できれば1話に纏めたかったんですが無駄に長くなりそうだったので分けます。
これからも皆様の反応・感想が作者の糧となります。
来年もお付き合いくだされば幸いです。
オチはタイトルで察してください(爆
ニーナ・エム・マルガリータという人物がいる。
エムロイ教団の神官を勤める彼女はエムロイの使徒である亜神ロゥリィ・マーキューリーの熱烈な信奉者である。
彼女のようなロゥリィへの―本人からしてみればむしろ困惑か顔を引き攣らせかねない程には過剰な―敬愛精神溢れるエムロイ教団関係者ばかりで構成されたファンクラブの中でも(色々な意味で)優秀な若手である彼女。
そのロゥリィがアルヌスの頂を神域に定めたとの情報が教団本拠地へ齎されるや否や、ニーナは真っ先に新たに設立される分殿へ赴任する神官に立候補し、同じくロゥリィの傍に仕える事を夢見る幾多のライバル達を時にはその敬虔さによって、時にはエムロイ教団のトレードマークであるハルバートを使っての決闘を交えながら、見事彼女は派遣助祭の地位を勝ち取ってみせたのである。
……尤も選抜に関しては、ニーナがかつてのロゥリィと縁深い一族の末裔だという神官見習いのモーイ・エム・スワンリィの教育役であるという要素も少なからず関わっているのだが。
それはともかく。
実の父親を暗殺した皇太子を、これまた一時は皇帝暗殺の汚名を着せられた第三皇女が元老院議員や属国の指導者が勢揃いした場にて兄を処刑し、新たな女帝として戴冠を果たすという前代未聞の事件から数週間が経った頃。
「あれが、聖下が神域に定められたアルヌスなのですね!」
ニーナはモーイと、アルヌス分殿の司祭を務める事となった白髪の老婦人であるフラム・エム・ファムは長い長い旅を経て念願のアルヌスへと辿り着いたのであった。
彼女達の場所からはアルヌスが一望出来た。
丘陵を均して拵えた広大な平地には、物々しくも見事に綺麗な六芒星の壁に囲まれた、これまた大規模かつ見た事もない造りの施設が構えている。
「うわぁ、あれが
おっとりとした可愛らしい容貌のモーイが見た目通りののんびりとした口調で感想を口にする。
実を言うとニーナもモーイと似た感想を抱いていたのだが、(ニーナ視点では)何の努力もしていないのに愛しきロゥリィに侍る事が運命づけられている後輩に同意を示すのは何となく気に入らなかったので、鼻を鳴らすだけに留めて視線を巨大な六芒星から動かした。
六芒星からやや離れた森の近くに街が在った。六芒星の内側に点在する建物群は特地住民である彼女達の感覚では何処か無機質に過ぎる印象だったが、街の方はニーナ達が慣れ親しんだ様式の建造物が密集している。
「六芒星の施設は緑の人達にとっての云わば砦であると伺っております。我々はまず街の方に回り、何処ならばロゥリィ聖下と拝謁出来るか住民の方々に話を伺いましょう」
地位も年期もずっと目上であるフラムの考えにニーナもモーイも反論は無く、エムロイ教団から送り込まれた一行はアルヌスの街へと通じる街道へ足を向けた。
近付くにつれて、街道には同じ方向を目指す旅人や商人の馬車が目に見えて増えていった。
他の方角からの街道と合流する度にその密度は増し、やがてひと繋がりの行列となり。次第に進行速度は落ちて最終的には徒歩の者と馬に跨った者も大差ない速度で肩を並べてゆっくりと街に近付いていく、そんな塩梅になった。
どうしてそのような事になっているかの理由は街の入り口が見えてくるとようやく判明した――――関所が設けられているのだ。
「3日以上滞在予定の方は右手の、それ以外の方は左側の窓口で受付を行って下さい! 受付を拒否された場合は街の中への入場は許可されません!」
「自衛隊認定入場許可証をお持ちの商隊及び傭兵団つきましては専用口に誘導を行いますので、腕章を付けた近くの担当の者にお声掛けをお願いしまーす!」
緑のまだら模様の服を着た顔が平たい人種の男性が、拡声の魔法が仕込まれているらしき魔道具を使ってアルヌスの街へ入場を求める人々へ声を張り上げていた。
彼らが噂に聞く緑の人達なのだろう。成程確かに見た目そのままの緑の人である。
ニーナが背伸びをして行列の前方へ目を凝らしてみると、確かに行列の先頭は関所に到達すると2つに分かれて関所の奥へと通されていく様子が見えた。
受付を担当しているのは主に緑の人だが、関所周囲で不審な動きに目を光らせている門番は緑の人だけでなく、鎧を装備したワーウルフやセイレーンやキャットピープルといった亜人主体の兵隊も多い。ダークエルフの姿も多数見受けられた。
関所から左右にやや離れた位置にはニーナが見た事もない鋼鉄製の馬車らしき存在、すなわち自衛隊の装甲車両が陣取っており、屋根の銃座に取り付けた軽機関銃もしくは重機関銃をいつでも行使できる状態でやはり警戒に当たっている。
関所の入り口以外には木組みの移動式バリケードと尖った細い針が何十本と突き出した
思った以上の厳重さだった。城塞都市や皇族の宮殿のような厳重な警備だ。
「あの馬車らしき存在の屋根へと置かれた物体はバリスタのようなものなのかもしれませんね」
若い頃は戦場で従軍神官を経験した事もあるというフラムは目ざとくそう分析した。
「ふええっ、これだけの行列だと私達が入れるまでかなり待たされそうですぅ」
「フラム司祭。我々はこの土地を神域に定められたロゥリィ聖下へ仕えるべく馳せ参じた身です。
そして伝わり聞く話によれば、聖下は彼ら緑の人と共に先帝モルトを弑したゾルザル皇太子へ神罰を下したとされる程に深く結びついておられるとの事。
まずは緑の人へ我々が教団より聖下が建てられる神殿の司祭に拝命された者であると申し伝えれば、このまま待たされるよりも少しでも早く聖下のもとへと案内して頂けるのではないでしょうか」
「確かにニーナの言う通りですね。もしもしそこのワーウルフの殿方、少し宜しいでしょうか?」
「ん? 俺の事呼んだ?」
行列を途中で揉め事が起きていないか遠巻きに見張っていた警備の中で、最も手近に居たワーウルフへとフラムが代表者として声を掛けた。緑の人と同じ腕章をしていたので一目瞭然だった。
身分と目的を端的に伝えると、ワーウルフは一旦黒ゴス神官の団体から離れたかと思うとすぐに緑の人を連れてフラム達の下へ戻ってきた。
「ウォルフ。この方達が黒ゴス神様の下に仕えに来た、えーっとエムロイ教団から派遣されてきた神官さん?」
「うっす。聖下がアルヌスに神殿を構える事にしたんでその絡みみたいっす」
「宗教関係者って事はジゼルの関係者にもなるのか?」
「いや、ジゼル聖下はエムロイじゃなくて冥府神ハーディの使徒だから別物っすよ」
「でもジゼルとロゥリィは個人的な付き合いもあるから彼女に任せた方が良いかもしれないぞ」
「別々の宗教の関係者なんだろ? 大丈夫かな」
「一応本部に彼女を呼び出して確認を取ろう。向こうがOKを出したらこの人達の対応はジゼルに任せるという事で」
「……それにしてもロゥリィの所の宗教関係者ってご老人でも黒ゴスなんだな」
「地球だってお年寄りのシスターがいるんだからそれと同じだろう」
後半のやり取りは日本語だったのでニーナ達には理解出来なかった。
仲間内で相談を終えた自衛隊員は無線機に手を伸ばした。
しばし駐屯地の運営本部とやり取りを交わすと「担当の者が今こちらに向かっておりますのでしばらくお待ち下さい」とフラム達に声を掛ける。
3分ほど経った頃。黒ゴス神官の団体の対応を任された人物は、陸路ではなく空を飛んで彼女達の前に姿を現した。
原型を留めないレベルにまで改造された白ゴス神官服という名のエロ衣装を纏ったその人、いや
「おう、おめぇらがお姉サマに仕えに来たってぇエムロイ教団の神官どもかよ」
何故なら主神は違えどロゥリィと同じく畏敬の対象たる亜神の一柱であるジゼルが、直々にニーナ達への応対の為に降臨したからである。
「お姉サマはちっと新しい皇帝からの依頼ってんでイタミと一緒に今こっから離れちまってんだと。ま、それも今日中には戻ってくるらしーぜ」
「そ、そうでございますか」
頭の後ろで両手を組み、フリル付きニーハイソックスに包まれるむっちりとした両足も大胆に組んだジゼルの対面に座るニーナ達エムロイ教団の神官勢は、大変恐縮した様子で身を縮こまらせた。ジゼルから見て左からフラム・モーイ・ニーナの順である。
ジゼルの出現により彼女達は数百人規模の大行列をあっさりと無視する形でアルヌスの街に入る事を認められた。
ただし関所を通過する際には長期滞在者としての登録も求められた。アルヌスに長期滞在する場合に護るべき注意点の説明を受けながら顔写真と名前のサインと指紋(顔写真はデジカメだが指紋は親指にインクを付けて用紙に押し付けるアナログ方式)を記録されたのだ。ゾルザル派の
アルヌスの街はスリーパーやその手引きで招き入れられたゾルザル派兵士の蹂躙を受けても尚、逞しく復興を果たした。
そこには生き残った住民の努力のみならず、生存戦略の一環としてアルヌスの街を本格的な自衛隊の城下町に取り込もうという取り残された派遣部隊側の思惑から、生存者の慰撫も兼ねて貴重な地球産の資材と培われた運営能力が惜しげもなく投入された点も極めて大きかった。
今やゾルザル派による焼き討ち以前の頃よりも更に建物も住民の数も規模を増しつつあるアルヌスの街だが、街の中心に近付くにつれ当時起きた凄惨な出来事を想起させる焼け黒ずんだ地面といった痕跡がそこかしこに残されている。
そんな中で奇跡的に生き残ったアルヌスの街誕生当時から営業している食堂へと、ニーナ達はジゼルに連れられて入店したのであった。
「よよよよもやジゼル猊下にああ案内役をして頂ける事になるとは」
肩と背中の翼で風を切って混雑する道のド真ん中を堂々と進むジゼルを追って街を歩いていた時から、ニーナ達の様子はカチンコチンであった。
ニーナらが信仰するエムロイとジゼルの主神であるハーディは細かな差異はあれど、どちらも死後の魂を導き司る権能を持つ関係上基本的にはライバル関係にあるのだが、だからといって両者の信者同士まで敵対関係にあるとは限らない。
そもそもジゼルは仰ぐ相手は違えど、天上の主神直々に選ばれた眷属神の端くれなのだ。
例えるならば、世界的な有名歌手の下で働きに出向いたら本人の代わりに、別ジャンルで同じぐらい有名な超大物直々に出迎えられて相手をしてもらっているようなものか。
神を崇め賜り彼ら彼女らの教えを広め伝えるのが仕事である宗教関係者のニーナ達からしてみればその畏れ多さはひとしおであった。
混雑する店内に居る街の住人も同様かといえば、チラチラとジゼル達を遠巻きに眺めてはいるもののニーナ等と比べると平然とした様子で食事を続けていた。どうやらジゼルがこの店にやって来るのは彼らにとってはよくある事らしい。
そんな彼女達のテーブルへ近付いてくる者が居た。店のウェイトレスだ。
「ご、ご注文は何にされますか?」
「ん? テメェ見慣れない店員だな。新人かぁ?」
「は、はいっ。少し前にこのアルヌスにこの街にやってきまして、縁あってこの店で働かせて頂く事になりましたっ」
美人ではあるのだが人生に疲れているかのような憂いを帯びた雰囲気が目立つ、白い毛並みのヴォーリアバニーなそのウェイトレスは少したどたどしい敬語でジゼルの質問に答えた。
「あっそ。とりあえず酒と肉料理をこっからここまでどんどん持って来てくれや。テメェも何か頼むか? 此処の飯はウメーぞ」
「そうなんですかぁ? じゃあアタシは――」
無言で閃いたニーナとフラムの平手がモーイの後頭部を引っ叩いた。モーイは涙目になりながら舌を出して呻いた。叩かれた拍子に舌も噛んでしまったらしい。
「注文承りました~……」
新人だからか常連客の亜神に慣れていない態度のウェイトレスはそそくさと厨房の方へ去って行き。
「テューレさん次の料理出来上がってるから早くお客さんに持っていってあげて!」
「はっはいっ!」
満席近く客が詰めかけているとあって戦場と化した厨房の喧騒に負けじと飛んできた怒鳴り声に、長い兎耳を直立させたテューレと呼ばれたウェイトレスは慌ててお盆一杯に並べられた料理を持って客席にとんぼ返りだ。
溢さないよう四苦八苦しながら料理を腹を空かせた入り口近くの客の下に運び終えたテューレは、空になった盆で顔を隠しながら密かに溜息を吐いた。
「フルタの紹介だから働いてるけど……何やってるんだろ、私」
「空いているか?」
「あ、い、いらっしゃいませっ!」
耳の良さが特徴的なヴォーリアバニーだが、テューレは疲労感のせいで近付いてくる足音を聞き逃してしまったようだ。
お盆で隠していた顔を勢い良く上げると髭面の男が立っていた。雰囲気からして古強者の戦士であると一目で判った。
緑と黒のまだら模様の服はジエイタイと名乗る緑の人の一員の証。基本的に平たい顔の人種で占められている緑の人の中では珍しく帝国人と同じ
「空いてる席空いてる席……」
賑わう店内を見回して局地的に人の密集率が少ない空間を発見。
……そこは先程ジゼル達を案内したばかりのテーブルだった。長方形の長机なので1人分ぐらいなら座れるだけの余裕が残っていた。
不慣れな仕事に思考のリソースがいっぱいいっぱいかつ、髭面の戦士――――プライスとジゼルの因縁を知らない元ヴォーリアバニーの女王だったテューレは、そのまま同じテーブルに相席させてしまったのだった。
ジゼル:大体原作そのままだが本編での働きもあってロゥリィ同様現地協力者枠の中では比較的高い立場に収まっている(ただし発信機はそのまま
食事代が自衛隊持ちになったので食道楽を満喫しているが、最近会計科からの苦情が伊丹とロゥリィ経由で回ってきて冷や汗をかいた。
伊丹がハーレムを構築した事を知った時は「1人ぐらい増えたって大丈夫だよな?」と呟いたらしい。
テューレ:キングスレイヤー作戦の予想以上のやり口に唖然茫然になっていた所をドサクサに紛れて脱出した古田に連れられてアルヌス入り。
ゾルザルの外道なやり口の証人として一時期事情聴取受けて以降は古田が保護責任者となって更生プログラムの一環(という名目)で食堂で働いている。
ほぼWEB版のルートだが既に『門』が崩壊済みなので悲劇的な末路は完全に消滅している。
最近の悩みは仕事モードの古田が厳しい点と客にやってくる部族の元部下に遭遇する度微妙な雰囲気になってしまう事。
大体こんな感じです。