【短編】もしも潮田渚が殺人鬼に目醒めたら。【次回投稿未定】   作:うたたね。

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一度、別の話を投稿していたのですが、何だか納得がいかなかったので消しました。
本当にすいません。
あと、感想50件突破! いつもいつもありがとうございます!

それでは、第6話です。


#06 演技:復讐の炎

『ホラ! 私と一緒! 私、茅野カエデっていうの。よろしくね!!』

 

 ニコリと笑った彼女の笑顔は──

 

『……うん、よろしく』

 

 

 ──あまりにも、完璧にできすぎていた。

 

 

 

× × ×

 

 

 

「……完全に遅刻だよなぁ」

 

 通学路を歩きながら、僕は呟く。

 現在の時刻は9時30分。授業が始まるのが9時からだから、遅刻は免れないってことだ。

 

 もう季節は冬。 流石にこの寒さの中、E組の隔離校舎まで通学するのはかなり厳しいものだ。しかも隔離されてるだけならまだしも、山道だからなぁ。余計に寒く感じてしまう。

 

 そういえば、殺せんせーが地球を破壊するまで残すところ3ヶ月程度。みんなもそろそろ焦ってきてるところだろうなぁ。僕は別に人を殺せればそれで良いわけだし。まあ、『死神』を殺すまでは、生きてはいたいかな。

 うん。

 

 さてと。

 さっきから、近くに妙な気配を感じる。正確には、右側の木の裏からだ。誰が隠れているのかは知らないけれど、少なくとも、殺せんせーに用があるわけじゃ無いみたいだ。

 ナイフが入っている隠しポケットに手を添える。出てきたら、一瞬で殺そう。

 

 僕が隠れている何者かを殺そうと考えているその時だった。

 

「ははは、そうピリピリしないでくれよ。君と私の仲じゃないか」

「……!」

 

 僕はその男の()()目掛けてナイフを投げるが、パシッと心臓手前でナイフを掴まれてしまった。

 男の姿は、正直に言うと、とても変な格好だった。全身白ずくめで、白の頭巾に白装束。おかしく無いところを探せという方が難しい格好だ。

 僕はこの男を知っている。

 

「……シロ」

「やぁ、渚君。こんにちは」

 

 シロ。

 この男は、クラスメイトのイトナ君の()保護者だ。イトナ君に殺せんせーと同じ触手を埋め込み、暗殺させに来た謎の人物。イトナ君を捨ててから姿を見せてなかったら、変なことを企んでいるのかと思ってたが、予想通り、変なことを企んでいるみたいだ。

 

 何故、シロがこのタイミングで、しかも僕に会いに来たのかは分からないけども、もし僕の邪魔をするのなら、殺すまでだ。

 

「で、何の用? 理由もなく僕に会いに来たわけじゃあないだろう? あなただって、そんな暇ではないだろうし」

「まあね。君の言う通り、私も暇じゃないんだ。うん、そうだよ。君に用があるんだ」

 

 用、ね。何をしようとしているのかは分からないが、僕の邪魔になるようなら殺そう。その用事も、その考えも、その計画も、──そしてその命も、殺し尽くす。

 

「ククク、まあ、そう殺気を出さないでくれよ、潮田渚──ああ、いや、この場合はこう言った方が正解か。なぁ──『切り裂きジャック』」

「……」

 

 其処からの僕の行動は速かった。もう一本のナイフを取り出し、シロに振るう。シロはそれをギリギリで避け、僕と距離を置いた。

 

 ……何処で知ったのかな? ただまあ、不穏因子は殺しておかないといけないよね。

 

「っ……危ない危ない。今のは本当に危なかった。“()()”の力を使わないと、避けれなかったほどだ。私には、『死神』のような動体視力はないからね」

「“アレ”……? まあ良いや。へぇ、『死神』のこと、知ってるんですね」

「知っているとも。君が初めて殺し損ねた相手だろう?」

「そんな見え透いた挑発には乗らないよ。あんまり僕を舐めないでもらいたい」

「はっはっはっ、舐めてなんかいないよ。むしろその逆さ。君のことは最大限に警戒しているよ。警戒しているからこそ、こうして君に会いに来たんじゃないか」

 

 そう言って、シロは不気味に笑う。頭巾で隠れているから、口元は見えないけれど、その目を見れば分かる。

 

「君はさ。殺せんせーを……あの、化物(モンスター)を殺してみたくはないかい?」

「うん、ないね」

 

 そんなシロの提案とも取れる質問に、僕は即答で否定した。僕が殺すのは“人間”であって、“超生物”じゃあない。僕は『殺人』鬼だ。人以外の生物を殺すことに興味なんてない。

 シロは、僕のことを知ってはいるけど、僕の本質は知らないみたいだ。そんなんで、よく僕を利用しようと考えたね。

 

 まあ、そもそも。

 あなたの計画がどんなものだろうと、加担するつもりはなかったけどね。

 

「……まあ良い。君は賢い人間だと思ってたのだがね。とても残念だよ」

「僕は『殺人鬼』だからね」

「……そうかい」

 

 そう言って、シロは僕に背を向ける。そして、「ああ、そうそう」と立ち止まる。

 なんだか、嫌な予感がした。

 

 

「そろそろ、()()が本性を現すだろうさ」

 

 

 その瞬間、E組の校舎がある方角から、何かが崩れるような音がした。

 

 

 

× × ×

 

 

 

 校舎に行くと、体育倉庫の周りにクラスメイトが集まっていた。全員の視線は上を向いていて、その視線を追うと、体育倉庫の屋根に茅野カエデが立っていた。

 

 深緑色の()()を首から生やして。

 

 一瞬、思考が停止しかけるが、すぐに稼働させる。落ち着け、落ち着くんだ。焦れば焦るほど、真相から遠くなってしまう。こういう時には、落ち着くことが正解だ。

 茅野の首から生えているのは触手で間違いない。イトナ君や殺せんせーの触手と色は違うけれど、見間違うはずもない。

 

 でも、それだと疑問が残ってしまう。

 彼女がいつから触手を埋め込んでいたのかは知らないが、イトナ君やシロの話を聞いた限りだと、“メンテナンス”が必要らしい。触手の力は強大だ。でも、きちんとメンテナンスをしないと、死にたくなるような苦痛が身体を蝕むらしい。

 これは僕の予想でしかないが、触手のメンテナンスは、数時間、または1日程度じゃあ終わらないはずだ。もし、早く終わるのなら、シロとイトナ君の殺せんせーの襲撃間隔の辻褄が合わない。2人は襲撃と次の襲撃の間が少なくても2ヶ月程度は空いている。それは作戦を考える時間もあっただろうけど、それでも時間がかかりすぎている。なら、触手のメンテナンスに時間がかかるってのが、妥当だろう。

 

 だからこそ、彼女が現状、正気を保って触手扱っているのは、あまりにも()()()()()()()()なのだ。

 触手のメンテナンスには時間がかかる。少なくても、1ヶ月ぐらいは。

 僕の知っている限り、彼女が、茅野カエデが、長期間学校を休んだことなんて、一度もない。

 

 嫌な汗が頬を伝う。

 

 彼女がいつから触手を埋め込んでいたかは分からないが、もし()()()()──茅野が転校してきたあの時から、触手を埋め込んでいたのならば、茅野は、正真正銘の──

 

 

 ──怪物だ。

 

 

 死を選びたくなる程の苦痛を平然と、汗一つ見せずに耐え続けた精神力に、その殺意を誰にも悟らせなかった演技力。

 茅野カエデという少女は、その二点において、あの『死神』をも超えていた。

 

 だけど、面白い展開だ。

 そう思った。

 

「! ……渚、やっと来たの?」

「茅野……?」

 

 困惑したような演技をしてみる。

 茅野には及ばないかもしれないけれど、僕だって一応演技力はある。こっちは殺人鬼。人を騙す力は必要だ。僕の演技に気がついたのは、今のところ、()()()()()()()だからねぇ。

 

「ゴメンね、渚。茅野カエデは本名じゃないの」

 

 つまりは偽名。

 彼女は次の言葉を紡ぐ。

 

「雪村あぐりの妹。そう言ったら分かるでしょ? ──“人殺し”」

「……」

 

 雪村あぐりの妹、ねぇ。雪村あぐりと言えば、E組の前の担任の先生だ。

 茅野カエデは、彼女の妹だった。そしてさっきのあの言葉。殺せんせーに向けて言い放った“人殺し”という単語。それから予測できることは、たった一つ。

 

 彼女は、自分の姉を殺した殺せんせーに復讐するつもりだ。

 

 しかし、復讐か。こんなこと、今の茅野にいった言ったら確実に殺されるだろうけど、復讐ほどつまらなくて、自己中心的で、幼稚で、馬鹿みたいな行為はないんだよなぁ。

 復讐なんて、ただの自己満足に過ぎないのだから。達したところで得られるのはそれぐらいだ。失うものの方が多い。

得られるのはそれぐらいだ。失うものの方が多い。

 

「……これだけ邪魔(ギャラリー)がいたら、今日はこれ以上続けれないか。──明日、また殺るよ殺せんせー。場所は直前に連絡する」

 

 触手をうねらせながら、茅野は笑う。

 

「今日の勝負で確信したよ。──必ず殺れる。今の私なら」

 

 そう言って、茅野は何処かへと飛び去っていった。余りの出来事についていけていないのか、みんな騒然としていた。

 

 そんな中、僕はみんなに聞こえないように小さく呟いた。

 

 

「──ああ、殺し甲斐がありそうだね」

 

 

 僕の中で殺人衝動がギュルギュルと渦巻いた。

 

 

 

× × ×

 

 

 

『先生の過去の全てを話します』

 

 

 そう言った殺せんせーだけど、その過去を話すのは、茅野を交えてからとのこと。

 正直なところ、あまり興味がない。先生の過去を知ったところで、いずれ何方(どちら)かは死んでしまうのだ。

 生徒に殺せんせーが殺されるか。

 殺せんせーが地球ごと破壊してしまうか。

 まあ、みんなはそれでも知りたいんだろうけど。

 

 そして今、僕らは椚ヶ丘公園奥にあるすすき野原にいる。時刻は7時。夏頃はまだまだ明るい時間帯だが、冬にもなるとすっかり暗くなっている。

 冬の肌寒い風がすすきを揺らし、茅野の触手が踊る。

 

「さ、始めましょ! そしてさっさと終わらせよう」

 

 そう言って彼女は笑う。完璧で、非の打ち所がない笑みだった。演技って分かってて見てみれば、不気味だな……、そんな場違いなことを考えながら、僕は思い切って聞いてみた。

 

「茅野。今までのこと、全部演技だったの?」

「演技だよ。これでも私、役者でさ。これまでたくさん散々な目に遭ってきて、つい触手を出してしまいそうな時もあったけれど、でも耐えてきた。演技してきた。殺る前に正体バレたら……お姉ちゃんの仇が討てないからね」

 

 ああ。水に流されたりとか、『死神』に蹴られた時とかのことを言っているのか。

 確かにそれなら凄いよね。触手の破壊衝動をずっと抑え込んできたというのだから。

 

 しかし、演技ねぇ。全部が全部、演技ってわけじゃあないと思うのだけど。

 

「……この前、雪村先生を殺せんせーが殺したって言ってたけど、本当に先生は殺したのかな? そういう酷いこと、俺らの前で一度もやった事ないじゃん」

「──」

「ね。殺せんせーの話だけでも聞いてあげてよカエデちゃん」

「あの先生は、本当に良い先生だったよ。……けどさ、本当にこれでいいの? 今、茅野ちゃんがやってる事、殺し屋として最適解だとは俺には思えない」

「────」

「……」

 

 みんなが茅野を説得しようと、様々な言葉を投げかける。これこそ、1年間積み上げてきた生徒達の殺せんせーへの信頼だろう。

 

 ……けれど、それじゃあダメなんだよなぁ。

 

 カルマ君は、茅野がやっている事が殺し屋として最適解と思えないなんて言ってるけど、それは間違いだ。そもそも、今の茅野は殺し屋でもなんでもない。ただの復讐者なのだから。

 復讐者の気持ちを考えないで、その復讐の対象の相手を庇っても、意味がない。茅野から見れば、それは今までの自分の努力を否定されているようにしか聞こえない。

 だから、これから起こるのは、きっと──

 

 

「……うるさいね。部外者は黙ってて」

 

 

 ──きっと、逆上だ。

 

 強烈な殺意を何処か虚ろなその瞳に宿らせながら、復讐者(茅野カエデ)は触手に炎を灯した。

 

「体が熱い。もしかしたら死ぬ予兆なのかもしれない。……ううん、きっとそう。でも、私はそれでも止めない。私は死んでも──」

 

 

 ──この復讐を遂げてみせる。

 

 

 




シロを絡ませておいた(`・ω・´)
あいつも一応重要人物だし。

さ、次話は渚君を絡ませようかね。

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