Re:ゼロから始める運命石の扉   作:ウロボロス

10 / 12
十:変革開始

 

ロズワールの案内で岡部達は一度食堂へと集められた。まだいまいち状況が読み込めていないスバルも座らせられ、見た事無い人が現れた事に驚いているエミリアも座らされた。怪しい人が増えた事に不満そうな顔をしているラムに、戸惑ったようにあたふたしているレムは壁際で控えている。岡部達はまるで逃げられないようにその前に座らせられ、ロズワールと対峙する事となった。

 

話は基本円滑に進んだ。ラインハルトが居るからかロズワールも核心を突いたような質問はあまりせず、単に岡部がスバルに会いたかった、という理由で納得してくれた。しばらくの間滞在する事も許してくれ、その際にフェルトの事も秘密にしてくれるように交渉は進んだ。結果、岡部はロズワール邸で過ごす事が可能となった。

 

「では、そのような処置で……」

「ええ、お心遣い感謝致します」

 

交渉が成立し、ラインハルトは律儀に頭を下げてお礼を言った。岡部もそれを真似て頭を下げる。その間、ロズワールはじっと岡部の事を観察していた。まるで見た事の無い虫を見つけた子供のように純粋な瞳をしながら、何かを確かめるように見続けている。その視線に気づいた岡部は首を傾げ、ロズワールの事を見つめ返す。だがすぐにロズワールは視線を背けてしまい、何事も無かった様にラインハルトの方を向いた。

 

「お部屋に案内致します」

 

ロズワールの指示でラムがラインハルト達がしばらく使う部屋を用意する事になり、彼女は一歩前に出てお辞儀を出てから案内をすると言った。ラインハルトとフェルトは立ち上がり、彼女に付いて行く。それに続いて解散の流れとなった事からスバル達もそれぞれ席を立った。

岡部もラインハルト達に続こうと席を立ち上がった際、岡部は再び視線を感じた。背後を振り返るとやはりそこには椅子に座ったロズワールが居る。岡部はいよいよ気になっていた事を尋ねる事にした。

 

「失礼だが……俺の顔に何か付いているのか?」

「いいや、何も。なんでもないよ。ちょっと気になっただーけさ」

 

相変わらず読めない口調でロズワールは呆けたように答えた。その身振り手振りは道化そのもの。だが岡部は彼がただの道化だとは思えなかった。何かしら隠している。しかもそれは自分に関係のある事だと察していた。何よりも気になるのは彼の口調。独特な言い回しはかなり特徴的である。そして岡部はその喋り方に聞き覚えがあった。

 

それは前のループの時、竜車が崖から突き落とされた際に聞こえて来た声。その喋り方はまさにロズワールに酷似していた。だが前のループである以上、今のロズワールに尋ねた所で意味は無い。結局岡部はロズワールが要注意人物だと警戒する事しか出来なかった。

 

「お前は、俺の事を何か知っているのか?」

 

最後の質問。鳳凰院凶真と名乗っている岡部はロズワールにそんな奇妙な質問をした。

自分でも何故そんな質問をしたのかは分からないが、会った時の口ぶり、そして前のループの時の言葉から岡部は何故かロズワールが自分の事を知っているような気がしたのだ。

質問をされたロズワールは僅かに目を見開いた。その動作からやはり何かしらの事を知っているのかが伺える。

 

「いいや……私は“貴方”の事を、一切知らなかった」

 

それだけ答え、ロズワールも席を立ち上がるとツカツカと足音を立てながら部屋を去って行った。レムは慌ててその後に続き、部屋に残されたのは岡部だけとなった。

今の言葉は一体どのような意味だったのか?まるでロズワールは岡部では無く別の岡部を見ているかのようだった。確かに瞳は岡部を見ているが、その心の中では別の岡部の事を想像している。ただ疑問は増えるばかりで、岡部は面倒くさそうに髪を掻き上げるとラインハルト達の後を追った。

 

部屋を案内された後、やはりと言うべきかラインハルトはフェルトとの同室を願った。ラインハルト的にはフェルトを守りたい、という願いなのだろうが、フェルトからすれば良い迷惑だった。散々意見を言い合った後、ラインハルトはフェルトの隣の部屋を使う事になり、何かあってもいつでも駆けつけられるようにした。そしてどういう訳か岡部はラインハルトと同じ部屋にされた。所謂巻き添えを喰らった訳である。

 

そして準備が整った後、岡部はさっそくスバルの部屋へと向かった。スバルは何処か疲れた表情をしていたが、岡部が来た事に気がつくと僅かに表情が明るくなった。

 

「さて、それじゃぁ……まずはこの屋敷で起こってる事を解決しないとな」

「あ、ああ……」

 

岡部は椅子に座り、スバルはベッドの上であぐらを組む体制で二人は語り合う事となった。

岡部はまずロズワール邸でどのような事を起こっているのかを尋ねた。まずは現状確認。そしてこれまでのループでスバルが居るこの屋敷で恐ろしい事が起こっている事は予想出来た。スバルは冷静に頭を回転させながら、一つ一つ丁寧に説明し始めた。

 

まず最初のループでは突然の死。四日目の真夜中の間に起こったと思われる死を説明した。そして二回目のループでは岡部も目撃したようにレムの襲撃、だがその時スバルはとてつもない疲労感と寒さを感じた事を伝えた。その三回目、つまり今に至るループではスバルは自分が他者にループの事を伝えられない事を明かした。

 

「他の奴らに死に戻りの事を伝えられない?」

「そうなんだ……エミリアたんに話そうと思ったら黒い手みたいのに心臓を潰されて……忠告みたいのをされたんだ」

 

胸を抑えながらスバルは朝方に起こった出来事を思い返した。あれ程の痛みは二度と味わいたく無い。死に戻りで何度も死を経験しているスバルにとって、痛みがどれだけ嫌なものかは十分理解していた。そしてあの黒い手はそれを限りなく再現していた。死ねない程の激痛、それはまさに死よりも残酷な物である。

 

「俺の場合は大丈夫……やはりリーディングシュタイナーが関係しているのか?」

 

顎に手を置きながら真剣な顔つきで岡部は思考する。

リーディングシュタイナーがスバルの死に戻りの影響を受けているのは確実。であるならばスバルの言う制約を受けないのもリーディングシュタイナーが関係していると考えるのは妥当である。この場合は殆ど非科学的な話になってしまうのでいくら考えた所で意味が無い。大事なのはその能力でどのような結果を齎すかであった。

 

「試してみるか……」

「え?」

 

考えるよりも先に行動した方が早い。そう結論を出した岡部はまず実験をしてみる事にした。おもむろに椅子から立ち上がり、部屋の扉を開ける。その動作にスバルは首を傾げるが、岡部は気にせず大きく息を吸い込み、大声を上げた。

 

「スバルは死に戻りして……ーーーーー!!!」

 

屋敷中に聞こえるのでは無いかと思えるくらいの大声。普段厨二病トークで発揮している滑舌と肺活量を駆使し、岡部は精一杯の声を張り上げた。結果、岡部は最後まで言葉を続ける事なく世界が静止するのを目撃した。

ループが行われる際と同じ様な現象。ただし違うのは世界が再構築されない点。そしてスバルの体から黒い影が出ている事だった。スバル自身も静止している。彼に意識があるかどうかは確認しようが無いが、静止している事には変わりない。そしてその影はゆっくりと人の形となり、ゆっくりと岡部の近づいて人差し指を伸ばした。その黒い指はそっと岡部の唇に触れる。

 

「…………」

 

影は何も語らない。だがその動作から喋るな、という事だけはハッキリと分かった。

スバルの心臓を潰される、という報告と比べれば大分マイルドではあるが、忠告である事には変わりなかった。やがて影はスバルの元へと戻って行き、姿を消した。体が動けるようになり、とてつもない脱力感を味わった岡部は大きくため息を吐いた。スバルも動けるようになり、ハッとした表情で岡部の事を見た。

 

「どうやら、本当みたいだな……」

「あっ……ぉ。今言ったのか?そうか、キョウマも駄目なのか……」

 

もしも岡部が他者に伝える事が出来れば大きく状況変わるのだが、やはり結果は駄目であった。スバルはその事実に落胆の表情を浮かべたが、それでも岡部という仲間が居る事は揺るがなく、むしろ秘密を共有出来るという点で有り難いと思えた。

岡部はまだ眉間にしわを寄せたまま思考を続ける。一体あの黒い影はなんなのか?何故スバルの体から出てくるのか、そして自分には何の危害も加えないのか?夢で見たあの女の形をした黒い影と同一人物だとすれば、何らかの意図があると思われるのだが。やはり答えは分からない。

 

「やっぱりキョウマにも俺みたいな死に戻りの能力があるのか?」

「いや、俺の場合は現象を認識出来るだけだな……まだ死んだ事が無いから、死に戻り出来るかは分からん」

 

岡部は簡単にリーディングシュタイナーの事を教え、自分はあくまでもスバルの死に戻りを認識出来るだけだと伝えた。

だがもしかしたら岡部にも死に戻り出来る可能性がある。今こうしてスバルと同じ記憶を共有出来ている以上、その可能性は十分にあり得るのだ。だが二人はそれを確かめるような事はしない。例え試しに死んでみた所で岡部が死に戻りを発動出来なければ大惨事になってしまう。その事を考慮した上に、岡部はどことなく感じていた。自分は死に戻り出来ない。自分に宿っている力はリーディングシュタイナーだけだと。

 

「まぁこの問題はひとまず後回しだな。まずは屋敷の事をどうにかしよう」

「ああ、そうだな」

 

この事についてはどうしようも無い。今は秘密を共有出来る自分達で現状を解決すると結論を出し、岡部は話を切り替えた。まずは屋敷での脅威について考える。

これまでのスバルの死因は最初の突然の死、そして二回目のループでのレムの暗殺。最初の死が夜中に行われた事を考えると、必然的にレムに襲われたと考えるのが妥当。だがそんな簡単に結論を出す訳にはいかない理由があった。

 

「気になるのはスバルのあの病気に掛かったような現象だな……」

 

目を細めながら岡部はある点を指摘する。それに賛同するようにスバルも顔を頷かせた。

二回目のループの際、レムに襲われる直前にスバルは凍えるような寒さと疲労感を味わった。まるで病気に犯されたかのようなその事態にスバルは死を感じた。もしも、仮定としてスバルが最初に死んだ原因がその現象による物だとすれば、脅威はレム以外にもある可能性がある。その為、岡部達にこれからの行動は更に限定される事となった。

 

「お前はまずレムとの信頼を勝ち取る……それで良いんだな?言っておくが俺はあの女はイカれてると思うんだが」

「いや、レムなら分かってくれるはずだ。少なくとも俺は数日間あいつ等と一緒に仕事をしたんだ……ちゃんと俺が敵対勢力の人間じゃない事を伝えれば理解してくれると思う」

 

まず最初にスバルがすべき事はレムとの信頼を得る事と決まった。レムの口振りからして彼女は岡部とスバルの事を何らかの敵対勢力の人間だと思い込んでいる。それを払拭すれば彼女から危害を加えて来る事は無いと推測したのだ。

この計画には岡部自身は若干否定的であった。最初に対峙した際、岡部はレムの鉄球によって体を吹き飛ばされるという最悪な痛みを味わった。それ以降、彼はレムに対して苦手意識を持つようになった。

 

そもそも屋敷に入り込んだだけで敵対勢力だと思い込み、排除しようとするような女を岡部は信頼していない。此処が異世界という事もあるが、出会った相手を躊躇無く殺せるような者と仲良くするなど並の神経を持つ者が出来る事ではない。岡部はスバルの行動は軽率だと思った。だがだからと言って真っ向から否定する事も出来ない。少なくともスバルは数日間レムと行動を共にしたのだ。その間で出来上がった絆はループで既にリセットされてしまっているが、スバルの中だけには残っている。岡部はそれに賭けてみる事にした。

 

「それじゃ、大体の事は決まったな。お前は今まで通りこの屋敷で過ごし、出来るだけレムと仲良くしながらあの妙な病気に掛からないように気をつける……オーケー?」

「オ、オーケー」

 

最後に妙な病気という所は曖昧ではあるが、一応の方針は決まる事となった。岡部は何度もスバルに確認しながら指を折り、自分達がすべき事を伝えた。そしてスバルも計画の事を全て頭に詰め込み、力強く頷いた。スバルは早速立ち上がり、ロズワールに今後の事を話に向かった。彼の背中を見送った後、岡部は椅子から立ち上がって髪を掻いた。

物語はようやく此処から始まる。岡部はスバルが開けたままの扉に向かって歩き出した。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。