯にし、ピシッ、と扉の前に立つ。

念願の夢が叶う時が来た。

彼はそう信じて疑わない。

 

そして、バンッ、と扉を開け放ち、

 

「ふ、不肖ラバック!ナジェンダさんの君命通り、今宵参上致しました。不束ものではありますが、と言うか、自分初めてですのでどうか!最初は優しくご指導のほど、よろしく御願いします!!」

 

顔を真っ赤にし、鼻息を荒くさせ大声でいい放つ。

 

 

ナジェンダは即座にため息。

 

彼の興奮した様子に彼が明後日の方向で勘違いしていることを察したのだ。

 

「いや、あのだな、ラバック、これは…」

 

「自分大丈夫ですから!義肢だろうと胸であろうと重い女性は受け止めてみせますんで!!」

 

その言葉に額の血管が切れる。

 

伴う剛拳。

 

反応を許さない速度の振りおろし。

なんて速度だ。

 

そこには一切の躊躇いのない鋼鉄の拳、ガハッ、と吐血に至らす。

 

ゴフッゴフッ、と立っていられず彼は蹲る。

 

しかし

 

「私の愛を受け止めるといい。…そして誰が重い女だと言った?もう一度その口で言ってみるといいぞ」

 

休む時間を許さない。

 

横たわるラバックの胸ぐらを掴み、うん?と底冷えするような声音でそう脅す。

 

笑顔だ。

とてもニッコリである。

 

しかし、その瞳は怖じ気が走る程ギラついている。

 

ラバックは、すいませんでした、と謝罪と共に気絶したのであった。

 

 

 

 

 

「風見の監視ですか?」

 

「ああ、例の任務の件についてはいいのだが、それ以外の時間帯でな。念のためにお前の監視をつけておこうと思う」

 

幽香はここ最近、独自で帝都を散策することが増えた。

待機命令に飽きたのであろう。

勝手に動かれるのは困るが、待機指示を強要してそれがストレスとなるのは危険であった。

 

彼女は冷静に見えて気難しく気分屋だ。

機嫌を損ねるとナジェンダの指示を全く聞いてくれなくなる可能性が高かった。

 

現在、幽香と彼女の仲は悪くなくても良い訳でもない。

そして彼女はここに拘っている様子もない。

 

ナジェンダは懸念した。

都合が変われば彼女はいつでも帝国に味方することかもしれない。

 

そう危ぶんだ彼女は、幽香が危険種であることを革命軍に公表し、今後の対応を共に模索した。

 

結果、監視ということになったのだ。

 

反帝国派として、ある程度命令に従い、且つ最高戦力のブラート以上の怪物を帝国の手に渡るということは断固として避けたいのであった。

 

 

「なるほど、それじゃ、彼女が散歩に出た時はすぐに監視ってことで」

 

「ああ、そうしてくれ」

 

ふー、と彼女は椅子にもたれ掛かる。

 

疲れているのか。

幽香のことになると、ホトホト悩まされる。

 

ナジェンダの疲れた様子に、お疲れ様です、とラバックは労った。

 

「革命軍は風見をどう扱うつもりなんですかね」

 

彼はふと気になったことを質問する。

幽香についてだ。

彼女は自身で危険種であると称し、そしてその証明として手を生やすといった異常性を示した。

 

一番の異常性は、マインの全力を悠々と耐えきったことではあるが。

 

危険種は人間にとって害にしかならない。

これまでの危険種の歴史を鑑みると共存はあり得なかった。

 

しかし、

 

「刺激はするな、とのことだ。

直接には見てないがブラートが手も足もでないのだろう?それに彼女の頑丈さだけなら見ただろう。少なくとも革命軍で討伐なんて出来る者はいない」

 

事実、公表したものの、幽香の認知は革命軍のごく一部の中だけではあるが、特級人型危険種にカテゴリーすることとなったのだ。

 

ただ、唯一救いなこともあった。

 

人語で会話ができる。

これがナイトレイド、否、人間側にとって唯一の救いといって良いであろう。

 

つまり、それだけの知能を持っていることに他ならず、事実彼女は気難しくも理性は見られた。

 

交渉の余地は十分にあるのだ。

 

「シェーレとブラートが重傷を負ったことは私だって腹立たしい。ぶん殴ってやりたいくらいだ。…だがな、大局を見失ってはならない」

 

ハァ、とため息をつき、腕を組んで続ける。

 

「今の幽香の対人関係は不和を生む。今後、任務に支障をきたすリスクが高まる一方だ。ラバック、お前も出来れば理性的に相手をしてくれたら助かる」

 

「任せてください。ボスの頼みとあらば、このラバック何でもして見せますよ」

 

ニカッ、と気持ちの良い笑顔を返すラバック。

目をぱちくりとする。

そしてその笑顔に、フッ、と薄く笑う。

 

この分では自身の心配は杞憂に終わりそうだ。

信頼できる笑顔であり、また安心出来る笑顔でもあった。

 

ナジェンダは彼に全幅の信頼を寄せていたのであった。

 

 

 

 

 

「準備はどうです、幽香さん?」

 

「特に問題ないわ」

 

タツミの問いかけに適当に返す幽香。

その表情は涼しげだ。

それに対して彼はやや疲れ気味な様子。

 

眼前には商人ガルマの死体が転がっており、つい先程、抹殺したのである。

 

抹殺したはいいが、その手順に問題があった。

タツミの疲れた顔は、そこに起因している。

 

当初は人気のない部屋に入った所を狙い、抹殺する予定だった。

下調べの情報もある。

その行動をとる時間と場所を把握していた。

しかし、何の間違いか、商人ガルマは情報とは全く違う行動をとったのだ。

 

普通であれば、異なる行動をとった場合も含めて暗殺の計画が練られるだろう。

 

ここでも同様にその際は様子を伺い、別の機会を待つことになっていた。

 

タツミは計画にそって、様子見と判断した。

今回は焦らなくていい。

隙がなければ、今日は見送ればいいのだ。

そう思っていた。

 

しかし、予想だにしない展開が起きた。

 

「あなた、少し良いかしら?」

 

幽香は違った。

様子見など、時間がかかることを嫌ったのか、タツミが気づいたころには暗殺対象に話しかけていたのだ。

 

この行動にタツミは驚いた慌てたが、それは彼だけではない。

周辺からこそっと見守っていた他のナイトレイドも同様である。

 

幸い彼女は顔を隠していた。

顔が割れるのは不味いということは彼女にも分かったのだろう。

 

しかし、彼女はガスマスクのようなものを被り、異様な出で立ちで、

「ちょっと、路地に来てもらっていいかしら?」

などと言っている。

そんな怪しい人に付いていくと思っているのか。

タツミは甚だ不思議で開いた口がふさがらない。

 

一瞬、あまりのいで立ちとその言葉に、ガルマは固まる。

がすぐに気を取り直し、

「え、衛兵!」と彼は助けを呼ぼうとするも、

ガッ、と片手で凄まじい力をもって口を押さえられ、そのまま抵抗も虚しく路地裏に引っ張られていった。

 

タツミはその一連の様子に唖然とするが、

すぐにハッ、としてその路地裏に駆けつける。

 

 

原型が分からない肉塊となる頭部。

 

それがガルマであったものであろう。

彼女が先の体勢のまま彼を捕らえている。

それが証拠だ。

 

顔面を捕らえられたままでの頭部の圧死。

それがタツミが次に目にしたガルマの姿であった。

 

 

 

 

 

「もう、次は俺が何とかやってみますから、頼みますよ幽香さん」

 

「はいはい」

 

本当に分かっているのだろうか。

彼女の素っ気ない返事にタツミは不安を顔に隠せない。

そしてそのガスマスクはいつまで着けているのだろうか。

彼女に対して疑問と不安が尽きない。

 

しかし、彼はそんな彼女を今はよそに、任務達成のため行動に移すのであった。

 

 

 

 

 

 

「─ッ!」

 

しまった。

タツミは完全に初めての勝利に油断した。

 

オーガを路地裏に誘きだし、不意を突いた。

不意打ちは失敗に終わってしまったが、死闘の末、彼に致命傷を与え勝利したのだ。

 

そう思っていた。

勝利。

それはただの早合点であった。

 

振り向けば、死力を尽くした渾身の降りおろし。

オーガの全力をもった渾身の速度。

 

避けられない。

タツミは死を覚悟する。

 

近付く剣先に死を悟ったその時、

ふと視界の端、オーガの後方でこちらを見つめる者が一人。

 

幽香であった。

 

彼女を目に、助けにきてくれたのか、

そう思うも一瞬のこと。

 

違う。

彼はすぐに気づいた。

彼女は自身を助けるつもりは全くないことに。

 

 

彼女の表情はとても冷たく、無感情であった。

 

そう。まるでどうでもいい、とそう物語っていることがわかる程に無感情であったのだ。

 

 

 

 

 

 

「お前。一体どういうつもりだ」

 

アカメの問いかけは幽香に対してのものだ。

彼女の問いかけには明らかな怒気があった。

 

目の前にはオーガの遺体。

彼女が切り捨てたのだ。

タツミは隣で死を免れたことに茫然としており、膝をついている。

彼は九死に一生を得た。

 

回避できない殺傷の刃を受ける寸前、アカメがそれを防ぎ、必殺の刃をもってオーガを殺したのであった。

 

 

しかし、今、アカメは怒っていた。

幽香。

彼女は全くペアであるタツミを助けようとしなかった。

その素振りも見せない。

大して現場から離れている訳でもないにも関わらずにだ。

アカメは彼女の仲間を助けようともしない、ただボー、と傍観していただけの態度が許せなかった。

 

「何故助けなかったと聞いている」

 

憤怒の色が目に宿る。

許せなかった。

強大な力を持ちながら、人を助けることができる力を持ちながら、それを行使しない。

 

彼女の価値観において、許容できるものではなかった。

 

目の前で仲間が死にかけているのに、何故何もする素振りを見せないのか、彼女は不思議でならない。

 

「そう頼まれたからよ」

 

アカメの目元がピクッ、と動く。

 

「自分が何とかするから、手出しはするなってね」

 

「曲解だ。傍観する理由にはならない」

 

「私はタツミの実力を信用しただけよ」

 

幽香の言い訳に怒りを募らす。

彼女に理解を求めるのは不要。

そう判断する。

 

彼女の顔は変わらず無感情であり、それがまた癪に障った。

自分も感情を表すのは苦手だが、彼女は訳が違ったのだ。

彼女は全くこちらを相手にする気がない。

それは明白であった。

 

 

「風見幽香、お前は危険だ」

 

 

 

 

 


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