【短編】もしも潮田渚が殺人鬼に目醒めたら。【次回投稿未定】   作:うたたね。

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ほい、続きました。
それと、サブタイの書き方を変えました。


#02 経験:命のやり取り

 人の死について、僕はどう思ってるのだろうか? 自分で言うのもアレだが、かなり軽く思っているのは間違いないだろう。でなければ、人を殺したりなんかしない。

 命には重みがあるなんて言うが、そんな重みは殺人鬼(ぼく)の前では重みでも何でもない。空気と同じように重さを感じない重さだ、僕にとってはね。

 

 『命は大事にしましょう』なんてのは、大衆が決めた安い理屈に過ぎない。

 大体、命を奪う行為は人間誰でもやっている。食事や道具作りなど、そんな事で様々な命を奪い取っているのだ。その癖、人間の命を奪うなだなんて都合の良い話だ。人間だって、生き物には変わらないだろうに。

 

 結論から言わせれば、人間はエゴイストだ。それもかなり酷く、タチが悪く、醜いエゴイスト。

 

「それにしても、かなり腕は上がったね。一月前とは比べ物にならないくらいだよ」

 

 僕の目の前にはゴロゴロと肉塊が転がっている。その全てが元人間だ。

 人間なんて、死んだらタンパク質の塊でしかなくなる。死んだらそれで終わり。それ以上でもそれ以下でもない。

 

 今回殺したのは、又もや町の不良達。カルマ君に昔教えてもらった不良スポットを基に殺りにいった。不良は結構腕を上げるのに役に立ったりする。莫迦にすると殴りかかってくるので、多対一の状況を作り上げる事ができるのだ。あとはその人数をまとめて殺すだけ。幸い、動体視力なら殺せんせーのおかげでかなりある。避けるぐらいは簡単だ。

 

「でもなぁ……そろそろ不良達も飽きてきた」

 

 血の付いたナイフを弄びながら、そんな事を呟く。

 この呟き通り、僕は最近不良を殺す事に飽きてきた。それは同じ食べ物をずっと食べ続けたら飽きるのと同じで、ずっと同じ対象(不良)を殺したら飽きてしまう。

 

──もっと強い相手を殺したい。

 

 最近はそんな事を思うようになった。殺した人数に比例して、殺人衝動も強くなってきた。

 強い人間を殺したいのは山々だが、そんな人間はそうそういない。もうこの街で連続殺人を起こして警察と殺し合うのも良いけれど、僕はまだ未成年。死刑になる事もなく、少年院等に入れられるか、または精神病院に入れられるかだ。それだと、人を殺せないから嫌だ。殺せないのなら死んだほうがマシだ。

 

 だから僕は、殺し屋を狙う事にしました。()()以外にも、殺せんせーを狙う人間はいる。それが世界の殺し屋達だ。その人達は、この街に殺せんせーを殺す為に集結している。此れは狙わないわけにはいかないだろう。

 

 僕は夜空に浮かぶ月を見て笑う。手を伸ばし、その月に重ね、握る。

 

 

 いつかの僕は殺せんせーを殺す事に執着していた。でも、今は違う。

 

 

 僕のターゲットは超生物じゃあない。そんな()()()()()相手じゃない。

 

 

「人を殺す。僕はその為だけに生きていこう」

 

 

 

×××

 

 

 

「ねぇ、渚。『切り裂きジャック』って知ってる?」

「ああ、最近巷で噂の?」

「そうそう」

 

 『切り裂きジャック』とは、最近現れた殺人鬼の話だ。拠点は椚ヶ丘と言われており、その根拠は一連の殺人事件が椚ヶ丘で行われているからだ。

 『切り裂きジャック』には元ネタがあり、19世紀末に実際にイギリスであった連続殺人事件の犯人の異名だ。その事件は、結局未解決のまま蓋を閉じている。

 何故そんな名前が付けられたのかは知らないが、たぶん、連続殺人鬼=『切り裂きジャック』という謎の方程式が名付け親の中であったのだろう。実際ジャックはかなり有名だしね。

 

 それで僕はその『切り裂きジャック』の犯人を知っている。ていうか、僕だ。僕がその犯人だ。

  僕としては、そんな名前を付けられた事を嬉しく思っている。あの世界的殺人鬼と同等に見られているのだ、こんなに嬉しい事はないだろう。そう呼ばれているのを知った日の夜は寝られなかった程だ。

 

「これ──絶対に殺せんせーを殺しに来た殺し屋だよね? この時期にこの町で殺人なんて絶対におかしいよ!」

「言われてみればそうかもね」

 

 何が言われてみればそうかもね、だ。茅野には悪いけど、その殺人鬼はあなたの目の前にいます。そんな事を言ったら君は卒倒しそうだよね。言わないけどさ。

 僕としても、クラスメイトはできるだけ(、、、、、)殺したくはない。必要とあらば殺すが、殺さないのが最善だ。

 

「でも、実感が湧かないよね、茅野」

「え?」

「対岸の火事っていうかさ、近くに起きていても、自分は関係ないって思ってしまうんだよ、人間は。確かに現実では起こってるけど、僕は実感が湧かないよ」

「うーん、まあそうだけどさぁ」

 

 実際、人間なんてそんなもんだ。危険・怖い・ダメだ。そんな事は分かっていても、何処かでそれを疑っている。自分が巻き込まれないと──自分が騒動の中心にいないと、人間は実感しないのだ。

 僕が何故そんなことを言えるのかというと、身を以て経験したからだ。ジャック(ぼく)が出没するという嘘の情報を流し、それに釣られた人がやってきた。危険だと分かっているのにも関わらず、だ。もちろん、その人は殺したよ。

 

 しかしまったく、僕は殺人鬼に目醒めてから、決定的に何かが変わってしまった。思考・価値観などなど、前の僕とはかなり違ってしまった。もう面影が無いほどに。今まではこんな事を考えた事なかった。

 

 もう僕は戻れないのだろう。戻る気もないが。

 

「まあ一応は気をつけた方が良いと思うよ。何かあれば、殺せんせーを呼べば良い。叫んだら、多分……絶対に来てくれるから」

「うん……」

 

 大丈夫だよ、茅野。僕が君を殺す事はないだろう。君が僕の邪魔をしないのなら、僕は君を殺さない。君はあの時、僕に勇気をくれたから。自信を持たせてくれたから。

 

「もうすぐ、沖縄のリゾートで暗殺だね」

「そう言えばそうだったね」

「殺せたら良いね」

「うん」

 

 

 殺せたら、ね。

 

 

 

×××

 

 

 

 ザシュ! そんな音が響く。赤い液体が飛び散り、僕の頬に付着する。普通の人ならば不快になるような感覚だが、僕にはそれが気持ち良かった。

 

 切りつけられた男は僕を睨む。僕は自分の口元が緩むのが分かった。

 僕はこの状況にかなり驚き、そして何より嬉しかった。今まで殺してきた人間は、全員一撃で死んでいった。僕のナイフを避ける事もできず、呆気なく、命の灯火を消していった。

 しかしどうだろうか? この男は僕の攻撃を避け、戦闘に持ち込んでいる。もしかしたらこの男に殺されるかもしれないという恐怖と、それを遥かに超える殺人衝動が僕を襲う。

 

 ああ、そうだ。これだこれだよ。命の奪い合い。僕はこれを欲していたんだ。

 

「お前は何だ? 見たところ子供みたいだが」

「僕はただの鬼ですよ。種族は殺人鬼。珍しいでしょう? 殺し屋さん」

「! ……気がついてたのか。お前、只者じゃないな」

 

 男は警戒心を高めたようだ。僕を鋭い目線で睨みつけ、いつでも動ける体勢をしている。

 手には銃を持っており、正直僕は不利だろう。僕の武器はナイフ。つまり、この人に攻撃するには、近づかなくてはいけない。さっきは不意打ちで切りつけれたが、今度はそうはいかないだろう。

 

 ふふ、感じた事のないワクワクだ。お母さんの人形だった頃には味わえなかったセンシビリティ。

 

「お前は危険だ……だから此処で殺さなくちゃならない。確実に暗殺の邪魔になる」

「貴方は最高だ……だから此処で殺さなくちゃならない。確実に殺人鬼(ぼく)の糧になる」

 

 決着は一瞬だ。

 何方かが死に、何方かが生き残る。

 

 

 まさに弱肉強食。

 

 

 動いたのは同時だった。男が引き金を引き、僕は走った。

 

 

 パァン!

 

 

 乾いた音が響く。僕の耳が機能しなくなる。鼓膜は破れていないだろう。少し麻痺しただけだ。

 僕は首を横に振り、銃弾を避ける。体が勝手に動いた。ただそれだけのこと。

 男がもう一度引き金を引こうとするが、もう遅い。僕のナイフは彼の首のすぐ側だ。刃が当たる感触が腕に伝わる。男が驚いたような顔をし、その表情は死に怯えたものに変わる。

 

 この瞬間だよ、この瞬間!! あはは!! 今まで生を謳歌していた人間が死に対して恐怖を自覚するこの瞬間!! この時こそ、僕は何より快感を覚える。

 貴方は殺し屋だが、自分の死に対して考えた事はないだろう? その表情を見ればわかるさ。今まで殺してきた人間と同じ顔してるからさ!!

 

「がっ……くそっ」

「僕が勝って生き残る。貴方は負けて殺されろ」

 

 首に当ててあるナイフを思い切り引く。鮮血が飛び散る。男の目から光が消えていく。

 

 

「楽しかったよ、殺し屋さん。緊張感があって良かった」

 

 

 僕はそう言って笑った。

 

 

 この日、初めて僕は、命のやり取りを経験した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




渚君はどんどん強くなってますねぇ。はい。殺し屋にも勝てるようになりました。


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