【短編】もしも潮田渚が殺人鬼に目醒めたら。【次回投稿未定】 作:うたたね。
それと、評価してくれてる人たち、みんな一言書いてくれて嬉しい〜と思ってたら、文字制限してたみたい。
なので、文字制限無しにしました。
ある程度の実力を持った人間は、必殺技というものを持っている。殺し屋屋であるロヴロさんも必殺技というものを持っているし、人間ではないが、殺せんせーだって所持している。まぁ、ロヴロさんの猫騙しは必殺技としてはちょっとズレているけどね。
何故、必殺技というものを持っているのか。それは単純明快な話で、自分が危機に陥った時、その技一つで状況を覆すことができるからだと思う。大体、必殺技なんて安易に使う技ではない。相手が格上、または自分が不利の状況の時、それらを覆す為にその技を習得するのだ。
だから、この状況は必殺技を使う時だ。『死神』という自分より格上の相手を殺す為の必殺技。それは僕にはある。
これから使うのは、ロヴロさんから教えてもらった猫騙しではない。「必ず殺す為の技」という点では同じだけど、この技の方が確実だ。
僕はこの数ヶ月の間、沢山の人を殺したが、その中にも殺し屋はいた。殺せんせーを殺しに来た殺し屋達だ。その人達と相対して分かったが、
殺し屋は、鋭く、冷たい殺気だった。
「っ……」
僕は自分の中の殺気を全て絞り出す。殺人衝動も全て表に出す。『死神』の表情は相変わらず見えないけれど、少し怯んだのは分かった。
彼は確かに化け物染みているが、それでも人間であることには変わりはない。殺人鬼の殺気はあなたが知っている殺気とは少し違うだろう?
「……殺人鬼の殺気を感じたことはあるが、君は例外だな。
「そうですか」
短く答えた。
そして、殺気と殺人衝動を、消した。
「……え」
僕は『死神』に近づいて、ナイフを思い切り、その首元めがけて振るった。
──ザクッ
× × ×
僕がやったことは簡単だ。表に出していた殺気と殺人衝動を、全て裏に──僕の中に押し込んだだけ。でも、それだけで十分だ。運が良いことに、僕の殺気は普通の殺人鬼とは違うらしかった。だから、より『死神』の注意を惹きつけられた。
この時、『死神』は僕の殺気をその肌で感じていた。殺人的で、歪んでいて、気持ち悪い僕の殺気を。それを一気に消したことにより、『死神』は警戒する対象を突然見失ったのだ。それで一瞬だけ、彼の注意を引きつけることができた。
それで十分だった。僕のナイフが『死神』の首を刈り取るのには。
だけど──
「〜〜〜〜〜ッッッ!!」
僕のナイフは、『死神』の肩に刺さっていた。それもかなり深く。少なくとも、数カ月程度は後遺症を残せるぐらいのダメージは入っている筈だ。
流石の彼も動揺したらしく、顔の部分だけ黒い靄が消え去り、端正な顔立ちが露わになっている。
正直、驚いた。でも、ここで手は緩めない。
「ふ……っ!」
「……!」
肩を押さえる『死神』に僕はナイフを振り抜く。『死神』はそれをスウェーで避け、僕と距離を取る。
どうやら、かなり警戒されているみたいだね。そりゃそうか。世界最高の殺し屋なら、真正面からナイフを突き刺されるなんてあり得ないことだもんね。しかも、ただの殺人鬼にね。
「くそッ……この僕が──『死神』が殺人鬼如きに〜〜〜ッッ!!」
「天才は打たれ弱いってのは、どうやらホントらしいですね。精神的に幼い、と言っても良いですけど」
天才が打たれ弱いのは、当然のことである。今まで特に努力をしなくても勝ち続けた人間にとって、負けるということは未知なる世界だからねぇ。
挫折を経験したことがない人間は、挫折を経験したことがある人間より弱い。強いからこそ、弱い。
まぁ、それでも僕はあなたより弱いんですけどね? 気配を消して、不意打ちをかまして、あなたの心を揺すぶらないと、僕はあなたと対等に闘うことはできなかった。
もしも、あなたが挫折を知っている天才だったら、僕は既に負けていた。
「『死神』が──『死神』の技術を手にした僕がっ! 殺人鬼如きに敗れるなんて……あってはならないっ!」
「……妙に他人事ですね。『死神』の技術って、あなたの技術でしょう?」
「……ッッ!!」
『死神』の技術って言い方はちょっとおかしいな。だってそれはあなたの技術なんだから。
もしかして、この人は『死神』じゃないのか? だけど、技術は本物だし……。
まぁ、今はそんなことを考えてる時間はないか。そろそろ、殺せんせー達が駆けつけてくるはずだ。
殺せんせーはブラジル。
烏間先生は会議。
烏間先生はそろそろ戻っているはず。そして異変に気がつくだろう。放課後は何人かは訓練や遊びで残ってるからね。1人もいなかったら流石に怪しむだろうから。
「……流石の僕も、油断していたよ。舐めていたよ。たかが異質な殺人鬼、そう思ってた。認めよう、潮田渚──いや、『切り裂きジャック』。お前は僕の敵だ。世界最高の殺し屋『死神』が認める、“敵”だ」
「それは嬉しいことですね。最強の殺し屋にそう言って貰えるとは歓迎だ。だけど、僕はそんなものはどうでも良い。僕が欲しいものはただ一つ。人を殺した時の快感だ」
『死神』にはダメージを負わせることは出来た。けど、精神的な揺さぶりはちょっと失敗したみたいだ。
相手の片腕は使用不能。少なからず精神的なダメージはあり。これでも勝率は20%くらいだろう。それぐらいの差が、僕とこの人の間にはある。
『死神』は、静かに笑う。
「──ここからは僕のターンだ。『死神』の独壇場だ、殺人鬼。君に改めて教授してあげるよ。『死神』の名に相応しき、
「片腕使えないのに?」
「うん、そうだよ。片腕が使えないからって、君を倒せないわけじゃないんだよ。どんな状況でも、どんな状態でも、対象を暗殺する。それが『死神』だ」
『死神』から濃厚な殺気が溢れ出る。僕は思わずナイフを構えてしまう。
これが『死神』の殺気か……。当たり前だけど、今までの殺し屋達とはワケが違う。次元が違う、とも言える。その余りの濃厚さに心臓がバクバクと加速する。
──殺せ、殺せ、殺せ
先程を遥かに超える殺人衝動が身の内側から湧き出てくる。この心臓の高鳴りは、恐怖ではなく、興奮だ。
僕はポケットから二本のナイフを取り出し、両手に携える。
「────殺す」
「畏れるなかれ、死神の名を」
それぞれの言葉を合図に、僕と『死神』の距離は限界まで近づいた。
× × ×
「君の弱点は、トドメに首を狙うことだ。君のその
「…………」
確かに、そうだ。今まで殺して来た人間を思い出してみると、そのいずれも首を掻っ切って殺している。不良も、あの殺し屋も、鷹岡先生も。殺しは出来なかったけど、『死神』に対してもそうだ。
「殺気が首に向いているんだよ、君の場合。普通の殺し屋なら殺気を向けられている部位までは気がつくことは出来ないが、僕なら──『死神』なら可能だ」
「……」
もし、この弱点に気がついていたら、この状況は少しは違っていたのかもしれないね。
薄れていく意識の中、そう思った。
結論から言うと、僕は『死神』に負けた。圧倒的なまでに、完膚なきまでに敗北した。僕のナイフ術も何もかもねじ伏せられた。
やっぱり、数ヶ月人を殺し続けた人間じゃあ、伝説の殺し屋に勝てはしないか。E組が未だに殺せんせーを殺せないのと一緒だ。
「取り敢えず、君には気絶してもらうよ。君のような
「そうですか……まぁ、精々頑張って下さい」
恐らく、『死神』は烏間先生と闘うことになるだろう。そして負ける。片腕しか使えない状況で、烏間先生を倒すことはほぼ不可能に近い。
あの人は、あなたが思っている以上に強いのだから。
『死神』が注射器を取り出し、僕の腕に刺した。急速に意識が霞んでいく。
いつか……必、ず、殺して────
× × ×
僕が目を覚ました時には、全ての決着がついていた。僕の予想通り『死神』は烏間先生に倒され、クラスメイトもビッチ先生も無事に助かった。
それは確かに理想な形で、みんなが望んだハッピーエンドではあるのだけれど、僕にとってはハッピーエンドとは言い難い。かと言って、バッドエンドではないんだけど。
正直なところ、ちょっとショックだった。初めて人間を殺し損ねた。挫折を知らない人間は打たれ弱いなんて僕は言っていたが、その通りだ。殺人で失敗したことはなかったから、殺せなかったという事実は、少なからず殺人鬼のプライドを傷つけた。
悔しい、のかもしれない。どうやら、まだ人間らしい感情は残っていたようだ。だいぶ歪んでしまってはいるが。
「……まだ、未完成だ」
ポツリと言葉を落とした。
今まで、勘違いしていた。自惚れていた。完全に殺人鬼になれたのだと思ってた。殺人鬼として完成していたと勘違いしていた。
だけど、違う。
まだまだ僕は、──
「また、『死神』と闘い、そして殺す」
でも、それで完成するわけじゃない。『死神』を殺した
全ての人間に恐怖されるような殺人鬼になることで、僕は殺人鬼として完成する。
快楽を得る為に人を殺すんじゃない。
殺人鬼である為に人を殺すんだ。
さて、この物語もあと4.5話で終わりを迎えます。
次話は出来るだけ早く更新するのでお待ち下さいっ!
もしかしたら、今日更新できるかも。