【短編】もしも潮田渚が殺人鬼に目醒めたら。【次回投稿未定】   作:うたたね。

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沖縄編は完全オリジナルで行きます。
E組の生徒は全く出てきません。
それと、よっぽどの事がない限り、1話完結型でいきたいと思います。


#03 課外:沖縄殺人旅行

 僕は口元に付いてる血を舌で舐め取り、コツコツと靴を鳴らしながら歩いていく。

 辺りに広がるのは夥しい程の『死』。もう見慣れた光景だ。見慣れたどころかこの光景に喜びを感じる程だ。それ程までに僕は殺人鬼になっていた。堕ちていた。

 

 明日からはいよいよ沖縄のリゾートだ。そこでは満足に殺人を犯す──する事はできないだろうから、こうして殺してるわけだ。ちょっとした気晴らしってヤツ。

 

 できれば明日は行きたくない。僕は人間を殺すのが好きであって、別の生き物を殺すのが好きなわけじゃあない。超生物なんて殺しても僕は何とも思わないし、達成感も、何より快感も感じない。賞金100億なんて僕にはお菓子のおまけにも満たないのだ。

 だが、やはり行かなくてはならないのだろう。僕は表面上だけでも殺せんせーの生徒(アサシン)だ。このイベントには参加しなくちゃならない。

 

「はぁ……ホント、面倒臭いったらありゃしない」

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 暗殺も失敗し、一人部屋の中で僕は横になっていた。今も言ったが、暗殺は失敗した。殺せんせーを追い詰める事はできたのだが、奥の手を使われて失敗したのだ。

 僕は別に失敗しようがどうでも良いので、全く気にしない。僕は殺人以外に興味を抱く事は殆どないないのだ。お金如きに興味など注がれない。

 

「僕は人を殺すだけだ。殺人こそが、僕の人生そのものなのだから」

 

 そう呟いた瞬間、プルルと、僕の携帯が鳴った。画面を見ると、非通知。少しだけ、嫌な予感がした。

 そして同時に──ワクワクした。僕の直感が、殺人鬼としての本能が、電話に出ろと騒ぎ立てる。この電話の先に僕が今望んでいるものがあると言っていた。

 

 思わず笑みが零れる。僕は電話に出た。

 

《やぁ、渚君。久しぶりだなァ》

「鷹岡先生……?」

 

 声の主は鷹岡先生だった。その声は前と変わっていなかったが、何処かが確実に変わっていた。壊れて、狂って、凶悪さを孕んだ声。僕はそれに恐怖を感じるどころか、嬉しく思っていた。大体、次に彼が言うであろう言葉を察したからだ。

 

《今から、誰にも言わずに君がいるホテルの裏にある林に来なさい。そこで待っている》

「もし、バラしたら?」

《ホテルに仕掛けてある爆弾を爆発させる》

「……分かりました、行きましょう」

《良い返事だ》

 

 その言葉を最後に電話は切れた。

 

「ははっ!」

 

 またもや笑みが零れる。殺人鬼の殺気が溢れ出しそうになる。嬉しかった、本当に嬉しかった。また彼と闘える僕──いや、殺し合える。僕を殺人鬼にした原因である彼をまた殺せる。

 僕は無意識のうちにナイフを握っていた。この1ヶ月の間、沢山の命を刈り取り、その血肉を切り裂いた愛用の武器。それをぐっと握り、ポケットの中に入れる。

 

 

「鷹岡先生、僕は貴方を殺します」

 

 

 

×××

 

 

 

 人間はやはり愚かな生き物だ。復讐と称し、同じ過ちを繰り返そうとする。だが、それが悪い事とは思わない。やられたらやり返したくなるのは、自己中心的な思考回路をした人間にとっては普通の事だ。だから僕は、鷹岡先生が僕に復讐しようとしてる事にはなんとも思わない。やる事は──殺る事は同じなのだ。

 

 そんな事を考えていると、林についた。夜風に吹かれて木々が揺れている。そんな林の中で僕は人影を捉えた。月明かりがスポットライトのようにそれを照らしていた。

 

「鷹岡先生、こんばんは」

「ああ、渚君、こんばんは」

 

 鷹岡先生はぐしゃりと笑う。その顔は引っ掻き傷だらけで、それが鷹岡先生が狂っている証となっている。僕に殺されかけたトラウマか何かで自傷行為に及んでいたのだろう。

 

「僕に復讐でもしに来たんですか?」

「ああ、そうだ。父ちゃんに生意気な口を聞いてよォ、それのお仕置きだよ」

「ははっ、そういう建前は良いですから。とりあえず、言いたい事はもう一戦僕と闘いたいんでしょう?」

 

 要するにそういう事だ。この人は僕にリベンジする事で僕より強い事を証明したいのだろう。僕に、周りに、そして何より自分自身に。そうする事で彼は、再び強者として君臨する事ができる。この人にはもう、そうするしか道が残されていないのだ。

 この人は哀れな人だ。哀れで、悲しい人間だ。そして誰よりも人間らしい人間だ。自己中心的な、典型的な欲望に満ちた人間だ。

 

 鷹岡先生はまた、ぐしゃりと笑う。

 

「ああ、そうだ……あの時から! テメェに切り裂かれた首が痒くて痒くて仕方がねェ!! テメェのナイフが頭にチラついて、顔も首も痒くて痒くて……」

 

 安心して下さい、鷹岡先生。もう敗北の悔しさに悩む事はなくなりますから。もう直ぐ貴方は亡くなるんです。僕に殺されるんです。だから安心して下さい。

 

「潮田渚ァ……俺と殺し合え。何方が死ぬまで続けるぞ!!」

「……でも、殺しちゃったら犯罪になりますけど?」

「もう俺は犯罪とかそんなしょうもないもんはどうでも良い!! テメェに復讐できるなら……テメェを殺せるなら俺は満足だ!!!!」

「あはは、元気が良いのは何よりです」

 

 正直、この人の思い入れなどどうでも良い。大体この人が僕を恨むのは筋違いってものだ。僕はあの時、ただ貴方の勝負に乗って、そして勝っただけだ。大方、不意討ちが汚いなんて言うつもりなんだろうが、其方は大の大人だ。汚いなら鷹岡先生の方が汚いだろう。

 そんな事を言っても、この人は聞く耳を持たない。自分が格下に負けたという事実が、認められないのだ。

 

 だが、復讐しに来てくれた事は好都合だ。しかも誰もいない場所での一騎討ち。殺し合い。殺人鬼の僕にとって、向こうから殺し合いをしようと持ち込んでくれるなら、それ程良い事はない。

 この人が此処に一人で来た理由は、僕を殺した後に証拠隠滅がし易いからだ。今は殺せんせーも動けないし、烏間先生も色々と忙しい。鷹岡先生は天は自分の味方をしていると思っているのだろう。しかし見方を変えれば、天は僕の味方をしていると言っても良い。此方にだって殺す為に来たのだ。条件は同じだ。

 

 つまり、勝った方に天は味方をしているという事だ。

 

 面白い状況だ、と僕は思った。

 

「ルールは……いらないですよね」

「分かってるじゃないか。何方かが死ぬまで闘うんだよ。正真正銘の殺し合いさ。……ククッ、お前みたいなガキには難しいかな? 余裕ぶってる割には小心じゃないか」

「僕は貴方を殺すつもりはありません。貴方を倒してみんなを救います」

「はははっ! 渚くぅん、そんな甘っちょろい考えで俺を倒せるとでも?」

 

 取り敢えず、人を殺す事のできない『僕』を演じてみたけれど、意外に好評のようだ。まあ此れにも理由がないわけじゃない。この人が僕が殺人鬼だという事を知っているかを確認するためだ。この様子だと、知らないみたいだ。良かった良かった。

 しかし、この程度の演技に気がつかないとなると、かなり興奮しているらしい。

 

「じゃあ始めようか? ほれ、ナイフだ、受け取ってくれよ?」

「……」

「ひひっ、ビビって動けないか。まあ良い。ささっとやろうか」

 

 鷹岡先生は拳を構える。どうやら素手で僕を殺すみたいだね。その拳でじっくりじっくり、嬲って嬲って、殴り殺すつもりなのだろう。

 

 其処から導き出せる答えは近接戦闘だ。鷹岡先生は僕を殺すには近接戦に持ち込むしかないのだ。武器がナイフしかない僕にとって、それは好都合です。

 

 鷹岡先生が拳をパキパキと鳴らして宣言するように、自分の強さを誇張するように、叫んだ。

 

 

「さぁ、夏休みの課外授業だ……潮田渚ぁぁぁぁああぁぁああ!!!!」

 

 

 鷹岡先生が僕に殴りかかり、僕は軽く笑ってナイフを構えた。

 

 

 

×××

 

 

 

 鷹岡先生の大きな拳が僕の眼前に迫る。僕はそれを後ろにステップする事で避け、体重を前に掛けて懐に潜り込む。鷹岡先生はギョッとした表情をする。

 

 僕と貴方じゃ経験の差があり過ぎる。貴方は僕に比べて、命を奪った回数が余りにも違いすぎる。貴方は今まで人の命を奪った事はないだろうが、僕は此処1ヶ月で30人は殺した。殺して殺して殺して殺しまくった。その中の何人かはプロの殺し屋だ。銃を使う人もいたし、刀を使う人もいた。命のやり取りならば、僕の方が圧倒的に上だ。

 

 僕は体に仕込んであるナイフを取り出す。その数10本。

 

 

「なっ……!?」

「さようなら、鷹岡先生」

 

 

 10本のうち8本を宙に放り投げ、鷹岡先生の視線が其方に向く。その隙に僕は両手に持っている二本のナイフを鷹岡先生の両拳に突き刺す。

 

 

 3本目と4本目

 

 

 鷹岡先生の濁った双眼にグサリと。

 

 

 5本目

 

 

 ヘソ辺りに突き刺し、横に思い切り引いた。血が噴き出し、内臓を抉ったような感触があった。

 

 

 6本目

 

 

 鷹岡先生の体を滅多刺しにした。もちろん、致命傷になるところは全部避けてあるよ。

 

 

 7本目と8本目

 

 

 太腿の中間辺りに突き刺し、それを思い切り下に引いた。鷹岡先生の体が崩れ落ちる。

 

 

 9本目

 

 

 倒れた鷹岡先生の背中に刺した。此れだけだ。

 

 

 

「ァ……ぅ」

 

 鷹岡先生は身体中を真っ赤に染めながら、辛うじて息をしていた。このまま放っておいても勝手に死ぬが、残念ながらナイフは後1本残ってる。

 最後まで殺り切りましょう。こんなのは小学生でも習った事だ。

 

 

「10本目」

 

 

 鷹岡先生の首元にナイフを当てて、ゆっくりと引いた。血が噴き出るが、前みたいな勢いはなかった。沢山血が出ているから、あんまり出なかったのだろう。

 

 この人からはいろんな事を教わった。殺意や僕の才能とか。今回はナイフ術の応用かな? まあそんなところだろうね。

 

 

「今までで一番残酷な殺し方だったなぁ……」

 

 

 楽しかったです。

 

 

 こうして、僕の沖縄殺人旅行は終わりを迎えた。

 

 




暗殺失敗について渚があんまり語らなかったのは、興味がないからです。はい。

それと、多数のお気に入りありがとうございます。それと感想も評価も。

──追記──

現在スランプに陥っており、次回更新は遅れると思われます。
本当にすいません!

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