GATE:Modern Warfare   作:ゼミル

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タイトル通りの内容です。


年末特別編:同人誌即売会にて斯く戦えり

 

 

 

 

――きっかけは1枚の書類からであった。

 

 

 

 

 

 

「……これは何だね伊丹二尉」

 

 

 檜垣三佐が目の前の部下が差し出した書類を一瞥すると、伊丹は胸を張って堂々と答えた。

 

 

「はっ、休暇届であります! 今度の年末こそは日本に戻って過ごそうと思いまして」

 

「却下だ。君ねぇ自分の立場を理解しているのかね?」

 

 

 今や色んな意味で世界中のマスコミや情報機関やテロリストから注目されている自衛隊員である部下へ檜垣が思わずそう訊ねると、ピシッと伸びていた伊丹の背筋は一転へにゃりと砕け、水飲み鳥人形よろしく何度も頭を下げ始めた。

 

 

「お願いですよ~檜垣三佐ぁ。どーしても今回は年末に日本に戻りたいんですよぉ~。ウチの隊も休暇に入るんですし頼みますよぉ~」

 

 

 当然ながら自衛隊にも民間企業や各役所と同様に年末年始休暇は存在する。

 

 しかし特地派遣部隊の場合は状況があまりに特殊である。異世界での勤務に絡む機密保持諸々の事情から、日本に戻っての外泊等は従来の駐屯地よりも厳しい管理と申請手続きが求められているのである。

 

 

「猫撫で声を止めたまえ気色悪い! そもそも君、前回までの探査任務の報告書や他の書類の提出が滞っているじゃないか!」

 

「あ、そう言われると思って溜まってた書類は全部処理しておきましたんで確認願います」

 

 

 こんなこともあろうかと、と呟きながら休暇届の隣に書類の束を積み上げる伊丹。

 

 檜垣はガックリと肩を落として頭を抱えた。

 

 この伊丹という男、普段は面倒臭がりなサボり魔な上トラブルもしょっちゅう持ち込んでくる癖に、やろうと思えば書類仕事もきっちり仕上げる程度の実務能力を有しているのである。最初から真面目にやってくれればいいものを……と何度思った事か。

 

 伊丹は云わば夏休みの大半は遊んで過ごし、終了間際に溜まった課題をヒィヒィ言いながらギリギリで2学期の提出日に間に合わせる学生のようなものだ。追い詰められたり逃げられない困難が立ち塞がってようやくエンジンが入るタイプなのだろう。

 

 ともかく、休暇届である。

 

 受け取るべきか、受け取らざるべきか、それが問題であった。伊丹の問題児っぷりに振り回される上司としてはあっさりと受理する気にはなれなかったのである。

 

 

「休暇中日本に戻ってどう過ごすつもりなんだ?」

 

「同人誌即売会に参加します」

 

「……何だって?」

 

「年末に開催される同人誌即売会に参加するんですよ。いやぁ今回こそは参加しようって前々から決めてまして」

 

 

 世界を救いドラゴンを倒した英雄が……同人誌即売会?

 

 

「つまりアレか伊丹二尉、君は自分の趣味の為に休暇が欲しいと」

 

「その通りであります。自分のモットーは『喰う寝る遊ぶ、その合間にほんのちょっと人生』なもんですから」

 

 

 せめて家族サービスとか、実家に顔を出すとか、もうちょっと取り繕った理由は考え付かなかったのだろうかコイツは。

 

 伊丹の背後では、自分の机で事務作業中だった他の幹部自衛官らが何とも言えない表情を浮かべていたり、頭痛を堪えるかのように頭に手を当てて首を横に振ったりしているのが檜垣の視界に入った。きっと自分も彼らと似たり寄ったりな顔になっているに違いない、と檜垣も思う。

 

 檜垣の顔色の変化から、上官の機嫌が(ついでに室内の空気も)急降下しつつあるのに気付いた伊丹は先にも増して平身低頭で懇願する。

 

 

「頼んます檜垣三佐! もうね、海外に居た頃なんかもう一度同人誌即売会に参加するのを心の頼りに何とかかんとか生き延びてきたのに日本に戻ってからもやれ機密保持だのやれ銀座事件だのでずーっと御預け食らってもう限界なんですよ俺ぁ!」

 

「…………」

 

「あっ、何ですかその顔。言っときますけどね、もし年末の休暇取れなかったら脱柵(脱走)してでも俺は行きますよ。それでも良いんですか!?」

 

 

 言うに事欠いて脱走宣言である。まさか部下から脱走予告を盾に脅迫されるなど檜垣も初めての経験だ。

 

 宣言した伊丹の表情はそれはそれは情けないものだったが、眼光は表情に反比例した謎の威圧感を放っていた。今の伊丹なら本当にやりかねない、そんな据わった気配。

 

 重ねて言うが、伊丹耀司という男は今や戦場の伝説、世界規模の英雄である。

 

 たとえ実情が趣味の為に上官相手に駄々を捏ねる三十路のバツイチであったとしても、伝説と化す以前から特殊作戦群で培ってきたスキルは本物なのだ。

 

 コイツ(伊丹)なら『門』の厳重な警備を掻い潜ってでも日本に帰還しかねない。

 

 いや絶対する。そして成功させる。何せ情報公開されたTF141時代の記録が確かなら、この男はロシア軍に占領された戒厳令下の都市ですら潜入を果たし、そして生還した実績持ちなのだから。

 

 だが休暇届を受け入れて送り出したら送り出したで今度は箱根事件の再来を招くのではないか? そんな心配があった。

 

 休暇を与えて野に放った場合と与えなかった場合のリスクはどちらが上か。

 

 檜垣は悩んだ。悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで―――――

 

 

「頼むからまた向こう(日本)で騒動を起こさないでくれよ……」

 

 

 頭痛に襲われ、本当に頭を抱えながらも檜垣は休暇届を受理した。

 

 

「いやったー!」

 

 

 そして伊丹も文字通りその場で飛び上がり、同僚の幹部自衛官らの呆れの視線などお構いなしに喜びを全身で表現したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、休暇当日である。

 

 外界と『門』を隔てるドームを通過し異世界から地球へ帰還した伊丹はまず銀行のATMで軍資金を確保。

 

 特地での任務中に発売されたお気に入りの漫画やライトノベルの単行本を買い込み、苦労して確保しておいた同人誌即売会会場近くのホテルへ。

 

 そして翌朝、まだ朝日が昇らない時間帯に目を覚ました。

 

 昨晩も確認した即売会参加に必須の装備を確認。財布よし。小銭多めの軍資金よし。防寒具の準備よし。宝の地図(目当ての同人誌リスト)よし。カタログよし。携帯食料よし。

 

 そして忘れちゃいけない一般参加者にとって幻のお宝、出展側として参加する元嫁に確保してもらったサークルチケットを大事に大事に懐へ。

 

 

「数回ぶりの同人誌即売会……よーし楽しむぞー!」

 

 

 意気揚々と部屋を出てホテルのフロントへ向かう伊丹。

 

 ……そのフロントで待ち構えている者達の存在を知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう梨紗、来てやったぞぉ」

 

「あ、先ぱ……ってえええ! 何でレレイちゃん達まで!? しかも何か増えてる!?」

 

「久しぶりねぇリサぁ」

 

「お初にお目にかかるリサ殿」

 

「何大声上げてんの梨紗……え!? ロゥリィ・マーキュリー!? 本物!!?」

 

「エルフっ娘にダークエルフまで!」

 

「ここは何時からロー〇ス島に?」

 

 

 特地からの思わぬ客が梨紗達腐女子と即売会スタッフを襲う!

 

 

「ちょっとちょっと何で皆まで一緒なの聞いてないんですけど!」

 

「何かさ、俺が休みとって同人誌即売会に参加するのを聞きつけたらしくてさ。そしたら自分達も付いていきたいってウチの上司(狭間陸将)に捻じ込んで、そっから嘉納さんが特別に許可出しちゃったみたい。わざわざ先行入場用のチケットまで発行してくれたみたいだし」

 

「そーなんだ……」

 

「この際だから皆に売り子でもしてもらうか?」

 

「くぅっ悪魔の囁き。だが断る! これでも老舗の壁サーなんですからね。イケメンや可愛いコスプレイヤーの売り子頼りなポッと出同人ゴロみたいな真似はノーセンキューです!」 

 

「おう、その意気で頑張れ」

 

「あ、でもでも記念写真ぐらいは良いよね。ネットに上げたりはしませんから。ね? ねっ?」

 

 

 そんなこんなで同人誌即売会は開場前から大騒動。

 

 

「そーそー先輩、顔バレしたらメンドそうなんでこれに着替えてきたらどーですか? はいこれ登録証」

 

「おいおいこの衣装ってお前……」

 

「はいっ先輩ここで決め台詞!」

 

「はぁっ~……理想を抱いて溺死しろ(キリッ」

 

「「「「「おおおおお~!」」」」」

 

「くぅーっ思った通り! やっぱ先輩の声とエ〇ヤのコスプレは相性抜群ねっ!」

 

「あらぁ。そのセリフ前にも聞いた事があるわぁ。『ヒコウキ』に『クルマ』ごと敵の親玉が乗り込んできた時だったかしらぁ」

 

「ええ~、リアルの修羅場で2次元キャラの名言持ち出すとか先輩それは痛くない?」

 

「いきなり掌返しかよ!?」

 

 

 そして何故か彼女達もコスプレ参加?

 

 

「ゴメンお願いがあるんだけど!」

 

「あ、お隣のサークルさんの」

 

「お願いしてたコスプレしてくれる売り子さんが急に来れなくなっちゃって。唐突で申し訳ないけどそこの2人に是非ピンチヒッターをして欲しいの!」

 

「2人、ってもしかして私と」

 

「此の身の事、か?」

 

 

 

 

 

「どうだろうかイタミ殿」

 

「あー褐色銀髪キャラとかヤオなんかまんまだけど良いじゃん。結構似合ってるぞ」

 

「そ、そうか。このような服装はあまりした事が無いから気後れしていたが、イタミ殿がそう言ってくれるのであればこういう服も中々……」

 

「で、クリのコスプレは受〇嬢さんか」

 

「このウィッグ、イベントが終わるまでずっと着けてないといけないの? 落ち着かないなぁ。服も胸のサイズが合ってなくてちょっと苦しいし……」

 

「今回は部数少な目ですぐに捌けると思いますので少しの間辛抱して貰えれば……!」

 

「クリも十分似合ってるぞ。三つ編み姿も新鮮で良いな」

 

「むークリバヤシもヤオも何かズルい。私達もその『こすぷれ』ってしてみようかしら」

 

「私も興味がある」

 

「ごめんねー。本来は事前に許可を取った参加者じゃないとコスプレってできないのよ。それにロゥリィとレレイとテュカの場合はむしろそのままの格好の方が目立たないまであるし……」

 

「あー……ナマモノ系で流行っちゃってるのかー」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 果たして伊丹達は無事に同人誌即売会を楽しむ事が出来るのか?

 

 そして伊丹はお目当ての薄い本を手にする事が出来るのか?

 

 

 

 

 

 

 

「わーっ待て! 待つんだロゥリィ暴力沙汰はご法度だから!」

 

「いい歳したむくけつき異性が神聖な神官服を着て私を騙るなんて真似認めるわけにはいかないのよぉ!」

 

「あれはあくまで仮装! 仮装だから!」

 

「殿中でござる! 殿中でござるぞっ!」

 

 

 

 

 

 

 続かない()

 

 

 

 




栗林のコスプレ:ゴブスレの受付嬢さん(中の人つながり)
ヤオのコスプレ:新サクラ大戦のアナスタシア(外見つながり。脇乳ノースリーブは正義)
時代設定?気にするな!(投げやり)


前半と後半の落差で察してください()
感想が減ったり仕事で色々あったりなろうの方で色々あったり体調崩したりで力尽きました…

来年もよろしくお付き合いいただければ幸いです。
感想もお待ちしています。


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