【短編】もしも潮田渚が殺人鬼に目醒めたら。【次回投稿未定】 作:うたたね。
今回は最終話に向けての閑話のようなものです。
そもそもの原因は──根源はなんだったのか。たぶん、それは恐ろしいほどに単純な答えで、簡単な解答だ。
殺人鬼という存在がどうして生まれたのか。『死神』という存在がどうして生まれたのか。その簡単な答えを、けれど僕達は知ることは出来ないのだろう。
きっと、最初は同じ。
聞いた話だと、“初代”は初めて人を殺した時は、気がついた時には、という状態だったという。
僕も同じだ。
知らないうちに人を殺したくなってた。無条件に理由も無く、ただ殺したくなってた。まるで、最初からそうだったように。
それぞれが進む道は違ったけれど、それでも、始まりは一緒だったんだ。
だから、僕が殺し屋になる未来もあり得るだろうし、彼が殺し屋ではなく、殺人鬼として生きていた可能性もあり得た。ほんの些細な違い。
そして、きっとそれが。
『殺人鬼』と『死神』の──違いだった。
☆ ☆ ☆
「あははー」
どうしてか、上手く笑えない。いつものように、誰かを騙すような笑みを貼り付けることが出来ない。けれど、それはあの先生の過去を知ったからじゃ無い。それだけは分かってる。途中式を挙げる必要もなく、確定的だ。
多分、少しだけ動揺してるんだ。雪村あぐりという人間の優しさを、改めて知らされたから。もしかしたら──あの子も、同じかもしれないから。
茅野と──雪村あかりと雪村あぐりは姉妹というだけで、全く別の人間だということは分かってる。理解している。把握している。
だからこそだ。
殺せんせーでさえ──初代『死神』でさえ、彼女によって変えられてしまった。雪村先生の優しさに触れて、『死神』は自分の心に向き合った。
もし、茅野が僕の正体に気がついたら、彼女も同じような選択をするはずだ。あの子は優しいから。復讐なんて道に走ってしまったけれど、それも彼女の姉を思う優しさからだ。
茅野が僕を戻そうとした時、僕はどうするのだろうか?
『死神』と同じように変わるのか、あるいは変わらずに、この生き方を続けていくのか、それとも──
……いや、多分僕は変わらない。仮に変わることが出来たとしても、僕は変わらない。
平穏な日常──今まで通りの日常を送るには、僕は命を奪い過ぎた。
今更、そんな人間が社会生活に復帰できるはずもなくて、僕の中で暴れる殺人衝動は収まらない。
僕は骨の髄まで殺人鬼だ。人の形をしている、人間失格の異常な存在。
人を殺す人間は最低で最悪だ。
そいつはただそれだけで、生きてる意味も資格も──何より価値は無い。
それは僕が一番分かってる。
一番、理解している。
いや、もう分からない。
僕は、殺人鬼だから。
そろそろかな。
そろそろ、動き出す頃合いだ。
最終決戦までなんて待てない。
それまで僕が、大人しく出来てる確証はない。
日に日に殺人衝動は大きくなっている。いつか、僕が
自分のことだから分かる。寿命が近づくと分かる人間がいる聞くが、それと同じこと。僕が抑えられなくなる瞬間は、そう遠くない未来に来るはずだ。
僕は、あの『死神』を殺すまでは捕まるわけにも、そして死ぬわけにはいかないんだ。
そうだね。
そろそろ、だろう。
☆ ☆ ☆
きっかけは簡単なことだった。
だけどそれは、いつしか絶対に起こるであろうことで、必然的なものではあった。
いつか僕が予感していたこと。E組の中で意見が割れて、その二つが対立すること。
先生を
先生を
E組の生徒の長所は他人に優しく、仲間思いであることだろう。でも、それは弱点でもある。そもそも、強みと弱みは表裏一体。完璧な存在などいないのだから。
「
優しすぎるということは、つまりは他人に感情移入しやすいということ。
きっとこうなるだろうなぁとは思ってたんだ。先生の過去を知れば、そうなることぐらいはね。
実際、そうだったしね。詳しく話すと長くなるから話さないけど、先生の過去は、優しい彼らからすれば、殺すのを躊躇ってしまうぐらいには。
でも、馬鹿だよなぁ、みんな。
いくら先生が心を入れ替えたからって、彼は千人以上の命を奪った最低最悪で最高の殺し屋だ。
自分たちを救ってくれたからって、人を殺した罪が帳消しになるはずがない。
「だからさ、きみ達の考えは浅はかなんだよ。殺すとか、助けるとか、そんな問題じゃないだろうに」
木々が揺れる。
聞き慣れた音だ。E組の裏山の豊かな自然。それらが上手く組み合わさった音だ。
僕の周りにあるのはたくさんの屍──ではなく、気を失った人間。この場合はそうだね、僕の
「渚ぁぁ!!」
「おっと寺坂くん。すぐに手を出すのは馬鹿のやることだよ」
「おごぉっ……!?」
はぁ、ホント、きみとカルマ君は丈夫だからやり難いんだよ。僕には確かに
まぁ何にせよ、これであとはカルマ君だけだ。
「渚君……君は何を……!!」
「お別れだよ、お別れ。そろそろ僕も、本格的に動き出そうと思ってね」
「チッ……取り敢えず、調子に乗りすぎたね。渚君!!」
「乗ってるのは君たちだろう?」
カルマ君は僕の顎に向かって拳を放つ。そのキレは中学生から繰り出されたとは思えない程に鋭く、並みの大人なら簡単にノックアウト出来るほど。
けれど、僕だって一応、普通じゃないんだ。これでも『死神』に一撃加えられるぐらいには、強いつもりだよ。
僕はその拳を軽く押してその軌道を逸らす。すると、一瞬驚いたものの、カルマ君はすぐに次の攻撃に切り替え、その逸らされた腕を強引に下へと──つまりは僕の左肩へと叩きつけにきた。
残念、カルマ君。確かにそれはいい判断だと思う。自分の隙を一瞬にして攻撃へと変えた。それは君のその冷静さがあるからこそ、繰り出させる攻撃だ。
僕がさっき、君の拳を押した右手は今、君の顔の目の前にある。
みんなに見せるのはこれが初めてだね。と言っても、みんなは今頃夢の中。この技を見ることはできません。
“クラップスタナー”
カルマ君が勝利を確信した瞬間──感情の波が大きくなった瞬間を狙って、僕はその右手にノーモーションで、かつ最速で最大の音量を出すようにして、左手を叩きつけた。
──パァン!
ロヴロさんから学び、『死神』から盗み昇華させた
それは最早、気を動転させる程度ではなく、体も思考も全てを麻痺させる。
「がぁぁっ……!?」
「殺したらいけない戦闘なら、君の方が強いよ、カルマ君。けれど、殺してもいい殺し合いなら、君じゃ僕には絶対に勝てない。そして何より君は人を殺さない」
そう嘲笑うように言い、地面に倒れ伏せるカルマ君の首の真横に、僕はナイフを力一杯突き刺した。
「僕が優しくてよかったね。今、君は一回死んだよ」
さて、取り敢えずは離別も終えたし、あとは準備をしてから巣立つとしよう。
この場所に──このクラスに何か思うところがないかと言えば、そりゃああるのだけれど、言わなくても大丈夫だろう。殺人鬼からの思いなんて貰わない方が良い。
だからさ、殺せんせー。
そんなに怒った顔、しないでください。
「渚君……君はッッ!!」
「カルマ君と同じ反応だね。──だから、同じことを言ってあげる。お別れだよ、お別れ。そろそろ僕も、本格的に動こうと思ってね」
最終決戦までは、僕は生きておかなければならない。捕まるわけにはいかないんだよ、先生。
「ですが! 彼らの思いを踏み躙る必要は無かったはずです!!」
「何言ってるんだよ。あるに決まってる。これは親切心から言ってるんだ──僕に心があるかどうかは別として──今回の激突は確実に間違ってる」
そう、彼らは自分たちの使命を履き違えてる。それが誰にも期待されてないにせよ。
「先生を救うか殺すか──考える必要もない。答えは一つ。さっさと殺す。自分達の都合で地球を危険に晒すなんて、それは傲慢な考えだよ」
「っ………」
残念だ、殺せんせー。
まさかあなたが──僕の中で
失望。
微かながら残っていた信頼が──崩れ落ちる。
「じゃあね、初代『死神』。次にあなたと出会うのは、生徒と教師としてではなく──」
──殺人鬼と超生物として。
☆ ☆ ☆
この日を境に潮田渚は姿を消す。
彼が再び姿を現わすのは、人類と超生物の最終決戦の時。
そしてその日、彼は最低最悪の殺人鬼として、世界へその名を──その存在を知らしめることとなる。
えっとですね。
まだ暗殺教室の最終巻を買えていないので、恐らく次回更新は来年になるかと思われます。
というか、ぶっちゃけると最終巻どころか一巻も持っていないんです。友達に借りてるというのが真実です。
そんなわけで、クリスマスに暗殺教室全巻を買うので、来年までは更新出来ません。
誠に申し訳ございません。