【短編】もしも潮田渚が殺人鬼に目醒めたら。【次回投稿未定】 作:うたたね。
最初らへんは、ほぼ原作通りです。鷹岡先生との勝負から始まります。最初に少し殺せんせーとかの話をしています。
では、どうぞ!
人生は不確定だ。
たった一つの選択でその後の人生、及びその人間の性質は大きく変化してしまう。
そう考えれば、僕の人生の転換期は、間違いなくあの時あの瞬間なのだろう。
これはそういう物語。
×××
僕、潮田渚の学校生活は──いや、僕達の学校生活は、他の人達よりも、かなり変わっている。
理由もかなり変わっている。こんな事を話しても信じられるかどうかは分からないけども、話しておこうと思う。
2ヶ月前、進学校「椚ヶ丘中学校」の成績・素行不良者が集められた3年E組の元に、ある日突然、防衛省の人と謎のタコみたいな生物がやってきた。その生物は、マッハ20で移動し、月の7割を蒸発させ、授業を教えるのが上手なタコだった。
そして何やかんやあり、そのタコ──殺せんせーは、僕達の担任をし、僕達は殺せんせーを来年の三月までに暗殺しなければいけなくなった。暗殺しなくちゃ地球を破壊するらしいし。
最初は戸惑ったけれども、賞金百億円と聞いて、みんなの目の色は変わって、暗殺に意欲的になった。
ほらね? 僕達の学校生活はかなり濃いだろう? こんな学校生活送ってる人なんて、世界中探してもいないと断言できるよ。
この超生物との出会いが、僕は自分の人生の転換期だと思っている。
成績も前よりも比べ物にならないくらい上がったし、クラスメイトの事をより良く知ることができた。だから殺せんせーには、そこら辺は感謝してます。
「渚君、何やら嬉しそうですね? 何か良い事でもありましたか?」
「え、僕そんなに顔に出てました?」
「ええ。此れでもかと言うぐらい、笑顔でしたよ」
はは、何だか照れくさいや。
「殺せんせー。僕は必ず、貴方を三月までに暗殺してみせますよ」
「ヌルフフフ、其れは楽しみです。殺せると良いですねぇ、卒業までに」
この2日後、僕の人生は劇的に変わる事になる。
それはもう、殺せんせーとの出会いなんて目じゃない程に。
×××
「渚君、やる気はあるか?」
烏間唯臣先生にナイフを渡された。真っ直ぐ僕の目を見て、真剣な表情で。
教師が生徒にナイフを渡すという、PTAが見たら発狂ものの状況を作り出したのは、僕らの様子をニヤニヤと笑っている男──鷹岡明先生の所為だ。
烏間先生は僕達に暗殺の訓練をしてくれる防衛省の人だ。この人のおかげで僕達の暗殺技術は格段と上がったが、それでも殺せんせーを追い詰めるという所までは至っていない。それを見兼ねた防衛省の上層部の大人が呼んだのが、鷹岡先生だ。
鷹岡先生は、最初こそ父ちゃん父ちゃん言って僕達に優しく接していたけれど、そんな優しい一面も、今日を境に剥がれ落ちた。
彼が用意したE組専用の時間割には、朝9時から夜の9時までの時間割が記された表で、その殆どが暗殺訓練であった。
勉強する時間もないし、遊ぶ時間もない。そんな過酷な時間割に意を申し立てた前原君は、蹴りを入れられて黙らせられた。
もう鷹岡先生は『優しい』父ちゃんではなく、逆らう者には容赦しない『暴力的』な父ちゃんだった。
結局、そんな彼の横暴に我慢できなかった烏間先生が、鷹岡先生を止めに来たのだが、そんな事は鷹岡先生は気にしていなかった。寧ろ、それを望んでいたかのような、そんな様子だった。
そして鷹岡先生は、烏間先生に勝負を仕掛けた。
ただし、それは暴力での解決ではなかった。内容は、烏間先生が選んだイチオシの生徒を選び、鷹岡先生と闘わせるという単純なもの。鷹岡先生にナイフを一度でも当てれたら、鷹岡先生は此処から出て行くとのこと。
だが、問題は其のナイフだ。僕達がいつも訓練で使っているナイフは、殺せんせーにしか効かないナイフで、人間には無害の物だ。しかし、今回の勝負で使うのは、本物のナイフ。
刺せば血が出るし。
心臓に刺せば殺せる本物の。
そしてあのシーンだ。
「渚君、やる気はあるか?」
烏間先生が、僕にナイフを渡すという、今この瞬間。
正直なところ、僕には無理だと思う。何故なら、僕はこのE組の中でも、特別運動能力があるわけでもない。むしろ、劣っている方だ。
そんな僕が選ばれた事をクラスメイトは困惑していたし、もちろん当の僕が一番困惑し、驚きを感じていた。
僕はナイフをジッと見る。やはりどう見ても本物のナイフだ。玩具でもない、人殺しの道具にも使われる、本物の、ナイフだった。
烏間先生は、僕の目を見て言う。
「このナイフは無理に受け取らなくても良い。俺は、プロとして君達に払う最低限の報酬は、当たり前の学校生活を保障する事だと思っている。だから、もし、受け取らないのなら、その時は俺が鷹岡に頼んで、報酬を維持してもらうよう努力する。出来ることなら、君達を危険に晒したくはないんだ」
僕は烏間先生の目を見つめ返す。
僕はこの人の目が好きだ。真っ直ぐ目を見て話して、僕をきちんと見てくれる。
何で僕を選んだのかも分からない。けど、この先生が僕を信頼してくれたのだ。其れならば、僕にも十分可能性があるという事なのだろう。
だから僕は、そのナイフを受け取った。
「やります」
僕の人生の分岐点まで、残り10分を切っていた。
×××
「さぁ、来い!!」
鷹岡先生が嗤う。僕を莫迦にするように。僕を見下すように。僕の事を、雑魚と思って相手をしているのだろう。
烏間先生からヒントは貰った。この勝負に勝つためのヒントを。
この勝負は最初の一手こそが最大のチャンス。鷹岡先生は暫くの間は僕に好きに攻撃させるだろうから。
「ほれ、どうした?」
鷹岡先生が舌をべロリと出して挑発してくる。
無視しろ、気にするな。相手のペースに呑まれるな。僕は僕のペースで行こう。
自分のタイミングで、自分のペースで。
僕は目を瞑る。烏間先生のアドバイスが脳裏を過ぎった。
『君は強さを示す必要もない。ただ一回、当てればいい』
──カチリ
そんな音が聞こえた気がした。
──ああ、そうか。
僕は口を動かす。
──なぁんだ。簡単な事じゃないか。
口角をゆっくりと吊り上げ。
──答えは其処にあった。
僕は笑った。
──殺せば 勝ちなんだ──
たったそれだけの 簡単な事。
僕は今から この人を殺します。
僕は笑顔を浮かべ、普通に歩いて近付いた。通学路を歩くように。帰宅路を歩くように。友達と駄べりながら歩くように。
気が付いた時には、鷹岡先生の腕にぶつかった。
なら、此処からする事は簡単だ。
僕はナイフを振るった。躊躇無く、鷹岡先生の首元に。
鷹岡先生は気が付いたみたいだ。自分が殺されかけてる事に。だから彼は上体を逸らしてナイフを避ける。
避けるにしては大きな避け方だ、隙が多過ぎる。僕は急いで背後に回り、鷹岡先生の首元にナイフを当てた。
僕はそれに気がつかず、体重を掛けて鷹岡先生を転けさせてしまう。
ビュッ! と聞き慣れない音が聞こえた。そしてそのすぐ後にプシャアア! と噴水のように水が噴き出す音が聞こえた。
×××
結局のところ、それは偶然だった。少なくとも、僕はわざとにやったわけではない。
人を殺す──とまではいかなかった。鷹岡先生の首から血が噴き出したその瞬間、殺せんせーが縫合してくれたおかげで何とか死は免れた。
しかし理由はどうあれ、鷹岡先生が命を取り留めたとしても、僕が人を殺しかけたのは事実だ。それは取り消せない事実であり、僕の頭の中に一生離れないのだろう。
あの後、クラスメイトは僕に普通に接してくれた。僕に怯えることもなく、それどころか僕の心の心配をしてくれた。それはとても嬉しかったし、僕も感謝している。
正直僕は、みんなに軽蔑されるのだと思った。わざとではないとはいえ、人を殺しかけたのだ。普通、虐められてもおかしくはないのだ。その点、僕はクラスメイトに恵まれていたのだろう。
「……」
右手を見る。鷹岡先生の首を切り裂いたナイフを握っていた右手。僕の体で最も血を浴びた部位だ。
僕は忘れられなかった。あの瞬間を。初めて人を殺しかけたあの瞬間を──
──
ああ、ホントに、どうしたんだろうね? これじゃあまるで、異常者みたいじゃないか。小説や漫画の世界の快楽殺人鬼みたいじゃないか。
あの感覚が忘れられない。肉をナイフで切り裂く感覚。噴き出る血の匂い。命の灯火が消えていくあの瞬間が!!
──つまり僕は、命を奪うという行為に快感を覚えてしまいました。
だから。
だから僕は──
「ヒッヒィィィィィ!!!」
僕の目の前で男が悲鳴をあげながら、後退りしていく。僕はそれをコツンコツン──と靴を鳴らしながら追いかける。
「お、お前! 修学旅行の時の奴だな!? 何が目的だ……復讐か!? それでも
「やり過ぎ……ではないと思うけどね。襲ってきた人達を
「こ、殺しただけって……」
男──高校生のリュウキ君は、恐怖に顔を歪ませながら、僕の言葉に顔を更に引き攣らせる。もう顔が面白い事になってるよ。
リュウキ君の周りには、いっぱい人が転がっていた。全員血だらけで、首を引き裂かれた人もいれば、原形を保っていないぐらい、グチャグチャにされた人もいる。みんな違ってみんな良いって奴だね。個性的過ぎる外見だけどね。
まあ、僕が殺ったんだけど。
「次は君の番だね。──いやぁ、ホントに丁度良かったよ。街を歩いてたら君達がいたからさ。丁度実験体には良いかなぁと思って」
「な、何だお前……完全にイカレテやがる。俺達だって同じ人間だぞ!? 殺したら、犯罪だぞ!?」
「あはは、小学生みたいな台詞だね。それに犯罪だなんて当たり前の事言わないでよ。人を殺すことは許されない罪だってことぐらい、分からないほど馬鹿じゃない」
「お、おい、それ以上俺に近──」
リュウキ君の喉にナイフを突き刺す。引き抜くと、ものすごい勢いで赤い噴水が飛び出した。
これで全員終わったかな? 流石に目撃者を生かしておくことはできないからね。きちんと殺しておかないと。
「ひっ!」
「あ、まだ生き残りがいたんだ。なら殺さないと」
逃げる男を僕は追いかける。
──殺すために。
どうだったでしょうか?
渚君が鷹岡先生の倒し方をちょっと変わっただけですね。まあ自己満足です。
分かりにくかったかもしれませんがね。