転生した彼は考えることをやめた   作:オリオリ

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今度は緋真視点で、出会いを軽く書いてみました。
けど、これって勘違いになるのだろうか……?



第二話 私の兄様

「うまい、緋真も料理が上手くなったな」

 そう言って私に微笑んでくれるのは、青い髪をした偉丈夫。

 ここ数年一緒に住んでいる私達の義理の兄です。

 

「兄様が美味しい食材を持ってきてくれるからですよ」

 新鮮な山菜とイノシシの肉に、味噌を溶かした簡単な鍋物。

 この戌吊では、贅沢な食事です。

 ルキアの方を見ると、箸を綺麗に持とうとして悪戦苦闘しています。

「ルキア、あーん」

 私がお肉を摘んでルキアの口元に持っていくと、キラキラした目であーんと言ってお肉を食べました。

 

「おいしいですあねうえー!」

「ふふふ、ありがとう、はい、あーん」

 今度は山菜を食べさせてあげると嬉しそうに笑うルキアに、こっちも嬉しくなってきました。

 そうしていると、ふと視線を感じて兄様の方を向けばジト目で私を見ていました。

「あの、なにか?」

 私が尋ねると兄様は、物凄く大きな溜息をつきました。

 

 むぅ、なんですか一体?

「戯け、緋真が食べさせては箸の練習にならぬではないか」

 目で抗議していると兄様からの言葉が胸に刺さりました。

 そう言えば、ルキアに箸の使い方を教えている最中でした。

 思わず胸を押さえているとルキアが不思議そうな顔をしていました。

「あねうえはたわけー?」

「る、ルキア!?」

「ククク、あぁ、そうだな。緋真は戯け者だ」

「あねうえのたわけものー!」

 な、なんて事でしょう。

 兄様の策略でルキアが敵に回ってしまいました!

 

 がっくりと肩を落としつつも、この何気ないやり取りがとても楽しいです。

 

 兄様と出会うまでは、それこそ生きる事に必死だったのに、こうして2人と過ごせる事がとても幸せです。

 

 あの日、兄様が助けてくれなかったら

 あの日、ルキアを見捨てて逃げていたら

 あの日、兄様が共に過ごそうと言ってくれなかったら

 

 今の私は此処にはいないのでしょう

 

 兄様と初めて出会ったあの日は運命だったのかもしれません

 

 

 

 私は悪漢達に襲われていました。

 それまで私は今よりも幼いルキアを抱いて、身を潜めて暮らしていました。

 その頃の私はまだ体も弱くて、ルキアを抱いて動く事すらも重労働でした。

 

 何度ルキアを見捨てて逃げようと考えたかも分かりません。

 毎日、他人に怯えながら潜んでいた私達は遂に、悪漢たちに見つかってしまいました。

 

 ルキアを抱えて直ぐ様逃げ出した私を、悪漢達は嘲笑いながら距離を詰めてきました。

 周りの人達は自分に害が及ばない様に見て見ぬ振り。

 それが当然でした。

 私もそうして今まで隠れてきたのですから。

 

 悪漢たちに回り込まれ、ニヤニヤと嫌らしく笑いながら迫ってくる悪漢に私は震えを隠せませんでした。

 それでも腕に抱いたルキアを見捨てなかったのは……今でも分かりません。

 見捨てるどころか、私は彼らの目からルキアを隠そうとしていたのです。

 

 もうダメだと、そう思った時に目の前まで迫っていた悪漢の1人が悲鳴を上げました。

「愚か者共が、女子相手に何してやがる」

 次に目に入ったのは大きな黒い背中に青い髪でした。

 その背中を見たとき、何故か私の震えは止まっていました。

 

 何故かこの人は私たちを護ってくれると言う、安心感を感じていたからです。

「なんだテメェは!? ブッ殺されてぇのか!」

「オイ、兄ちゃんようカッコつけは早死にするんだぜ?」

「怪我する前にそこの嬢ちゃん達を渡した方が身のためだゼェ?」

 悪漢達の言葉を受ける彼は仁王立ちしたまま、彼らを睨みつけたんだと思います。

 

 突然黙り込んだ悪漢達は、彼が一歩前に踏み出しただけで彼らは悲鳴を上げながら逃げていったのです。

 

 悪漢達の姿が見えなくなると、彼はそのまま何も言わずに去ろうとしたので、私は慌てて声をかけました。

「あ、あの! ありがとうございました!」

 

 私の声に振り返った彼は、私とルキアを見ると懐かしい人を見るような目をしていました。

「俺は当たり前の事をしただけだ、礼はいらん」

「それでも、助けて頂いて本当にありがとうございます。もしよろしければ、お名前を教えて頂けませんか?」

「……嵐山響だ」

 私が改めてお礼を言って名前を訪ねると、彼は少し恥ずかしそうに視線を逸らしながら、名前を教えてくれました。

 

 そんな仕草をする彼に可愛いという印象を抱きつつ、私も自己紹介しました。

「私は水無月緋真です、この子は水無月ルキア」

 腕の中で眠っているルキアの顔を見える様に抱き抱えると、彼は指を口に当てながら何か考え事をしていました。

 

 その様子に首を傾げていると、何か納得した様に頷きました。

「この地区で良く耐えたな、これも何かの縁だろう、これからは俺がお前達を護ってやろう」

 と、いきなりの言葉に私は思わず目を丸くしました。

 常識的に考えるとありえない言葉でした。

 この生きる為に人を襲う戌吊で、護ってくれるなんて言葉を言ってくれる人が一体どれほどいるというのでしょう。

 

 それに本来そんなに簡単に人を信頼していては生きていけないのですが……目の前の彼を見ていると、信じても大丈夫だと思わされてしまいます。

 目の前の彼を見ると、信じても良いんだと思わされてしまいます。

 そんな自分に小さく笑いながら、彼に着いて行くことにしました。

「不束者ですが、どうかよろしくお願いします」

「これからは家族となるのだ、兄と呼ぶといい」

 

 その言葉にやっぱりこの人は、とても暖かい人なのだと思いました。

「はい、兄様」

「子を抱きながら歩くのは辛いだろう、代わろう」

「ありがとうございます」

 私はルキアを兄様に渡して立ち上がりました。

 

「まずは家だな、大丈夫か?」

 立ち上がる時に少しふらついた私を、兄様が軽く支えてくれました。

「大丈夫です」

 少し笑って兄様の隣に立つと、見上げなければ兄様の顔が見えません。

 大きな方だとは思っていましたが、すごく大きいです。

 私の身長が145cmほどなのですが、兄様の肩にも届きません。

 2mくらいあるのではないでしょうか。

 偉丈夫といった感じです。

 

 そんな兄様の隣を歩いていると、あることに気がつきました。

 歩幅が全然違うはずなのに、辛くないことに。

 よく見れば兄様は非常にゆっくり歩いていました。

 出会って間も無いのに、こうした気遣いもしてくれています。

 本当に優しい方です。

 

 心があったかくなりました。

 兄様の隣を歩いて行くと、大きな平屋がありました。

 どうやら兄様は、ここで過ごしているみたいです。

「中を片付けてくる、しばし待て」

 ルキアを私に渡しつつ、兄様は平屋の中へと入って行きました。

 私は近くの木に座り込んで、ルキアを抱えます。

 

 それにしても、ルキアはいろんな事があったのにまだスヤスヤと寝ています。

 肝が座っていますねー。

 そんなルキアを見ていると、この子は1人でも凄く逞しく生きていきそうな気がします。

 絶対に離しませんけどね。

 

「待たせたな」

 そんなことを考えていると、兄様が目の前にいました。

 近づいてくるのに全く気が付きませんでした。

 兄様はルキアを抱き上げると、私に手を差し出してくれました。

「ありがとうございますぅ!?」

 そんな自分に小さく笑いながら、彼に付いて行くことにしました。

 兄様を見ると目を丸くしていました。

 

「緋真もそんな声を上げるのだな」

 ウンウンと頷きながらも、口の端が笑っています。

 そんな兄様に恨めしげな視線を送っていましたが、軽く笑われて頭を撫でられました。

「あ、兄様! 痛いです!」

「む、すまぬ。頭などあまり撫でたことがないのでな」

 うぅ、少し頭が痛いです。

 

「そんなに痛かったか、すまぬ、次からはもっと、加減しよう」

「……お願いします」

「では、小屋に入るとするか、日も落ちてきた」

「はい……?」

 ???

 兄様、いま小屋と言いました?

 確かに兄様からしたら少し小さいかもしれませんが、立派な平屋だと思うのですが?

 

 そんなことを思いながら、兄様が戸を開けると振り返って言いました。

「おかえり、緋真、ルキア、お前達を歓迎しよう」

 優しげな微笑みを浮かべて、言われた言葉に自然と笑みが溢れました。

 

 そして、私もこう返すのです。

「ただいま帰りました、兄様」

 

 私達は掛け替えのない居場所を見つけました。

 そうして、私達の生活が始まったのです。




勝手に緋真達の苗字を考えてしまったけど、意外と語呂が良かったのでそのまま採用
それにしても、朽木になる前の苗字はいったい何だろう?

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