ワロス…
<10:50>
去る者と往く者
銀座上空/
ピニャ・コ・ラーダとボーゼス・コ・パレスティーは、ぐったりとした様子で今日2回目のヘリによる移動を体験していた。
襲撃者に連行された時にも感じた事だが、独特の浮遊感はその昔、宮殿の竜騎兵にねだって翼竜の背に乗せてもらった際に味わった飛行体験を思い出させる乗り物であった。
だがこの『へりこぷたー』という乗り物は上昇速度や滑るような水平機動など、多くの面で翼竜よりも優れていると、ピニャは内心で驚嘆していた。
特筆すべきは歩兵の1部隊なら楽に輸送可能であろうその収容能力である。しかも生物ではなく鋼鉄製の乗り物となれば、竜騎兵の槍や歩兵の弓が通じるのか甚だ怪しいものである。
おまけに地球にはヘリ以外にも『ひこうき』という、ヘリよりも更に巨大で早く空を飛べる鋼鉄の翼を有する乗り物が存在する事を、ピニャもボーゼスも身を以って体験済みであった。
(もしこの『ヘリ』や『ひこうき』が帝都へ直接到達できる程の長距離飛行が可能なのだとしたら……)
乗り物酔いとは別の意味で腸がひっくり返り、胃が悲鳴を上げた。悪夢を見た幼い子供が安心を求めるかの如く胸に抱いた紙袋へ回した両腕の力を強くする。
紙袋の中身は爆撃で崩落した山海楼閣から日本政府が回収してくれた大量の資料であった。
彼女の脳裏には図書館で調べた地球における戦争の歴史、特に第3次大戦についてのデータと写真、記録映像の数々ががこびりついて離れない。あれほどの量の死、あれほどの悲惨な死にざまがこの世に存在する事を異世界に来てからピニャは初めて知った。
地球の技術力が生み出した兵器類の数々がどれほどの威力を秘めているのかも、イタリカと箱根と伊豆大島でまざまざと体験させられた。文字通り実際に撃たれ、追い回され、殺されかけたのである。
この資料を必ず帝都へ持ち帰り皇帝や元老院に見せなければならない。帝国が一体どんな国を、否、どんな世界を敵に回してしまったのか理解させなければならない。
そうしなければきっと帝国は――
「殿下……長い夜でしたね……」
「そうだな……あまりに長い夜であった。早く帝都に戻ってゆっくりしたいものだ」
だが無理だろう。ピニャは己の言葉を心中で否定した。集めた情報を無事皇帝と元老院に伝え、二ホンとの講和を結ぶまで決して休息は許されない。
それが帝国第3皇女として生まれた自分の使命であると、ピニャは固く己に言い聞かせるのであった。
決意を固めるピニャから数人分離れた座席では伊丹が大きく溜息を吐いていた
どうも自分は世界を救った英雄として扱われているらしい。おかしな展開になっちまったもんだと思いながら、手元のスマートフォンに目を落とす。
接続先は大手匿名掲示板である。日本政府によって公表されたタスクフォース141の情報に対する世間の反応をチェックするのが目的だったが、ここでテレビ局の特番でも新聞社の公式ニュースサイトでもなくまず匿名掲示板をチョイスする辺りにオタクらしさが滲んでいる……というのはいささか穿った見方か。
ジャンル別に分けられた板のトップページに移動するなり出るわ出るわ、大量のスレッドへのリンクがズラリと表示された。あまりの膨大さに当事者の一員として何とも言えない感情を抱きつつも、あるスレッドが目に付いたので表示されたリンクへ移動する。
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【OTAKU舐めんな】伊丹耀司について語るスレその200【テロリスト】
1:名無しの774部隊員
このスレは『銀座事件』の英雄にして世界を救った伊丹耀司二等陸尉について語るスレです。
現在勢いが非常に早いので900を超え次第早めに宣言をして新スレをお願いします。
前スレはこちら→ 【ああいうのはな】伊丹耀司について語るスレ199【鬼神って言うんだよ】
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948:名無しの774部隊員
だからたった2~3日かそこらで車両部隊や戦闘ヘリなんて戦力を国内に持ち込めるわけないだろ常識的に考えて
伊丹や特地からのお客さんが来たせいでテロリストに狙われたんだ!って騒ぎたい気持ちも分かるが
IS連中が日本を狙ってたのはもっと前々からであって、責任を何もかも伊丹にひっかぶせるのは流石にやり過ぎだろ
949:名無しの774部隊員
ISって略したら中東やアフリカで騒いでる狂信者とごっちゃになるわ
950:名無しの774部隊員
>949
そっちで暴れてる方はまだ大人しいけどな
いや残虐さはどっこいどっこいだけど、WW3やらかした張本人と比べると流石に…
951:名無しの774部隊員
節子ロシアのはISやないICや
何で日本は巻き込まれずに済んだのか未だに分からん
かわりに異世界と繋がっちまったがな!
952:名無しの774部隊員
今起きたらテレビもネットもカオスで何が何やらなんだがワケワカメなんで簡潔に説明プリーズ
953:名無しの774部隊員
突入寸前に伊丹とエルフ娘と一緒に飛び降りたヘリってハインドだろ?
どーして日本国内でロシアの軍用ヘリが飛んでたのかとか、伊丹とエルフ娘が何であんなのに乗ってたんだ?
そこんところ本位ちゃん説明してなくね?
954:名無しの774部隊員
>952
日本国内でプチWW4勃発して特地からの来賓がテロリストに誘拐
女性自衛官が公開処刑寸前、伊丹がダイナミックエントリーする瞬間が全世界に流れる
銀座の英雄、実は世界を救っていた事が日本政府の公式会見で発覚
955:名無しの774部隊員
>952
第4次大戦だ
956:名無しの774部隊員
>952
マカロフの残党が箱根で暴れて特地の美女美少女誘拐してネットで爆乳美女(自衛官?)の処刑動画生中継したら銀座の英雄が文字通り空飛んで救出
そしたら日本政府が伊丹が極秘部隊の出身でロシア大統領救出やマカロフ暗殺にも加わってた事を公式に発表した
957:名無しの774部隊員
R18G寸前だった爆乳も気になるが、
国会中継の時には見かけなかった赤毛と金髪の高貴っぽいオーラ放ってた2人も気になる
958:名無しの774部隊員
現時点で発表済みの伊丹の経歴関連まとめ
・所属の変遷:第一空挺団→特殊作戦群→タスクフォース141→特地派遣部隊→特地来賓の護衛に配属?
・タスクフォース141は世界各国の精鋭ばかり集められた多国籍特殊部隊。現時点でイギリスのSASとロシアのスペツナズ隊員の参加が判明(今後追加で発表される可能性大)
・部隊創設の目的と作戦活動の主な内容は中東での核爆発やWW3の原因になった空港テロの主犯マカロフの排除だった模様
・部隊そのものは任務中の不測の事態によって壊滅状態。しかし伊丹含む少数の生存者が独自の判断で任務続行を決定。国会で暴露されたのはその時に撮影された物であると首相が公式に認める
・独力で情報を入手した後は詳細な経緯は不明だが、米軍と合同でマカロフに拉致監禁されていたワルシャフスキー大統領救出作戦に参加
・その後本来の目的だったマカロフ暗殺に成功
・日本に帰国後、例の『銀座事件』に遭遇。数千人の一般市民が避難し終えるまで極少数の警察官を指揮下に置いて防衛線を構築、更に退却途中で人質にされた警官隊を逃がす為にほぼ単独で侵略軍を足止めし生還
マカロフがワルシャフスキー元大統領拉致ったのは核ミサイルの発射コードを吐かせる為だったらしい(ロシア政府公式発表)
つまり伊丹が救出出来てなかったら、もしかしなくても核戦争まで勃発してた事に…(滝汗
959:名無しの774部隊員
これはラノベの主人公ですね間違いない
960:名無しの774部隊員
映 画 化 決 定
962:名無しの774部隊員
制作会社「予算が足りない」
963:名無しの774部隊員
胞子類に鯖実装してもらわないと
964:名無しの774部隊員
>957
・異世界でドラゴン相手に民間人を救出・保護
・参考人招致で特地の美少女達を連れて国会に呼び出されたら野党の馬鹿議員に海外時代の写真を全国に流されたんで逃亡
・そしたらマカロフ残党のテロリスト連中に部下(爆乳ショートカット女性自衛官)と特地来賓誘拐されたんで即座に奪還
・本位首相、暴れる野党とマスゴミとテロリストにプッツンきて極秘部隊の情報ごと伊丹の功績を全ぶっぱ。イギリスとロシアも情報公開の輪に参戦
ここまでも追加で
965:名無しの774部隊員
国会で最初に写真バラまいた野党のオバハン筆頭に勝手に暴露した連中は外患誘致や内乱罪の適応も視野に入れて追及するって記者会見でも言っちゃってたし
本位首相、マジでプッツンきてね? いいぞもっとやれ
966:名無しの774部隊員
国内で外国の軍隊が戦闘ヘリや武装船まで持ち出して派手にドンパチした挙句
せっかく異世界からやってきてくれた異世界の美少女を攫って爆乳自衛隊員を公開処刑に処されかけたんだから弱腰な本位ちゃんでもそりゃ切れるだろ
誰だってそーする、俺だってそーする
967:名無しの774部隊員
さっきから爆乳にこだわり過ぎだろお前らwww不謹慎なwww
968:名無しの774部隊員
無事に救出されたのは分かってるんだし、あまりにご立派なおっぱいだったんだから仕方ない
969:952
説明サンクス
政府のサイトもニュースサイトも人大杉で繋がらないし、まとめサイトも編集合戦でカオスだからイミフでなぁ
>958>964
わけがわからないよ
970:名無しの774部隊員
【緊急速報】チェコ「ヨウジ・イタミは我が国にとっても勇敢な英雄である」【伝説追加】
何でもロシアに占領されてた時に伊丹が他の外国人と一緒にレジスタンス指揮してた姿が多数目撃されてたらしい
ソース っttps/xxx/xxxxxxxxxxx
971:名無しの774部隊員
ファッ!!?
972:名無しの774部隊員
次スレー
っ【同人誌の為なら】伊丹耀司について語るスレその201【世界も救う】
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とまあこのような調子であった。
基本称えられつつも、お祭り騒ぎの恰好のネタとしてあーだこーだ好き勝手言われている張本人としては落ち着かないやらくすぐったいやら気まずいやら、匿名掲示板をチェックした事を思わず後悔してしまう伊丹である。
「なーんでまた英雄扱いされちゃってるんだろうなぁ、俺」
輸送ヘリの折り畳みシートに腰掛けてガックリ肩を落としながら呟く伊丹の姿は、核戦争を阻止しWW3を終結させる決定打となった英雄というよりも、公園のベンチでショックに打ちひしがれるリストラされたサラリーマンと言われた方がしっくりくる雰囲気を放っていた。
せめてもの救いは、このまま予定通りに進めば1時間と経たず特地の女性陣ら共々『門』の向こう側へ帰還する為、スクープ狙いのマスコミやツ〇ッターで自慢するならどこまでも無遠慮になれる一般市民からも解放される事である。
趣味に耽溺出来る筈の故国よりも戦地たる異世界の方がまだ平穏に過ごせるという現実に、伊丹は言いようのない虚しさに感極まって思わず目頭を押さえてしまう。
すると誰かが伊丹の隣へ腰かける気配を感じた。目元を覆っていた手を下ろして目を向けると、腰を下ろしていたのは栗林だった。
おや? と思う伊丹。内壁に取り付けられたシートにチョコンと鎮座した部下の女性自衛官は足を揃え、くっつけた両膝の上に乗せた両手をもじもじと弄びながらチラチラと伊丹の顔を見ては視線を外す、という奇行を繰り返していたからだ。
まるでひと昔前の恋愛マンガかギャルゲー、あるいはラブコメアニメの奥手系ヒロインが意を決して妙に周囲の異性にモテる主人公へ意を決して重大な告白をする前振りのような素振りである。
(いやいや、相手はクリボーだぞ)
手のかかる脳筋ウォーモンガーでオタクが大嫌いというこの部下が、根っからのオタクである伊丹の前でベタなヒロインっぽい素振りを見せるという異常事態。戸惑うやら、身構えるやら。
「あの……」
「お、おう、何だ」
「い、伊丹隊長って今独身なんですよね!?」
「あ、ああそうなるな。今ん所梨紗とヨリを戻す予定もないし」
当の元嫁である梨紗はこのヘリに乗っていない。自衛隊員でも特地の人間でもない正真正銘の一般人である梨紗は傭兵組と共に立川飛行場で別れ、駒門の部下の送迎で自宅への帰宅の途に着いている頃合か。
すると栗林がギラリと眼光を輝かせるや、抱きつくというよりは獲物に食らいつく獣の如き勢いで突如伊丹へと飛びついた。衝撃が痛めた左肩まで伝わり思わず涙目になる。
「何をするだァーッ!」
「隊長! 私、隊長に結婚を申し込みます!」
次いで栗林が放った突飛にも程がある発言に、伊丹はシートの上ですっ転びそうになった。
栗林ごと床へ転げ落ちそうだったので反射的に体にしがみついてくる彼女を抱き支えつつ、姿勢を正すと脳筋娘の正気を疑うようなまなざしで以ってまじまじと見つめ返す。
「ちょ、ちょっと待て! 全く意味が分からんぞ!」
「私、優秀で強い人がタイプだったんです! その点隊長はまさに私の理想、となれば申し込むしかありません!」
「いきなりにも程があるわっ! 大体俺はバツイチだし、俺とお前は仕事上の上司と部下になるし、何より栗林お前、オタク嫌いだったろーが。言っとくが俺は生涯オタクを貫くつもりだから、結婚の為に趣味を捨てるなんて事は死んでもゴメンだからな」
「それはそれ、これはこれです。オタク趣味については…………最大限受け入れられるよう鍛えてみせましょう!」
「いや鍛えるって何かおかしくないか」
伊丹の指摘は入ってはいけないスイッチが入ってしまっている様子の栗林には届かない。心なしか彼、女の瞳がグルグル目になっているようにも見える。
「いいですか隊長、考えてもみて下さい。今や私と隊長はいくつもの修羅場を共に潜り抜けた上に世界も驚く秘密を共有したワケです。
つまり何も知らないし言えない普通の女とは違って秘密を共有した同士である私なら、表に出せない職務や誰も顧みない作戦で疲れた隊長の心と体を癒し支えるのにうってつけな事この上ない。そう思いませんか!」
「いや、その理屈はおかしい」
一刀両断で断言した。そもそも何故勝手にこの脳筋女は、伊丹が今後も『表に出せない職務』だの『誰にも顧みない作戦』だのに就かされると決めつけているのだろうか。
……そうならない、とも言い切れないのが悲しい所ではあった。
1度でも
それは抜きにしてもまるで酔っ払いの如き突飛な戯言をほざく栗林を正気に戻らせるべく、伊丹は説得を試みようとする。が、先んじて栗林が更にまくしたてた。
「どうして駄目なんですかっ! 今では立派な実戦証明済み、しかもこの胸で癒してあげられるんですよっ!」
「わーっ! 場所考えろバカ! マジで酔っぱらってんじゃないだろうな!?」
言うや栗林は着ていた上着の胸元を自らはだけようとする。ちなみに今の彼女は飛行場で支給してもらった陸自隊員おなじみの迷彩服に防寒用のジャケットの前を閉じずに羽織った姿だ。
慌てて栗林の手を押さえるが、緩んだ迷彩服の胸元からあっさりと覗いたご立派な膨らみと深い谷間に、ついつい伊丹の視線が引き寄せられてしまう。
誰のチョイスかは知らないが、迷彩柄のすぐ下は胸元が大きく開いたランニングシャツ1枚きりという中身であった。しかもサイズが合っていないのか先端部分のラインもバッチリ浮き上がっている。
伊丹的に言えば18歳以下購入禁止なジャンルの薄い本のピンナップを思わせる構図である。迫る栗林を押さえ止めようと支えている両腕に触れる弾力の生々しさから、彼女がブラを着けてないのは明らかだった。
伊丹は知る由もないが、飛行場に集まった部隊は栗林が着れる迷彩服を用意していた。だがバスト92という彼女の豊かな胸部装甲が収まるだけの下着までは用意し損ねていたのである。
男としての性に危うく流されかけた伊丹を正気に返らせたのは、栗林の上半身の一部を覆うガーゼや包帯の存在だった。
両手首にも包帯が巻かれている。抵抗の際に拘束帯が皮膚を傷つける程食い込んで生じた傷を保護する為である。
服をはだけた事で見えるようになった、栗林がこの一夜で体験した危地の名残を目にした事で、伊丹の思考は一気に冷えた。
冷淡になった訳ではない。今の栗林にはもっと冷静沈着に、かつ誠実に接するべきであると思考を切り替えただけである。
自らの迷彩服の襟元をはだけさせていた栗林の手を無理矢理押さえつけるのではなく、そっと優しく重ねるに止める。
「なぁ栗林、もう少し落ち着こう。確かに今夜の事で流石に俺だって疲れてるし、俺とお前は上官と部下だけど、お前みたいに魅力的な女の子に結婚を申し込まれるってのもそりゃ嬉しいさ。
だけど今言ったお前のその気持ちは、本当にしっかりと時間をかけて考えた上で決めた事なのか? 命が危険に晒された事による生理的興奮とすり替わってないと、本当に言えるのか? ハッキリ言わせてもらうと今のお前は冷静からは程遠いね」
「そんな事っ」
反論を封じるように伊丹はデコピンを見舞ってやった。
良い音がして、「ふにゃっ!?」と猫っぽい悲鳴を漏らして栗林は額を押さえる。苦痛よりも衝撃に驚いた様子で瞬いた彼女の瞳には、伊丹の狙い通り若干ながら理性の光が戻っていた。
「色恋沙汰こそ理性を働かせてよく考えた上で結論を出すべき事柄だ。その場の勢い任せで男と女が深い仲になってもロクな結果にはならないぞ。俺と梨紗が良い例だ。
それに俺とお前は、同じ部隊の上官と部下だ。下手にこじれでもしたら仕事に差し支えかねないし、俺達の仕事は命に関わる。
俺達だけじゃない、周りの仲間の命もだ……俺はもう真っ平御免だ。仲間に目の前で死なれるなんて光景はこれ以上見たくない」
「……はい」
「ああでも勘違いしないで欲しいんだが、別に俺はお前の事が嫌いって訳でもないからな? さっきも言ったけどお前が魅力的なのは本心だし。ただ時間をかけて結論を出した方がお互いの為になるって分かって欲しいだけなんだ」
脳筋突撃バカという弱点はさておき、腕っぷしに自信がある者特有の据わった眼光さえ引っ込んでいれば、ネコ科を思わせる顔立ちは美人の範疇にカテゴライズして構わないだろう。
そして栗林最大の特徴である、抱き締めるのに程良い小柄な体格に似合わぬほど暴力的に突き出た爆乳に、少なからず伊丹が心惹かれてしまうのも否定できない事実であった。
「み、魅力的……」
「おーい栗林ー。俺の話を分かってくれたんならそろそろ離れて欲しいんだけど」
「あ、すみません」
冷静さを取り戻した部下が大人しく離れてくれた事に伊丹は内心で安堵した。
後はこのまま考え直してくれれば万々歳である。だからきっと伊丹の隣に座り直した栗林が、顔を赤くしてまたチラチラもじもじと伊丹に熱の篭もった視線を送っているのはきっと目の錯覚だ。
『じ~~~~~~~~~~』
……だからキャビンの反対側に座るレレイとテュカとロゥリィが白い目で見つめてきているのもきっと幻覚なのだと、冷や汗を浮かべながら己に言い聞かせる伊丹であった。
「これはこれで面白いんだけど、面白くないわねぇ」
謎かけのような呟きがボソリとロゥリィの口元から漏れる。
「私も危ない目に遭ったんだから甘えちゃおうかなぁ」
どことなく羨ましそうに栗林を見つめるテュカ。
「危険な体験をしたというのなら私も同じ」
と一見無表情かつ感情の篭もらない口調ながら言外に「抜け駆けは許さない」と釘を刺すのはレレイである。
「そういえば梨沙と別れる前に尋ねてみたんだけどぉ」
「何について尋ねたの?」
「イタミの女の趣味についてよぉ」
「是非詳しく聞かせて欲しい」
「私も!」
元妻から元旦那の女の趣味を聞き出すという悪趣味な行為を咎めるよりも興味の方が彼女らには大事らしい。
発言を聞き逃すまいとロゥリィを真ん中に彼女の左右に座っていたテュカとレレイが、体が密着する程に近寄る。
「梨沙によるとぉ、まず容姿の好みはテュカでぇ」
「やったぁ!」
「保護欲がそそられるのはレレイでぇ」
「ふむふむ」
「そして好みの性格はこの私なんですってぇ」
「「ほお~」」
感嘆の吐息を漏らしたかと思うと刹那、3人娘は一様に口を閉じた。
テュカはレレイを、レレイはロゥリィを、そしてロゥリィはテュカをそれぞれ横目に視界へ収めながら考え込む素振りを見せる。
「私もレレイみたいにショートカットにしてみようかしら」
「身体的差異は埋めようがない。ならば精神面で挽回するしかない。ロゥリィの性格を見習ってもっと明るく振る舞うべきだろうか」
「テュカと同じ金髪に染めてみる……いっその事皮ごと頭の皮膚をちゃんとした金髪のに変えれば……流石にテュカのを貰うなんて外法だしぃ」
そうして彼女らは『門』がある銀座駐屯地前へ辿り着く寸前までブツブツと考え込み続けたのであった。
更に3人娘から若干離れた座席、ピニャとボーゼスの斜め前という位置では、
「いやぁ若いねぇ。それにイタミもちょっと見ないうちにいつの間にやら中々の色男になってまぁ。プライスにユーリもそう思うわないか?」
「フン、勝手にさせておけ。任務にまで色恋を持ち込むようなら教育してやるまでだ」
「この手の色恋沙汰とはあまり縁のない人生を送ってきた身でね。俺に聞かないでくれ」
「……ノーコメントでお願いします」
「いやイタミとクリバヤシと同じ部隊のトミタまで見て見ぬフリは流石にどうかと思うぞ? まぁ、アイツの暴走を止められなかった俺が言える立場ではないが……」
「?」
どいつもこいつも体格が良い、戦闘用の武器と装備を身に纏った国籍もバラバラな兵士達がこのような会話を交わしていたのであった……
『理性は神が魂に点火した光なり』 ――アリストテレス
今話で終わらなかったのは間違いなく掲示板ネタとか振った人のせい(責任転嫁)
作者は栗林推しだったりします(今更)
低身長でっぱいって良いよね!
11/19:指摘を受けた部分を改訂