【短編】もしも潮田渚が殺人鬼に目醒めたら。【次回投稿未定】   作:うたたね。

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タイトル通り、『死神』編です。予想以上に長くなったので、分割しました!
あと、短編累計ランキング12位! みなさんありがとうございます!これからもよろしくお願いします!

えと、この話を投稿すると共に、前話を削除しました。文字数が少なすぎたことと、閑話みたいな感じだったので。


#04 邂逅:殺人鬼と死神

『死神』と呼ばれる殺し屋は、誰もを安心させるような笑顔を浮かべていた。

 目の前の人物は明らかに危険人物だ。けれど、警戒することはできない。逆に強い安心感を抱いてしまう。それ程までに完璧で、綺麗な笑顔だった。

 

 そんな危険人物を見て、僕は笑みを隠すのに必死だった。僕が求めていた圧倒的な強者がそこにいる。殺し甲斐のある強者がそこにいる。それだけで僕の殺人衝動が膨れ上がるのは十分だった。

 

 うーん、まさかこのタイミングで来るとは思わなかったよ。まぁ、ビッチ先生がいなくなった時点で少しは予想していたけどね。本当に彼とは思わなかった。

 僕としては今すぐにでも『死神』に殺しかかりたいけども、其処は自重しよう。流石に今このタイミングでみんなにバレるのは頂けない。

 

「手短に言います。彼女の命を守りたければ、先生方には決して言わず、君達全員で僕が指定する場所に来なさい」

 

『死神』がそう言うと、律の画面に手足が縛られたビッチ先生の姿が表示された。

 みんなは驚きを隠せないのか、目と口を見開いていた。ビッチ先生がとある事情でE組を去ってからもう3日経っている。つまり、ビッチ先生が『死神』に捕まったのは、最大で3日。最低で1日だ。そんな短い期間で『死神』は、プロの殺し屋を捕らえたのである。

 

 世界最高の殺し屋ともなると、それぐらいはできるということか。否、こんなことぐらいは簡単にできないといけないってことか。ならば、ビッチ先生が捕らえられたのは、E組を去ったその日だ。世界最高の殺し屋は、情報力も超一流だろうからね。

 

「来なかったらどうなるか分かるだろう? 監禁脅迫のお約束ってヤツさ。彼女を小分けにした後、次は君達のうちの誰かを狙うから」

 

 クスリと『死神』は笑う。やはりその笑いは安心できる笑いだった。

 

 しかし、良い脅し方だね。確かにお約束ではあるけれど、仮に僕達がビッチ先生を見捨てたとしても、次に狙われるのは僕達だ。そうなると、僕達はビッチ先生を助けに行かなくてはならない。

 人間の良心を使った脅迫ってのは、本当に良く効くものだ。応じなかったら罪悪感は一生憑いて回るしね。それに、このクラスの生徒達は、ビッチ先生を見捨てるということはできない。それぐらい彼女と深い関わり(変な意味じゃないよ?)を持ってしまっている。……僕は見捨てれるけどね。ビッチ先生に興味ないし。

 

 そんなことを思考している間に、寺坂君達が『死神』を囲って何やら言っている。けれど、『死神』はその笑みを絶対に崩さない。

 

「俺等は別に助ける義理ねーんだぜ。あんな、クソビッチ。第一、ここで俺等にボコられるとは考えなかったか誘拐犯?」

「不正解です、寺坂君。それらは全部間違っている」

 

『死神』が眼を細める。

 

「君達は自分達で思っている以上に彼女が好きだ。話し合っても見捨てるという結論は出ない。そして、人間が死神を刈り取る事などできはしない」

 

 バッ、と教卓に置いてあった花束を宙に放り捨て、言った。

 

 

──畏れるなかれ。死神が人を刈り取るのみだ。

 

 

 もう其処には『死神』の姿はなく、綺麗に宙を舞う花びらと、一輪の花と共に置き手紙が残されていた。

 

 

 

× × ×

 

 

 

「がぶっ……!!」

「流石『死神』だよ、ホント」

 

 黒服の男達を殺しながら、僕はどんどん歩を進めて行く。どうやら、『死神』は部下を沢山用意したみたいだね。それも捨て駒の。

 

『死神』が去り際に置いていった置き手紙には、ビッチ先生が監禁されている場所が記されてあった。結局、『死神』の言うとおり、僕達はビッチ先生を助けに来たわけだけど、その建物に入った瞬間に捕まってしまった。部屋全体がエレベーターになってたらしく、流石『死神』と思わず感服してしまった程だ。

 その後、竹林君の爆弾と奥田さんの煙幕によって、何とか牢獄を脱したのだけど、其処からチームに分かれることになった。

 

 チームは全部で3チーム。

 Aチームは、戦闘班。『死神』などと交戦するチーム。

 Bチームは、救出班。ビッチ先生を救出するチーム。

 Cチームは、情報班。脱出経路とかを探すチーム。

 

 僕はAチームだったのだが、今は単独行動だ。その理由を率直に言うと、逃げて来たのだ。Aチームは他のチームとバラけたあとすぐに『死神』と遭遇してしまった。最初はみんな数の暴力で『死神』を倒そうとしたけれど、呆気なくやられてしまってね。僕は持っていた爆弾を使って壁を破壊して逃げて来たわけだ。

 あの場で『死神』と殺し合いをしても良かったけど、流石にリスクが大き過ぎる。『死神』に気絶させられたみんなが起きないとは限らないから。『死神』に限ってそんな甘い気絶のさせ方をしていないだろうけど、念の為だ。1%でも可能性があるならば、それは僕にとっては大きなリスクとなってしまう。

 

 

「くっそ、何だこのガキ!?」

「冥土の土産に教えてあげるよ。『切り裂きジャック』って言ったら分かるだろう? ──ほい」

「ぐっ、がぁぁぁああぁぁああ!!」

「五月蝿いな。たかが掌を貫いただけでしょ?」

 

 叫び声が煩かったので、そのまま男の掌からナイフを引き抜き、首を切り裂いた。

 辺りを見渡してみると、もう黒服の男達はいない。其処にあるのは結構な量の屍だけだった。『死神』の部下だと言っても、捨て駒だ。この程度の実力なのだろう。マインドコントロールなんかで作り上げた戦士が強いとは言い難いしね。

 

 そういえば、片岡さんや寺坂君から連絡が来ないな。僕が逃げた際、一応この2人には連絡をしておいた。定期的に連絡を取ろうという約束だったんだけど、もう数十分連絡が来ていない。

 そうなると、多分、『死神』と交戦中か潰されたのだろう。仮に交戦中だとしても、『死神』と戦って勝てるとは到底思えない。たった数ヶ月暗殺の訓練をしてきた人間が、ちょっと武装した程度で世界最高の殺し屋の上を行ける道理はない。

 

 つまり、生き残りは僕1人だ。それは確かに絶望的な状況だ。だが、この状況は僕にとって好都合。誰も味方がいない、そんな状況だからこそ、僕は全力を発揮できる。

 見られる相手がいないのなら、殺人鬼(ぼく)にとっては最高の状況だ。幸い、監視カメラは大体破壊しているだろうからね。

 

 そんな時だった。

 

「へぇ、これ全部君がやったのか? やるじゃないか──いや、この場合は殺るじゃないか、か」

 

 其処には男が立っていた。だが、その体は輪郭しか見えない。体が黒い靄のようなものに覆われている。

 性別が分かったのは、彼と一度──いや、3度会ったことがあるから。そしてこれは4度目だ。

 

「『死神』……」

「この状況を見て把握したよ。君が『切り裂きジャック』だろ?」

「……」

 

 まぁ、この状況を見たらバレるか。この人達もマインドコントロールされてるとはいえ、一般人と比べてみてもかなり強い。それに数もいる。それを1人で全員倒すのではなく、殺したのだ。そうなると、必然的に答えは出て来る。

 

「まさか、『切り裂きジャック』が中学生の子供とはね。流石に予想外だった」

「そういう風には見えませんけど」

「内心は驚いてるさ。でも、それを顔に出さないのがプロの殺し屋だ。感情をコントロール出来なければ、この業界ではやっていけないし、やる資格がない」

 

 当たり前だけど、初めて見るタイプだ。人間、殺人鬼なんかと出会ったら少しは動揺を見せるのにね。この人はそういうのが全く見られない。完全に自分をコントロール出来ている。

 自分を完全にコントロールするのは、簡単ではなく、寧ろ不可能に近いものだ。それをこの『死神』は出来ている。それは正しく、『異常』だ。

 

「とりあえず、君も倒しておくよ。──ああ、安心して良いよ。君が殺人鬼だってことはみんなには教えないからさ」

「何だか僕があなたに倒される前提で話してませんか? 此処であなたが僕に殺される可能性だってあるんですよ」

「それないよ、絶対にね。たかが平和ボケしている島国の殺人鬼だろ? 僕の相手じゃない」

 

 表情は見えないが、その時『死神』は確かに笑った。その笑みは格下を馬鹿にしているような、そんな笑みだった思う。

 

 確かに僕は殺人鬼で、平和ボケしている島国の、小さな街の殺人鬼でしかない。実力も、経験も、強さも、あらゆる面であなたには負けている。それは否定出来ない事実であり、僕自身もそれを認めている。

 僕はあなたより弱い。世界最高の殺し屋であるあなたから見れば、そこら辺の有象無象と変わらないのかもしれない。

 

 

 だが。

 だけど。

 

 

 

「最高の殺し屋如きが殺人鬼に勝てるとでも?」

 

 

 

 瞬間、少しだけ『死神』の感情が揺らいだ。

 

 

「依頼という理由がないと人を殺せない君達が、ただ快楽を求める為に人を殺す殺人鬼(ぼくたち)に勝てるはずがないだろう」

 

 何か理由がないと人間を殺せない人間に、快楽を得る為だけに人を殺す殺人鬼が劣る? それは戯言だ。そんなこと、誰にも分からない。

 

「一つ教えてあげます、『死神』さん」

「……何かな?」

 

 右手に持っているナイフを強く握る。

 

 

「この世に、“絶対”なんて有り得ない」

 




次話は来週の頭辺りになりそうです。
早ければ、今日か明日に!
では、また次の話でお会いしましょう!

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