GATE:Modern Warfare   作:ゼミル

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遂に来たMWストーリートレーラーが『これが見たかった!』な内容で期待値マックスです。

※10/3:書き忘れがあった部分を追加


3:No Pain,No Gain/挑む者たち

 

 

 

<発症から6時間後>

 栗林志乃

 ファルマート大陸・クレティ

 

 

 

 

 

 あつい。

 

 さむい。

 

 くるしい。

 

 しんどい。

 

 つらい。

 

 

 

 

 思考がどこまでも霞んでいく。まったく言う事を聞いてくれない肉体の発する悲鳴がネガティブな感情を増幅させる。

 

 学生時代は新体操、自衛隊に入隊してからは近接格闘の猛者として、平均よりも小柄な外見とは真逆の運動エリートである栗林は、風邪もひいた事がないのが自慢の自他共に認める体力バカでもあった。

 

 故に、前触れもなく発症した謎の風土病が及ぼした症状は、彼女にとってはまさに未知の苦しみであった。

 

 燃えるように体が熱いのに背骨が氷になったみたいに芯が凍えるという矛盾した感覚。

 

 自慢の筋肉が一切合財無くなったみたいに体が動いてくれない。思考が茹だる。1秒前まで自分が何を考えようとしていたのかすら思い出せない。

 

 

(あつい。さむい。くるしい。しんどい。きもちわるい。つらい。なにもできない。なにもわからない)

 

 

 過酷な鍛錬で肉体を苛め抜いた結果の苦しみにはむしろ快感を抱くレベルで慣れ親しんでいても、病原体が齎す肉体の内側からの異常というものに栗林は耐性を持っていなかった。

 

 

(しにそうなぐらいにつらい。むしろこれいじょうくるしむぐらいならしんだほうがまし。だれかたすけて)

 

 

 初体験の異常によって肉体以上に疲弊する精神。均衡が不安定になる。意識が浮き上がっては沈みを繰り返す。

 

 大人として、自衛隊員として月日をかけて鍛えられた精神の殻が弱っていく。今の栗林はロシア人テロリストに捕らえられ処刑されかかった時よりも危うい精神面にあった。

 

 

(おとうさん。おかーさん。ななみ。だれか。こわいよ)

 

 

 熱を帯び、苦しげな浅い呼吸を繰り返しながら悶えていると、栗林の瞳から勝手に涙が溢れた。それを拭うだけの体力すら今の彼女には残っていない。

 

全身が燃えるように熱くて、頭も煮え滾っていて、対策を取れば楽になるかもしれないが具体的な案を思い浮かべる事すら出来ず、ただただ苦しみ続ける事しか出来ない状況に心が死んでしまいそうなそんな時。

 

 突然頭にひんやりとした感触がした。それは適度に湿り気を帯びた濡れタオルで、脳を蝕んでいた熱が幾分か吸い取られると自然に栗林の思考もほんの少しだが明瞭さを取り戻す。

 

 次いで目元にも濡れタオルが当てられ涙を吸い取る。そのまま頬、首筋が軽く拭われ、栗林の肌に浮かんでいた汗が消えると不快感もちょびっとだけマシになった。

 

 

(だれ?)

 

 

 うっすらと瞼を開いた栗林の瞳が捉えたのは、おぼろげな意識の中助けを求めた両親でも妹でもなく。

 

 嫌悪の対象だったオタクな冴えない顔つきの、だがその本性は世界を核戦争から救った現代の英雄で今や栗林にとって尊敬と憧憬と……慕情の対象である上官だった。

 

 

「たいちょ、ぉ」

 

「大丈夫か? ゆっくり休むんだ。きっとお前もレレイも元通り元気になるさ」

 

 

 

 

(ああ、だったらだいじょうぶ)

 

 

 

 

 だってたいちょうがいったんだからかならず――

 

 身を貫く苦しみの中、ほんの小さく安堵に口元を緩めながら、栗林の意識は再び暗い海に沈む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<同時刻>

 伊丹耀司

 

 

 

 

 

 目の前で死にかけている仲間に何もしてやれないのは最低で最悪の体験だ。

 

 

 

 初めてではないが、やはり慣れそうにない。それどころか『また自分は何も出来ないのか』という絶望は回数を重ねるほどに増していく。

 

 悪い意味で熱を帯びた寝息を立てる栗林の容態はレレイと同じく芳しくない。

 

 基本的に兵隊向けの解熱剤といった経口薬は市販品より薬効が強いにもかかわらず、完全に熱が下がりきらないという事は、レレイと栗林がかかったクレティ一帯で蔓延する流行り病―街の人間は灼風熱と読んでいた―の危険性の高さの証明でもあった。

 

 不幸中の幸いは倒れた時点でかろうじて自力で解熱剤を飲み下すだけの体力を栗林が残していたぐらいか。レレイの時はまともに薬も飲めず最終的に伊丹が口移しで解熱剤と水を流し込んでようやくだったのだ。

 

 特地と地球の体質の差か、単に栗林が頑丈だったせいで発病にタイムラグが生じたのかはさておき、1度症状が顕在化すると栗林も40度越えの高熱を発したものの、直後解熱剤の効力によって現在は微熱程度に収まっている。

 

 それでも未知の病気なだけに何時ぶり返すか読めないため油断は出来ない。なのでレレイとは別に部屋を分け、残った面子で交互に休憩を取りながら付きっ切りで看病をしているのである。

 

 伊丹は栗林が横たわるベッドの傍らに腰を下ろし、不自然に紅潮した彼女をジッと見つめ続けていた。一見無表情でありながら、眼光だけは静かに燃えるドス黒い炎でギラついている。

 

 燃料となるものがほんの少しでも投じられようものなら爆発的にあらゆる物を焼き尽くしかねない、そんな危険な光であった。

 

 

「病人を前でするにはぁ、ちょぉっとおっかない顔になっちゃってるわよぉ」

 

 

 いつの間にか、部屋の入り口でロゥリィが壁にもたれかかって佇んでいた。

 

 言われた伊丹の眼光から炎が掻き消え、強張った顔の筋肉を緩めようと己の掌で顔を擦る。

 

 火は完全に消えたのではない。外からは見えないように表向き火力を落としただけで、伊丹の奥底では未だ盛んに燃え続けたままだ。

 

 

「そんなにおっかない顔してた、俺?」

 

「愚かな皇太子(ゾルザル)を皇帝の前で嬲ってた時の顔よりはぁマシだったかもねぇ」

 

 

 皇宮で大暴れした時に自分がどんな顔をしていたかなんて事まではこれっぽっちも覚えていないが、やらかした所業を思い返すに病人の看病に相応しくない表情というロゥリィの指摘はきっと正しいに違いない。

 

 

「……やっぱりこういうのは何度あっても慣れないよ」

 

「病人の世話の事ぉ? それとも身近なヒトが死を前にする事ぉ?」

 

「どちらかと言えば後者の方かなぁ」

 

「死が満ち溢れる戦場で戦い続けてきたイタミならぁ、肩を並べて戦った勇者の死もぉ馴染みが深いと思っていたけれどぉ」

 

「何度も経験しても慣れるものじゃないし馴染みたくもないさ。それに今みたいに目の前でゆっくり苦しむのを見せ付けられるのは、見えない所で何時の間にか死なれる事よりも周りにはずっと辛いものだ。ロゥリィは違うのか?」

 

「そんなわけないじゃなぁい。何れ主神に至る事を定められながらもぉ今は地上で永き生を過ごす身。この手で看取った身近な者も両手じゃ足りないわぁ。

 ……慣れはしても、何も感じないわけじゃない。死は生きとし生けるあらゆるヒトが逃れえぬ結末よぉ。

 けどぉ天寿を全うしたわけでもない、当人の行いの果ての応報でもないのにぃ、誰も望んでない形での死別なんていうのはぁ流石にちょっとねぇ」

 

 

 戦場で命の奪い合いをした結末としての死ならまだ納得できる。罪に対する罰の結果の死もまた同じ。

 

 だがこれは違う。ロゥリィが言いたいのはそういう事なのかもしれない。

 

 

「ともかく今はレレイとクリの病気をどうにかするのが先だ。これ以上熱が下がらなければ抗生剤も試して、それでも改善が見られなけりゃ……2人を連れてアルヌスに帰る」

 

「レレイの導師号はお預けになるわねぇ。クリバヤシも病気で倒れたせいでイタミと一緒の任務が失敗したって知ったら、彼女大分落ち込むんじゃないのぉ」

 

「それでも死ぬよりはマシさ。死んだら落ち込む事も出来なくなっちまう」

 

「そりゃそうよねぇ」

 

「主殿! レレイ殿が目を覚ましたぞ!」

 

 

 飛び込んできたヤオの報告に、伊丹は文字通り椅子から飛び上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 レレイが意識を取り戻したのは僅かな一時に過ぎなかった。

 

 だが息も絶え絶えの病身の最中でもレレイの知性は健在であった。己が罹患した灼風熱が別の病気の亜種である事を見抜き、治療に効果のある薬草の存在をも語ってくれたのだ。

 

 だが同時に別の問題も生まれた。

 

 レレイが告げた薬草、ロクデ梨を見つける必要があったのである。何時止むか定かではない砂嵐の中ではアルヌスからの空輸も難しい。

 

 もっともその問題も手がかりを求めて街の男性らに尋ねた事ですぐに解決する。

 

 クレティは元々帝国に滅ぼされた別の王国の土地であり、かつて国の運営下にあった薬種園跡にならばロクデ梨が自生している可能性があるという。

 

 そこまでは良いニュースだったがここから更に別の問題が発覚。

 

 薬種園跡は迷宮化しており、それだけでなく多数の怪異がうろつき金儲け目当てのこそ泥どころか本来薬が必要な街の人間すら近付けない状況なのだ。

 

 主な怪異はミノタウロスにコカトリス。どちらも並みの人間では歯が立たないバケモノだ。

 

 そして――生ける屍(ゾンビ)

 

 

「まさか異世界でロメロちっくな展開に出くわすとはねぇ」

 

「?」

 

 

 ゾンビの素体は先の灼風熱の犠牲となった街の女達。一旦死んでゾンビと化した後、もう1度殺す事も出来ず迷宮に運んで放置せざるを得なかったそうだ。

 

 それもあって住民に道案内をしてもらう手は使えない。生きた屍と化したかつての妻や恋人や友人と出くわしたら……伊丹にも彼らの気持ちが痛いほど理解出来てしまうので無理強いはしなかった。

 

 

「彼らはこう言っているが主殿、どうする?」

 

「決まってる。迷宮に薬草を取りに行くぞ」

 

 

 炎龍に新生龍、どころかロゥリィと同類の亜神まで戦ってきたのだから今更ゾンビやコカトリスやミノタウロスに怖気づいてはいられない。ただやっぱりゾンビに噛まれたら感染してゾンビの仲間入りするのだろうか? という疑問はあったが。

 

 即座に言い切った時にロゥリィが嬉しそうな顔を浮かべたのがヤオには印象的だった。

 

 迷宮突入メンバーは3名。伊丹、ロゥリィ、ヤオで、ダークエルフはロクデ梨の鑑別役として連れて行く。テュカはレレイと栗林の看病のため残ってもらう。

 

 迷宮を目指し、住民が指示した通り街を出ると車両を西へ向かわせる。吹き荒れる砂塵の風上へ向かう格好だ。

 

 伊丹の勘は灼風熱の蔓延と迷宮が砂嵐の風上に位置しているという点に何らかの因果関係があるのではと告げていた。何せ地球でも似たような事例が腐るほど存在しているのだから。

 

 目的地へのルートは地面が教えてくれた。深く刻まれた轍の跡が道案内をしてくれる。

 

 戦場でも武器と兵士を満載したトラックのタイヤが刻んだ痕跡は幾度と見たが、この轍を作った馬車が運んでいたのは蘇った屍――流石の伊丹も何とも言えないおぞましさに自然と表情が険しくなってしまう。

 

 辿り着いたのは鬱蒼と豊かに生い茂る森であった。砂色の無機質な大地にポツンと存在しているせいで、遠くから眺めると緑の浮島に見える。

 

 旅慣れた分この手の現象に詳しいロゥリィとヤオによれば、地下水脈の存在によってこれだけの規模の森が保たれているのでは? というのが2人が立てた仮説だ。

 

 そして森の中心にあるであろう迷宮に向かう途中、伊丹達の前に最初のゾンビが現れた。

 

 クレティの住民が語っていた通りゾンビは女だが、伊丹の知識にあるゾンビとは違い肌の色はむしろ血色が良いし腐敗した様子も見当たらない。

 

 動きはぎこちなく鈍いし、よく目元を観察すれば生命反応の消失を示す瞳孔散大も確認できたが、生者と変わらぬ見た目の鮮やかさのせいで予め知識と心構えが無い者は不用意に近付いてしまってもおかしくない。

 

 

「ハーディ! 仕事がなってないわよぉ!」

 

 

 気合いと共に戦斧一閃。ロゥリィの一撃によりゾンビの上半身が文字通り爆散した。

 

 死者と怪異が蠢く迷宮を舞台にしたダンジョンアタックの号砲と呼ぶにはいささか以上に血生臭い粉砕音が響いた。

 

 倒した死体は感染拡大防止と犠牲者の鎮魂を兼ねて焼却処理。

 

 伊丹としてはサンプルを持ち帰りたかったが、真面目な表情のロゥリィに止められたし、(持って帰ったサンプルが原因でまた別のゾンビ騒動が起きるのもお約束だよね)なんて考えも浮かんだのもあって素直に従っておいた。

 

 

 

 

 

 

 

「突入前に方針を確認しておくぞ」

 

 

 薬種園の門―の残骸―まで高機動車を進ませると車を止める。ここから先は徒歩だ。

 

 降車した伊丹はレレイとヤオに向き直ると強調するように2本の指を立ててみせる。

 

 

「今回の目的は2つ。レレイと栗林、他クレティ近隣の灼風熱患者の治療に効果があるというロクデ梨の捜索ならびに確保。まずこれが最重要目標になるな」

 

「主殿は目的は2つと言ったが他にもこの迷宮でやらねばならない事があるのか」

 

「そこはロゥリィからさっき気になる事を聞いてね」

 

「生ける屍っていぅのはぁ本来滅多にいないものなのよぉ。出現した場合の原因は大体は魔導師が反魂魔法に手を染めた時ぐらいねぇ」

 

「反魂魔法……此の身も話には聞いた事がある。死者を生き返らせる、世の理に反する魔法の代名詞と」

 

「そのとぉり。当然ながら理に反するお馬鹿さぁんを処断するのがわたしぃ達の役目なのよぉ」

 

「つまりゾンビが発生するのは本来人為的なものの筈。なのに今回は灼風熱にかかって亡くなった犠牲者は皆ゾンビと化してる。それが引っ掛かるんだってさ」

 

「そうなのよぉ。だから灼風熱の事も含めてぇ詳しく調べる必要があるわぁ」

 

「そして生ける屍や灼風熱の発生原因が判明した場合は――」

 

「当っ然、主神エムロイの使徒の名において処断を下すまでよぉ」

 

 

 目的の共有と確認を終えたら次は探索の準備に移る。

 

 ゾンビのみならずコカトリスやミノタウロスといった大物との戦闘も視野に入れて装備を吟味する必要がある。

 

 幸いにも、火力に関しては持ってきた荷物の中に優れた装備が一通り揃えてあった。数週間単位の活動を前提としていたので弾薬もたっぷり持ってきてある。

 

 伊丹が荷物スペースから選び出した銃を取り出すと、それを見物していたロゥリィから疑問の声が投げかけられた。

 

 

「今気づいたんだけどぉ今回はいつものジュウと違うのねぇ」

 

 

 取り出されたのは特地派遣部隊共通装備の64式小銃でも、箱根や炎龍退治などで伊丹が独自に運用していたM4カービンやM14のカスタムモデルとも違っていた。

 

 H&K社のHK417アサルトライフル。M4ライフルをH&K社で設計に手を加え開発したHK416アサルトライフルの大口径版である。

 

 この銃は64式やM14とは別の意味で伊丹には馴染み深い銃でもあった。特殊作戦群時代、より高性能な装備が求められる特殊部隊にHK416共々配備されていただけに銃の手触りや癖は体が覚えていた。

 

 64式やM4ではなくHK417を資源探査任務に持ち込んだ理由としては、このドイツ製ライフルが優れた耐久性を有しているからだ。

 

 使うたびにパーツの脱落に気を揉まねばならない64式や、細かなメンテナンスが求められるM4では過酷な状況下で長期間過ごさねばならない資源探査任務では不安が大きい。そういった理由からのチョイスだった。

 

 ついでにM14よりも無改造で装着出来るアクセサリーも多いので汎用性が高い。実際伊丹のHK417には光学式ドットサイトとフラッシュライトの他、ハンドガード部にはM320グレネードランチャーも装着されている。

 

 同時に7.62ミリNATO弾の優れた威力はオークやトロルなど大型で分厚い体表の怪異相手にも有効だ。時代遅れだが同様に7.62ミリ弾を使用する64式小銃が特地派遣部隊の基本装備であるのはこのような真っ当な事情もあった。

 

 

「任務に合わせて道具を変えるのは大事だからな。耐久性が良いから泥や砂に塗れても動作不良の心配をしなくていいし、精度もちゃんとした狙撃銃ほどじゃないが結構良いんだぜ」

 

 

 言いながら伊丹はライフル弾がぎっちり詰まったHK417用の弾倉を着込んだボディアーマー兼用の戦闘用ベストに備えたマガジンポーチへ押し込んでいった。

 

 HK417の弾倉には通常の20連マガジンだけでなく円筒状の50連ドラムマガジンも存在した。1つは直接ライフルに装着し、更に複数のドラムマグも専用の肩掛け式ポーチで携行する。

 

 更に閉所での遭遇戦に備え散弾銃(ショットガン)も持っていく。ゾンビといえばショットガンだ。

 

 縦長の武器ケースから取り出したそれを見てロゥリィが首を傾げた。

 

 

「前に見たジュウに似てるけどぉちょっと変じゃなぁいそれぇ」

 

「まぁな。弾を籠める部分(チューブ式マガジン)を取り替えてあるんだよ」

 

 

 それはベネリ・M4セミオートショットガンの短銃身モデルにXRAILというカスタムパーツを追加した代物であった。

 

 XRAILとは端的に言えばチューブ式マガジンを複数本束ね、1本分打ち切ると自動的に次のマガジンに切り替わるセミオートショットガン用の拡張マガジンだ。その分交換した部分が従来よりも太くなるが、全長や縦幅は変化しないのでボックスマガジンタイプよりも嵩張る事なく装弾数を増やせるというメリットもある。

 

 戦友(野本)からの差し入れに混じっていたのか、特戦群で武器係をしている礼文が趣味で持ち込んだのかまでは知らないが、何時の間にか武器庫に加わっていたこれを出発前の準備中に見つけ興味を持った伊丹がちゃっかり持ってきたのであった。

 

 プラスチック製のシェルケースが赤色の12ゲージ弾――9個の散弾を収めた00バック弾を装填口へ押し込んでいく。

 

 短銃身モデルは本来装弾数も低下するが、XRAILによってM4ショットガンの装弾数はコンパクトな全長ながら14発(+薬室に1発)とフルサイズモデルの倍以上の装弾数という凄まじい火力を秘めた銃と化しているのだ。

 

 そこへサイドアームの拳銃とグレネードランチャーの弾薬、各種手榴弾に救急医療用キットに戦場で必要な小物類一式も加わる。ベスト周りだけでもゴテゴテと結構な大荷物だが、現代の兵隊はこれが基本装備だ。

 

 他にも障害物破壊用の爆薬類と迷宮探索が長引いた場合の非常食に飲み水に暗所向けの装備、様々な機能を備えた軍用タブレット端末など荷物は多い。

 

 これらはすぐに使えるようにしておきたい携帯端末を除きバックパックに収めて運ぶ。

 

 

「『鉄の魔弾』は持っていくのか主殿」

 

 

 と、ヤオが示したのはGM6・リンクス対物ライフルを収めた武器ケース。

 

 炎龍の腕を吹き飛ばしたパンツァーファウスト3(LAM)をコダ村の避難民が鉄の逸物と称したの対抗したのかどうかは知らないが、だったらたった1発で炎龍を撃墜せしめた対物ライフルはまさしく魔弾に相応しいとダークエルフらは言い伝えているそうだ。

 

 GM6は実を言うと|鉄の逸物<LAM>よりもサイズは下回るが重量が上だ。1発の破壊力はLAMが圧倒的に上だが手数と汎用性は対物ライフルに軍配が上がる。

 

 どちらもミノタウロスに7.62ミリ弾や40ミリグレネードが通用しなかった場合の備えにはなるが、これ以上伊丹が持ち歩くとなると流石に重量オーバーだった。

 

 

「では此の身が持とう」

 

 

 ヤオが名乗り出てくれたので遠慮なく預ける事にした。テュカ関係で思う所はあっても手が足りない中で手伝ってくれるというなら大歓迎だ。

 

 

「そうだヤオ。どうせだからこれも持ってっとけ」

 

 

 テュカが使うコンパウンドボウ用の矢筒と一緒に辞書大のケースをヤオへと手渡す伊丹。

 

 ケースを開けると中には円錐形の鏃が収められていたが、それはヤオが知る鏃よりも大きく、収め方も衝撃吸収材に包まれているという本来不必要なまでに厳重なものであった。

 

 

「主殿、これは何なのだ」

 

「爆薬を内蔵した鏃だ。エルフもダークエルフも弓が使えるならこういうのもあれば役立つんじゃないかってんで武器科の連中が作ってみたんだってさ」

 

 

 嬉々として製作していた武器科連中の部屋でラ〇ボー(の2作目と3作目)が流されていたのは完全な余談である。

 

 そんな事を知らぬヤオは、伊丹から手渡された矢筒とケースを感極まったかのようにギュッと抱きしめた。

 

 一行で弓矢を扱うのはヤオ(とテュカ)だけだ。そんな自分にしか扱えないような専用アイテムを伊丹手ずから手渡されるという行為は、彼に認められた証左のように彼女には思えたのだ。

 

 

「そ、そうか……ではありがたく使わせていただこう」

 

「言うまでもないけど扱いには気を付けてくれよ。矢の先端が押し込まれると起爆する仕組みになってるからな」

 

「うむ! 主殿の期待に応えられるよう͡此の身は全力を尽くすぞ!」

 

 

 

 対物ライフルはスリングで背負わせ、複数の弾種を装填した12.7ミリ弾の予備マガジンとついでに予備の7.62ミリ弾やら12ゲージ弾やら40ミリグレネード弾をしまったバックパックも背負わせ―それでも伊丹の総装備重量よりは大分軽い―

 

 それから伊丹はミニミ軽機関銃用の200発用ボックスマガジンに似た形状とサイズのケースを、ヤオが背負うバックパックの側面へ括りつけた。

 

 

「これは何なのだ?」

 

「上から送られてきた新しいオモチャさ。すぐに分かるようになると思うぞ」

 

 

 最後に記録用のアクションカムのスイッチを入れ録画スタート。

 

 

 

 

「レレイと栗林が待ってる。さっさと終わらせちまうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『冒険しなければ何も得られはしない』 ――チョーサー

 

 

 




XRAILシステムはこんなの っttps://www.youtube.com/watch?v=U4FsUtU3EdM
大容量高速連射はロマン。


漫画版最新話でカッコいい栗林が出てきてる中で気弱メンタルモードなクリ坊を描いてケンカ売っていくスタイル。


感想が多ければ多いほどモチベが上がって筆が進みます(多分)


※参考動画追加 っttps://www.youtube.com/watch?v=2yvSrTE4Z0s&t=42s
海外のガチ勢って凄い(こなみかん)

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